風の街ウエリントン
@Feb/'96 Wellington NewZealand




ホテルで貰った New Zealandのパンフ


1982年来、14年ぶりのオーストラリアである。 いそいそと成田空港、某航空会社の国際線カウンターに向かう。 パスポートとチケットを出した。 女性職員が、ちょっと困ったような顔をして、「ビザはおもちですか?」 と聞いてくる。 ”ビザ?”、持っていない。 「いいえ、持っていないですけど、要るんですか?」…

「はい、お客様、オーストラリアはビザが必要なんですが・・・」、あくまで丁寧である。 「ビザをお持ちでないと搭乗して頂くわけには行かないのですが、どうなさいますか?」 どうなさいますかと聞かれても、乗せてくださいと言うしかない。 ようやく事の重大性に気付く。 なんともとんまな私であった。 

どうも、重大なミスを冒したらしい。 それにしても、ツーリストの担当者も教えてくれなかった。 (また、人のせいにしている。) 今時、先進国でビザが必要な国の中にオーストラリアが入っているなんて夢にも思わなかった。 さぁ、どうしよう。 今日は日曜日、大使館もツーリストも閉まっているし。 シドニーでは、オーストラリア支社の A氏が、空港に迎えに来てくれる事になっている。 月曜からは、連日様々な客先との打ち合わせが設定済みだ。 幾らなんでも、ビザを取り忘れたので国際ビジネスのアポをキャンセルする訳には行かない。

某航空会社の担当者に頼み込み、なんとかビザ無しで飛行機に乗せてもらう事にした。 一応、幼稚な戦略は頭の中で考えての上だ。 シドニーには月曜の早朝に到着するのだが、シドニーでは当然入国できない。 其のままトランジットで一番近くの外国、詰まりニュージーランドへ飛び、ニュージーランドでビザを取り、とんぼ帰りでシドニーへ戻ろうと言う企みである。 かくして、取りあえず機上の人となる。

シドニーに着いた。 先ず電話。 A氏に事情を説明し、お詫びと仕事の日程変更を依頼した。 A氏はあくまで冷静である。 取り乱した様子も無く、快く予定変更依頼を受けてくれた。

早速トランジットカウンターに行き、一番早いウエリントン行きの便を予約、チケットをカードで購入。 帰り予約とチケットも同時に買った。 午前のフライトと、戻りは明朝のフライトが運良く取れた。 ホテルも街中の観光ホテル "West Plaza Hotel" を予約。 思わぬハップニングで未知の土地、ニュージーランドへ向かう事になる。 ウエリントンに着き、ホテルにチェックインするや、大使館探しだ。 ホテルのカウンターで聞くと、場所は割と簡単にわかった。  早速タクシーを飛ばし、お昼直前に窓口に辿り着く。 必要事項を用紙に記入し写真を添えて出すと、即発行してくれた。 やれやれ、これで一安心。 あとは明日の飛行機に乗り遅れないことだ。 ホテルに戻り、ゆっくり昼食を取る。 こうなったら時間の許す限りウエリントンを楽しもう。 午後、真夏の港街に繰り出した。

ウエリントンはニュージーランドの首都である。 Lambton Harbour を取り巻くように発達した緑と丘の多い、意外に小ぶりの街だ。 ホテルは街の中心部 Wakefield通りにある。 港街の匂いが漂う。 海岸通りに出た。 Queen's Wharf にある Maritime Museum に入る。 時間があるので、展示物をゆっくり見学した。 入場料は、英国の National Gallery や British Museum と同じ仕組みで、入り口中央に設けられた寄付(Donation)箱に自主的に入れるのだ。 英国文化は基本的に船乗り文化であり、現在に至ってもそのまずい船上食事が、英国の伝統的食文化を支配していると言うのを思い出した。 大航海時代の船乗り達の生きざまに、少なからぬ感銘を受ける。 極度の退屈と粗末な食事に耐えながら、未知の世界にチャレンジする海の男達。

Oriental Bay に沿って Oriental Promenade を歩くとボート・レストランや、小ぎれいな別荘風住宅に出くわす。 風が強い。 しかも、やまない。 殆ど一定に連続的に吹く風である。 港のある小さな湾では、海鳥が真っ逆さまに空中から海に向かってダイビングする。 そのダイビング動作を、何度も繰り返しているのだ。 餌を取っているのだろう。 鳥は空中の生き物では無く、陸海空自在にワープする、器用な生き物である事を強風下の散歩で痛烈に感じた。

翌朝、目醒ましで起き、予定の時間通り空港へ向かった。 タクシーの運転手に、”今日のウエリントンは、風が強いですね。” と言ったら, 運転手は, ”今日に限ったことじゃ無いよ。 ウエリントンはいつもこう風が強いんだ。” との答えであった。 小台風かとも思える程の風が、四六時中吹いているのである。 風に向かって歩くと息がしずらい程だ。 こんな環境下で暮らすのも楽じゃないなぁ、と真面目に思うのであった。

無事オーストラリアのビザをパスポートに貼りつけて、シドニーに戻ってきた。 A氏が、何食わぬ顔をして空港で出迎えてくれた。 思わぬウエリントン寄り道であった。 オーストラリアでは日程を少し変更して頂き、シドニー、メルボルンでの当社新製品のプレゼンと、今回のメインJobであるパースでの某ガス会社との新プロジェクトに関する打ち合わせを予定通りこなし、 パースから日本行きの直行便に乗り込んだ。





Feb/'96 林蔵 @Welington New Zealand (Updated on 14/Feb/'08)#054 

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