アカバ・マラソン @Dec/'04 Aqaba, Jordan
ハイウエー・パトカーに先導された4台の大型観光バスは午後2時半、アンマン第7サークルを出発した。 デザート・ハイウエーを驀進すること4時間。 砂漠に既に夜の帳が下り、時折行き違う車のライト以外には、バスのエンジン音だけが その存在を誇示するかのように規則的な振動を与えてくれる。 先頭のパトカーは勿論のこと、4台のマラソン・バスもハザード・ランプを点滅しながらの爆走である。 急峻な谷間の下り坂、最後のコーナーを曲がると突然眼下に燦然と輝く光の海が車窓に飛び込んできた。 アカバの灯だ。 その昔アラビアのロレンスが困難きわまるワデイ・ラム砂漠を越え、アカバの背後に聳える紫色の山からアカバの灯を見た感動もこんなであったかと想像しながら、光の海へ4台のバスは飲み込まれていった。
12月2日、週末の木曜日。 仕事を正午迄に片付け、同僚のY氏と第7サークルにある米系スーパー、セーフ・ウエーに向かう。 アカバ・マラソン専用バスはセーフ・ウエーから出るとの案内であった。 1時半集合、2時出発の予定である。 少し時間がある。 昼を取ってからバスに乗り込もう。 セーフ・ウエーの周辺は新興商業地で新しいビルにテナントが入る為の内装や外装がされている店舗が多い。 一角にコカ・コーラのパラソルが目に付いた。 サンドイッチ屋のようだ。 入ってみよう。 1組のカップルが先客。 壁に取り付けられた狭い1枚板のテーブルに席を造ってある。 店内にテーブルは無い。 店先にはコカ・コーラのパラソルの下にプラスチック製の白いテーブルが2-3卓。 注文を済ませて我々も壁に向かって席を取った。 日本のドトール等でも採用されている店内のアレンジである。 狭いが綺麗な店内には洒落た壁飾りや、衛生管理の宣言書がプレートにされ目に着きやすい場所に品良く立ててあった。 グリルド・チキンとネス・カフェの昼食を済ませ、バスに向かう。 4台のベンツ製大型バスが待っていた。 2時きっかりに出発するから、少なくとも1時半には来て下さい、との神経障害者協会のマラソン担当者モナさんからしつこく言われている。 1時半にバスに乗り込んだ。 あれほど念を押されていた出発の時刻2時が過ぎた。 バスは出発する気配が無い。 結局バスが動き出したのは2時半過ぎであった。 たかが30分の遅れ、こちらでこれだけ時間が厳守されるのは珍しい。 立派なものである。
バスは18:30にアカバの検問所を通り (アカバはフリー・ゾーンなので、普段はパスポートの提示を求められるが パトカーに先導されたマラソン・バスはフリー・パスである。) 高級リゾート・ホテル ”Radisson SAS”前には18時30分に到着。 今回のマラソン・ツアーの多くは5つ星ホテルの ”Radisson SAS” を選んだ人が多いようだ。 4台のバスの多くの乗客がここで降りる。 神経障害者協会のマラソン担当のMonaさんもここで降りた。 別行動組の同期のOさんとOさんの友人Hさんも、つい先ほどペトラ観光を終え、アカバに着いているとの連絡が携帯に入る。 これは好都合である。 ホテルの夕食は飛び切り高いに決まっているから、外で一緒に食べることにした。 19:15にホテルのロビーで待ち合わせの約束をした。 チェック・インを済ませ部屋に入る。 流石にハムセンジュール(5つ星)である。 部屋は広く調度品も整っている。 バス・ルームも広くて綺麗だ。 既に夜の帳が降りているので方角が良く判らない。 ホテルの窓の前にはバスから見た光の海が広がっている。 旅の荷を解き(と言うほど大げさではないが)リュックからウエスト・ポシェットに換えロビーに降りた。 既にOさんがロビーで待っていた。 一緒にチェック・インしたYさんも居る。 Oさんの友人は安くて旨いレストランを探しているらしい。 立場が逆になってしまった感じである。 日本からの遠来の客にレストランを探してもらい、此方に6ヶ月以上も住んでいる我々が其の好意に甘える形になってしまったのである。 Hさんは、海が見えて安くて魚料理もある旨いレストランを既に探してくれていた。 4人でアカバ湾の向こうに輝く双子の街イスラエルのエイラートと エジプトのヌエバを眺めながらの食事は輪を掛けて旨いものになった。
