Bellinzona
@Apr/'85 Bellinzona Swiss


サン ゴタード峠から見下ろすBellinzonaへの谷


イタリア北部とスイス南部には険しいヨーロッパ・アルプスの巨大な壁がはだかる。 かってのローマの大軍、或いはカルタゴのハンニバル軍の行く手を、はたまたナポレオンの精鋭部隊を悩ました険しい峠。 だが今は、滞在地の Leuk から、比較的簡単に車でドライブを楽しむことができる観光地とさえなっている。 サン・ベルナ‐ル峠、首に気付け薬代わりのきついリキュール酒樽をぶら下げた救助犬セントバーナードで名高い、と シンプロン峠がその代表的なものだ。

仕事の合間の土曜日、仲間とレンタカーを借り、シンプロン峠を越えイタリアに繰り出した。 スイスの主な峠は殆ど鉄道トンネルがある。 自動車道トンネルも増えているが、シンプロン峠は鉄道トンネルしかなく、車ではまさに峠越えとなる。 峠そのものはスイス側にある。 Brig から南に向い山肌を縫って幹線道路は高度を上げる。 4月、残雪は解け切らない。 徐々に山肌は雪の厚さが増してくる。 Brigを出て、小1時間もしない内に峠に到着する。 峠にはログハウス風のカフェがあり、内装は古びてはいるが重厚な木肌がシックで落ちついた雰囲気を醸し出している。 厚い木のカウンターで熱いコーヒーを頂くのは悪くない。  



シンプロン峠に向かう幹線道路
山は未だ雪深い



コーヒー休憩の後、峠から少し下るとイタリアとの国境だ。 一応、形ばかりのパスポート・チェックがある。 スタンプは押されない。 ここで少し異様な風景を観る。 スイスからイタリアに出かけ、イタリアから帰ってきたスイス人の一団、と言う程の人数でもないが。 彼らは、一様にかなり着膨れしている。 そうなのです。 イタリアで安い衣料品(特に革衣料品)を買い込んで帰ってきた人達だ。 着ていると税金は取られない。 手に持っていると税金を取られるからだ。 国境が地面の上にあるヨーロッパの風景である。 

一面に葡萄畑が続く丘陵を下ると、イタリアの田舎町 Domodossora に至る。 スイスでは葡萄の樹は1.5m位の短い立樹であるが、この辺りの葡萄の樹は比較的日本に似た棚になって栽培されている。 ドモドッソラはイタリアの中規模の山間の街である。 未だ昼には少し早いが、この街のレストランも経験するのも面白かろうと、街の平均的なレストランに入ってみた。 いわゆる食堂であるが、前菜とメインははっきり分けて注文だ。 「スパゲッテイ、ラビオリ、マカロニ・・・」 ボーイが前菜の注文を取りにきた。 スパゲッテイが前菜である。 仲間の一人が前菜にスアゲッテイを注文した。 彼はスパゲッテイが旨いと言うので、なんと前菜のお代わりをしたのである。 前菜とは言え中途半端な量ではない。 日本でならたっぷり1人前は有ろう。 流石に彼は、メインの肉料理は殆ど食べられなかった。 イタリアである。 ワインも頼まなくてはならない。 地元の白ワインを頼んだ。 これも半端ではない。 なんと2リッター瓶が出てきた。 4-5人の昼飯に2リッターのワインは当たり前なのであろう。  



今の趣味の元になったNufnen峠で出会ったバイク



腹を満たして更に南に下る。 道はイタリアのアルプス山麓に散らばる幾つかの湖の一つマジョレ湖の湖畔に至る。 今だ中世のまどろみを感じる静かな田園風景が広がる。 細長く、アルプスの山に似て、曲がった湖の北に沿う道を東に向う。 中世の貴族や大地主のかつての別荘(城)が、湖畔の景勝地に、或いは湖の小島に点在する。 イタリアはサイクル・スポーツが盛んだ。 この辺りの道には、ウエア‐もバチッと決ったサイクリストの姿をよく見かける。 そういえば、ツール・ド・フランスはこの辺りを毎年通る筈だ。 この辺りの国境は入り組んでいる。 湖畔を少し走ると、南スイスの高級リゾート街、ルガノに到着。 スイスは多言語国家、アルプスの南側では人々はイタリア語を喋る。 気性もアルプスの北側とはかなり違う。 南では、明るく、ものにこだわらず、楽天的。 広い歩道に張り出したカフェに入った。 スイスでもお気に入りになった、アイスクリーム・パフェ ”カフェ・ダンマルク” を注文した。 暫くして注文した ”カフェ・ダンマルク” が運ばれてきた。 ウオ‐、これは凄い。 金魚鉢程のグラスに入ったアイスクリーム。 いくら好物とは言え、金魚鉢は頂けない。  友人とシェア‐してどうにか平らげる。 



南スイスの高級別荘地 Lugano



ルガノで休憩した後は、ベリンゾーナに向け、比較的平らな Ticino川の谷間を北上する。 リビエラの名で知られる地域だ。 行手にスイス・アルプスの雄姿を眺めながら、のどかな田舎道を快適に進む。 サン・ゴタード峠がズンズン目の前に迫ってくる。 サン・ゴダード峠は、今は自動車トンネルが完成している。 長い長いトンネルで難無く峠を抜けるおとができる。 



フルカ峠から流れ出る ローヌ氷河:
これがローヌ河の源流だ



トンネルを抜けた先の峪は、実に素晴らしい。 アルプスの少女ハイジーが今にも跳び出てきそうな、アンデルマットの何処までも続く花畑のようななだらかな山肌。 更に進むと峪はだんだん狭く、昇りがきつくなる。 山間の小さな街 Realp に到着。 この街には Furka 峠をくぐるカー・トレインの駅がある。 今日はカー・トレインに乗らず、峠越えの道を取る。 道は遂に険しい山肌に張りついた昇り坂の道路になる。 坂を昇り切ると、フルカ峠だ。 道路以外は深い雪に埋もれている。 スイス・アルプスで道路のある最高地点、海抜2、436mである。 峠の駐車場には大型バイクが多く停まっている。 現在の趣味であるバイクを始めるきっかけになったシーンである。 ここは、ヨーロッパの2つの大河、ローヌとラインが流れ出すポイントでもある。 



Furuka峠から崩れ落ちるローヌ氷河



峠を越すと、ローヌの水源になるローヌ氷河が切り立った壁をなしている。 ここから、右手の山肌にグネグネと這うグリムゼル峠へのワインデングロードを巨大なU字溝のむこうに眺めながら、 Furka Pass を一気に掛け下る。 掛け降りた谷は Goms だ。 スイスの友人 K氏の冬の別荘がある土地である。 ここまで来ると、もう自分の庭に帰ったような気になる。 Rhone河沿いに、Brig、Visp と谷底の町を通りぬけ、谷間の扇状地が広がる、滞在先の Susten(Leuk)へと辿りつく。



Nufnen 峠のレストハウス







11/Apr/'85 林蔵@Leuk Switzerland (Updated on 16/Apr/'08)#118

{林蔵地球を歩く}[頁の始めに戻る]