死海は天の恵みか
@Aug/'05 Dead Sea, Jordan


死海高級リゾートホテル ムービン・ピック: 淡水プールから死海越しに対岸ウエスト・バンクを望む
かってこのような快適豪華な施設は夢だに見なかった



死海、海抜-402m、水深360m、水域750km2 (琵琶湖より少し大きい)、 ミネラル総含有量430億トン、世界一低い水面だ。 世界7不思議の一つに数えられる。 アフリカ東部、南北に延びる大地溝帯の北端に位置する。 数千万年前は、この地は紅海と繋がっていたらしい。 Syrio-African Rift のマントル上昇に伴う地殻変動で二百万年前頃に、紅海との繋がりが切れ内陸湖となった。 その後海水の蒸発が続き、約12,000年前に現在の死海の形が出来上がったと言う。 普通の海水が1リットル中ミネラル含有分は34グラムであるが、死海のミネラル分は1リットル中340gにも及ぶ。 海水より10倍もの高濃度である。 その為、いかなる生物も住めない。 死海と呼ばれる所以である。 含有ミネラルの成分も海水の成分とは大きく異なる。 海水のミネラルの殆どは塩化ナトリウムであるが、死海のミネラルは、塩化マグネシュウムや塩化カリウムと言った成分が殆どで、逆に塩化ナトリウム成分は極めて少ないのが特徴。 このミネラル成分はヨルダン川の水が運んできたものではなく、東部に湧き出る温泉からのものらしい。 自然資源の乏しい当国では、このミネラルは将に天の恵みだろうか。 大規模のカリウム精製工場が死海南端部に操業している。 年間生産量2百万トン、その内90%以上が諸外国に輸出され、貴重な外貨獲得源の一つに違いない。 

唯危惧すべきことは、この世界的に観ても貴重な超濃高度の塩水湖 ”死海” の水位が毎年下がっていることだ。 私が始めてこの湖を訪れた1971年の水位はー399mだった。 実に3mも低くなっている。 そしてもの速度は年々増しているとも聞く。   



リゾートホテル:ムービン・ピックのロビーから死海を観る
プライベート・ビーチへ伸びる広大なセットバックには贅沢な植え込みが続く



午前8時にアンマンの事務所前を、チャーターしたた大型バスは出発した。 途中、死海の泥やミネラルを原料とする化粧品会社 Bloom社、マダバの使途教会、ネボ山の見学を経て、死海リゾートにやってきた。 この高級リゾートの目玉的存在である5つ星ホテル Movin Pick で昼食を取る為だ。 私が最初にヨルダンを訪問した1971年には、想像も出来ない立派な設備が整っている。 プライベート・ビーチ迄のセットバックが驚くほど広く取られていて、ホテル設備とビーチ間の広い空間には贅沢な植え込みがなされている。 熱帯の林に迷い込んだかと錯覚するほど多くの緑が絶えず水を与えることで維持されている。 プライベート・ビーチの直ぐ手前には豪華な真水プールがブルー染まり広がる。 34年前はホテル等一切無く、海水浴場も整備されて居なかった。 死海で泳ぐには、手製のシャワー(やかん)と真水をポリタンクに入れて持参で行かなければならなかったのである。 水資源の限られたこの国で、インターナショナル・クラスの豪華ホテルは、如何にも贅沢と思われる。 ホテル内は、外からは想像が出来ない別世界が広がる。 当初バイキングの予定であったが、時間の都合で中華になった。 如何にも高級ホテルの中華レストランと言うセッテイングである。 お品書きが個人用に高級厚保紙に印刷され飾り紐で巻かれて置かれている。 有体に言えばスープとメインである。 スープは2種類(トムヤンクンとホット&サワー)、メインは豚肉の野菜煮で辛さの注文が出来る。 これで1人前、約30JDはホテル値段である。 こんな贅沢に足を踏み入れると一種の罪悪感さえ覚える。 



ムービンピックのロビーから、プライベートへ続く大理石を敷き詰めた半地下出口
荒涼な外の景色からは想像もできない豪華さである
 


死海東岸沿いに、南に延びる道を小一時間走ると、湖中央に突き出た半島が見え、それは湖の南端に来たことを告げる。 カリウム精製工場の巨大な建造物が明らかに人工建造物と判る姿を、見渡す限り岩山と死海の境に見せ始める。 死海の天候はカリウム精製の為死海の水を天日濃縮するには将に打って付けと言えよう。 年間高温低湿度であるのに加え、晴天日が年間300日以上ある。 ヨルダン政府から操業許可を得た大規模工場が120km2に及ぶ天日乾燥池を擁し24時間体制で、年間200万トンの高品質な塩化カリウムを生産している。 此処はイスラエルと国境を接しており、乾燥池の西側は、ミネラル分凝固後の排水路となっているが、同時に国境の干渉地帯にもなっている。  イスラエル側にも同様の精製設備があり、雨上がりの激流の川の如く排水を同じ排水路に流し込んでいる。 



広大な乾燥池は幾つものセルに分割されている。池周辺の岸には白く凝固したミネラル分が堆積している



天日乾燥池に注ぎ込まれた死海の水は2年間の凝固期間を経て天日濃縮されミネラル分が池底に数十cmの層を成して沈殿するのだそうだ。 この凝固したミネラル分は特製のハーベスターで、海水もろとも吸い込まれ、乾燥池を自在に動き回るハーベスターから、浮かぶ自在パイプを通して精製工場へ24時間休むことなく送り込まれる。 こんな大規模な天日乾燥池(死海の表面積の実に6分の1に及ぶ)で死海の水を乾燥させれば、現在進行中の年間1mとも言われる水位低下に拍車を掛けているのではないかと心配するが、死海の水位低下の原因は主に上流のヨルダン川に水が死海に流れ込む前に農業用水、或いはアンマン市民の飲料水として利用されて尽くし、死海に殆ど流れ込まなくなったことに拠るらしい。 もっともな説である。 




天日乾燥池の仕切りダイク(堰)を大型バスで横切り乾燥池を見学する



今年(2005年)の5月に死海リゾートで世界経済フォーラムが開かれた。 死海の水位低下防止は重要なテーマの一つであった。 水位低下防止に関する研究は既に進んでおり、地中海、或いは紅海の海水を流し込む案が最も有力だろう。 たかが海水を流し込むだけと思うが、その実行には甚大な費用と膨大な環境アセスメント調査が必要な上に、デリケートな国際湖であることが、その実行を難しくしているらしい。 ともあれ、今回の世界経済フォーラムで、紅海の海水を流し込む計画に対しフィージビリテイー・スタデー費用が 具体的に出されたのは初めてのケースで、評価すべきか。 

  


 特製のハーベスターが(作業船)昼夜休み無く働く
凝固したミネラル分を水分と一緒に吸い込みパイプラインで精製工場へ送られる


 


Mt. Neboから標高差1300mを死海へ駆け下る道







22/Aug/'05 林蔵@Dead Sea Jordan (Updated on 1/Aug/'08)#208

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