冬雨の紀伊半島
@Jan/'03 和歌山
伊勢神宮外宮
正月明け、ソロツーリングに出かけた。 目的は紀伊半島一周だ。 家人には無断である。 どうせ叱られるなら後の方が良いと言う子供のような理由からである。
1月2日(水):
朝5時起き。 外に出てみると、何と昨夜の内に雪が降っている。 家の前の道はシャーベット状。 やばい、2倍やばい。 勿論走行に大変危険であるのと、こんな状態を押して出かければ、家人の怒りは頂点に達するだろう。 家族の運命が掛かっている体なのに、無謀も良いとこである。 自分が考えてもそうだ、全くその通りに違いない。 それでも出かける。 一度決めたら、どうしても実行しなければ成らない性分。 悲しいかな融通が効かないのである。
05:45 家の前でバイクを倒しては、確実にそれでお終い。 その場でツーリングは中止である。 昨年(2002年)は、ロング・ツーリングには1回も出かけていない。 もはや麻薬が切れた中毒患者そのもの。 滑りやすい路面、慎重に重いバイクをそろりそろりと出す。 何とか道路の中央迄バイクは出た。 3日分の着替えに洗面具を詰めたデイ・パックをバック・シートに縛りつけ、エンジン始動。 うっすら積雪した路面をゆっくり走り出した。 積雪はメインの道路に出ると全く無い。 助かった。 この分だと、今回の企みは実現しそうだ。 頭に希望の灯火が明るくなってきた。 しかし、御殿場越えと帰りの天理からの伊賀山地越えは大丈夫だろうか。 心配しながらも前に進む。
06:15 東名、横浜町田インターの処まで来た。 やはり東名に乗ろう。 計画ではバイパス以外は高速を使わないことにしているが、246号の松田から御殿場への登りは如何にもきつい。 凍結、積雪があれば2輪は到底太刀打ちできない。 東名なら勾配もゆるやかで走り易い状態に在る筈との判断だ。 東名に入った。 路面凍結は無い。 行けそうだ。
06:30 海老名SAで小休憩。 路面には水たまりが有るが雪や氷はない。 この朝早い時間でも多くの車客が休憩している。 いよいよ松田から御殿場への登りにさしかかる。 緊張する。 車の交通量は多い。 凍結でスリップの現象は無さそう。
07:18 足柄SAに到着。 やれやれ大丈夫だった。 足柄SAは、昼間は酷い混雑の筈だが、この時間では未だ売店やレストランの多くは開いておらず、やや閑散としている。 バイク専用駐車場には一台もバイクの姿がない。 ここからは下りで勾配もなだらかな246号に降りてみよう。 太陽も姿を表し、味方に付いてくれる。 高速料金¥1,550(東名)を支払い高速を降りる。 予想通り御殿場から沼津迄の246号は、全く問題は無く快調。
08:00 沼津着、246号から1号に乗る。 1号も順調に流れている。
08:56 道の駅 ”宇津ノ谷峠” で小休憩
距離メーター: 23,809km、
藤枝バイパス ¥400
掛川バイパス ¥200
磐田バイパス ¥200
10:50 湖西市の市街を抜け、渥美半島の付け根に到着。 1号から42号に乗り換える。 42号に入った直のK-マートで小休憩。 ここは毎回止まる場所。 伊良湖岬までは順調に走る。 強い横風で時たまハンドルを取られる。 少し危険を感じる程である。
12:00 伊良湖岬、道の駅、クリスタルポルト着。 伊勢湾フェリー ¥3、250
伊勢丸、強風でゆれが酷い模様。
フェリーに乗ったバイク: いつもより頑丈にロープ掛けがされる