12月3日、マラソン当日である。 いつもと同じ6時半に、アパートから持って来た目覚ましで起床。 洗面を終え7時に朝食を取る為グランド・フロアーのカフェへ降りて行く。 Yさんと7時に朝食と取ろうと約束してあったのだ。 グランド・フロアーに降りたが少し時間がある。 ロビーの奥は全面ガラス張りで、外にはプールが続きそのままプライベート・ビーチが広がる。 プライベート・ビーチには洒落たビーチサイド・テラス・バーが併設されており、潮風を頬に受けながらくつろぐことができる。 ゴージャスなセッテイングである。 リビエラやハワイの高級リゾートと寸分違わぬプール・サイドをビーチ迄ゆっくり歩いてみる。 紅海のウオーターは飽くまで静かだ。 朝日に煌めく澄んだ波が易しくビーチに砕ける。 これぞ正にハムセンジュール(5つ星)であろう。 バーから見えるのは静かな紅海のウオーターだけではない。 政治的にアラブ諸国と激しく対立しているイスラエルの街エイラートが目と鼻の先に横たわる。 夜ともなると海岸線からなだらかに伸びる丘陵に眩しいばかりの光の海が出現するのである。 一見何の緊張も感じない実に平和な空気が漂う極めて狭い国際水域が目の前に広がる。 朝食は高級ホテル特有の贅沢なバイキングを楽しむことができる。
今日も、前回のように制限時間オーバーで救急車に拾われることは無いだろうか。 一抹の不安がよぎる。 アカバ・マラソンの制限時間はアンマン・マラソンより30分長い3時間(21km)である。 3時間もあれば大丈夫だろう。 かなりの確立で大丈夫の筈だ。 バス・センターに8時半に集合である。 バス・センターには、他のホテルに投宿している、OさんとYさんも来てくれていた。 Yさんはエジプトでの旅を続ける為、9時のフェリーでエジプトへ渡るのだそうだ。 フェリーに乗る前にわざわざバス・センター迄応援見送りに来てくれたのである。 バスは大型バス6台、マイクロ・バス7~8台がマラソン選手専用のバスらしい。 トレーナーを脱ぎリュックに詰め荷物預かり所に預ける。 スペインからのマラソン・ツアー客が目立つ。 彼ら彼女達は実に陽気で屈託がない。 大きな応援旗を靡かせながら駐車場を忙しく歩き回る応援団長の女性は、もーお祭り気分に陶酔しきっている。 そんなグループとスナップ写真を取り合った。
ランナー達は21km、10km、4.2kmとそれぞれ別々のバスに乗り込む。 8時45分、バスはバス・センターの駐車場を出発。 それぞれのスタート地点へ向かった。 コースはハイウエーを山側から駆け下るように設定されている。 これは楽チンである。 21kmのスタート地点はかなり山に入った処にある。 ランナーの数は100名足らずであろうか。 何れも走りそうなランナーばかりである。 こちらでは日本のように遊びで走る者は極めて稀で、皆本格的に走っているものが殆どのように見受けられる。 YさんとOさんは、同じバスで21kmのスタート地点迄来てくれた。 この場所からでは、タクシー等無いので、バスと一緒に街へ帰らなくてはならない。 バスはスタート前に街へ帰ってしまう。 Yさん、Oさんはスタートと見届けたかったらしいが、残念ながら適うことは出来なかった。
10:00 きっかりにスタートした。 早い。 やはりレースはハイ・ペースで進行する。 これはやばい。 ペースに巻き込まれると直ぐばててしまう。 ペースに巻き込まれないようにゆっくり慎重に走る。 下りなので比較的楽である。 1km毎に距離標識が設置されている。 21kmから1kmずつ減ってゆく方式だ。 後残り5km地点で足がつったてしまった。 これはまずい。 時計を見る。 幸いに、未だ2時間しか経って居ない。 ここから歩いてでも、ゴールには3時間以内で辿り着ける筈だ。 5km地点からは歩きと走りを交互に何とかゴールに辿り着いた。 Finishラインの前で写真を撮って置こうと一旦立ち止まり、ポシェットから小型カメラを取り出すと、なんとゴールにはYさんとOさんの顔が見えるではないか。 街に戻った後、ゴール地点迄来てくれて、待って居たのである。 2時間20分でゴール。 今回は何とか救急車の御世話にはならずにすんでほっとした。 ゴールはアカバの東端に位置する港公園だ。 アラビアのロレンスがオスマン・トルコ軍からアカバを奪い返した舞台になったアカバ城跡がある場所である。 そこには巨大なアラブレボリューション旗が巨大な鉄塔の先端に翻っていた。
04/Dec/'04 林蔵 @Aqaba Jordan (Updated on 8/Jul/'08)#186 |
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