デザート・キャンプ
@May/'04 Wadi Ram, Jordan


刻々と色が変わる黄昏のカターバレー付近



5月の末、週末を利用して仲間とワデイ・ラムに1泊のデザート・キャンプに行った。 ワデイ・ラムはヨルダンの3大観光地として知られている。 砂漠と言っても新宿の高層ビルより高い切り立った岩山の谷間に広がる岩と砂の荒野と言ったほうが判り易い。

金曜日の朝、8時50分: 事務所の前にメンバー、レイデイー3名を含む14名は集まった。 ワデイ・ラム迄は自家用車3台で移動する。 片道330kmの道のりである。 最近全線開通した立派なデザート・ハイウエーを南に走る。 途中1回のトイレ休憩をしただけで、東京から岐阜辺り迄の距離をぴったり3時間でワデイ・ラムのレスト・ハウスに到着した。 レスト・ハウスは自然保護区ゲートをくぐって、更に15分位走ったベドウインのビレッジにある。 レスト・ハウスには綺麗なトイレと本格的なレストランに列車を改造した洒落た観光案内所も揃っている。 先ずは腹ごしらえだ。 レストランでバイキング形式の昼食を取る。 グリルド・チキン、サフラン・ライス、野菜煮、ポテト・チップス、ホブツ(アラブ風パン)に 様々なドレッシングとパンに付けるペースト、デザートは西瓜。 昼食代はツアー料金に含まれていて支払いやチップの手間が省けて良い。 食後はしばしの自由時間。 ジープ・ツアーは午後2時出発だ。 レスト・ハウスの周辺、ベドウイン・ビレッジをうろうろする。 操車場にはこれから乗る筈の、如何にもおんぼろ風ジープが10数台乱雑に停められている。




これで砂漠を走るのかと心配するジープ: 私は運良く助手席に座った



2台の整備を一度もしたことが無いと明らかに判るぼこぼこのトヨタ製ジープに14人は分乗した。 これから過酷な砂漠へ繰り出すのにこんなジープでいいのだろうか。 タイヤはつるつる、荷台に2列並んだ長椅子はクッションゼロで床にきちんと固定されていない。 助手席のシートはずたずた。 幌はぼろぼろ。 だが誰も文句を言わない。 これを楽しみに来たのだから。 聞くところに拠ると、以前イギリスのジープを使っていたが、直ぐ故障して動かなくなったのでトヨタのジープにしたらしい。 整備もろくにしないで過酷な砂漠を走れば故障するのは当たり前だが。 それでもトヨタのジープは走るのだから凄い。

ヨルダンでは観光地を使い分けるらしい。 
1.日本からお客が来た場合: ペトラ
2.気分が滅入った時: 海辺のアカバで高級リゾート気分に浸る
3.冒険がしたくなった時: ワデイ・ラムでデザートキャンプを体験する

いよいよジープ・ツアーの始まりである。 岩と砂の砂漠をジープは飛び跳ねながら進む。 乗客はどんな状態になるかは想像に難くないであろう。 幌の支柱にしがみつきながらも次々に迫り来る、厳しい自然が創造した神秘的でダイナミックな景観に息を呑む。 




バラ渓谷: 切り立った岩は新宿の高層ビルより高い



2時間半、ジープは谷間の砂漠を走り廻った後、岩山の陰に止まった。 テイー・ストップだと言う。 砂漠に僅かに落ちている枯れ木を拾い集めて火を起こす。 ジープから真っ黒なやかんを取り出し火の上に乗せる。 水をやかんに注ぎ、暫くすると意外にも簡単に湯が沸いた。 紅茶と砂糖をやかんに投げ込みシャイ(テイー)の出来上がり。 数時間砂漠を走った後の1杯のシャイ(テイー)は旨い。 




砂漠でお茶タイム
運転手はテイー・ボーイに早代わり



7時半、サンセット・ポイントに到着。 今夜泊まるベドウインのテントも近くに在るらしい。 太陽が砂漠の地平線に落ちるのを砂漠に腰をおろして待つ。 今日は余りにも晴天過ぎて、真っ赤に染まる夕日は見ること出来なかった。 真っ赤な夕焼けは、少し雲がないと見えないのである。 それでも、眼前で刻々と様々な色に変化する砂漠を堪能することができた。 車の音も、モスクから流れるアザーンの声も無い。 カラスの泣き声も無い。 砂漠の太陽は静寂のなかに姿を消す。 2日月の直ぐ傍には、既に大きく輝く金星が光を放っている。




紅い砂のサンドドユーン: ここには青い砂、黒い砂、黄色い砂等様々な色の砂がある


サンセットの後の楽しみは夕食。 今日はザルプと言うベドウイン料理らしい。 砂漠に掘ったかまどで、鶏と野菜を蒸し焼きにしたものだ。 既に料理の仕込みは、案内人の3人の妻から生まれた27人の兄弟の一人が前もってやってあったらしい。 ベドウインの黒いテントは厚い布で重い。 少々の風にばたついたり舞い上がることはない。 テントの中に長い低いテーブルが準備され、紙袋に半分砂を入れ、中央に蝋燭を立てた簡単な蜀台が5個ばかり置かれている。 実にシンプルな作りだが、とてもロマンチックで暖かい色の光をテント内にうっすらと投げ掛けてくれるのである。 テントの端には何とバイキング用のテーブルが備え付けられている。 これは観光客用のアレンジであろう。 めいめい自分の皿に大皿から分け取りテーブルに着く。 蝋燭で照らされた皆の姿が最後の晩餐のシーンのように見える。




紙袋に砂を詰めキャンドルを灯した蜀台はとても洒落ていてロマンチック



食後は星座観測。 人工の光が全く無い砂漠の空は距離感が無い。 北の空には大熊座が降ってくるように見える。 天の川は夜明け近くに成らないと見えない。 その他の星座は余りに星の数が多くて判らない。 天然のプラネタリウムを満喫する。

寒い。 砂漠の夜は気温が急激に下がる。 この時期で10度近く迄下がる。 セーターを着こんだ。 テントの中にマットレスが14枚並べられた。 枕と厚い毛布が一枚、それぞれのマットレスに投げ分けられる。 洗濯など勿論していない、先客が使ったままである。 昼間見れば酷く汚れているに違いない。 だがこの場に及んでお構い無しである。 セーターを羽織ったまま毛布の中に潜りこむ。 砂漠の風の音だけがテントの外に抜ける。 いつしか暗闇のテントの中で眠りに着いた。 




乾燥した砂漠に可憐に咲くあざみの花








May/2004 林蔵 @Wadi Rum Jordan (Updated on 24/Jun/'08)#172

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