12:50 フェリーに乗り込む。 今日は強風で揺れが酷いのでバイクはいつもより頑丈にロープを掛けられる。 港を出た。 ローリング、ピッチング共に激しくなる。 フェリーに当たる波も半端では無い。 船体強度を心配する程だ。 大きな波に体当たりし乗り上げるフェリー、大音響に続き海水が滝のごとく覆い被さる。 船体が真二つに割れるのではないかと思う程の衝撃が伝わる。 波に乗り上げた後は真逆さまに落ちてゆく、海底めがけて船首が沈む。 船のスチュワーデスがビニール袋を配り始めた。 気分が悪くなった乗客が出始めたのだ。 鳥羽港に近ずき、風波は大部収まり緊張がほぐれる。
木の葉の如く荒波にさらされることになる伊勢湾フェリー“伊勢丸”
13:50 鳥羽港着、ガソリン給油
15:00 伊勢シテイ・ホテル着。 23,976km (本日の走行距離:346km)
少し迷ったが無事ホテル着。 JR伊勢市駅の北側、近鉄鳥羽線、伊勢駅の南側にある。 小綺麗な中型ホテルだ。 駐車場、レストラン(石川)も完備している。 駐車場の隅にバイクを止めて頂いた。 係りの者が私のバイクを見て色々訪ねてくる。 やはりBMWに乗るのは、贅沢な道楽に違いない。
伊勢神宮外宮に隣接している。 初詣に行かない手はない。 早速歩いて出かけた。 警備の警官の装束が長いオーバー・コートにボタンを襟まできちんと止め、凛々しく締まった感じが新年の外宮にすがすがしい引き締まったアクセントを沿える。 JR駅前の町を歩いたが適当な食事処が無かったので、夕食はホテルのレストラン石川で頂くことにした。 蟹せいろ御善が手ごろな値段で頂ける。 明朝は早い。 ローソンで朝食と雑貨を仕入れる。
JR伊勢駅
1月3日(木):
05:53 気温1.1度。 伊勢シテイ・ホテルを出発。 支払いはインターネットで申し込んだ際にカードで支払い済みだ。 受付は閉まっているが、宿直のお兄さんが居る。 バイクを駐車場の奥から出すのに、一人では重いバイクは、少しの段差でもあるとどうにもならない。 マンホールの縁が丁度バイクのタイヤの後ろにあり、びくとも動かない。 宿直のお兄さんに手伝ってもらい、バイクを外へ出す。 未だ夜の開けぬ伊勢の町を県道13号を西に向かい、国道42号を目指す。 県道13号は国道42号に入る少し前が凄く狭くなる。 辺りはまだ暗く周辺の地形が分からないこともあり、道を間違ったのかと心配になる。
伊勢神宮
06:30 国道42号に入る。 左に折れ南下する。 紀伊半島の深い森の中を道はアップダウン、曲がりくねりが続く。 とてもバイク向きの道だ。
07:05 内陸の山間部を抜け、海岸縁の平地部に着く。 Kマートで小休憩。 少し走るとR42号は再び山間部へ浸入する。 海あり、山ありの申し分ない道に無心にマシーンを操る。。
07:40 道の駅 ”海山” で小休止。 ここからは内陸部の谷間を縫って道は続く。
08:08 見覚えのある道の駅 ”熊野木のくに” が見えた。 以前訪れたのは5月であったが、酷く寒く堪らなくなり、立ち寄った覚えがある。 当時は夏用のバイクジャケットだったのと、たまたま気候の変化で気温が10度位まで下がっていたのだ。 今回は冬用のジャケットにグリップ・ヒーターも付いているので、冬空のライデイングでも快適である。 ここで小休止、売店等は開店の準備中。 気温2度。 更に山を駆け下り、海岸部に出る。 これからは大阪迄ずっと海岸沿いである。
8:33 道の駅 ”パーク七里御浜” 着。 小休止。 夏場は海水客で賑わう筈だ。 今は閑散としている。 近くに道の駅 ”うみがめ公園” があったが、ここはパス。 神宮を過ぎた辺りで、天気予報通りとうとう雨になった。 ブーツ・カバーを履き、合羽の上下を着る。
9:50 少し懐かしい感じのする串本、雨なので素通り。
10:20 道の駅 ”イノブータンランドすさみ” 着。 雨であるが、寄って小休止。
