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ゼミ論文(卒業論文)の書き方

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ゼミ誌2011 発行しました。

 

以下の予定表は、下が古く、上ほど新しくなっています。

 


2015年度 甲斐ゼミ 活動予定表
冬休み(29)    
     
12月18日(28)    
12月11日(27)    
12月4日(26)    
11月27日(25)    
11月20日(24)    
11月13日(23)    
11月6日(22)    
10月30日(21)    
10月23日(20)    
10月16日 学界のため休講  
10月9日(19)    
10月2日(18)    
9月25日(17)    
9月18日(16)    
     
夏休み(15)    
     
7月17日(14)    
7月10日(13)    
7月3日(12)

 XとYは、実の兄弟であるが、その父Zから、生前に合計100万平方メートルの山林(以下「本件山林」という)を、それぞれ2分の1ずつの持ち分で共有財産として贈与を受け、共同して森林経営を開始した。しかし、Zの死後、XY両者の森林経営の理念が大きく食い違うにもかかわらず、調停するZを欠いたため、本件山林の共同経営が実質的に不可能となり、下刈り・間伐・枝打ち等が全くなされずに草茫茫の状態で放置されている状況にあった。

Xは、この状況を打開するため、本件山林を現物分割の方法で分割したいと考えたが、X・Y間には著しい感情的対立があり、信頼関係が失われているため、到底分割の協議が成立する見込みがなかった。そこで、Xは、本件山林を現物分割の方法で分割されるように、民法258条に基づき裁判所に訴えを提起した。これに対して、Yはこの訴訟の時点における森林法186条の定めるところにより、2分の1の持ち分しかないXから、共有林の分割を求めることはできないと反論した。

 第1審裁判所は、森林法186条の規定は、森林経営の零細化防止という国家の政策的視点から共有森林の分割請求を禁止したのであり、共有者間の信頼関係の破壊といった私人間の私的関係から、公益規定である同法条の適用がなくなるものと解することは、公益規定である同法条の解釈論としては無理であると認定した上で、森林法186条が本件山林にも適用があり、Xの請求は法律上許されないと判決し、第2審裁判所もこれを支持した。そこで、Xは、森林法186条は、憲法29条に違反するとして上告した。

 Xの主張の当否について論ぜよ。
 
6月26日(11)

 Xは、肝臓疾患のため入院のうえ、手術を受けることとなった。 A教の信者であるXは、教義に従い手術の際、一切の輸血を拒否することを病院側に名言し、Y病院側もこれを承認していた。 しかし、実際にはXが危険な状態になった場合には、輸血をする旨の内規がY病院にはあった。

 手術を実施したところ、輸血をしなければ救命できない危険な状態に至ったため、やむをえず輸血がなされた。Xは輸血がなされるなら、手術を受けないという自己決定権を侵害されたと主張している。

 この事例の憲法上の問題点について論ぜよ。

 
6月19日(10)

 Xは、A省に勤務する事務官で、東京都内にあるA省の地方支分部局(いわゆる「出先機関」)において、窓口で一般市民に対応し、主として申請書類の受理業務、申請者に対する各種連絡業務、申請書の作成等に関する市民の相談にマニュアルに基いて応じる業務等、裁量権のない機械的労務を提供している国家公務員である。

 Xは、20121216日施行の第46回衆議院議員総選挙に際し、B党を支持する目的で、同年1125日、122日、129日のいずれも午後2時から3時頃にかけて、3回とも東京都C区内の約50箇所の店舗・住宅の郵便受けに、B党の機関紙、およびB党公認候補者(その予定者)の経歴等を紹介したパンフレットを投函した。Xは、この行為が国家公務員法第102条第1項および人事院規則14-75項第3号、第6項第7号および第13号に違反するとして、国家公務員法第110条第1項第19号に基いて起訴された。

 Xの行為に関して生じる憲法上の問題について論じなさい。

〔資 料〕

人事院規則14-7 5項・第6項(抄)

(政治的目的の定義)

  法及び規則中政治的目的とは、次に掲げるものをいう。政治的目的をもつてなされる行為であつても、第六項に定める政治的行為に含まれない限り、法第百二条第一項の規定に違反するものではない。 

  特定の政党その他の政治的団体を支持し又はこれに反対すること。 

(政治的行為の定義)

  法第百二条第一項の規定する政治的行為とは、次に掲げるものをいう。 

  政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、配布し又はこれらの行為を援助すること。 

十三  政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するために著作し又は編集すること。 

 

6月12日(9)

 学校法人Xは、我が国に居住する少数民族であるA民族に属する子弟に対し、母国語による民族教育を行うことを目的とする各種学校Bを設置していた。

 A民族を差別することを目的する団体Cに属するY等は、長期にわたり街頭宣伝車でB校前を占拠し、その授業時間中に「ここはA国のスパイ養成機関」「犯罪者に教育された子ども」「こいつら密入国の子孫」「Aを日本からたたき出せ」「出て行け」「こんなものはぶっ壊せ」「端のほう歩いとったらええんや,初めから」「我々は今までみたいな団体みたいに甘うないぞ」「この門を開けろ,こらぁ」等の怒声を次々と間断なく浴びせかけ,合間に,一斉に大声で主義主張を叫ぶなどの示威活動を繰り返し行った。このため、A校では、校門を閉ざし、教職員が教室の窓とカーテンを閉め、児童に教室から出ないように指示をしたが、示威活動の拡声器による怒号を防ぐことはできず、低学年の児童のほとんどが恐怖を感じて一斉に泣き出すなど、授業の実施に当たり、多大な被害を受けた。

 そこで、これらの憎悪表現を伴う示威活動を理由に、XYに対し、民法709条に基づく不法行為に基づく損害賠償を請求した。

 これに対し、Yは、

  1. ある少数集団に対する差別的言動は,直ちには,当該集団の個々の構成員に対する不法行為を構成するとはいえない。したがって,在日A人という少数集団に対する差別的言動がXに対する不法行為に当たるとの主張は誤っている。
  2. 表現によって摘示された事実は,公共の利害に関する事実であり,かつ,真実であるため,それら摘示事実の表現行為は違法性が阻却される。仮に,真実であるとの証明がない場合であっても,真実であると信じたことにつき相当な理由があるから,当該事実を摘示した被告らには過失がなく,Yらの責任が阻却される。

ことを理由に、憲法21条の保障する表現の自由に属するので、不法行為には当たらないと、主張した。

 X及びYの主張に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

参照条文

国際人権A規約202項 差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する。

人種差別撤廃条約41項 締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。このため、締約国は、世界人権宣言に具現された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って、特に次のことを行う。

a)人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。

b)人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。

c)国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと。

6月5日(8)

 Xは、ヘルパーとして介護施設にパートタイムで勤務する女性であるが、平成×年、裁判員として選任され、A地方裁判所において強盗殺人事件の裁判員裁判で裁判員を務めた。事件では、死刑判決が下されている。

 Xは、評議を含む9日間の全日程に参加したが、証拠として殺害現場のカラー写真がモニターで提示され、また、被害者が命乞いする119番の音声も聞かされた。これらを見聞きしたXは審理中に嘔吐し、その後も頭がぼんやりして食事がのどを通らず、夜も写真などがフラッシュバックして就寝中に何度も目が覚めるなどの症状が出た。このため、医師により急性ストレス障害と診断され、勤務を休んで治療に専念せざるを得なくなった。その結果、勤務していた介護施設から、体調不良を理由にパート契約の終了を通知された。

 そこで、Xは裁判員制度を「意に反する苦役」として違憲と主張、裁判員法を成立させた国会議員に「重大な過失がある」として、国家賠償法に基づき、損害賠償を請求した。

 Xの主張に含まれる憲法上の問題について論ぜよ。

5月29日(7)

 A県では、青少年健全育成条例を制定している。

 同条例は、18歳未満の者を「青少年」と定義した上で、「有害図書類」、すなわち内容が著しく青少年の性的感情を刺激しその健全な育成を阻害するおそれのあるものと知事が指定した図書等を、「自動販売機等」により販売することを禁じている。なお、自動販売機等とは「販売又は貸付けの業務に従事する者と客とが直接対面する方法によらずに販売又は貸付けを行うことができる設備を有する機器」である。図書類の販売等を業とする者は、その設置する自動販売機等に、有害図書類を販売又は貸付けの目的で「収納」してはならず、その違反者は6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処するなどと定める(対面式の書店等での陳列については禁止されていない)。また、自動販売機等を設置する場合には、設置場所、販売する図書の種類等を知事に届け出なければならないとし、その違反者は10万円以下の罰金に処するとしている。

 Xは、AB市内の土地に、DVD等の販売機を設置した。この販売機は次の様なものであった。

@ 上記土地に設置された無人小屋に他の3台の図書類の販売機と並べて設置されており、小屋には扉もなく自由に出入りできる上、外壁には「無人24H」およびピンク色のハート型と「空間」という表示や、「最強超映像DX 雑誌 ビデオ グッズ」と記載された看板が掲示されていた。

A 小屋内にはセンサーがあり、客を感知すると、小屋内の壁3か所に設置された監視カメラが作動し、客の画像が、被告会社の委託を受けた株式会社の東京都内にある監視センターに設置されたモニターに送信される。監視センターには24台のモニターがあり、5名から10名の監視員が交代で、全国約300か所に設置された同様の無人小屋の監視に当たっていた。

B 監視員が遵守すべきマニュアル等によれば、監視員は、モニター上の客の容貌等を見て、明らかに18歳以上の者であると判断すれば、販売機の電源を入れて販売可能な状態に置き、また、年齢に疑問がある場合には、運転免許証などの身分証明書を呈示するよう求める音声を流し、呈示された身分証明書の画像を確認して客との同一性および18歳未満の者ではないことを確認できた場合には、同様に販売可能な状態に置くこととされていた。

 Xは、自動販売機は、同条例20条の3に定めるところにより、設置に当たって届け出義務を課されているのに、それに違反して無届けで設置し、その機器内に本条例が定める有害図書類に該当するDVDを販売目的で収納したとして起訴された。

 これに対して、Xは、 1)本件機器は本条例に定める「自動販売機等」に該当しない、(2)本件機器まで規制するのは憲法211項に違反すると争った。 第1審及び第2審は、監視センターのモニター画面では、必ずしも客の容貌等を正確に判定できるとはいえない状態にあった上、客が立て込んだ時などには18歳未満かどうか判定が困難な場合でも購入可能なように操作することがあったことなどから、いずれも、本件機器は、本条例に定める自動販売機等に該当すると認定し、Xを有罪とした。

 そこで、Xは最高裁判所に上告した。

 Xの主張に含まれる憲法上の論点について論ぜよ。

5月22日(5)

 作家Aは、実名を避けながらBの生き方を素材とする小説を甲出版社の発行する文芸誌に発表した。その小説は、質の高い文芸作品として一般に評価されたが、Bは、自分を知る人が読めばその主人公がBであることが容易にわかること、小説は虚実ないまぜに自己の生活や遺伝的特質について言及しており名誉段損とプライバシーの侵害に当たるものであることを主張して、Aと甲を相手どり損害賠償と謝罪広告を求める訴えを提起した。さらにBは、甲がその小説を単行本として出版しようと計画していることを知り、その差止めを求める訴えも提起した。以上の事例について、憲法上どのような問題があるかについて論ぜよ。

(平成12年度国家T種法律職問題)

5月15日(4)

 株式会社Yでは、取締役会において、政党A1000万円の政治献金を行うこと、及びその資金は同社の交際費から賄うことを決定した。これに対し、同社株主であるXは、本件政治献金は、同社定款に規定する所定の目的の範囲外であるとして、その政治献金の差し止めを求めて訴えを提起した。

  この事件における憲法上の問題について論ぜよ。

5月8日(3)

 宗教法人A会は、会員数が数百万人に達する巨大組織である。A会会長Xは、その教義を身をもつて実践すべき信仰上のほぼ絶対的な指導者であって、公私を問わずその言動が信徒の精神生活等に重大な影響を与える立場にあつたばかりでなく、右宗教上の地位を背景とした直接・間接の政治的活動等を通じ、社会一般に対しても少なからぬ影響を及ぼしていた。

 A会の政治部門としてB党がある。A会による効率的な投票により、B党は衆参両院にそれぞれ数十人の議員を有し、また、都道府県以下の地方議会には総計で数千人の議員を有している。

 月刊誌Cの記者Yは、 A会を批判する記事を執筆し、Cに掲載した。その中で、多数の信徒を擁するわが国有数の宗教団体であるA会の教義ないしあり方を批判し、その誤りを指摘するにあたり、その例証として、同会会長Xの女性関係が乱脈をきわめており、A会婦人部の幹部でXと関係のあつた女性Dが、Yによって国会に送り込まれていることなどの事実を摘示した。Yは、DA会婦人部幹部であり、Xの推薦により国会議員となっていることは証明した。また、XDの間に男女関係があることの直接的証拠は挙げることができなかったが、約二〇年間にわたり、執筆者として広く綿密にA会を調査して諸情報を収集し、本件記事の主要な事実についてほとんど誤りのないことの確信を得たうえで、本件記事を執筆した。

 XYを名誉毀損で告訴した。

 この事件における憲法上の問題について論ぜよ。

4月24日(2)

インターネットを利用して、不特定の男女が出会えるサイト(出会い系サイト)は、一般に身元や素性を偽って登録することが可能であり、またそれが許容される環境にあるため、それを狙って近年では援助交際、詐欺、恐喝、暴行殺人など様々な犯罪の温床になっている。そこで、国は平成15(2003)に「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」(出会い系サイト規制法)を制定し、特に問題の多い18歳未満の児童を性行為目的で誘い出す書き込みをインターネット上で行なうと行為などを禁じ、罰則化した。その規制の一環として、同法は、インターネット異性紹介事業を次の様に定義した(2条2号)。

「異性交際(面識のない異性との交際をいう。以下同じ。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれに伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信(電気通信事業法 (昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号 に規定する電気通信をいう。以下同じ。)を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供する事業をいう。」

 警察庁では、20081010日に「『インターネット異性紹介事業』の定義に関するガイドライン」を告示し、同法にいうインターネット異性紹介事業とは、具体的には、次の@〜Cのすべての要件を満たすものとした。

@ 面識のない異性との交際を希望する者(異性交際希望者)の求めに応じて、その者の異性交際に関する情報をインターネット上の電子掲示板に掲載するサービスを提供していること。

A 異性交際希望者の異性交際に関する情報を公衆が閲覧できるサービスであること。

B インターネット上の電子掲示板に掲載された情報を閲覧した異性交際希望者が、その情報を掲載した異性交際希望者と電子メール等を利用して相互に連絡することができるようにするサービスであること。

C 有償、無償を問わず、これらのサービスを反復継続して提供していること。

 同法は、この事業を行おうとする者は,事務所の所在地を管轄する都道府県公安委員会に所定の事項を届け出なければならず(7条1項),その届出をしないで同事業を行った者は6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する旨を定めた(32条1号)。

 Xは、同法に違反して、都道府県公安委員会に届け出をせずに、出会い系サイトを運営したため、同法に違反しているとして、逮捕、起訴された。裁判において、Xは、インターネット異性紹介事業に過度に広範な定義を下すことにより、憲法21条の表現の自由を侵害しており、違憲無効であると主張した。

 Xの主張の憲法上の当否について論ぜよ。 

4月17日(1)

 Xは、日本に永住権を持つ中国人である。同じく永住者の在留資格を有する外国人である夫とともに料理店を営んで生活をしていたが、昭和53年頃に夫が体調を崩した後は、夫が所有する建物に居住し、夫の亡父が所有していた駐車場の賃料収入等で生活していた。

 しかし、夫が認知症により入院したことから、Xは生活費の支弁に支障を来すようになった。そこで、Xは、Y県福祉事務所長に対し、生活保護の申請をしたが、同福祉事務所長は、生活保護法第1条が生活保護の対象を国民に限定していることを根拠に、Xが外国人であるとの理由で、同申請を却下する処分(以下「本件却下処分」という。)をした。

 これに対し、Xは、Yを相手取り、生活保護法第1条は、憲法25条及び経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(国際人権A規約)9条に違反しているとして、本件却下処分の取り消しを求めて訴えた。

 Xの主張の当否について論ぜよ。

参照条文

 生活保護法

第一条       この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

国際人権A規約

第九条 この規約の締約国は、社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。

4月10日(0) 憲法41条  

 

 


2013年度 甲斐ゼミ 活動予定表
     
春休み(32)

 Xは成人の日本国民であり、成人後は選挙においては毎回選挙権を行使していた。しかし、ダウン症で中度の知的障害があり、計算が苦手なため、万が一のトラブルを避けるため、父親Aを成年後見人として、後見開始の審判(民法7条)を受けて、平成×年、成年被後見人となった。ところが、公職選挙法11条1項1号が成年被後見人は選挙権を有しないと規定していることから、この時以降、選挙権を付与しないこととされた。

 そこでXは、上記の公職選挙法11条1項1号の規定は、憲法15条3項、14条1項に違反し無効であるとして、行政事件訴訟法4条の当事者訴訟として、原告が次回の衆議院議員及び参議院議員の選挙において投票をすることができる地位にあることの確認を求めた。

 これに対し、Y(国)は次の2点を主張した。

 第一に、公職選挙法は、同法9条の積極的要件を満たすと同時に、同法11条1項1号の「成年被後見人でないこと」等の消極的要件も満たした場合に、初めて選挙権を有する旨規定しているのであるから、同法11条1項1号は、既に認められている法律上の権利を制限する趣旨の規定とは解し難く、同号の規定が違憲無効であった場合に、その制限が解かれて成年被後見人に対し当然に選挙権が付与されるという構造とはなっていない。そうすると、たとえ成年被後見人でないことを選挙権付与の要件とする公職選挙法11条1項1号の規定が違憲無効であると判断されたとしても、同法9条の規定のみから、成年被後見人全般に対して直ちに公職選挙法上の選挙権を付与されるとの解釈を採ることは、適切に選挙権を行使することが期待し得ない者を選挙人団から排除しようとした上記の公職選挙法の趣旨に反し、立法者の合理的意思に合致しないことが明らかであり、この点についての立法府の合理的選択の余地を奪うもので、立法権の侵害に当たる。

 したがって、原告に次回選挙における選挙権があることの確認を求める本件の訴えは、裁判所が法令の適用によって終局的に解決できるものではなく、裁判所法3条に言う法律上の争訟に該当しない。

 第二に、同法11条1項1号が成年被後見人であることを選挙権の欠格事由とした趣旨は、選挙権が選挙人団を構成して公務員を選定する公務としての側面を有する権利であることから、選挙権を行使し、公務員として相応しい者を選定するために最低限必要な判断能力を有さない者については選挙権を付与すべきでないと考えられることを前提に、家庭裁判所において事理弁識能力を欠く常況にある者と判定された成年被後見人は、定型的に見て選挙権を適切に行使することが期待し得ないとして、これを選挙人団から排除したものである。

 X及びYの主張に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。ただし、「成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律」はいまだ成立していないものとせよ。

12月26日(30)

 Xは、Z県Y市の市民である。

 Y市は大都市のベットタウンとしての性格を持つ地域に所在し、新興住宅地を中心に幼い子を持つ夫婦が大量に流入してきているため、幼稚園設置に対する需要が強く存在している。そこで、Y市では子育て支援の充実のため、公立幼稚園を増設しているが、それでは不十分であることが明らかになったため。次のような施策を講じている。

1)私立幼稚園を市内に積極的に誘致するため、Z県が実施する私立学校振興助成法にもとづく私立幼稚園経常費補助事業に加えて、市独自の助成措置を講ずることとした。市内に住所を有する幼児、すなわち、Y市に住民登録をしているか、あるいは外国人登録をしている幼児を1人受け入れるごとに5000円を私立幼稚園に交付することとした。市の私立幼稚園助成要項には、私立幼稚園は、補助金の交付を受けようとするときは、所定の交付申請書に行事関係資料を添付してY市教育委員会に提出すること、幼児教育終了後は、所定の実績報告書に関係資料を添付して同委員会に提出すること、同委員会は、虚偽の申請その他不正な手段により補助金の交付を受けたと認めたときは、既に交付した補助金の全部又は一部を返還させるものとすることなどが定められている。

2)Y市内のA新興住宅地では、幼稚園に対する需要が極めて高い需要があるにも拘わらず、公私を問わず幼稚園が存在していないため、一部の児童が幼稚園に通うことが不可能な状況が発生していた。そして、諸般の事情から、近い将来に公立幼稚園を新設することも困難であるところから、団地自治会が、幼稚園の代替施設として無認可で開設する幼児教室に対して、この前年から、私立幼稚園と同様の助成金を交付している。本件教室は、その規約の定めるところによれば、保護者全員をもってする、権利能力なき社団であって、総会は、全保護者で構成され、多数決の原則が行なわれ、毎年度初めと年度末に開かれ、その各クラスの幼児の保護者2名ずつと代表委員1名と職員代表3名をもって構成する運営委員会が平常業務を遂行し、その定例会が月1回開かれ、代表委員は11年交替で監査委員2名が運営委員会の業務遂行と財産状況の監査をし、各委員は年度途中で幼児が在園しなくなれば直ちに交替することになっている。

 Xは、○○51日に、私立幼稚園及び幼児教室への助成金の交付は憲法89条に違反するとして、地方自治法242条に従い、市監査委員に対し、前年までに支払い済みの私立幼稚園に対する助成金計400万円及び幼児教室に対する助成金計50万円の返還を求めると共に、同年予算計上額幼稚園に対する助成金計100万円及び幼児教室に対する助成金計50万円の支払防止のため、しかるべき勧告を求めて監査請求を行った。

 しかし、監査委員は、私立幼稚園及び幼児教室には公益性があるから、これら支出に不当性はなく、本件監査請求は理由がないと判断し、同年620日にその旨をXにあて通知し、かつ、公表した。そこで、Xは同年7月1日に、地方自治法242条の2に従い、予算執行の差し止め並びにY市長に対し交付済み助成金のY市に対する返還を求めて訴えを提起した。

 本件助成金が憲法89条に違反するものか否かについて論ぜよ。

12月20日(29)

 テレビ局Xは、…年の衆議院議員選挙の際、A党党首BがC県で選挙演説を行い、多数の市民がそれを聴きに来ている模様を、取材クルーを派遣して撮影していた。Bの演説に強い反発を感じた市民Yは、声高にBを非難するヤジを飛ばし、手に持っていたA党の宣伝ビラを丸めて投げつけたところ、それがBの顔をかすめた。そこで、その場の警備に当たっていた警察官ZがYを取り押さえ、暴行罪の現行犯として逮捕した。 

 Yは、Zの逮捕行為に全く抵抗しなかったにも拘わらず、Zは、逮捕に当たり、Yを地面に引き倒し、その両手を後ろに回して手錠を掛け、その後に、倒れたままのYの腹部を足で数回蹴とばした。このため、Yは全身数ヶ所に擦過傷を負ったばかりでなく、腹部に全治1ヶ月の打撲傷を負った。

 テレビ局Xの取材クルーは、演説の開始から逮捕にいたる全過程を撮影していた。しかし、Xのニュース番組では、Yが投げたビラを丸めた紙が演説中のBをかすめる場面を放映したにとどまり、YがZにより逮捕された場面は放映しなかった。

 Yは、Zから受けた暴行を、特別公務員暴行陵虐罪に当たる行為であるとして、C地方検察庁に告訴した。その事実を捜査する一環として、検察官Dは、Xに対し、事件当日に取材クルーが撮影したフィルムの任意提出を求めたが拒否されたため、裁判官Eの発した差し押さえ令状に基づき、未編集のものも含め、当該クルーが当日現場で撮影したフィルム全部を差し押さえた。

 これに対して、Xは、この処分に不服であるとして、処分の取り消しを求める準抗告を提起した。

 本件差し押さえ処分にかかる憲法上の問題点を論ぜよ。

12月13日(28)

 Xは、ヘルパーとして介護施設にパートタイムで勤務する女性であるが、平成×年、裁判員として選任され、A地方裁判所において強盗殺人事件の裁判員裁判で裁判員を務めた。事件では、死刑判決が下されている。

 Xは、評議を含む9日間の全日程に参加したが、証拠として殺害現場のカラー写真がモニターで提示され、また、被害者が命乞いする119番の音声も聞かされた。これらを見聞きしたXは審理中に嘔吐し、その後も頭がぼんやりして食事がのどを通らず、夜も写真などがフラッシュバックして就寝中に何度も目が覚めるなどの症状が出た。このため、医師により急性ストレス障害と診断され、勤務を休んで治療に専念せざるを得なくなった。その結果、勤務していた介護施設から、体調不良を理由にパート契約の終了を通知された。

 そこで、Xは裁判員制度を「意に反する苦役」として違憲と主張、裁判員法を成立させた国会議員に「重大な過失がある」として、国家賠償法に基づき、国(Y)を相手取り、損害賠償を請求した。

 Xの主張に含まれる憲法上の問題について論ぜよ。

12月6日(27) 裁判の公開について論ぜよ(裁判所事務官試験問題)
11月29日(26) 中国での学会のため、休講  
11月22日(25)

 民事訴訟法学の泰斗、兼子一は、違憲判決の効力について、次のように論じている。

「憲法第81条が、最高裁判所に違憲問題に関する最終の決定権を認めていることから、これは最高裁判所の判決に通常の訴訟法上の効力とは別に、憲法がその判断を一般的に妥当させるために特別の効力を付与したものとして、違憲決定判決により、その法令等はその制定が取り消されて無効となり、したがって、国会も行政機関もまた裁判所自身もこれに拘束されて、以後これを有効と取り扱うことができなくなる〈中略〉違憲決定判決の理由で示された限度で、法令等は遡って無効となる。法令の無効は当初に遡及するから、判決以前に生じた事項についても適用できないこととなるだけでなく既にその法令を適用した処分も無効となり、またその法令を有効として適用した民事の確定判決に対しては、これによって不利益を受けた当事者は再審を申し立てることができる(民訴42018号の類推)し、刑事の確定判決に対しては検事総長は非常上告(刑訴454条)をすべきものと解すべきであろう。」(兼子一『裁判法』有斐閣法律学全集34巻 78頁より引用)

 違憲判決の効力はいかにあるべきかについて自説を述べ、それを基準にこの説の当否を論ぜよ。

11月15日(24) 法の下の平等について説明したうえ、平等原則違反の違憲審査基準について論ぜよ。(裁判所事務官試験問題)
11月8日(23)

法律上の争訟について説明したうえ、法律上の争訟に当たらないとされる具体例を述べよ。(裁判所事務官試験問題)

11月1日 学部祭のため休講  
10月25日(22)

 国会議員が院内で人の名誉を侵害する発言をした場合、民事上、刑事上の責任を問われるか。また、所属議院において、右発言を理由に除名の決議がなされた場合、当該議員はその決議の効力を訴訟で争うことができるか。地方議員の場合と対比して、憲法上の観点から論ぜよ。(平成6年 司法試験問題)

10月18日(21) 二院制の賛否、衆議院の優越について(裁判所事務官試験問題)
10月11日(20) 学会出席のため休講  
10月4日 大学創立記念日  
9月27日(19)

 次のものはA君のサブノートの一部である。

「我が憲法は、国会議員を『全国民を代表する』と定め(43)、『全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない』とし(15)、その結果、命令的委任を禁じている(51)。したがって、どれほど重大な問題であったとしても、特定の問題について、国民(有権者)の意見を問うために衆議院を解散することは、自由委任の原則に反し、違憲である。ただし、憲法は権力分立制を採用しているから、国会と内閣は対等である。それなのに、国会に内閣不信任権を認めているので、その濫用を防ぐため、内閣側に衆議院解散を認めることが、両者の均衡を保つ上で必要である。したがって、憲法69条に基づく解散だけは許される。」

 諸君としては、これに対し、7条解散も許されると論じたい。どのように論じたらよいか、述べなさい。

9月21日(18)

 Aは生業に就かず、自らの全財産を処分して賭博にふけっており、妻浦和充子と3人の子を顧みないため、浦和充子は、前途を悲観して、1948(昭和23)年47日、親子心中をはかり、3人の子供を絞殺したが、自分は死にきれず自首した。

  この妻浦和充子に対し、浦和地裁は「犯行動機その他に情状酌量すべき点がある」として懲役3年・執行猶予3年の判決を下した。

  これに対し、翌年5月から「裁判官の刑事事件不当処理等に関する調査」を行ってきた参議院法務委員会は、同年10月、これを「検察及び裁判の運営に関する調査」とあらため、翌年3月、当該事件を取り上げ、被告人である母親や元夫、担当検事らを証人として呼び出し、調査した結果を同年5月「裁判官の刑事事件不当処理等に関する調査」の報告書にまとめ、「検察官および裁判官の本件犯罪の動機、その他の事実認定は不満足であり、執行猶予付きの懲役3年の刑は軽きに失し当を得ない」と結論づけた。

  この動きに対し、最高裁判所は、「司法権は憲法上裁判所に専属するものであり、法務委員会が、個々の具体的裁判について事実認定もしくは量刑等の当否を精査批判し、又は司法部に対し指摘勧告する等の目的をもって、前述の如き行動に及んだことは、司法権の独立を侵害し、まさに憲法上国会に許された国政に関する調査、いわゆる国政調査権の範囲を逸脱する措置といわねばならない」として強く抗議した。

  これに対して参議院法務委員会は次のような声明を行った。「国会は、国権の最高機関で、国の唯一の立法機関である。国政調査権は単に立法準備のためのみでなく、国政の一部門である司法の運営に関し調査批判する等、国政の全般にわたって調査できる独立の権能である。司法権の独立とは、裁判官が具体的事件を裁判するにあたって、他の容かい干渉を受けないことで、したがって、現に裁判所に係属中の訴訟事件の調査は問題があるとしても、すでに確定判決を経て、裁判所の手を離れた事件の調査のようなものは、司法権の独立を侵害するものではない」。

  上記に係る最高裁判所と参議院法務委員会の、司法権の独立に関する見解の相違について憲法上の問題について論ぜよ。

9月13日(17) 憲法41条について論ぜよ  
夏休み(16)    
夏休み(15)

 株式会社Yでは、これまで男女ともに従業員の定年を60歳と定めていた。しかし、 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律が改正され、平成25年4月1日から 定年を65歳に引き上げる等の措置を執らねばならないことになった。そこで、Yでは、定年を、男性については70歳、女性については65歳とする改正を行うこととした。

 Yの女性従業員Xは、この定年制改正は合理的な理由無く男性と女性を差別するものであるから、憲法14条に違反するとして、女性についても70歳を定年とするべきであると主張した。

 これに対し、Yは、憲法の定める人権は対国家的権利であって、私人間では効力がないので、Xの主張は根拠がないと反論した。

 X及びYの主張の、憲法上の当否について論ぜよ。

参照条文 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律

第9条  定年(65歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。

 当該定年の引上げ

 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入

 当該定年の定めの廃止

7月19日(14)

  アメリカ合衆国国籍を有するXは、英語教師として就業するために日本に入国しそれ以降10年に渡り沖縄で生活してきた。その間、Xは、米国の普天間飛行場移設政策は誤っていると考え、それに反対するデモや集会に参加した。ただし、デモは警察の許可を得て平穏に行われ、当然、Xもそのでも更新したことにより、逮捕されたり、起訴されたりしたことはない。

 平成○年、在留期間の更新を申請したところ、法務大臣Yは、Xが上記デモ等への参加したことを理由に、出入国管理法213項に言う「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がある」場合に該当しないとして、更新を拒否された。

Xは、本件拒否処分は、国際人権B規約192項、日本国憲法211項の表現の自由を侵害すると主張し、在留期間更新不許可処分取消を求めて訴えを提起した。

     本件に含まれる憲法上の問題点を論ぜよ。

   

    <参考条文 出入国管理及び難民認定法>

第二十一条  本邦に在留する外国人は、現に有する在留資格を変更することなく、在留期間の更新を受けることができる。

2  前項の規定により在留期間の更新を受けようとする外国人は、法務省令で定める手続により、法務大臣に対し在留期間の更新を申請しなければならない。

3  前項の規定による申請があつた場合には、法務大臣は、当該外国人が提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができる。

4  略。

7月12日(13)

 財団法人A政治協会(以下「A政治協会」という。)は,政党Aの政治資金規正法上の政治資金団体である。

 平成○年初め,A党から,B社等の同業企業で組織しているC協会に対し,政治献金を年額数千万円程度、行って欲しい旨の打診があった。この打診を受けて、B社の調査部課長は、他の大手4社の担当者と協議を行い、総額を6000万円とし、B社自身の分担額額は1331万円とする目安を取りまとめ、A党及び各社に連絡した。

 上記協議結果に基づき、A政治協会から、B社に対し1331万円の政治献金の要請があり、B社では,職務権限規定に遵い,代表取締役社長Yが、上記協議の経緯及び内容を踏まえた上で、同年425日決裁し、同月28A政治協会に対し、1331万円の政治献金をした。

 本件政治献金について、B社では、損益計算書上、経常費用の部の事業費に計上し、附属明細書上「事業費の明細」中の一般管理費の1項目である物件費の一部として計上している。本件政治献金について独立した項目を立てていないから、その有無及び金額を附属明細書から知ることはできない。

 B社の株主であるXは、 Yに対し、B社の定款には政治献金を許容する規定がないことを根拠として、会社の目的外行為であるとして、上記政治献金相当額をB社に支払うこと、及びYは今後、B社の代表取締役として,政党,政党の支部,政治資金団体に対し,寄附をしてはならないことの確認を求めて訴えを提起した。

 この事案における憲法上の問題点を指摘し、論ぜよ。

7月5日(12)

(1)昭和22年に最初に参議院議員選挙が行われた時点では、公職選挙法という統一的な法典ではなく、参議院議員選挙法が制定された。同法は、参議院議員総数を250人とし、これを全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し、地方選出議員については、その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め、都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして、各選挙区ごとの議員定数については、定数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下に、昭和21年当時の人口に基づき、各選挙区の人口に比例する形で、2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。

 地方選出議員については、昭和25年に制定された公職選挙法の参議院議員定数配分規定は、上記参議院議員選挙法の規定をそのまま引き継いだものであり、その後、沖縄返還に伴って沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは、平成6年公職選挙法の改正まで、上記議員定数配分規定に変更はなかった。

 選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は、参議院議員選挙法制定当時は1対2.62であったが、その後、次第に拡大した。昭和52年に施行された参議院議員通常選挙では最大1対5.26に拡大したが、最高裁昭和58年大法廷判決は、いまだ違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示した。平成4年に施行された参議院議員通常選挙では最大1対6.59に拡大したところから、最高裁平成8年大法廷判決は、結論において同選挙当時における上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ない旨判示した。

 これに対し、国会では平成6年に直近の平成2年実施の国勢調査結果に基づき、8増8減の修正を行った結果、最大較差は1対4.81に縮小した。

 公職選挙法の平成12年改正により、地方選出議員の定数を6人削減して146人とし、直近の平成7年実施国勢調査結果に基づき調整した結果、最大較差は1対4.79となった。

 同改正法の下において平成13年に施行された参議院議員通常選挙では最大較差は1対5.06となったが、これに対し最高裁平成16年大法廷判決は、その結論において、同選挙当時、上記議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが、同判決には、判事6名による反対意見のほか、漫然と同様の状況が維持されるならば違憲判断がされる余地がある旨を指摘する判事4名による補足意見が付された。

 平成16年大法廷判決を受けて、国会では、当面の是正策としては、平成17年実施の国勢調査結果に基づき、4増4減を実施した結果、最大較差は、1対4.84に縮小した。

 平成22年に上記改正規定の下での2回目の参議院議員通常選挙が行われたが、この時には最大較差は1対5.00に拡大していた。

 最高裁判所平成24年大法廷判決は、「現行の選挙制度は、限られた総定数の枠内で、半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に、都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという仕組みを採っているが、人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で、このような都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っているものというべきである。」と指摘し、「本件選挙が平成18年改正による4増4減の措置後に実施された2回目の通常選挙であることを勘案しても、本件選挙当時、前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は、投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており、これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない」と述べつつも、結論としては、諸般の事情を考慮した結果、「本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。」とした。

 これに対し、国会では平成2411月に参院については44減を実施することにより、最大格差は1対4.75倍に縮小させるが、それ以外の選挙制度そのものについては何も修正しない改正案を可決した。257月に実施される参院選から「44減」が適用される。

(2) Xは、25年7月の参議院議員選挙後に、最高裁判所が違憲状態としたにもかかわらず、最高裁の求める抜本改正を行わないままに行われた選挙は憲法違反であり、無効であるとする訴えを提起する予定である。

 Xの訴えの憲法上の問題点について論ぜよ。

6月28日(11)

X10人は、日本の現状を憂え、これを改革するには革命を起こすしかないと考えた。革命を成功させるためには、日本の治安を乱すことが大事であると考え、交番や派出所で警察官が1人で立哨しているのを発見すると、数人で襲撃し、殴る蹴るの暴行を加えることと決め、この計画に基づいて、○○年1月、A派出所を襲撃し、立哨していた警察官に暴行を加えたのを皮切りに、合計10箇所で同様の事件を起こした。

 他方、C等が日本の現状に対する抗議集会を○○年2月にB市で開催し、これと思想を同じくするX10名は全員がこの集会に参加していた。集会は、次第に過激化し、約300名が隊伍を整え旗、プラカード等を押立て或はスクラムを組み「ワッショイ、ワッショイ」と口々に喚声を発して集団示威行進を開始し、B警察署の前に来るとこれに投石し、構内に乱入して右構内をジグザグ行進をしつつ、施設に放火し、パトカー数台を損壊した。

 この事件で逮捕されたX等は、A派出所等襲撃事件及びB市における騒擾事件という二つの事件の被告として起訴された。

 X等に対し、A派出所等襲撃事件に対して当初○○年11月に第一回公判が開かれたが、その後、はるかに規模の大きい重大事件であるB市騒擾事件の審理が優先されたため、その審理に費やされた約16年間というものは、A派出所等襲撃事件に関しては全く公判が開かれることなく過ぎた。

 16年が過ぎて、ようやくB市騒擾事件の判決が下ったので、改めてA派出所襲撃事件の公判期日が指定された。その公判期日において、X等は、憲法371項は、刑事被告人に迅速な裁判を受ける権利を保障しているところ、裁判所の都合により16年余も放置されていたことは、この権利を侵害している。したがって、刑事訴訟法3374号を準用して免訴とするべきである、と主張した。

 これに対し、検察官Yは、次の様に主張した。

 本件公判が著しく遅延したことは認めるが、しかし、現行刑訴法には裁判の遅延から被告人を救済するなんらの規定も見当らない。それ故、裁判が迅速を欠き、そのため被告人の憲法上の権利が侵害されたとしても、場合により係官の責任の問題が生ずるかも知れないが、それだけの理由で免訴ないし公訴棄却の形式裁判により訴訟を打ち切るというような訴訟法的効果を生ずるものとは解せられない。裁判の遅延からいかなる方法をもつて被告人を救済するかは、憲法41条の定めるところに従い、立法により解決されるべき問題であり、法解釈によってこれを救済する余地はないものといわなければならない。いいかえると、刑事被告人の迅速な裁判を受ける憲法上の権利を現実に保障するためには、いわゆる補充立法により、裁判の遅延から被告人を救済する方法が具体的に定められていることが先決である。ところが、現行法制のもとにおいては、未だかような補充立法がされているものとは認められないから、裁判所としては救済の仕様がないのである。したがって、請求通り公判を行うべきである。

 X及びYの主張の憲法上の問題点について論ぜよ。

 

参照条文

 刑法

204条  人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

208条  暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

 刑事訴訟法

2502項 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。

一  死刑に当たる罪については二十五年

二  無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年

三  長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年

四  長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年

五  長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年

六  長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年

七  拘留又は科料に当たる罪については一年

337条  左の場合には、判決で免訴の言渡をしなければならない。

一  確定判決を経たとき。

二  犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。

三  大赦があつたとき。

四  時効が完成したとき。

6月21日(10)

 世界的に著名な小説家Yは、雑誌Aに○○年一月号から同年一〇月号にわたって小説Bを連載執筆した。

 この小説Bは、次の様な筋の話であった。「Cという、かつては外務大臣にもなり戦後衆議院議員に当選した男が、革新党から推されて知事選挙に立候補した。Cは有力候補であつたので、保守党の対立候補の擁立は人選難に陥り、Cは当初は有利に選挙戦を展開した。Cの妻Dは、少女時代から苦労を重ねて、ついに著名な料亭の女将となった女性である。保守党では、Dの経歴、行状を誹謗した怪文書を選挙戦の最中にばらまいてCの人気を落とす戦術に出た。またCは選挙の終盤戦で資金がなくなり、反対に保守党からは多額の買収資金が投入され、さらに投票日前日に『C危篤』のビラがまかれたりした。結局知事選挙は保守党の謀略と金の勝利に帰し、Cは惜敗した。Dは、CのためにCに隠れてその所有する料亭を抵当に入れて選挙資金をつくるべく奔走したため、同料亭は休業するに至った。しかし怪文書がばらまかれたために選挙がCの敗北に終ったのち、DCと離婚し、料亭を再開した。」

 このような筋はXの主要経歴と同じであり、このことは世間周知の事実であり、しかも直前に行われた知事選挙でXの主要経歴は広く知られているため、この小説Bの主人公はまさにXであるとの印象を一般の読者に与えることは明白であった。そこでXは雑誌Aに苦情を申し立て、Aはこれを認めて小説Bを単行本とすることを取りやめた。

 これを奇貨として、出版社ZYに申し入れてその了解を取り、小説BZから単行本として刊行することとした。そしてZは刊行にあたり、「注目の長篇モデル小説」「トップクラスの批評家が『モデル小説の模範』というのです。素材になった元外相と料亭の女主人、そして知事選挙という公知の現実が、これほど作品の中で変貌し、芸術的に昇華すると、読者は文句なしに、相寄り相容れなかつた二つの人間像に、そして女主人公の恋の悲劇に感動するでしよう。」といつた表現を用いて宣伝した。

 そこで、XY及びZを被告とし、小説B単行本の発行差し止めとプライバシーの権利侵害に基づく精神的損害に対する賠償を求めて訴えを提起した。

 この訴えに含まれる憲法上の問題について論ぜよ。

6月14日(9)

