Copper Kettle
@Mar/'86 Singapore Singapore


シンガポールの観光地図



シンガポール、淡路島程の大きさの国土に、300万人余りが住む超過密小国である。 (ちなみに、淡路島の人口は約16万人) 首都のシンガポールはガーデンシテイーと呼ばれる美しい近代都市だ。 どこの近代都市にも見られる、ごみごみした猥雑な裏町路地も、当然ちゃんと存在する。 日本人の観光客にも人気があり毎年多くの同胞が当地を訪れる。 地理的にはインド洋と太平洋を結ぶ重要な位置を占め、今や航空輸送が発達し多くの人や物が空を飛ぶが、海路の重要性は今も消えた訳では無い。 事実、多くの船舶が今日もマラッカ海峡を行き来しており、シンガポール港は国際海運貨物の重要な中継拠点になっている。 

活発な経済に伴い、日増しに需要が伸びる国際通信回線の確保の為、これまでセントサ島に建設されていた衛星通信設備だけでは対応できなくなった。 そこで、本島中心部の森に新たな衛星通信設備を建設することになった。 そのプロジェクトの現地システムインテグレーションに関わることができたのは幸運であった。 シンガポールは小さな島国であるが、街も森もコンパクトにまとまり、都市国家としてのファンクションは実に充実している。 仕事場は、シテイーからマレーシアのジョホールバールへ抜ける高速道路を北上する丁度島の中ほどに位置する。 新しく建設されるサイトであったので、建物そのものも同時に建設しなければならない。 土木工事と我々の精密通信機器の設置が同時に進行すると言う、精密機器にとって最悪の環境下で作業は進められた。 サイト事務所に並んだ多くの備品の中で、最も幅を利かしているのは、ヘルメットとブーツ(長靴)の列である。 とにかく雨が多く足もとが悪い。 それにしても今回のプロジェクトは、日本人技術者の出張者数は記録的であった。 今では一サイトへの日本人技術者の出張は、せいぜい数名であるが、 この時は実に30人を越す出張者がサイト事務所にひしめいた。 宿、通勤、昼飯の手配だけでも大変なものであるのは、想像に難くないだろう。



 


           ブキチマNo.1地球局           サイト事務所の長靴群とヘルメット


当時リー・クワン・ユー首相の時代であり、日本に習え、追い越せの大変な日本ブームであった。 日本も一時期そうであったが、いや今でもそうかもしれない、シンガポールの中産階級の多くの母親は子供に対して超英才教育を受けさせる。 思うに、超英才教育は何時の世でも何処の世界でも必要無いのではないだろうか。 大きな仕事を成し遂げるに、又は善良な市民になるには、英才教育は無力な気がする。 多くの時間と気力と労力を掛けた割には失うものが多いのではないだろうか。 今も私にはそんな感じがしてならない。 

巷には多くの日本人観光客が訪れ、ヤオハンやそごう等日系のスーパーやデパートは大盛況である。 その気になれば日本と何ら変わらぬ食生活が出来る。 日本の商社や企業の活動も盛んで、小国ながら日本人学校の規模は最も他の何処の外国の街より大きいと聞いている。 



シンガポール伊勢丹



今回の滞在は、10月からお正月を挟んで3月迄の6ヶ月間であった。 シンガポールの人口構成は大雑把に言って、中国系が6割、マレー系が2割、インド系が2割であろうか。 そんな訳でお正月が一度に来ない。 11月に、先ずインド系のお正月が始まる。 12月にはキリスト教のクリスマス、 1月には暦年のお正月、そして1ヶ月遅れの中国のお正月と、お正月が延々と続くのである。 目抜き通りのオーチャードロード(土地の人々は、”オチョロ”と呼ぶ。)は、どの店も、建物も、街路樹も超派手な電飾で飾り立てられる。 長い期間お正月の飾りが、人々の目を楽しませてくれるのである。

お寺も、それぞれの人用に有る。 仏教徒の為の千灯寺院、 イスラム教徒の為のスルタン・モスク、 ヒンズー教徒の為のスリマリアマン寺院、キリスト教徒の為のセントパトリック教会。 正にマルチ民族の縮図を目の当たりにする思いだ。 だが民族の融和とは何だろうか?  ここ、シンガポールにしても、大雑把に言って3つの民族が平和に住んでいるが、 本当に融和しているのだろうか? 彼らは、世界の何処でも見られるように、それぞれの地域にかたまって住んでいる。 互いに違いを認め合い、気の合う者同士が有る程度かたまって生活するのは、極自然な姿であろうか? 違いを認めるが、対立や争いにならない、しない。 この辺の機微が誠に微妙で、まさに人間社会の特質のような気がする。 兄弟喧嘩から地域紛争、民族、宗教紛争に至る迄、崇高な英知を持って居るはずの人間だが、 醜い悲惨で不幸な争いをなくすことに手を焼いている。



千灯寺院       スリマリアマン寺院     セントパトリック教会     スルタン寺院




シンガポールでの楽しみの一つは食べ物。 美味しい中華料理がお手ごろの値段で、ほうぼうの店で手軽に楽しめる。 お気に入りの場所はニュートンサーカス。 この一大野外屋台センターは何時行っても活気に満ちている。 生きの良い有りとあらゆる食材が、手際良く料理され、たちまち食卓に並ぶ。 好みの食材が、必ず見つかるのがとても有りがたい。 食器類は安っぽいが、味は確かで値段は安い。 庶民の台所と呼ぶにふさわしい。 もう一つのお気に入りのスポットは、オーチャードロードとスコット通りのコーナーでビルの谷間に挟まれた小さなカフェ・レストラン、カッパーケトル (銅のやかん)。 ビルの隙間に天井を天幕で覆った生演奏付きの軽食が取れるレストランバーだ。  生演奏と言っても、男性のシンガーが一人、ギターの弾き語りをするだけである。 我々が行くと、決まって日本の曲を2-3曲やってくれる。 プレスリーがお気に入りで、お箱の多くはプレスリーの曲である。 動作もプレスリーに成りきって熱演する。 でがルックスが東洋人だから何だか変と思いつつも、楽しい気分になれるのである。 ルートビールにパスタ類を取り、コーヒーでしめる。 いつものコースだ。 天幕で覆っただけのいわば野外カフェ。 暑い南国の熱気を肌に感じながらの飲食に少しうるさいが軽快な音楽と、たわいないおしゃべり。 この小さな空間がとても居心地が良い。 




マーライオンの前で若き日の現調チーム      ”カパーケトル”のメニュー      





14/Mar/'86 林蔵@Singapore (Updated on 225Jan/'08)#034

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