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戸隠連峰:戸隠奥社から八方睨&スキー滑降
(98.3.29夜〜3.31)



3/30 戸隠スキー場8:18−滑降−8:45奥社入口8:58−9:35奥社−10:30 1480m地点10:40−11:40
   1630m地点12:05−12:30百間長屋12:45−13:35撤退開始−14:30百間長屋

3/31 百間長屋5:50−7:25八方睨7:42−8:45百間長屋9:25−滑降−10:45奥社入口11:03−11:33中社


 最近、スキーと登攀のミックスした山行が無性にやりたくなった。そこで思い立ったのが、八方睨に登ってから西側の裾花川に滑り込み、地獄谷を横切って乙妻山・高妻山に登り、北東斜面を一気に滑降するという大計画である。実際には、八方睨の往復と、計画のごく一部しか達成できなかったのだが、それなりの成果は得ることができたと思う。

 3/29、この冬はもう何回もお世話になっている夜行「ちくま」に乗る。しかし、計画の困難性を考えるとなかなか眠れない。軽量化は完璧にした。テントではなくツェルトにしたし、一泊なのでシュラフカバーは省いた。ロープは7mm30mを2本。どうせ単独だから確保はほとんどしないだろうし、使うなら撤退の懸垂下降だろう。

 3/30、長野駅の朝はあまり寒くない。数日前から異様な暖かさが続いている。こんなんで雪があるのか心配になってしまう。6:40発の戸隠スキー場行きのバスで戸隠へと向かう。バスの中でふと目を覚ますと、雪と岩壁をまとった戸隠連峰が現れる。これからあそこを登るんだ。
 夏は奥社入り口をパスが通が、冬はスキー場に行ってしまうため少し下る。スキーで下るが、ヤブっぽくて快適ではない。それでも歩くよりは速いだろう。積雪で50cmくらいの奥社入り口の鳥居の下でシールを貼る。奥社までは杉並木の一本道が延びているが、道はかなり踏まれていて全くもぐらない。この調子なら、奥社より上もトレースばっちりだ。
 快適なシール登行で奥社に着く。社務所の左手が八方睨への登山口だが、あると思ったトレースは、ほんのうっすらと、あるかないか分からないくらいのものだった。ここからは急な尾根に取り付くので、スキーを外してツボ足で歩く。しかし、午前中の北東斜面にかかわらず、雪はグサグサに腐っていて、膝あたりまでもぐってしまう。かすかな踏み跡も、ほとんど意味をなさない。振り返っても、社務所から全然登っていない。ここで、早くもあきらめて帰りたいという気分になってきた。「雪がグサグサで、とても一人では登れなかったよ」言い訳だけが頭に浮かぶ。僕は何て意志が弱いのだろうか。単独でしかも平日に来たのは、自分の意志を貫くためではなかったのか。
 そこで、ツボ足はあきらめスキーで登ることを思いついた。こんな急斜面では普通はツボ足の方が速いが、今回はスキーの勝ちであった。ザラメ雪にシールが比較的よく効き、順調に高度を稼いで尾根の上に出ることができた。尾根の上もしばらくは欲張ってスキーで登るが、そのうち急になってきてツボ足に切りかえる。スキーは背負うのではなく、トップの部分を腰ベルトにつけて引きずる。こうすると、かなり軽く感じるのだ。
 ツボ足になると、やはり結構潜る。目の前に見える「五十間長屋」の岩壁はなかなか近づかない。右側奥の稜線直下の岩壁からは、時折轟音と共に雪崩が起きる。ルンゼの上に乗った雪が気温の上昇と共に緩んで落ちるのだ。雪崩の音を聞きつつ五十間長屋に到着。奥社から3時間近くかかった。かつてASCの例会で秋の戸隠に来たときは、ここで休んだ覚えがある。あのときは本当に眠かったなあ。五十間長屋から南斜面のトラバースになり、すぐ「百間長屋」になる。ここはオーバーハングした岩の下の廊下のようなところで、雪もつかない。さて、ここでハーネス・アイゼンを装着する。いよいよ岩稜・雪壁・雪稜何でも来い!のルートになる。
 急な雪面を少しトラバースすると、右から急峻なルンゼが落ちてきている。夏道はきっとここが鎖場になっているんだ、と思って、そのルンゼをキックステップで登る。雪はグサグサで、ピッケルをヘッドまで雪に埋め、スタンスを踏み固めながら登る。30mくらい登ると、上は行き詰まるので、左に行くとリッジになり、さらにリッジを数m登って左にトラバースする。この辺のトラバースは、足を踏み出すとその場の雪が崩れて幅1mくらいの雪崩になって落ちていくので壮絶だ。5〜6発雪崩をかますが、平日の単独行なので、下には誰もおらず、それほど気にしなくてもいい。自分が落ちなければの話だが。
 しかし、また行き詰まってしまう。さらに左に行くには、斜度80度の斜面をササをつかんでトラバースしなければならない。さすがにこれは無理だ。どうもここは夏道ではないようだ。上を見ると、ブッシュ伝いに尾根に抜けれそうだ。少し戻って、木の枝にシュリンゲをかけてA0にしたりセルフビレイを取ったりして数m登る。あと少しで尾根に出ると思ったのだが、見たところヤブである。僕はスキーを背負っているのだった。スキーを背負ってのヤブ漕ぎは致命的である。
 しかたないので、ここから百間長屋まで下ることにしたが、グサグサの急斜面はバックステップでも降りれそうにない。面倒だが懸垂下降することにした。木の幹の上に座ってセルフビレイをとり、ザックを下ろしてロープを取り出す。ザックもスキーが付いていて下ろすだけでもたいへんだ。ザックにも当然セルフビレーを取ってやる。落ちたら谷底まで止まらないだろう。今回持ってきた7mm30mを二本取り出し、連結して灌木にかける。いつもザイルを連結するとき、ダブルフィッシャーマンか、8の字にするか迷うが、結局は8の字になる。ディッセンダーリングで下降する。これは、ザイルがキンクしないようだ。さらに、絶対に落とすことがないということに気づいた。振り子気味に30mいっぱいでリッジ上の灌木に出るので、ふたたびその灌木を支点に懸垂下降。降り始めたとたん足下から雪崩れていく。ちょうど下にあったザイルの束が雪崩に流されて、うまく真っ直ぐ下に延びていった。
 30mでは途中で足りなくなって、あとは10mバックステップで下ると百間長屋近くのトラバース地点に戻った。本当はさらにトラバースを続けるようだ。時計を見るともう2時半だ。これから八方睨を目指しても、山頂4時半ではとても計画通り行けない。仕方なく百間長屋のオーバーハング下でツェルトを張った。これで戸隠西面滑降は不可能となった。残念な気がする一方で、ほっとしたような、複雑な気持ちである。ここで、新しいツェルトの張り方を発見した。それは、上の2点を灌木に固定し、ツェルトの内側の下の左右にスキーを並べるのである。すると、きれいな三角形になるのだ。水はハングから落ちてくる水滴を受けて手に入れた。周りの雪は汚くてとてもとかして飲む気にはなれない。

