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南ア/黄蓮谷右俣アイスクライミング(98年12月29日〜12月31日)


コースタイム:

12/29 竹宇駒ヶ岳神社7:11−−12:45五合目小屋13:10−−14:08黄蓮谷出合

12/30 黄蓮谷出合7:10−9:35奥千丈の滝下−12:15インゼル岩小屋−13:50黒戸尾根−14:20甲斐駒山頂−15:30七丈小屋

12/31 七丈小屋7:30−−11:59竹宇駒ヶ岳神社


 黄蓮谷−アイスクライミングを志した者なら一度は行きたい憧れの地である。今回、幸いにもこのクラシックルートをたどることができた。

 時はさかのぼり98年2月のことである。若駒山岳会の蜂須賀さんや樋江井さんに誘われて御在所の3ルンゼや八ツのジョウゴ沢にアイスクライミングに連れていってもらった。そこで展開する世界はまさに氷の世界。山スキーやら通常の雪山では味わえない面白さ・美しさを発見した。その後山と渓谷社の「日本のクラシックルート」を買ってみると、黄蓮谷右俣が紹介されていた。黄連谷右俣は沢登りのガイドにも紹介されていたが、アイスクライミングの写真を見て、行くなら冬季だと確信した。

 12/28夜、3泊4日、予備日1日の予定で名古屋を出発する。甲斐駒東面の登山道である黒戸尾根の登山口、竹宇駒ヶ岳神社まで入る。翌朝、快晴の空のもと出発する。今日の目的地は千丈の岩小屋付近までである。しかし黒戸尾根は長い。非常に長い。たんたんとした登りが続き、樹林のため眺めはほとんどない。夏に登るとかなりつらい登りとなるであろう。雪もなかなか現れないが、南アルプスの正月前後はだいたいそんなものである。道はいったん北面を巻くが、そこに小さな水場がある。ここは冬でも涸れずにかつ凍らずにあるのでありがたい。刃渡りの険の手前で雪が出てきたので、一応アイゼンをつける。刃渡りの険は左右とも切れているが、鎖があるので特にどうと言うこともない。その後樹林帯の急登で、新しいハシゴがあったりするが、木のハシゴのため、アイゼンで歩くと穴が開いてしまう。悪いなーと思いつつも、仕方ない。出発してから5時間半ほどもしてようやく5合目小屋に着いた。この小屋は冬は無人で、水は無いようだ。屋根の上の雪をとかして水を作っているらしい。

 黄連谷へは5合目小屋から北西方向に400mも下らないといけない。このルートはかなり分かりにくいが、蜂須賀さんと足立さんは夏と冬に下見してあるので、問題なく下れた。岩小屋の脇を通り過ぎ、黄連谷に降り立つと、そこは既に氷の滑床である。標高1750mに過ぎないのに、こんなに凍っているとは不思議だ。テン場を探し始める。最初は平坦な雪の上にしようと思ったが、その脇にはウンコのテンコ盛りがあり、いやな雰囲気と言うことで、右上の巻き道を上がった箇所にちょうどいい広さ雪の着いていない場所を見つけてツェルトを張った。着いた時間はまだ早く、寒々とした時間を過ごした。  さて深夜になった。寝ている我々のツェルトに突然何者かが声をかけてきた。「千丈の岩小屋はどこですか?」この人は同行者とはぐれ、夜中ずっとさまよっているらしい。もしツェルトに入れて下さいと言ってきたらどうしようかと思ったが、立ち去っていった。


12/30
 朝起きると小雪が舞っている。嫌だなー。しかしたいした雪でもないので、出発する。河原に降りるとしっかりしたトレースがあり、それをたどると意外にもすぐに坊主の滝が現れた。幅、高さともかなり立派で、完全に凍っている。ここで気づいたのだが、僕のテープシュリンゲが一本無くなっている。どこで落としたのだろうか。戻るのも大変なのであきらめた。

 まずは蜂須賀さんがリードして滝の途中まで登り(写真)、後続2人が続いて登る。さらに蜂須賀さんが2ピッチ目を登るが、この時下から2人パーティがやってくるのが見えた。そして、そのうち一人がかがんだかと思うと、シュリンゲらしきものを拾い上げている。「それは僕のでーす」と叫ぼうと思ったが、たぶん届かないのでやめた。そうこうするうちに蜂須賀さんは登り切ったので、後続も滑床をローダガーポジションで登ると坊主の滝の上に出た。

 その後は氷ではなく、雪面の登行になる。左から黄連谷左俣が幅広い氷瀑をかけて合わさっているが、右俣は雪面である。左右は見事な岩壁と氷壁なのに、歩くところは雪面。簡単ではあるが、もの足りない。奥千丈の滝に入っても、凍っていて念のため確保した箇所も一部あるが、おおむねトレースを一歩ずつたどるだけに終始した。奥千丈の滝を過ぎて休んでいると、下から一人登ってきた。その人はおもむろに「これ落としませんでしたか?」と僕のシュリンゲを取り出した。「いやー、どうもありがとうございます」と御礼を言ったが、続いて確保器、さらにはバイルと我々が落としていたものを手渡してもらったのには恐縮してしまった。しかも我々は落としたことに気づいていなかったのである!

 さらに雪の上を歩くと、沢は広くなりインゼルと呼ばれる箇所に出る。ここには岩小屋があって使えるが、雪が増えると埋もれるような場所にある。ここからトレースは左の黒戸尾根側に登っていく。当然我々もトレース通りに進み、急斜面をヒーヒー言いながら登ると小雪のちらつく黒戸尾根の2900m付近に出た。それにしても蜂須賀さんの歩行ペースは速くて追いつくのが大変だ。

 意外にあっけなく稜線に出てしまった。氷が少なく、多少物足りない感も無きにしもあらずであったが、まあ無事に登り切れたことに感謝しよう。もしもう一度来るならば、もう少し早い12月中旬くらいにしよう。その日は一応甲斐駒山頂をピストンして、七合目の小屋に入り込んだ。


12/31
 ひたすら黒戸尾根を下り、4時間あまりで竹宇駒ヶ岳神社に下山した。予定3泊4日だったが、2泊3日で下山できた。しかしどうも満員の七合目の小屋でカゼ拾ってしまったようだ。帰宅してすぐ寝た。思ったよりあっけなかったような気もするが、それも事前のトレーニングの成果だろう。