ラマダン
@Nov/'04 Amman, Jordan

 
一日の断食後、1粒ゆっくり頂くなつめ椰子の実(デーツ)



イスラム国にはラマダン月があることは今更ながら言うに及ばないが、それを体験する方は少ないのではないだろうか。 今年(西暦2004年、イスラム暦1425年)のヨルダン国のラマダンは10月15日に始まり11月14日に明けた。

ラマダンは太陰暦で数えるのでその始まりは、毎年10日程度太陽暦と差が出る。 詰まり毎年10日ばかり始まりが早くなる訳である。 したがって真冬に当る年もあれば、真夏に当る年もある。 真夏に当った年は特に厳しい修行となる。 日の出前から日没迄の長い時間、飲食を含む全ての欲を絶つのである。 更にラマダンが明けてもその後1週間断食を続ける者も居る。 一般的に儀式的な断食は1日で10日分の断食の意味を持つらしい。 そこで30日間の断食では300日分、10ヶ月にしかならず、1年には2ヶ月足らないのである。 そこで人により残り6日間の断食を続け、儀式的に12ヶ月断食したことにするそうである。



日に5回、モスクからアザーン(お祈りの合図)が聞こえてくる



私たち非モスリムはラマダンを行うことは基本的には無いのであるが、職場や公衆の面前で大っぴらに飲食や喫煙をすることは憚れる。 自然、半ラマダン状態になるのである。 これは決して悪いことではないように思う。 ラマダンの本来の意味の一つである、飲食を絶って貧しい者の気持ちをわかる気持ちになったり、日頃の飽食を戒めたり、減量作戦に図らずも効が在ったり、なかなかどうして我々にも多くの効用を与えてくれるのである。 

ラマダン中は挨拶に “ラマダン・カリーム“ と人々は言い合う。 これはラマダン期間中、特に寛大な気持ちになり、アラー神の恵みに感謝し、周囲の人々に ”寛容になろう” と言う意思表意のようなものだ。 イスラムの国では普段でも、街頭で貧しい人に小銭をポケットから出して与えている姿を良く見かるが、ラマダン期間中はその行為が富に多くなる。



サンドイッチ屋の店先: ラマダン幕で覆われている



またこの期間中は、殆ど全ての人は日没のアザーン(モスクから聞こえてくるお祈りの知らせ)には家に帰り、家族全員揃って食卓でお祈りをして食事(Breakfast)につく。 普段、仕事で忙しく家族と一緒に夕食を取ることが出来ないビジネスマン等もこの期間だけは、必ず家族揃って食事を取る。 そんな訳で常でも強い家族の結束が、更に強く濃くなる期間でもある。 はたして、道路の混雑は尋常ではない。 一般的に政府系の職場は2時で終わりになるが、皆が一斉に家路に着くか、或いは日没前に買い物に出かける。 特に食糧品店やスーパーは日没直前迄ごった返す。 そして、日没の時刻になると、それまで喧騒としていた道路が水を打ったように静まりかえるのである。 タクシーも自家用車もトラックもバスも姿を消す。 僅かに外国人か非モスリムの者が運転する自家用車が時たま走る程度である。



プテ・ホテルのオープン・カフェ: ラマダン幕で覆われている、街路樹もラマダン幕で化粧



24時間営業のスーパーを除いて、一般の店も一旦シャッターが閉まる。 この時間に24時間営業のスーパーで買い物するのが外国人の特権。 広い店内で自由に買い物カートを泳がせながら買い物が楽しめる。 レジは1ヶ所程度しか開いていない(レジ係もレジで弁当を食べている)が、混むことは無い。 悠々と買い物を済ませ帰宅する頃には、再び街に車と人が戻ってくる。 一旦閉まっていた店も再びシャッターを上げる。

お酒は普段ヨルダンでも購入できる。 だがラマダン期間中は事情が一寸変わる。 アルコール類の販売は禁じられるのだ。 酒屋の棚からアルコール類が姿を消す。 この期間中だけ棚には菓子類や缶詰め類が変わって並ぶのである。 しかし全然手に入らないかと言うと、そうでもない。 人の世はあくまでフレキシブルなのである。 酒屋には大概地下室があって、地下で商売ではない取引をすると言う訳である。 或いはシャッターは閉まっているが、勝手口が開いていてオヤジが水タバコ等をふかしながら、本日休業と言った振りをして居る。 そして我々は何気なく話をして中に入ることが出来るのである。 外国人や非もスリムに寛容に便宜を与えるのはアラーの教えに背かないのであろう。

またこの時期、友人等を夕食(Breakfast)に呼ぶことが多くなる。 夕食は各家庭の主婦がメードを使い、飛び切りの料理を腕によりを掛けてたっぷり作る。 その豪勢な料理を友人等に振舞うのである。 私も友人の家主からラマダン夕食(Breakfast)に呼ばれた。 日没のアザーンがモクスから聞こえてくると、全員テーブルに着き軽くアラー神に感謝のお祈りをする。 そしてテーブルの中央に置かれたデーツ(なつめ椰子の実)を一粒おもむろに掴み、ゆっくり咀嚼する。 それから消化の良いパン・スープをゆっくり飲む。 その後、モスリムの者はお祈りの為、一旦席を立つのである。 一般的にお祈りは数分で終わる。 数分後に再び全員揃ったところで、メイン・デッシュを賑やかに食するのである。 メインの後はアラブ特有の甘いお菓子だ。 ラマダン期間中は “カタエフ” と言う特別なお菓子が出る。 ナッツ或いはチーズをパンケーキで巻いたものにたっぷりシロップを含ませたものだ。 私にはいける味だった。

奥さんはテーブルに座ったままである。 料理を運んだり、皿を取り替えたりするのは全てメードが行う。 これがどうも此方の中流以上の家庭の様子らしい。 そんな訳でヨルダンにはメードの市場がある。 メードは主にフィリピン、スリランカ、インドネシア、エジプトから来ている。 彼女達の中には結婚していて子供、旦那を本国に残して来て居るものも居ると聞く。 メード達は住み込みで殆ど休みが無いが、実に良く働く。 又通いのメードは幾つもの家を掛け持ちで駆け回る程の忙しさだ。 これは、限られた期間に出来るだけ多く働き、本国の家族に少しでも多く仕送りする為だ。 勿論社会保障等無く、身一つでの肉体労働である。 それでも僅かな稼ぎの内から相当の部分を本国に送金するらしい。

ラマダンが終わり、平常の生活が戻ってきた。 職場の湯沸し器に湯が沸いている。 朝席にに着けば、先ずインスタント珈琲を入れる。 研究所の食堂も営業を始める。 昼食も取れる。 ドーナツ屋も昼間から開いている。 人々の顔も心なしか易しくなったような気がする。




17/Nov/'04 林蔵@Amman Jordan (Updated on 6/Jul/'08)#184

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