ゼミ論文(卒論)の書き方

目次

一 時間スケジュール

二 論文の体裁

三 論文内容上の留意点

四 提出の形式について

 

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[はじめに]
 3年生の間、わがゼミでは、小論文、すなわち簡にして要を得た1000字程度の論文の書き方を集中的に勉強してきた。しかし、社会に出ると、長さには制限はないが、あらゆる論点をきちんと網羅し、対立説もまんべんなく紹介した上で自説を述べ、更に説得力ある理由を示す、という論文を書く必要に迫られることも多くなる。

 これは、従来の小論文とはまた別の、特別の技術を必要とする。ゼミ論文は、そうした技術を、大学教育の場において学ぶ唯一の機会である。司法試験など、4年生の後半になっても勉強の手を抜くことのできない人をのぞき、この機会に是非、こうした大論文の書き方を身につけてほしい。

一 時間スケジュール

(一) テーマの提出期限・・・・・・・・・6月末
(二) 論文構成書提出期限・・・・・・・7月末
(三) 第1次原稿提出期限・・・・・10月初頭
(四) 第2次原稿提出期限・・・・・12月初頭
(五) 最終提出期限・・・・・・・・・・・・・1月末

解説:本格的な論文を書くのは、君たちにとってこれが始めての経験である。それなのに、とかく、様々な期限ぎりぎりになって、ろくに基礎調査もしないままに、いきなり書き始める人が、毎年かなりいる。が、そんなことでは論文の体裁すらまともに形作ることは不可能である。段階を踏んで内容の計画をしっかり立て、さらに論文構成をした上で、書くようにしてほしい。

 しかし、テーマの提出期限の6月という設定には別の意味もある。卒論に何を書くのか、ということは、官公庁や民間企業で面接試験を受けると、必ず聞かれる点である。そこで、まだ考えてもいません、等という答えは、大学生としての資質そのものを疑われることになり、非常にまずい。そこで、面接を受けに行く前に、テーマを決めておく必要がある。もちろん、テーマを決めるだけでは十分ではない。面接では、多くの場合、テーマを答えると、その内容についての質問も続いてくると考えた方がよい。したがって、テーマを決めるということは、面接で何を聞かれても答えられる程度の予備調査をしておく、ということを意味している。


 第一次原稿が10月というのはずいぶん早いように思うかもしれない。しかしこの段階では、過去の例から見て、私の提示する単純な疑問にさえも満足に答えきれず、元の構成が吹っ飛んでしまうのが普通である。本当の意味での「論」文作成作業は、多くの場合、それから始まるのである。したがって、その後でなおかつ一から書き直せるくらいの時間的余裕を持って第一次原稿を出してくるのが好ましい。その意味で、夏休み明けに設定してある。

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二 論文の体裁

(一)字数は4万字を標準とする。最低でも2万字を越えること。上限については制限を付けない。

解説:あるテーマに対して、きちんと既存の様々な見解を紹介した上で、自説を述べ、さらにその根拠を述べ、また既存の説に対する反論を述べようとすれば、この程度の長さになるのは必然である。したがって、これは制限というより、単なる目安と思えばよい。この程度の長さに達しない場合には、それは論文の体をなしていないのだと理解してほしい。

(二)ワープロを使用する。用紙はA4判縦置きとし、横書きで、36字×30行とする。

解説:社会にでたら、手書きで間に合う場合は最近ではまず考えられない。年輩の人はいまだにワープロが使えないのが普通だが、君たちの年代では使えないと言っても通らない。往々にして計算用のパソコンソフトを使いこなすことまでも期待されているものである。だから、いまだにパソコンを使えない人は、この際、是非ワープロソフトの使い方だけでも覚えてほしい。始めて覚える際には、最初は少々遅く感じても、ブラインドタッチで行うことを勧める。ありがたいことに、最近ではパソコンの価格が急激に低下しているので、購入も楽になっていると思う。
 A4横書き、36×30というのは、官公庁文書の標準仕様で、そのため、民間でもこれに準拠して文書を作るようになってきている。この場合、一頁は約千字となるので、上記標準字数の論文を書いた場合には、40頁の論文ができることになる。(なお、この文章を含め、私の近時のレジメはすべて40×40で書いている。これはページ数を節約するためである。)

