四季春
@Mar/'94 Madrid, Spain


マドリッドで入手したマドリッドの絵


宿舎のユーロ・ハウスはマドリッドのアップ・タウンにある。 ゆるい上り坂の目抜き通りカステリャーノを上りきる手前あたりだ。 玄関を出て目抜き通りカスリャーノとは反対方向に少し歩くと、カステリャーノ通りと平行して街を下る通り、 ブロボー・ムリに出る。 いわゆる裏道だが、道幅は広く生活に密着した店が多い。 マドリードではお気に入りの通りの一つだ。 この通りを Sol (下町の中心、銀座のような処)に向い、下りに暫く歩くと、”四季春” はある。 週の内、3,4回夕食を取る中華レストランである。 片道15分か20分位の距離で散歩にも丁度良い距離なのだ。 店の規模は小さく、テーブルは10卓もない。 何時行ってもすこぶる混んでいる。 殆どの客は土地の人々だ。 陽気ではあるが落ちついた家族連れが多い。 僕はいつも一人だから、どんなに混んで居ても小さなテーブルをあてがわれるので、席にありつくことができる。 コックもウエートレスも中国人らしい。(本土か,香港か、はたまたシンガポールから来たのかはついに聞きそびれた。)



繁華街: グランビア、通りのテラス・カフェで人間ウオッチは様になる



料理の味は、我々日本人に取っても食べやすい味。 中華料理を楽しむのは大勢でテーブルを囲むのが定番である。 それは、それぞれの料理が数人前単位で出されるからでもあろうか。 中央の回転テーブルを回しながら、 皆でシェア‐し歓談を肴に頂けば、食事は何倍も楽しい時間になるからである。 ここでは、私はいつも一人なので、その日の気分でそれぞれ違う2種類のメニューをハーフポーションずつ注文する。 フライド・ライスに肉か、魚類か、鶏の一品を付ける。 それに中国茶と女将の短いおしゃべり。 これが僕の ”四季春” での定食メニュー。



マドリッドの目抜き通り、カステイリアーノ歩道



それにしても、この店は何故いつもこうも賑わっているのだろう。 何度か行くうちに、そのなぞが解けたような気がする。 私のような変な東洋の一人者でも、快くサーブしてくれる。 欧米のレストランでは、メインが出た後、必ずと言っていい程、担当のウエートレスが料理の具合を聞きにくる。 ここ ”四季春” でも40過ぎであろう、少し太り気味の中国人女将が、やはり料理の具合を聞きにくる。 違うのはこの時の会話なのである。 女将は料理の具合だけでなく、お客に合いそうな短い会話を用意してくることだ。 私には、日本からですか?とか、お仕事ですか?とか、また来てくれてありがとう等。 みていると、それは私だけにではない。 当然と言えば当然だが、この一見易しそうで当たり前のことが、なかなか出来ないのが世の常。 しかも、その語りが実に自然で、全くわざとらしい処がなく、心にストレートに入ってくる。 同じような経験をロンドンの小さなイタリアレストラン ”ルネッチオ” でもしたことがある。 ロンドンの店も家族で経営している小じんまりとした店だった。 このようなきめ細かいサービスは、規模の小さな家族経営の店でなければできないのかも知れない。 繁盛しても、サービスのポリシーを損なわない為、必要以上に規模を大きくしないのも、彼らの成功の秘訣かもしれない。




2004年9月に再度訪れてみた、既に女将は他界したのだろうか、
店員も現代風の若いスタッフに変わっていた



もう8年も前のことであるが、今も記憶に鮮明に残る、マドリッド ”四季春”の店の雰囲気。 太陽の季節が来る度に、またあの心地良い空間と時間に身を置きたく訪れてみたい気持ちが湧き起こってくるのである。



Sol: 繁華街、日本では銀座通り(?)、マドリッドのマスコット・ベアー






12/Mar/'94 林蔵@Madrid Spain (Updated on 12/Apr/'08)#115

{林蔵地球を歩く}[頁の始めに戻る]