11:00 白浜町着、雨。 街には入らず街を山側に取り巻くR42号を続けて走る。 ガソリン給油。 ここからは始めての道だ。 初めての道は何か期待感に満ちていて楽しい。 この辺りから道は混雑し出す。 大阪迄、殆ど半渋滞。 ゴアー・テックスの手袋も、降りしきる雨にはかなわない。 中まで水浸し。 指先がしびれるように冷たい。
13:34 御坊着、雨。 回転寿司屋 ”黒潮” で昼。 駐車場にバイクを止め、合羽とブーツカバーを脱ぎ、暖かい広い店内に入る。 生き返ったような気持ち。 ここから、和歌山、岸和田、泉佐野、堺とずっと雨である。 しかも42号から26号に代わった大阪への道は、混雑が続く。 早く大阪のホテル日航大阪に辿り着きたい。 予約は18時に入れてある。 堺で26号は左に鋭く折れる。 見事に誤った。 まっすぐ進んで阪神高速に入ってしまった。 高速に入るつもりは無かったので、降りるインターを確認していない。 しかも料金所で手袋が脱げない。 やっと脱いで料金¥700を支払い、再び手袋をはめようとしたが、たっぷり水をすった濡れねずみ状態の手袋に指が入っていかない。 あせる。 後ろの車がクラクションを鳴らし始めた。 仕方なく、手袋をはめないで暫く走り、避難スペースで止まり、絞れば滝の如く水が流れ落ちる手袋をはめる。 御堂筋はどこで降りれば良いのだろうか。 料金所で一応聞いたが、土地感が無く結局要領を得なかった。 地図を出すにも、雨ではリュックを開けることも酷くおっくうだ。
何となく大阪の中心部に来た気がしたので、泉尾IC,大正東方面で降りる。 降りて直右に曲がる。 一番近くのコンビニで、暖かいコーンクリームスープを買い、おもむろに道を尋ねる。 高校生風の若い店番ぼうやが、親切に教えてくれる。 どうやら近く迄来ているようだ。 大正駅を右に曲がって、次に大きな通りを左に折れたら良いらしい。 大正駅は直分かった。 右に折れて、次の大きな通りを探す。 どの通りも大きく見える。 曲がってみた。 どうも御堂筋ではない。 4ッ橋筋と道路標識にある。 再びコンビにで道を尋ねる。 御堂筋は一つ向こうの通りだ。 数10メートルで御堂筋に入った。 左にハンドルを切る。 あれ、どの車も私に向かっている。 一方通行だ。 やばい、直U-ターンし体勢を整える。 危なかった。 幸い全ての車は、信号で止まっていたから助かった。 この広い道幅40mの御堂筋は北から南に向け、一方通行であるのを始めて知った。 ホテル日航大阪は何処だろう。 ゆっくり南に向き走っていると、白くそびえるホテル・ビルが右手に見える。 周囲の建物とは明らかに違う。 すっきりした大型の高い建造物がそうだった。
18:00 1階の車寄せにバイクを止める。 やっと辿り着いた実感がする。 車寄せはもう雨に当たることはない。 クラークに泊まりであることを告げ、地下の駐車場にバイクを止める。 合羽、ブーツ・カバー、手袋、ヘルメットを脱ぎ、ロビーでチェック・イン。 冬雨の中1日走った後の快適空間は、まるで天国の如く思える。 水をたっぷり含んだゴアー・テックスの手袋を部屋に持ち込み、ドライヤーで乾かす。 距離メーター: 24、432km
本日の走行距離: 455km
1月4日(土):
気温7度、距離メータ: 24,432Km。 今日は、ツーリングの日にしては遅く起きた。 高級ホテルの朝をゆっくりしたかったからだ。 昨夜、手持ちの目覚ましを7時にセットしてあった。 25階の部屋から見下ろす大阪の新年の街は静かだ。 薄曇りの空だが昨日の雨に比べれば天国である。 まだ街は動き出していない。 御堂筋、大阪の顔と言っても過言でない。 キタとミナミを結ぶ幅70m、4Kmのまっすぐな大通り。 イチョウの並木が四季を彩る。 大阪のシャンゼリーゼとも呼ばれる。 オフィス街、歓楽街、ショッピング街、文化の街と色んな顔を持つ通りでもある。
