ホワイト・クリフ
@Dec/'98 Dover, UK


英仏海峡に立ちはだかるホワイト・クリフ


12月5日(土)、ロンドンには幾つかのターミナル駅がある。 テームズを挟んで北には、西からビクトリア駅、パデイントン駅、ユーストン駅、キングスクロス駅、リバープールストリート駅、南には、東からロンドンブリッジ駅、ウオータール駅等。 そんなターミナル駅の一つビクトリア駅で、17.8ポンドの往復切符を購入し、列車に乗込んだ。 行き先はドーバー。 ホワイト・クリフとして名高い、あの白亜に輝くドーバーの壁。 その切り立つ白い壁を以前から見たいと思っていた。 



ドーバーの白いチョークの壁


列車はイギリスの田園風景を縫ってゆっくりと、約80kmの距離を走る。 1時間あまり時間を車窓の景色を楽しむ。 天候はあいにく曇り空、どんよりした典型的なヨーロッパの冬空である。 ドーバーに到着し列車を降りると、小雨さえ降っている。 ドーバーは小じんまりした街で高い建物は無い。 路地の入り組んだ港街である。 街で見かける看板がフランス語で書かれたものが多い。 ’94年スペインのジブラルタル海峡の街、アル・ヘシラスに行った時、アラビア語の看板を多く見かけたのと同じ感覚である。 古くからフランスとの交流門であったドーバーが伺える。 街の一角に小さなドーバー博物館がある。 入ってみた。 入場料1.8ポンド、説明は見事に英仏のバイリンガルである。 英国と欧州大陸との関わり、海との関わりが判り易く模型や資料を使って展示されている。 



ロンドンのターミナル駅の一つ: ビクトリアステーション



博物館を出て、いよいよドーバーの白亜の壁に挑む。 挑むと言ってもよじ昇るのでは無い。 平坦な壁の頂上を歩くのである。 白い壁はチョークだ。 壁の上はなだらかな丘陵になっていて牧場と、農場がゆるいカーブを描き広がる。 壁の淵に沿って獣道ならぬ、人道がある。 散歩を楽しむ人々が踏みしめてできた壁の淵に沿い、ぐねぐねと曲がる人道。 一つ間違えれば百メートルを越す白亜の絶壁から海に一直線に落ちる。 だが無粋な柵など一切無い。 危険は個人の責任で取ると言う考えが、しっかり表現されている。 こんなところが過剰保護、或いはお役所の責任逃れかと思われる日本の安全策より、私には好感が持てる。 小道を歩き出すと靴の底に雨に濡れたチョークがべっとり付き、滑りやすく酷く歩き難い。 小雨(霧雨)の降るなか傘もささず、小道を一人で歩く。 イギリス人は散歩が好きだ。 こんな小雨の日でも数組の散歩するカップル(熟年とおぼしき)にお会いした。 彼らも傘などさしていない。 トレンチ・コートに身をくるみ、無言で黙々と歩く。 犬を連れた紳士も傘をさしていない。 首には双眼鏡を下げている。 曇り空で視界はさほど効かない、何を観るのであろうか。 右手は鉛色に煙る英仏海峡。 フランスの港町カレーからホーバー・クラフトが白い噴霧を揚げてドーバーに向かってやてきた。 英仏海峡トンネルが完成した今も、昔ながらの海路の重みは、決して薄れてはいない。 むしろ人を含む物流の量は増えているらしい。 時間帯にもよるが往復約1600円のフェリーは、庶民の手軽な交通手段で在り続ける。 人々は物価の安いフランスへ、日常的にフェリーを利用し買い物に行くのであろうか。 今も変わらずドーバーはフランスへの大事な物理的な門であるのだ。 2時間位小雨の中を歩き、農家の敷地で壁の沿い小道は途絶えた。 2時間歩いても、ずぶ濡れと言う感じは無い、その程度の霧雨なのである。 何エーカー(1エーカー:約4000m2)もあろうと思われる農家の敷地をぐるっと廻ったが、小道は、その先続いていそうにない。 引き返そう。 



ドーバーの波止場



ドーバーに戻って、KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)で昼食。 土地の人達の普段着の飾らない姿が伺えるこんな場所がお気に入りの場所である。 若者や、子供連れの若夫婦。 私にもあんな時期があったなあ。 少し懐かしさも湧き、微笑ましく思う。 今は社会人の息子と娘、親馬鹿で言う自慢の子供達だ。 息子は横国、娘は学習院を出て立派な社会人になっている。 勉強しろとか塾に行けとか一切言わなかったが、二人とも立派に育ってくれた、ありがたい。 おっといけない、今日はドーバーの話だった。 KFCで昼食の後は、未だ降り止まぬ霧雨の中、ロンドンへ向かう列車に乗り込んだ。 ドーバーを実際にこの足で歩くことができ、白いチョークがべっとり付いた靴を履いた大満足の林蔵がそこにいる。  



ドーバー港と垂直に切り立つホワイト・クリフ


住んでいた Nottong Hill のアパート
家賃は超高い、狭いワンルーム
朝は共同食堂でまかないが付く





5/Dec./'98 林蔵 @Dover UK (Updated on 3/May/'08)#133

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