Jabal Nebo
@May/'04 Madaba, Jordan


モーゼのモニュメント: 世界各地からの巡礼・観光客が記念撮影をする



ネボ山に行くことになった。 アンマンに来て1ヶ月、始めての遠出である。 遠く旧約聖書の時代、モーゼがユダヤの民をエジプトから避難させる苦難に満ちた旅路の末、遂に辿り着いたミルクと蜂蜜流れる約束の地。 キリスト教の聖地の一つで、世界中から巡礼者や観光客が絶えないと言う。 前回、33年前と24年前の滞在で訪れそびれた場所である。 未だ見ぬ謎に満ちた歴史の証をこの目で見ることができると思うと、嫌がおうにも胸がときめくのを感じる。

Tさん、Oさん、Yさん、それに御家族の方を含め総勢8名の仲間である。 タクシー2台を貸切って行くことになった。 小綺麗な大きめのタクシーで若い運転手もハンサムで清潔な感じだ。 遠足気分でそれぞれ車に乗り込んだ。

アンマンの都心を出るとロータリーも信号も無い(信号はもともと極端に少ない)デザート・ハイウエーに出る。 南西に伸びた立派なハイウエーである。 前回の訪問時にはこんな立派なハイウエーは無かった筈だ。 車の数も格段に増えている。 スピードは出し放題(制限速度は有る筈だが、遂に標識を見ることが無かった。 タクシーは他の車に合わせてスピードを挙げる。 幾らくらい出ているのかと、運転席のインパネを覗いたのでる。 何と、驚いたことにスピード・メーターが動作していない。 動作して居ないのはどうもスピード・メーターだけではなさそうだ。 水温計もガス・メーターもゼロを示している。 車検制度の無い国は恐ろしい。 これで堂々と公道を走って居るのである。 それにしても、相当のスピードが出て居そうである。 こんな時、不用意に運転手にゆっくり走れ、等と言ってはいけない。 彼らの注意を散漫にし、苛立たせ、更にスピードを出すからである。 走り出す前、或いは休憩時それとなく言わなければならない。




ネボ山から見る南側の赤茶けた不毛の地: 深い谷がヨルダン渓谷へ駆け下る



40分位でマダバに到着。 ドリンク休憩だ。 マダバのメイン・ストリートのコンビニ前で止まる。 家にはあいにく水を切らしていたので飲み物を持たずに来てしまった。 ここでドリンクを仕入れる。 小休憩の後、再び2台のタクシーはタンデムで走り出した。 マダバからは、西の方向に進む。 眼下に深い谷が幾つものうねりを成し広がり、深い地底の世界へ飲み込まれている。 今日はあいにく空気が澄んでいないので、海面下400mに広がる死海や西岸を見渡すことが出来ない。 一寸残念である。 本当ならこの眼前に数千年前の旧約聖書の風景広がる筈だが。 



ガラス瓶砂細工師: 炎天下で僅かの道具を駆使し鮮やかに作品を作り挙げる



マダバから10分程度でネボ山に着いた。 大型観光バスが何台も駐車できる広い駐車場を備えている。 駐車場の片隅で、みやげ物売りが2-3人たむろしている。 ラグ、ミニ石片モザイク画、ガラス瓶砂細工等。 ガラス瓶砂細工のおじさんが実演販売をやっている。 作品1点が出来あがる迄、数分の間炎天下の駐車場で実演を見ていた。 面白い。 道具は細長いファンネルに針金1本。 実にシンプルである。 様々な色の微砂をファンネルで瓶の面に沿って流し込む。 微砂の流れを止めるのは簡単。 ファンネルの先を瓶の中央部に軽く刺せば良いのである。 模様は瓶の面に流し込んだ微砂を1本の針金で瓶の面を撫でるように砂を掻くと 見事に動物の姿や幾何学模様が瓶の面に浮かび上がる。 2年後の帰りの荷物が増えるのを憂いながらも、記念に小さい瓶砂細工を1個、JD1で買った。 入場料500フィルスをゲートで払う。 

ネボ山は山と言っても両脇を深い谷で削られた突き出た丘の先端と言った感じの場所である。 周囲の地形からは、むしろ低いかもしれない。 ゲートをくぐると緩やかな上り参道が150メートルくらい続く。 参道の終わりは小さな広場になっており、広場の向こうに明らかにイスラムとは違う一部小さな丸みを帯びた教会が姿を現す。 ここはイスラムの国に在るキリスト教の聖地だと改めて思いなおす。 丸みを帯びた建物の部分に小さな窓が3ヶ所程良く飾りのように施されているのが見える。




ネボ山頂上の教会: 内部は修復中



教会の右側を廻り、突き出た丘の先端に出てみた。 そこにはモーゼの杖に悪魔の化身蛇がまとわりついた独特の形をしたモニュメントがそびえていた。 モーゼが杖の雷鈴で蛇に姿を変えた悪魔を呼び寄せ退治した故事に由来するらしい。 ここはカメラスポットであろう。 他国からの観光客が盛んにこの大きな杖の前で記念撮影をしている。 



この下の約束の地はあるのだろうか: 今日は霞んで地底湖死海は見えない



教会の内部に入ってみた。 修復中のモザイク模様の壁が乾いた土色にあでやかな空気をかもし出す。 正面を見ると祭壇があり、祭壇の上には、先ほど外から見た小さな3つの窓はステンドグラスの窓であったのに気付く。 薄暗い内部へ外の強烈な光が7色に輝くステンドグラスを透して内部に差し込んでくる。 色彩の少ない赤茶けた周囲に小さな別世界が出現する。 偶像やアイコンの無いイスラム教のモスクと最も違う様式の一つである。



教会内部: 淡色の乾燥地に輝くステンドグラスの小窓



改めて西方に深く沈むヨルダンバレーを見渡してみた。 死海や西岸がやはり見えないが、荒涼とした乾燥地がぬめぬめと続く。 ここが約束の地カナンなのであろうか。 この荒地を何万人もの民を引き連れて家財道具一式を携え、エジプトから紅海を渡り、行進してきたのだろうか。 その困難さは容易に想像することは出来ない。 2000年を経た我々は彼らより進歩しただろうか。 彼らが経験した困難に耐え得るだろうか。 彼らより優しくなっただろうか。 彼らより豊になっただろうか。 何れも私の心には釈然としない答えしか帰って来ない。 改めて砂漠の民に畏敬と感動を覚える。



絨毯を敷き詰めたような見事なモザイク



May/'04 林蔵 @Mount Nebo Jordan (Updated on 23/Jun/'08)#171

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