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鈴鹿山脈日帰り横断(97/10/13)



コースタイム:
  湯ノ山温泉=一ノ谷茶屋8:35−9:28武平峠9:38−11:54東雨乞岳12:14−12:48杉峠−

  13:20佐目峠13:45−佐目子谷下降−18:12佐目−19:03永源寺車庫バス停


 鈴鹿山脈は南北に長く、鈴鹿山脈の県境縦走路をつなげることは鈴鹿を歩く人の一つの目標である。僕も、大学の3年生の秋には、三国岳から五僧の縦走をフィナーレに、全山縦走を完成させた。それ以降、主脈からはずれたノタノ坂から岳、銚子ヶ口からイブネといったマイナー縦走はやったが、県境縦走はほとんどやめてしまった。というのも、道標のある道を歩くのに飽きてしまったからである。

 そこで思いついたのが、鈴鹿の日帰り横断である。具体的には、三重県側から滋賀県側に抜けるルートだ。もちろん、御池岳〜大君ヶ畑、治田峠〜ノタノ坂〜君ヶ畑といったルートもあるが、山が浅いので興味は薄いし、第一しっかり道があるのがいけない。横断の対象として最も興味深いのは、鈴鹿中部の、東を愛知川、南を雨乞岳、北を銚子ヶ口、西を綿向山で区切られた山域である。山で言えば、イブネ、クラシ、銚子、カクレグラ、沢で言えば谷尻谷、佐目子谷、峠で言えば杉峠、佐目峠、大峠、池で言えば水舟ノ池、滝で言えば姫ヶ滝、景勝地ではお金の塔や廃鉱跡、こういった興味深い対象が、人目を避けてたたずんでいるのである。
 この地域を横断する手っ取り早いルートは、綿向山から雨乞岳の東西の稜線を歩くことであるが、道があるのでそれほど面白くない。ということで、3年前に最初にやったのが、朝明から中峠に登り、愛知川に下ってまたお金峠にのぼって谷尻谷に下り、北谷尻谷を遡って大峠に出てハチノス谷を下って佐目子谷に出て、佐目に出るというコースであった。アルプスの山や御在所の岩場しか登らないASCの人には地名すら知らないと思う。だいたい、道があるのは朝明から愛知川までだけで、あとは踏み跡程度か全くない沢コースである。
 公共交通機関を使わないとできない「鈴鹿横断」は、車利用の山行に慣れると面倒なのだが、今回、ちょうど車が壊れたこともあって、久々に実行してみた。


 7:00、近鉄ホームにYさんと集合する。「ホームの端っこ」で待ち合わせる予定で、お互い全く反対側の「端っこ」にいたという間抜けぶり。あやうく急行に乗り遅れるところだった。久々の近鉄で、記憶では湯ノ山駅まで690円だったが、830円になっていた。平日のため女子高生がいっぱい。湯ノ山温泉街を歩くのは苦痛なので、タクシーで一ノ谷茶屋まで入る。先は長いので、心拍数の上がらない程度のスピードで武平峠に着く。山頂近くの紅葉が始まっているようだ。峠から少し下って、雨乞岳への一般路に入る。実は、雨乞岳は3回目だが、東側から登ったのは初めて。のんびりしたいい道で,クラ谷から七人山のコルにかけては静かな沢道で雰囲気がよい。所々栗が落ちていて、我々の足を止める。笹のトンネルを抜けると東雨乞で、そこからの景色も実に久々である。
 さて、鈴鹿第二の高峰1238mの雨乞岳は、目標ではなく通過点に過ぎない。雨乞岳から杉峠に一気に下り、休まず佐目峠に向かう。佐目峠へは東側をトラバースするコースが正式な道だが、何度か通った経験でかなり崩れていることがわかっている。最近では尾根上を行く道が開拓されているようで、赤テープが我々を導いてくれる。低い笹原を1121mピークまで尾根通しで登ると、あとは適当に北に下ると佐目峠につく。背の低い下草の中を好き勝手に歩き回るのはたいへん愉快だ。

