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台高/釜之公谷遡行(98年8月1日〜8月2日)

 3年ほど前の7月のことである。ASCに入って2ヶ月ほどした僕は、U氏とともに釜之公谷に入った。それまで鈴鹿の沢くらいしか行ったことのなかった僕は、水量、滝、釜など、そのスケールの大きさにいちいち驚かされた。しかし、その時のプランでは釜之公谷の下部1/3で登山道にエスケープしてしまった。そこで今回、釜之公谷を完全遡行すべく、波多野君と共に大台ヶ原を目指した。

 深夜、大台ヶ原駐車場に到着。テントを張るべく外に出ると、満天の星空が出迎えてくれた。こんな星空を見たのは実に久々である。

8/1
 翌朝、山頂近くのドライブウエイから、まずは下山開始である。この沢は東側の堂倉谷と同様、上から下って沢を登り返すというルートを取るのだ。2時間半ほどで釜之公谷出合いの吊橋についた。釜之公谷出合いは巨大な岩が鎮座し、下からは登れず、高巻かないといけない。前回は左から結構大きく巻いて入渓した。しかし今回は、巨岩に固定されている吊り橋のワイヤーをチロリアンで渡るという大技を使い、ヤブ漕ぎせずに入渓出来た。その方法は、まず僕が波多野君に吊橋上から確保されつつ(ワイヤーが切れると怖い)空身でワイヤーを渡り、ついで確保に使ったロープを強く張ってザックを二つ渡し、その後波多野君を確保して渡らせるというものである。しかし素手で渡った僕は、ワイヤーで指を切ってしまった。イテテ。

 入渓してしばらくすると周囲を岩壁に囲まれた大釜の滝に出る(写真)。ここはたいへん懐かしい場所だった。ここでU氏は前回、ザイルもつけずに左側の灌木草付きを登りだし、途中の灌木につかまったまま動けずに苦労していた。あの頃はまだ、下手なくせにザイルを使わずに登ることが多かった。(下手だからザイルを使う「見切り」ができなかったという説もある)。当然我々は前回の反省を生かして、最初からザイルをつけて登った。トップを波多野君にまかせる。随分上達したものである。灌木やハーケンで支点を取りつつ登っていく。途中でピッチを切ってもらい、僕がツルベで登る。重い荷物を背負っての登りはなかなか疲れる。


 続いてゴルジュになるが、ショルダーで越えたりして楽しく進む。ショルダーで登った上にもう一つチョックストンがあり、そこを越えようと木をつかんだが、外れて、あっ、ドバーン!!と豪快に淵に背中から落ちたりする。その後は明るい沢が続き、どんどん滝を越えて進む。最近ウェットスーツを買った波多野君は、やたらと釜に入って遊んでいた。僕は少し羨ましくなった。ウェットスーツでも買ってみようかな。

 初日は標高850m付近の二俣で泊まることにした。夕立があったため、木はいちいち湿っていたが、ナタで細かく木を切り刻んだこともあって意外と容易に着火し、煙に蒸されながら服を乾かす。薫製になりそうだ。夜、新たに9000円もするエアマットを購入した僕は、下の石ころも気にならず、快適に眠ることが出来た。しかし波多野君は寒そうだった。


8/2
 核心部は翌日である。テン場から滝が連続する。18mの滝は右からザイルを使って巻く。続いて、大きな岩から水が飛散する美瀑から現れる。右のバンドから登ろうと、少し細かいスタンスを登るが、突如難しくなる。テラスにハーケンを打って確保して行こうと思ったが、ランニングがとれないので、確保支点を懸垂支点に替えて懸垂下降してしまった。実は他のルートから行けば、容易に滝上に出られたのだった。無駄なハーケンとシュリンゲを残置したことを悔いた。

 どんどん進むと、正面はガレ沢になってしまう??。右からは幅広い滝が合わさる。どうも右が本流らしい。右に入ってしばらくで、釜之公谷のクライマックスである二段50m大滝が出現した(写真)。この滝は下段は広く明るいスラブ、上段は直瀑で、見応えのある素晴らしい滝だ。もし下界の近くにあれば、観光地になって人であふれかえるところだ。こうした素晴らしい滝に出会えるのは、沢登りをやっている人だけに許された特権だ。もし山をやらない人を突然連れてきたら、きっとびっくりするだろうな。

 下段のスラブは緩そうなので、まずはザイル無しで取り付く。しかし、よくあることだが、だんだん傾斜は強くなってきて、ザイルを出すことになった。右側の灌木とスラブの境を波多野リードで登っていく。そのうち視界から消えてしまい、何をやっているのか分からなくなった。ロープはなかなか伸びていかない、と思うと急に伸びていったりする。ロープの動きでトップの行動を想像してみる。中間支点をとっているのかな?そろそろ確保支点を作っている頃かな?結構時間がたって、急激にロープが引かれた。これはザイルアップしているのだろう、きっと。ザイルが全て引き上げられ、「いっぱい!!」と怒鳴るが、聞こえているのかどうか分からない。が、ザイルがいっぱいになれば確保の態勢に入るハズなので、僕はセルフビレイを解除して「いくよー!!」とまた怒鳴る。登り始めると、それに合わせてザイルが引かれるので、確保されているようだ。中間支点を回収しつつ登る。ハーケンが打ってある。しかし下では滝の轟音のためハーケンを打っている音など全くわからなかった。しばらくで上段の滝の下で確保している波多野君が見えた。上段の滝の下でピッチを交替し、上段の滝は僕がリードを交替して右草付き凹角から巻いた。だいたい、登攀に慣れれば、コール無しでもザイルの動きで相手の意図を察知できるものだ。そうなってこそ、ザイルパートナーであろう。(しかし上手くいかないときもある・・・・)

 大滝を過ぎると沢は急に平凡になり、ゴーロになる。ゴーロで一休みして登り始めると、すぐに水は涸れてしまった。??まだ稜線まで350mもあるのに・・・・。急なルンゼを登る。ガレて落石しそうな所と、固い岩登りのような部分が交互に現れる。急なルンゼに重い荷物。スタンスに足を置いて、一気に立ち込む。波多野君曰く「スクワットですよ」 ヤレヤレと後ろを振り返ると、見渡す限り連なる山々に、近くの尾根の立派な岩場がアクセントになっていて爽やかだ。最後は膝下くらいの笹原を登ると、牧場のような広々とした稜線にヤブ無しで出た。出た場所は三津河落のピーク北東の1570m地点だった。しかし、これは僕にとって予想外の地点だった。というのは、僕は三津河落にドンピシャで出るつもりだったのだ。どうも源流付近で左の支流を詰めたようだ。低い笹原を標高差60mほど登れば三津河落山だったが、自分の決めた場所にぴったりと出るというゲームに負けた僕は、一人気落ちしていた。波多野君は、別にそんなことどうでもいいのに、といった顔をしていた。

 釜之公谷遡行のいいところは、遡行を終了してすぐに、山行も終了することである。数10分歩けば、ドライブウェイに止めた車に戻ることができた。帰りは入之波(しおのは)温泉に寄った。なかなかいい温泉でした。そうそう、釜之公谷にはヒルもアブも蚊もいないし、ヤブもないので快適です。