 X県の繁華街であるA地区では、犯罪が多発し治安が著しく悪化したことから、XではA地区住民多数の陳情を受けて、同地区内のXが管理する主要な通りに網羅的に監視カメラを設置した。その際、XはA地区に居住する住民からボランティアを募り、日替わりでそのカメラのモニターを監視するとともに、録画することとした。録画したビデオフィルムは、A地区商店街事務所の施錠されている金庫内に1週間保管した後、再び録画に利用し、上書きすることで消去することとした。

  A地区に居住するYは、○○年5月、自宅玄関先の路上で妻と口論の末、妻に対して暴力をふるったところを、監視カメラに映されてしまった。その情報がどのような経緯で一般に知られるに至ったかは不明であるが、結果として、Yの家庭内暴力行為が監視カメラに写されたということがA地区で噂になり、Yやその妻は、近所に買い物に行くのも苦痛なほどの注目を近隣住民から集めるに至った。

  そこでYは、Xの行った監視カメラの設置・管理が不適切であることにより、精神的損害を被ったとして、Xを相手取り訴えを提起した。

  本問における憲法上の問題点を論ぜよ。

6月7日(8)

 株式会社Xは、福島県において、監視カメラや身分証のチェックで、本人確認、年齢確認が行える独自のシステムを導入した機械を設置し、これにより卑猥な姿態、性交、またこれに類する描写のあるDVDを販売することを生業としていた。そして、このDVDは福島県青少年健全育成条例18条により有害図書と指定されていた。

 このような有害図書等を自動販売機で販売しようとする場合には、同条例20条の3により県知事に届け出をしなければならない。

 しかし、Xの設置した販売機は、上記の通り、遠隔地にあるセンターから監視カメラ等により監視している者が、18歳以上と確認できない場合は身分証の提示を求めるシステムを作動させ、販売しないように管理されているため、対面販売と同様に確認できるシステムであるとして、この機械を設置する際、知事に届け出をしなかった。

 しかしながら、 監視センターの各モニター画面は20型サイズであり(画素数は10万画素)、画像はある程度鮮明であるが、ピントがやや甘くややぼんやりしており、顔の細かい部分は不鮮明で塊としてしか確認できないものであった。さらに 通常は1人の監視員が3台のモニターを担当することになっているが、監視員は交替で休憩をとるから、時には15台のモニターを2人で監視することもあった。このような状況のもと、18歳未満か否か不明なグレーゾーンの客であっても販売許可ボタンを押し、着信をなるべく多く受け付け、その場合でも着信表には年齢を20代と記載するよう運営されていた。

 このため、設置から1月経過したとき、Xは、有害図書の販売を自動販売機で行ったとして、同条例34条により起訴された。

 これに対し、Xは、同条例20条の3は、青少年に健全な育成を阻害する行為を規制する目的で立法されたものであり、これを考えれば、店員と客が直接対面して青少年に有害図書を販売する、いわゆる書店販売は知事への届け出義務が課されていないのに、Xの機械は実質的に対面販売となっているにもかかわらず、監視システムを導入していない自動販売機と同等に取り扱われ、設置に知事の届け出が課されるのは、憲法14条及び21条に違反するとして主張した。

 Xの主張の憲法上の当否について論ぜよ。

5月31日(7)

 絶対平和主義を教義とするA教の信者であるXは、平成○○年にB県立C高等学校に入学した。B県においては、高校に関し学区制がとられているため、Xとして、県立高校に進学を希望する場合には、C校に進学する他はない。

 C校においては学年制が採られており、生徒は各学年の修了の認定があって初めて上級学年に進級することができる。同校の学業成績評価及び進級並びに卒業の認定に関する規程(以下「進級等規程」という。)によれば、進級の認定を受けるためには、修得しなければならない科目全部について不認定のないことが必要である。そして、ある科目の学業成績が100点法で評価して60点未満であれば、その科目は不認定となる。また、進級等規程によれば、休学による場合のほか、生徒は連続して2回原級にとどまることはできず、B県立高等学校学則及び退学に関する内規(以下「退学内規」という。)では、校長は、連続して2回進級することができなかった学生に対し、退学を命ずることができることとされている。

 C校では、健全なる精神は健全なる肉体に宿るという教育理念の下、保健体育が全学年の必修科目とされており、Xが入学した平成○○年から、第1学年の体育科目の授業の種目として柔道が採用された。柔道の授業は後期において履修すべきものとされた。

 A教の教義では、単に他者に対して危害を加えることを禁じるばかりでなく、その模擬動作というべき格闘技を行うことも禁じていた。そこで、Xは、柔道の実技に参加することは自己の宗教的信条と根本的に相いれないとの信念の下に、柔道の授業が開始される前の平成○○年4月下旬、体育担当教員らに対し、宗教上の理由で柔道実技に参加することができないことを説明し、レポート提出等の代替措置を認めて欲しい旨申し入れた。申し出を受けて、C校長Yは、体育担当教員らと協議をした結果、Xに対して実技に代わる代替措置を採らないことを決めた。Xは、後期に開始された柔道の授業では、服装を替え、サーキットトレーニング、講義、準備体操には参加したが、柔道実技には参加せず、その間、道場の隅で正座をし、レポートを作成するために授業の内容を記録していた。Xは、授業の後、右記録に基づきレポートを作成して、次の授業が行われるより前の日に体育担当教員に提出しようとしたが、その受領をその都度拒否された。

 その結果、体育担当教員は、Xの実技履修に関しては欠席扱いとし、準備体操を行った点のみを評価し、第1学年の前期にXが履修した他の体育種目の評価と総合して被上告人の体育科目を42点と評価した結果、体育に関しては不認定となった。そこで、Xに対し、柔道実技の補講を行うこととし、通知したが、Xはこれに参加しなかった。そのため、進級認定会議において、Xは進級不認定と決定されたので、Yは、Xを第2学年に進級させない旨の原級留置処分をし、被上告人及び保護者に対してこれを告知した。

 翌年度においても、Xの態度は前年度と同様であり、学校の対応も同様であったため、Xの体育科目の評価は総合して48点とされ、実技の補講にも参加しなかったため、Xは、進級認定会議において進級不認定とされ、Yは、Xに対する再度の原級留置処分を決定した。また、同日、表彰懲戒委員会が開催され、Xについて退学の措置を採ることが相当と決定された。Yは、自主退学をXに勧奨したが、Xがこれに従わなかったため、2回連続して原級に留め置かれたことから学則に定める退学事由である「学力劣等で成業の見込みがないと認められる者」に該当するとの判断の下に、退学処分を告知した。

 これに対し、Xは、柔道以外の体育種目については受講に特に不熱心であったという事実はなく、またXの体育以外の成績は優秀であり、授業態度も真摯なものであったので学則に該当しないとして、退学処分の取り消しを求めてYに対し訴えを提起した。

 これに対し、Yは、高等学校の校長が生徒に対し原級留置処分又は退学処分を行うかどうかの判断は、校長の合理的な教育的裁量にゆだねられるべきものであり、Xに対し、宗教上の理由から特別扱いをすることは憲法20条の定める政教分離原則に違反し、許されないものであるから、校長の裁量は合理的なものであったと主張した。

 Yの主張の憲法上の当否について論ぜよ。

5月24日(6)

 一般旅券を有するXに対し、外務大臣Yは、平成○年7月29日に「一般旅券返納命令書について」と題する文書を発した。同文書には、Xが昭和○○年以来北朝鮮工作員と認められる人物と海外において接触し、その指示により情報収拾活動を行っていた等の事実にかんがみ、Xは旅券法131項七号にいう「著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞れがあると認めるに足りる相当な理由がある者」であることが、本件一般旅券の発行後に判明したとして、旅券法191項一号の規定に基づき、Xが所持する本件一般旅券を返納すること命じるとともに、その旅券が81日までに返納されなかったときは、その旅券は効力を失うとともに、Xは旅券法231項六号の規定により罰せられることがあること、この処分に不服のある場合は行政不服審査法の定めるところに従い、この処分があった翌日の起算通知日から起算して60日以内に外務大臣に審査請求することができる旨記載してあった。

 これに対し、Xは、本件旅券返納命令処分は、それに先行してXに告知聴聞を行っていない点において、憲法31条の定める適正手続に違反し無効であるとして、その処分取り消しを求めて訴えを提起した。

 本件訴訟において、YXに次の様に反論した。

 憲法31条による保障は、刑事手続に関するものであって行政手続には及ばない。仮に行政手続に及ぶと解すべき場合であっても、当該行政処分に事前の告知聴聞が必要か否かは、その処分により制限を受ける権利利益の内容、制限の程度、その処分が達成しようとする公益の内容、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではない。これを旅券法131項七号に該当することを理由とする旅券返納命令についてみると、これにより実質的に侵害される利益は憲法上保障される海外渡航の自由という重要なものであるが、同命令によって達成しようとする公益は、日本国の利益及び公安という、正に国家的ないし国際的見地からその確保が極めて強く要請されるものであって、緊急性を有するものである。かかる点を総合較量すれば、同命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、旅券法191項の規定が憲法31条の法意に反するものということはできない。

 X及びYの主張の憲法上の当否について論ぜよ。

参照条文 旅券法

第十三条  外務大臣又は領事官は、一般旅券の発給又は渡航先の追加を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には、一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる。(一〜六略)

 前各号に掲げる者を除くほか、外務大臣において、著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者

第十九条  第1項 外務大臣又は領事官は、次に掲げる場合において、旅券を返納させる必要があると認めるときは、旅券の名義人に対して、期限を付けて、旅券の返納を命ずることができる。

 一般旅券の名義人が第十三条第一項各号のいずれかに該当する者であることが、当該一般旅券の交付の後に判明した場合(二号以下略)

 第3項 第一項の規定に基づき同項第一号又は第二号の場合において行う一般旅券の返納の命令(第十三条第一項第一号又は第六号に該当する者に対して行うものを除く。)については、行政手続法 (平成五年法律第八十八号)第三章 の規定は、適用しない。

第二十三条  次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 (一〜五、七略)

 第十九条第一項の規定により旅券の返納を命ぜられた場合において、同項に規定する期限内にこれを返納しなかつた者

5月17日(5)

 Y市に居住する夫婦であるA及びBは、いずれも体が弱く、十分に就労することができないことから、生活保護の対象となっていた。

 生活保護法(以下「法」という)による保護は、夫婦及びその子弟等で構成される世帯を単位として、保護の必要があるか否かが認定されることとなっている。法は、生活保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われるものとしている(41項)。これがいわゆる補足性の原理で、その具体化として、保護は、厚生大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとしている(81項)。また、保護の種類は、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、出産扶助、生業扶助及び葬祭扶助の7種類と定められており(111項)、各類型ごとに保護の行われる範囲が定められている。したがって、既に保護を受けている被保護者が新たに資産や収入を得た場合も、法81項に基づき被保護者の収入として認定し、それに応じて保護費を減額するのが許されることは当然のことであり、このような変更処分は、法56条の正当な理由があるということになる。

 生活保護世帯の子弟の高校進学に関しては、当初は、子弟(修学者)の生計を当該保護世帯から分離するいわゆる世帯分離によって高校修学を容認する方法がとられたため、教育費(高校修学の費用)だけでなく修学者の生活費も保護の対象とならず、高校に修学するためには、自ら又は他からの援助によってこれらの費用をまかなうことができる場合に限られた。その後、高校修学が被保護世帯の自立助長に資するとの観点から、昭和36年以降、世帯内修学、すなわち子弟が被保護世帯と生計を共にし、したがって、生活費等について保護を受けながら高校修学を認める運用がされるようになり、その対象となる学校の範囲も順次拡大されていった結果、昭和45年にはすべての高校について、さらに昭和51年には高校に準ずる各種学校についてそれぞれ世帯内修学が一般的に認められるようになった。また、教育費調達先の要件も緩和され、修学費用に充てる目的で他から修学者に対して恵与された収入等については、これを最低限度の生活を維持すべき収入として扱わない旨の収入認定除外の運用がされるようになったため、子どもの稼働能力を活用しなくとも、被保護世帯の子弟が高校に進学することができる余地が広がった。

 しかし、高校修学のためには、学費等の学校教育費のほか、制服制帽等の購入費や通学費などの間接的な経費を要する(これらの経費は生活保護の対象とされていない)上、入学に際しては、受験料、入学申込金、施設費及びその他の校納金等のまとまった金員を要し、特に私立高校に修学する場合には、その金額も多額であるところ、これらの費用に充てるため各種の奨学金や貸付金の制度を利用するにしても、その対象者が成績優秀者に限られていたり、借受けについて保証人を要するなどその要件が厳格であるほか、金額の点でも、また、貸付け時期の点でも、一般の被保護世帯が、これらの制度を活用することによってその子弟を高校に修学させるのは、事実上、困難な状況にある。

 そこで、Aは、当時3歳の長女Xを被保険者として、郵政省の保険全期間払込18歳満期の学資保険(保険料月額3000円、満期保険金50万円)に加入した。この保険料の原資は、生活保護による給付金等であった。学資保険は、郵政省を事業主体とし、子を被保険者、親を契約者とする養老保険の一種であって、本件18歳満期コースでは被保険者が高等学校に入学する15歳の時に、保険金の1割に当たる生存保険金(お祝い金)が支払われ、卒業期の18歳の時に満期金が支払われる仕組みになっていた。

 Aは、Xの高校進学に当たり、本件学資保険から5万円のお祝い金を受け取ったほか、学資保険を担保として郵政省から20万円を借り受け、これらにより、Xの高校進学に伴う経費を賄った。その後も、Aは毎月、保険料を支払うとともに、借入金の返済を行った。その結果、Xが18歳になった時点で、Xは満期金50万円から、未返却借入金を差し引いた44万余円を受領した。

 これに対して、Y市では、この満期金を本件世帯の収入と認定し、それ相当額を、満期金受領月から半年間に案分して、毎月の給付金を減額するとする保護変更決定処分を下した。これに対して、Xは、この処分は憲法25条及び26条の権利を侵害しているとして、その取り消しを求めて、訴えを提起した。

 本件における憲法上の問題点について検討せよ。

5月10日(4)

 Xは、平成○○年、AB市で、既存の公衆浴場から45m離れたところに公衆浴場を新築し、公衆浴場法21項にしたがい、A県知事に対し営業の許可を求めた。しかし、A県公衆浴場法施行条例に定める距離制限に抵触するところから、「配置の適正を欠く」として不許可処分を受けた。しかし、Xは無許可で営業を始めたため、公衆浴場法8条に基づき起訴された。

 これに対しXは、営業の許可制を定めている公衆浴場法とA県条例は憲法の保障する営業の自由を侵害し、違憲であると主張した。

 Xの主張に含まれる憲法上の論点について論ぜよ。

 

参考条文

公衆浴場法

第二条  業として公衆浴場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。

2  都道府県知事は、公衆浴場の設置の場所若しくはその構造設備が、公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは、前項の許可を与えないことができる。但し、この場合においては、都道府県知事は、理由を附した書面をもつて、その旨を通知しなければならない。

3  前項の設置の場所の配置の基準については、都道府県(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市又は特別区。以下同じ。)が条例で、これを定める。

4  都道府県知事は、第二項の規定の趣旨にかんがみて必要があると認めるときは、第一項の許可に必要な条件を附することができる。

第八条  次の各号の一に該当する者は、これを六月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。

一  第二条第一項の規定に違反した者

 

A県公衆浴場法施行条例第四条

 法第二条第三項の設置の場所の配置の基準は、一般公衆浴場の敷地が他の一般公衆浴場(その経営について法第二条第一項の許可がされているものに限る。以下「既設の一般公衆浴場」という。)の敷地から、市の区域にあってはおおむね二百メートル以上、その他の区域にあってはおおむね二百五十メートル以上離れていることとする。ただし、既設の一般公衆浴場との間が橋りょうのない河川又は踏切のない鉄道等で遮断されている場合、既設の一般公衆浴場の周辺に公営住宅等がある場合その他の特別な事情がある場合であって、知事が衛生上支障がないと認めるときは、この限りでない。

 
4月26日(3)

 Xは台湾人で、戦前は日本国籍を有していたが、第2次大戦後、日本政府により一方的に中国国籍に変更された。平成○○年に実施された衆議院議員選挙の際、Xは是非投票したいと考え、選挙人名簿を縦覧したが、自分の名前を見出すことができなかった。そこで、選挙管理委員会に対し公職選挙法24条に基づき、選挙人名簿に登録することを求めて異議の申出をした。しかし選挙管理委員会に、日本国籍を有しないので公職選挙法9条及び21条により、本件選挙の投票を行うことができない旨告げられ、結局本件選挙で投票することができなかった。そこでXは、Xの同意を得ずに行った国籍の剥奪は無効であり、したがってXは日本国民であること、仮に国籍法上は日本国民ではないとしても、生まれて以来、数十年にわたって日本国に居住し、日本国の支配を受けてきたXは、憲法上の国民に該当すると主張して、選挙管理委員会を相手取って訴えを提起した。

  訴えを提起することが可能であることを前提として、Xのような立場の者に、この選挙における選挙権が、憲法上認められるかについて論じなさい。 

参照条文

公職選挙法

第九条 日本国民で年齢満二十年以上の者は、衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。

第二十一条 選挙人名簿の登録は、当該市町村の区域内に住所を有する年齢満二十年以上の日本国民(第十一条第一項若しくは第二百五十二条又は政治資金規正法 (昭和二十三年法律第百九十四号)第二十八条の規定により選挙権を有しない者を除く。)で、その者に係る登録市町村等(当該市町村及び消滅市町村(その区域の全部又は一部が廃置分合により当該市町村の区域の全部又は一部となつた市町村であつて、当該廃置分合により消滅した市町村をいう。次項において同じ。)をいう。以下この項において同じ。)の住民票が作成された日(他の市町村から登録市町村等の区域内に住所を移した者で住民基本台帳法(昭和四十二年法律第八十一号)第二十二条 の規定により届出をしたものについては、当該届出をした日)から引き続き三箇月以上登録市町村等の住民基本台帳に記録されている者について行う。

第二十四条 選挙人は、選挙人名簿の登録に関し不服があるときは、縦覧期間内に、文書で当該市町村の選挙管理委員会に異議を申し出ることができる。

 
4月19日(2)

Xは、A省に勤務する国家公務員である。Xは、平成○○年の衆議院議員総選挙にあたり、B党から立候補したCを支援する目的で、Cから選挙ポスター10枚を預かり、勤務時間開始前にそのうち5枚を公営掲示板に貼付した。残ったポスター5枚を持って出勤したXは、その5枚をA省内の自分のロッカー内で保管し、通常通り執務した。そして、勤務時間が終了した後にその5枚を公営掲示板に貼付した。

 そこで、Xは、国の庁舎内にある国の備品であるロッカー内で選挙ポスターを保管した行為は、国家公務員法1021項に基づく人事院規則14-75項1号、同612号の「公職の選挙において、特定の候補者を支持する」ことを目的とする文書を保管するために「国又は特定独立行政法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用する」行為に該当し、政治的行為にあたるものであるから、国家公務員法110119号の罰則が適用されるべきであるとして、起訴された。

 これに対しXは、政治活動は憲法21条の保障する表現の自由の一環であり、表現の自由を制限する立法には厳格な審査基準を適用してその合憲性を判断するべきであり、厳格な審査基準に従う場合には国家公務員法102条は過度に広範な規定であって違憲・無効であるから無罪であると主張した。

 Xの主張に含まれる憲法上の論点について論ぜよ。 

参照条文

 国家公務員法

102条 職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

110条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

十九  第百二条第一項に規定する政治的行為の制限に違反した者 

 人事院規則14−7

5  法及び規則中政治的目的とは、次に掲げるものをいう。政治的目的をもつてなされる行為であつても、第六項に定める政治的行為に含まれない限り、法第百二条第一項の規定に違反するものではない。

一  規則一四―五に定める公選による公職の選挙において、特定の候補者を支持し又はこれに反対すること。

6  法第百二条第一項の規定する政治的行為とは、次に掲げるものをいう。

十二  政治的目的を有する文書又は図画を国又は特定独立行政法人の庁舎(特定独立行政法人にあつては、事務所。以下同じ。)、施設等に掲示し又は掲示させその他政治的目的のために国又は特定独立行政法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用し又は利用させること。

4月12日(1)

 酒税は、明治時代には国家税収の3〜4割に達し、財政を担う重要な租税であった。今日においても所得税、法人税と共に国税3税と呼ばれ、地方交付税の基礎とされているのはそのためである。このように重要な租税であったため、酒税徴収の確実を期するため、課税は製造元から出荷する際に行う(蔵出し税という)とともに、製造元を確実に把握するために、酒類の製造にはすべて税務署による許可を必要とされている。その違反には刑罰が科される。かつては自己消費目的の場合にもまったく例外が認められなかったが、1962年に法改正が行われ、家庭で梅酒などリキュールを作る事が許されるようになった。ただしその場合にも漬け込むアルコールの度数は20度以上とするなど条件は厳しく、著しく例外規定的なものとなっている。

 Xは、酒税法が、無免許で酒類を製造することを刑罰を以て禁止していることを知りつつ、どぶろく作りはわが国の重要な食文化のひとつであり、それを作ることは、単なる趣味や嗜好ではなく、現代管理社会において人間の復権を求める「私事に関する自己決定権」の一態様であり、根本的な幸福追求の行動であるため、酒税法が徴税の便宜を理由にどぶろく作りを規制することは、立法府の裁量権を逸脱するものであり、憲法に違反しているという信念の下に、自己消費目的のために、あえてどぶろくの製造免許を申請することなく、37リットル製造した。このため酒税法54条1項に違反するとして、起訴された。

 この事例における憲法上の問題点について述べよ。

 


2012年度 甲斐ゼミ 活動予定表
     
春休み(32)

A党では、わが国で戦後一度も憲法改正が行われないのは、現行憲法96条の定める改憲のための要件が厳しすぎるためであるとして、憲法を改正し、憲法96条の定める発議要件を「3分の2以上」の賛成から「過半数」に緩和することを主張した。

これに対し、B党では、96条を、96条そのものによって改正する事は不可能であるとして、反対した。

 AB両党の主張の、現行憲法の解釈上の可否について論じなさい。

1月18日(31)

A市において、住民運動を展開していたXは、その運動の一環として、市の繁華街を縦貫する道路においてデモ行進を行うことを計画した。A市には公安条例が存在し、それに依ればデモ行進をするためには事前にA市公安委員会にデモ行進の届出をする必要があったので、所定の届出を行った。Xのデモ行進に対してA市公安委員会は、A市公安条例33号の「交通秩序を維持すること」に基づき、『蛇行進をするなど交通秩序を乱すおそれがある行為をしないこと』の条件を付して届出を受理した。

しかし、Xは、A市繁華街を通行中に集団行進者に蛇行進をするよう指示し、かつ自ら先頭列外付近に位置して所携の笛を吹きあるいは両手を上げて前後に振り、集団行進者に蛇行進をさせるよう刺激を与え、もって集団行進者が交通秩序の維持に反する行為をするよう扇動し、交通に大混乱を引き起こしたため、A市公安条例33号に違反したとして起訴された。

これに対し、Xは、道路交通法77条は、表現の自由として憲法21条に保障されている集団行進等の集団行動をも含めて規制の対象としていると解され、集団行動についても道路交通法771項四号に該当するものとして都道府県公安委員会が定めた場合には、同条三項により所轄警察署長が道路使用許可条件を付しうるものとされている。憲法94条によれば、条例は「法令に違反しない限りにおいて」、すなわち国の法令と競合しない限度で制定しうるものであつて、もし条例が法令に違反するときは、その形式的効力がないのであるから、本条例は道路交通法773項の道路使用許可条件の対象とされるものを除く行為を対象とするものでなければならないところ、同条例の定めは明白に同法と重複しているので無効であり、したがって、公安条例違反の点については無実であると主張した。

 Xの主張の憲法上の当否について論ぜよ。

 

参照条文

道路交通法77

1 次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可(当該行為に係る場所が同一の公安委員会の管理に属する二以上の警察署長の管轄にわたるときは、そのいずれかの所轄警察署長の許可。以下この節において同じ。)を受けなければならない。

一  道路において工事若しくは作業をしようとする者又は当該工事若しくは作業の請負人

二  道路に石碑、銅像、広告板、アーチその他これらに類する工作物を設けようとする者

三  場所を移動しないで、道路に露店、屋台店その他これらに類する店を出そうとする者

四  前各号に掲げるもののほか、道路において祭礼行事をし、又はロケーシヨンをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者

2  前項の許可の申請があつた場合において、当該申請に係る行為が次の各号のいずれかに該当するときは、所轄警察署長は、許可をしなければならない。

一  当該申請に係る行為が現に交通の妨害となるおそれがないと認められるとき。

二  当該申請に係る行為が許可に付された条件に従つて行なわれることにより交通の妨害となるおそれがなくなると認められるとき。

三  当該申請に係る行為が現に交通の妨害となるおそれはあるが公益上又は社会の慣習上やむを得ないものであると認められるとき。

3  第一項の規定による許可をする場合において、必要があると認めるときは、所轄警察署長は、当該許可に係る行為が前項第一号に該当する場合を除き、当該許可に道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な条件を付することができる。(以下略)

 

A市集団行進及び集団示威運動に関する条例

(届出の事由)

1条 道路その他公共の場所で,集団行進を行うとするとき,又場所の如何を問わず集団示威運動を行うとするときは,A市公安委員会(以下「公安委員会」という。)に届出でなければならない。但し,次の各号に該当する場合はこの限りでない。

(1) 学生,生徒その他の遠足,修学旅行,体育競技

(2) 通常の冠婚葬祭等の慣例による行事

(届出の手続)

2条 前条の規定による届出は,主催する個人又は団体の代表者(以下「主催者」という。)から,集団行進又は集団示威運動を行う日時の,24時間前までに次の事項を記載した届出書2通をA市警察署長を経由して公安委員会宛提出しなければならない。

(1) 主催者の住所,氏名,年令但し主催者が団体であるときは,その名称及び事務所々在地ならびに代表者の住所,氏名,年齢

(2) 前号の主催者が市外に居住するときは,市内の連絡責任者の住所,氏名,年齢

(3) 集団行進又は集団示威運動の日時

(4) 集団行進又は集団示威運動の進路,場所及びその略図

(5) 集団予定団体名及びその代表者の住所,氏名,年齢

(6) 参加予定人員(団体参加の場合はその内訳)

(7) 集団行進又は集団示威運動の目的及び名称

(遵守事項)

3条 集団行進又は集団示威運動を行うとする者は,集団行進又は集団示威運動の秩序を保ち,公共の安寧を保持するため,次の事項を守らなければならない。

(1) 官公署の事務の妨害とならないこと。

(2) 刃物棍棒その他人の生命及び身体に危害を加えるに使用される様な器具を携帯しないこと。

(3) 交通秩序を維持すること。

(4) 夜間の静穏を害しないこと。

(違反に対する措置)

4条 A市警察長は,第1条若しくは第3条の規定又は第2条の規定により届出事項に違反して行われた集団行進又は集団示威運動の参加者に対して,公共の秩序を保持するため,警告を発しその行為を制止し,その他違反行為を是正するにつき必要な限度において,所要の措置をとることができる。

(罰則)

5条 第1条若しくは第3条の規定又は第2条の規定による届出事項に違反して行われた集団行進又は集団示威運動の主催者,指導者又は煽動者はこれを1年以下の懲役若しくは禁錮又は5万円以下の罰金に処する。

1月11日(30)

憲法は「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」と規定している。この規定の趣旨及び予算の法的性格について説明するとともに、予算は国法形式としては法律であり、そのように解することによって予算と法律の不一致の問題や国会の予算修正の可否ないし程度の問題は解決するという見解について論ぜよ。

(国T平成11年度)

12月21日(29)

1. D県A市は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号、以下「法」という。)及び地方自治法(昭和22年法律第67号、以下「自治法」という。)に基づく国民健康保険事業を運営する保険者であり、法及びA市国民健康保険条例(昭和34年A市条例第5号、以下「本件条例」という。)の定めるところによって国民健康保険料(以下「保険料」という。)を徴収している。

 YA市の市長である。

 A市では、従来は法761項の定めるところにより、健康保険料を、地方税法703条の4第1項に従い、国民健康保険税を課すという方法で徴収してきた。しかし、仙台高等裁判所秋田支部昭和57723日判決が、憲法84条の租税法律主義は、地方自治体においては租税条例主義と読み替えるべきであり、また、「(秋田市国民健康保険)条例2条の課税総額規定は、上限内での課税総額の確定を課税権者に委ねた点において、課税要件条例主義にも課税要件明確主義にも違反するというべきであって、憲法92条、84条に違反し、無効といわざるをえない」と述べたことを受けて、昭和58年に本件条例を改正し、上述のとおり、国民健康保険料を徴収することとし、今日に至っている。

2. Xは、平成16412日、A市が保険者である国民健康保険の、本件条例8条に規定する一般被保険者資格を取得した者であって、Xを世帯主とし、一人で一つの世帯を形成している。Xの保険料は、世帯主であるXから徴収される(法76条及び本件条例8条の3)。

3. Xに対する平成16年度保険料の賦課額は27380円と決定され、平成16714日付で平成16年度国民健康保険料納入通知書がXに送付された。

 これに対し、Xは、平成1683日、平成16年度の保険料の減免を申請した。申請の理由は「平成15年度の収入は約90万円で生活保護基準の約45%から50%であるから、生活保護適用に準じて、国民健康保険料を免除されたい。」ということであった。

 減免基準は本件条例191項及びA市国民健康保険条例施行規則(以下「規則」という。)23条の3に定められており、Xの減免申請理由はこれら減免基準に該当しないことから,Xに対し、同月10日付で減免非該当の通知がされた。

 Xは、平成16年度の国民健康保険料賦課処分及び同保険料減免非該当処分を不服として、平成1695日、D県国民健康保険審査会(以下「審査会」という。)に対して審査請求をした。審査会は、これに対して、平成17224日、原告の請求を棄却する旨の裁決を行った。

4. そこで、Xは、A市及びYを相手取って、Xに対してした、平成16714日付平成16年度国民健康保険料賦課処分を取り消すよう求めて、平成17年4月10日に訴えを提起した。訴えに当たり、Xは、次のように主張した。

 憲法84条は、租税法律主義を定めるが、国民健康保険における保険料は、租税である。本件条例は、保険料率を定率・定額で定める等何ら具体的に規定するところがないから、同条に反し、無効である。

 特に保険料決定の基礎となる賦課総額の内容は意味不明であり、保険料を賦課された者がこれを理解して自らに賦課された保険料が正しいのか否か検証することは不可能である。

 Yらは、保険料の算出過程において、種々の裁量を加えており、そのことからも本件条例の一義的不明確性は明らかである。

 Xの主張の憲法上の当否について論じなさい。

 

参照条文

国民健康保険法

第七十六条  保険者は、国民健康保険事業に要する費用(前期高齢者納付金等及び後期高齢者支援金等並びに介護納付金の納付に要する費用を含み、健康保険法第百七十九条に規定する組合にあつては、同法 の規定による日雇拠出金の納付に要する費用を含む。)に充てるため、世帯主又は組合員から保険料を徴収しなければならない。ただし、地方税法の規定により国民健康保険税を課するときは、この限りでない。

第八十一条  この章に規定するもののほか、賦課額、料率、納期、減額賦課その他保険料の賦課及び徴収等に関する事項は、政令で定める基準に従つて条例又は規約で定める。

12月15日 OB・OG総会  
12月14日(28)

A地方裁判所の裁判官だったXは、○○年に法制審議会がB法を制定することを目的とした要綱骨子を法務大臣に答申したことに関連して、C新聞に、裁判官であることを明らかにして、それに反対する趣旨の投書をした。

そのことでXの存在を知ったB法制定に反対する団体から、反対集会にパネリストとして出席することを要請され、承諾した。これを知ったA地方裁判所長Yは、Xに対して、集会に参加することは「積極的に政治運動をすること」を禁止する裁判所法521号にあたり懲戒処分もありうると警告した。

そのため、Xはパネリストとして発言することを辞退したが、集会自体には出席し、身分を明かしたうえで、「当初、パネリストとして出席予定だったが、所長から警告を受けた。自分としては仮に法案に反対の立場で発言しても、裁判所法に定める積極的な政治活動にあたるとは考えないが、パネリストとしての発言は辞退する」とする趣旨の発言をした。

この発言が、「本件法案の廃案を求めることは正当であるというXの意見を伝えることによって、本件集会の目的であるB法案を廃案に追い込む運動を支援し、これを推進する役割を果たし、もって積極的に政治運動をするという行為に該当する」として、懲戒処分として、戒告を受けることになった。

 裁判所法521号の規定の憲法上の問題点について論ぜよ。

 

参照条文 裁判所法

第五十二条 (政治運動等の禁止) 裁判官は、在任中、左の行為をすることができない。

一  国会若しくは地方公共団体の議会の議員となり、又は積極的に政治運動をすること。

二  最高裁判所の許可のある場合を除いて、報酬のある他の職務に従事すること。

三  商業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行うこと。

 
12月7日(27)

 ○○年、農林水産大臣Aは、航空自衛隊の地対空ミサイル基地建設のため、BC町にある国有保安林の指定を解除した。

 これに対して、一部の地域住民が自衛隊の存在は違憲であるということと、保安林を解除されると洪水の危険があることを理由に、保安林解除は違法だとして、解除処分の取消しを求める訴訟を、A県を管轄するD地方裁判所に提起した。

 D地方裁判所判事Xが事件を担当したが、Xの日頃の言動から見て、自衛隊の憲法適合性に関して積極的に判断を下すのではないか、との見方がD地方裁判所内部でされていた。

 これを聞いたD地方裁判所所長Yは、Xに命じて、予定されていた執行停止期日を延期させた上で、その間を利用して「一先輩のアドバイス」と題する詳細な書簡を作成した。その書簡には問題点の指摘や一般論にとどまらず、具体的詳細な理由をつけて訴訟判断の問題点について申立てを却下するよう示唆する内容が記述されていた。Yは、これをXの自宅に届けさせた。

 この書簡の憲法上の問題点について論ぜよ。

11月30日(26)
 次のものは、19484月当時の裁判所法である。
(裁判所法10条)
事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。
1.当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。
2.前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき。
3.憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。
 当時、最高裁判所は最高裁判所事務処理規則を以下のように改正した。
最高裁判所事務処理規則
第九条 事件は、まず小法廷で審理する。
左の場合には、小法廷の裁判長は、大法廷の裁判長にその旨を通知しなければならない。
一 裁判所法第十条第一号乃至第三号に該当する場合
二 その小法廷の裁判官の意見が二説に分れ、その説が各々同数の場合
三 大法廷で裁判することを相当と認めた場合
前項の通知があつたときは、大法廷で更に審理し、裁判をしなければならない。この場合において、大法廷では、前項各号にあたる点のみについて審理及び裁判をすることを妨げない。
前項後段の裁判があつた場合においては、小法廷でその他について審理及び裁判をする。
裁判所法第十条第一号に該当する場合において、意見が前にその法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとした大法廷の裁判と同じであるときは、第二項及び第三項の規定にかかわらず、小法廷で裁判をすることができる。
法令の解釈適用について、意見が大審院のした判決に反するときも、また前項と同様とする。

 この最高裁判所規則の改正において発生する憲法上の問題を論じなさい。
11月23日 勤労感謝の日  
11月16日(25)

XはA女に対する強姦罪(刑法177条)で逮捕され、起訴された。

その公判において、被害者A女に対する証人尋問を行うに際し、担当裁判官Yは、非公開で行うと決定した。そこで、Xは、非公開による証人尋問は憲法37条および82条に違反すると異議を申し立てた。

これに対し、Yは、国際人権B規約141項に照らし、非公開とすることに何ら問題は無いとして、異議を却下した。

本問における憲法上の問題点について論ぜよ。

11月9日(24)

 甲内閣総理大臣が、A航空機製造会社の請託を受けて、国土交通大臣に、B民間航空会社にA社の製造する旅客機を購入させるよう働きかけるよう命じ、A社より、その報酬として金銭を受領した。

この事件における憲法上の問題点を指摘し、論ぜよ。

 

<参考>

内閣法

 6条:内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する。

航空法

  1001項 航空運送事業を経営しようとする者は、国土交通大臣の許可を受けなければならない。

 101条  国土交通大臣は、前条の許可の申請があつたときは、その申請が次の各号に適合するかどうかを審査しなければならない。

 一  当該事業の計画が輸送の安全を確保するため適切なものであること。

 二  前号に掲げるもののほか、当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること。

 三  申請者が当該事業を適確に遂行するに足る能力を有するものであること。

   (4号以下略)

 1091項 本邦航空運送事業者は、事業計画の変更をしようとするときは、国土交通大臣の認可を受けなければならない

11月2日 学部祭のため休講  
10月26日(23)

 平成○○年、日本はA国との間で、両国の貿易関係に関する協定を締結した。内容の概略を示せば、下記の通りである。

 政府は、当初、これは両国間の行政レベルにおける協定に過ぎないと考え、国会の承認を求めることなく、この協定を発効させた。なぜなら、第2条で関税について定めているが、A国の主要産品に関する限り、協定締結時点における関税定率法で税率ゼロとしているものばかりであり、その他の条項についても、同様に特段の法的措置は不要な内容であったためである。

 しかし、これはA国との間の貿易関係の根幹に拘わる重要な問題であるから、国会の承認を得るべき条約であるとの意見が与野党間で高まった。そこで、政府は、事後の国会承認を求めて、衆議院に協定を提出した。

 衆議院では、審議の末、確かにA国は米の生産国ではないが、無条件に第2条の関税の撤廃を定めると、第3国からA国経由で日本に対する米の輸出が行われる危険があるとして、第2条に関し、米を除外するという修正を行うことを条件に、本協定を承認し、参議院もこれに倣った。

 本問における憲法上の論点を指摘し、論ぜよ。

1  協定の目的

  1)両国間の国境を越えた物品・人・サービス・資本・情報のより自由な移動を促進し、経済活動の連携を強化する。

  2)貿易・投資のみならず、金融、情報通信技術、人材養成といった分野を含む包括的な二国間の経済連携を目指す。

2  物品の貿易の促進

  1)関税

     日本からA国への輸出にかかるA国の関税は全て撤廃する。

     A国から日本への輸出にかかる日本の関税は全て撤廃する。

  2)税関手続

      税関手続の簡素化、国際的調和のための協力をする。

  3)貿易取引文書の電子化

      貿易取引文書の電子的処理を促進する。

3  人の移動の促進

  1)人の移動

     商用目的の人々の入国及び滞在を双方で容易なものにする。

   技術者資格等の職業上の技能を相互に認める。

  2)人材養成

     学生・教授・公務員等の交流を促進する。

  3)観光

      双方の観光客の増大を促進する。

  4)科学技術

      研究者等の交流を促進する。

4  サービス貿易の促進

     両国間において、WTOでの約束水準を越えた自由化を行う。

10月19日(22)

 わが国では、第2次大戦後、米国の占領政策に基づいて、個別法令に基づき、中央政府においても、地方公共団体においても数多くの委員会という共通の名称を持つ合議制機関が設立された。これらは、明治憲法下において設けられていた同様の名称を持つ組織と異なり、行政官庁の諮問に応じるのではなく、それ自体が国家意思の決定そのものを行うものとして登場したのである。典型的なものに、憲法90条を根拠規定とする会計検査院がある。それは3名の検査官によって組織される合議体が、その意思決定を行う。同様に国家公務員法を根拠規定とする人事院は、3名の人事官により構成される合議体が、その意思決定を行う。警察法を根拠法規とする国家公安委員会は、委員長と5人の委員を持って組織される合議体が、意思決定を行う。労働組合法を根拠規定とする中央労働委員会は、使用者委員、労働者委員及び公益委員各15人を持って組織される合議体が、意思決定を行う。

 これらは、このように、行政機関として活動するため、これを学説上、行政委員会という。これら行政委員会は、会計検査院のように、憲法上内閣からの独立が予定されているものはもちろん、人事院のように条文上は内閣の所轄の下に置く(国家公務員法31項)と明記されている場合にも、内閣からの強力な独立性が保障されている。そこで、これを独立行政委員会と呼ぶことが多い。

 地方公共団体の場合には、憲法レベルには行政権を一元的に特定機関に集中させねばならないという規定はないので、行政の多元性を法律レベルで定めることに特に問題はない。これに対し、国政レベルにおいては、憲法65条が行政権を一元的に内閣に集中させることを宣言しているので、会計検査院を例外として、他の独立行政委員会の合憲性について、問題がある。

 これを合憲と理解するには、どう把握すればよいか、論ぜよ

10月12日(21)

東京地検特捜部が、ある建設会社の取締役Aを競売入札妨害罪の疑いで逮捕したところ、新聞社数社が、Aには談合にかかわって元大臣である衆議院議員Bへの闇献金ないし贈賄の疑いがあり、検察官によるAに対する捜査が、Bの絡んだ政治資金規正法違反事件ないし贈収賄事件に発展すらかもしれないと報道した。

 そこで、参議院議員において多数を占めるC党は、Bに対する疑惑を解明し、政治倫理確立のために必要な措置を検討するために

  1. Aの捜査を担当している検察官を法務委員会に証人として喚問し、Bに対する疑惑につき証言させること、
  2. 拘留中で接見禁止処分を受けているAを証人として刑事施設で出張尋問を行い、Bに対する疑惑につき証言させること、

を提案した。これらの提案されている証人喚問について憲法上の問題点を指摘せよ。

 また、Aが贈賄罪、Bが収賄罪で起訴された場合、ABの公判担当検察官を証人として喚問することについても憲法上の問題点を指摘し、検討しなさい。

10月5日 学会のため休講  
9月28日(20)

 平成〇年〇月〇日に開かれた第〇回国会衆議院社会労働委員会において、衆議院議員であり同委員会の委員であったAは、同日の議題であった医療法の一部を改正する法律案の審議に際し、B市のC精神病院の問題を取り上げて、患者の人権を擁護する見地から問題のある病院に対する所管行政庁の十分な監督を求める目的で質疑し、その質疑の中で、C病院長X 女性患者Dに対して破廉恥な行為をしていること、同じくXが薬物を常用するなど通常の精神状態ではないのではないかということ、現行の行政の中でこのような医師はチェックできないのではないかなどという趣旨の発言を行った。

 しかし、Yに上記情報を提供したDは、上記の通り精神病で入院中の患者であり、その主治医に対し恋愛感情を持っていた。そして、Xがそれを峻拒したことから、逆にXから強制されて肉体関係を持ったという妄想を抱くに至ったものであって、一連の発言はすべて事実無根であった。精神病患者にこの様な現象が生じることは、専門家の間では広く知られた事実で、Aとしても適切な調査をすれば容易に判明したはずのことであった。

