奥の細道
@May/'00 宮城、岩手,青森


繋温泉 大観荘から 御所湖、岩手山を望む


日本の会社には不思議な制度がある。 永年勤続表彰と言う制度だ。 私も1969年に名古屋で新聞広告を見て入社試験を受け、現在の会社に入社して既に30年もの年月が経った。 そしてこの年、この永年勤続表彰を受けたのである。 副賞に1週間の特別休暇と、30万円の旅行券が付く。 多くの人々はこの機会に海外旅行に出かけたりする。

私も同じような計画を考えていた。 スペインのマドリッドにあるプラド美術館なんか、かみさんと訪れたらどうかな等と想ったりした。 ところがかみさんは最近長距離の飛行機は好まないとのこと、また海外では温泉も無いし、美味しいお魚は無いしと、私の計画案はさんざん不評なのである。 国内でゆっくりと温泉に入り、美味しい和食を頂くほうが格段に良いらしい。 そう言えば、私も国内旅行等バイクでキャンプをする程度で、温泉旅館で美味しい和食を頂いた事など記憶に薄い。 国内の旅行も悪くないかもしれないと思うようになった。 そんな訳で東北の温泉巡りをすることになった。



日本3大瀑布: 秋保大滝
これがが日本3大瀑布だろうか



1日目、上野発東北新幹線に乗り、仙台までを列車で旅を始めた。 仙台迄の列車の旅はこの歳になって始めてである。 昔は白河の関以北は外国の如く想われ扱われた時代もあったが、今はいとも簡単に北の大地に辿りつける。 5月の末、天候は良く意外と暑い。 仙台でレンタカーを借りる手筈になっている。 駅前のレンタカー屋を探すが、どうしたことか見当たらない。 携帯で場所の確認をして見る。 ようやく場所が判った。 旅行会社の準備してくれた案内書の場所とは違って、大通りの反対側にあった。 案内書の場所は現在再開発の工事中で、今は仮の場所で営業中だったのだ。 無事レンタカーをゲット。 秋保(あきう)温泉に向かう。 車は便利なカーナビ付きだ。



瑞巌寺山門


温泉宿にチェックインする前に芭蕉ゆかりの地、山寺を訪れようと道を北に取ったが、途中で崖崩れの為通行止めになっている。 仕方なく引き返す。 宿に戻る道中に日本3大瀑布、秋保大滝を見学する。 本当に日本3大なのだろうか、少し疑いたくなる。 アフリカ、ザンビアのビクトリア滝等を見ているからそんな風に思うのだろうか。 宿に着き、チェックイン。 今回の目玉は温泉だ。 秋保、繋、十和田の温泉を巡る。 1日目の秋保の宿は岩沼屋、江戸時代からの由緒ある宿らしい。 古い温泉街特有の細く曲がった路地を入ると、たいそうな門構えの宿がある。 建物は滅相古く、1階の半分は資料館になっている。 始めての東北の湯に浸り、ゆったり流れる時間を楽しむ。 



松島「五大堂」


2日目は瑞巌寺、松島を訪ねる。 松島湾に面した瑞巌寺は、如何にも言われのありそうな古い禅寺だ。 広い境内の周辺には、もろい砂岩の洞窟が幾つもあり、それぞれ説明書きのある仏像等が収まっている。 古くからの霊場らしく歴史に名だたる面々の名前がそちこちに見られる。 奥にある静かな本堂に入ると、何故か気持ちが引き締まり 心が清らかになるから不思議だ。 松島に来たからには松島湾を遊覧しない訳には行かない。 予め旅行代理店で準備して貰ってあった遊覧船のチケットを使おうと想い、観光船乗り場に行き適当な時間の遊覧船を探した。 準備して貰ってあったチケットはいわゆるグリーン・シートであったが、今乗ろうとしている観光船は普通の席しかない。 担当員がグリーン席と普通席の料金を計算して、差額のクーポン券を発行してくれた。 真面目な対応に少し驚く。 観光船は周遊ではなく、湾を巡り隣街の釜塩に接岸した。 釜塩からはJRで再び車を止めてある松島迄戻る。 松島に戻り、芭蕉ゆかりの雄島、五大堂を見学。