 3/31、寒くもなく、快適なツェルトライフだった。さて、今日は八方睨をピストンして、ここ百間長屋から南側の沢を滑って帰ることにしよう。たぶんこれまでここから滑った人は居まい。
 まずは昨日の間違った地点を過ぎてトラバースを続ける。雪は昨日の昼に比べれば、多少締まってはいるが、クラストとは言えない。岩壁にトラバース用の鎖の一部が見えた。やはりこちらが夏道らしい。そのままトラバースを続けると、左から尾根を合わせ「天狗の露地」が現れた。僕の記憶では、天狗の露地の前に右に上がる鎖場があると思っていたが、実際は天狗の露地の地点に右上のルンゼに上がる鎖場があったのだった。ここから見る本院岳ダイレクト尾根は素晴らしい。ルンゼには鎖は見えず、雪壁になっているので、キックステップで登る。しばらくで尾根の上に出る。ここから岩雪ミックスの尾根になる。岩場にはいちいち鎖があるので、いざという時は頼ればよいので安心だが、アイゼン歩行の練習のためできるだけ鎖に頼らずに登る。大きな胸突岩が正面に現れる。しかし僕を悩ませたのはその手前の1.5mくらいの小岩だった。右が広い夏道だが、雪庇になっていて高さ2mの雪壁で越えられない。苦労して左の狭い草付きを岩を抱きながら越えた。
 胸突岩を登りきると八方睨は目と鼻の先であるが、難所が待っている。短い雪のリッジを過ぎるといよいよ蟻の戸渡りだ。幅30cmくらいの岩のリッジが、20mくらい続くのだ。ザイルを張ろうかとも思ったが、まあ、行けるだろうとそのまま進む。左側は奈落の底まで落ちているが、右側は雪がついていて無雪期よりも高度感はない。続いて剣の刃渡りである。幅20cmのリッジの左側一段下のスタンスに乗り、リッジをつかんで進む。これが過ぎればチムニー状の岩場を登って八方睨に着いた。
 下りは岩場では鎖を使い、雪壁ではバックステップで対処すれば特に問題なく百間長屋のスキーデポ地に戻ることができた。ここから滑降で、南側の沢筋に滑り込む、というと格好いいが、実際は雪はグサグサでターン不能である。斜滑降してはキックターンで向きを変えるが、時折板が雪に突っ込んで転倒する。重いザックが頭から前に動くと重心が狂ってしまう。ハーネスにザックを固定すればよいのだろうか。やってられないよまったく。歩いて下れば良かった。1450m付近で10mの滝を右から巻く。ここは右の尾根からブロック雪崩があるようで、巨大な雪塊が転がっている。1350mからようやく傾斜が緩んでスキーらしくなると、すぐ奥社入り口の舗装道路に出てしまった。山スキーは良い状態の時と悪い状態の落差がめちゃくちゃ激しく、今日は久々の地獄の苦しみを味わった。それでも百間長屋から奥社入口まで1時間で下れたのはスキーの威力か。
 今回は、この最後のスキーのつらさがやたらと記憶に残って、八方睨の登りがずいぶん簡単だっような気になってしまった。また来年の冬には計画したルートをやり遂げたい。