山のちスキー時々岩
トップページ 特選山行記録 クライミング日記 家族登山
スキー日記 エリア紹介 リンク

奥美濃:川浦谷本流ゴルジュ&海ノ溝洞ゴルジュ
(98年9月12日〜9月13日)


9月12日 川浦谷へ

 Y氏と川浦谷へと向かう。板取川には今年はほんとうによく通ったものだ。これで打ち止めにしたい。海ノ溝洞の橋を過ぎたあずま屋から川浦谷のゴルジュを見ると、すごい光景である。しかし我々はこれからそこを通過するのだった。ただ、今回の水量はそれほどでもないようだ。
 板取川キャンプ場から入渓する。つり橋の下からいきなり泳ぎである。キャンプの若者が我々を見ていた。シュノーケルをつけて30mくらい泳ぐが、流れは弱いのでのんびり泳げる(写真)。ただし水は冷たい。右側の側壁を見るとハーケンがベタ打ちされ、シュリンゲが垂れ下がっているが、泳いだ方が早い。水中にはウヨウヨとあまごが泳いでいる、らしいが、眼鏡をはずしてシュノーケルをつけていた僕にはよく見えなかった。

 時々泳ぎを交え、それほどの困難もなく橋のかかる海ノ溝洞出合を過ぎ、上にあずま屋を見ていよいよ核心部である。1mの滝を従えた釜は、左から巻けそうだったが、ここは滝の右側をY・谷・Yと波状攻撃し、ついにフックをつけたアブミで越えた。岩がヌメっていてたいへんだった。それにしても陽の当たらないゴルジュで水に浸かっているのはかなり寒い。僕は上半身は半袖ウェットスーツ、下はカッパと、それなりの格好をしているのだが、それでも震えてくる。しかし分厚いウエットスーツに全身を固めたY氏は快適そうである。彼は首に浮き袋を付けており、泳ぐときには息で膨らましているのだが、「王様」みたいである。

 さて、続く核心部のゴルジュでは幅わずか2〜3mの岩壁の間を川浦谷の膨大な水が突き抜けている。右の壁にはここもハーケンがベタ打ちされていて、なぜかヌンチャクまで残置してある。我々は泳いで右のバンドに取り付き、水面上1〜2mのバンドをトラバースする。途中、幅50cm高さ1.5mの垂壁があり、そこを越えるのが面倒になったY氏は泳いで突破しようと沢に飛び込む。「ここが突破できなかったらもう沢をやめるよ」と言ってシュノーケルをつけ、泳ぎ始めた。しかし運悪く、その場所はゴルジュの最も狭まった箇所だったため、次第に前に進めなくなり、あと1mでホールドというところで流され、スゴロクのように「ふりだしに戻る」になってしまった。彼が本当に沢をやめるかどうかは定かでない。
 結局1.5mの垂壁を腕力で登り、さらにバンドをトラバースする。腐った残置ハーケンを支点に2m下降し、僕はさらに際どいトラバースを続ける。このころには陽が当たって、水からも開放されて快適であるが、このトラバースはW級程度のグレードである。上が少しかぶっているので、かなり窮屈な姿勢を強いられる。落ちても水にドボンとなるだけなのでザイルは使わないが、もし落ちたら流されて下からやり直さないといけないので、気を抜くことは出来ない。それでも何とか50〜70mのシビアなバンドトラバースを楽しくこなした。Y氏は途中から泳いでやってきた。2mくらいの滝の右を登れば一息つける。真上には最近できた橋がかかっていて、上から人が我々を見下ろしていた。通過したゴルジュは長さ70mくらいだろうか。すぐ近くに見えるが、2時間を費やした。
核心部入り口核心部を抜けた橋の下で

 これで核心部は抜けたので、へつったり河原歩きでのんびり進むが、やがて予想外に長大なトロが現れる。流れはないため、快適に泳げるが、先が見えないくらい長い。100mほども泳いでかなり疲れてきたころ、ようやくトロは終わった。これだけ長いトロがあるとは驚きである。あとは2、3の淵を泳げば西ヶ洞出合まで問題なく着き、ダム工事用の橋から林道にあがった。

 川浦谷ゴルジュは、水量・側壁ともなかなか凄いが、林道が見える場所も多く、橋の下を何回かくぐるため、ほがらかな気分で遡行できる。もしこれが林道も無い所だったら、本当に屈指の大渓谷となっていただろうに惜しまれる。



9月13日 三度目の海ノ溝洞へ

 3回目にしてついに海ノ溝洞ゴルジュを完登した。今年はもう無理だと思っていたのだが、今は水ではなく喜びに浸っている。完登してわかったのだが、前回はあと一歩のところまで来ていたのだった。惜しいことをした。
 川浦谷を遡行し気分を良くしてから海ノ溝洞に向かう。今回は川浦谷出合から入るということで、あずま屋の脇から川浦谷側に下る踏み跡をたどり懸垂15mで出合に降り立つ。なかなか壮絶なゴルジユである。橋を見上げてすぐ3mの滝がある(写真)。これは橋の上から見ても難しそうだが、やはり無理ということで、左から高巻いて懸垂10mで滝の上に降り立つ。ここでザイルを回収するとき、ザイルに釣り糸(ハリ・ミミズ付き)がからまってしまいタイムロスした。ザイルが絡まることはよくあるが、ザイルに釣り糸が絡まったのは初めてで、釣り師を呪った。