瑞巌寺の石窟群


午後、その日の宿である繋温泉の大観荘へ向かった。 途中、平泉で高速を降り、藤原氏の栄華の跡、平泉、中尊寺に寄る。 既に夕刻、広大な駐車場には車が数える程しか居ない。 車を止め、坂道を上る。 それでも幾らかの参詣者に会う。 定番の金色堂を見る。 良く見かける建物なので直ぐ判ったが、金色堂は建物の中に有るのを始めて知った。 想ったより小さい。 北上川が眼下に緩やかなラインを描き北上盆地を潤す。



中尊寺: 黄金の国伝説が今も伝う
黄金の力が高い文化と強い国力を育んだ



足早に中尊寺を見学を済まし、再び東北道に乗る。 盛岡で高速を降り、R46号を雫石方面に向かう。 目標の御所湖には、私にしては珍しく迷わず着いた。 御所湖中央に掛る橋を渡ると、繋温泉街に入る。 小さな温泉街の湖に面した丘陵に、赤い洋風の建物 「大観荘」 はある。 内部は、しっくり落ちついた純日本風旅館の雰囲気が漂う。 隅々まで手入れが行き届いている。 お風呂、部屋の窓からの景色が絶景。 真下には青く澄んだ御所湖が横たわり、その向こうには右手に岩手山、左手に乳頭山が、まだ白く輝く稜線を空と分けあう雄大な姿を望む。



奥入瀬: 銚子大滝
澄んだ水と光る若葉


3日目は、十和田湖へ移動する。 繋温泉、大観荘から岩手山の麓にある小岩井牧場をすり抜け、東北道にはいる。 「熊に注意」 の道路標識がある。 流石に東北に来たのだと実感する。 十和田湖インターで降り、R103を北へ向かう。 発荷峠を超えると一気に十和田湖へ掛け下る。 峠から見下ろす十和田湖は美しいと言うよりは、青く深い、少し不気味な感じさえする。 十和田湖は強い風で荒れている。 予定では、遊覧船に乗ることになっていたが、風が強く波が高いのと、先ほど峠から見た不気味な十和田湖を思い出し遊覧船に乗るのは止めた。



奥入瀬渓谷


一旦、今夜の宿、十和田湖観光ホテルにチェックイン、車で奥入瀬に行くことにした。 十和田湖から流れ出る相坂川(奥入瀬川)が、いわゆる 「奥入瀬」だ。 新緑に萌える大木が密生する渓谷美は訪れる人々をとりこにして止まない。 私達もその例外にはなりえなかった。 清らかな流れ、豊かな水量、豊富な木々、深い谷。 美しい自然は文句無しに心を豊かにしてくれる。 流石に東北の観光名所と想わせる自然美に時間と空間の全てが包まれる。 今回の旅は温泉巡りだった筈、だがここ十和田湖観光ホテルは温泉ではない。 ちょっとがっかり。

4日目は、青森まで行き、空路東京に帰る。 十和田湖観光ホテルを出、昨日訪れた ”奥入瀬渓谷” に沿った道を下る。 少し下った処に奥入瀬温泉街があるのに気付く。 こちらの宿にすれば良かった。 後の祭りである。 奥入瀬を後にし、八甲田山に向かう。 標高がどんどん上がる。 残雪の深さがそれに連れ増してくる。 5月末でも数メートルの残雪がある。 厳冬の最中、吹雪でもあれば遭難も有なんと想わせるに十分な地形。 残雪に腰から上を出している木々は、厳しい寒さと雪に耐える体格をしている。 峠を超えると青森の平地が眼下に広がっていた。 青森の中心商店街で幾つかのみやげ物を物色。 かみさんが青森つげのまな板が欲しいと言っていたが、結局買わないできた。 今も青森つげのまな板に有りつけないでいる。 あの時買っておけば良かった。 商店街を少しぶらぶらして、帰りの飛行機に乗る為青森空港に向かった。 レンタカーを空港で返したが、帰りの便の出発迄だいぶ時間がある。 空港の待合室で時間を過ごす。 あまり広くない空港待合室、レストランがあったので、少し早めの夕食を取った。 チェックインの時間になり、列に並んでいると昨日、奥入瀬で見かけた熟年カップルがいるのに気付く。 同じような旅なのだろうか。 久しぶりの日本の休日をゆっくり楽しむことができた。 改めて日本の国土の素晴らしさに賛歌。



蒼く深い十和田湖: 遠くに雪を戴くのは秋田駒ヶ岳









28/May/'00 林蔵@東北 (Updated on 17/Jan/'09)#110

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