 佐目峠までのルートは既知のルートであった。ここからが今回の新ルートである。13:45、佐目峠を後に、北西に佐目子谷の下降を開始。まれに赤テープがあるが道はなく、ただひたすら石飛びを繰り返す。今回は渓流シューズも持ってきたが、この調子なら濡らさずに下れそうなので、登山靴のまま下る。再び栗がおちている。今度のはかなり大きい。時間がないんだよー、と言いつつも、思わず栗拾いタイムになる。沢はゴルジュというほどの箇所はなく快調にジャンプを続ける。
 14:59に15分休憩を入れた後しばらくすると、沢の中に大きな尖った岩があり、そこから一本木が生えている。そこを過ぎてしばらくでついにゴルジュになり、緊張が走る。5mつるつる樋状滝は左から簡単に巻けたが、つづく淵は靴を濡らさずに下るのは困難だ。右から脆い岩を高巻くが下れず、補助ロープを出してゴボウ懸垂10mで河原に降り立つ。ここでだいぶ時間を食った。やはり補助ロープは30mは必要である。
 ここでちょっとしたミスをおかした。それはこのゴルジュの位置の同定を誤ったことである。「右から支流を合わせた後に、右に曲がってすぐ左に曲がると、左から支流を合わせる」という地形が、なんと2カ所もあったのである。おかげで、実際よりも先に進んでいると勘違いし、勘違いと分かったときは少なからず落胆した。なぜなら、もうかなり日がかげってきたからである。
 何とか姫ヶ滝までは下ってから休もう。そう心に決めて石飛びを続ける。僕は沢の石飛びは得意な方だが、果てしなく続く石飛びにはかなりうんざりしてきた。しだいに着地点の選定(これが石飛びには最も重要)がいいかげんになってきた。いかんいかん、と気を取り直して跳び続ける。後ろを見るとYさんは遅れ気味である。「日が暮れたらどうするんだー!速く歩けー!」と怒鳴りたくなったが、口に出すのは「もう少しで休憩するから頑張れ」。怒鳴って速く歩けるわけではない。こうした状況では体力差が歴然と現れ、行動に響いてくる。体力はあって困ることはない。
 期待していた姫ヶ滝は、右から合わさるのだが、少し奥に入らないと見えないようなのであきらめる。1時間45分休みなく歩き、姫が滝の下で16:50に10分休憩した。ここまでくればこっちのもの。ここから下は以前に来たことがあるルートである。しばらく下ると広大な広河原になる。ここからは左岸に道があるのだ。周囲は薄暗くなり、振り返ると丸い月が出ていた。風流である。道に入るあたりでヘッデン行動になる。しかしこの道は記憶によればかなり崩壊しているはずだ、と予想した通り崩れていた。崩れた箇所は木の根や岩をホールドにして慎重に進む。3年前と崩壊の具合、倒木の様子など変わっておらず、いやらしいというよりは懐かしさ感じさせた。ただ、ヘッデンの下では視野が狭く、遠近感が狂う。石飛びの段階でヘッデン行動になっていたら、かなりの苦戦を強いられたことだろう。まさに間一髪。

 崩れた箇所を過ぎてしばらくで、ついに18:12、滋賀県側の国道に出た。これで鈴鹿日帰り横断・第2ルートが完成したと思うと感慨深い。真っ暗な国道を、車にぶつからないようにヘッデンをつけて永源寺に向かう。こんなに充実した日帰り山行は実に久しぶりだ。バス停に着いたのは19:03、もうバスが待っており、我々が乗ると同時に出発してくれた。ラッキー。名神八日市で降りると、目の前には名古屋行きのハイウェイバスが。またまたラッキー。ハイウェイバスは快適で、寝ているうちに名古屋駅に着いてしまった。めでたしめでたし。でも、あと2時間は歩けるな。