朝食を2階のレストランで取る。 西洋のホテルと同じバイキング形式である。 和食もあると案内されたが、私には洋式バイキングの方が良い。 今は人影の少ない、葉っぱのないイチョウ並木の御堂筋を眺めながら、ゆっくり朝食を楽しむ。 オレンジジュース、 コーヒー、クロワッサン2個、バターにマーマレード、ベーコン2枚、スクランブルエッグ、
ミニソーセージ2本、ポテトに焼きトマト1個がいつもの組み合わせ。 一寸多めの朝食。 更にデザートのフルーツもしっかり取る。
08:45 昨日、濡れ鼠状態だった手袋もほぼ乾いた。 身支度を整えチェック・アウト、地下の駐車場へ向かう。 合羽をたたみバーニア・ケース(サイドバッグ)に納める。 エンジンを始動、地上に出る。 御堂筋は北から南の方向に一方通行だから、一旦四つ橋通りに出て北に数百メートル行くと阪神高速の高架にぶち当たる。 右に折れ阪神高速沿いの高架下を走る。 入り口が有れば阪神に乗ろう。 生駒山脈を越える為である。 山道は勾配がきつく路面凍結の恐れがあるからだ。 阪神高速から西阪奈道路を通れば、大阪から一直線に生駒山を貫く第二阪奈トンネルで一気に奈良盆地に入れるのだ。 高架沿いのガソリン・スタンドでガソリン給油。 なんだか雲行きが怪しい。 肌に感ずる温度はぐんぐん下がっている。 ちらほら白いものがヘルメットに当たる。 生駒山の方角は雲が低く垂れこめ降雪模様。 それでも微かな希望をもって、第二阪奈トンネルに入った。 長い(6Km)。
トンネルを出ると、心配していた雪だ。 相当な勢いで降っている。 路面に雪は積もって居ないが、積もりそうな勢いである。 心配の気持ちは大きくなる。 西阪奈道路の終点に到着。 奈良市街に入る。 雪の勢いは凪いできた。 希望の火が少し強くなる。
国道21号を南に下る。
10:00 大和郡山で阪奈道路に乗る。 天理迄行けば無料の高速国道25号に乗れるのだが、今日は天候を心配して早く笠置山地を越えたかったので、¥300払って高速に乗った。 昔の名阪自動車道路は建設費用の償還が終わり、今は一般国道25号になっている。 関西から帰る時、よく利用する。 無料の高速道路だ。 天理からの数kmが勾配の急なワインデングロードである。 ここが凍結していれば、一たまりもない。 どうも凍結は無さそう。 無事昇りきる。 高峰SAを過ぎた。 後は亀山迄快適な走り。
11:10 亀山、距離メータ: 24、557Km。 鈴鹿でR23号の標識。 1号より海寄りの23号に入る。 信号は割と多いが間隔が長く走り易い。 1号より断然良い。
13:00 R1号に合流。 1号をひたすら沼津へ向け走る。 磐田バイパス、この料金所脇に小さなSAがある。 中では、うどんや軽食も取れる。 こじんまりして家庭的な雰囲気があり、気に入っている場所でもある。 今日も寄った。 寒いので、おでんを頂いた。 料金所を過ぎて暫く走ると渋滞が始まった。 磐田バイパスに続く掛川バイパスも渋滞。 藤枝バイパスは渋滞を免れる。
20:10 沼津着。 沼津で夕食休憩。 ここからはR246に乗り代える。 秦野、伊勢原のいつもの渋滞はない。
11:50 相模原帰着。 距離メータ: 24,971Km。
本日の走行距離: 539Km。
3日間の総走行距離: 1,340km。 お正月休み後半を利用しての、家人に睨まれた紀伊半島ツーリングは、放浪に似た楽しいものであったと告白せざるを得ない。
Jan/'03 林蔵@和歌山 (Updated on 15/Nov/'10)#138