(三)論文は、章、項、節等に区分し、適宜番号を振る。番号は次の規則に従う。
 1 最大の分類は、裸の漢数字とする。
 2 次の分類は、括弧付きの漢数字とする。
 3 次の分類は、裸のアラビア数字とする。
 4 次の分類は、括弧付きのアラビア数字とする。
 5 さらに再分類が必要なときは適宜ABC、アイウ、@AB等を使用する。

解説:見れば判るとおり、この文章そのものも、このルールに従って書かれている。これは、人事院の指導する官公庁文書の書き方に準拠している。とにかく一定の順序で番号を使い分ければよいので、別にこの順でなくても構わないが、お役所中心のわが国では、民間でもこの書き方をする例が多い。この際、しっかり覚えよう。
 なお、新たに番号を振るほどではないが、文章の内容に変化が生じたときは、そこで改行する、ということを励行しよう。文が読み易くなる。

(四)論文の冒頭には必ず目次をつける。

解説:上記の章、項、節等が一目になるように目次をつけることは、単に読む人の便利のためではない。実は君たちとして考えの内容を整理する最大の武器である。すっきりした目次ができないようであれば、答案構成をもう一度工夫し直す必要がある。私が日本法学に発表する論文などにおいても、論文が完成して目次を付けた段階で、また見直しをかけることが多い。

(五)論文中に、他の人の見解を引用する場合には、引用部分に「」で印を付け、かつ、その引用部分の後に、注記号を付した上で、論文の最後に注記をまとめ、そこで引用文献を紹介しなければならない。
 引用文献の紹介の仕方は次のルールに従う。

 1 雑誌論文の場合
 執筆者名「論文名」雑誌名、巻、号、頁、発行所、発行年
  例:甲斐素直「予算内容の法的検討」日本法学、第60巻第1号77頁、日本大学法学会、1994年刊

 2 単行本の場合
 執筆者名『書名』発行者、発行年、判表示、頁
  例:甲斐素直『財政法規と憲法原理』八千代出版、1996年刊、200頁

 3 共著本(講座、コンメンタールその他を含む)の場合
 執筆者名「論文名」共著者名『書名』頁、発行所、発行年
  例:甲斐素直「第4章第2節 公共契約・補助金」園部逸夫編著『住民訴訟』217頁、
         ぎょうせい社、実務・自治体財務の焦点第4巻、1989年刊

解説:これは有斐閣、岩波その他の法律専門書店で作っている「法律編集者懇話会」が定めた「法律文献等の出典の表示方法」の内容の大まかな要約である。学者論文は普通この方法により注をつけている。ゼミ論は諸君が最初に書く本格的な法律論文なのだから、是非、この基準に準拠して書いてほしい。これも、社会にでれば常に念頭に置く必要があるからである。
 ゼミ論文のことを揶揄して、ハサミと糊の芸術、といったりする。他の人の論文からあちこち文章を抜いてきて、論文の形態を作っていくからである。しかし、それは恥ずかしいことではない。十分に関連論文を調査した証拠だからである。恥ずかしいことは、実際は他の人の文章であるのに、それを明示せず、あたかも自分のオリジナルの文章であるかのように書いてしまうことである。もし、その文章に全く同意見であれば、きちんと引用した上で、「全く正しい指摘で、付け加えることはない」とか、「私も同意見である」というように書いておけばよい。

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三 論文の内容上の留意点

(一)テーマの選択について

  1 テーマとしては、憲法の範囲から選べば何でも構わない。憲法はすべての法律の基本であるから、これは、事実上、法律問題であれば何でも良いということを意味する。ただし、法律の論文であって、時事解説や社会学、政治学の論文ではないことをしっかりと念頭に置いておく必要がある。すなわち、必ず法律上の論点についての、その解釈と根拠が中心の問題となる。その意味では、期末試験等で書く1000字程度の小論文と何ら変わるところはない。