 そうした事実関係を十分に調査することなく行われたAの発言により、Xの社会的名誉は大きく傷つけられ、またC精神病院は、その患者が激減するなどの被害を受けた。

 そこで、Xは国(Y)を相手取って、国家賠償法1条に基づき、国家賠償を請求した。

 それに対し、Yは、本件発言は憲法51条にいう演説等にあたり、国会議員が議院で行った演説等については、国家賠償法上およそ違法が問題とされる余地がないことを定めたものというべきであるから、Yは賠償責任を負わないと主張した。

 Yの主張の憲法上の当否について論ぜよ。
9月21日(19)

 Yは、「穏健中正な思想」を教育の指導精神とし、保守的教育で知られる私立大学である。Yでは、その指導精神に基づき「生活要録」という名称の学生心得を定めており、その中で、学内における政治活動を禁止すると共に、外部の政治団体への加盟を禁止していた。ところが、同大学学生であるXは、生活要録の規定に反して、左翼系の過激な活動を行うことで知られる政治団体Zに加入し、また、大学構内で学友に対し、Zへの加入を求めるビラを配布した。

 そこで、YはXに対し停学1ヶ月の処分に付すると共に、Zからの脱退を求めた。これに対し、Xはマスコミに、Yの処分を憲法21条に違反するとして批判する談話を発表した。Yは、このような一連の行動は、生活要録に違反し、Y学生たるにふさわしくないとして、Xを改めて退学処分に付した。

 Xは退学処分無効及び学生身分確認の訴えを提起した。これに対し、Yは、そもそもこのような学内の処分は、司法判断になじまないと反論した。

 Yの反論における憲法上の問題点を指摘し、論ぜよ。

9月14日(18)

 東京新国際空港(成田国際空港)は、昭和41年(1966年)の閣議で建設が決定され、昭和53年(1978年)に開港が予定されていた。しかし、政府の地元無視の姿勢に怒った農民を中心に当初から空港建設反対闘争が繰り広げられており、昭和43年(1968年)頃からはこれに過激派集団が介入して、反対闘争が激化するようになった。過激派集団は、空港反対の拠点として、新空港周辺に合計37箇所の要塞とか団結小屋と称する工作物を設置し、これを拠点に空港施設等に対する過激な破壊活動を展開し、警官に死者が出るなどの事態となり、開港延期に追い込まれていた。そこで、こうした過激派の取り締まりのために急遽制定されたのが「新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和53年法律第42号)」(空港の名称が平成16年(2004年)に成田国際空港に変更されたことに伴い、「成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法」に変更されて現在に至っている)(以下、「成田新法」という)。

 平成○○年○月○日、国土交通大臣Yは、千葉県山武郡○○町○○番所在の鉄骨鉄筋コンクリート地上3階、地下1階建の建築物1棟について、成田新法第3条第1項第1号又は第2号の用に供することを禁止する旨の処分を行った。

 これに対し、現在、同建物を使用しているXは、その処分の取消しを求める訴えを提起した。その理由として、Xは、次の様に主張した。

「憲法第31条の適正手続の保障は、刑事手続に限らず、行政手続にも要請されるものである。成田新法は、工作物の所有者等に対し、供用禁止命令を発し(第3条第1項)、その違反に対し刑事罰を課し(第9条第1項)、また、工作物の封鎖、除去の処分をも定めている(第3条第6項、第8項)。しかるに同法は、これらの財産権等の基本的人権に対する侵害処分について、工作物の所有者、管理者、占有者に対して告知、弁解、防禦の機会を与える規定を欠くものであり、適正手続の保障がなく、憲法第31条に違反する。

 また、同法第3条第1項においては、運輸大臣の認定基準が著しく恣意的、一般的であつて、これは明確性を欠き、構成要件をあいまいにするもので、この点からも憲法第31条に違反する。」

 これに対し、Yは次の様に反論した。

「刑事手続と行政手続とはその性質におのずから差異があり、行政手続にあつては、それぞれの処分の目的、性格並びにそれによつて制約を受ける国民の権利の内容及び制約の程度、態様に照らして合理的かつ適正と認められる手続によれば足りるものであり、また、事情の明白性又は事態の緊急性のために通常の手続をふむ必要性ないしその余地がないと合理的に認められるような場合には、その手続をふまなくてもよいこととしても、憲法第31条の精神に反することにはならないというべきである。

 成田新法は、異常かつ緊急な事態にかんがみ、新空港等の安全を確保するために、これに必要かつ合理的な範囲内において財産権の行使につき所定の規制を行おうとするものであり、事前の弁明や防禦の機会を保障していないこともやむをえないものとして是認されるべきものというべきである。

 また、同法第3条第1項の定める規制の要件も明確である。」

 X及びYの主張の憲法上の当否について論ぜよ。

【参照条文=成田新法】

第三条 国土交通大臣は、規制区域内に所在する建築物その他の工作物について、その工作物が次の各号に掲げる用に供され、又は供されるおそれがあると認めるときは、当該工作物の所有者、管理者又は占有者に対して、期限を付して、当該工作物をその用に供することを禁止することを命ずることができる。

 一 多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用

 二 暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の製造又は保管の場所の用

 三 新東京国際空港又はその周辺における航空機の航行に対する暴力主義的破壊活動者による妨害の用

 国土交通大臣は、前項の禁止命令をしようとする場合において、当該禁止を命ぜられるべき者を確知することができないとき、又は当該命令を伝達することができないときは、公告によりこれを行うことができる。(3項〜5項 略)

 国土交通大臣は、第一項の禁止命令に係る工作物が当該命令に違反して同項各号に掲げる用に供されていると認めるときは、当該工作物について封鎖その他その用に供させないために必要な措置を講ずることができる。 (7項略)

 国土交通大臣は、第一項の禁止命令に係る工作物が当該命令に違反して同項各号に掲げる用に供されている場合においては、当該工作物の現在又は既往の使用状況、周辺の状況その他諸般の状況から判断して、暴力主義的破壊活動等にかかわるおそれが著しいと認められ、かつ、他の手段によつては同項の禁止命令の履行を確保することができないと認められるときであつて、第一条の目的を達成するため特に必要があると認められるときに限り、当該工作物を除去することができる。 (9項〜16項略)

第八条  第三条第一項の規定による命令については、行政手続法 (平成五年法律第八十八号)第三章 の規定は、適用しない。

第九条  第三条第一項の規定による国土交通大臣の禁止命令に違反して建築物その他の工作物を同項各号に掲げる用に供した者は、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

 第三条第三項の規定による立入りを拒み、若しくは妨げ、又は同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者は、五万円以下の罰金に処する。

夏休み(17)

 Xは、自衛隊が実弾演習をするため、その砲声に驚いて飼育する乳牛が乳を十分に出さなくなったのに腹を立て、XX年12月11日午後3時20分頃、北海道千歳郡恵庭町桜森陸上自衛隊島松演習場内の東南部附近に侵入し、実弾射撃演習の目的で設けられてあつた陸上自衛隊北部方面隊第1特科団第1特科群102大隊第2中隊の加農砲計2門の射撃陣地において同中隊が射撃命令伝達等のため、同中隊射撃指揮所と戦砲隊本部に1台宛設置した野外電話機に接続して両電話機間に敷設した長さ約42m60cmの通信線をペンチを使用して数箇所で切断し、砲と射撃指揮所間の連絡を不可能に陥らせた。
 野戦砲の場合、砲の発射地点からは着弾点が見えない状態の下で、射撃指揮所が着弾地点を直接目視により観測し、電話で野戦砲に射撃方法の修正を指示することで、はじめて訓練としての意味が生ずる。その意味で、野戦砲と射撃指揮所を繋ぐ野戦電話線は、野戦砲の不可欠の一部ということができるとして、検察側は、Xを、自衛隊法121条「自衛隊の所有し、又は使用する武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物を損壊し、又は傷害した者は、五年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。」に該当するとして起訴し、刑法上の器物損壊罪については、これが自衛隊法121条と観念的競合にあたることから、起訴しなかった。
 Xは、これに対して、自衛隊法121条を含む自衛隊法全般ないし自衛隊等が憲法9条に違反し、したがって自衛隊法違反の点については無罪である旨を主張した。
 それに対し、裁判所は、次のように述べた。
「一般に、刑罰法規は、その構成要件の定め方において、できるかぎり、抽象的・多義的な表現を避け、その解釈、運用にあたつて、判断者の主観に左右されるおそれ(とくに、濫用のおそれ)のすくない明確な表現で規定されなければならないのが罪刑法定主義にもとづく強い要請である。その意味からすると、本件罰条にいわゆる『その他の防衛の用に供する物』という文言の意義・範囲を具体的に確定するにあたつては、同条に例示的に列挙されている『武器、弾薬、航空機』が解釈上重要な指標たる意味と法的機能をもつと解するのが相当である。すなわち、およそ、防衛の用に供する物と評価しうる可能性なり余地のあるすべての物件を、損傷行為の客体にとりあげていると考えるのは、とうてい妥当を欠くというべきである。
 そして、およそ、裁判所が一定の立法なりその他の国家行為について違憲審査権を行使しうるのは、具体的な法律上の争訟の裁判においてのみであるとともに、具体的争訟の裁判に必要な限度にかぎられることはいうまでもない。このことを、本件のごとき刑事事件にそくしていうならば、当該事件の裁判の主文の判断に直接かつ絶対必要なばあいにだけ、立法その他の国家行為の憲法適否に関する審査決定をなすべきことを意味する。
 したがつて、すでに説示したように、Xの行為について、自衛隊法121条の構成要件に該当しないとの結論に達した以上、もはや、X指摘の憲法問題に関し、なんらの判断をおこなう必要がないのみならず、これをおこなうべきでもないのである。」
 この裁判所の見解の憲法上の当否について論ぜよ。

夏休み(16)

 XはA県B市の市長を数年務めた人物であるが、○年4月に行われるA県知事選挙に立候補する予定であった。

 Yは、Xは県知事としてふさわしくない人物と考えたので、自らが発行する月刊誌の同年2月号に、Xの出馬に反対する特集を組むことを計画した。その記事の中で、Yは、Xが「嘘とハッタリと、カンニングの巧みな」少年であり、「言葉の巧みな魔術師でありインチキ製品をたたき売っている政治的な大道ヤシ」といった表現を用いて、Xが人格的に下劣な人物であるという記述を行うと共に、Xが市長在任中に収賄するなどの違法行為を行ったなど、具体的事実を摘示する形で、Xが知事候補者としてふさわしくないことを論じていた。

 記事の内容を知ったXは、同雑誌の発行時期が2月と、4月の選挙の直前であるため、そのような雑誌が刊行されては選挙の結果に影響しかねないとして、同雑誌の刊行の差し止めの仮処分を裁判所に申請した。

 この事件で、裁判所が仮処分請求を認めるべきか否かを決定するに当たり、憲法上問題となる点を指摘し、論ぜよ。

7月27日(15)

 XはA国国籍を有する成人である。しかし、祖父の代から日本国内のB市に住んでおり、相当の資産を有して多額の納税を行っており、出入国管理及び難民認定法22条に定める日本の永住資格を認められている。またXはB市で行われている各種ボランティア活動にも市民の一員として積極的に参加してきた。

 ボランティア活動において知り合い、人格的に優れた人物と考えていたCが、B市市会議員選挙に出馬したので、Xは是非Cのために投票したいと考え、公職選挙法23条に基づく選挙人名簿の縦覧を行ったが、自分の氏名が登載されていなかったので、同法24条に基づきB市選挙管理委員会(以下、Yという)に対し、異議の申し立てを行った。これに対し、Yは、地方議会議員選挙における名簿登載資格は同法20条の定めるところにより「選挙人名簿の登録は、当該市町村の区域内に住所を有する年齢満二十年以上の日本国民(第十一条第一項若しくは第二百五十二条又は政治資金規正法 (昭和二十三年法律第百九十四号)第二十八条 の規定により選挙権を有しない者を除く。)で、その者に係る登録市町村等(当該市町村及び消滅市町村(その区域の全部又は一部が廃置分合により当該市町村の区域の全部又は一部となつた市町村であつて、当該廃置分合により消滅した市町村をいう。次項において同じ。)をいう。以下この項において同じ。)の住民票が作成された日(他の市町村から登録市町村等の区域内に住所を移した者で住民基本台帳法 (昭和四十二年法律第八十一号)第二十二条 の規定により届出をしたものについては、当該届出をした日)から引き続き三箇月以上登録市町村等の住民基本台帳に記録されている者について行う。」とされており、A国籍を有するXはこれに該当しないとして、異議申立てを却下する処分を行った。

 そこで、XはYを相手取って、同法25条に基づき、処分取り消しの訴えを提起した。

 その訴訟において、Xは次の2点を主張した。

 一 日本国憲法932項は「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。」と定めており、XはB市の住民であるから、地方選挙における選挙権を認めるべきであり、地方選挙における選挙権者を日本国籍保有者に限定している公職選挙法20条は憲法に違反する。

 二 国際人権B規約25条は、「全ての市民」に対し、「直接に、又は自由に選んだ代表者を通じて、政治に参与する」権利を保障しており、B市の市民であるXにB市における選挙権を認めないのは、同条約に違反する。

 Xの上記二つの主張の当否について論じなさい。

7月20日(14)

海外で暮らす日本国民(以下、「在外邦人」という)に対して衆議院の小選挙区及び参議院の選挙区について在外投票を認める制度が、いまだ存在していないという前提の下で、以下の問に答えよ。

 平成○年衆議院議員総選挙が行われようとしていたが、その時点において、XA国に居住しており、日本国内の市町村の区域内に住所を有していなかった。そのため、公職選挙法の規定により、選挙権が与えられていなかった結果、当該選挙で、投票することが認められなかった。

 在外邦人に選挙権を与える必要があることは、政府としては以前から認識しており、昭和59年には、衆議院議員選挙及び参議院議員選挙全般についての在外選挙制度の創設を内容とする「公職選挙法の一部を改正する法律案」を国会に提出していた。しかし、同法律案の実質的な審議は行われず、昭和61年に衆議院が解散されたことにより廃案となった。その後も本件選挙が実施された平成○年までに、在外国民の選挙権の行使を可能にするための法律改正はされなかった。

 国会は、ようやく平成10年に在外邦人に選挙権を認める方向に公職選挙法を改正したが、当該改正では、投票日前に選挙公報を在外国民に届けるのは実際上困難であり、在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達するのが困難である等の諸々の理由により、衆議院比例代表選出議員選挙及び参議院比例代表選出議員選挙の選挙権を認めるにとどまった。

 そこでXらは、「当該選挙時に、在外国民に対して選挙権を全く与えていなかったこと及び改正後においても情報手段の著しい発達がみられたにも関わらず、両議院の比例代表選出議員選挙の選挙権しか与えず、これといった措置をとらずに放置したことは、国家賠償法上違法な立法の不作為がある」として、国に対し損害の賠償を請求して出訴した。

 この場合、裁判所としてはどのような判断をなすべきかについて論ぜよ。

7月13日(13)

 A男は、B女と法律婚をして子供Xができたが、BはことごとくAを軽んじて取り扱った。母の行動を見て育ったXもまたAを軽んじ、Bもそれを是認した。そのためこの冷たい家庭に、遂にいたたまれなくなったAは、すべての財産を放棄して、ひとり家を出て、遠隔地に移り住んだ。その地で、Aは、別の女性Cと内縁関係をもつに至り、Yが出生した。Yは、その後50年以上に渡ってAと共に暮らして孝養を尽くし、その死に至るまで扶養義務を全うした。A所有の会社の経営も、YAと共同であたってきた。したがって、遺産もその共同生活体の営みの中で形成されてきたものである。Aが死亡すると、50年以上も前からAとは事実上縁を断ち、遠隔の地でBAより先に死亡)とのみ生活をしてきたXが、遺産分割に当たり、Yの二倍の相続分を有すると主張して、訴訟となった。これに対し、Yは民法900条4号は憲法14条に反し違憲であって、それを根拠としたXの主張は認められないと主張した。

 以上の事案における憲法上の問題を論ぜよ。

7月6日(12)

 国家公務員Xは、第○○回衆議院議員総選挙投票日の前日の、Xにとり休日である土曜日に、私服を着用して外見からは公務員であることが全く知られることなく、また、自己の勤務先や職務とは全く無関係に、その関係者と協力することもなく、他人の住宅居宅やマンションの郵便受けに、特定の政党を支持する目的で、その政党の機関紙や政党を支持する政治的目的のある無署名の文書を配布したために、国家公務員法110119号及び1021項並びに人事院規則147(政治的行為)67号及び13号(53号)による刑事責任を問われた。

 この事案における、憲法上の問題点を指摘し、論ぜよ。

参照条文

国家公務員法

102  職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

 職員は、公選による公職の候補者となることができない。

 職員は、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問、その他これらと同様な役割をもつ構成員となることができない。

110  次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

十九  第百二条第一項に規定する政治的行為の制限に違反した者

 

人事院規則147(政治的行為)

 人事院は、国家公務員法に基き、政治的行為に関し次の人事院規則を制定する。

4項 法又は規則によつて禁止又は制限される職員の政治的行為は、第六項第十六号に定めるものを除いては、職員が勤務時間外において行う場合においても、適用される。

5項 法及び規則中政治的目的とは、次に掲げるものをいう。政治的目的をもつてなされる行為であつても、第6項に定める政治的行為に含まれない限り、法第102条第1項の規定に違反するものではない。

 三  特定の政党その他の政治的団体を支持し又はこれに反対すること。

6項 法第102条第1項の規定する政治的行為とは、次に掲げるものをいう。

 七  政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、配布し又はこれらの行為を援助すること。

十三  政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するために著作し又は編集すること。

6月29日(11)

 Z県の県立A高校は新入生の選抜方式として、学力検査のための試験の成績と、それらの他に受験生本人の心身の状態も重視し、その記録と併せて総合的に合否判定を決定する方式をとっていた。

 このA高校を進行性のデュシェンヌ型筋ジストロフィー症を持ったXが受験した。Xの結果は学力試験の成績は、合格基準を大きく上回る好成績であった。しかし、Xは小学校5年生に進級するころから常に車椅子を必要とする状況になり、中学校3年間でさらに病状が進行して、受験時には腕を挙げることができなくなり、背柱の弯曲が顕著になり、同一姿勢の保持が困難になったほか、少し筆圧が弱くなったが、頁をめくる、読む、書く等の動作には全く支障がなく、書いた文字も全て判読できる状況であった。

 現在のわが国のデュシェンヌ型筋ジストロフィーの死亡平均年齢は20歳と考えられていること、Xの症状が現在よりさらに悪化することは確実であるが、その場合、A高校には適切な介護ができる施設、職員がいないこと等諸般の事情から、A高校の全過程を無事履修する見通しがないと判断し、A高校校長YXに対し入学不許可処分を下した。

 Xは、この処分は身体的障害を唯一の理由とするもので、憲法26条1項、14条及び教育基本法3条に違反するとして、Yにその取消しを求めると共に、国家賠償法1条1項に基づいて、Z県に対し、入学不許可処分を受けたことによりXが被った精神的損害に対する慰謝料の支払いを求めた。

 上記訴訟における憲法上の問題点について論ぜよ。

6月22日(10)

 Xは、国民年金法施行令別表の11号(両眼の視力の和が0.04以下のもの)に該当する視力障害者で、同法に基づく障害基礎年金を受給している。Xは内縁の夫Aとの間に男子Bがある。XAと離別後独力でBを養育してきた。しかし、児童扶養手当法に基づく児童扶養手当制度を知ったことから、居住するC県知事Yに、その受給資格について認定の請求をしたところ、Yは、請求を却下する旨の処分をした。さらに、XYに異議申し立てをしたのに対し、Yは右異議申立てを棄却する旨の決定をした。その決定の理由は、Xが障害基礎年金を受給しているので、児童扶養手当法43項二号に該当し受給資格を欠くというものであつた。

 そこで、Xは処分の取り消しを求めて、Yを相手に訴えを提起した。

 この訴訟における憲法上の論点を指摘し、論ぜよ。

参照条文:児童扶養手当法

4  都道府県知事、市長(特別区の区長を含む。以下同じ。)及び福祉事務所(社会福祉法 (昭和二十六年法律第四十五号)に定める福祉に関する事務所をいう。以下同じ。)を管理する町村長(以下「都道府県知事等」という。)は、次の各号のいずれかに該当する児童の母がその児童を監護するとき、又は母がないか若しくは母が監護をしない場合において、当該児童の母以外の者がその児童を養育する(その児童と同居して、これを監護し、かつ、その生計を維持することをいう。以下同じ。)ときは、その母又はその養育者に対し、児童扶養手当(以下「手当」という。)を支給する。

 父母が婚姻を解消した児童
 父が死亡した児童
 父が政令で定める程度の障害の状態にある児童
 父の生死が明らかでない児童
 その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの

2 略

3 第1項の規定にかかわらず、手当は、母に対する手当にあつては当該母が、養育者に対する手当にあつては当該養育者が、次の各号のいずれかに該当するときは、支給しない。

 日本国内に住所を有しないとき。
 国民年金法等の一部を改正する法律(昭和六十年法律第三十四号)附則第32条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法第1 による改正前の国民年金法に基づく老齢福祉年金以外の公的年金給付を受けることができるとき。ただし、その全額につきその支給が停止されているときを除く。
6月15日(9)

 わが国経済がデフレを脱却して顕著なインフレ傾向を示し、さらに土地の価格は、物価の上昇率を上回る勢いで上昇しているという客観的状況があると仮定して、以下の問に答えよ。

 鉄道会社Yは、新しい鉄道の建設事業を計画し、平成×1年6月、事業の告示を行った。そして、その鉄道敷地の一部、AB市a町b番cの地番の土地所有者Xに、その土地の買収を申し入れ、粘り強く交渉を行ったが、Xが拒んだため、土地収用法に従い収用することとし、必要な手続きをとった。A県土地収用委員会は平成×56月、土地収用の裁決を行った。

 これに対し、XYに対し土地収用の補償金の増額を求めて訴えを提起した。

 土地収用法71条によれば、土地等の収用による損失補償金額の基準となる時点は、事業認定の告示の時であって、土地収用の裁決時ではないが、Xは、その訴えにおいて、平成×1年から同×5年にかけて、土地価格は顕著な上昇傾向を示しており、その傾向は継続的であるから、本件収用における本件土地の損失補償金額は収用裁決時を基準として算定すべきであり、事業認定時とするのは、憲法293項に違反する旨主張した。

Xの主張の憲法上の問題点について論ぜよ。

 

参照条文 土地収用法

71条  収用する土地又はその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の額は、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とする。 

6月8日(8)

 学校教育法33条及び学校教育法施行規則52条の委任に基づき、文部科学大臣は小学校指導要領を作成しており、その中で、入学式や卒業式においては、国歌の斉唱、国旗の掲揚を行うよう指導している。

 これを受けて、AB市の教育委員会(以下、Yという)では、平成XX年、市内の全私立小学校長宛に「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について」と題する通達を発し、国旗斉唱と国旗掲揚の徹底を図った。

 B市立C小学校長Dは、同校の音楽専科の教師Xに対し、入学式において「君が代」のピアノ伴奏をするよう職務命令を発した。

 これに対し、Xは、「君が代」は過去の日本のアジア侵略と結び付いており、これを公然と歌ったり、伴奏したりすることはできず、また、子どもに「君が代」がアジア侵略で果たしてきた役割等の正確な歴史的事実を教えず、子どもの思想及び良心の自由を実質的に保障する措置を執らないまま「君が代」を歌わせるという人権侵害に加担することはできないなどの思想及び良心を有すると主張して伴奏を拒否した。

 そのため、YXに対し、本件職務命令に従わなかったことは地方公務員法32条及び33条に違反するとして、地方公務員法2911号ないし3号に基づき、戒告処分をした。

 そこで、XYを相手取り、処分の取り消しを求めて訴えを提起した。 

Xに対する処分について、憲法上の問題点を論ぜよ。
6月1日(7)

 JR吉祥寺駅は、その南口改札口をでると、駅ビル2階に駅前広場に相当するスペースがあり、吉祥寺ロンロンという駅ビル内の商店街、京王井の頭線との連絡通路や、井の頭公園に通じる出口であるため公園口と呼ばれる階段等と接続し、多くの人々の通行するところとなっている。公園口を出たところには駅前広場はなく、直接に道路に接している。この道路は、かなり車の通行量が多いが、歩道はないため、そこでビラ配りや演説を行うことは不可能である。 

Xは、吉祥寺駅南口から公園口にでる1階階段付近において、同駅係員の承諾を受けずに、自らの所属する政治団体の集会への参加などを呼びかける目的で、ビラを配り、また携帯型の拡声器を用いて演説を行っていた。演説を聞いて来た駅係員及びその依頼により駆けつけた警察官によって、同駅構内からの退去要求が繰り返しなされたが、それを無視して同駅構内の階段附近に1時間以上にわたって滞留し続けたため、Xは、鉄道法35条違反の罪および刑法135条後段の不退去罪により逮捕され、起訴された。公判において、Xは、自らの行為に鉄道営業法等を適用するのは、憲法21条が保障する政治活動の自由に対する侵害であり、無罪であると主張した。

 本問における憲法上の問題を指摘し、論ぜよ。

5月25日(6)

 X市は、住民から強く反対されてきたダムの建設について、地域住民の理解を得るため、住民の多くが信奉する甲神社に甲神社社務所の名目で、実質的に住民会館を設置することを決め、その建設費用、維持費等を甲神社に奉納という形で支出することを決定した。

 これに対し、X市住民Yが、地方自治法242条に基づき監査委員に対し住民監査請求を行ったが、却下されたので、同242条の2第1項に基づき支出の差し止めを請求した。

 X市の措置について憲法上の問題点を論ぜよ。

5月18日(5)

 選挙公報は、選挙に際して立候補した候補者の氏名、経歴、政見などを掲載した文書であり、選挙管理委員会によって発行され、公費で有権者に配布される。選挙公報に掲載される各候補者の掲載文は、候補者の責任において作成され、選挙管理委員会に提出される。選挙管理委員会は、掲載文を「原文のまま選挙公報に掲載しなければならない」(公職選挙法1602項)とされている。 

 A県知事選挙において、候補者Xは、選挙公報の自己の掲載文のなかで、「今回の知事選に出馬した前知事のBは、これまで公共工事の発注に際して建設業者から多額の金員を隠れて受領して私腹を肥やし、A県の政治を腐敗させた。」と記述していた。このXの掲載文を受け取ったA県選挙管理委員会(Y)は、この記述が事実無根の誹謗中傷であり、Bの名誉を毀損するものであって、選挙の公正を害すると判断し、そこで、この記述部分を削除した上でXの掲載文を選挙公報に掲載した。

 以上の事例において生じる憲法上の論点について説明し、Yによる削除の当否について論ぜよ。

[参照]公職選挙法

(この法律の目的)

第一条  この法律は、日本国憲法 の精神に則り、衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を公選する選挙制度を確立し、その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする。

(選挙公報の発行)

第百六十七条  衆議院(小選挙区選出)議員、参議院(選挙区選出)議員又は都道府県知事の選挙においては、都道府県の選挙管理委員会は、公職の候補者の氏名、経歴、政見等を掲載した選挙公報を、選挙(選挙の一部無効による再選挙を除く。)ごとに、一回発行しなければならない。この場合において、衆議院(小選挙区選出)議員又は参議院(選挙区選出)議員の選挙については、公職の候補者の写真を掲載しなければならない。

2項以下略]

(掲載文の申請)

第百六十八条  衆議院(小選挙区選出)議員、参議院(選挙区選出)議員又は都道府県知事の選挙において公職の候補者が選挙公報に氏名、経歴、政見等の掲載を受けようとするときは、その掲載文(衆議院小選挙区選出議員又は参議院選挙区選出議員の選挙にあつては、併せて写真を添付するものとする。)を具し、当該選挙の期日の公示又は告示があつた日から二日間(衆議院小選挙区選出議員の選挙にあつては、当該選挙の期日の公示又は告示があつた日)に、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会に、文書で申請しなければならない。

2項以下略」

(選挙公報の発行手続)

第百六十九条  衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙について前条第二項又は第三項の申請があつたときは、中央選挙管理会は、その掲載文の写し二通を衆議院(比例代表選出)議員の選挙にあつてはその選挙の期日前九日までに、参議院(比例代表選出)議員の選挙にあつてはその選挙の期日前十一日までに、都道府県の選挙管理委員会に送付しなければならない。

 都道府県の選挙管理委員会は、前条第一項の申請又は前項の掲載文の写しの送付があつたときは、掲載文又はその写しを、原文のまま選挙公報に掲載しなければならない。この場合において、衆議院(比例代表選出)議員の選挙にあつては当該選挙区における当該衆議院名簿届出政党等の衆議院名簿登載者の数、参議院(比例代表選出)議員の選挙にあつては参議院名簿登載者の数に応じて総務省令で定める寸法により掲載するものとする。3項以下略]

(早稲田大学法科大学院2012年問題)

5月11日(4)

  20××年、遺伝子技術について、遺伝子組換えがもたらす生命・健康に対する危害の問題が議論された結果、「遺伝子組み換えに関する研究の規制に関する法律」が制定された。

同法によれば、

  第一に、遺伝子組み換え技術を利用した研究を行っている者は、その研究の内容を文部科学省令で定めるところにより、文部科学大臣に届け出なければならず、また、研究成果についても、発表に先行して文部科学大臣に届け出、その許可を得る必要がある、とされていた。

  第二に、文部科学大臣は、研究内容届け出の内容を検討し、問題があると認める時には、研究の中止または研究方法の変更を命じることができ、また、研究成果届け出の内容を検討し、問題があると認める時には、研究成果公表の制限または禁止を命じることができることとされていた。

  Xは新型インフルエンザに病原性について、遺伝子組み換え技術を使って研究していたが、それを発表すれば、ノーベル賞も十分に可能と思われるきわめて優れた研究成果を得た。そこで、発表に先立ち、同法に従い、文部科学大臣に届け出た。

  文部科学大臣Yは、検討の結果、その研究成果の一般への公表を認めると、テロリストが容易に生物兵器を開発してテロを実行することが可能になると判断し、その成果発表の禁止を命令した。

  そこでYはこの法律は憲法23条に違反するため、成果発表禁止命令は無効であると主張し、Yの処分の取り消しを求めて訴えを提起した。

  本問に関する憲法上の問題について論じなさい。

4月27日(3)

 テレビ局Xでは、暴力団がかつての賭博などの活動から、債権取り立てを請け負うなどの業務で、一般社会へ進出してきていることの危険性を国民に知らせるべく、ドキュメンタリー番組を企画し、その中で、暴力団による違法な債権取り立ての様子を放送するという企画をたてた。

  Xは暴力団からの過酷な取り立てを受けている債務者Aに協力を依頼した。暴力団からの仕返しを恐れて難色を示すAから、映像や音声に処理をして誰か判らなくした上で、放送目的のためだけに使うことを条件に承諾を得て、Aの事務室に隠しカメラを設置した。その結果、債権取り立てに当たって暴力団員某がAに暴力を振るう生々しい映像を得ることが出来たので、特別番組の中で、その映像を約束通り編集した上で放映した。

  警察Yでは、放映された映像をビデオ録画して暴力団員の特定を試みたが、成功しなかったため、犯人を逮捕する目的で、Xに対し、取材フィルムの提出を要請した。しかし、Xは提出を拒否した。そこで、Yは、簡易裁判所裁判官Zの発した差押許可状に基づき、X本社内において、未放送のものを含むこの事件関連のすべての取材フィルムを押収した。

そこで、Xは、こうした取材フィルムの押収は、取材相手との信頼関係を損なう恐れがあり、それがひいては報道および取材の自由に重大な支障をきたすとして、押収処分の取り消しを求めて準抗告の申立てを行った。

  Xの準抗告理由における憲法上の問題点を論ぜよ。

4月20日(2)

 出版社Yは、世間で今、最も注目されているアイドルグループXの「おっかけマップ」を作れば大きな売り上げが期待できると考え、Xの承諾を得ること無しに同書を作成し、11万円で出版した。

 その本には、Xに属するそれぞれのタレントの写真と共に、その自宅や通学する学校等の所在地が市・区以下の町名まで特定して示され、その場所を示す地図と、自宅等の写真が掲載されている。地図には最寄り駅や付近の目印となる施設、商店などが記載されており、この地図を持って最寄り駅に出向きさえすれば、これらの情報によって自宅等を容易に捜し出すことのできる内容になっている。

 この本が発売されることをYの広告で知ったXは、X所属タレントの氏名権、肖像権等の侵害であるとして、その出版差し止めと損害賠償を求める訴えを提起した。

 口頭弁論において、Yは次の様に主張した。

 一般人であれば、濫りにその氏名を第三者に使用されたり、又はその肖像を他人の眼にさらされたりすることは、その人に嫌悪、羞恥、不快等の精神的苦痛を与える場合があり、プライバシーの権利が成立する場合があることは認める。しかし、俳優等の職業にあっては、自己の氏名や肖像が広く一般大衆に公開されることを希望若しくは意欲しているのが通常であって、それが公開されたからといって、一般人のように精神的苦痛を感じないから、その使用の方法、態様、目的等からみて、その俳優等としての評価、名声、印象等を毀損若しくは低下させるような場合はともかく、その人気を向上させる本書によるプライバシー権侵害はあり得ない。しかも、本書の内容は公知の事実を編集したものであるので、本質的にプライバシー権侵害は成立しない。したがってYの出版の自由を侵害することは許されない。

 このYの主張に対し、Xは次の様に反論した。

 Xのように、固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得した俳優等の氏名・肖像を商品に付した場合には、当該商品の販売促進に効果があることは公知のところであり、Yによる本書の出版はまさにそれを狙ってなされている。そして、俳優等の氏名・肖像がもつかかる顧客吸引力は、当該俳優等の獲得した名声、社会的評価、知名度等から生ずる独立した経済的な利益ないし価値であるから、Xはかかる顧客吸引力のもつ経済的な利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利を有する。したがって、この権利に基づき、Xはその侵害行為に対してはその差止めと、それにより受けた経済的利益の侵害に対する賠償を求めることができる。

X及びYの主張について憲法上の問題を述べよ。

4月13日(1)

 XY社の入社試験において、「あなたはいずれかの政党に現に所属していますか、あるいは所属していたことがありますか」と質問され、「いいえ、どこの政党にも所属していませんし、所属していたこともありません」と答えた。しかし、実際にはXA政党にそれまで属して活動していたが、就職氷河期と呼ばれる厳しい雇用情勢の下で、政治的に偏った主張をすることで知られるA政党に属していたのでは就職が困難と考え、脱退していた。採用後にそのことが判明したため、Xは入社試験において虚偽の 陳述を行い、もって雇用関係の基本である相互の信頼関係を破壊したとして、解雇された。

  そこでXは、Yの入社時の質問は、そもそも憲法19条の保障する内心の自由を侵害するものであり、したがって解雇は憲法違反であると主張して、解雇無効の訴えを提起した。これに対し、Yは「憲法19条は、対国家的権利であって、私人間には効力を有しない」と反論した。

  Yの反論の憲法上の当否について論ぜよ。

 

 

 

2011年度 甲斐ゼミ 活動表

 

     
春休みゼミ合宿(31)   政府では、社会経済情勢の変化により道州制の導入の検討が重要な課題になっていることを踏まえ、特命担当大臣(道州制担当)を設け、その下に、道州制の導入に関する基本的事項を議論するため、石井正弘(岡山県知事、全国知事会道州制特別委員会委員長)等をメンバーとする「道州制ビジョン懇談会」を平成19年に設けた。
 同懇談会は、平成20年3月に「道州制ビジョン懇談会中間報告」を公表した。
 それに依れば、道州は、基礎自治体の範囲を越えた広域にわたる行政、道州の事務に関する規格基準の設定、区域内の基礎自治体の財政格差などの調整を担う。具体的には、@広域の公共事業(大型河川、広域道路、空港港湾の整備・維持、通信基盤、生活環境整備など)、A科学技術・学術文化の振興、対外文化交流、高等教育(大学相当以上)、B経済・産業の振興政策、地域の土地生産力の拡大(林野・農地の維持)、C能力開発や職業安定・雇用対策、D広域の公害対策、環境の維持改善、E危機管理、警察治安、災害復旧、F電波管理、情報の受発信機能、G市町村間の財政格差の調整、公共施設規格・教育基準・福祉医療の基準の策定などを分担する。
 その道州には、その役割分担を自主的に果たすため、広範な自主立法権をもつ一院制議会を設け、道州の首長及び議会の議員は、その地域住民による直接選挙で選出するものとされている。
 このような道州制導入に関して生じる憲法上の問題について論じなさい。
 
     
1月20日(30)  

 ハンセン病は、らい菌によって引き起こされる細菌感染症であるが、ほとんどの人に対して病原性を持たないため、人の体内にらい菌が侵入し感染しても、発病することは極めてまれである。また、治療薬プロミン等のスルフォン剤により、現在では、ハンセン病は、早期発見と早期治療により、障害を残すことなく外来治療によって完治する病気であり、不幸にして発見が遅れ障害を残した場合でも、手術を含む現在のリハビリテーション医学の進歩により、その障害を最小限に食い止めることができるとされている。

 しかし、明治40年制定の「らい予防法」及び昭和28年のその改正法(新法)に基づいて、政府が戦前・戦後にまたがってほぼ全患者を対象とする収容の徹底・強化を行ったことにより、多くの国民は、ハンセン病が強烈な伝染病であるとの誤った認識に基づく過度の恐怖心を持つようになり、その結果、ハンセン病に対する社会的な差別・偏見が増強され、治療薬の登場によりハンセン病が治し得る病気となった後も、新法がハンセン病に対する隔離政策を継続したことによって、ハンセン病に対する差別・偏見が助長・維持され、新法廃止まで根強い差別・偏見が厳然として存在し続けた。その中で、ハンセン病患者は、保健所職員の度重なる勧奨等により入所を余儀なくされるなど、勧奨による入所という形をとっていても、その実態は、患者の任意による入所とは認め難いものであった。そして、入所に当たっては、優生保護法のらい条項の下で、昭和30年代まで優生手術を受けることを夫婦舎への入居の条件としていた療養所があり、入所者が療養所内で結婚するためには優生手術に同意をせざるを得ない状況もあった。

 国際的には、次第に強制隔離否定の方向性が顕著となり、昭和31年のローマ会議、昭和33年の第7回国際らい会議(東京)及び昭和34年のWHO第2回らい専門委員会などのハンセン病の国際会議においては、ハンセン病に関する特別法の廃止が繰り返し提唱され、政府や国会の関係者もそれを承知していた。しかし、らい予防法は平成8年に至るまで廃止されず、同法に基づく隔離が継続された。

 そこで、元患者が、同法の下で受けた隔離による被害に対して国家賠償を求めた。

 この国家賠償請求の可否に関する憲法上の問題点につき検討しなさい。

 
1月13日(29)  

 Yは、Z政党の立会演説会開催の告知宣伝を内容とするプラカード式ポスター(縦50cm、横75cm)合計100枚を、X県の県庁所在地A市中央駅の駅前広場及びここから伸びる繁華街の街路樹に、それぞれ針金で括り付けて設置した。これにより、X県屋外広告物条例に違反するとして起訴され、罰金1万円を求刑された。

 これに対し、Yは、本件条例は憲法21条1項に違反する違憲・無効なものであるから無罪であると主張した。

 本問における憲法上の問題点を論ぜよ。

 

 参照条文

屋外広告物法(昭和24年法律第189号)

 第1 この法律は、良好な景観を形成し、若しくは風致を維持し、又は公衆に対する危害を防止するために、屋外広告物の表示及び屋外広告物を掲出する物件の設置並びにこれらの維持並びに屋外広告業について、必要な規制の基準を定めることを目的とする。

 第32 都道府県は、条例で定めるところにより、良好な景観又は風致を維持するために必要があると認めるときは、次に掲げる物件に広告物を表示し、又は掲出物件を設置することを禁止することができる。

  二 街路樹及び路傍樹

 

X県屋外広告物条例

 第1条 この条例は、屋外広告物法(昭和24年法律第189)の規定に基づき、屋外広告物(以下「広告物」という。)について必要な規制を行ない、もつて美観風致を維持し、及び公衆に対する危害を防止することを目的とする。

4条 次の各号に掲げる物件に広告物を表示し、又は広告物を掲出する物件を設置してはならない。

   三 街路樹、路傍樹

33条 次の各号の一に該当する者は、30万円以下の罰金に処する。

一 第3条から第5条までの規定に違反して広告物又は広告物を掲出する物件を表示し、又は設置した者

 

 
12月17日 OBOG総会 ホテルエドモンド
12月16日(28)  

 法律と予算の不一致がどのような場合に生ずるか。その原因を説明し、不一致が生じた場合の国会と内閣の責務について論ぜよ。 (平成2年憲法第2問)

 
12月9日(27)  

 

2006年、千代田区は全国初の路上喫煙を禁止する条例を制定した。当初は水道橋・神保町地区など、一部地域を指定して路上喫煙を禁止していたが、その後、逐次指定地域が拡大し、20104月に霞ヶ関地区が追加されたことにより、皇居を除く千代田区の全域が指定地域となった。Xは条例の存在は知っていたが、霞ヶ関地区にまで指定地域が拡大されたのを知らずに、霞ヶ関でタバコを吸いながら歩いていたのを警官に見つかり、命ぜられるままに2000円の過料を支払った。しかし後々腹が立ったXが憲法について調べてみたところ、憲法第14条に法の下の平等に関しての規定が有るので、全国一律ではない地方の条例で罰則規定があるのは、憲法に違反しているのではないかと考えた。

 

Xの考えの当否とその理由を述べよ。

参考条文 安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例

21 条 区長は、特に必要があると認める地区を、路上禁煙地区として指定することができる。

2前項の指定は、終日又は時間帯を限って行うことができる。

3路上禁煙地区においては、道路上で喫煙する行為及び道路上(沿道植栽を含む。)に吸い殻を捨てる行為を禁止する。(以下略)

24 条 次の各号のいずれかに該当する者は、2万円以下の過料に処する。

(2)第21 条第3項の規定に違反して路上禁煙地区内で喫煙し、又は吸い殻を捨てた者
 
12月2日(26)

