ジャカルタの列車
@Oct/'06 Jakarta, Indonesia
ジャカルタ中央駅: プラットフォーム
ラマダン(断食月)明け休暇で多くの人々がジャカルタから地方へ移動する、 列車は超満員
インドネシアは世界最大のイスラム国であるのはご存知だろうか。 当然、ラマダン(断食月)のラマダン明けのお祭り(Idul Fitri)もある。 中国の西安、桂林経由でジャカルタに入ったのはラマダンも後1週間と言う時期だった。 街は既にお祭りの飾りでお祝い気分が盛り上がっている。 ジャカルタ2週目は完全なお休みになってしまった。 世界遺産のボルブドールにでも行こうかと思ったが、出張早々1週間目で、丸1週間のお休みを陽気に楽しむのは如何にも申し訳なさがつのり、遂にその気にならなかった。 それではと言って、近距離列車旅行に出かけるのも結果は大して変わらないのであるが。
ジャカルタの文具屋で購入したジャワ島の地図を眺める。 ジャカルタの西、120km位のところにMerak と言う街がある。 Merakはジャカルタと鉄道で繋がっている街だ。 海水浴場のマークもある。 ジャカルタは河川も海も汚染がかなり激しい。 Merak迄行けば綺麗な海岸があるのではとイメージを膨らませて、小列車旅行を思い立った。
ジャカルタ中央駅からは様々な方面に向けて列車が発車する。 数本のプラット・ホームがある。 人口2億人を超す国の首都にある中央駅としては、規模はそれ程大きくない。 鉄道は市民の最もポピュラーで頼りがいのある乗り物として市民権を不動のものにしている我が国と違い、ここでは鉄道は我が国ほどの人気レベルには至っていない模様だ。 前日にMerak行き列車の発車時間を調べておいた。 本数は極めて少ない、1日2本である。 実はその理由は、列車に乗車して知ることになる。
宿舎のホテルの窓からの風景: 左側に広大なスポーツ公園が広がる
画面左手の高いビル4棟はヒルトン・レジデンス
右手中央は250ヤードのゴルフ練習場
休日の朝、いつもと同じ時間、6時起床。 グランド・フロアーのカフェ・レストラン、Senayanで毎日変わらないブッフェ・スタイルの朝食を済ます。 リュックとカメラ・バッグは部屋を出るときに持った。 ホテルを出てバス停へ急ぐ。 一番近いバス停は、歩いて3分程度である。 バス停の切符売り場に着いた。 何と早朝割引がある。 昼間の料金は3,500ルピー(約50円)なのに、早朝(始発から午前7時迄)は2,000ルピー(約30円)だ。 たかが20円の差だが、何だか凄く得をした気分になるのは育ちのせいだろうか。
バスに乗る為、大通りの陸橋を渡る: 画面一杯に広がる車線はこれで片側
左手にこれと同じ広さの反対車線がある
赤と黄色のツートン・カラーのバスがやってきた。 この時間帯はバスの乗客は少ない。 座席は両窓際一列向かい合って備わっている。 普段なら多くの乗客が中央部に立っているが、今日は未だ多くの席が空いている。 席に着き普段より幾分か澄んだ空気に気を良くしながら街の景色を楽しむ。 約4kmの道のり。 時間があれば歩く距離である。 十余りのバス停を経てバスは25分程で終着停留所に到着した。 バス専用のUターン路が備わっており、バスは再び反対方向を目指して運行を開始する。
宿舎のホテルから歩いて10分程度の場所にある大型ショッピングモール
地下には食品スーパー、1階はカフェ、レストラン、服飾雑貨店
2,3階には高級ブランド店、服飾店が居並ぶ
