七福神
@Jan/94 鎌倉・江ノ島、神奈川 


江ノ島神社参道


’94年元旦、例年になく早起きをした。 お神酒も頂かず、慣れない台所でお雑煮だけを作る。 この日は主婦の休みとなっているらしい。 誰が何時決めたのか、本当にそんなことが決まっているのかはわかったものではないが、あまり疑わないことにしよう。 包丁を使ってはいけないらしい。 晦日に、家人が適当に切り刻んであった材料と餅と味噌を煮えたぎる鍋に入れるだけで出来あがる。 東側の窓を開けると、この家で暮し始めて10年になるが、まだ見たことのない神々しいばかりの朝焼けが目に飛びこんできた。 我が家の窓越に、やや遠くの家影から昇る初日の出を拝みながら朝食。 とても贅沢な気分になる。



江ノ島弁天



長女は田舎に行っており相模原の家には居ない。 長男は彼女も居ないし、バイトもないので、寝正月だと言って起きてこない。 実に素晴らしい元旦晴れだったので、かねてから話していた 「江の島・鎌倉七福神巡り」 に家人と出かけることにした。 早速 New Year's Resolution の実行である。 歩き慣れた道を駅まで歩く。 早朝の電車はがら空きだ。 町田で小田急に乗り換える。 小田急の鎌倉・江の島フリー切符を買う。 小田急の江ノ島行きは相模大野で本線から分枝する。 車窓から丹沢の山並が、元旦の新しい澄み切った空気の中、くっきりと真近に迫る。 なんだか先行き良いことがありそうな気がする。



江ノ島島の山頂から江ノ島ヨットハーバーを望む



街に外国人が多くなって久しいが、隣に乗った若者が 「コノ電車ハエノデンデスカ?」と聞いてくるまで、彼が外国人だとは気付かなかった。  「この電車は、小田急で、江の電ではないのですよ。」 と私。 聞くと、彼はタイ人で20才の留学生。 日本は大好きとのこと。  身なりはお世辞にも良いとは言えない。 両足ほころびたG-パン、くたびれたスキー帽。 それでも話し方と態度が丁寧で好感が持てる。 学校が休みなので鎌倉の大仏を見に行くのだと。 私達も 「江の電」 に乗ることにしていたので、江の島迄一緒に行くことにした。 昨年、私達の息子がタイへ入った事等、四方山話をし、日本でしっかり勉強し見聞を広めて帰るようにと別れた。




山頂部に佇む江ノ島神社



江の島への海橋上では、好運にも目を見張るばかりの絶景が眼前に広がっていた。 海面から富士の頂上迄一点の曇りもない。 実に見事な、まるで広重の絵のような富士の山。 江戸の庶民が愛でた富士と同じ姿に違いない。 ちょっとした感動ものである。 これは元旦から縁起が良い。 この分では今年は多いにご利益が有りそうだ。 早速、江の島神社で御朱印帳を買う。 地元の、かなりお歳とみられるペンショナー(年金生活者)が話し掛けてきた。 「私は毎年、藤沢と鎌倉の七福神巡りをやっているんですよ。」 とすこぶる元気そうだ。 この歳になると、つい自分の老後のことを考えてしまう。 最後の時まで、元気でいようと決めているのだが。



江ノ島へ通じる海橋から富士をバックに


長谷寺の大黒様で朱印帳に記帳して頂いていると、前の人はなんと広島から来たと言う。 昔から庶民信仰が、少しも衰えず営々と引き継がれており、衰えていないことに安心と驚きを憶える。 




賽銭巾着: 流石、弁才天の宿る島



浄智寺、鎌倉五山の一つである。 さぞかし荘厳な感じであろうと思い巡らしながら向う。 だが目の前にあるこの寺は意外に質素で、ややうらぶれた寺だった。 石像の布袋尊を観て、社務所へ朱印を頂きに行く。 がらがらと引き戸を開け、係りの人を呼ぶ。 「はぁーい。」と若い女性の声。 暫くすると、超ミニのお嬢さんが出てきて、少し面食らう。 袈裟姿の住職、あるいは子弟を想像していたのに。 お寺の現代化に驚くと同時に、固定観念に凝りかたまった我が頭を嘆く。

鶴岡八幡宮は流石に凄い人出だ。 家ではどら息子が一人食事も当たらず待っているであろう。 あまりゆっくりもできない。 ロープによる警察の歩道規制に従っていると、境内にある旗揚げ弁財天に辿りつくには、何時間も掛りそうだ。 八幡宮の弁天は、第八番目のいわば番外弁天なので、後日改めて来ることにしてこの日は引き上げた。



むすび絵馬



帰りも同じルートで鎌倉駅から江の電に乗る。 江の電は小さな電車で座席は縦長に向いあうベンチ・シートが殆どである。 長谷駅で好運にも前向きのシートが2席空き、座らせてもらった。 好運は続く。 丁度、七里ヶ浜駅を過ぎた辺りだった。 雲一つない海面に黄金の太陽の沈む姿が、江の島のシルエットの真横にある。 海は見事にないでおり、水平線に浮かぶ黄金の太陽が海面に反射して、眼前にまっすぐに伸びる海面に浮かぶ黄金道。 まるで極楽浄土への王道かに思える。 神が贈ってくれた ’94年元旦の最高の車窓絵であった。





1/Jan/'94 林蔵@神奈川 (Updated on 13/Apr/'08)#116

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