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奥美濃:能郷白山〜白谷滑降(2000年3月21日)


コースタイム:

八谷手前4:59−−6:26登山口6:36−−9:18前山9:40−−11:20能郷白山11:40〜〜12:36白谷768m地点上13:06−−15:55登山口16:15−−17:08車


 今年は2月以降にかなり雪が降ったため、奥美濃でもスキーが楽しめる期間が長そうだ。3月末に引っ越すということで、これが最後の奥美濃での山スキーだと、能郷白山に向かった。

 能郷白山は、僕がASCの入る少し前、95年3月21日にも一人でスキーに出かけた山で、それ以降は5年間一度も行っておらず、新鮮な気分である。さらに今回は、滑降コースとして夏道通しではなく、白谷を滑ることにした。このルートはまだ滑ったことが無く、さらに標高差もかなりあるため、充実した滑りが楽しめそうだ。しかし問題は最後の登り返しが大きいことである。

 単独ということや、滑ったことがないルートを予定したこと、さらに低気圧通過後の強風もあり、家を出る前は結構緊張した。しかし車に乗ってしまえばあとは進むだけ。根尾村に入り、能郷谷林道を進む。問題の一つに、林道をどこまで車で入れるかという点があったが、実際のところ雪のためあまり入れず、登山口のかなり手前の八谷の下あたりに車を止めて仮眠した。
 目がさえてあまり眠れないまま、4時にセットしておいたアラームが鳴ってしまった。4:59、月明かりで比較的明るい中、ヘッドランプをつけて出発。しばらくは雪がついたり消えたりだが、しだいにシールで行動できるくらい雪が増えてくる。登山口についたころにはすっかり明るくなってきた。心配した風も今日は全くなく、かなり楽な気分になる。

 登山道はここから急な尾根を登っていく。トレースがしっかりあるが、下山で尻セードで下ったのか、ステップが崩れた状態でクラストしていて、テレマークブーツでは多少登りにくい。途中からは前山南面が見える(写真)。5年前はかなり全層雪崩で地肌が見えていたが、今年はまだ一面雪に覆われている。ルートを選べば滑れそうだ。
 やがて前山の南に伸びる尾根に出ると、シールで登れるようになる。ここからは雪質がクラストからモナカに変わってくる。昨日までの強風によるものなのだろう。よく目立つダケカンバを横目に急登を過ぎると前山である。

 前山から見る能郷白山の山頂は、木も全く生えておらず、白いプラスチックをはめ込んだような一種無機的な様相である(写真)。それにしても今日はよい天気である。風も全くない。平日の単独行のため人もいない。そして音もしない。春のスキーではときどきこういう状況になる。山々の広がりの中で自分が動かなければ、何も音がしないのである。人によっては寂しいかもしれないが、僕は自然にとけ込んでいるような感じがして好きである。
 純白の山頂を見ていると、山頂直下の広大だが急な斜面を滑りたくなってきた。あの斜面を滑っている自分の姿を想像すると同時に、もしクラストしていたら、もしモナカだったら、などと雪質の心配が頭をかすめる。4年前の4月に御岳のクラストした急なルンゼで100m以上滑落した記憶は今でも生々しく思い出される。

 前山から山頂までの尾根は結構アップダウンがある。シールをつけたまま進むが、新雪のシュカブラがあるかと思えば、クラストした部分もあり、気が抜けない。1432m地点からはあと一登りである。しかし気温上昇のため新雪(山頂付近は30cmくらいの新雪だったようだ)がすっかり腐って重くなり、シールにダンゴになってくっついてくる。アイゼンに切り替えて山頂直下の急斜面を登り切ると、ようやく能郷白山の山頂に到着。出発してから6時間半ほどもかかった。
 展望は比良の山から白山、御岳と素晴らしいが、滑ることが第一と、これから滑る予定の白谷を見下ろす。下部を見ると、地形図にない堰堤が幾つも作られているようで、滑って下りられるか心配だ。白谷に下るルートはいくつか取れるが、前山から純白斜面を見てしまったので、白谷の左俣と右俣の中間を下ることに決定。

 ストックを120cmに調節し、ブーツを締めてテレマークを装着してGo!!。はじめはクラストした稜線を南西方向に滑ると、小さいピークの鞍部になるので、標高1570mのその地点から南斜面に飛び込む(写真)。後から計算すると、白谷左俣に合流する1150m地点まで、標高差420m、平均斜度26°、最大斜度40°の斜面である。傾斜があるが、雪の状態が非常に重い湿雪であるため、ターンすると急激に減速してしまうので、スピードはあまりつかない。スキーが重い雪に潜り、時には突き刺さってしまいバランスをとるのがたいへんた。足が非常に疲れる。こういうところはウェーデルンで滑れればいいのだろうが、テレマークでそこまでの技術が可能なのだろうか。

 かなり開放感と高度感のある斜面を150mほど下ると、しだいにルンゼ状になって最大傾斜の箇所になるが、雪が雪なのでスピードもつかず、それなりにターンをしながら下れる(写真)。1150m地点で左俣と合流することには、重い新雪はなくなってザラメに変化し、快適になるが、もう堰堤群は目の前である。後は堰堤沿いにある林道を風を切りながら爽快な気分で滑っていく。この林道は僕の持っている地形図には出ていなかった。林道滑降は非常に高速なので、高度計を見ながら現在地をチェックしないと行きすぎてしまう。左手から堰堤を持つ大きな支流が合わさる地点が、予定の768m地点であった。12:36着。  これで終わればそれなりに快適な山行なのだが、今回は登山口に戻るために東側の尾根を越えなければならない。ルートは二つ考えていた。一つは1129m地点に出る尾根。もう一つはそのすぐ北側の小さい沢である。沢ルートは下部の傾斜のある部分を過ぎれば後はシールで登れそうだ。尾根ルートは下部の急斜面がきつそうだ。

 まずは沢ルートを偵察に行くが、かなり急な沢で、側面から雪のブロックが落ちてきそうだ。しかもよく見ると20mくらいの滝があるではないか。ということで、尾根ルートを登ることにした。林道を少し下ってからシールで尾根に取り付く。しかし急かつヤブのため、動きがとれなくなり、ツボ足に変更する。ところが、腐った雪で膝まで潜る。急斜面を板を手に持って50mほどはい上げるとと、ようやく緩い尾根上にでた。100m登るのに1時間近く費やし、もうバテバテ。疲れて30分ほど寝転がっていると、しだいに空は曇ってきて、風が出てきた。まだ先は長いと腰をあげ、シールで登り出す。ここより上は傾斜はあるものの、ヤブはそれほどでもなく、何とか1129m地点までシールで登ることができた。やはりシールは偉大である。
 後は登りに使った尾根を板を担いで下って登山口に戻り(標高差400mをグリセードでわずか20分!)、林道を滑って車にもどった。車到着は17:08で、実に12時間も行動してしまった。

 今回の白谷滑降ルートは、標高差も800mあり、なかなかオリジナルなルートで冒険的でよかったが、白谷下部での堰堤脇の林道滑走や、最後の尾根越えの苦労などを考えると、あまりおすすめできるルートではない。しかし、白谷左俣の滑降を1100m付近で切り上げて右俣を登り、1432m地点南の鞍部に登って前山の南斜面を滑れば、もっと面白い滑降になると思う。

 もう奥美濃の山でスキーをすることは無いかもしれないが、この5年間で多くの美濃の山を滑らせてもらって、たいへん楽しい春を過ごせたことは貴重な体験であった。北アルプスの広大な斜面も楽しいが、自分で斜面を見つけて滑る奥美濃のスキーもまた楽しいです。