時刻は7時7分。 たしかMerak行きの列車は7時15分発だった。 急いでJakarta Kota駅へ足を進める。 駅はバス停と道を挟んだ反対側だ。 1分も歩けば辿り着ける。 先日確認してあった切符売り場に駆けつけると、小さなMerakの看板が切符売り場に立てかけてある。 多くの客が一見無秩序な列に並んでいる。 列に並びMerak行きの切符をゲットしなければならない。 料金の英語表記は何処にもない。 インドネシア語でも数字があればわかるのだが、それも見当たらない。 売り場の窓口でに100、000ルピー(約1500円)札を出した。 切符とお釣りが戻ってくる。 足りたようだ。 額も確認せず、お釣りをポケットにねじ込む。(後で判るのだが料金は4,000ルピー、約60円であった。) 改札は無いが、係員が狭いゲートで乗客と、そうでない者を一様分別しているようだ。
宿舎前のスポーツ公園メイン・ゲート内部から外を見る:
シテイー・バンク等の高層ビルが大通りを跨いで聳える
プラットフォームに出る。 3-4本のプラットフォームがある。 列車は2本止まっていた。 どちらがMerak行きなのだろうか。 表示はない、いやあるかも知れないが私にはわからない。 手当たり次第に聞いてみた。 ここでは英語は皆目通じない。 こんな場合は行き先を叫ぶだけでいい。 ”Merak?"、と聞くと、ゴミ掃除のおじさんが、反対側の列車を指差した。 あっちだ。 この時点で、時刻は既に出発時間を過ぎている。 慌てて反対側のプラットフォームに移動し、列車に飛び乗る。
街に溢れる、ラマダン明お祝い看板
今年はイスラム暦で1427年だ
既に多くの乗客が乗り込んでいる。 座席は木製のベンチシートが両窓際に並ぶ。 この列車は窓ガラスの大半は割れてしまって修理が為されていない。 大方の座席は既に埋まっている。 木製の座席には仕切りが無いから、何人掛けと言う訳ではない。 座れるだけ座れば良いのである。 子供を抱えた若い女性も多い。 それにしてもここがイスラムの国かと思うほど、女性の服装が西洋的だ。
床は決して綺麗とは言えない。 相当くたびれた木製の床は大半濡れている。 ゴミの散乱もかなり酷い。 この訳も走り出してから知ることになる。 既に出発時刻は大分過ぎている筈だ。 一向に発車する気配がない。 客はどんどん乗り込んでくる。 私が乗り込んだ時点で、木製のベンチ席は既に粗方埋まっていた。 どうにか割り込めるスペースを見つけて座って居たのである。 お客に混じり、車内販売(と言えば聞こえが良いが、あまり綺麗ではない服装で様々な物を売る商売人)と思しき者が何人も大きな使い込んだダンボールや粗末な木製の箱にマンゴーや飲み物、クッキーのようなもの、やしの葉で作ったうちわ等を車内販売するのである。 その数や立っている乗客より多いのではなかと思う程だ。 車内は益々混んでくる。 それでも物売りの商売人達はひるまない。 人の間を掻き分けて、ひっきりなしに行ったり来たりする。 このバイタリテイーは凄い。 我が国では既にこの種のバイタリテイーは失われて久しい。 久しぶりに失ったものに出会った懐かしい気分に浸る。 マンゴーの入った木のケースは半端な大きさではない。 両脇の木のベンチ席の間にやっと収まると言った程の大きさだ。 たかが120kmの旅にこんなに多くの物売りは之ほどの物量を積み込んで商売になるのだろうか。 その疑問も列車が発車してから解けることになる。
博物館: ジャカルタ鉄道中央駅の対面にある
7時30分、列車はゆっくりホームを離れた。 30分遅れだ。 乗車率はゆうに500%を越していると思われる。 それでも車内販売は止まない。 ゆっくり15分程走ると、突然列車は止まった。 駅でもない。 と怪訝に思っていると、今度は反対方向に走り出した。 スイッチバックしていたのだ。 後でジャカルタの地図を見ると、確かに方向転換するようにスイッチバックしているのがわかる。