@ Xは「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」に基づいて裁判員に選任された。しかし、Xが信ずる宗教では、人を裁くのは神のみであるとして裁判員につくことを禁じていた。そこで、Xは、Xに裁判員になることを強制することは、憲法20条に違反し、違憲・無効である旨主張した。

A Yは「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」に基づいて、裁判員に選任された。しかし、Yは、同法が予定する重大犯罪について、被告人の有罪・無罪および死刑を含む決定を行うには、自分はあまりに意思力が弱いため、その責務の重大性に耐えられないと考えた。そこで、Yに裁判員になることを強制することは、憲法18条後段にいう「意に反する苦役」に該当し、違憲・無効である旨主張した。

 X、Yそれぞれの主張の当否について論ぜよ。

11月25日(25)

Aは生業に就かず、自らの全財産を処分して賭博にふけっており、妻浦和充子と3人の子を顧みないため、浦和充子は、前途を悲観して、1948(昭和23)年47日、親子心中をはかり、3人の子供を絞殺したが、自分は死にきれず自首した。

この妻浦和充子に対し、浦和地裁は「犯行動機その他に情状酌量すべき点がある」として懲役3年・執行猶予3年の判決を下した。

これに対し、翌年5月から「裁判官の刑事事件不当処理等に関する調査」を行ってきた参議院法務委員会は、同年10月、これを「検察及び裁判の運営に関する調査」とあらため、翌年3月、当該事件を取り上げ、被告人である母親や元夫、担当検事らを証人として呼び出し、調査した結果を同年5月「裁判官の刑事事件不当処理等に関する調査」の報告書にまとめ、「検察官および裁判官の本件犯罪の動機、その他の事実認定は不満足であり、執行猶予付きの懲役3年の刑は軽きに失し当を得ない」と結論づけた。

この動きに対し、最高裁判所は、「司法権は憲法上裁判所に専属するものであり、法務委員会が、個々の具体的裁判について事実認定もしくは量刑等の当否を精査批判し、又は司法部に対し指摘勧告する等の目的をもって、前述の如き行動に及んだことは、司法権の独立を侵害し、まさに憲法上国会に許された国政に関する調査、いわゆる国政調査権の範囲を逸脱する措置といわねばならない」として強く抗議した。

これに対して参議院法務委員会は次のような声明を行った。「国会は、国権の最高機関で、国の唯一の立法機関である。国政調査権は単に立法準備のためのみでなく、国政の一部門である司法の運営に関し調査批判する等、国政の全般にわたって調査できる独立の権能である。司法権の独立とは、裁判官が具体的事件を裁判するにあたって、他の容かい干渉を受けないことで、したがって、現に裁判所に係属中の訴訟事件の調査は問題があるとしても、すでに確定判決を経て、裁判所の手を離れた事件の調査のようなものは、司法権の独立を侵害するものではない」。

上記に係る最高裁判所と参議院法務委員会の、司法権の独立に関する見解の相違について憲法上の問題について論ぜよ。

11月18日(24)

次の各事例において裁判所の措置について裁判公開の原則との関係で生ずる憲法上の問題点を挙げて論ぜよ。 

@   ある企業が、その保有する営業秘密を不正に取得し使用しようとする者に対し、右不正行為の差止めを求めた民事訴訟において、裁判所が、審理を公開すると営業秘密が公に知られる恐れがあるという理由で、口頭弁論の傍聴を禁止した場合

A   右の@の訴訟において裁判所が、口頭弁論の傍聴は禁止しなかったとして傍聴人のメモをとることを禁止した場合

(平成5年度旧司法試験問題)

11月11日(23)

 国家公務員法(以下「法」という)32項は、人事院の権限として「給与その他の勤務条件の改善及び人事行政の改善に関する勧告、採用試験及び任免(標準職務遂行能力及び採用昇任等基本方針に関する事項を除く。)、給与、研修、分限、懲戒、苦情の処理、職務に係る倫理の保持その他職員に関する人事行政の公正の確保及び職員の利益の保護等に関する事務をつかさどる」と定めている。これは、普通、人事行政と呼ばれる。

 憲法65条は、「行政権は、内閣に属する」と定める。したがって、憲法上は人事行政も内閣に属すると考えられる。そこで、法31項は「内閣の所轄の下に人事院を置く」と定めている。

 人事院は、独任制の官庁ではなく、3名の人事官によってされる合議制の官庁である(法41項)。しかし、内閣は、人事官の任免権限を持たない。すなわち、任命に当たっては、「人事官は、人格が高潔で、民主的な統治組織と成績本位の原則による能率的な事務の処理に理解があり、且つ、人事行政に関し識見を有する年齢三十五年以上の者の中から両議院の同意を経て、内閣が、これを任命する。」(51)とされていて、国会の同意が要件となっている。さらに罷免に関しては、次のように定められている。

第八条  人事官は、左の各号の一に該当する場合を除く外、その意に反して罷免されることがない。

一  第五条第三項各号の一に該当するに至つた場合

二  国会の訴追に基き、公開の弾劾手続により罷免を可とすると決定された場合

三  任期が満了して、再任されず又は人事官として引き続き十二年在任するに至つた場合

○2  前項第二号の規定による弾劾の事由は、左に掲げるものとする。

一  心身の故障のため、職務の遂行に堪えないこと

二  職務上の義務に違反し、その他人事官たるに適しない非行があること

○3  人事官の中、二人以上が同一の政党に属することとなつた場合においては、これらの者の中の一人以外の者は、内閣が両議院の同意を経て、これを罷免するものとする。

○4  前項の規定は、政党所属関係について異動のなかつた人事官の地位に、影響を及ぼすものではない。

 そして、弾劾に関しては、次のように定められている。

第九条  人事官の弾劾の裁判は、最高裁判所においてこれを行う。

○2  国会は、人事官の弾劾の訴追をしようとするときは、訴追の事由を記載した書面を最高裁判所に提出しなければならない。

○3  国会は、前項の場合においては、同項に規定する書面の写を訴追に係る人事官に送付しなければならない。

○4  最高裁判所は、第二項の書面を受理した日から三十日以上九十日以内の間において裁判開始の日を定め、その日の三十日以前までに、国会及び訴追に係る人事官に、これを通知しなければならない。

○5  最高裁判所は、裁判開始の日から百日以内に判決を行わなければならない。

○6  人事官の弾劾の裁判の手続は、裁判所規則でこれを定める。

○7  裁判に要する費用は、国庫の負担とする。

この結果、人事院は、実質的にみて内閣の指揮監督に服しない。このような規定は憲法65条に違反するのではないか、論じなさい。

11月4日(22)

 現在の日本銀行法231項は次のように定めている。

「総裁及び副総裁は、両議院の同意を得て、内閣が任命する。」

 平成○○年、内閣総理大臣Xは、元財務省事務次官某を日本銀行総裁に任命しようとした。

 衆議院では与党甲が議席の過半数を占めていたため、総裁人事案は問題なく賛成多数で可決された。ところが、参議院においては野党乙が議席の過半数を占めており、乙は、財務官僚の日銀支配に反対するとして、総裁人事案への同意に対し反対投票したため、参議院では同案は反対多数で否決された。この結果、前任総裁の任期切れに伴い、日本銀行総裁が空席となった。

 この異常事態に対し、Xは、日本銀行法231項を、憲法602項に準じて、次のように改正する事を決意した。

「総裁及び副総裁は、両議院の同意を得て、内閣が任命する。ただし、参議院で衆議院と異なつた議決をしたとき、又は参議院が、衆議院の議決後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。」

 これに対し、乙の党首Yは、上記日本銀行法改正は二院制を定める憲法に違反するとして、絶対反対を表明した。そこで、Xは憲法592項に準じて次のように修正することを提案した。

「総裁及び副総裁は、両議院の同意を得て、内閣が任命する。ただし、衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした場合には、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、衆議院の議決を国会の議決とする。」

 しかし、Yはこの修正案にも同じ理由から反対した。

 X及びYの主張に含まれる憲法上の論点について論ぜよ。

10月28日 学部祭のため、休校  
10月21日(21)

 平成○○年、日本はA国との間で、両国の貿易関係に関する協定を締結した。内容の概略を示せば、下記の通りである。

 政府は、当初、これは両国間の行政レベルにおける協定に過ぎないと考え、国会の承認を求めることなく、この協定を発効させた。なぜなら、第2条で関税について定めているが、A国の主要産品に関する限り、協定締結時点における関税定率法で税率ゼロとしているものばかりであり、その他の条項についても、同様に特段の法的措置は不要な内容であったためである。

 しかし、これはA国との間の貿易関係の根幹に拘わる重要な問題であるから、国会の承認を得るべき条約であるとの意見が与野党間で高まった。そこで、政府は、事後の国会承認を求めて、衆議院に協定を提出した。

 衆議院では、審議の末、確かにA国は米の生産国ではないが、無条件に第2条の関税の撤廃を定めると、第3国からA国経由で日本に対する米の輸出が行われる危険があるとして、第2条に関し、米を除外するという修正を行うことを条件に、本協定を承認し、参議院もこれに倣った。

 本問における憲法上の論点を指摘し、論ぜよ。

1  協定の目的

  1)両国間の国境を越えた物品・人・サービス・資本・情報のより自由な移動を促進し、経済活動の連携を強化する。

  2)貿易・投資のみならず、金融、情報通信技術、人材養成といった分野を含む包括的な二国間の経済連携を目指す。

2  物品の貿易の促進

  1)関税

     日本からA国への輸出にかかるA国の関税は全て撤廃する。

     A国から日本への輸出にかかる日本の関税は全て撤廃する。

  2)税関手続

      税関手続の簡素化、国際的調和のための協力する。

  3)貿易取引文書の電子化

      貿易取引文書の電子的処理を促進する。

3  人の移動の促進

  1)人の移動

     商用目的の人々の入国及び滞在を双方で容易なものにする。

   技術者資格等の職業上の技能を相互に認める。

  2)人材養成

     学生・教授・公務員等の交流を促進する。

  3)観光

      双方の観光客の増大を促進する。

  4)科学技術

      研究者等の交流を促進する。

4  サービス貿易の促進

10月14日(20)   内閣法は、「内閣は、国民主権の理念にのっとり、日本国憲法第73条その他日本国憲法に定める職権を行う。」(第1条第1項)、「内閣は、国会の指名に基づいて任命された首長たる内閣総理大臣及び内閣総理大臣により任命された国務大臣をもって、これを組織する。」(第2条第1項)、「閣議は、内閣総理大臣がこれを主宰する。この場合において、内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本的方針その他の案件を発議することができる。」(第4条第2項)、「内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基づいて、行政各部を指揮監督する。」(第6条)等々と定めている。
 内閣法のこれらの規定は、日本国憲法についてのどのような理解に基づくものと解すべきかについて、論述せよ。

平成13年度国家公務員T種法律職憲法問題

10月 7日(19)

 次のものはA君のサブノートの一部である。

「我が憲法は、国会議員を『全国民を代表する』と定め(43)、『全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない』とし(15)、その結果、命令的委任を禁じている(51)。したがって、どれほど重大な問題であったとしても、特定の問題について、国民(有権者)の意見を問うために衆議院を解散することは、自由委任の原則に反し、違憲である。ただし、憲法は権力分立制を採用しているから、国会と内閣は対等である。それなのに、国会に内閣不信任権を認めているので、その濫用を防ぐため、内閣側に衆議院解散を認めることが、両者の均衡を保つ上で必要である。したがって、憲法69条に基づく解散だけは許される。」

 諸君としては、これに対し、7条解散も許されると論じたい。どのように論じたらよいか、述べなさい。

9月30日(18)   衆議院議員Yは、政府に対する質疑の中で、与党幹事長であるZの、独立の生計を営む民間人である息子Xが、L社より選挙コンサルティング料の名目で多額の現金を受領していることに関し、確実な証拠を有しているとのべた。そして、これは、同社社長Hの立候補に当たってZが支援する行為を行っていることに関連したZへの迂回献金ではないのか、また、Zがこの事実をきちんと報告していない点で、政治資金規正法および公職選挙法に違反しているのではないか、という趣旨の質疑を行った。
 身に覚えのないXとしては、名誉毀損に基づく損害賠償請求を行いたい。
@ 直接Yに対して民法709条に基づく損害賠償請求をすることはできるか
A 公務員の身分を持つYが、その職務の執行に当たり行った不法行為として、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求を国に対して行うことはできるか。

9月23日(17)

○○年、A党に所属するB議員が、議員立法として以下の法案を提出した。これに対する憲法上の問題について論じなさい

  第一条(目的) この法律は、永住外国人に地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権等を付与するため、地方自治法及び公職選挙法の特例を定めることを目的とする。                            

 第二条(永住外国人の定義) この法律において「永住外国人」とは、次のいずれかに該当する者をいうものとする
 1 出入国管理及び難民認定法別表第二の上欄の永住者の在留資格をもって在留する者
 2 日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法に定める特別永住者

 第三条(普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権に関する地方自治法及び公職選挙法の特例)
(1)  申請により永住外国人選挙人名簿に登録された年齢満二十年以上の永住外国人で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有するものは、その属する普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有するものとする。
(2) 永住外国人選挙人名簿の登録は、年齢満二十年以上の永住外国人(公民権停止中の者を除く。(2)において同じ。)であって当該市町村の区域内に引き続き三箇月以上住所を有するもの(当該市町村の区域内に引き続き三箇月以上外国人登録原票上の居住地がある者に限る。)について、登録されたことがない者についてはその申請により、登録されたことがある者については職権により、市町村の選挙管理委員会が行うものとすること。
(3) 市町村の区域内に住所を有する年齢満二十年以上の永住外国人で、永住外国人選挙人名簿に登録されたことがない者は、文書で、当該市町村の選挙管理委員会に永住外国人選挙人名簿の登録の申請をすることができるものとすること。
(4) 市町村の選挙管理委員会は、永住外国人選挙人名簿に登録される資格を有する者を、定時登録については登録月の一日現在により当該登録月の二日に、普通地方公共団体の議会の議員又は長の選挙を行う場合の登録については当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会が定めるところにより、申請又は職権によって、永住外国人選挙人名簿に登録しなければならないものとする。
 

     
夏休みゼミ合宿(16)    
夏休みゼミ合宿(15)    
     
7月22日(14)

問題

Xは、国民年金法施行令別表の11号(両眼の視力の和が0.04以下のもの)に該当する視力障害者で、同法に基づく障害基礎年金を受給している。Xは内縁の夫Aとの間に男子Bがある。XAと離別後独力でBを養育してきた。しかし、児童扶養手当法に基づく児童扶養手当制度を知ったことから、居住するC県知事Yに、その受給資格について認定の請求をしたところ、Yは、請求を却下する旨の処分をした。さらに、XYに異議申し立てをしたのに対し、Yは右異議申立てを棄却する旨の決定をした。その決定の理由は、Xが障害基礎年金を受給しているので、児童扶養手当法43項二号に該当し受給資格を欠くというものであつた。

そこで、Xは処分の取り消しを求めて、Yを相手に訴えを提起した。

この訴訟における憲法上の論点を指摘し、論ぜよ。

 

参照条文

児童扶養手当法

4条 都道府県知事、市長(特別区の区長を含む。以下同じ。)及び福祉事務所(社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に定める福祉に関する事務所をいう。以下同じ。)を管理する町村長(以下「都道府県知事等」という。)は、次の各号のいずれかに該当する児童の母がその児童を監護するとき、又は母がないか若しくは母が監護をしない場合において、当該児童の母以外の者がその児童を養育する(その児童と同居して、これを監護し、かつ、その生計を維持することをいう。以下同じ。)ときは、その母又はその養育者に対し、児童扶養手当(以下「手当」という。)を支給する。

一 父母が婚姻を解消した児童

二 父が死亡した児童

三 父が政令で定める程度の障害の状態にある児童

四 父の生死が明らかでない児童

五 その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの

2 略

3 第1項の規定にかかわらず、手当は、母に対する手当にあつては当該母が、養育者に対する手当にあつては当該養育者が、次の各号のいずれかに該当するときは、支給しない。

一 日本国内に住所を有しないとき。

二 国民年金法等の一部を改正する法律(昭和六十年法律第三十四号)附則第32条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法第1条による改正前の国民年金法に基づく老齢福祉年金以外の公的年金給付を受けることができるとき。ただし、その全額につきその支給が停止されているときを除く。

7月15日(13)

 Y市に居住する夫婦であるA及びBは、いずれも体が弱く、十分に就労することができないことから、生活保護の対象となっていた。

 生活保護法(以下「法」という)による保護は、夫婦及びその子弟等で構成される世帯を単位として、保護の必要があるか否かが認定されることとなっている。法は、生活保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われるものとしている(41項)。これがいわゆる補足性の原理で、その具体化として、保護は、厚生大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとしている(81項)。また、保護の種類は、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、出産扶助、生業扶助及び葬祭扶助の7種類と定められており(111項)、各類型ごとに保護の行われる範囲が定められている。したがって、既に保護を受けている被保護者が新たに資産や収入を得た場合も、法81項に基づき被保護者の収入として認定し、それに応じて保護費を減額するのが許されることは当然のことであり、このような変更処分は、法56条の正当な理由があるということになる。

 生活保護世帯の子弟の高校進学に関しては、当初は、子弟(修学者)の生計を当該保護世帯から分離するいわゆる世帯分離によって高校修学を容認する方法がとられたため、教育費(高校修学の費用)だけでなく修学者の生活費も保護の対象とならず、高校に修学するためには、自ら又は他からの援助によってこれらの費用をまかなうことができる場合に限られた。その後、高校修学が被保護世帯の自立助長に資するとの観点から、昭和36年以降、世帯内修学、すなわち子弟が被保護世帯と生計を共にし、したがって、生活費等について保護を受けながら高校修学を認める運用がされるようになり、その対象となる学校の範囲も順次拡大されていった結果、昭和45年にはすべての高校について、さらに昭和51年には高校に準ずる各種学校についてそれぞれ世帯内修学が一般的に認められるようになった。また、教育費調達先の要件も緩和され、修学費用に充てる目的で他から修学者に対して恵与された収入等については、これを最低限度の生活を維持すべき収入として扱わない旨の収入認定除外の運用がされるようになったため、子どもの稼働能力を活用しなくとも、被保護世帯の子弟が高校に進学することができる余地が広がった。

 しかし、高校修学のためには、学費等の学校教育費のほか、制服制帽等の購入費や通学費などの間接的な経費を要する(これらの経費は生活保護の対象とされていない)上、入学に際しては、受験料、入学申込金、施設費及びその他の校納金等のまとまった金員を要し、特に私立高校に修学する場合には、その金額も多額であるところ、これらの費用に充てるため各種の奨学金や貸付金の制度を利用するにしても、その対象者が成績優秀者に限られていたり、借受けについて保証人を要するなどその要件が厳格であるほか、金額の点でも、また、貸付け時期の点でも、一般の被保護世帯が、これらの制度を活用することによってその子弟を高校に修学させるのは、事実上、困難な状況にある。

 そこで、Aは、当時3歳の長女Xを被保険者として、郵政省の保険全期間払込18歳満期の学資保険(保険料月額3000円、満期保険金50万円)に加入した。この保険料の原資は、生活保護による給付金等であった。学資保険は、郵政省を事業主体とし、子を被保険者、親を契約者とする養老保険の一種であって、本件18歳満期コースでは被保険者が高等学校に入学する15歳の時に、保険金の1割に当たる生存保険金(お祝い金)が支払われ、卒業期の18歳の時に満期金が支払われる仕組みになっていた。

 Aは、Xの高校進学に当たり、本件学資保険から5万円のお祝い金を受け取ったほか、学資保険を担保として郵政省から20万円を借り受け、これらにより、Xの高校進学に伴う経費を賄った。その後も、Aは毎月、保険料を支払うとともに、借入金の返済を行った。その結果、Xが18歳になった時点で、Xは満期金50万円から、未返却借入金を差し引いた44万余円を受領した。

 これに対して、Y市では、この満期金を本件世帯の収入と認定し、それ相当額を、満期金受領月から半年間に案分して、毎月の給付金を減額するとする保護変更決定処分を下した。これに対して、Xは、この処分は憲法25条及び26条を侵害しているとして、その取り消しを求めて、訴えを提起した。

 本件における憲法上の問題点について検討せよ。

7月8日(11)

用地の取得が著しく困難な大都市において,公園及び公営住宅の建設を促進するために,当該都市に所在する私有の遊休土地を市場価格より低い価格で収用することを可能とする法律が制定されたと仮定する。

この法律に含まれる問題点について論ぜよ。

平成6年度司法試験論文式試験問題第1

7月1日(10)

 Xは、乗用車を運転中、前方不注意の結果、歩行者Yに接触し、負傷させた。そこで、Xは直ちにYを最寄りの病院に搬送するなどの救護措置を執った。しかし、道路交通法に定める警察官への通報をしなかったため、自動車運転過失致死傷罪(刑法211条2項)に加え、報告義務違反の罪で起訴された。

 これに対し、Xは、72条1項の事故の内容の報告義務は、自己に不利益な供述を操縦者に強要するものであり、憲法38条1項に反すると主張した。

 この訴訟における憲法上の問題点について論ぜよ。

参照条文:

 道路交通法72条1項:車両等の交通による人の死傷又は物の破損があつたときは、当該車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者は……、警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故にかかる車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。

 同119  次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。

10  第72条(交通事故の場合の措置)第1項後段に規定する報告をしなかつた者

 

6月24日(9)  国会は,主に午後6時から同11時までの時間帯における広告放送時間の拡大が,多様で質の高い放送番組への視聴者のアクセスを阻害する効果を及ぼしているとの理由から,この時間帯における広告放送を1時間ごとに5分以内に制限するとともに,この制限に違反して広告放送を行った場合には当該放送事業者の放送免許を取り消す旨の法律を制定した。この結果,放送事業者としては,東京キー局の場合,1社平均で数十億円の減収が見込まれている。この法律に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

平成18年度旧司法試験問題

6月17日(8)

  被告人X1は市場経営を業とする法人であり、X2はその代表であるが、Xは小売商業調整特別措置法3条1項に反して大阪府知事Yの許可を受けずに平屋建て一棟(店舗数四九)を建設し、小売市場とするために野菜商四店舗、生鮮魚類商三店舗を含む四九店舗を小売商人に貸し付けたためX1およびX2が同法違反として起訴された。

その訴訟において、Xは、本法3条1項の小売市場の規制は、小売市場業者の自由な経済活動を不当に制限し、既存業者の保護に偏るものであ り、憲法の保障する営業の自由を侵害した違憲のものであると主張した。Xの主張の憲法上の当否について論ぜよ

参照条文

 小売商業調整特別措置法

第三条  政令で指定する市(特別区を含む。以下同じ。)の区域(以下「指定地域」いう。)内の建物については、都道府県知事の許可を受けた者でなければ、小売市場(の建物であって、その建物内の店舗面積(小売業を営むための店舗の用に供される床面をいう。以下同じ。)の大部分が五十平方メートル未満の店舗面積に区分され、かつ、以上の小売商(その全部又は一部が政令で定める物品を販売する場合に限る。)の店舗用に供されるものをいう。以下同じ。)とするため、その建物の全部又は一部をその店の用に供する小売商に貸し付け、又は譲り渡してはならない。

 以下略

第二十二条  次の各号の一に該当する者は、三百万円以下の罰金に処する。

 第三条第一項の規定に違反した者

 小売商業調整特別措置法施行令

第一条  小売商業調整特別措置法 (以下「法」という。)第三条第一項 の政令で指定する市は、別表第一のとおりとする。

第二条  法第三条第一項 の政令で定める物品は、別表第二のとおりとする。

 別表第一 

都道府県

指定市

北海道

札幌市 旭川市

神奈川県

横浜市

石川県

金沢市

愛知県

名古屋市

京都府

京都市

大阪府

大阪市 堺市 岸和田市 豊中市 池田市 吹田市 泉大津市 高槻市 貝塚市 守口市 枚方市 茨木市 八尾市 泉佐野市 富田林市 寝屋川市 河内長野市 松原市 大東市 和泉市 箕面市 柏原市 羽曳野市 門真市 摂津市 高石市 藤井寺市 東大阪市

兵庫県

神戸市 尼崎市 西宮市 芦屋市 伊丹市 宝塚市 川西市

和歌山県

和歌山市

福岡県

福岡市 北九州市

熊本県

熊本市

  別表第二 
一 野菜
二 生鮮魚介類

6月10日(7)  都立F高校で文化祭を開催するに当たり、生徒からの研究発表を募ったところ、キリスト教のある宗派を信仰している生徒Xらが、その宗派の成立と発展に関す る研究発表を行いたいと応募した。これに対して、校長Yは、学校行事で特定の宗教に関する宗教活動を支援することは、公立学校における宗教的中立性の原則 に違反することになるという理由で、Xらの研究発表を認めなかった。
右の事例におけるYの措置について、憲法上の問題点を指摘して論ぜよ。

6月3日(6)

A県知事であるB近い将来に予定されている県知事選挙に向けて、活動している立候補者Xの行動に問題があり、看過できないと考えたため、Xを批判する内容の意見広告をC、D、E及びYの各新聞社に対し、掲載するように求めた。 

 この広告の掲載の是非について、各新聞社はそれぞれ社内の倫理綱領に照らして検討した結果、C,D,Eの各新聞社は、倫理綱領に反するとして掲載を拒絶することに決めた。これに対しY新聞社では、これは公益性の高い主張であって倫理綱領に反しないと決定し、意見広告の掲載を受け入れた。 

 そこで、XはYに対し、問題となった広告と同じスペースの反論文を無償でY新聞紙上に載せるように求めた。 

 しかし、Yは反論文の掲載を強制されることは、紙面のスペースの面で負担を強いられることになり、また、今後の批判的広告の掲載を躊躇することにつながり、その結果間接的に表現の自由が侵害されるとして、これを拒否した。 

 そこで、Xは、反論文掲載を請求して、Yに対して訴えを提起した。 

  Xの主張する反論文掲載請求権が認められるか否かに関して発生する憲法上の問題を指摘し、論ぜよ。

5月27日(5)

 テレビ局Xでは、暴力団がかつての賭博などの活動から、債権取り立てを請け負うなどの業務で、一般社会へ進出してきていることの危険性を国民に知らせるべく、ドキュメンタリー番組を企画し、その中で、暴力団による違法な債権取り立ての様子を放送するという企画をたてた。

 Xは暴力団からの過酷な取り立てを受けている債務者Aに協力を依頼した。暴力団からの仕返しを恐れて難色を示すAから、映像や音声に処理をして誰か判らなくした上で、放送目的のためだけに使うことを条件に承諾を得て、Aの事務室に隠しカメラを設置した。その結果、債権取り立てに当たって暴力団員某がAに暴力を振るう生々しい映像を得ることが出来たので、特別番組の中で、その映像を約束通り編集した上で放映した。

 警察Yでは、放映された映像をビデオ録画して暴力団員の特定を試みたが、成功しなかったため、犯人を逮捕する目的で、Xに対し、取材フィルムの提出を要請した。しかし、Xは提出を拒否した。そこで、Yは、簡易裁判所裁判官Zの発した差押許可状に基づき、X本社内において、未放送のものを含むこの事件関連のすべての取材フィルムを押収した。

  そこで、Xは、こうした取材フィルムの押収は、取材相手との信頼関係を損なう恐れがあり、それがひいては報道および取材の自由に重大な支障をきたすとして、押収処分の取り消しを求めて準抗告の申立てを行った。

 Xの準抗告理由における憲法上の問題点を論ぜよ。

5月20日(4)

A市は,児童・生徒によるインターネットの利用を促進するため,市立のすべての小学校,中学校,高校で児童・生徒がインターネットを使えるようコンピューターを配置するとともに,児童・生徒が教育上ふさわしくないサイトにアクセスすることがないように,コンピューターにフィルタリングを導入し,性的に刺激的な内容,残虐性を助長する内容,自殺を肯定したり、奨励する内容など,児童・生徒の健全な発達を阻害するおそれがあると教育委員会が判断したサイトヘの接続ができないようにした。

この措置が提起する憲法上の問題について検討せよ。

平成15年度公務員国家1種法律職試験問題

5月13日(3)

 YはA国税局の管轄する各県の税理士を構成員として設立された法人であり、日本税理士会連合会の会員である。Yの会則には、Yの目的として税理士法49条の2と同趣旨の規定がある。

 A税理士政治連盟(以下Bという)は、税理士の社会的、経済的地位の向上を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度を確立するため必要な政治活動を行うことを目的として昭和○○年に設立されたもので、Yに対応する政治資金規正法上の政治団体である。

 Yは、平成○○年に開催された定期総会において、Bが税理士法改正運動に要する特別資金とするため、会員から特別会費5000円を徴収する旨の決議をした。そして右決議に基づいて徴収した特別会費総額470万円をYはBに寄付した。

 Xは、Yの会員である税理士であるが、本件特別会費を納入しなかった。Yの役員選任規則には、役員の選挙権及び被選挙権の欠格事由として「選挙の年の3月31日現在において本部の会費を滞納している者」との規定がある。そこで、Yは右規定に基づき、本件特別会費の滞納を理由として、平成○○年度役員選挙において、Xを選挙人名簿に登載しないまま役員選挙を実施した。

 そこでXはYがBに金員を寄付することはその目的の範囲外の行為であり、そのための本件特別会費を徴収する旨の本件決議は無効であると主張して、Yに対して、Xが本件特別会費の納入義務を負わないことの確認を求め、さらに、Yが本件特別会費の滞納を理由として役員選挙においてXの選挙権及び被選挙権を停止する措置を採ったのは不法行為であると主張し、Yに対し、これにより被った慰謝料として500万円の支払を求める訴えを提起した。

 これに対してYは、Yの法人としての性格にかんがみると、Yが、税理士業務の改善進歩を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度の確立を目指し、法律の制定や改正に関し、関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動をすることは、税理士法49条の11に鑑み、その目的の範囲内の行為であり、右の目的に沿った活動をする団体がYとは別に存在する場合に、Yが右団体に右活動のための資金を寄付し、その活動を助成することは、なおYの目的の範囲内の行為であると反論した。

 X及びYの主張に含まれる憲法上の論点について論ぜよ。 

参照条文 税理士法

49  税理士は、国税局の管轄区域ごとに、一の税理士会を設立しなければならない。

項以下 略

49条の2  税理士は、税理士会を設立しようとするときは、会則を定め、その会則について財務大臣の認可を受けなければならない。

 税理士会の会則には、次の事項を記載しなければならない。

 名称及び事務所の所在地

 入会及び退会に関する規定

 役員に関する規定

 会議に関する規定

 税理士の品位保持に関する規定

 会員の研修に関する規定

 会員の業務に関する紛議の調停に関する規定

 税理士業務に係る使用人その他の従業者に対する監督に関する規定

 委嘱者の経済的理由により無償又は著しく低い報酬で行う税理士業務に関する規定

 会費に関する規定

十一  庶務及び会計に関する規定

 税理士会の会則の変更(政令で定める重要な事項に係るものに限る。)は、財務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。

49条の6  税理士は、登録を受けた時に、当然、その登録を受けた税理士事務所又は税理士法人の事務所の所在地を含む区域に設立されている税理士会の会員となる。

49条の11  税理士会は、税務行政その他租税又は税理士に関する制度について、権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができる。

5月6日(2)

 Aは、P国籍を有する女性である。Aは平成年に、興行の滞在資格(3か月)を付与されて本邦に入国し、以後、在留期間の更新を受けながら本邦に在留している。

 Bは、日本国籍を有する男性であり、妻C及び娘Dがいる。

 Bは、平成15年頃からAと交際を始め、16年に、C及びDのいる家を出てAと内縁関係に入った。そして、さらに平成17年にAが妊娠したことをきっかけとして、BはAと正式に婚姻する意思を固め、Dと離婚協議を開始した。しかし、Dは、片親になることがDの将来に悪影響を与える可能性があるところから離婚に難色を示し、B・C間の離婚は、今日に至るも協議が整わず、実現していない。

 平成18年、Aは、Bの子であるXを出産した。Bは、X出生後の平成19年にXを認知した。Aは、X出生後に再び妊娠し、平成20年にEを出産した。Bは、Eについては、平成19年にXを認知した際に、同時に胎児認知をしている。

 A及びBは子供達に日本国籍を取得する必要を感じ、X及びEの親権者であるAは、平成20年34日に、X及びEが、Bから平成19年に認知を受けていたことを理由に、F地方法務局において、法務大臣Y宛にX及びEの国籍取得届を提出した。これに対し、同月14日、F地方法務局長から、Eについては、国籍法21号により、出生の時から日本国籍を有している旨の通知を受けた。

 しかし、Xについては、同日にF地方法務局長から、「平成20年34日付け国籍法第3条第1項の届出は、国籍取得の条件を備えているものとは認められないので、通知します。」という通知を受けた。

 そこで、Xは、Yを相手取って、自らが日本国籍を有することの確認を求めて訴えを提起した。

 訴えの提起にあたり、Xは次のように主張した。

「胎児認知という手続を執った場合には子が生来的に日本国籍を取得する途が開かれているのに、出生後の認知の場合には子が生来的に日本国籍を取得する途がない とすると、同じく外国人の母の嫡出でない子でありながら、認知時期の違いにより、子が生来的に日本国籍を取得する途に著しい差があることとなるので、国籍 法31項は憲法141項に違反し、無効である。」

Xの主張の憲法上の当否について論ぜよ。ただし、憲法10条及び救済法については論じなくてよい。

参考条文(平成20年34日時点のもの)

国籍法3

1 父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で20歳未満のもの(日本国民であった者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であったときは、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を取得することができる。

2 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。

4月22日(1)  XはY社の入社試験において、「あなたはいずれかの政党に現に所属していますか、あるいは所属していたことがありますか」と質問され、「いいえ、どこの政党にも所属していませんし、所属していたこともありません」と答えた。しかし、実際にはXはA政党にそれまで属して活動していたが、就職氷河期と呼ばれる厳しい雇用情勢の下で、 政治的に偏った主張をすることで知られるA政党に属していたのでは就職が困難と考え、脱退していた。採用後にそのことが判明したため、Xは入社試験において虚偽の 陳述を行い、もって雇用関係の基本である相互の信頼関係を破壊したとして、解雇された。

 そこでXは、Yの入社時の質問は、そもそも憲法19条の保障する内心の自由を侵害するものであり、したがって解雇は憲法違反であると主張して、解雇無効の訴えを提起した。これに対し、Yは「憲法19条は、対国家的権利であって、私人間には効力を有しない」と反論した。

 Yの反論の憲法上の当否について論ぜよ。

 

 

 

 

2010年度 甲斐ゼミ 活動表

 

     
冬休みゼミ合宿(28)

 

Xは、Aの認知を受けた非嫡出子であり、Yは、Aの養子である。Aは一度も婚姻したことがなく、Aの相続人は、この2名である。Aは、平成662日、Yに財産全部を包括して相続させる旨の遺言をし、平成7610日死亡した。Aの相続開始時の遺産は18798221175円と評価され、また、Aの相続開始時の債務は、2335921610円である。

 平成

8322日、Xが、Yに対し、遺留分減殺請求の意思表示をした。それにあたり、次のように主張した。

 「民法

1044条は、遺留分権利者の遺留分を侵害する遺言がある場合に、遺留分権利者に遺留分を保障するために、遺留分を侵害された相続人に対して遺留分に相当する相続財産を回復する権利を認める規定であって遺言者の意思によってその適用を回避することのできない規定であり、およそ補充規定ではあり得ない。そして、民法9004号但書の規定は憲法14条に違反して無効である。

 また、最高裁判所大法廷判決は法律婚の尊重を言うが、本件相続においては、本件規定の立法目的である法律上の婚姻という保護法益が欠如しており、本件規定が適用される根拠がないから、原則に戻って、民法

9004号本文が適用されるべきである。

 少なくとも本件規定は本件事案に適用する限りで違憲無効である。

 したがって、Xの遺留分は

3分の1である。」

X

の主張の憲法上の当否について論ぜよ。
     
1月14日(27)

 A教団は,理想の社会を追い求めて集団生活を営む信者のみが救済されるという教義を信奉しつつ活動する宗教団体であった。A教団には,「暗黒」な部分を除去しなければ理想社会は実現できないという信条を強く持つ信者も少なくなく,

200X年,一部の過激な信者達が,複数の官庁・企業周辺で同時爆弾テロを実行し,その計画,指示,実行に当たった教団幹部や信者は逮捕された。

 この同時爆弾テロは,A教団の活動として行われたわけではなかったが,A教団は自発的に解散せざるを得なくなった。その

2年後,A教団の元信者達は,同教団の幹部であった甲を代表として,新たにB教団を結成した。B教団は,A教団当時に行われたテロ行為について深い反省の意思を表明し,A教団との決別を宣言している。しかし,同時爆弾テロ事件で逮捕されなかったA教団の元幹部が全員B教団の幹部となっており,B教団の教典もA教団の教典と同一である。

 B教団の教義によると,信者は集団で居住して修行しなければならないことになっており,B教団結成に伴い,集団居住のための新たな施設を建設する必要が生じた。B教団は,かつてA教団の施設があった幾つかの都道府県で本部施設の建設を計画したが,いずれも反対運動が起こり,断念せざるを得なかった。そこで,B教団は,新たに信者となった乙がC市にまとまった土地(敷地面積

1200平方メートル)を所有していたことから,同土地の上に本部施設を建設することを計画した。当該施設は,本部機能を有するとともに,信者が集団で居住し,修行する施設となるものである。

 C市は,特例市(地方自治法第

252条の2631項に基づき,政令による指定を受けた市)である。C市では,以前から,市民の間に良好な住環境を守ろうとする意識が強く存在し,行政もそれに積極的に対応してきている。C市は,安心して暮らせる安全で快適な住環境の維持に特に注意を払い,独自の「C市まちづくり条例」(以下「条例」と表記)を制定している。この条例は,都市計画法上の許可制とは別に,C市内の「まちづくり推進地区」に指定されている地域における1000平方メートル以上の開発事業(大規模開発事業)について許可制を導入しており,大規模開発事業を行おうとする者に対して,事前手続として,「周辺住民」の過半数が同意する開発事業協定の締結及び市との協議を義務付けている。そして,条例第18条第2項に定める要件に該当する場合には,市長は,当該開発事業を許可しないことができる。

 B教団本部施設の建設が計画されているD地区は,都市計画法上は都市計画区域のうちの市街化区域であり,条例上は「まちづくり推進地区」に指定されている。D地区は,C市の中でも住宅地区として人気が高く,常に各種ランキングで住んでみたい街の上位に位置していた。C市の相談窓口には,「周辺住民」ばかりでなく,B教団の本部施設建設計画を知った市民からも,問い合わせや要望が多数寄せられるようになった。

 B教団の本部施設建設計画は,都市計画法上の許可要件を満たしている。B教団は,条例に基づいて「周辺住民」を対象とする事前説明会を開催した。この説明会には該当する住民の

90%以上が出席し,出席した住民からは「テロリスト集団を引き継ぐB教団の本部新設は絶対に認められない。」といった趣旨の発言が相次いだ。これに対して,B教団の信者から威圧的な発言があり,出席した住民は一層強い不安をかき立てられた。そして,B教団との間での開発事業協定の締結に同意する「周辺住民」は,一人もいなかった。市長は,B教団との事前協議の結果を踏まえ,条例第17条第2項に基づいて開発事業の中止を勧告した。しかし,B教団は,これに従わず,計画を実施する構えを見せた。そこで,市長は,条例第18条に基づいて,C市まちづくり審議会の意見を聴いた上で,B教団の開発事業計画を不許可とする処分を行った。

 B教団は,C市を相手どって当該不許可処分の取消し等を求める訴えを提起した。(出題者注:本問においては,「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」(平成

11127日法律第147号)については考慮しないこととする。)

 

Bは、不許可処分取り消しの訴えの根拠として、本件不許可処分がBの信教の自由を侵害していると主張した。Bの主張の当否について論ぜよ。
12月24日(26)

 平成○年、日本国政府(X)は、A国との間に軍事的内容を持つ条約を締結した。更に、同年、その条約がXに課した義務を履行するために、「A国との条約に基づく刑事特別法」を制定した(以下、「刑事特別法」という)。

 Yは、XA国と条約を締結したことに反対して、日本国内にあるA国施設前に於いてデモを行い、デモ行進の余勢から施設内に乱入したため、刑事特別法に違反したとして起訴された。

裁判において、Yは、刑事特別法制定の原因となったA国との条約は、軍事的内容を持っているために、憲法9条に違反して無効であり、その結果、それに基づく義務を履行する目的で制定された刑事特別法も無効であるので、無罪であると主張した。

 これに対し、Xは、裁判所による違憲立法審査権の内容を規定している憲法81条は「一切の法律、命令、規則又は処分」を列挙して、これらについての違憲審査権を裁判所が有していると述べており、この列挙事項からは条約が欠落していること、Xの無効主張の根拠となる憲法98条においても、1項では「法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部」と列挙して、ここでも81条同様に条約が除外されていること、そして2項においては、この1項で敢えて除外した条約について「日本国が締結した条約…は、これを誠実に遵守する」と述べていることから見て、わが憲法は、裁判所による条約の違憲審査権を否定したものと考えるべきであり、したがって、そもそもYの主張について裁判所は審査するべきではないと主張した。

 Xの主張の、憲法上の当否について論ぜよ。

12月17日(25)

 わが国国籍法(昭和

25年法律第147号)は、当初父系主義を採用していたが、昭和59年に女性差別撤廃条約を批准するに当たり、父系主義は同条約に違反するとの判断から、父母両系主義に改正された。次の事件は、事案説明に明らかなとおり、父母両系主義に改正される前の時点で発生したものである。その時点におけるこの訴えに対し、父系主義が憲法14条に違反しているという前提の下において、どのような判決を下すのが適切か、論ぜよ。

 

Xは、アメリカ合衆国国籍を有する父Aと日本国籍を有する母Bの長女として、昭和52824日東京都港区において出生した。Xの両親は、同年126日に婚姻しており、今後とも日本に居住する予定であって米国で生活するつもりはないので、Xを日本人として養育することを決意し、母Bが同年95日東京都港区長に対し、Xの出生届をするとともにXを自己の戸籍に入籍させるように申し出た。ところが、国籍法2条は、出生により日本国籍を取得する場合として、「出生の時に父が日本国民であるとき」(一号)、「出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき」(二号)、「父が知れない場合又は国籍を有しない場合において、母が日本国民であるとき」(三号)及び「日本で生れた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき」(四号)のいずれかに該当することを必要としているため、港区長は、同月12日付書面をもって、国籍法2条各号の規定により原告は出生により日本国籍を取得できず母の戸籍に入籍させられない旨を通知してきた。