 2 ちなみに、テーマとしてはできるだけコンパクトなものを選択する方が楽である。例えば、「表現の自由」などという大きなテーマを選んでしまったら、400万字を使ってもおそらく不足することになる。

 3 テーマはできるだけ自分の希望する進路にあわせて設定する必要がある。たとえば国家公務員試験に合格して、希望の省庁に面接を受けに行けば、必ず卒論はなにを書く予定なのか、ということを聞かれる。その時、そのテーマがその省庁の仕事と何らかの関連があれば、その省庁に対する熱意の現れとして評価してもらえることになる。逆から言えば、いろいろなところを受けるつもりの人は、実際に書くかどうかは別として、幾通りかの卒論テーマを用意し、それぞれについてある程度、面接で聞かれても困らない程度の調査をしておく必要があることになる。

(二)参考文献の調査方法について

 小論文と、このような本格的な論文との最大の違いは、そのテーマについて従来、先人によって論じられてきたことを紹介するか否かである。本格的な論文である以上、きちんと網羅的に学者の、その問題についての論議を紹介しなければならない。私に相談してくれれば、可能な限りの援助は行うが、基本的には、そうした文献の探索は諸君の努力にかかっている。そうした参考文献の捜索技術を身につけることが、ゼミ論執筆の大きな狙いの一つである。

 基本的には、何か、そのテーマについて学者が書いた論文を一つ探す。ついで、そこにかかれている参考文献を図書館で探し出し、それに書かれている参考文献をまた探す、という手順の繰り返しになる。一番最初の論文としては、たとえば「憲法の争点」などは手頃である。

 また、その問題について判例がある場合には、簡略な判例百選ではなく、きちんと元となる判例の全文にめを通し、内容を自分なりに理解した上で、それを紹介する必要がある。図書館にある、判例時報、判例タイムズ、最高裁判例集、下級裁判所判例集等と仲良くなる良い機会と割り切ってがんばってほしい。また、インターネットで最高裁判所のホームページをみると、近時の判例については、その全文が紹介されている。

(三)内容の記述について

 論文は、基本的に自分の説を述べる手段である。本格論文なのだから、他の本の内容等を紹介することは必須の作業である。先に述べたとおり、ゼミ論文が「糊とハサミの芸術」と言われるゆえんはそこにある。それは、決して馬鹿にした表現ではなく、ほめ言葉なのだということを認識しておいてほしい。

 しかし、それに熱中するあまり、それで事足れりとしてはいけない。これがゼミ「論」文と言われるためには、必ず、個々の問題点に対して、自分はどう考えるか、そしてその理由は何か、と言うことを論理的に順序立てて述べていなければならない。その点だけは、これまで書いてきた小論文と少しも変わらない。ただし、それは必ずしも1対1対応で書く必要はない。最後にまとめて、私見とでも題して一括して述べてくれても良いし、所々で、小括して述べても良い。その辺りは自由な設計をしてくれて構わない。

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四 提出の形式について

 私に提出する際には、わざわざプリントアウトするには及ばない。FDで提出してくれればよい。しかし、実際問題として、完成稿にたどり着くまでには、何度か、プリントアウトする必要があると思う。私自身が論文を書く際には、プリントアウトしてみることで、画面でみていたときには気がつかなかった問題点が見つかるという経験をしている。まして、パソコンにあまりなれていない諸君が、画面からだけできちんとした文章を書くのは難しいと思う。

 1月末日に教務課に提出する際には、教務課では紙の提出を希望する。が、これは形式的に紙でありさえすればよい。そこで、諸君の先輩の中には、何の関係もないいくつかの紙をかまわず束ねて提出した人もいた。私としては、きちんとした文章がFDの形で私の手元にくる限り、それで何の文句もない。実際問題として、上述した途中経過の、赤を入れたプリントアウトあたりが手頃であろう。もちろん、きちんとしたプリントアウトを作ってくれた方がよいことはいうまでもない。

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