方向転換してから15分程度で一つ目の駅に停車し。 ここまでの列車の速度は40km程度だろうか。 競技用の自転車でもあれば追い越して行けそうだ。 一つ目の駅に止まったが、一向に発車する気配がない。 お客の乗り降りに手間取っている様子もない。 ジャカルタを出ると殆どの駅でプラット・フォームを見ることが無い。 乗客は線路の上に直接降りるのである。 500%を越す乗客はいたって冷静である。 誰も文句など言わない。 子供を抱えた母親も立ったままだ。 10分程経った。 やっと列車はロンドンのビッグベンに似た音色のベルのような合図で発車した。
ジャカルタ・コタ(ジャカルタ中央駅)
約15分間隔で列車は駅に停車する。 どの駅でも同じパターンだ。 停車時間が異常に長い。 我が国の列車が超過密ダイヤを芸術的な正確さで運行すると言われるもの判る気がする。 我々はそのような芸術の域に達している列車運行に慣れているから、停車駅毎に10分も止まると直ぐにいらいらしてくる。 ここでは、この時間の流れが丁度良い訳であるのに、一人そのペースに乗れないからと言って文句を言ってはならない。 わが身の身勝手さ、思いやりの無さに、多いに反省しなければならない。
ジャカルタの西約120kmの街、Merak行き列車の切符
4000ルピー(約60円)
そんな訳で、終着駅Merakに到着したのは、発車して5時間後、12時半にもなっていた。 粗末な大きな木箱に満杯入っていたマンゴーは粗方売れている。 木箱の底に僅かに残っているだけだ。 他の商売人からも、乗客は座っている者に限らず、実に様々なものを買っては飲み食いしていた。
この時間では、Merakの街をゆっくり散策、そしてビーチで一休み等言ってられない。 同じ車両でジャカルタへ引き返すことにした。 列車の引返す時間を確認しようと思ったが、発車時刻の表示が遂に判らない。 手当たり次第に通行人や駅員らしき者に聞いてみたが、英語はやはり」通じない。 帰りの切符を買う場所も判らない。 多分駅を出れば、改札の前にあるのだろうが、なにせ発車時間がわからないのである。 外へ出ている間に、列車が発車してしまうのではないかと、心配で外にはでることができない。 この帰りの列車を逃すと、明日までここで待たなければならないのだから。 仕方か無い。 このまま、列車に乗っておこう。 既にジャカルタ方面行きの乗客は乗り込んである。 発車時間はそう遠くない筈だ。 推察通り、列車は到着して30分も経たない内にジャカルタに向け発車した。
帰路の方が来た時よりも多くの時間を費やして距離を稼ぐ。 ジャカルタに着く前に日が暮れてしまった。 もう一つの発見をすることになる。 Merak駅を出る時も多くの車内内販売人が乗り込んでいたが、みな一様に抱えている商品箱に手造りの燭台を備えていたのだ。 日が暮れ、暗くなった車内での販売には蝋燭が必要と言う訳である。 つまり電灯がつかない。 ジャカルタの市内に入り、他の列車ともすれ違うことがあるが、他の列車は全てこうこうと電灯が灯っていた。 どうもこのMerak行きのローカル列車は、一番お古が使われて居たようである。
気になったのは、ジャカルタの近くになり日が暮れた後、暗くなった車内で多くの男性がタバコを吸うのだが、中には明らかに成人していない男の子が居たように思う。 この現象はエジプトでも見た気がする。 そして床が塗れてごみが多い訳は、超混雑した車内に長時間居る間、人間は飲み食いしない訳にはゆかない。 飲み食いすると当然その残飯や包み紙のごみが出る。 だが何しろ大混雑の車内である。 それらのごみを捨て場まで持ってゆくことができない。 自然その場におき去られることになる。 我が国だって、かつてはそのような光景は何処でも見られたのだから。
ジャカルタの猫: 博物館の塀にいた
26/Oct/'06 林蔵 @Jakarta Indonesia (Updated on 28/Sep/'08)#276