 他方、米国の

1952年移民及び国籍法301条によれば、両親の一方を外国人として他方を米国市民として米国及びその海外属領以外で出生した者は、米国市民である親が子の出生に先立ち米国若しくはその海外属領に通算10年以上(そのうち少なくとも5年以上は14歳に達した後であること)居住したのでなければ、出生により米国国籍(市民権)を認められない、と規定している。ところが、父Aは、昭和3年にハルビンで出生し、同6年日本に、同8年旧満州に、同11年日本に移住し、同33年日本の大学を卒業後同35年米国に移住し、ニューヨークでC映画会社に入社し、社命により翌年日本に、同40年プェルトリコに赴任した。そして、同人は、同43年、プェルトリコ滞在中に米国への帰化を申請して同年523日その許可を受け、ついで右会社日本支社長を命ぜられて再度日本に移住し現在に至っている。このように、Aの原告出生前における米国若しくはその海外属領での居住期間は10年に満たないので、原告は出生により米国国籍を取得できないのである。

 

そこで、Xは、出生による日本国籍の取得については父母の血統を平等に扱うべきであり、国籍法2条は憲法14条に違反しており、したがって出生の時に母Bが日本国民であるXは、出生により日本国籍を取得したものであることを確認を求めて、国Yを相手取って訴えを提起した。
12月10日(24)

下級裁判所の裁判権の行使に関し,「下級裁判所は,訴訟において,当該事件に適用される法令が憲法に違反すると認めるときは,その事件を最高裁判所に移送して, 当該法令の憲法適合性について最高裁判所の判断を求めなければならない。」という 趣旨の法律が制定された場合に生ずる憲法上の問題点について論ぜよ。

平成13年度司法試験問題

 
  OB/OG総会  
12月3日(23)

最高裁判所は、衆議院議員定数違憲訴訟昭和51414日大法廷判決において、行政事件訴訟法31条について紹介した後、次のように述べた。

「行政事件訴訟法の右規定は、公選法の選挙の効力に関する訴訟についてはその準用を排除されているが(公選法219条)、〈中略〉本件のように、選挙が憲法に違反する公選法に基づいて行われたという一般性をもつ瑕疵を帯び、その是正が法律の改正なくしては不可能である場合については、単なる公選法違反の個別的瑕疵を帯びるにすぎず、かつ、直ちに再選挙を行うことが可能な場合についてされた前記の立法府の判断は、必ずしも拘束力を有するものとすべきではなく、前記行政事件訴訟法の規定に含まれる法の基本原則の適用により、選挙を無効とすることによる不当な結果を回避する裁判をする余地もありうるものと解するのが、相当である。」「本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、相当であり、そしてまた、このような場合においては、選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに、当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが、相当である。」

 他方、昭和60717日大法廷判決において、寺田治郎、木下忠良、伊藤正己、矢口洪一各判事は、その補足意見において、次のように述べた。

「是正措置が講ぜられることなく、現行議員定数配分規定のままで施行された場合における選挙の効力については、多数意見で指摘する諸般の事情を総合考察して判断されることになるから、その効力を否定せざるを得ないこともあり得る。その場合、判決確定により当該選挙を直ちに無効とすることが相当でないとみられるときは、選挙を無効とするがその効果は一定期間経過後に始めて発生するという内容の判決をすることもできないわけのものではない。けだし、議員定数配分規定の違憲を理由とする選挙無効訴訟(以下「定数訴訟」という。)は、公職選挙法204条所定の選挙無効訴訟の形式を借りて提起することを認めることとされているにすぎないものであつて(昭和51年大法廷判決参照)、これと全く性質を同じくするものではなく、本件の多数意見において説示するとおり、その判決についてもこれと別個に解すべき面があるのであり、定数訴訟の判決の内容は、憲法によつて司法権にゆだねられた範囲内において、右訴訟を認めた目的と必要に即して、裁判所がこれを定めることができるものと考えられるからである。」

 この二つの判決技法の関連について述べ、何故このような判決が可能なのかを論ぜよ。

11月26日(22) ゼミ試験  
11月12日(21)

 XX年、AB市所在のC美術館で、写真家Dの回顧展が開催された。Dは、人間の性や肉体などをテーマとする作品を発表し、写真を用いた現代美術の第一人者として美術評論家等から高い評価を得て活躍した写真家である。その回顧展における展示作品のカタログには、100枚を超える展示作品の写真が掲載されている。それはDの写真家としての経歴とその作品の芸術的特性を示すことに徹しており、極めて専門的な内容である。その中に人の性器を撮影した写真数葉が含まれていたが、性行為と直接結び付けて表現されたものはない。

 日本国内において、図書の販売業を営むXは、このカタログの芸術性を高く評価し、国内で芸術愛好家に販売する目的で、同カタログ多数を輸入しようとした。これに対し、税関では、関税法69条の1117号に違反するとして、同書の輸入を差し止め、輸入禁制品該当通知を行った。

 そこで、Xは国Yに対し、輸入禁制品該当通知処分取消等を請求して訴えを提起した。その訴えの中で、表現行為に対する事前規制は、憲法21条に照らし、厳格かつ明確な要件の下においてのみ許容されるものといわなければならないが、関税法69条の1117号は単に「風俗」と定めるのみであって、何ら明確なものではないので、違憲・無効であると主張した。

 このXの主張の憲法上の当否について論ぜよ。

 

参照条文

 関税法69条の11

1項 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。

 公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品(次号に掲げる貨物に該当するものを除く。)

 児童ポルノ(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第二条第三項 (定義)に規定する児童ポルノをいう。)

3項 税関長は、この章に定めるところに従い輸入されようとする貨物のうちに第一項第七号又は第八号に掲げる貨物に該当すると認めるのに相当の理由がある貨物があるときは、当該貨物を輸入しようとする者に対し、その旨を通知しなければならない。

 
11月5日(20)

 Xは、自衛隊が実弾演習をするため、その砲声に驚いて飼育する乳牛が乳を十分に出さなくなったのに腹を立て、平成X1211日午後320分頃、北海道千歳郡恵庭町桜森陸上自衛隊島松演習場内の東南部附近に侵入し、実弾射撃演習の目的で設けられてあつた陸上自衛隊北部方面隊第1特科団第1特科群102大隊第2中隊の加農砲計2門の射撃陣地において同中隊が射撃命令伝達等のため、同中隊射撃指揮所と戦砲隊本部に1台宛設置した野外電話機に接続して両電話機間に敷設した長さ約4260cmの通信線をペンチを使用して数箇所で切断し、砲と射撃指揮所間の連絡を不可能に陥らせた。

 野戦砲の場合、砲の発射地点からは着弾点が見えない状態の下で、射撃指揮所が着弾地点を直接目視により観測し、電話で野戦砲に射撃方法の修正を指示することで、はじめて訓練としての意味が生ずる。その意味で、野戦砲と射撃指揮所を繋ぐ野戦電話線は、野戦砲の不可欠の一部ということができるとして、検察側は、Xを、自衛隊法121条「自衛隊の所有し、又は使用する武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物を損壊し、又は傷害した者は、五年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。」に該当するとして起訴し、刑法上の器物損壊罪については、これが自衛隊法121条と観念的競合にあたることから、起訴しなかった。

 Xは、これに対して、自衛隊法121条を含む自衛隊法全般ないし自衛隊等が憲法9条に違反し、したがって自衛隊法違反の点については無罪である旨を主張した。

 それに対し、裁判所は、次のように述べた。

「一般に、刑罰法規は、その構成要件の定め方において、できるかぎり、抽象的・多義的な表現を避け、その解釈、運用にあたつて、判断者の主観に左右されるおそれ(とくに、濫用のおそれ)のすくない明確な表現で規定されなければならないのが罪刑法定主義にもとづく強い要請である。その意味からすると、本件罰条にいわゆる『その他の防衛の用に供する物』という文言の意義・範囲を具体的に確定するにあたつては、同条に例示的に列挙されている『武器、弾薬、航空機』が解釈上重要な指標たる意味と法的機能をもつと解するのが相当である。すなわち、およそ、防衛の用に供する物と評価しうる可能性なり余地のあるすべての物件を、損傷行為の客体にとりあげていると考えるのは、とうてい妥当を欠くというべきである。

 そして、およそ、裁判所が一定の立法なりその他の国家行為について違憲審査権を行使しうるのは、具体的な法律上の争訟の裁判においてのみであるとともに、具体的争訟の裁判に必要な限度にかぎられることはいうまでもない。このことを、本件のごとき刑事事件にそくしていうならば、当該事件の裁判の主文の判断に直接かつ絶対必要なばあいにだけ、立法その他の国家行為の憲法適否に関する審査決定をなすべきことを意味する。

 したがつて、すでに説示したように、Xの行為について、自衛隊法121条の構成要件に該当しないとの結論に達した以上、もはや、X指摘の憲法問題に関し、なんらの判断をおこなう必要がないのみならず、これをおこなうべきでもないのである。」

 この裁判所の見解の憲法上の当否について論ぜよ。

10月29日 学部祭のため休講  
10月22日(19)

 ハンセン病は、らい菌によって引き起こされる細菌感染症であるが、ほとんどの人に対して病原性を持たないため、人の体内にらい菌が侵入し感染しても、発病することは極めてまれである。また、治療薬プロミン等のスルフォン剤により、現在では、ハンセン病は、早期発見と早期治療により、障害を残すことなく外来治療によって完治する病気であり、不幸にして発見が遅れ障害を残した場合でも、手術を含む現在のリハビリテーション医学の進歩により、その障害を最小限に食い止めることができるとされている。

 しかし、明治40年制定の「らい予防法」及び昭和28年のその改正法(新法)に基づいて、政府が戦前・戦後にまたがってほぼ全患者を対象とする収容の徹底・強化を行ったことにより、多くの国民は、ハンセン病が強烈な伝染病であるとの誤った認識に基づく過度の恐怖心を持つようになり、その結果、ハンセン病に対する社会的な差別・偏見が増強され、治療薬の登場によりハンセン病が治し得る病気となった後も、新法がハンセン病に対する隔離政策を継続したことによって、ハンセン病に対する差別・偏見が助長・維持され、新法廃止まで根強い差別・偏見が厳然として存在し続けた。その中で、ハンセン病患者は、保健所職員の度重なる勧奨等により入所を余儀なくされるなど、勧奨による入所という形をとっていても、その実態は、患者の任意による入所とは認め難いものであった。そして、入所に当たっては、優生保護法のらい条項の下で、昭和30年代まで優生手術を受けることを夫婦舎への入居の条件としていた療養所があり、入所者が療養所内で結婚するためには優生手術に同意をせざるを得ない状況もあった。

 国際的には、次第に強制隔離否定の方向性が顕著となり、昭和31年のローマ会議、昭和33年の第7回国際らい会議(東京)及び昭和34年のWHO第2回らい専門委員会などのハンセン病の国際会議においては、ハンセン病に関する特別法の廃止が繰り返し提唱され、政府や国会の関係者もそれを承知していた。しかし、らい予防法は平成8年に至るまで廃止されず、同法に基づく隔離が継続された。

 そこで、元患者が、同法の下で受けた隔離による被害に対して国家賠償を求めた。

 この国家賠償請求の可否に関する憲法上の問題点につき検討しなさい。

10月15日(18)

 Yは、「穏健中正な思想」を教育の指導精神とし、保守的教育で知られる私立大学である。Yでは、その指導精神に基づき「生活要録」という名称の学生心得を定めており、その中で、学内における政治活動を禁止すると共に、外部の政治団体への加盟を禁止していた。ところが、同大学学生であるXは、生活要録の規定に反して、左翼系の過激な活動を行うことで知られる政治団体Zに加入し、また、大学構内で学友に対し、Zへの加入を求めるビラを配布した。

 そこで、YはXに対し停学1ヶ月の処分に付すると共に、Zからの脱退を求めた。これに対し、Xはマスコミに、Yの処分を憲法21条に違反するとして批判する談話を発表した。Yは、このような一連の行動は、生活要録に違反し、Y学生たるにふさわしくないとして、Xを改めて退学処分に付した。

 Xは退学処分無効及び学生身分確認の訴えを提起した。これに対し、Yは、そもそもこのような学内の処分は、司法判断になじまないと反論した。

 

Yの反論における憲法上の問題点を指摘し、論ぜよ。
10月8日(17)

 A県知事Yは、県知事の資格において靖国神社の春の例大祭に出席し、玉串料5000円を県知事交際費から支払った。

 これに対し、A県住民であるXは、これは憲法203項並びに89条に違反するとして、地方自治法242条に従い監査請求をしたが、請求後60日が過ぎても監査委員が監査を行わなかったため、地方自治法242条の2に従い、Y知事の行為の違憲性を根拠に住民訴訟を提起した。

 これに対し、Yは次のように主張した。

「警察予備隊訴訟最高裁判決(最大1952108日民集69783頁=百選第5428頁参照)は次のように述べている。

 『わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。わが裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予期して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。けだし最高裁判所は法律命令等に関し違憲審査権を有するが、この権限は司法権の範囲内において行使されるものであり、この点においては最高裁判所と下級裁判所との間に異なるところはないのである。』

 これによれば、違憲審査権は憲法76条の保障する司法権の効力として考えられるのであって、憲法81条によって、司法権とは関係なく与えられたものと考えるべきではない。そして、司法権とは

 『具体的争訟について、法を適用し、宣言することによって、これを裁定する国家の作用』(清宮四郎『憲法T』新版、有斐閣昭和56年刊、330頁)

のことである。

 有効な司法権の行使が行われるためには具体的争訟性が必要であることも、上記警察予備隊訴訟の判決に明らかである。そして、具体的争訟とは、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」のことであり、これは、第一に当事者間の具体的権利義務又は法律関係の存否に関する紛争であり、第二に、法律の適用によって終局的に解決しうることをいう。

 しかるに、住民訴訟においてXについては何ら具体的な権利義務関係の問題はない。したがって、住民訴訟は、裁判所法3条前段にいう『法律上の争訟』ではなく、後段にいう『その他法律において特に定める権限』であるに過ぎない。

 すなわち、住民訴訟は憲法76条にいう司法権の行使には該当しないから、裁判所は住民訴訟においては、そもそも違憲審査を行うことはできない。」

 これに対し、Xとしては、住民訴訟においても、裁判所は違憲審査ができると主張したい。そのために必要な自らの見解を述べ、その理由を挙げなさい。

10月1日 ドイツ・ベルリン大学出張のため休講  
9月24日(16)    
9月17日(15)

A市において、住民運動を展開していたXは、その運動の一環として、市の繁華街を縦貫する道路においてデモ行進を行うことを計画した。A市には公安条例が存在し、それに依ればデモ行進をするためには事前にA市公安委員会にデモ行進の届出をする必要があったので、所定の届出を行った。Xのデモ行進に対してA市公安委員会は、A市公安条例33号の「交通秩序を維持すること」に基づき、『蛇行進をするなど交通秩序を乱すおそれがある行為をしないこと』の条件を付して届出を受理した。

しかし、Xは、A市繁華街を通行中に集団行進者に蛇行進をさせるよう指示し、かつ自らも自らも蛇行進をしたり、先頭列外付近に位置して所携の笛を吹きあるいは両手を上げて前後に振り、集団行進者に蛇行進をさせるよう刺激を与え、もって集団行進者が交通秩序の維持に反する行為をするよう扇動し、交通に大混乱を引き起こしたため、A市公安条例33号に違反したとして起訴された。

これに対し、Xは、道路交通法77条は、表現の自由として憲法21条に保障されている集団行進等の集団行動をも含めて規制の対象としていると解され、集団行動についても道路交通法771項四号に該当するものとして都道府県公安委員会が定めた場合には、同条三項により所轄警察署長が道路使用許可条件を付しうるものとされている。憲法94条によれば、条例は「法令に違反しない限りにおいて」、すなわち国の法令と競合しない限度で制定しうるものであつて、もし条例が法令に違反するときは、その形式的効力がないのであるから、本条例は道路交通法773項の道路使用許可条件の対象とされるものを除く行為を対象とするものでなければならないところ、同条例の定めは明白に同法と重複しているので無効であり、したがって、公安条例違反の点については無実であると主張した。

 Xの主張の憲法上の当否について論ぜよ。

 

参照条文

道路交通法77

1 次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可(当該行為に係る場所が同一の公安委員会の管理に属する二以上の警察署長の管轄にわたるときは、そのいずれかの所轄警察署長の許可。以下この節において同じ。)を受けなければならない。

 道路において工事若しくは作業をしようとする者又は当該工事若しくは作業の請負人

 道路に石碑、銅像、広告板、アーチその他これらに類する工作物を設けようとする者

 場所を移動しないで、道路に露店、屋台店その他これらに類する店を出そうとする者

 前各号に掲げるもののほか、道路において祭礼行事をし、又はロケーシヨンをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者

 前項の許可の申請があつた場合において、当該申請に係る行為が次の各号のいずれかに該当するときは、所轄警察署長は、許可をしなければならない。

 当該申請に係る行為が現に交通の妨害となるおそれがないと認められるとき。

 当該申請に係る行為が許可に付された条件に従つて行なわれることにより交通の妨害となるおそれがなくなると認められるとき。

 当該申請に係る行為が現に交通の妨害となるおそれはあるが公益上又は社会の慣習上やむを得ないものであると認められるとき。

 第一項の規定による許可をする場合において、必要があると認めるときは、所轄警察署長は、当該許可に係る行為が前項第一号に該当する場合を除き、当該許可に道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な条件を付することができる。(以下略)

 

A市集団行進及び集団示威運動に関する条例

 (届出の事由)

1条 道路その他公共の場所で,集団行進を行うとするとき,又場所の如何を問わず集団示威運動を行うとするときは,A市公安委員会(以下「公安委員会」という。)に届出でなければならない。但し,次の各号に該当する場合はこの限りでない。

(1) 学生,生徒その他の遠足,修学旅行,体育競技

(2) 通常の冠婚葬祭等の慣例による行事

(届出の手続)

2条 前条の規定による届出は,主催する個人又は団体の代表者(以下「主催者」という。)から,集団行進又は集団示威運動を行う日時の,24時間前までに次の事項を記載した届出書2通をA市警察署長を経由して公安委員会宛提出しなければならない。

(1) 主催者の住所,氏名,年令但し主催者が団体であるときは,その名称及び事務所々在地ならびに代表者の住所,氏名,年齢

(2) 前号の主催者が市外に居住するときは,市内の連絡責任者の住所,氏名,年齢

(3) 集団行進又は集団示威運動の日時

(4) 集団行進又は集団示威運動の進路,場所及びその略図

(5) 集団予定団体名及びその代表者の住所,氏名,年齢

(6) 参加予定人員(団体参加の場合はその内訳)

(7) 集団行進又は集団示威運動の目的及び名称

(遵守事項)

3条 集団行進又は集団示威運動を行うとする者は,集団行進又は集団示威運動の秩序を保ち,公共の安寧を保持するため,次の事項を守らなければならない。

(1) 官公署の事務の妨害とならないこと。

(2) 刃物棍棒その他人の生命及び身体に危害を加えるに使用される様な器具を携帯しないこと。

(3) 交通秩序を維持すること。

(4) 夜間の静穏を害しないこと。

(違反に対する措置)

4条 A市警察長は,第1条若しくは第3条の規定又は第2条の規定により届出事項に違反して行われた集団行進又は集団示威運動の参加者に対して,公共の秩序を保持するため,警告を発しその行為を制止し,その他違反行為を是正するにつき必要な限度において,所要の措置をとることができる。

(罰則)

5条 第1条若しくは第3条の規定又は第2条の規定による届出事項に違反して行われた集団行進又は集団示威運動の主催者,指導者又は煽動者はこれを1年以下の懲役若しくは禁錮又は5万円以下の罰金に処する。

     
夏休みゼミ合宿(14)    
     
7月16日(番外)    
7月9日(13)  交通事故を起こして有罪判決を受け、A刑務所に懲役刑で拘置されている受刑者Xは、ある図書を自費で購読しようとした。A所長Yがその内容を確認したところ、その図書はどこにでもいるいたって普通の人間が時に詐欺師、時に元服役者、時に暴力団組員と出会い、夜の酒場で酒を交わして語り合い、時に拳で語り合い、相互理解をしていくという小説であり、非常にリアリティーのある作品であったため、その図書を読むと受刑者がその道に行くことを考えたりするようになり、拘留の目的である更生を害することになる可能性が高いと判断し、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律47条1項2号に基づき、Xがその図書を読むことを認めないとする処分を下した。
 そこでXは人権の侵害であるとして、Yの下した処分の取り消しを求めて出訴した。
 この事案における憲法の問題点を論ぜよ。

 参照条文  刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律
第46条  受刑者が自弁の書籍等を閲覧することは、この章及び第11章の規定による場合のほか、これを禁止し、又は制限してはならない。
第47条  刑事施設の長は、受刑者が自弁の書籍等を閲覧することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、その閲覧を禁止することができる。
一  刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるとき。
二  矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき
 

7月2日(12) Xは、A県B市で一般公衆浴場を新規開業するために、A県知事Yに対し、営業許可を申請をした。しかし、A県公衆浴場法施行条例4条の規定によれば、市部においては既設の一般公衆浴場からおおむね300m以上離れていることが要求されているところ、Aの施設は150mしか離れていないことを理由として、他の要件はすべて満たしているにも拘わらず、Yは当該営業許可申請に対し、不許可処分を下した。

 そこで、Xは、Yの不許可処分は、憲法の保障する営業の自由を侵害するものとして、処分取り消しを求めて訴えを提起した。

 本件における憲法上について論じなさい。

(参照条文)

公衆浴場法

第二条 業として公衆浴場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。

2 都道府県知事は、公衆浴場の設置の場所若しくはその構造設備が、公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは、前項の許可を与えないことができる。但し、この場合においては、都道府県知事は、理由を附した書面をもつて、その旨を通知しなければならない。

3 前項の設置の場所の配置の基準については、都道府県が条例で、これを定める。

4 都道府県知事は、第二項の規定の趣旨にかんがみて必要があると認めるときは、第一項の許可に必要な条件を附することができる。



A県公衆浴場法施行条例

第四条 法第二条第三項の設置の場所の配置の基準は、一般公衆浴場の敷地が他の一般公衆浴場(その経営について法第二条第一項の許可がされているものに限る。以下「既設の一般公衆浴場」という。)の敷地から、市の区域にあってはおおむね三百メートル以上、その他の区域にあってはおおむね三百五十メートル以上離れていることとする。ただし、既設の一般公衆浴場との間が橋梁のない河川又は踏切のない鉄道等で遮断されている場合、既設の一般公衆浴場の周辺に公営住宅等がある場合その他の特別な事情がある場合であって、知事が衛生上支障がないと認めるときは、この限りでない。
 
6月25日(11)

 私立大学Yは、A国要人Bの講演会を学内で開催することを企画した。その出席者を自校の学生に限定する都合から、その講演会への出席を希望する学生は、各学部事務所等に用意された出席者名簿に、氏名、学籍番号、住所および電話番号を記載することを必要とするものとした。Xは、同講演会に出席することを希望したので、同名簿に所定の記入を行った。

  その後、警察、外務省、A国大使館等から、Yに対し、Bの政治的重要性に鑑み、警備体制について万全を期すよう要請があった。それを受けて、Yの職員、警察の担当者、外務省及びA国大使館の各職員の間において、数回にわたり、警備の打合せが行われた。それを受けて、Y大学で内部検討した結果、Bのような要人の警備を内部職員のみで十分に行うことは不可能と判断し、本件講演会の警備を警察にゆだねることを決定した。Yからの警備の依頼に対し、警察から、警備の都合上、本件講演会に出席する者の名簿を提出するよう要請があった。そこで、Yでは、警視庁に本件名簿を提出した。

 これに対して、Xは、Xを含む本件講演会出席申込者の氏名等が記載された本件名簿の写しを、出席申込者に無断で警視庁に提出したことが、Xのプライバシーを侵害したものであるとし、損害賠償を求めて訴えを提起した。

 この事案における、憲法上の問題点を指摘せよ。

6月18日(10)

 所得税法は,収税官吏が所得税に関する調査について必要があるときは,納税義務者などに質問しまたは帳簿書類その他の物件の検査をすることができる旨を規定し,それらを拒否・妨害・忌避した者に対しては罰則規定を定めている。

 A市で食肉販売業を営んでいるXは,A市を管轄するB税務署に,当該年度の所得額に関する確定申告提出した。

この確定申告内容に疑問を感じたB税務署収税官吏Cは,税務調査のため、そこに備え付けられている帳簿書類等の検査し、それに基づいて質問をしようと、数回にわたってXを訪問した。

 しかし,XCに対し,その都度、司法官件の発した令状無しに、Xの店舗に立ち入ることを認めた所得税法に基づく検査は令状主義を定めた憲法351項の違反であるとの理由で、検査を拒否した。そのため,Xは,所得税法242条に基づき起訴された。

 Xの主張の憲法上の問題点について論ぜよ。

 参照条文 所得税法

234条(当該職員の質問検査権)

国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、所得税に関する調査について必要があるときは、次に掲げる者に質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類(その作成又は保存に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。次条第2項及び第242条第10号(罰則)において同じ。)その他の物件を検査することができる。

 242条  次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。ただし、第三号の規定に該当する者が同号に規定する所得税について第240条(源泉徴収に係る所得税を納付しない罪)の規定に該当するに至つたときは、同条の例による。

九  第234条第1項(当該職員の質問検査権)の規定による当該職員の質問に対して答弁せず若しくは偽りの答弁をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ若しくは忌避した者

6月11日(9)

 AB市の市長Cは、D党に所属している。

 B市は近頃、財政赤字が増大しているが、Cは何とかB市が財政再建団体に転落するのを防ごうと大幅な支出の節減に乗り出している。その為に小中学校の統廃合など、福祉サービス水準の大幅な低下や職員の給料削減・首切りなどを断行しており、市として必要最低限の機能しか動いていない状態にあるため、住民の日常生活にも多大の影響が出るようになっている。

 テレビ局YB市に住んでいる人々の生活に関する特集を組むことを決め、総合的な取材を行った。

 D党と対立するE党では、この機会にD党に不利な政治状況を作り出そうと、Yの報道編集局長Fに積極的に働きかけた。

 E党の話を聞いて、D党が政治的に不利な状況になるのは良いことだと考えたFは、取材成果のうち、Cの施策のため市民の生活に様々な悪影響が生じていることや、それを批判する市民の声だけを取り上げ、Cの努力を肯定する市民の声や、さらにはCを支援するために自発的に市の活動を無償で支援するボランティア活動に関する取材はすべて没にした。このため、放映された番組を見る限り、B市財政は末期的状況にあり、このような状況に市を追い込んだC市長やD党がいかにも無能で、市民の支持も失っているという印象を与えるものになっていた。

 そこで、B市民が自発的に様々なボランティア活動も行っていることを偶々知っていたA県民Xは、CDに不利な情報のみをまとめた偏った報道であるとして、その是正を求めてYに訂正放送を行うように求めたが、Yが拒否したので訴えを提起した。これに対し、Yは放映した内容は客観的に真実な情報のみであること、Yも一国民として表現の自由を有しており、取材結果のどれをどのように利用するかはYとしての編集の自由に属すると反論した。

 Yの反論の憲法上の当否について論ぜよ

6月4日(8)  Xは、国民年金法施行令別表の11号(両眼の視力の和が0.04以下のもの)に該当する視力障害者で、同法に基づく障害基礎年金を受給している。Xは内縁の夫Aとの間に男子Bがある。XAと離別後独力でBを養育してきた。しかし、児童扶養手当法に基づく児童扶養手当制度を知ったことから、居住するC県知事Yに、その受給資格について認定の請求をしたところ、Yは、請求を却下する旨の処分をした。さらに、XYに異議申し立てをしたのに対し、Yは右異議申立てを棄却する旨の決定をした。その決定の理由は、Xが障害基礎年金を受給しているので、児童扶養手当法43項二号に該当し受給資格を欠くというものであつた。

 そこで、Xは処分の取り消しを求めて、Yを相手に訴えを提起した。

 この訴訟における憲法上の論点を指摘し、論ぜよ。

参照条文

児童扶養手当法

4  都道府県知事、市長(特別区の区長を含む。以下同じ。)及び福祉事務所(社会福祉法 (昭和二十六年法律第四十五号)に定める福祉に関する事務所をいう。以下同じ。)を管理する町村長(以下「都道府県知事等」という。)は、次の各号のいずれかに該当する児童の母がその児童を監護するとき、又は母がないか若しくは母が監護をしない場合において、当該児童の母以外の者がその児童を養育する(その児童と同居して、これを監護し、かつ、その生計を維持することをいう。以下同じ。)ときは、その母又はその養育者に対し、児童扶養手当(以下「手当」という。)を支給する。

 父母が婚姻を解消した児童

 父が死亡した児童

 父が政令で定める程度の障害の状態にある児童

 父の生死が明らかでない児童

 その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの

2 略

3 第1項の規定にかかわらず、手当は、母に対する手当にあつては当該母が、養育者に対する手当にあつては当該養育者が、次の各号のいずれかに該当するときは、支給しない。

 日本国内に住所を有しないとき。

 国民年金法等の一部を改正する法律(昭和六十年法律第三十四号)附則第32条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法第1 による改正前の国民年金法に基づく老齢福祉年金以外の公的年金給付を受けることができるとき。ただし、その全額につきその支給が停止されているときを除く。

5月28日(7)

 団体Xは、A市の近くに建設されるB空港新設に反対して、一連の爆弾テロを行うなど、過激な闘争を展開してきた。そして、その反対闘争の一環として、○○年○月○日にA市立市民会館の大ホールで「B空港反対総決起集会」を開催することを企画し、市民会館に対して、同ホールの使用許可申請を行った。

 本件会館は、A市が市民に芸術性の高い文化に触れる機会を提供し、市民自らが文化活動を展開することによって、文化の創造及び振興を図ることを目的として設置したもので、市内最大の繁華街に位置している。

 会館側では、申請された日の使用予定が無いところから、いったん使用許可を与えたが、その後に、Xが過激な活動を行っている団体であることに気がついた。そこで、A市長Yは、Xに本件会館を使用させると、不測の事態が憂慮され、その結果、周辺住民の平穏な生活が脅かされるおそれがあること、また対立する他の過激派団体による介入も懸念されることなどを根拠として、A市民会館使用条例第31項一号及び三号を準用する第4条一号に基づき、使用許可を取り消す処分を下した。

 これに対し、Xは、本件条例4条が準用する31項一号及び三号は、極めて曖昧な内容であるが故に憲法211項に違反して無効であり、また本件不許可処分は、同条2項前段の禁止する検閲に当たり、地方自治法244条に違反すると主張して、処分取り消しの訴えを提起した。

 この事案における憲法上の問題点について論ぜよ。

参照条文

 A市民会館条例

3条 市民会館大ホールを使用しようとする者は、あらかじめ指定管理者の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、使用を許可しない。(1) 公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあると認めるとき。

(2) 施設、附属設備その他器具備品等(以下「施設等」という。)を汚損し、破損し、又は滅失するおそれがあると認めるとき。

(3) 管理上支障があると認めるとき。

(4) その他指定管理者が適当でないと認めるとき。(2項以下略)

(許可の取消し等)

4条 指定管理者は、使用の許可を受けた者(以下「使用者」という。)が、次の各号のいずれかに該当するときは、使用の許可を取り消し、又はその使用を制限し、若しくは停止し、若しくは退去を命ずることができる。

(1) 前条第1項各号のいずれかに該当する事由が生じたとき。

(2) 前条第3項による条件に違反したとき。

(3) この条例又はこれに基づく規則に違反 したとき。

5月21日(6)  X大学理工学部のA教授は、従来の水素爆弾の爆発原理と異なる、全く新しい原理の開発に成功した。その内容を知る者は皆、公表されればノーベル物理学賞は間違いないのではないか、と評価したほどに、それは極めて画期的なものであった。そこで、A教授は、この研究成果を英語の論文にまとめ、学内で刊行されている欧文の研究紀要に投稿して公表することにした。同紀要は、従来から世界百数十ヶ国の主要大学に送付されており、国際的にも大変高い権威のあるものであったからである。紀要編集委員会は、学内からノーベル賞受賞者を出せるチャンスと受け止めて、これを掲載することに決めた。
 日本政府(以下Yという)は、A教授の記者会見によってそのことを知り、Xに対し、A教授の研究成果を公表すれば、開発途上国でさえも容易に水素爆弾の開発が可能になるので、世界的に大規模な核拡散をもたらす恐れが強く、核廃絶に向けた世界の流れに大いに反することになり、ひいては世界の平和を脅かすものであるとして、同紀要にA教授の論文を掲載することを中止するよう申し入れた。しかし、Xはそれを研究成果発表の自由を侵害するものとして拒んだので、Yは紀要の発行差し止めを裁判所に申し立てた。
 その口頭弁論において、Xは、紀要の発行差し止め申立ては、国家権力による大学の自治の侵害に該当し、憲法23条に反すると主張した。
 Xの主張に含まれる憲法上の論点について、論ぜよ。
5月14日(5)

 絶対平和主義を教義とする

A教の信者であるXは、平成○○年にB県立C高等学校に入学した。B県においては、高校に関し学区制がとられているため、Xとして、県立高校に進学を希望する場合には、C校に進学する他はない。

 

C校においては学年制が採られており、生徒は各学年の修了の認定があって初めて上級学年に進級することができる。同校の学業成績評価及び進級並びに卒業の認定に関する規程(以下「進級等規程」という。)によれば、進級の認定を受けるためには、修得しなければならない科目全部について不認定のないことが必要である。そして、ある科目の学業成績が100点法で評価して60点未満であれば、その科目は不認定となる。また、進級等規程によれば、休学による場合のほか、生徒は連続して2回原級にとどまることはできず、B県立高等学校学則及び退学に関する内規(以下「退学内規」という。)では、校長は、連続して2回進級することができなかった学生に対し、退学を命ずることができることとされている。

 

C校では、健全なる精神は健全なる肉体に宿るという教育理念の下、保健体育が全学年の必修科目とされており、Xが入学した平成○○年から、第1学年の体育科目の授業の種目として柔道が採用された。柔道の授業は後期において履修すべきものとされた。

 

A教の教義では、単に他者に対して危害を加えることを禁じるばかりでなく、その模擬動作というべき格闘技を行うことも禁じていた。そこで、Xは、柔道の実技に参加することは自己の宗教的信条と根本的に相いれないとの信念の下に、柔道の授業が開始される前の平成○○年4月下旬、体育担当教員らに対し、宗教上の理由で柔道実技に参加することができないことを説明し、レポート提出等の代替措置を認めて欲しい旨申し入れた。申し出を受けて、C校長Yは、体育担当教員らと協議をした結果、Xに対して実技に代わる代替措置を採らないことを決めた。Xは、後期に開始された柔道の授業では、服装を替え、サーキットトレーニング、講義、準備体操には参加したが、柔道実技には参加せず、その間、道場の隅で正座をし、レポートを作成するために授業の内容を記録していた。Xは、授業の後、右記録に基づきレポートを作成して、次の授業が行われるより前の日に体育担当教員に提出しようとしたが、その受領をその都度拒否された。

 その結果、体育担当教員は、

Xの実技履修に関しては欠席扱いとし、準備体操を行った点のみを評価し、第1学年の前期にXが履修した他の体育種目の評価と総合して被上告人の体育科目を42点と評価した結果、体育に関しては不認定となった。そこで、Xに対し、柔道実技の補講を行うこととし、通知したが、Xはこれに参加しなかった。そのため、進級認定会議において、Xは進級不認定と決定されたので、Yは、Xを第2学年に進級させない旨の原級留置処分をし、被上告人及び保護者に対してこれを告知した。

 翌年度においても、

Xの態度は前年度と同様であり、学校の対応も同様であったため、Xの体育科目の評価は総合して48点とされ、実技の補講にも参加しなかったため、Xは、進級認定会議において進級不認定とされ、Yは、Xに対する再度の原級留置処分を決定した。また、同日、表彰懲戒委員会が開催され、Xについて退学の措置を採ることが相当と決定された。Yは、自主退学をXに勧奨したが、Xがこれに従わなかったため、2回連続して原級に留め置かれたことから学則に定める退学事由である「学力劣等で成業の見込みがないと認められる者」に該当するとの判断の下に、退学処分を告知した。

 これに対し、

Xは、柔道以外の体育種目については受講に特に不熱心であったという事実はなく、またXの体育以外の成績は優秀であり、授業態度も真摯なものであったので学則に該当しないとして、退学処分の取り消しを求めてYに対し訴えを提起した。

 これに対し、

Yは、高等学校の校長が生徒に対し原級留置処分又は退学処分を行うかどうかの判断は、校長の合理的な教育的裁量にゆだねられるべきものであり、Xに対し、宗教上の理由から特別扱いをすることは憲法20条の定める政教分離原則に違反し、許されないものであるから、校長の裁量は合理的なものであったと主張した。

 

Yの主張の憲法上の当否について論ぜよ。
5月7日(4)  Xは、A県にあるB市の市長を務めていたが、ある年の4月に行われるA県知事選挙に出馬する決意を固めていた。これに対して、Yは、Xは県知事としてふさわしくない人物と考えたので、自らが発行する月刊雑誌の同年2月号に、Xの出馬に反対する特集を組むこととした。その記事の中で、Yは、Xが市長在任中に収賄するなどの違法行為を行ったとか、Xが人格的に下劣な人物であるという記述を、具体的事実を摘示する形で行った。その雑誌が発行される前に、その記事の内容を知ったXは、雑誌の発行の差し止めを求める仮処分を裁判所に請求した。
 この事件で、裁判所が仮処分請求を認めるべきか否かを決定するに当たり、憲法上問題となる点を指摘し、論ぜよ。
4月23日(3)

 私立高校Yは、清潔且つ質素で流行を追うことなく華美に流されないまじめな態度を保持するという教育方針を創立より有しており、この方針は同校の生徒の保護者から多くの支持を受けており、入学希望者に対する説明会などではこの学校の特色として紹介され、この高校の校風として有名であった。

 Yは、この教育方針に基づき、校則において、生徒がオートバイの運転免許を取得したり、オートバイを購入したり、乗ったりしない事(就職活動等で真に必要とされ、その事実を学校が認め、許可を与えられた場合は例外)、髪の毛にパーマをかけたり、髪の毛を染めるなど、華美な髪型をすること、香水などを使用することを禁止した規定を定めており、さらに同規定に違反したものは退学処分とすると規定していた。

 Yの生徒であるXは、2年生最後の春休み中に学校に無断でバイクの免許を取得し、親の買い与えたバイクを乗り回すようになり、春休み明けの4月の始業式にそのバイクで登校したため、生活指導の教師から厳重に注意を受けた。それにも拘らず、その後もY周辺でバイクを乗り回すことをやめず、繰り返し注意を受け続けた。Yは、夏休み直前の7月の初旬、再三の注意に対しても全く行動を改めようとしない為、Xに対して3日間の停学処分を下した。するとXは停学明けから、夏休みに入るまでの数日間を欠席し、そのまま夏休みに入った。

 夏休み中に、Xは同級生Aにバイクを貸したところ、同人は無免許であるにも拘わらず運転中、警官に呼び止められたため運転を誤って通行人Bに衝突し、Bに全治3カ月の重傷を負わせたが、そのまま現場から逃走した。Aは、Xと相談した結果、事故を警察及びYに報告しなかった。しかし、間もなくAは逮捕され、Yに、Xが事故に関係していることが発覚した。

 Yは、Xが、無断でオートバイ免許を取得するなど校則に違反し、さらに再三の注意に対して耳を貸さず校則違反行為を続け、停学処分まで受けたにも係わらず反省するどころか、同級生まで校則違反に巻き込み、轢き逃げ事件の原因を与えたことを重く捉えつつも、Xが3年生であることを考慮して、拒んだ場合は退学処分にするとしつつ、10月1日付けで、自主退学をするよう、勧告した。

 Xはこの勧告を拒んだため、Yは、12月1日付けで退学処分を下した。

 これに対し、翌年4月、Xは、そもそもYの校則のオートバイ規制に関する規定は憲法に違反して無効であり、ひいては退学処分自体が無効であるとして、Yに対し、卒業認定及び卒業証書の授与を求めて訴えを提起した。

 本問における憲法上の問題点について論ぜよ。 

4月16日(2)  XはA国国籍を有する成人である。しかし、祖父の代から日本国内のB市に住んでおり、相当の資産を有して多額の納税を行っており、出入国管理及び難民認定法22条に定める日本の永住資格を認められている。またXはB市で行われている各種ボランティア活動にも市民の一員として積極的に参加してきた。
 ボランティア活動において知り合い、人格的に優れた人物と考えていたCが、B市市会議員選挙に出馬したので、Xは是非Cのために投票したいと考え、公職選挙法23条に基づく選挙人名簿の縦覧を行ったが、自分の氏名が登載されていなかったので、同法24条に基づきB市選挙管理委員会(以下、Yという)に対し、異議の申し立てを行った。これに対し、Yは、地方議会議員選挙における名簿登載資格は同法20条の定めるところにより「選挙人名簿の登録は、当該市町村の区域内に住所を有する年齢満二十年以上の日本国民(第十一条第一項若しくは第二百五十二条又は政治資金規正法 (昭和二十三年法律第百九十四号)第二十八条 の規定により選挙権を有しない者を除く。)で、その者に係る登録市町村等(当該市町村及び消滅市町村(その区域の全部又は一部が廃置分合により当該市町村の区域の全部又は一部となつた市町村であつて、当該廃置分合により消滅した市町村をいう。次項において同じ。)をいう。以下この項において同じ。)の住民票が作成された日(他の市町村から登録市町村等の区域内に住所を移した者で住民基本台帳法 (昭和四十二年法律第八十一号)第二十二条 の規定により届出をしたものについては、当該届出をした日)から引き続き三箇月以上登録市町村等の住民基本台帳に記録されている者について行う。」とされており、A国籍を有するXはこれに該当しないとして、異議申立てを却下する処分を行った。
 そこで、XはYを相手取って、同法25条に基づき、処分取り消しの訴えを提起した。
 その訴訟において、Xは次の2点を主張した。
 一 日本国憲法93条2項は「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。」と定めており、XはB市の住民であるから、地方選挙における選挙権を認めるべきであり、地方選挙における選挙権者を日本国籍保有者に限定している公職選挙法20条は憲法に違反する。
 二 国際人権B規約25条は、「全ての市民」に対し、「直接に、又は自由に選んだ代表者を通じて、政治に参与する」権利を保障しており、B市の市民であるXにB市における選挙権を認めないのは、同条約に違反する。
 Xの上記二つの主張の当否について論じなさい。
 

