空飛ぶひよこ
@Mar/'82 Moree, Australia


Moree地球局の30mパラボラアンテナ


始めてのオーストラリア。 真冬の東京から夜間飛行で、真夏のシドニーにやってきた。 世界の3大美港シドニー、機上からは美しく輝く湾を空から堪能できたが、天候は雨模様。 ウエットなシドニー空港に降り立った。 空港のタクシーをひらい、予約してあったウエント・ワース・ホテルに急いだ。 30分位でホテルに到着、格式の高そうな立派なホテルである。 これから行こうとしているのは、シドニーから北西に小型飛行機で1時間くらい内陸部に入った、雨量の少ない穀倉地帯にある人口2万人程の街 Moree だ。 こちらの言葉ではアウトバックと言う地帯だ。 この田舎街に OTC(Oversea Telecommunications Company)の衛星地球局があり、N社が#2地球局を建設中なのである。 工事はほぼ終わり、3名の現調(現地システム試験)チームが派遣されることになった。 そのリーダーとして今回やってきた。 Moree 行きの飛行機は翌日早朝7:00発である。 シドニーに着いた日は、ホテル周辺でゆったりと時間を過ごす。 明朝は7時の飛行機だから、少なくとも5時には起床しなければならない。




シドニー湾: 世界3大美港と言われる美しい景観を呈す



明朝、目が醒めた。 時計を見ると、なんと7時だ。 毎回のことながら自分のどじ加減に呆れる。 それでも空港へ行った。 次の便は夕方18:00にある。 運良く空席が有ったのでその場で予約。 現地で工事を担当しているチームリーダーに電話を入れ、事情を説明、夕刻に到着する旨を伝えた。 夕方まで空港で過ごすことにした。 待合室を転々としドリンクとスナックを注文して、発着する飛行機を眺めながら時間を過ごす。 真夏であるが天候が悪い。 小雨模様で風もあるようだ。 それでも飛行機は当然予定通り人や貨物を乗せて飛び立って行く。  以前ザンビアへ向かう途中で降り立ったスリランカのコロンボ空港では、籠に満載のココ椰子の実を機内へ積み込んでいたが、それぞれの空港でその国の特産貨物を見かけるのは、さながら小学校の教科書のグラビアのようで面白い。 

外を何気なく見ていると、竹の籠のようなものが幾つも重ねて運ばれてきた。 なにやら小動物が入っている様子。 よく見るとそれはひよこだった。 卵から孵化したばかりの黄色いひよこ。 如何にも無骨そうな運搬車のドライバーが何を思ったのか、その竹の籠のようなものを牽引車の平べったいボンネットの上に乗せ、のろのろと動き出した。  ボンネットの上は、少しは暖かい空気が漂っているに違いない。 ひよこもデーゼルエンジンの熱で母鶏の体温を感じているのかもしれない。 夏ではあるが雨模様の肌寒い天気。 屈強な感じの運転手に似合わない行為に感心して見とれていた。




投宿地のモーリー: 人口2万人程度の内陸部、アウトバックの農業町だ




Moree は東海岸から600km位内陸部に入ったところにある。 東海岸に沿って縦に横たわる山脈 Great Dividing Rangeを超えた内陸部だ。 半乾燥地帯の平原で穀倉地帯でもある。 Moree には朝着く予定が、夕方になってしまった。 現場の工事チームには電話で連絡してあったので、さほどの騒ぎにはなっていなかった。 町で1軒のホテル MAX にチェックインする。 車は工事チームが使っていた日産ブルーバードのステーションワゴンを譲り受けて使うことにした。 日本と同じ左側通行なので助かる。



道を塞ぐ羊の群れ



仕事場に入ると、早速オージーイングリッシュの洗礼を受ける。 ”グッダイ、マイト”, ”ハウアーゴイング?”  文字で書くと "Good Day, Mate. How are you going?" となる。 サイト周辺には昼飯を取るようなところが無いので、昼は町まで戻り、 サンドイッチか中華のテイクアウトを買って再びサイトに戻ることが多い。 そんな時、客先のエンジニアーの車に便乗する事もあるが、当時('82年)から後部座席に乗っている人も必ずシートベルトをさされた覚えがある。 日本では後部座席のシートベルトの着用義務は、極最近('02年)のような気がする。 彼らと我々日本人との安全に対する感覚の違いをまざまざと感じる出来事であった。

サイトでの仕事始め、お客と挨拶兼打合せを行った時である、”お前のニックネームは?”と聞かれた。 日本では、特に日常呼ばれているニックネームは無かったので、”無い”と答えると、客先のチーフ、キャロル氏が、私がその時たまたま被っていたアーノルド・パーマーの帽子を見て、 ”よし、それではお前は、「アーニー」だ。” と私の Moree でのその後数ヶ月の呼び名が決まってしまった。 ちなみに、チーフのキャロル氏は、頭が少し薄くなっているいので、「カーリー」(ふさふさ髪)、 短身短足のジョン氏は「レッギー」(足長)、長身のトニーは「ショーテイー」(ちび)と言った調子。 8月に Moree を離れる迄の5ヶ月間、私は「アーニー」と呼ばれた。 恐らく誰も私の本当の名前を知らずじまいであった筈だ。



オーストラリア人の趣味は豪快: グライダーが趣味のエンジニアー達と休日を過ごす



休日には客先のエンジニアーに連れられ、良くピクニックや小旅行に行った。 彼らは実に人生を楽しむのが上手い。 それぞれはっきりした大型の趣味を持っている。 バイク、グライダー、楽器演奏、車、クルーザー、オーストラリアン・フットボール等。 ある日、グライダーの趣味のエンジニアーと皆で泊まりがけで、グライダー体験ピクニックに出かけた。 平原の草地の滑走路にクラブハウス、格納庫が立ち並ぶ。 グライダーは日本製も人気があるらしい。 2人乗りのグライダーに乗せてもらうことにした。 高度計と無線機の動作確認をし、機に乗りこむ。 セスナに引っ張って貰い飛びあがる。 600フィートでセスナとの連結ロープを外す。 セスナは右へ、グライダーは左へゆっくり旋回する。 グライダーは後は風任せ。 気流を捕ら、えてぐんぐん上昇する。 急旋回して急降下、怖い。 ジャンボ・クラスの大きい飛行機に乗るのは別段怖い感じは無いが、高度恐怖症気味の私には、2人乗りのグライダーは怖い。 そんな私を見て彼らは、私のことを、「アーニー・チキン」とからかうのであった。 鶏は臆病者の代名詞であることをその時知った。





Mount Kaputar国立公園の前で





3/Mar/'82 林蔵 @Moree Australia (Updated on 3/Mar/'08)#070

{林蔵地球を歩く}[頁の始めに戻る]