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奥美濃/願教寺山〜薙刀山スキー縦走(99年3月13日)



コースタイム:

 白山中居神社6:20−−7:20倉谷出合7:35−−10:35願教寺山東肩10:40−−11:04薙刀北東尾根末端12:00−−14:15薙刀山14:20−−16:30白山中居神社


 石徹白周辺の山域はかなり滑りこんできたが、願教寺山、日岸山、薙刀山それぞれの山から出る尾根が沈み込む場所、石徹白川沿いの林道の終点からさらに奥に踏み込んだ場所は、僕にとって憧れの地であった。これといった理由はないが、林道が雪に埋もれるこの時期には到達すること自体が困難で、しかも周囲は白銀の世界に囲まれた、そう、いわば穂高の涸沢のような地を一人で勝手に想像していたのだ。

 3/13、朝起きると曇り空だ。おかしいなぁ、快晴の予報だったのに・・・・。いつもは和田山牧場に向かう駐車場だが、今日は石徹白川沿いの林道に進む。入り口には通行止めの柵がしてあって、しばらくは除雪してあるらしい。スキーを担いで出発する。今日は実に快調なペースだ。スタスタと足が動く。初河谷出合を過ぎてもまだ除雪してある。倉谷出合も除雪。結局、銚子ヶ峰への登山口までずっと除雪してあり、終点には柵をどけて進入したと思われる釣師の車が置いてあった。この時期にここまで除雪してあるのは珍しいのではないか。

 ここから先は除雪していないのでシールをつける。林道沿いだが、石徹白川の大滝を見下ろすあたりから急斜面のトラバースになり、結構怖い。降雪直後だったら雪崩で流されて川まで落ちてしまうと思われる。石徹白川の大滝を見るのは初めてだったが、右岸には豊田の南山のような岩場があって沢筋から見上げれば立派に見えることであろう。

 大滝を過ぎてまもなくで、右岸に渡る橋があるので、これを渡る。いよいよ僕の憧れの地が近づいてきたぞ。ワクワク。林道はすぐに不明瞭になり、沢筋は雪が割れていたので左手の急斜面を板を持って20mほど登る。すると緩い台地上に出るので、そこをしばらく沢沿いに進むと、憧れの地、薙刀山北東尾根の末端付近に出た。

 しかし僕を待ち受けていたのは、意外にも、ごく普通の奥美濃のヤブ山だった。穂高の涸沢???。僕は奥美濃の山に期待しすぎることの不毛さを悟ったのだった。

 ちょっとがっくりしたが、願教寺山南面の沢を滑るという目標があったので、気を取り直して出発した。しばらく沢沿いに進み、やがて浅い沢に挟まれた小さな尾根上を登るようになる。すると、しだいにヤブが薄くなり周囲は白銀の世界へと変化してきた。そして、僕の気分は再び高揚してきた。そうだ、奥美濃の山が僕を裏切るはずはないのだ!!

 左手に日岸山北東面の無木立の大斜面を見ながら、よも太郎山方面にスキーを向ける。そしてついに、2年前の2月に野伏から縦走してきた地点に辿り着いた。ちょっとガスっていて上部は見えなかったが、これまで一度たりとも忘れたことが無いという2年前の感動と同様な感動を覚えつつ、パンをかじった。

 あとは願教寺山への300mの登りだ。シールをきかせてガンガン登り、願教寺山の東肩に到着した。2年前は縦走だったため、この登ってきた素晴らしい斜面を見下ろしてため息をついたものだ。今回は山頂も登ろうと思っていたが、あいにくのガスなのですぐ滑降に移る。2年前の鬱憤をここで晴らさん、とばかりにシュプールを描くつもりだったが、いきなり転んで10m落ちてしまった。しかし後は実に快適に、少しばかり固い雪面を縦横無尽に滑りまくる。標高差350mにわたって快適な傾斜を持つこの沢は、石徹白周辺の滑降ルートの中でも有数の斜面で、下部で狭くなるあたりは、槍ヶ岳の飛騨沢を思い起こさせる(スケールは三分の一だけど)。

 後は150mほど緩やかな疎林を滑ると、薙刀山北東尾根末端に到着した。こんな快適なルートなのに、誰も滑っていないのは不思議ではあるが、山スキーヤーの大部分は有名な少数の山、例えば野伏などを往復しているだけという悲しい現実がある。しかし大部分の人のアイデアが貧困なおかげで、僕は静かな山スキーが楽しめるのだ。もしこの僕の憧れのルートが人でいっぱいだったら、がっくりしてしまうことであろう。この素晴らしい斜面を独り占めできたことを喜びながらも、一方でこの楽しさを分かち合う人がいないことに多少の寂しさを覚えた。

 普通ならこれでもう下山になるのだが、今回の計画はさらに薙刀に登って和田山牧場に滑るというおまけも付いている。しかし時間を見るとまだ11時だ。一眠りするか、とのんびり寝転がっていると、急激に天気が回復し、あっという間に快晴の空が広がった。1時間ほどゴロゴロしてから薙刀北東尾根に取り付く。この尾根は、尾根といっても傾斜が均一で、かつ東側には幅10mくらいのちょうど良い雪庇状のスロープができていて、滑降も可能だ(ただし、東に寄りすぎると雪庇から落ちてしまう)。願教寺山南面のさっき滑った斜面(写真右中央の沢)を振り返りながら、なだらかな尾根を登る。右手には日岸山東面の無木立の斜面が実に魅力的に輝いている。また後方には銚子ヶ峰西面(写真下)。次はあの斜面を滑ろう!


 滑った後の登り返しは実に気合いが入らない。ダラダラと尾根を登っていき、1526m地点を過ぎるとさらに緩やかになる。ここで薙刀の東面は実に魅力的な斜面であることを発見した。普段は南側からしか見ないため、つい南斜面を滑ってしまうが、東斜面の幅広く均一な傾斜の斜面といったら どうだ。地形図を見ると崖マークがついているが、崖なんかどこにもないぞ!

 これで一気にスピードアップして薙刀山頂に着き、すぐさま滑降準備に入る。北東尾根を少し戻って、笹の出ている尾根上を過ぎてから、東斜面に飛び込む。テレマークターンが連続して決まることの爽快さはどうだ!標高差350mを滑り、少し登り返して先週滑った斜面に入る。

 見るとカモシカが急斜面を駆け登っている。よく雪の上を駆け登るもんだと見ていると、雪面に二本のシュプールがある。それはなんと先週横溝さんと滑ったシュプールであった。よく残っていたものだとなんだか嬉しくなる。先週のシュプールを追っていくと、全層雪崩の跡に出る。先週よりも横に広がって、雪面が波打っている。今この瞬間だけは崩れまいとたかをくくって下を通過し、1170m地点あたりまで滑る。少しシールを張って推高谷左俣を登り、野伏北東尾根に這い上がる。

 後は緩い林道を和田山牧場へとスキーを走らせる。和田山牧場からははるか遠くに願教寺山が小さく見え、周囲の山々は夕陽に輝き、今日の素晴らしい山行のフィナーレを飾るにふさわしい光景だった。