4月9日(1)

 A社は、経営が苦しいとして、多年にわたって賃上げを実施してこなかった。さらに、世界的な不況のあおりから、経営が逼迫したとして、派遣労働者を全員解雇した。そのため、正社員は著しく残業が増加し、過労状態となった。

そこで、A社の労働組合(以下、Xという)執行部は、必要とあらばストライキを敢行してでも賃上げと労働時間の短縮を獲得するべきであると考え、臨時組合総会を開催し、@Xとしてストライキを行った場合の闘争資金の確保のため臨時組合費8000円、AA社の下請けで、社員にA社以上に厳しい労働条件を押しつけているB社労働組合が行うことを計画しているストライキの支援カンパ1000円、B派遣労働者の安易な解雇を可能とした労働者派遣法改正のための政治闘争資金1000円、合計1万円を各組合員から臨時に徴収することを内容とする提案を行った。

 Y1など計100名の組合員(以下、Yという)は、世界的不況下でストライキを行ったりすれば、A社そのものが倒産する恐れがあるとしてその提案に反対したが、X執行部の提案は、組合員の賛成多数で可決された。これに対し、YXから脱退して、第2組合を結成し、A社に対して協調的な路線をとることとした。

 そこで、Xは、Yに対し、YXの組合員であった時の組合総会決議はYを拘束するとして、100名分、計100万円を支払うように求めたが、Yが拒否したため、Yを相手取って訴えを提起した。

 これに対し、Yは次のように反論した。

(1)    Yは、Xの総会決議に反対したので、@ABの決議はいずれもYを拘束しない。

(2)    B社労働組合に対する支援カンパは、Xの定款に掲げる目的の範囲外の行為であるのでAの決議は無効であり、仮に有効であるとしても反対したYを拘束しない。

(3)    政治活動は、Xの定款に掲げる目的の範囲外の行為であるので、Bの決議は無効であり、仮に有効であるとしても反対したYを拘束しない。

 上記(1)(2)(3)の諸点の主張に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

 

  

 

2009年度 甲斐ゼミ 活動表

 

     
1月15日(29)

  遺伝子は,細胞を作るためのタンパク質の設計図である。人間には約2万5000個の遺伝子があると推測されている。遺伝情報は,子孫に受け継がれ得る情報で,個人の遺伝的特質及び体質を示すものであるが,その基になる遺伝子に係る情報は,当該個人にとって極めて機微に係る情報である。遺伝子には,すべての人間に共通な生存に不可欠な部分と,個人にオリジナルの部分とがある。もし生存に不可欠な遺伝子が異常になると,細胞や体の働きが損なわれるので,その個体は病気になることもある。既に多数の遺伝子疾患が知られており,また,高血圧などの生活習慣病や癌,そして神経難病なども遺伝子の影響を受けることが解明されつつある。遺伝子治療とは,生命活動の根幹である遺伝子を制御する治療法であり,正常な遺伝子を細胞に補ったり,遺伝子の欠陥を修復・修正することで病気を治療する手法である。遺伝子治療の実用化のためには,動物実験の次の段階として,人間を対象とした臨床研究も必要である。遺伝子治療においては,まず,当該疾患をもたらしている遺伝子の異常がどこで起こっているかなどについて調べる必要がある。それを確定するためには,遺伝にかかわるので,本人だけではなく,家族の遺伝子も検査する必要がある。遺伝子治療は,難病の治癒のための新たな可能性を有する治療法ではあるが,安全性という点でなお不十分な面があるし,未知の部分もある。例えば,治療用の正常な遺伝子の導入が適切に行われないと,癌抑制遺伝子等の有益な遺伝子を壊すことがある。さらに,遺伝子という生命の根幹にかかわる点で,遺伝子治療によって「生命の有り様」を人間が変えることにもなり得るなど,遺伝子治療それ自体をめぐって様々なレベルで議論されている。

【注:本問では,遺伝子治療に関する知見は以上の記述を前提とすること。】

  政府は,遺伝子を人為的に組み換えたり,それを生殖細胞に移入したりして操作することには人間を改造する危険性もあるが,研究活動は研究者の自由な発想を重視して本来自由に行われるべきであることを考慮し,研究者の自主性や倫理観を尊重した柔軟な規制の形態が望ましいとして,罰則を伴った法律による規制という方式を採らなかった。2002年に,文部科学省及び厚生労働省が共同して,制裁規定を一切含まない「遺伝子治療臨床研究に関する指針」(2004年に全部改正され,2008年に一部改正された

【参考資料1】。以下「本指針」という。)を制定した。こうして,遺伝子治療の臨床研究(以下「遺伝子治療臨床研究」という。)について研究者が遵守すべき指針が定められ,大学や研究所に設置される審査委員会で審査・承認を受けた後,さらに文部科学省・厚生労働省で審査・承認されて研究が行われている。

   2009年に,国立大学法人A大学医学部B教授らのグループによる遺伝子治療臨床研究において,被験者が一人死亡する事故が起きた。また,遺伝子に係る情報の漏洩事件も複数起きた。そこで,同年,Y県立大学医学部は,「審査委員会規則」を改正し,専門機関としてより高度の倫理性と責任性を持つべきであるとして,遺伝子治療臨床研究によって重大な事態が生じたときには当該研究の中止を命ずることができるようにした

【参考資料2】。さらに,同医学部は,「遺伝子情報保護規則」【参考資料3】を新たに定め,匿名化(その個人情報から個人を識別する情報の全部又は一部を取り除き,代わりに当該個人情報の提供者とかかわりのない符号又は番号を付すことをいう。)されておらず,特定の個人と結び付いた形で保持されている遺伝子に係る情報について規律した。当該規則は,本人の求めがある場合でも,「遺伝子治療の対象である疾病の原因となる遺伝子情報」以外の開示を禁止している。その理由は,すべての遺伝子に係る情報を開示することが本人に与えるマイナスの影響を考慮したからである。また,当該規則は,被験者ばかりでなく,遺伝子検査・診断を受けたすべての人の遺伝子に係る情報を第三者に開示することを禁止している。その理由は,その開示によって生じるかもしれない様々な問題の発生等を考慮したからである。

  Y県立大学医学部の,X教授を代表者とする遺伝子治療臨床研究グループは,2003年以来難病性疾患に関する従来の治療法の問題点を解決する新規治療法の開発を目的として,動物による実験を行ってきた。201※年に,X教授のグループは,X教授を総括責任者とし,本指針が定める手続に従って,遺伝子治療臨床研究(以下「本研究」という。)を実施することの承認を受けた。X教授は,難病治療のために来院したCを診断したところ,Cの難病の原因は遺伝子に関係する可能性が極めて高いと判断した。Cは成人であるので,X教授は,Cの同意を得てその遺伝子を検査した。さらに,X教授はCに,家族全員(父,母,兄及び姉)の遺伝子も検査する必要があることを説明し,その家族4人からそれぞれ同意を得た上で,4人の遺伝子も検査した。その結果,Cの難病が遺伝子の異常によるものであることが判明した。X教授は,動物実験で有効であった遺伝子治療法の被験者としてCが適切であると考え,Cに対し,遺伝子治療を行う必要性等,本指針が定める説明をすべて行った。説明を受けた後,Cは,本研究の被験者となることを受諾する条件として,自己ばかりでなくその家族4人の遺伝子に係るすべての情報の開示をX教授に求めた。X教授は,Cの求めに応じて,C以外の家族4人の同意を得ずに,C自身及びその家族4人の遺伝子に係るすべての情報をCに伝えた。Cは,本研究の被験者になることに同意する文書を提出した。

  Cを被験者とする本研究が実施されたが,その過程で全く予測し得なかった問題が生じ,Cは重体に陥り,そのため,Cに対する本研究は続けることができなくなった(その後,Cは回復した。)。Y県立大学医学部長は,定められた手続に従い慎重に審査した上で,X教授らによる本研究の中止を命じた。その後,この問題を契機として調査したところ,「遺伝子情報保護規則」に違反する行為が明らかとなった。任命権者である学長は,X教授によるCへのC自身及びその家族4人の遺伝子に係る情報の開示が「遺伝子情報保護規則」に違反していることを理由に,X教授を1か月の停職処分に処した。

〔設問1〕

  X教授は,本研究の中止命令(注:行政組織内部の職務命令自体の処分性については,本問では処分性があるものとする。)の取消しを求めて訴訟を提起することにした。あなたがX教授から依頼を受けた弁護士であったならば,憲法上の問題についてどのような主張を行うか述べなさい。そして,大学側の処分を正当化する主張を想定しながら,あなた自身の結論及び理由を述べなさい。

〔設問2〕

  X教授は,遺伝子に係る情報の開示(注:個人情報に関する法令や条例との関係については,本問では論じる必要はない。)に関する1か月の停職処分の取消しを求めて訴訟を提起することにした。あなたがX教授から依頼を受けた弁護士であったならば,憲法上の問題についてどのような主張を行うか述べなさい。そして,大学側の処分を正当化する主張を想定しながら,あなた自身の結論及び理由を述べなさい。

12月11日(28)

憲法41条について論ぜよ

12月5日   OB/OG総会 3号館地下食堂
12月4日(27)  

 所得税法は,収税官吏が所得税に関する調査について必要があるときは,納税義務者などに質問しまたは帳簿書類その他の物件の検査をすることができる旨を規定し,それらを拒否・妨害・忌避した者に対しては罰則規定を定めている。

 A市で食肉販売業を営んでいるXは,A市を管轄するB税務署に,当該年度の所得額に関する確定申告提出した。

この確定申告内容に疑問を感じたB税務署収税官吏Cは,税務調査のため、そこに備え付けられている帳簿書類等の検査し、それに基づいて質問をしようと、数回にわたってXを訪問した。

 しかし,XCに対し,その都度、司法官件の発した令状無しに、Xの店舗に立ち入ることを認めた所得税法に基づく検査は令状主義を定めた憲法351項の違反であるとの理由で、検査を拒否した。そのため,Xは,所得税法242条に基づき起訴された。

 Xの主張の憲法上の問題点について論ぜよ。

 

参照条文 所得税法

234条(当該職員の質問検査権)

国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、所得税に関する調査について必要があるときは、次に掲げる者に質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類(その作成又は保存に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。次条第2項及び第242条第10号(罰則)において同じ。)その他の物件を検査することができる。

 242条  次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。ただし、第三号の規定に該当する者が同号に規定する所得税について第240条(源泉徴収に係る所得税を納付しない罪)の規定に該当するに至つたときは、同条の例による。

九  第234条第1項(当該職員の質問検査権)の規定による当該職員の質問に対して答弁せず若しくは偽りの答弁をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ若しくは忌避した者
 

11月27日(26) ゼミ入室試験  
11月20日(25)

 財政議会主義を定めた憲法

83条の趣旨を述べた上で、次の見解について論ぜよ。

「予算は法律それ自体であるから、予算と法律との矛盾の発生が排除され、また、国会は予算を自由に修正することができる。」

平成

11年度国家公務員T種法律職試験問題
 
11月13日(24)   A市の市民であるBは、A市立図書館で雑誌を借り出そうとした。ところが、図書館長Cは、「閲覧用の雑誌、新聞等の定期刊行物について、少年法第61条に違反すると判断したとき、図書館長は、閲覧禁止にすることができる。」と定めるA市の図書館運営規則に基づき、同雑誌の閲覧を認めなかった。これに対し、Bは、その措置が憲法に違反するとして提訴した。この事例に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

平成

14年度司法試験問題
11月6日(23) A市は,児童・生徒によるインターネットの利用を促進するため,市立のすべての小学校,中学校,高校で児童・生徒がインターネットを使えるようコンピューターを配置するとともに,児童・生徒が教育上ふさわしくないサイトにアクセスすることがないように,コンピューターにフィルタリングを導入し,性的に刺激的な内容,残虐性を助長する内容,自殺を肯定したり奨励する内容など,児童・生徒の健全な発達を阻害するおそれがあると教育委員会が判断したサイトヘの接続ができないようにした。

  この措置が提起する憲法上の問題について検討せよ。

 (15年度公務員国家1種法律職試験問題)

 
10月30日(22)

下級裁判所の裁判権の行使に関し,「下級裁判所は,訴訟において,当該事件に適用される法令が憲法に違反すると認めるときは,その事件を最高裁判所に移送して, 当該法令の憲法適合性について最高裁判所の判断を求めなければならない。」という 趣旨の法律が制定された場合に生ずる憲法上の問題点について論ぜよ。

平成13年度司法試験問題
 
10月23日(21)  

(

1) わが国では、昭和初期に陸軍の支援により、戦没者の遺骨を納めるいわゆる忠霊塔の建設が各地で積極的に行われ、これが公営墳墓として戦没者の霊を祭るようになった。

 旧帝国在郷軍人会

Y市支部Aは、昭和5年4月、B小学校用地に隣接したY市役所の敷地内に忠魂碑を建立することを計画し、Y市に対し、市役所敷地であった土地の一部の無償貸与を申し入れた。これに対し、Y市は、Aに対し、市議会の議決を経て、忠魂碑の敷地として右土地を無償かつ無期限で貸し付けることとした。そこでAは会員の勤労奉仕により、忠魂碑を建設した。2次大戦の戦没者の遺族の援護、厚生、福祉及び戦没者の追悼、慰霊等を目的として戦後間もなくY市遺族会Cが設立され、AはこのCに吸収合併された。

 昭和

201215日、連合国軍最高司令官総司令部から政府にあてていわゆる神道指令(「国家神道、神社神道ニ対スル政府ノ保証、支援、保全及監督並ニ弘布ノ廃止ニ関スル件」)が発せられ、これにより、我が国において政教分離が実現されることになった。政府は、右総司令部の占領政策を受けて、「忠霊塔忠魂碑等の措置について」(昭和21年内務省警保局長通達)という通達を発し、学校及びその構内並びに公共建造物及びその構内又は公共用地に存する忠魂碑等を撤去する方針を打ち出した。

 そこで、上記忠魂碑は、昭和

223月、Cの手により、その碑石部分だけが取り外されてその付近の地中に埋められ、基台部分はそのままの状態で装置されるに至った。しかし、昭和27年にサンフランシスコ平和条約が成立し、日本が独立を回復したことを契機に、埋められた碑石が掘り出され、Cにより忠魂碑は元どおりに再建された。その後、Cが主催して、毎年4月ころ、碑前で神社神職の主宰の下に神式の儀式の方式に従い、慰霊祭を営んできた。

2) Y市においては、B小学校の児童数が近年急増したことから、同小学校の校舎の建替え、増築、校庭の拡張をすることが急務となった。そして、Y市がこれを行うためには、同小学校用地に隣接する忠魂碑を他に移転し、その敷地の明渡しを受けてこれを学校用地に編入する必要があった。そこで、Y市は、Cと交渉した結果、忠魂碑を他の市有地に移設する旨の合意が成立した。そこで、Y市は本件移設・再建の工事をD建設会社に請け負わせ、同社に請負工事代金704万余円を支払い、かつCとの間に土地の使用貸借契約を締結した。

(

3) Y市住民Xは、Cは憲法89条にいう宗教団体に該当し、したがってCに市有地を無償で使用させることは、憲法89条に違反すると主張して、住民訴訟を提起した。

 

Xの主張の当否について論ぜよ。
 
10月16日(20)  

 民間鉄道会社

Xは、通勤時間帯において極度の過密ダイヤを組み、そのダイヤを遵守する手段として、ダイヤ混乱の原因となった列車運行に責任のある運転手に、過酷な再訓練を施す旨の内規を定めていた。

某日、通勤時間帯において列車の運転を行っていた某は、運転ミスを繰り返したため、ダイヤから数分遅れて運行していた。そこで、遅れを取り返すべく、急カーブに

X社が定めている制限速度を大幅に超える速度で侵入した結果、列車は脱線し、運転手本人を含む多数の死者を出し、さらにおびただしい数の負傷者が発生するという事故が発生した。マスコミは、事故の原因について、過酷な再訓練を恐れるあまり、無理な運転で遅れを取り戻そうとしたためと報道した。

 衆議院国土交通委員会では、この事故を調査するため、

X社の社長Yを証人として喚問した。Yに対する質問としては、X社の社内体制や事故の発生原因、事故発生に対するYの責任、事故発生当時におけるYの私生活上の行動等が予定されていた。 Yは、事故発生に伴い、極めて多忙であることを理由に喚問を拒否した。この結果、議院における証人の宣誓および証言等に関する法律7条1項に違反したとして、告発され、起訴された。

 法廷において、Yは、本件喚問は、次の理由から違憲・無効なので、無罪である旨を主張した。

1

 国政調査権は立法権の補助権能として認められるのであるから、そもそも法律改正等を予定していない本件において、国会に調査権限は無い。

2

 仮に、行政権一般に国政調査権が及ぶとしても、民間企業であるXの社内体制には、国政調査権は及ばない。

3

 仮に民間企業に及ぶとしても、

1) Yの多忙さを無視した喚問は、調査権の濫用である。

2) Y自身の責任について調査するのは、自己に不利益な供述を供用されないことを保障した憲法381項に違反する。

3) Y自身の私生活について調査するのは、プライバシー権の侵害であって違憲である。

 

Yの主張は認められるか論じよ。
 
10月9日(19)  学会出席のため休講  
10月2日(18)  現行憲法が、その重要な基本原理としている人権は、しかし、無制約な権利ではなく、様々な制約に服し、その枠内でのみ効力を有する。その制約を無原則に認めるときは、旧憲法下における法律の留保と同様に、国会が恣意的にその内容を制約しうるものとなる。他方、制約をあまりに緩やかに認めるときは、個人主義ならぬ利己主義の尊重となってしまう。ここに、人権の制約原理を理論的に明確にする必要が存在する。
 人権の制約原理について、特にその本質的制約やパターナリズムとの関係を通じて論ぜよ。
 
9月25日(17)

 民間企業である

Y社に勤務するXは、自分の置かれている現在の労働環境に不満を抱き、会社及び労働組合に対し何度も労働環境改善を訴えたが、両者ともに聞き入れようとはしなかった。そこでXは「労働者たる私たちの存在を会社及び労働組合幹部に再認識させ、労働条件を改善するためサボタージュを行おう」と職場の仲間数十名に何度も繰り返し呼びかけ、サボタージュをあおった。それに応えて、Xの仲間たちはいっせいに休暇届を提出したり、故意に仕事の能率を低下させたりするなどのサボタージュ闘争を行った。

 そこで、

Y社はかかる争議行為を行ったXを除く職員全員に対し、「注意」処分を行うとともに、争議行為をあおったXに対しては「戒告」とする処分を行った。

 これに対し、

Xは自らの行為は、憲法に保障された労働基本権の行使であり、違法性が阻却されるにも拘わらず、処分を行ったのは憲法違反であるとして、処分取り消しの訴えを提起した。

 この事例における憲法上の問題を論ぜよ。

 
9月18日(16)   東京近郊に位置するA県B市には利根川の支流であるC川が流れているが、C川が大きく蛇行しているため、台風が関東地方を直撃すると、C川がその湾曲部から氾濫し、大きな被害を与えてきた。そこで、国土交通省ではC川がまっすぐ流れるように、大規模な河川改修を行い、将来において、再び氾濫することがないようにするとともに、B市の地形に合わせた区画整理事業を実施するという全く新たな事業を企画立案し、それを「A県B市の災害防止等に関する法律」案にまとめて国会に提出し、可決されたことから、国の直轄事業としてこれを行うこととした。
 しかし、C川流域に近い地域は比較的地価が安いことから、若い夫婦などがマイホームを建設するに最適であった。そのため、国土交通省の計画を実施すれば、彼らは、せっかく建てたマイホームを失うことになることから、この新事業の実施に猛反対を行った。
その反対運動の一環として、A県B市の住民Xは、事業実施の差し止めを求めて訴えを提起した。訴えの理由として、同法は、A県B市と言う特定の地方公共団体に関わる法律であるため、憲法95条にいう地方自治特別法に該当し、地元住民の過半数の同意を得ない限り、同法は無効である旨、主張した。
 これに対し、法務大臣Yは、本法は、憲法95条に言う地方自治特別法には該当しない旨、主張して争った。
 X及びYの主張に関し、論ぜよ。
夏休みの合宿(日〜日)
(15)    
(14)    
 
7月10日(13)

 公職選挙法10条は、被選挙権を有する者を、衆議院議員については年齢満25年以上の者、参議院議員については年齢満30年以上の者と定めている。

この規定の憲法上の問題点を論ぜよ。

 また、同条を改正して、衆議院議員及び参議院議員のいずれも年齢満35年以上とした場合、憲法上どのような問題が生じるか、論ぜよ。

(平成16年度司法試験問題)

7月3日(12)

Xは、AB市で一般公衆浴場を新規開業するために、A県知事Yに対し、営業許可を申請をした。しかし、A県公衆浴場法施行条例4条の規定によれば、市部においては既設の一般公衆浴場からおおむね300m以上離れていることが要求されているところ、Aの施設は150mしか離れていないことを理由として、他の要件はすべて満たしているにも拘わらず、Yは当該営業許可申請に対し、不許可処分を下した。

 そこで、Xは、Yの不許可処分は、憲法の保障する営業の自由を侵害するものとして、処分取り消しを求めて訴えを提起した。

 本件における憲法上について論じなさい。

 (参照条文)

公衆浴場法

第二条 業として公衆浴場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。

2 都道府県知事は、公衆浴場の設置の場所若しくはその構造設備が、公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは、前項の許可を与えないことができる。但し、この場合においては、都道府県知事は、理由を附した書面をもつて、その旨を通知しなければならない。

3 前項の設置の場所の配置の基準については、都道府県が条例で、これを定める。

4 都道府県知事は、第二項の規定の趣旨にかんがみて必要があると認めるときは、第一項の許可に必要な条件を附することができる。

 

A県公衆浴場法施行条例

第四条 法第二条第三項の設置の場所の配置の基準は、一般公衆浴場の敷地が他の一般公衆浴場(その経営について法第二条第一項の許可がされているものに限る。以下「既設の一般公衆浴場」という。)の敷地から、市の区域にあってはおおむね三百メートル以上、その他の区域にあってはおおむね三百五十メートル以上離れていることとする。ただし、既設の一般公衆浴場との間が橋梁のない河川又は踏切のない鉄道等で遮断されている場合、既設の一般公衆浴場の周辺に公営住宅等がある場合その他の特別な事情がある場合であって、知事が衛生上支障がないと認めるときは、この限りでない。

6月26日(11)

 

Xは、国民年金法施行令別表の11号(両眼の視力の和が0.04以下のもの)に該当する視力障害者で、同法に基づく障害基礎年金を受給している。Xは内縁の夫Aとの間に男子Bがある。XAと離別後独力でBを養育してきた。しかし、児童扶養手当法に基づく児童扶養手当制度を知ったことから、居住するC県知事Yに、その受給資格について認定の請求をしたところ、Yは、請求を却下する旨の処分をした。さらに、XYに異議申し立てをしたのに対し、Yは右異議申立てを棄却する旨の決定をした。その決定の理由は、Xが障害基礎年金を受給しているので、児童扶養手当法43項二号に該当し受給資格を欠くというものであつた。

 そこで、

Xは処分の取り消しを求めて、Yを相手に訴えを提起した。

 この訴訟における憲法上の論点を指摘し、論ぜよ。

参照条文

児童扶養手当法

4  都道府県知事、市長(特別区の区長を含む。以下同じ。)及び福祉事務所(社会福祉法 (昭和二十六年法律第四十五号)に定める福祉に関する事務所をいう。以下同じ。)を管理する町村長(以下「都道府県知事等」という。)は、次の各号のいずれかに該当する児童の母がその児童を監護するとき、又は母がないか若しくは母が監護をしない場合において、当該児童の母以外の者がその児童を養育する(その児童と同居して、これを監護し、かつ、その生計を維持することをいう。以下同じ。)ときは、その母又はその養育者に対し、児童扶養手当(以下「手当」という。)を支給する。

 父母が婚姻を解消した児童

 父が死亡した児童

 父が政令で定める程度の障害の状態にある児童

 父の生死が明らかでない児童

 その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの

2 略

3 第

1項の規定にかかわらず、手当は、母に対する手当にあつては当該母が、養育者に対する手当にあつては当該養育者が、次の各号のいずれかに該当するときは、支給しない。

 日本国内に住所を有しないとき。
 国民年金法等の一部を改正する法律(昭和六十年法律第三十四号)附則第32条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法第1 による改正前の国民年金法に基づく老齢福祉年金以外の公的年金給付を受けることができるとき。ただし、その全額につきその支給が停止されているときを除く。
6月19日(10)

 平成○○年、日本は

A国との間で、両国の貿易関係に関する協定を締結した。内容の概略を示せば、下記の通りである。

 政府は、当初、これは両国間の行政レベルにおける協定に過ぎないと考え、国会の承認を求めることなく、この協定を発効させた。なぜなら、第

2条で関税について定めているが、A国の主要産品に関する限り、協定締結時点における関税定率法で税率ゼロとしているものばかりであり、その他の条項についても、同様に特段の法的措置は不要な内容であったためである。

 しかし、これは

A国との間の貿易関係の根幹に拘わる重要な問題であるから、国会の承認を得るべき条約であるとの意見が与野党間で高まった。そこで、政府は、事後の国会承認を求めて、衆議院に協定を提出した。

 衆議院では、審議の末、確かに

A国は米の生産国ではないが、無条件に第2条の関税の撤廃を定めると、第3国からA国経由で日本に対する米の輸出が行われる危険があるとして、第2条に関し、米を除外するという修正を行うことを条件に、本協定を承認し、参議院もこれに倣った。

 本問における憲法上の論点を指摘し、論ぜよ。

1 協定の目的1)両国間の国境を越えた物品・人・サービス・資本・情報のより自由な移動を促進し、経済活動の連携を強化する。2)貿易・投資のみならず、金融、情報通信技術、人材養成といった分野を含む包括的な二国間の経済連携を目指す。

2 物品の貿易の促進1)関税 日本からA国への輸出にかかるA国の関税は全て撤廃する。 A国から日本への輸出にかかる日本の関税は全て撤廃する。2)税関手続  税関手続の簡素化、国際的調和のための協力する。3)貿易取引文書の電子化  貿易取引文書の電子的処理を促進する。

3 人の移動の促進1)人の移動 商用目的の人々の入国及び滞在を双方で容易なものにする。

 技術者資格等の職業上の技能を相互に認める。

2)人材養成 学生・教授・公務員等の交流を促進する。3)観光  双方の観光客の増大を促進する。4)科学技術  研究者等の交流を促進する。

4 サービス貿易の促進 両国間において、WTOでの約束水準を越えた自由化を行う。
6月12日(9)  A男は、B女と法律婚をして子供Xができたが、BはことごとくAを軽んじて取り扱った。母の行動を見て育ったXもまたAを軽んじ、Bもそれを是認した。そのためこの冷たい家庭に、遂にいたたまれなくなったAは、すべての財産を放棄して、ひとり家を出て、遠隔地に移り住んだ。その地で、Aは、別の女性Cと内縁関係をもつに至り、Yが出生した。Yは、その後50年以上に渡ってAと共に暮らして孝養を尽くし、扶養義務を全うした。A所有の会社の経営も、YがAと共同であたってきた。したがって、遺産もその共同生活体の営みの中で形成されてきたものである。
 Aが死亡すると、50年以上も前からAとは事実上縁を断ち、遠隔の地でB(Aより先に死亡)とのみ生活をしてきたXが、遺産分割に当たり、Yの二倍の相続分を有すると主張して、訴訟となった。これに対し、Yは民法900条4号は憲法14条の平等原則に反し違憲であって、それを根拠としたXの主張は認められないと主張した。
 以上の事案における憲法上の問題を論ぜよ。
6月5日(8)  用地の取得が著しく困難な大都市において、公園及び公営住宅の建設を促進するために、当該都市に所在する私有の遊休土地を市場価格より低い価格で収用することを可能とする法律が制定されたと仮定する。この法律に含まれる憲法上の問題点をあげて論ぜよ。

(司法試験平成6年)

5月29日(7)

  Z

県の県立A高校は新入生の選抜方式として、学力検査のための試験の成績と、それらの他に受験生本人の心身の状態も重視し、その記録と併せて総合的に合否判定を決定する方式をとっていた。このA高校を進行性のデュシェンヌ型筋ジストロフィー症を持ったXが受験した。Xの結果は学力試験の成績は、合格基準を大きく上回る好成績であった。しかし、Xは小学校5年生に進級するころから常に車椅子を必要とする状況になり、中学校3年間でさらに病状が進行して、受験時には腕を挙げることができなくなり、背柱の弯曲が顕著になり、同一姿勢の保持が困難になったほか、少し筆圧が弱くなったが、頁をめくる、読む、書く等の動作には全く支障がなく、書いた文字も全て判読できる状況であった。現在のわが国のデュシェンヌ型筋ジストロフィーの死亡平均年齢は20歳と考えられていること、Xの症状が現在よりさらに悪化することは確実であるが、その場合、A高校には適切な介護ができる施設、職員がいないこと等諸般の事情から、A高校の全過程を無事履修する見通しがないと判断し、A高校校長YXに対し入学不許可処分を下した。

 

Xは、この処分は身体的障害を唯一の理由とするもので、憲法26条1項、14条及び教育基本法3条に違反するとして、Yにその取消しを求めると共に、国家賠償法1条1項に基づいて、Z県に対し、入学不許可処分を受けたことによりXが被った精神的損害に対する慰謝料の支払いを求めた。

 上記訴訟における憲法上の問題点について論ぜよ。

5月22日(6)  

 テレビ局Xでは、暴力団が賭博などかつての活動から、債権取り立てを請け負うなどの業務で、一般社会へ進出してきていることの危険性を国民に知らせるべく、ドキュメンタリー番組を企画し、その中で、暴力団による違法な債権取り立ての様子を放送するという企画をたてた。Xは暴力団からの過酷な取り立てを受けている債務者Aに協力を依頼した。暴力団からの仕返しを恐れて難色を示すAから、映像や音声に処理をして誰か判らなくした上で、放送目的のためだけに使うことを条件に承諾を得て、Aの事務室に隠しカメラを設置した。その結果、債権取り立てに当たって暴力団員某がAに暴力を振るう生々しい映像を得ることが出来たので、特別番組の中で、その映像を約束通り編集した上で放映した。警察Yでは、放映された映像をビデオ録画して暴力団員の特定を試みたが、成功しなかったため、犯人を逮捕する目的で、Xに対し、取材フィルムの提出を要請した。しかし、Xは提出を拒否した。そこで、Yは、簡易裁判所裁判官Zの発した差押許可状に基づき、X本社内において、未放送のものを含むこの事件関連のすべての取材フィルムを押収した。そこで、Xは、こうした取材フィルムの押収は、取材相手との信頼関係を損なう恐れがあり、それがひいては報道および取材の自由に重大な支障をきたすとして、押収処分の取り消しを求めて準抗告の申立てを行った。

 

 Xの準抗告理由における憲法上の問題点を論ぜよ。 

5月15日(5)  

 公立A高校で文化祭を開催するにあたり、生徒から研究発表を募ったところ、キリスト教のある宗派を信仰している生徒Xらが、その宗派の成立と発展に関する研究発表を行いたいと応募した。これに対して、校長Yは、学校行事で特定の宗教に関する宗教活動を支援することは、公立学校における宗教的中立性の原則に違反することになるという理由で、Xらの研究発表を認めなかった。
 右の事例におけるYの措置について、憲法上の問題点を指摘して論ぜよ。

(平成10年度司法試験問題)

5月8日(4)  

 団体Xは、A市の近くに建設されるB空港新設に反対して、一連の爆弾テロを行うなど、過激な闘争を展開してきた。そして、その反対闘争の一環として、○○年○月○日にA市立市民会館の大ホールで「B空港反対総決起集会」を開催することを企画し、市民会館に対して、同ホールの使用許可申請を行った。

 本件会館は、A市が市民に芸術性の高い文化に触れる機会を提供し、市民自らが文化活動を展開することによって、文化の創造及び振興を図ることを目的で設置したもので、市内最大の繁華街に位置している。

 会館側では、申請された日の使用予定が無いところから、いったん使用許可を与えたが、その後に、Xが過激な活動を行っている団体であることに気がついた。そこで、A市長Yは、本件会館を使用させると、不測の事態が憂慮され、その結果、周辺住民の平穏な生活が脅かされるおそれがあること、また対立する他の過激派団体による介入も懸念されることなどを根拠にして、A市民会館使用条例第4条一号に基づき、使用許可を取り消す処分を下した。

 これに対し、Xは、本件条例4条が準用する31項一号及び三号は、極めて曖昧な内容であるが故に憲法211項に違反して無効であり、また本件不許可処分は、同条2項前段の禁止する検閲に当たり、地方自治法244条に違反すると主張して、処分取り消しの訴えを提起した。

 この事案における憲法上の問題点について論ぜよ。

 

参照条文

 A市民会館条例

3条 市民会館大ホールを使用しようとする者は、あらかじめ指定管理者の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、使用を許可しない。(1) 公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあると認めるとき。

(2) 施設、附属設備その他器具備品等(以下「施設等」という。)を汚損し、破損し、又は滅失するおそれがあると認めるとき。

(3) 管理上支障があると認めるとき。

(4) その他指定管理者が適当でないと認めるとき。(2項以下略) 

(許可の取消し等)

4条 指定管理者は、使用の許可を受けた者(以下「使用者」という。)が、次の各号のいずれかに該当するときは、使用の許可を取り消し、又はその使用を制限し、若しくは停止し、若しくは退去を命ずることができる。

(1) 前条第1項各号のいずれかに該当する事由が生じたとき。

(2) 前条第3項による条件に違反したとき。

(3) この条例又はこれに基づく規則に違反したとき。

4月24日(3)

 税理士会Yは、税理士法49条に基づき、A国税局管内の税理士を構成員として設立された法人であり、日本税理士会連合会の会員である。

 日本税理士政治連盟は、日本税理士会連合会に対応する政治資金規正法上の政治団体で、税理士の社会的、経済的地位の向上を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度を確立するため必要な政治活動を行うことを目的として設立された。これに対応して、Yも、同会に対応する政治資金規正法上の団体として、税理士政治連盟Bを設立した。Bは日本税理士政治連盟の構成員である。

 日本税理士会政治連盟では、○○年、税理士法の改正を推進する目的から政党Cに、例年より多額の政治献金を行うことを決定し、これを構成する各政治連盟に通知した。

 これを受けて、Yでは同年の定期総会において、税理士法改正運動に要する特別資金とするため、会員から特別会費5000円を徴収する旨の決議をした。そして、右決議に基づいて徴収した特別会費全額をBに寄付することとした。

 Xは、従来からYの会員である税理士であるが、本件特別会費を納入しなかった。

 Yの役員選任規則には、役員の選挙権及び被選挙権の欠格事由として「選挙の年の331日現在において本部の会費を滞納している者」との規定がある。

 Yは、右規定に基づき、本件特別会費の滞納を理由として、○○年以降の各年度における役員選挙において、いずれもXを選挙人名簿に登載しないまま役員選挙を実施した。

 そこで、Xは、YBに金員を寄付することは、Yの目的の範囲外の行為であり、そのための本件特別会費を徴収する旨の本件決議は無効であるとして、XYに本件特別会費の納入義務を負わないことの確認を求め、さらに、Yが本件特別会費の滞納を理由として上記各役員選挙において上告人の選挙権及び被選挙権を停止する措置を採ったのは不法行為であると主張し、Yに対し、これにより被った慰謝料等の一部として500万円と遅延損害金の支払を求める訴えを提起した。

 Xの訴えに含まれる憲法上の問題について論ぜよ。

 

参照条文 税理士法

49  税理士は、国税局の管轄区域ごとに、一の税理士会を設立しなければならない。(2項以下略) 

49条の2  税理士は、税理士会を設立しようとするときは、会則を定め、その会則について財務大臣の認可を受けなければならない。

2  税理士会の会則には、次の事項を記載しなければならない。

 名称及び事務所の所在地

 入会及び退会に関する規定

 役員に関する規定

 会議に関する規定

 税理士の品位保持に関する規定

 会員の研修に関する規定

 会員の業務に関する紛議の調停に関する規定

 税理士業務に係る使用人その他の従業者に対する監督に関する規定

 委嘱者の経済的理由により無償又は著しく低い報酬で行う税理士業務に関する規定

 会費に関する規定

十一  庶務及び会計に関する規定

3  税理士会の会則の変更(政令で定める重要な事項に係るものに限る。)は、財務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。 

49条の6  税理士は、登録を受けた時に、当然、その登録を受けた税理士事務所又は税理士法人の事務所の所在地を含む区域に設立されている税理士会の会員となる。 2項以下略) 

49条の13  全国の税理士会は、日本税理士会連合会を設立しなければならない。

2  日本税理士会連合会は、税理士及び税理士法人の使命及び職責にかんがみ、税理士及び税理士法人の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、税理士会及びその会員に対する指導、連絡及び監督に関する事務を行い、並びに税理士の登録に関する事務を行うことを目的とする。

3  日本税理士会連合会は、法人とする。

4  税理士会は、当然、日本税理士会連合会の会員となる。

 
4月17日(2)

 平成○○年○月○日午後

2時前後に、Xは、AB市にあるCマンションに、某政党のA県議会報告及びB市議団だより等計4点の政治的ビラを配布する目的で立ち入った。

 

Cマンションは、地上7階、地下1階建ての鉄筋コンクリート造りの分譲マンションであり,すべて住宅として分譲されている。Cマンションは、1階西側にガラス製両開きドアの玄関出入口があり,そこを入ったところが玄関ホールになっていて、その右側の壁には掲示板と集合郵便受けが設置されている。集合郵便受けは,縦に6列,横に8列ずつ並んだ合計48個の各住戸ごとの郵便受けからなっている。

 その奥にさらにガラス製ドアがあり、このドアを開けてさらに進むと,右側にエレベーター,左側に階段があり,2階以上に上がることができる。このドアは居住者の出入りのため常に無施錠である。

 1階玄関ホール入口ドアには「関係者以外立入禁止」と書かれたB4判大の黄色地の紙が貼られており、また玄関ホール右側の掲示板にはA4判大の白地の紙に「チラシ・パンフレット等広告の投函は固く禁じます」と黒色の文字で記載された本件マンションの管理組合名義のはり紙がある。また、その上部には「近隣マンション盗難!多発注意!」と赤色の文字で手書きされたはり紙、「不審な人を見かけたら,

110番しましょう」と記載されているはり紙等が貼付されている。

 

Xはこの日、Cマンションの隣にある同様の構造のDマンションを最初に訪れていた。そこでは、玄関ホールの奥のドアがオートロックになって入れなかったため、集合郵便受けにビラを投函した。しかし、Cマンションでは、上述の通り奥のドアが無施錠であったので、そのドアを通ってエレベーターに乗り、7階まで行って,7階の全居室の玄関ドアのドアポストに本件ビラを投函し、その後、階段で下の階に降りて順次各階の全居室のドアポストに本件ビラを投函しようとした。しかし、3階まで降りて2戸の居室のドアポストに本件ビラを投函した段階で、Xを見とがめたCマンション居住者E110番通報した。その結果駆けつけた警察官により、Xは住居侵入罪(刑法130条)の現行犯として逮捕され、起訴された。

 これに対し、

Xは政治的なビラ配布行為は、憲法21条の保障する表現の自由により保障されている行為であり、無罪であると主張した。

 この事案における憲法上の問題点について論ぜよ。

 
4月10日(1)

 Xは、戦前から定住していた在日韓国人の子孫であり、日本生まれで、『日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定』(昭和四〇年条約第二八号。以下『日韓地位協定』という。)及び『日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法』(昭和四〇年法律第一四六号)に基づく日本国における永住資格の保有者であって、在留資格及び現実の生活実態ともに日本を生活の本拠としていた。

 外国人登録法においては、昭和27年以降、外国人の指紋押捺を義務化していたが、Xは戦前における朝鮮人からの指紋採取、戦後における指紋押捺制度が在日韓国人・朝鮮人を主要な対象としてきたことなどから、指紋押捺による苦痛を端的に受ける立場にあるとの意識から、指紋の押捺を拒否した。そのため、昭和○〇年、A地方裁判所において、罰金1万円の有罪判決を受けている。その後、平成46月の外国人登録法改正で,前年に行われた日韓協定見直しを受けて,「永住者」については指紋押捺制度を廃止したので、Xの指紋の押捺義務は免除された。

 Xはピアニストであって、その技能向上のため国際的に著名な米国A大学B教授に師事することを希望し、同教授の了解を得、同大学の入学許可も得た。そこで、米国に留学する目的から入国管理法261項の再入国許可を申請した。ところが、法務大臣Yは、上記のXの指紋押捺拒否を理由に申請を不許可とした。

 そこで、Xは再入国不許可処分の取消しを求めて訴えを提起した。

 本件に含まれる憲法上の問題点を論ぜよ。

 

 

 

 

 

2008年度 甲斐ゼミ 活動表

 

     
     
冬休みの合宿(31)

 

BA市にはJRCA市駅がある。A市駅東口はロータリーが設けられていて広々しており多くの商店が軒を連ねている。これに対し西口は、駅前広場の敷地面積が狭く、商店も数えるほどしか見当たらず、また、近くに踏切があるため車の渋滞が西口の常態となっていた。この事態を憂えていた周辺住民にとって駅西口の開発は悲願であった。

 平成○○年、

A市長Yは、A市駅西口において、都市再開発法にいう第1種市街地再開発事業(権利変換方式) に基づく再開発事業を、市の直営事業として実施することを決定した。西口に商店がたくさん入ったビルを建設するという計画に、当初は住民は賛成するものが大半で、開発反対の声は上がらなかった。

 しかし、開発が進むにつれ、実際の開発と住民が思い描いていた開発に齟齬が存在することが明らかになっていった。すなわち、西口駅前に関連する多数の地権者をすべて収容し、かつ再開発事業に必要な経費を捻出するために、新しく建てられるビルは予想をはるかに超える

100mあるビルであることが判明した。また、住民の悩みの種である踏切の整備は、JRがこれに同意しなかったため、開発対象から除外されることとなった。その結果、新しいビルへの集客により、踏切の渋滞は、従来より遥かに深刻になることが予想された。