 ここからは3回目なのでもう慣れてしまったが、初めてだとなかなか凄いところだ。左側の渋いへつりか泳ぎで1mの滝を越える。ゴルジュの内部には河原はほとんどなく、常に膝下くらいまで水に浸かった状態である。大岩のある2m滝を左のチムニー状のバンドから越え、5mほど泳ぐと、幅5mほどに狭まったゴルジュの奥にチョックストンを持つ2mの滝が行く手を阻む。ここは泳いで白く泡立つ滝の脇から左側のチョックストンに取り付き、何とか乗り越える。

 しばらく平流だが、相変わらず膝下までは水に浸かったままである。やがて泡立つ釜を横切って2m滝(右写真は7月27日の1回目の遡行時)を越えると、正面に巨大な釜を持つ5m滝が現れる。周囲は開けて、右はるか上には林道を見ることができる。



 やはり5m滝(左写真は9月5日の2回目の遡行時)は登れず、いつものように右から巻く。この上の淵は、いつもは右のバンドをスカイフックのアブミで登っていたが、今回は僕がアブミをかけているうちにシュノーケルをつけたY氏が泳ぎ切ってしまったので、ロープで引っ張ってもらった。すごい泳力である。

 続いて例の3mの灰色チョックストーンになる。ここは前回は取り付けなかったのだが、今回はY氏が凄い勢いで泳いでいって取り付いてしまった。しかしかぶったチョックストンを越えるのはかなり苦労していた。ナッツを束にしてつけたアブミを放り投げて引っかけ、ついで倒木にロープを投げてひっかけ、倒木が動くというハプニングもあったが20分の格闘の末チョックストンの上に登り着いた。その間僕は眺めていただけだった。

 僕もチョックストンの上に引っ張り上げてもらったが、すぐ先は洗濯機のような滝で、これはあっさり巻くことにした。もしここでチョックストンから落ちたら、洗濯機の中でチョックストンに押しつけられ、つぶれたカエルのようになってしまうだろう。そこで、チョックストンの上に乗って右の側壁にボルトを打ち、アブミをかけて上のバンドまで出たのだが、これはなかなか怖かった。まずボルトの埋め込みが若干足りなかった。さらに、アブミからフリーに移る箇所のホールドがぬめっていた。僕はトップで足を震わせて登った。ついでセカンドの確保であるが、確保支点が見つからない。木があるにはあるのだが、かなり上で、10mの補助ロープではとても足りない。ハーケンを打つリスもいまいち無い。仕方なく肩がらみで確保することにした。確保をしながら気づいたことは、万一Y氏がボルト抜けなどで落ちた場合、セルフビレーなしで肩がらみ確保をしている僕は一緒に落ちてしまうだろうということであった。面倒でもザイルを出して上の木から支点をとるべきであった。ふと肩がらみ確保に失敗して死んでいった昔のクライマーのことを思い出した。

 Y氏は無事に登ってきた。さらにトラバースして次の3m滝を目指す。前回はチョックストンを巻いてこの滝の前まではきたが、とても取り付けそうにないのであっさりあきらめた。しかしやる気満々のY氏は泳いで右側に取り付き、なにやらアブミにナッツをつけてハンマーでクラックに叩き込んでいるようである。ここでも格闘すること20分、残念ながらナッツが外れて流されてきた。ついで僕も泳ぎ、取り付くところまではいったが、登れず流される。取り付くところに足場があれば何とかなるのだが・・・。もし来年またきたら、この滝も突破してやろう。ここで昼食にしようとパンを出したが、入っていたのは水に濡れてブヨブヨになった不気味な物質だった。それにしても、快晴の真っ昼間だというのに、この部分は全く陽があたらす、ゴルジュの雰囲気満点である。

 結局先週と同様なルートで高巻き、懸垂下降して前回の敗退地点までたどり着いた。しかし、次の滝を見下ろすと、意外にも中央に岩が出ていて登れそうである。先週は全て流れに覆われていて見えなかったのだ。沢床に向けて垂壁を20m懸垂下降する。少しかぶり気味の垂壁で調子よく8環を滑らすと、さっき苦労した3m滝の上に降り立った。そして続く1m滝は、泳いで取り付いてあっさりと越えてしまった。ここは陽が当たってなかなかの美しさである。右から10mの滝をあわせ、ナメを越えると、さすがの海ノ溝洞にも河原が現れる。やがて左右の側壁も低くなり、下部ゴルジュが終わったことを知る。右の涸れ沢を少し登って林道に出た。出発時刻は7:45、林道に出たのは13:35、6時間あまりの水との格闘だった。下りは例のごとく30分ほどだったが、完登できたことを喜びつつ歩いた。

 何回行っても楽しい沢というのは少ないが、この海ノ溝洞下部ゴルジュはまた来年も行ってもいいくらいいい沢であった。奥美濃の沢も捨てたものではない。