 そこで開発を止める必要があると判断した西口駅前地区の住民たちは西口再開発反対の住民団体を組織し、西口開発の是非を住民投票にかけようという条例案を、地方自治法第

74条で定められた制度にのっとって市長Yに提出した。条例案の案文を巡ってYと議会とが折衝した結果、「西口開発を続けるか否かについては、市長は住民投票の結果を尊重しなければならない」と規定された。

 議会では賛成多数で議決され、

Yも拒否権を発動しなかったので、条例は成立した。

 そこで、その条例によって西口開発の是非についての住民投票が実施された。住民投票では、有権者の

61%が投票し、投票総数の76%が開発に反対であった。

 しかし、市長は、「地権者の説得を得るのに費やした苦労が水の泡になること」、「地元が何十年もかけて進めてきたこと」、「国からの補助金が得られていること」「この機会を逃したら次がいつ来るかわからない」「踏切については、今後も継続的に

JRとの交渉を行う予定であること」等の理由を述べ、西口開発を当初の計画通り進めていくことにした。そして、E建設会社とのビル建設請負契約を締結し、着工に踏み切った。

 

A市の住民Xは、市長Yの行為は住民投票に違反し、違法もしくは不当な債務の負担であるとして、地方自治法第242条に基づき、監査委員に監査請求を行った。しかし、監査委員がこれを棄却したので、地方自治法第242条の21項に基づき、当該工事の差し止めを請求する訴訟を提起した。

 住民

Xの主張に含まれる憲法上の問題について論ぜよ。 
 
冬休みの合宿(30)

 政党甲は、国会において多数の議席を有する与党である。甲は、近づいてきた選挙戦に向けて、議席をさらに伸ばすために、野党第一党である政党Xを批判する次のような意見広告を多数の新聞社に掲載するよう求めた。

 その内容は、「X政党は、議席さえ取れればそれでいいのか。選挙戦が近づいても甲政党に対する批判ばかりをしていて、具体的に対立案・方針を出してこない。唱えている政策は甲との相違を強調するためであって、現実的には実現不可能な主張ばかりではないか。このような政党に政権を任せていいのか。」といったものであった。

 これを載せることは、加入している日本新聞協会の新聞倫理綱領に反するとして、ほとんどの新聞社がこれを拒否した。

 しかし、Y新聞社だけは、これを事実に基づいた主張であり、公益性の高い正確・公正で責任ある言論と認め、意見広告の掲載を認めた。

 これに対して、Xは本来公平・中立を旨とするYのような報道機関が、より力の強い一方に肩入れすることはあってはならないとして、この広告を載せたYに責任を求め、問題となった広告と同じスペースの反論文を新聞紙上に載せるよう求めた。

 しかし、Yは反論文の掲載を強制されることは、紙面のスペースの面で負担を強いられることになり、また、今後の批判的記事の掲載を躊躇することにつながり、その結果間接的に表現の自由が侵害されるとして、これを拒否した。

 そこで、Xは、反論文掲載請求を求めて、Yに対して訴えを提起した。

  Xの主張する反論文掲載請求権が認められるか否かについて論ぜよ。

     
1月9日(29)  

 A大学4年生の女子学生であるXは、商事会社Yの採用試験を、受験した。Yの採用試験は、筆記試験の他、面接が3次まであり、Xは、無事に2次面接までは通過したが、3次面接で落とされた。ところが、Yでは、男子学生については面接試験は2次までしか行われておらず、2次面接を通過した男子学生は全員が採用されていた。

 そこで、Xは、Yを相手取り、Xを不採用とした処分は憲法に違反して無効であるとして、Yとの雇用関係確認の訴えを提起した。

この訴訟について憲法上の問題を論ぜよ。

 
     
12月19日(28)

 

A大学法学部大学院には、専攻科と呼ばれる制度がある。これに入学した者は、1年間、特定の教授の講義を履修し、当該科目の単位を履修したと認定されれば、修了資格が得られる(学則参照)。

  Xは、平成○○年度に、本専攻科に入学し、

415日に、B教授担当にかかる演習および研究報告10単位を取得すべく、Y法学部長兼大学院長宛に右各科目の履修票を提出した。

  ところが、

Bが既往年度において不正行為に関与した疑いが生じたため、Yは、同年95日に、Bに対して同学部教授会及び大学院分科委員会への出席停止の措置をなし、さらに疑いが確実なものとなったため、同年1226日に、Bの授業科目および演習などの授業の各担当を停止する措置をしたうえ、学生に対しては代替の授業科目および演習を履修するように指示を行った。

  しかし、Xは、その指示に従わず、前記のとおり履修票を提出した

B担当にかかる演習および研究報告10単位の授業に出席を続けたうえ、Bの実施した試験を受け、Bから合格の判定を受けた。そしてBYに右科目の成績票を提出した。それにもかかわらず、その後、現在に至るまで、YXが右各単位を取得したことの認定を行わず、したがってXが右専攻科を修了したことの認定も行っていない。

  そこで、

Xは、Yに対し、右単位の認定並びに専攻科の修了決定をしないことが違法であることの確認を求めて、訴えを提起した。

  これに対し、

Yは、単位授与(認定)行為は、純然たる大学内部の問題として大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであつて、裁判所の司法審査の対象にはならないと反論した。

 

Yの主張に含まれる憲法上の論点について論ぜよ。

A大学学則抜粋

60条 専攻科の教育課程は、別に定めるところによる。

61条 専攻科に1年以上在学し所定の単位を履修取得した者は、課程を修了したものと認め修了証書を授与する。

12月12日(27)  

 平成〇年〇月〇日に開かれた第〇回国会衆議院社会労働委員会において、衆議院議員であり同委員会の委員であったAは、同日の議題であった医療法の一部を改正する法律案の審議に際し、患者の人権を擁護する見地から問題のある病院に対する所管行政庁の十分な監督を求める目的で、B市のC精神病院の問題を取り上げて質疑し、その質疑中で、A病院長X 女性患者Dに対して破廉恥な行為をしていること、同じくXが薬物を常用するなど通常の精神状態ではないのではないかということ、現行の行政の中でこのような医師はチェックできないのではないかなどという趣旨の発言を行った。

 しかし、Aに上記情報を提供したDは、精神病患者として、その主治医Xに対し恋愛感情を持ち、Xがそれを峻拒したことから、逆にXと肉体関係を持ったという妄想を抱くに至ったものであって、一連の発言はすべて事実無根であった。

 そうした事実関係を十分に調査することなく、行われたAの発言により、Xの社会的名誉は大きく傷つけられ、またB精神病院の患者数が激減するなどの被害を受けた。

 そこで、Xは国(Y)を相手取って、国家賠償法1条に基づき、国家賠償を請求した。

 それに対し、Yは、本件発言は憲法51条にいう演説等にあたり、国会議員が議院で行った演説等については、国家賠償法上およそ違法が問題とされる余地がないことを定めたものというべきであるから、Yは賠償責任を負わないと主張した。

 Yの主張の憲法上の当否について論ぜよ。
 
12月6日 OB/OG総会
ダーツカフェ『
Flare
東京都千代田区鍛冶町2−2−9 神田共伸会館4F
 具体的な場所は、JR神田駅東口・南口 徒歩30秒と店の惹句にあります。すなわち二つの出口の中間くらいの中央通り沿いの場所です。OB/OGの皆さんは、予定に入れておいて下さい。
 
12月5日(26)  

 Xは、平成○○年に、国(Y)に対し、酒税法(以下「法」という。)91項に基づき、A市に所有する店舗における酒類販売業免許の申請をした。しかし、Yは法1011号に該当することを理由として、右免許を拒否する旨の処分をした。拒否した根拠は次のとおりである。

 Y11号に規定する「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要がある」の意義について、「新たに酒類の製造免許又は販売業免許を与えたときは、地域的又は全国的に酒類の需給の均衡を破り、その生産及び販売の面に混乱を来し、製造者又は販売業者の経営の基礎を危くし、ひいては、酒税の保全に悪影響を及ぼすと認められる場合」をいうとした。そして、需給調整上の要件の判断基準として、全酒類小売業の免許の付与は、申請販売場の小売販売地域内に所在する全酒類小売業者の販売場から、その地域の小売基準数量の10倍以上の数量の販売実績を有する大規模な既存小売販売場を除外した残りの全酒類小売販売場の最近1箇年における総販売数量に酒類消費量の増減率を乗じて算出される数量を、その販売場の数に申請販売場数を加えた数で除して得た数量が地域ごとに定められた小売基準数量以上であること(以下「小売基準数量要件」という。)、申請時に最も近い時における申請販売場の小売販売地域内の総世帯数を、既存小売販売場数に申請販売場数を加えた数で除して得た数が地域ごとに定められた基準世帯数以上であること(以下「基準世帯数要件」という。)、のいずれかに該当する場合に限ることとし、そのただし書(以下「本件ただし書」という。)として、これらの要件に合致する場合であっても、既存の酒類販売業者の経営実態又は酒類の取引状況等からみて、新たに免許を与えるときは、酒類の需給の均衡を破り、ひいては酒税の確保に支障を来すおそれがあると認められる場合は免許を与えないこととする旨の運用指針を規定していた。そして、本件申請に係る販売場の属する小売販売地域における小売基準数量は年間24キロリットル、基準世帯数は200世帯であった。

 これに対し、本件申請に係る販売場の小売販売地域内に所在する小売販売場は7場であり、小売基準数量の10倍以上の数量の販売実績を有する販売場はない。右7場の合計酒類販売数量は申請の前々年においては231.846kl、前年においては235.775klと横ばいの状態であった。また、同小売販売地域内の世帯数は、申請時点で1495世帯であるが、前年は1419世帯、前年は1468世帯とやはり横ばいであった。既存業者7者の平均営業所得は年間250万円程度であり、うち4者の販売数量は年間24kl未満である。Xの販売見込数量は、年間67.609klであり、右四者の合計販売数量に匹敵する。

 この拒否処分に対し、Xは、Yを相手取り、その取消を請求して訴えを提起した。訴えにおいて、Xは、「酒類の需給の均衡を維持する必要がある」、「免許を与えることが適当でない」という抽象的な文言をもって規定されている免許拒否の要件を拡大して解釈適用するときは、既存業者の権益を保護するため新規参入を規制することにつながり、憲法22条の保障する営業の自由を侵害する、と主張した。

 Xの主張の当否について論ぜよ。

[参考条文 酒税法]

9  酒類の販売業又は販売の代理業若しくは媒介業(以下「販売業」と総称する。)をしようとする者は、政令で定める手続により、販売場(継続して販売業をする場所をいう。以下同じ。)ごとにその販売場の所在地(販売場を設けない場合には、住所地)の所轄税務署長の免許(以下「販売業免許」という。)を受けなければならない。〔後略〕

(製造免許等の要件)

10  第7条第1項、第8条又は前条第1項の規定による酒類の製造免許、酒母若しくはもろみの製造免許又は酒類の販売業免許の申請があつた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、税務署長は、酒類の製造免許、酒母若しくはもろみの製造免許又は酒類の販売業免許を与えないことができる。

一〜十 略

十一  酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の製造免許又は酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合

 
11月28日(25)  

 同性愛者の人権を考えるための活動をしている団体Xでは、Y県が、青少年の団体研修施設として設置しているY県青年の家に、平成○年に1泊し、宿泊室・研究室を利用して、年次研究集会を行った。当日は団体の他に少年サッカークラブ、女性合唱団、青年キリスト教団体が利用していた。

 同施設では、宿泊に先行して、当日の夜に宿泊する団体のリーダー会議を施設職員臨席で行うこととされていた。その場で、Xのリーダーが、Xは同性愛者の人権を考える団体であると紹介したところ、例えば青年キリスト教団体のリーダーが旧約聖書レビ記2013節の文章(キリスト教で同性愛行為を禁忌とする根拠)を引用し、同性愛を認めないとする主張をするなど、他団体は強い反発を示し、その夜の施設利用に際しては、Xと他団体との間に様々な問題が生じた。

 Xは、その翌年度においても、同じ時期に、同一施設に宿泊研修の申し込みを行った。これに対し、施設側では、前年度における経験から、Xの利用を認めれば、再び同日に宿泊する他団体との間に軋轢が生じ、施設運営に問題が発生すると考え、「青少年の健全な育成に悪い影響を与える者である」という理由から、利用を拒否した。そこで、Xは施設設置者であるY県教育委員会に対し不服申し立てをした。これに対し、Y県教育委員会では、Y県青年の家利用条例81号「秩序をみだすおそれがあると認めたとき」、2号「管理上支障があると認めたとき」に当たるとして不許可処分を承認する裁決を下した。ここに秩序を乱すとは、具体的には、同施設が、文章にはしていないが、一貫して採用している「男女別室ルール」に、同性愛者同士が宿泊すれば抵触することになるとした。

 そこで、Xは、合理的根拠のない差別であるとして、利用不許可処分の取り消しをもとめて訴えを提起した。

 Xの主張の、憲法上の当否について論じなさい。 

 
11月21日(24)

 平成11年に住民基本台帳法が改正され、いわゆる住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)が導入された。これは、各地方自治体が管理する住民基本台帳を電子化し、コンピュータネットワークを介して共有するシステムである。すなわち、すべての国民の住民票に11桁のコード番号をつけて一元的に管理することにより、行政サービスの合理化の推進や住民サービスの向上がはかられるとされている。また、氏名・性別・生年月日・住所という「4情報」と住民票コードにより、全国共通の本人確認が可能となるものである。

 AY市に居住するXは、最高裁平成15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁により、憲法13条が自己情報コントロール権を保障していることは、判例上確立しているところ、本人の同意なくしてY市が住基ネットに個人情報を蓄積し、一定の条件の下に他に開示することにより、この自己情報コントロール権が侵害されているとして、Yに対し、住基ネットの運用の差止め及び上記権利侵害によって被った精神的損害の賠償を求める訴えを提起した。

 これに対し、Yは、住基ネットによって管理、利用等される本人確認情報は、上記4情報に、住民票コード及び変更情報を加えたものにすぎず、このうち4情報は、人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり、変更情報も、転入、転出等の異動事由、異動年月日及び異動前の本人確認情報にとどまるもので、これらはいずれも、個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえないので、本人の同意を得ずに蓄積し、あるいは法律の定める一定の場合に他に開示しても、権利侵害は発生していないと反論した。

 自己情報コントロール権に関するXの主張及びYの反論に関し、憲法上の問題点を指摘し、論ぜよ。

 
 
11月14日(23)  

 日本国の国家公務員もしくは地方公務員となるにあたり、「当然の法理」というものが存在している。

1953年に、内閣法制局が明らかにしたもので「法の明文規定が存在するわけではないが、公務員に関する当然の法理として、公権力の行使または国家意思の形成への参画にたずさわる公務員になるためには日本国籍を必要と解すべきである。」とされている。

 Y県では、従来はすべての公務員について、日本国籍を必要としてきたが、

1990年に職務内容を検討した。その結果、同県の職員採用試験のうち、事務職等は「公権力の行使または国家意思の形成への参画にたずさわる公務員」に該当するとして国籍条項を維持した。それに対し、心理職、福祉職及び看護師についてはその条件に該当しないとして、日本国籍を有しない者にも受験資格を認めることとし、今日に至っている。

 某国籍を有するXは、日本国籍を有する者の配偶者として

1990年に日本に入国し、Y県に定住して今日に至っている。Y県福祉職は、社会福祉士、介護福祉士、保育士、児童指導員、児童自立支援専門員のいずれかの資格を保有していることが受験資格とされていることから、Xは、1994年に社会福祉士の資格を取得した上で、Y県の福祉職を1995年に受験したところ、合格し、19964月付けで採用されて、Y県福祉保険局に勤務してきた。

 

20063月に、Xは、Y県管理職試験を受験するのに必要な勤続10年となった。職場の上司は、Xが極めて優秀で、管理職にふさわしいとして、受験を勧めた。それを受けてXは管理職試験受験願書を提出した。

 しかし、Y県では、管理職に関しては、いずれの職種で採用したかに関係なく、一体的に任用・配置転換を行う方針であり、したがって国籍条項を維持すると決定していたため、Xが、国籍以外の受験資格はすべて備えていたにも拘わらず、受験願書の受理そのものを拒否した。

そこでXは、「当然の法理」という漠然とした曖昧な行政見解で、日本国籍を有していないからというだけで労働条件が異なり、管理職になりたい又はなりたくないという意思表示すらできないということは差別であり、許されることではないとして、提訴した。

 

Xの主張における憲法上の論点を指摘し、論ぜよ。
 
11月7日(22)  ゼミナール説明会のため、休講  
10月24日(21)  

X1と妻X2は現在、夫婦である。

X2は平成○○年4月1日に前の夫Aとの離婚が成立し、届け出がなされた。

X1X2は同年7月1日に婚姻の届出をしたが、女性の前婚解消後6ヶ月以内の再婚禁止を規定した民法733条に違反するとして、その届出は受理されなかった。そのため、X1X2は、その禁止期間が経過した同年101日に、ようやく婚姻することができた。

そこで、Xは、民法733条は憲法および国際法(人権B規約および女子差別撤廃条約)に違反しており、それにもかかわらず、国会または内閣が民法733条を改正または廃止する立法または提案をしないことが、国家賠償法1条の違法な公権力の行使に当たるとして、国(Y)を相手取って、その再婚を禁止されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料を求め、損害賠償の訴えを提起した。

この事案における、憲法上の問題点を指摘し、論ぜよ。

 
10月17日(20)  

 Xは、自らの経営する店舗で、ある商品の販売を行うことを計画したが、それには、法律の定めるところにより、都道府県知事の許可を得る必要があった。そこで店舗の所在するA県の知事であるYに許可を申請した。しかし、同一商品を取り扱っている近隣店舗との距離が、A県条例で定める配置基準に満たないとして、不許可処分が下された。

 そこでXは、許可制を定める法律及びそれに基づくA県条例が、憲法22条に違反しているとして、不許可処分の取り消しを求めて提訴した。しかし、第1審裁判所は「本件規定は、その立法理由に合理的な根拠があり、かつ、その区別が右立法理由との関連で著しく不合理なものでなく、いまだ立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていない」という理由で合憲としたため、Xは敗訴した。Xは、勝訴の見込みがないと考え、控訴を断念したので、判決はそのまま確定した。

 しかし後日、原告Bが、C県で、同一の法律及びそれに基づく同種のC県条例の合憲性を争った結果、その法律及び条例が違憲である旨の最高裁判所判決が下された。

 弁護士からの連絡でこれを知ったXは、民事訴訟法33818号にいう再審事由に該当するとして、直ちに先に確定した判決につき、再審請求を行った。これに対し、Yは、次のように主張した。

「わが国の憲法訴訟は、付随的違憲審査制を採用していると考えるべきである。したがって、違憲判決の効力は、通常の判決の効力と同様に、個別的効力にとどまる。その場合、判決が後の裁判に影響を与えるのは判決主文中の判断につき、同一当事者である場合に限られる。ところが、違憲判断は判決理由中に述べられているだけで、主文には述べられておらず、また、Xは違憲判決が出た訴訟の当事者ではない。したがって、民事訴訟法33818号を適用ないし類推適用する余地はないので、Xの再審請求は却下されるべきである。」

 Yの主張する主張の憲法の当否について論ぜよ。

 

参照条文 民事訴訟法338

  次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。

 判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。 

 
10月10日(19)  

 Y県では、昭和○年に「ため池の保全に関する条例」を制定した。同県は、他県と異なり、これという河川がないため、農業用水はもっぱらため池に頼っている。このため県下には合計13,000に上るため池があるが、これらため池は、田畑に灌漑用水を流下させる目的から、一般に高所に設けられているため、その提塘が破損、決壊した場合には、その災害が単に所有者にとどまらず、一般住民および滞在者の生命、財産にまで多大の損傷を及ぼすものであることにかんがみ、その破損・決壊を防止する目的で制定されたものである。

 Y県A村のため池B池は、A村在住の農民の総有に属しており、その提塘も代々耕作の対象となっていた。しかし、同条例の施行により、B池提塘での耕作が禁じられることになった。しかし、A村の農民であるX等は、条例施行後も引き続き農作物をB池の提塘に植えていたため、同条例4条二号違反で起訴された。

 これに対し、X等は、憲法292項により、財産権の制限は法律で行う必要があるところ、本件条例は財産権の使用を制限するものであるから違憲・無効である。また憲法292項が財産権の法定を規定したのは地方によって財産権の内容が異なってしまうような事態を防ぐものであって、その趣旨からも条例によって財産権が制限されるのは妥当でない、として無罪を主張した。

 X等の主張の憲法上の当否について論ぜよ。

資料

ため池の保全に関する条例

昭和○年○月○日

Y県条例第38号

第一条(目的)  この条例は、ため池の破損、決壊等による災害を未然に防止するため、ため池の管理に関し必要な事項を定めることを目的とする。

第二条(用語の意義)  この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一  ため池 灌漑の用に供する貯水池であつて、堰堤の高さが3m以上のもの又は受益農地面積が1ヘクタール以上のものをいう。

二  管理者 ため池の管理について権原を有する者をいう。ただし、ため池の管理について権原を有する者が二人以上あるときは、その代表者をいう。

第三条(適用除外)  この条例中第五条から第八条までの規定は、国又は地方公共団体が管理するため池については、適用しない。

第四条(禁止行為等)  何人も、次の各号に掲げる行為をしてはならない。ただし、第二号に掲げる行為のうち、知事がため池の保全上支障を及ぼすおそれがなく、かつ、環境の保全その他公共の福祉の増進に資すると認めて許可したものは、この限りでない。

一  ため池の余水吐の溢流水の流去に障害となる行為

二  ため池の提塘に竹木若しくは農作物を植え、又は建物その他の工作物(ため池の保全上必要な工作物を除く。)を設置する行為

三  前二号に掲げるもののほか、ため池の破損又は決壊の原因となる行為

第五条〜第八条  略

第九条(罰則)  第四条の規定に違反した者は、二十万円以下の罰金に処する。

 
10月3日(18)  

Xは知人Aの家で行われたパーティに出席したところ、泥酔してしまい、Aの家に置いてあった壷に嘔吐をした。

しかし、その壷は数十万するもので、大事にしていたAは激怒し、Xを刑法261条にあたるところの器物損壊罪として告訴し、起訴された。本件を担当した裁判官Yはこれを受けて、器物損壊の有罪判決を下した。

これに対し、Xは、控訴して、次のように主張した。

「割ってしまったわけではなく、汚れただけであって、洗えば完全にきれいになる。食器に放尿した場合には、それを知る者は使用に耐えないから器物損壊になるかもしれないが、本件は観賞用の壺なのであるから、社会常識的には問題はない。憲法763項にいう裁判官の良心とは、当該裁判官の主観的良心ではなく、客観的良心を意味するはずである。しかるに、Yが自らの主観的良心に照らして損壊の概念を拡張しているのは憲法違反である。」

Xの主張の憲法上の当否について論ぜよ。

 
9月26日(17)  

 企業Aは、その保有する営業秘密を不正に取得し、使用しようとするBに対し、不正行為の差し止めを求めた民事訴訟において、傍聴を禁止することを、当審理担当の民事部裁判官Cに対して求めた。これに対し、Cは傍聴の禁止は裁判の公開原則に触れるとして認めなかった。しかし、同時にCは、審理においてメモをとることを認めると、営業秘密が公に知られる恐れがあるという理由で、傍聴人がメモを取ることを禁止した。

そこで傍聴人Xは、このメモをとることの禁止が、憲法21条及び市民的及び政治的権利に関する国際規約19条、憲法82条に違反するとして、国Yに対して、国家賠償法11項に基づく損害の賠償を求めた。

裁判所の措置について、裁判公開の原則との関係で生ずる憲法上の問題を挙げて論ぜよ。

 
9月19日(16)  

20xx年某月、首相YからA法案が提出された。この法案はその内容の当否を巡り、大変議論を呼び、与党からも反対票を投じるものが続出する中で、辛うじて衆議院を通過した。

参議院では、与野党の議席差が少ないところから、与党から若干の反対投票者が出るだけで、容易に否決という事態になることが予想された。  

それを食い止める目的から、参議院本会議での決議まで数日というところで、首相Yは「A法案に対する参議院での可決を内閣に対する信任とみなす」と宣言した。しかし、それでも与党議員の造反を防止できず、参議院ではA法案が否決された。そこで、Yは、その事前の宣言通り衆議院を解散した。

これに対し、衆議院議員であったXは、第一にA法案否決を、内閣不信任決議と読むことはできないこと、第二に、仮にその否決を参議院で行った内閣不信任決議である問責決議と捉えることが許されるとしても、問責決議による衆議院の解散は、憲法の条文上どこにも記されておらず認められないこと、から解散は無効であるとして、衆議院議員の地位の確認と歳費の支給を求めて訴えを提起した。

この事案における憲法上の問題点について論ぜよ。

 
夏休みの合宿(日〜日)
(15)  

第2問

 A社航空機部営業部長Xは、米国のB航空機製造会社が製造するジェット戦闘機の防衛庁に対する売込みに参画し、政界工作の一環として、政府与党の有力者であるC代議士に対して5億円の謝礼を支払っていた。このほか、一連の政界工作等のための資金の支出を、部下に指示するために、Xはメモを作成した。

 これが事件の数年後に部外に流出し、Xメモとして週間誌等に取り上げられるに至った。

 このため、検察庁では、政界に対する贈収賄事件として捜査するとともに、一連の秘密工作のための資金が、米国から外国為替及び外国貿易法違反の手段でわが国に持ち込まれたのではないか、との視点からの捜査も行っていた。

 他方、参議院予算委員会は政界工作問題に着目し、平成○○年度予算審議の一環としてXを喚問した。Xは、証人として法律により宣誓のうえ証言したが、自らが作成していたものであることを承知していたにも関わらず、「巷間出回つているXメモについては一切関知していない」旨の虚偽の陳述をしたことが、議院証言法違反に問われた。

 これに対し、Xは、次の理由から無罪と主張した。

(一) 憲法第62条所定の国政調査権は、議院等に与えられた独立の権能ではなく、議会又は議院の憲法上の諸権能を有効適切に遂行するために必要な派生的、補助的権能であると解するべきであるところ、予算委員会の所管事項は「予算」のみであり(参議院規則第74条第13号)、Xに対する証人尋問も、平成○○年度予算に関し、外国航空機(具体的にはD航空機製造会社製造の対潜哨戒機)購入予算問題につきXから証言を求めようとしたものであるにもかかわらず、起訴された偽証事実に関する尋問は、いずれもこれとは何らの関わりもない数年前に購入決定されていB社製のジェット戦闘機、及び一連の政界工作の原資になったとされるE航空機製造会社製の民間機の売り込みにあたってE社から得た仲介手数料に関する、いわゆる「Xメモ」に関する事項であり、○○年度予算の審議と無関係の査問的尋問と言うほかなく、その必要性・重要性・不可欠性の観点から国政調査権の範囲を越えている。

(二)検察庁における捜査が進行中の被疑事実と同一又はこれと密接に関連する事項に亘るものであつて、違法である。

(三)供述拒否権の行使が事実上不可能な状況の下において同被告人に対し自己が刑事訴追を受けるおそれのある事項につき自白の強要するにひとしく、憲法第38条第1項等に違反する

 Xの主張の憲法上の当否について論じなさい。 

 
(14)  

 平成○○年31日、検察官Aは、衆議院議員Xが、B社から現金の供与を得、衆議院C常任委員会の委員長としての権限を濫用して同社の便宜を図った疑いで、東京地方裁判所に逮捕状の交付を請求した。

 東京地方裁判所では、逮捕状発付相当と判断し、国会開会中であるところから、内閣に逮捕許諾請求書を提出した。内閣では、臨時閣議を開催して検討した結果、請求は相当と判断し、その旨の閣議決定を下し、衆議院に許諾を求めた。そこで衆議院では、議院運営委員会で審査した上で、本会議にかけた。そうしたところ、なるほどXの犯罪の容疑は濃厚であり、逮捕はやむを得ないが、他方、XC委員会委員長として欠くべからざる人物であり、C委員会では近い将来に重要な法案が審議される予定であることから、逮捕は1週間を限って認めるのが妥当という意見が出、1週間の期限付きで逮捕許諾の決議がなされた。

 これに対し、東京地方裁判所は、「逮捕を許諾しながらその期間を制限するが如きは逮捕許諾権の本質を無視した不法の措置」として決議のうち、期限付きの部分の効力を否定し、期限制限に言及していない逮捕状をAに交付した。

 これに対し、Xは、憲法に違反した違法な逮捕であるとして争った。

 この事例における憲法の問題点を論ぜよ。

 
 
7月11日(13)

 平成○○年8月に、国家公務員の給与を4月にさかのぼって引き上げることを勧告する人事院勧告が出された。政府は、多年にわたり人事院勧告を完全実施してきたが、その前年の人事院勧告については、財政状態の逼迫を理由に不完全実施としていた。そして、この年は、財政状態がさらに逼迫したことを理由に、不実施(凍結)とする旨の閣議決定を行った。

 そこで、Y省に属する一般職公務員で組織するA職員団体は人事院勧告の凍結に抗議し、その完全実施等を求めて、Y本省で勤務時間内に1時間のストライキを行った。

 これに対してY省はストライキに参加したA職員団体の役員であるXらを停職等の懲戒処分に付した。そこで、Xらは、その取消しを求めて訴えを提起した。

 本問の憲法上に含まれる問題を指摘し、それに関する組合側の請求の当否について論ぜよ。

 
7月4日(12)

Z県の県立A高校は新入生の選抜方式として、学力検査のための試験の成績と、それらの他に受験生本人の心身の状態も重視し、その記録と併せて総合的に合否判定を決定する方式をとっていた。このA高校を、進行性デュシェンヌ型筋ジストロフィー症を持ったXが受験した。Xの結果は学力試験の成績については、合格基準を大きく上回る好成績であった。しかし、Xは小学校5年生に進級するころから常に車椅子を必要とする状況になり、中学校3年間でさらに病状が進行して、受験時には腕を挙げることができなくなり、背柱の弯曲が顕著になり、同一姿勢の保持が困難になったほか、少し筆圧が弱くなったが、頁をめくる、読む、書く等の動作には全く支障がなく、書いた文字も全て判読できる状況であった。しかし、Xの症状が現在よりさらに悪化することは確実であるが、その場合、A高校には適切な介護ができる施設、職員がいないこと等諸般の事情から、A高校の全過程を無事履修する見通しがないと判断し、A高校校長YXに対し入学不許可処分を下した。

 Xは、この処分は身体的障害を唯一の理由とするもので、憲法26条1項及び教育基本法42項に違反するとして、Yにその取消しを求めると共に、国家賠償法1条1項に基づいて、Z県に対し、入学不許可処分を受けたことによりXが被った精神的損害に対する慰謝料の支払いを求めた。

 上記訴訟における憲法上の問題点について論ぜよ。

 
6月27日(11)  

 Xは、国民年金法施行令別表の11号(両眼の視力の和が0.04以下のもの)に該当する視力障害者で、同法に基づく障害基礎年金を受給している。Xは内縁の夫Aとの間に男子Bがある。XAと離別後独力でBを養育してきた。しかし、児童扶養手当法に基づく児童扶養手当制度を知ったことから、居住するC県知事Yに、その受給資格について認定の請求をしたところ、Yは、請求を却下する旨の処分をした。さらに、XYに異議申し立てをしたのに対し、Yは右異議申立てを棄却する旨の決定をした。その決定の理由は、Xが障害基礎年金を受給しているので、児童扶養手当法43項二号に該当し受給資格を欠くというものであつた。

 そこで、Xは処分の取り消しを求めて、Yを相手に訴えを提起した。

 この訴訟における憲法上の論点を指摘し、論ぜよ。

 

参照条文

児童扶養手当法

4  都道府県知事、市長(特別区の区長を含む。以下同じ。)及び福祉事務所(社会福祉法 (昭和二十六年法律第四十五号)に定める福祉に関する事務所をいう。以下同じ。)を管理する町村長(以下「都道府県知事等」という。)は、次の各号のいずれかに該当する児童の母がその児童を監護するとき、又は母がないか若しくは母が監護をしない場合において、当該児童の母以外の者がその児童を養育する(その児童と同居して、これを監護し、かつ、その生計を維持することをいう。以下同じ。)ときは、その母又はその養育者に対し、児童扶養手当(以下「手当」という。)を支給する。

 父母が婚姻を解消した児童

 父が死亡した児童

 父が政令で定める程度の障害の状態にある児童

 父の生死が明らかでない児童

 その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの

2 略

3 第1項の規定にかかわらず、手当は、母に対する手当にあつては当該母が、養育者に対する手当にあつては当該養育者が、次の各号のいずれかに該当するときは、支給しない。

 日本国内に住所を有しないとき。

 国民年金法等の一部を改正する法律(昭和六十年法律第三十四号)附則第32条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法第1 による改正前の国民年金法に基づく老齢福祉年金以外の公的年金給付を受けることができるとき。ただし、その全額につきその支給が停止されているときを除く。

 
6月20日(10)  

Xは、和菓子の製造・販売業を営んでいるが、Xの住所地を管轄するA税務署に、平成XX315日に当該年度の所得額に関する確定申告書を提出した。

 A税務署職員Bは、同年316日に所得税法234条に基づく調査のため、事前に通知することなく、Xの営業時間中に、Xを訪れ、XXの申告書の内容に疑問があるとして、帳簿書類及び工場内を見せる事を求めた。これに対し、Xは、現在営業時間中であり、顧客への対応のため、Bの要求に応える余裕がないこと、漠然と帳簿とか工場といわれても困るので、どのような書類が見たいのか、また工場内のどのような箇所が見たいのか、予めを通知してくれなければ、対応のしようがない旨を述べて、Bの調査を断った。その翌日も、Bは予め通知することなく、他の数名の職員とともに、Xを訪れて同様の要求を行った。Xは、これに対し、Bがこのように連日押しかけてきて店頭で騒ぐのは営業妨害であるとして、断固として調査を拒否した。

 このため、Xは、所得税法2429号に基づき、調査拒否罪に問われ、起訴された。これに対して、Xは、所得税法234条は憲法31条に違反して無効である事、仮に同条が合憲であるとしても、Bが行おうとした営業妨害となるような曖昧な目的による調査に適用するのは違憲である旨主張して争っている。

 Xの主張の憲法上の問題点について述べよ。

 

参照条文 所得税法

234条   国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、所得税に関する調査について必要があるときは、次に掲げる者に質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類(その作成又は保存に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。次条第2項及び第242条第十号(罰則)において同じ。)その他の物件を検査することができる。

 納税義務がある者、納税義務があると認められる者又は第123条第1項(確定損失申告)、第125条第3項(年の中途で死亡した場合の確定申告)若しくは第127条第3項(年の中途で出国をする場合の確定申告)(これらの規定を第166条(非居住者に対する準用)において準用する場合を含む。)の規定による申告書を提出した者(二号以下略)

 前項の規定による質問又は検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

 

242条  次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。ただし、第三号の規定に該当する者が同号に規定する所得税について第240条(源泉徴収に係る所得税を納付しない罪)の規定に該当するに至つたときは、同条の例による。

九 第234条第1項(当該職員の質問検査権)の規定による当該職員の質問に対して答弁せず若しくは偽りの答弁をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ若しくは忌避した者

 
6月13日(9)

 高校教師

X(25才)は、その教え子であった少女Aが当時17才であることを承知の上で恋愛関係に入り、将来を誓う中になった。そして、ホテルBなどで数回にわたって性交渉を持った。その結果、X及びAの居住するC県青少年保護育成条例(以下「条例」という)31条に違反したとして、逮捕され、起訴された。そして、条例38条により罰金5万円を求刑された。

 

Xは、刑罰を科する場合には憲法31条の定める罪刑法定主義の下にあるところ、条例31条にいう「淫行」という語は、青少年に対するすべての性行為と考える時には過度に広汎で無効であり、それより狭く解するとすれば内容が不明確であり、明確性の法理に照らし合憲限定解釈をとることは禁じられることから無効であり、したがって無罪であると主張した。

 

Xの主張に関する憲法上の問題について論ぜよ。

参照条文 

C県青少年保護育成条例

2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 一 青少年 

18歳未満の者(他の法令により成年者と同一の能力を有するとされる者を除く。)をいう。

311項 何人も、青少年に対し、いん行又はわいせつな行為をしてはならない。

38条 次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

 一 第

31条第1項の規定に違反した者
 
6月6日(8)

 XとYは、実の兄弟であるが、その父Zから、生前に合計

100万平方メートルの山林(以下「本件山林」という)を、それぞれ2分の1ずつの持ち分で共有財産として贈与を受け、共同して森林経営を開始した。しかし、Zの死後、XY両者の森林経営の理念が大きく食い違うにもかかわらず、調停するZを欠いたため、本件山林の共同経営が実質的に不可能となり、下刈り・間伐・枝打ち等が全くなされずに草ぼうぼうの状態で放置されている状況にあった。

 Xは、この状況を打開するため、本件山林を現物分割の方法で分割したいと考えたが、X・Y間には著しい感情的対立があり、信頼関係が失われているため、到底分割の協議が成立する見込みがなかった。そこで、Xは、本件山林を現物分割の方法で分割されるように、民法

258条に基づき裁判所に訴えを提起した。これに対して、Yはこの訴訟の時点における森林法186条の定めるところにより、2分の1の持ち分しかないXから、共有林の分割を求めることはできないと反論した。

 第

1審裁判所は、森林法186条の規定は、森林経営の零細化防止という国家の政策的視点から共有森林の分割請求を禁止したのであり、共有者間の信頼関係の破壊といつた私人間の私的関係から、公益規定である同法条の適用がなくなるものと解することは、公益規定である同法条の解釈論としては無理であると認定した上で、森林法186条が本件山林にも適用があり、Xの請求は法律上許されないと判決し、第2審裁判所もこれを支持した。そこで、Xは、森林法186条は、憲法29条に違反するとして上告した。

 Xの主張の当否について論ぜよ。

 
5月30日(7)

 読売新聞や

NHK等日本の報道機関では、199710月、米国の健康食品会社Xの日本法人が日米税務当局の税務調査を受け、約77億円の法人所得を隠していたことが判ったなどと報じた。これに対して、Xは「米政府が日本の国税当局に提供した税務情報が報道機関に伝わった」と主張し、米政府に、報道で名誉を傷つけられ株価も下落したとして損害賠償を求め、米国で提訴した。そして、Xの求めで20057月、米国地方裁判所は、日米の司法共助に基づく「嘱託証人尋問」をわが国裁判所に求め、これに基づいて、日本の報道機関9社の幹部や記者に取材源の開示が東京地方裁判所により求められた。

 これに対し、その最初の証人尋問で、新聞記者

Yが取材源に関する証言を拒絶したことから、その当否が争われた。その裁判で、東京地裁は2006314日、大半について記者の証言拒否には理由がないとする決定を出した。仮にこの決定が確定し、なお記者が証言を拒絶した場合、罰金や拘留などが科せられる。

 決定理由で

F裁判官は「新聞記者の取材源は民事訴訟法が証言拒否を認める職業の秘密に当たる」とし「憲法で保障された報道の自由に生じる悪影響を考慮し、なお開示を求める特別な事情がある場合にのみ、証言を求めることができる」と一般論を示した。

 その上で「日本の政府職員が取材源だったか」などとする質問への拒絶を取り上げ「取材源が、守秘義務の課せられた国税庁職員である場合、その職員は法令に違反して記者に情報を漏らしたと疑われる」と指摘し、「取材源について証言拒否を認めることは、間接的に犯罪行為の隠ぺいに加担するに等しく、到底許されない。取材への悪影響は法的保護に値せず、記者の証言拒否は理由がない」と述べた。さらに、取材源自身が開示に同意している場合も秘匿は認められないと判断。それ以外の取材源に関する質問については拒絶は理由があると結論づけた。

 この決定における憲法学上の論点を指摘し、論ぜよ。

5月23日(6)

 参議院における

1票の格差が拡大していたことから、国会は平成12年に公職選挙法の一部を改正する法律(平成12年法律118号)で定数是正を行った。この改正は、中央省庁の改革や国家公務員の定員削減等が行われている状況において,行政を監視すべき地位にある立法機関である参議院においても定数を削減して事務の効率化等を図る必要があるとの声が高まったのを受けて,参議院議員の総定数を10人削減して242人とした。定数削減に当たっては,改正前の選挙区選出議員と比例代表選出議員の定数比をできる限り維持する方針の下に,選挙区選出議員の定数を6人削減して146人とし,比例代表選出議員の定数を4人削減して96人とした上,選挙区選出議員の定数削減については,直近の平成710月実施の国勢調査結果に基づき,平成6年改正の後に生じたいわゆる逆転現象を解消するとともに,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数又は人口の較差の拡大を防止するために,定数4人の選挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減した。本件改正の結果,いわゆる逆転現象は消滅したが,上記国政調査結果による人口に基づく選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差は14.79であって,本件改正前とほとんど変わらなかった。また,改正後、本件選挙実施までの間に生じた人口移動の結果、本件選挙当時における選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1506に達し、改正前よりも悪化していた。

 そこで、東京都選挙区の選挙人である

Xは、改正後の公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定は憲法141項等に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記選挙区における選挙も無効であると主張して、選挙無効訴訟を提起した。

 この事例における議員定数に関する憲法学上の論点を指摘し、論ぜよ。ただし、論ずるに当たっては、次の事実を考慮せよ。

 仮に本件改正後の定数を前提とし、選挙区を都道府県と一致させ、かつ、参議院における半数改選制を考慮して各選挙区に偶数の議席を配分するという前提の下で、平成

7年の国勢調査結果による人口に基づき本件改正当時の各選挙区の人口に比例した議員定数の再配分を機械的に実施すると、選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は14.81となり、平成12年改正法に基づく当初の最大較差よりもかえって拡大する結果となる。そして、今、仮に格差を減少する手段として、偶数配分を前提とせずに、上記国勢調査結果による人口に基づき本件改正当時の各選挙区の人口に比例した議員定数の再配分を行うとすると、47選挙区のうち15選挙区が定数1人の選挙区となる。すなわち、これらの選挙区では、6年に1度しか参議院(選挙区選出)議員の選挙が行われないことになる。
5月16日(5)

 絶対平和主義を教義とするA教の信者である

Xは、平成○○年にB県立C高等学校に入学した。B県においては、高校に関し学区制がとられているため、Xとして、県立高校に進学を希望する場合には、C校に進学する他はない。

 

C校においては学年制が採られており、生徒は各学年の修了の認定があって初めて上級学年に進級することができる。同校の学業成績評価及び進級並びに卒業の認定に関する規程(以下「進級等規程」という。)によれば、進級の認定を受けるためには、修得しなければならない科目全部について不認定のないことが必要である。そして、ある科目の学業成績が100点法で評価して60点未満であれば、その科目は不認定となる。また、進級等規程によれば、休学による場合のほか、生徒は連続して2回原級にとどまることはできず、B県立高等学校学則及び退学に関する内規(以下「退学内規」という。)では、校長は、連続して2回進級することができなかった学生に対し、退学を命ずることができることとされている。

 

C校では、健全なる精神は健全なる肉体に宿るという教育理念の下、保健体育が全学年の必修科目とされており、Xが入学した平成○○年から、第1学年の体育科目の授業の種目として柔道が採用された。柔道の授業は後期において履修すべきものとされた。

 

A教の教義では、単に他者に対して危害を加えることを禁じるばかりでなく、その模擬動作というべき格闘技を行うことも禁じていた。そこで、Xは、柔道の実技に参加することは自己の宗教的信条と根本的に相いれないとの信念の下に、柔道の授業が開始される前の平成○○年4月下旬、体育担当教員らに対し、宗教上の理由で柔道実技に参加することができないことを説明し、レポート提出等の代替措置を認めて欲しい旨申し入れた。申し出を受けて、C校長Yは、体育担当教員らと協議をした結果、Xに対して実技に代わる代替措置を採らないことを決めた。Xは、後期に開始された柔道の授業では、服装を替え、サーキットトレーニング、講義、準備体操には参加したが、柔道実技には参加せず、その間、道場の隅で正座をし、レポートを作成するために授業の内容を記録していた。Xは、授業の後、右記録に基づきレポートを作成して、次の授業が行われるより前の日に体育担当教員に提出しようとしたが、その受領をその都度拒否された。

 その結果、体育担当教員は、

Xの実技履修に関しては欠席扱いとし、準備体操を行った点のみを評価し、第1学年の前期にXが履修した他の体育種目の評価と総合して被上告人の体育科目を42点と評価した結果、体育に関しては不認定となった。そこで、Xに対し、柔道実技の補講を行うこととし、通知したが、Xはこれに参加しなかった。そのため、進級認定会議において、Xは進級不認定と決定されたので、Yは、Xを第2学年に進級させない旨の原級留置処分をし、被上告人及び保護者に対してこれを告知した。

 翌年度においても、

Xの態度は前年度と同様であり、学校の対応も同様であったため、Xの体育科目の評価は総合して48点とされ、実技の補講にも参加しなかったため、Xは、進級認定会議において進級不認定とされ、Yは、Xに対する再度の原級留置処分を決定した。また、同日、表彰懲戒委員会が開催され、Xについて退学の措置を採ることが相当と決定された。Yは、自主退学をXに勧奨したが、Xがこれに従わなかったため、2回連続して原級に留め置かれたことから学則に定める退学事由である「学力劣等で成業の見込みがないと認められる者」に該当するとの判断の下に、退学処分を告知した。

 これに対し、

Xは、柔道以外の体育種目については受講に特に不熱心であったという事実はなく、またXの体育以外の成績は優秀であり、授業態度も真摯なものであったので学則に該当しないとして、退学処分の取り消しを求めてYに対し訴えを提起した。

 これに対し、

Yは、高等学校の校長が生徒に対し原級留置処分又は退学処分を行うかどうかの判断は、校長の合理的な教育的裁量にゆだねられるべきものであり、Xに対し、宗教上の理由から特別扱いをすることは憲法20条の定める政教分離原則に違反し、許されないものであるから、校長の裁量は合理的なものであったと主張した。

 

Yの主張の憲法上の当否について論ぜよ。
5月9日(4)

 作家

Yは、有名人とは言えない友人Xの毅然とした生き方に感銘を受け、XYの交流を、Xについては実名を避けながら、私小説の形式で描き、Z出版社の発行する月刊の文芸誌に発表した。その小説は、質の高い文芸作品として高く評価された。

 しかし、

Xは、実名を使っていなくとも、自分を知る人が読めばその主人公がXであることが容易にわかること、小説は虚実ないまぜに自らの生活や遺伝的特質について言及しており、全体として真実らしく思わせるものになっているとして、プライバシーの侵害を主張して、Y及びZを相手どり損害賠償を求める訴えを提起した。さらにXは、Zがその小説を単行本として出版しようと計画していることを知り、その差止めを求める訴えも提起した。

 これに対し、

Yは、仮に自らの小説がXのプライバシーを侵害するとしても、その持つ高度の芸術性から、その出版を抑制することは、表現の自由の侵害として許されないと主張し、小説刊行の自由の確認を求めて反訴を提起した。

 以上の事例について、憲法上どのような問題があるかについて論ぜよ

4月25日(3) Z拘置所に未決拘留されていていたXが、同拘置所内で自費である図書を購読しようとした。しかし、Z所長のYがその内容を確認したところ、その図書は、刑務所からの集団脱走を主題とする小説であり、非常にリアリティーがある作品だったために、その図書を読むと、被収容者が脱走することを考えたりするようになり、所内の秩序を害することになる可能性が高いと判断し、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律47条1項1号に基づき、Xがその図書を読むことを認めないとする処分を下した。そこで、Xは人権の侵害であるとして、Yの下した処分の取り消しと、処分によって受けた精神的損害に対する国家賠償を求めて出訴した。

この事案における憲法上の問題点を論ぜよ。


 参照条文  刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律

第46条  受刑者が自弁の書籍等を閲覧することは、この章及び第11章の規定による場合のほか、これを禁止し、又は制限してはならない。

第47条  刑事施設の長は、受刑者が自弁の書籍等を閲覧することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、その閲覧を禁止することができる。

一  刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるとき。

二  矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき。
 
4月18日(2) 財団法人A政治協会(以下「A政治協会」という。)は,政府の与党であるA党の政治資金規正法上の政治資金団体である。

 平成○年初め,

A党から,B社等の同業企業で組織しているC協会に対し,政治献金を年額数千万円程度、実施して欲しい旨の打診があった。この打診を受けて,B社の調査部課長は,他の大手4社の担当者と協議を行い,総額を6000万円とし、Y社自身の分担額額は1331万円とする目安を取りまとめ,A党及び各社に連絡した。

 上記協議結果に基づき,

A政治協会から,B社に対し,1331万円の政治献金の要請があり,B社では,職務権限規定に遵い,代表取締役社長Yが,上記協議の経緯及び内容を踏まえた上で,同年4月25日決裁し,同月28日A政治協会に対し,1331万円の政治献金をした。

 本件政治献金について,

B社では、損益計算書上,経常費用の部の事業費に計上し,附属明細書上,「事業費の明細」中の一般管理費の1項目である物件費の一部として計上している。本件政治献金について独立した項目を立てていないから,その有無及び金額を附属明細書から知ることはできない。

 

B社の株主であるXは、Yに対し,上記政治献金額をB社に支払うこと、及びYは今後、B社の代表取締役として,政党,政党の支部,政治資金団体に対し,寄附をしてはならないことの確認を求めて訴えを提起した。

 この事案における憲法上の問題点を指摘し、論ぜよ。

4月11日(1)  平成元年以降の指導要領において、文部科学省は、「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定めている。

 これを受けて、A県教育委員会(以下Yという)では、県立学校等における入学式及び卒業式が、学習指導要領に基づき、適正に実施されるために、「都立学校等卒業式・入学式対策本部」を設置し、検討した結果、平成XXYY月に「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」を、県立高等学校等の学校長に通達した。それは次のとおりである(以下「本件通達」という)。

1 国旗の掲揚について

 入学式、卒業式等における国旗の取扱いは、次のとおりとする。

 (1) 国旗は、式典会場の舞台壇上正面に掲揚する。

 (2) 国旗とともに都旗を併せて掲揚する。この場合、国旗にあっては舞台壇上正面に向かって左、都旗にあっては右に掲揚する。

 (3) 屋外における国旗の掲揚については、掲揚塔、校門、玄関等、国旗の掲揚状況が児童・生徒、保護者その他来校者が十分認知できる場所に掲揚する。

 (4) 国旗を掲揚する時間は、式典当日の児童・生徒の始業時刻から終業時刻とする。

2 国歌の斉唱について

  入学式、卒業式等における国歌の取扱いは、次のとおりとする。

 (1) 式次第には、「国歌斉唱」と記載する。

 (2) 国歌斉唱に当たっては、式典の司会者が、「国歌斉唱」と発声し、起立を促す。

 (3) 式典会場において、教職員は、会場の指定された席で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する。

 (4) 国歌斉唱は、ピアノ伴奏等により行う。(以下略)

 学校長は,学校教育法373項(62条による準用)に基づき,教育課程の編成を含む学校の管理運営上必要な事項をつかさどるとされており、所属教職員に対し校務を分担させるとともに、校務の処理について職務命令を発することができる。

 A県立B高等学校校長Cは,本件通達に基づき,同通達発令後に行われた入学式,卒業式等の実施に際し,同校教員であるXに対し,その担任するクラス生徒に、国歌斉唱時の起立・斉唱を指導することを命じた。

しかし、Xは、これに従わず、担任のクラスに、国歌斉唱に際し、起立せず、斉唱しないよう指導を行った。その結果、国歌斉唱時にXが担任するクラス生徒は、そのほとんどが起立せず、斉唱しなかった。

このように生徒を指導したことに対し、XYより懲戒処分を受けた。

 そこで、Xは、Yを相手取り、本件通達及びそれに伴うB校長Cの職務命令は、憲法26条に違反し、教育基本法161項の不当な支配に該当するとして、通達の違憲無効の確認及び懲戒処分の取消を求めた。

この憲法上の問題を述べよ。

 

 

 

2007年度 甲斐ゼミ 活動表

 

  追い出しコンパ  
     
冬休みの合宿(30) Xは、Z県Y市の市民である。

 Y市は大都市のベットタウンとしての性格を持つ地域に所在し、新興住宅地を中心に幼い子を持つ夫婦が大量に流入してきているため、幼稚園設置に対する需要が強く存在している。そこで、Y市では子育て支援の充実のため、公立幼稚園を増設しているが、それでは不十分であることが明らかになったため、次のような施策を講じている。

1)私立幼稚園を市内に積極的に誘致するため、Z県が実施する私立学校振興助成法にもとづく私立幼稚園経常費補助事業に加えて、市独自の助成措置を講ずることとした。市内に住所を有する幼児、すなわち、Y市に住民登録をしているか、あるいは外国人登録をしている幼児を1人受け入れるごとに5000円を私立幼稚園に交付することとした。市の私立幼稚園助成要項には、私立幼稚園は、補助金の交付を受けようとするときは、所定の交付申請書に行事関係資料を添付してY市教育委員会に提出すること、幼児教育終了後は、所定の実績報告書に関係資料を添付して同委員会に提出すること、同委員会は、虚偽の申請その他不正な手段により補助金の交付を受けたと認めたときは、既に交付した補助金の全部又は一部を返還させるものとすることなどが定められている。

2)Y市内のA新興住宅地では、幼稚園に対する需要が極めて高いにも拘わらず、公立私立を問わず幼稚園が存在していないため、同地域の児童が幼稚園に通うことが不可能な状況が発生していた。そして、諸般の事情から、近い将来に公立幼稚園を新設することも困難であるところから、団地自治会が、幼稚園の代替施設として無認可で開設する幼児教室に対して、この前年から、私立幼稚園と同様の助成金を交付している。本件教室は、その規約の定めるところによれば、保護者全員をもってする、権利能力なき社団であって、総会は、全保護者で構成され、多数決の原則が行なわれ、毎年度初めと年度末に開かれ、その各クラスの幼児の保護者2名ずつと代表委員1名と職員代表3名をもって構成する運営委員会が平常業務を遂行し、その定例会が月1回開かれ、代表委員は11年交替で監査委員2名が運営委員会の業務遂行と財産状況の監査をし、各委員は年度途中で幼児が在園しなくなれば直ちに交替することになっている。

 Xは、平成XX51日に、私立幼稚園及び幼児教室への助成金の交付は憲法89条に違反するとして、地方自治法242条に従い、市監査委員に対し、前年までに支払い済みの私立幼稚園に対する助成金計400万円及び幼児教室に対する助成金計50万円の返還を求めると共に、同年予算計上額幼稚園に対する助成金計100万円及び幼児教室に対する助成金計50万円の支払防止のため、しかるべき勧告を求めて監査請求を行った。

 しかし、監査委員は、私立幼稚園及び幼児教室には公益性があるから、これら支出に不当性はなく、本件監査請求は理由がないと判断し、平成XX620日にその旨をXにあて通知し、かつ、公表した。そこで、Xは同年7月1日に、地方自治法242条の2に従い、予算執行の差し止め並びにY市長に対し交付済み助成金のY市に対する返還を求めて訴えを提起した。

 本件助成金が憲法89条に違反するものか否かについて論ぜよ。

 
     
1月11日(29)  

 平成○○年

8月に、国家公務員の給与を4月にさかのぼって引き上げることを勧告する人事院勧告が出された。政府は、多年にわたり人事院勧告を完全実施してきたが、その前年の人事院勧告については、財政状態の逼迫を理由に不完全実施としていた。そして、この年は、財政状態がさらに逼迫したことを理由に、不実施(凍結)とする旨の閣議決定を行った。

 そこで、

Y省に属する一般職公務員で組織するA職員団体は人事院勧告の凍結に抗議し、その完全実施等を求めて、Y本省で勤務時間内に1時間のストライキを行った。

これに対して

Y省はストライキに参加したA職員団体の役員であるXらを停職等の懲戒処分に付した。そこで、Xらは、その取消しを求めて訴えを提起した。

 本問の憲法上に含まれる問題を指摘し、それに関する組合側の請求の当否について論ぜよ。

  年度末休暇  
12月14日(27)

 

Xは、乗用車を運転中、前方不注意の結果、歩行者Yに接触し、負傷させた。そこで、Xは直ちにYを最寄りの病院に搬送するなどの救護措置を執った。しかし、道路交通法に定める警察官への通報をしなかったため、業務上過失傷害罪に加え、報告義務違反の罪で起訴された。

 これに対し、

Xは、721項の事故の内容の報告義務は、自己に不利益な供述を操縦者に強要するものであり、憲法381項に反すると主張した。

 この訴訟における憲法上の問題点について論ぜよ。

参照条文:

 道路交通法

721項:車両等の交通による人の死傷又は物の破損があつたときは、当該車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者は…、警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故にかかる車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。

 同

119  次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。

10

 第72条(交通事故の場合の措置)第1項後段に規定する報告をしなかつた者
 
12月8日  本年は、この日に去年に引き続き「アルカディア市ヶ谷」で、午後6時から、OB・OG総会を行います。OB・OGの皆さんは、この日の夜を、是非空けておくようにしてください。  
12月7日(26)

 

Xは、国民年金法施行令別表の11号(両眼の視力の和が0.04以下のもの)に該当する視力障害者で、同法に基づく障害基礎年金を受給している。Xは内縁の夫Aとの間に男子Bがある。XAと離別後独力でBを養育してきた。しかし、児童扶養手当法に基づく児童扶養手当制度を知ったことから、居住するC県知事Yに、その受給資格について認定の請求をしたところ、Yは、請求を却下する旨の処分をした。さらに、XYに異議申し立てをしたのに対し、Yは右異議申立てを棄却する旨の決定をした。その決定の理由は、Xが障害基礎年金を受給しているので、児童扶養手当法43項二号に該当し受給資格を欠くというものであつた。

 そこで、

Xは処分の取り消しを求めて、Yを相手に訴えを提起した。

 この訴訟における憲法上の論点を指摘し、論ぜよ。

参照条文

児童扶養手当法

4  都道府県知事、市長(特別区の区長を含む。以下同じ。)及び福祉事務所(社会福祉法 (昭和二十六年法律第四十五号)に定める福祉に関する事務所をいう。以下同じ。)を管理する町村長(以下「都道府県知事等」という。)は、次の各号のいずれかに該当する児童の母がその児童を監護するとき、又は母がないか若しくは母が監護をしない場合において、当該児童の母以外の者がその児童を養育する(その児童と同居して、これを監護し、かつ、その生計を維持することをいう。以下同じ。)ときは、その母又はその養育者に対し、児童扶養手当(以下「手当」という。)を支給する。

 父母が婚姻を解消した児童

 父が死亡した児童

 父が政令で定める程度の障害の状態にある児童

 父の生死が明らかでない児童

 その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの

2 略

3 第

1項の規定にかかわらず、手当は、母に対する手当にあつては当該母が、養育者に対する手当にあつては当該養育者が、次の各号のいずれかに該当するときは、支給しない。

 日本国内に住所を有しないとき。

 国民年金法等の一部を改正する法律(昭和六十年法律第三十四号)附則第32条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法第1 による改正前の国民年金法に基づく老齢福祉年金以外の公的年金給付を受けることができるとき。ただし、その全額につきその支給が停止されているときを除く。 
11月30日(25)

 Y等合計

100名の衆議院議員は、国会法68条の2に従い、憲法改正案を国会に提出した。改正案は、下記の通りである。

 その提案理由として、Y等は次のように述べた。

「日本国憲法は憲法制定から

60年以上の長きにわたり、まったく改正されることなく今日まできた。そのため、昨今の技術革新、ライフスタイルの変化に伴い、既存の明文規定以外の新たな人権救済や、国際情勢の変化による国としての基本方針の転換の必要性が現在、生じている。 このように、異常な長期にわたって、憲法改正の必要が認識されながら改正が行われなかったのは、日本国憲法の硬性憲法である事を示す96条が、他国と比べ、著しく厳しいことが原因と考えられる。将来さらに憲法の規定と現実社会の乖離が予想される事を踏まえれば、現行憲法の硬性度を低下させることが好ましい。」

 これに対し、同じく衆議院議員であるXとしては、この改正案は違憲であるとの観点から、反対討論を行いたい。Xの提起するべき憲法学上の論点を指摘し、それに対する自らの見解を理由を挙げて論じなさい。

11月23日 勤労感謝の日  
11月16日(24)

 

Y県では、昭和○年に「ため池の保全に関する条例」を制定した。同県は、他県と異なり、これという河川がないため、農業用水はもっぱらため池に頼っている。このため県下には合計13,000に上るため池があるが、これらため池は、田畑に灌漑用水を流下させる目的から、一般に高所に設けられているため、その提塘が破損、決壊した場合には、その災害が単に所有者にとどまらず、一般住民および滞在者の生命、財産にまで多大の損傷を及ぼすものであることにかんがみ、その破損・決壊を防止する目的で制定されたものである。

 

Y県A村のため池B池は、A村在住の農民の総有に属しており、その提塘も代々耕作の対象となっていた。しかし、同条例の施行により、B池提塘での耕作が禁じられることになった。しかし、A村の農民であるX等は、条例施行後も引き続き農作物をB池の提塘に植えていたため、同条例4条二号違反で起訴された。

 これに対し、

X等は、憲法292項により、財産権の制限は法律で行う必要があるところ、本件条例は財産権の使用を制限するものであるから違憲・無効である。また憲法29条2項が財産権の法定を規定したのは地方によって財産権の内容が異なってしまうような事態を防ぐものであって、その趣旨からも条例によって財産権が制限されるのは妥当でない、として無罪を主張した。

 

X等の主張の憲法上の当否について論ぜよ。

資料

ため池の保全に関する条例

昭和○年○月○日

Y

県条例第38号

第一条(目的) この条例は、ため池の破損、決壊等による災害を未然に防止するため、ため池の管理に関し必要な事項を定めることを目的とする。

第二条(用語の意義) この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 ため池 灌漑の用に供する貯水池であつて、堰堤の高さが

3m以上のもの又は受益農地面積が1ヘクタール以上のものをいう。

二 管理者 ため池の管理について権原を有する者をいう。ただし、ため池の管理について権原を有する者が二人以上あるときは、その代表者をいう。

第三条(適用除外) この条例中第五条から第八条までの規定は、国又は地方公共団体が管理するため池については、適用しない。

第四条(禁止行為等) 何人も、次の各号に掲げる行為をしてはならない。ただし、第二号に掲げる行為のうち、知事がため池の保全上支障を及ぼすおそれがなく、かつ、環境の保全その他公共の福祉の増進に資すると認めて許可したものは、この限りでない。

一 ため池の余水吐の溢流水の流去に障害となる行為

二 ため池の提塘に竹木若しくは農作物を植え、又は建物その他の工作物(ため池の保全上必要な工作物を除く。)を設置する行為

三 前二号に掲げるもののほか、ため池の破損又は決壊の原因となる行為

第五条〜第八条 略

第九条(罰則) 第四条の規定に違反した者は、二十万円以下の罰金に処する。

11月9日(23)  Xは、自衛隊が実弾演習をするため、その砲声に驚いて飼育する乳牛が乳を十分に出さなくなったのに腹を立て、昭和XX年12月11日午後3時20分頃、北海道千歳郡恵庭町桜森陸上自衛隊島松演習場内の東南部附近に侵入し、実弾射撃演習の目的で設けられてあつた陸上自衛隊北部方面隊第1特科団第1特科群102大隊第2中隊の加農砲計2門の射撃陣地において同中隊が射撃命令伝達等のため、同中隊射撃指揮所と戦砲隊本部に1台宛設置した野外電話機に接続して両電話機間に敷設した長さ約42m60cmの通信線をペンチを使用して数箇所で切断し、砲と射撃指揮所間の連絡を不可能に陥らせた。
 野戦砲の場合、射撃指揮所が着弾地点を直接目視により観測し、電話で野戦砲に射撃方法の修正を指示することで、はじめて訓練としての意味が生ずる。その意味で、野戦砲と射撃指揮所を繋ぐ野戦電話線は、野戦砲の不可欠の一部ということができるとして、検察側は、Xを、自衛隊法121条「自衛隊の所有し、又は使用する武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物を損壊し、又は傷害した者は、五年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。」に該当するとして起訴し、刑法上の器物損壊罪については、これが自衛隊法121条と観念的競合にあたることから、起訴しなかった。
 Xは、これに対して、自衛隊法121条を含む自衛隊法全般ないし自衛隊等が憲法9条に違反し、したがって自衛隊法違反という点に関しては無罪である旨を主張した。
 それに対し、裁判所は、次のように述べた。
「一般に、刑罰法規は、その構成要件の定め方において、できるかぎり、抽象的・多義的な表現を避け、その解釈、運用にあたつて、判断者の主観に左右されるおそれ(とくに、濫用のおそれ)のすくない明確な表現で規定されなければならないのが罪刑法定主義にもとづく強い要請である。その意味からすると、本件罰条にいわゆる『その他の防衛の用に供する物』という文言の意義・範囲を具体的に確定するにあたつては、同条に例示的に列挙されている『武器、弾薬、航空機』が解釈上重要な指標たる意味と法的機能をもつと解するのが相当である。すなわち、およそ、防衛の用に供する物と評価しうる可能性なり余地のあるすべての物件を、損傷行為の客体にとりあげていると考えるのは、とうてい妥当を欠くというべきである。
 そして、およそ、裁判所が一定の立法なりその他の国家行為について違憲審査権を行使しうるのは、具体的な法律上の争訟の裁判においてのみであるとともに、具体的争訟の裁判に必要な限度にかぎられることはいうまでもない。このことを、本件のごとき刑事事件にそくしていうならば、当該事件の裁判の主文の判断に直接かつ絶対必要なばあいにだけ、立法その他の国家行為の憲法適否に関する審査決定をなすべきことを意味する。
 したがつて、すでに説示したように、Xの行為について、自衛隊法121条の構成要件に該当しないとの結論に達した以上、もはや、X指摘の憲法問題に関し、なんらの判断をおこなう必要がないのみならず、これをおこなうべきでもないのである。」
 この裁判所の見解の憲法上の当否について論ぜよ。
10月26日(22)

 平成81020日の衆議院議員総選挙当時において、原告Xは国外に居住しており、国内の市町村の区域内に住所を有していなかった。当時の公職選挙法の規定により、選挙権が与えられていなかった結果、当該選挙で、投票することが認められなかった。

  在外邦人に選挙権を与える必要があることは、政府としては既に認識しており、昭和59年には、衆議院議員選挙及び参議院議員選挙全般についての在外選挙制度の創設を内容とする「公職選挙法の一部を改正する法律案」を国会に提出していた。しかし、同法律案の実質的な審議は行われず、昭和61年に衆議院が解散されたことにより廃案となった。その後も本件選挙が実施された平成81020日までに、在外国民の選挙権の行使を可能にするための法律改正はされなかった。

  国会は、ようやく平成10年に公職選挙法を改正したが、当該改正では、投票日前に選挙公報を在外国民に届けるのは実際上困難であり、在外国民に候補者個人に関する情報を適性に伝達するのが困難である等の諸々の理由により、衆議院比例代表選出議員選挙及び参議院比例代表選出議員選挙の選挙権を認めるにとどまった。

  そこでXらは、「当該選挙時に、在外国民に対して選挙権を全く与えていなかったこと及び改正後においても情報手段の著しい発達がみられたにも関わらず、10年以上の長きに渡り両議院の比例代表選出議員選挙の選挙権しか与えず、これといった措置をとらずに放置したことは、国家賠償法上違法な立法の不作為がある」として、国に対し精神的損害の賠償を請求して出訴した。

  この場合、裁判所としてはどのような判断をなすべきかについて論ぜよ。

10月19日(21)

 A県知事Yは、県知事の資格において靖国神社の春の例大祭に出席し、玉串料5000円を県知事交際費から支払った。

 これに対し、A県住民であるXは、これは憲法203項並びに89条に違反するとして地方自治法242条に従い監査請求をしたが、請求後60日が過ぎても監査委員が監査を行わなかったため、地方自治法242条の2に従い、Y知事の行為の違憲性を根拠に住民訴訟を提起した。

 これに対し、Yは次のように主張した。

「警察予備隊訴訟最高裁判決(最大1952108日民集69783頁=百選第5428頁参照)は次のように述べている。

 『わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。わが裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予期して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。けだし最高裁判所は法律命令等に関し違憲審査権を有するが、この権限は司法権の範囲内において行使されるものであり、この点においては最高裁判所と下級裁判所との間に異なるところはないのである。』

 これによれば、違憲審査権は憲法76条の保障する司法権の効力として考えられるのであって、憲法81条によって、司法権とは関係なく与えられたものと考えるべきではない。そして、司法権とは

 『具体的争訟について、法を適用し、宣言することによって、これを裁定する国家の作用』(清宮四郎『憲法T』新版、有斐閣法律学全集T、昭和56年刊、330頁)

のことである。

 有効な司法権の行使が行われるためには具体的争訟性が必要であることも、上記警察予備隊訴訟の判決に明らかである。そして、具体的争訟とは、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」のことであり、これは、第一に当事者間の具体的権利義務又は法律関係の存否に関する紛争であり、第二に、法律の適用によって終局的に解決しうることをいう。

 しかるに、住民訴訟においてXについては何ら具体的な権利義務関係の問題はない。したがって、住民訴訟は、裁判所法3条前段にいう『法律上の争訟』ではなく、後段にいう『その他法律において特に定める権限』であるに過ぎない。

 すなわち、住民訴訟は憲法76条にいう司法権の行使には該当しないから、裁判所は住民訴訟においては、そもそも違憲審査を行うことはできない。」

 これに対し、Xとしては、住民訴訟においても、裁判所は違憲審査ができると主張したい。そのために必要な自らの見解を述べ、その理由を挙げなさい。

10月12日(20)

次の各事例における裁判所の処置について、「裁判公開の原則」との関係で生じる憲法上の問題点を挙げて論ぜよ。 

1)映画の上映がわいせつ図画陳列罪にあたるとして、映画制作者が起訴され、当該映画の芸術性・わいせつ性を巡って争われた刑事訴訟において、裁判所が、わいせつ物の疑いのあるものを一般傍聴人の目にさらすのは適当ではないという理由で、公判手続の傍聴を禁止した場合

2)ある企業が、その保有する営業秘密を不正に取得し使用しようとする者に対し、右不正行為の差止めを求めた民事訴訟において、裁判所が審理を公開すると営業秘密が公に知られるおそれがあるという理由で、口頭弁論の傍聴を禁止した場合

3)右の(2)の訴訟において、裁判所が、口頭弁論の傍聴は禁止しなかったものの、傍聴人がメモを取ることを禁止した場合

(平成5年度司法試験問題)

10月5日(19)

 200X年、連立与党であるA党及びB党は、衆議院では安定多数を有していたが、最近行われた通常選挙の結果、参議院では、野党側が多数を制しているため、内閣の重要法案が参議院で葬り去られる危険が高い事態となっていた。そこで、内閣総理大臣Xは、内閣改造により政権に対する支持率が上向いたチャンスに、衆議院の解散に打って出ることを決意し、連立与党であるB党に打診した。これに対し、B党党首のYは、つぎの疑問を呈して反対した。

@ 憲法上69条のみが解散権行使の根拠であり、衆議院の不信任決議が存在しない状態下での解散は違憲ではないのか。

A 憲法7条のみに基づく解散権の行使が認められるとして、この時点でそれを行使する根拠は何か。総選挙で勝てたとしても、それにより参議院で野党が多数を占めるという状況に変化がないのに、解散権を行使する意味はないのではないか。

 Xとして、Yを説得したい。憲法学上の論点に限定して、その根拠を論じなさい。

9月28日(18)

 政党A199X年の参議院議員選挙において、比例代表選出(拘束名簿式)のための候補者名簿を選挙長に提出した。Xはその名簿に第5位の候補者として記載された。選挙の結果、上位4人が当選し、名簿順位5位であるXは、次点となった。

 翌年6月に衆議院が解散されたことにともない、同年7月に衆議院議員の総選挙が行なわれることになった。A党では、同総選挙に、名簿第1位に記載されて当選していたA党首Bが、参議院議員を辞職して立候補することになった。その場合には、公職選挙法1122項に基づき、本件届出名簿における第5順位のXが繰り上げ当選することになる。

 ところが、Bは、622日、Xを同党本部に呼び出し、信頼関係がなくなったからとのみ述べて、名簿登載者たる地位の辞退を求めたが、Xはこれを拒絶した。しかし、A党は、翌23日、本件選挙の選挙長に対し、XA党から除名した旨の届出をし、本件除名届出は同月24日受理された。

 B74日公示の衆議院議員の総選挙に立候補したことに伴い、参議院議長は、75日、内閣総理大臣に対して、Bが同日公示の衆議院議員の総選挙に立候補する旨の届出をし、これにより同日参議院議員たることを辞したものとみなされ、欠員が生じたとの通知をした(国会法110条)。そこで、同日、内閣は中央選挙管理会(以下「Y」という。)に対してこの旨を通知し(公選法11112号)、Yは、本件選挙の選挙長に対し、右通知がなされた旨を通知した(同条2項)。 

 これを受けて、選挙長は、公選法1122項に従い選挙会を開き、選挙会は、A党届出名簿の登載者のうちから、第6順位のCを当選人と定め、Yは同月16日、Cの住所及び氏名を告示した。

 そこで、Xは、次のように主張して、除名は無効であり、その有効であることを前提として行われた本件当選人の決定もまた無効であるとして、Yを相手取って、選挙無効の訴えを提起した。

 すなわち、除名は、政党の党員に対する極刑処分にあたるものであるのに、本件党則にはいわゆる告知・聴聞及び不服申立ての適正手続を定めた規定が存在しない。党則に除名手続についての告知・聴聞等の適正手続の規定が明文の規定として存在しなくとも、除名手続については条理上適正手続(告知・聴聞等)は当然に要求されるべきものであるが、Xに対し、除名に関し事前に何ら告知がなく、弁明の機会も全く与えられなかったばかりでなく、不服申立ての機会も与えられなかった。また、そもそもXの除名問題を協議したとされる党紀委員会決議には重大な瑕疵があり、さらに、臨時常任幹事会も有効に成立していないうえ、右常任幹事会における決議は投票によることが必要なところ、本件除名の決議は投票による表決が行われていないのであるから、本件除名決議は不存在であるか無効というべきである。

 憲法の要請する民主制の原則から、「拘束名簿式比例代表制」のもとにおいていったん届出名簿に基づいて投票がされた後に名簿登載者の順位を変更することは認められず、除名を濫用することによって国民の政治意思が排除されることは許されない。本件除名はまさに選挙によって国民が選出した公職者を変更するためになされたものであり、公党たる政党の一部権力者による恣意的で違法な除名により、国民の審判を経た拘束式名簿の順位変更がなされるということは許されない。そのため、除名届出の受理及び当選人決定にあたっては、「当該除名の手続を記載した文書及び当該除名が適正に行われたことを代表者が誓う旨の宣誓書」を審査することが法律上義務づけられており、その審査にあたっては、選挙に際し届け出られた名簿、党則等との照合は不可欠であり、選挙長及び選挙会は、これらを照合して審査する義務を負うところ、本件選挙長及び選挙会は、本件除名届出の受理及び当選人の決定にあたって、右の審査をしておらず、本件選挙会の本件当選人決定には、右審査義務を尽くさなかった違法がある。したがって、本件除名及び本件除名届出が有効であることを前提としてされた本件当選人決定も瑕疵を帯びるものというべきである。

 したがってA党首Bが参議院議員を辞したことにともなう繰上補充としては、第5順位たるXが当選人として定められなければならないので、第6順位のCを当選人とする本件選挙会の決定は、当選人となるべき順位にない者を当選人としたものであり、無効というべきである。

  これに対し、Yは次のように主張した。

 議会制民主主義のもとにおける現代の国政において重要な役割をもつ政党の内部秩序への国家権力としての法の介入は十分慎重でなければならない。したがって、拘束名簿式比例代表制において、特にその根幹をなす名簿の作成については、各政党が全責任を持って行うべきものであり、国家権力がそれに介入することは、厳に慎むべきものである。同様に、政党が行う除名の届出についても、どの名簿登載者を除名するかは、国民に対して責任を有する政党が自己の責任においてのみ判断しうることであることは当然であり、また、除名の手続についても、具体的にどのような手続を定め、それを実践するかについては、当該手続があくまで政党の内部事項であるという点からも、その政党の内部秩序の基本としてその政党自身がその責任において決定すべきであることは明らかである。したがって、選挙長は形式的審査権のみを有し、実質的審査権を有しないのである。除名については、たとえそれが政党内部すなわち政党と当該被除名者との間においてその有効性について争いがあるとしても、また仮に、結果としてそれが無効であったとしても、国民に対して責任を有する公党である政党が自己の責任においていったん行った除名の届出が、選挙長の形式的審査の結果有効に受理されれば、その届出行為は対選挙長との関係においては適法有効なものとなるのは当然である。したがって、その後の比例代表の繰上補充のための選挙会の当選人の決定も当然適法なものとなる。 

  上記XYの主張に含まれる憲法上の論点について指摘し、論ぜよ。

9月21日(17)   A省の局長であるXとB企業の社長Cとの間で贈収賄が行われた疑いがあるとして、検察官が捜査中の事件において、XとCの妻どおしが従姉妹であるため、XC間の交際に公務員倫理法の適用がなかったことが、癒着が長期に発覚しなかった原因であったと報道された。そこで、Y議院では、この事件を契機として、公務員倫理法を改正する要があるか否かを検討する必要があるとして、事件を担当している検察官を証人喚問することとした。これは、憲法上許されるか否かを論ぜよ。
  喚問理由が、A省の内部規律の乱れを調査するという目的である場合はどうか。
  単に、事実関係を明らかにし、国民に報告するという目的である場合はどうか。
  また、Xの起訴後、裁判の最中に、同様の目的からY議院が検察官の喚問を行った場合はどうか。
9月14日(16)

 200x年、日本はA国との間で、両国の貿易関係に関する協定を締結した。内容の概略を示せば、下記の通りである。政府は、当初、これは両国間の行政協定に過ぎないと考え、国会の承認を求めることなく、この協定を発効させた。しかし、その後、第2条で関税について定めていること、全体としてA国との間の重要な問題であること、等の観点から、国会の承認を得るべき条約であるとの意見が、与野党間で高まった。そこで、政府は、事後の国会承認を求めて、衆議院に協定を提出した。衆議院では、審議の末、第2条の関税の撤廃を農業品目中の米に関してまで行うのは適切ではない、として、その点を修正することを条件に本協定を承認し、参議院もこれに倣った。

 本問における憲法上の論点を指摘し、論ぜよ。

     記

1条  協定の目的

  1)両国間の国境を越えた物品・人・サービス・資本・情報のより自由な移動を促進し、経済活動の連携を強化する

  2)貿易・投資のみならず、金融、情報通信技術、人材養成といった分野を含む包括的な二国間の経済連携を目指す

2条  物品の貿易の促進

  1)関税

     日本からA国への輸出にかかるA国の関税は全て撤廃する。

     A国から日本への輸出にかかる日本の関税は全て撤廃する。

  2)税関手続

      税関手続の簡素化、国際的調和のための協力する。

  3)貿易取引文書の電子化

      貿易取引文書の電子的処理を促進する。

3条  人の移動の促進

  1)人の移動

     商用目的の人々の入国及び滞在を双方で容易なものにする。

    技術者資格等の職業上の技能を相互に認める。

  2)人材養成

     学生・教授・公務員等の交流を促進する。

  3)観光

      双方の観光客の増大を促進する。

  4)科学技術

      研究者等の交流を促進する

4条  サービス貿易の促進

     両国間において、WTOでの約束水準を越えた自由化を行う。

夏休みの合宿(18日〜20日)
(15)

 

Xは、Y(日本弁護士連合会)傘下のA弁護士会に所属する弁護士である。Xは、B女より依頼されて、その夫Cに対して、離婚及び慰謝料請求の交渉を行おうとしたが、Cに何度会見等を申し入れても応じてこないのに腹を立て、最終通告状と題して、「貴殿の如きハレンチな奴でもこんなうす汚い事件はなるべく公にならないように処理してやろうと思って、こちらは配慮している積りである」とか、「貴殿の娘Dが貴様みたいな強欲じじいに身体を犯され子供も生めなくなったら親としてどんなに悲しい思いをするか考えても見られたい」などの文言を書き連ねた文書を送付した。

 Cからの訴えで、この事件を審査したA弁護士会懲戒委員会は、Xの行為は弁護士法

56条にいう弁護士としての「品位を失うべき非行」に該当すると認定し、Xに対し退会命令を下した。

 これに対して、Xは、Yに対し、弁護士会への強制加入制度は、結果的には会員相互間の友好関係を強制し、その結果、会員相互間の馴れ合いによる事件の解決を招きやすくするものであり、弁護士法

8条、9条、36条は、憲法22条の「職業選択の自由」に違反すると主張して訴えた。

 Xの主張の憲法上の当否について論ぜよ。

参照条文 弁護士法

  • 第8条 弁護士となるには、日本弁護士連合会に備えた弁護士名簿に登録されなければならない。

  • 第9条 弁護士となるには、入会しようとする弁護士会を経て、日本弁護士連合会に登録の請求をしなければならない。

  • 36条 弁護士名簿に登録又は登録換を受けた者は、当然、入会しようとする弁護士会の会員となり、登録換を受けた場合には、これによつて旧所属弁護士会を退会するものとする。
    56条 弁護士及び弁護士法人は、この法律又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。
    • 57条 弁護士に対する懲戒は、次の4種とする。

    • 1.戒告

    • 2.2年以内の業務の停止

    • 3.退会命令

    • 4.除名

    (14)

     次の各問の持つ憲法上の問題点について論ぜよ。

    (一) 

    Xは、平成6年にホテルを建設し、今日まで一貫して経営に当たっている。これは比較的小さなホテルであったため、平成5年に建設計画を立てた時は、エレベータは、成人4人が乗るのが限度とされる小型のもので、身体障害者は泊めない計画だったので、身体障害者が介護者に車椅子を押してもらって乗ることは不可能なものであった。しかし、平成6年にハートビル法(正式には「高齢者、障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」)が制定され、ホテルに代表される特定建築物を管理・運営している者には、身障者用の駐車場を設けたり、エレベータを車椅子で利用できるものにするなどの義務が課せられた。このため、Xは、建物の設計それ自体を見直し、エレベータを車椅子で利用可能な大型のものに変更して、着工せざるを得なくなった。このため、設計変更費用がかかった上に、工事費用も当初計画に比べて数千万円も余計にかかることとなった。

     そこで、

    Xとしては、ハートビル法のおかげで余計にかかった費用について、国に損失補償請求したい。なお、ハートビル法に補償規定はない。

    (二) 

    Yは、平成3年にホテルを建設し、今日まで一貫して経営に当たっている。これは比較的小さなホテルであったため、当初設置されたエレベータは、成人4人が乗るのが限度とされる小型のもので、身体障害者が介護者に車椅子を押してもらって乗ることは不可能であった。しかし、Yは、身体障害者は泊めないこととしていたので、エレベータが小型であることは、当時は特に問題ではなかった。

     その後、平成

    6年にハートビル法が成立したが、同法では、既にできあがっているホテルに関しては、努力義務に過ぎなかったので、Yは特段の措置を講じなかった。

     平成

    18年にいたり、バリアフリー法(正式には「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」)が制定された。これは、ハートビル法及びそれとは別に制定された交通バリアフリー法(正式には「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」)を一本化したもので、この成立と同時に、二つの旧法は廃止された。

     バリアフリー法では、身体障害者のための設備を設けることは単なる努力義務ではなく、「建築主等は、その所有し、管理し、又は占有する新築特別特定建築物を建築物移動等円滑化基準に適合するように維持しなければならない。」(

    142項)として、明確に義務化された。さらに「所管行政庁は、前条第一項から第三項までの規定に違反している事実があると認めるときは、建築主等に対し、当該違反を是正するために必要な措置をとるべきことを命ずることができる。」(151項)、「第十五条第一項の規定による命令に違反した者は、三百万円以下の罰金に処する。」(59条)として、その義務の履行確保手段までが用意されている。

     

    Yは、同法施行と同時に、所轄行政庁Zから、エレベータを車椅子でも利用可能な大きさに改造するよう行政指導を受けた。しかし、試算したところ、数千万円の支出が必要という計算になったので、指導に応じなかった。そこで、Zはバリアフリー法151項に基づき、正式に命令を発したため、Yは工事を余儀なくされた。Yとしては、このように大きな支出を余儀なくされたのであるから、損失補償を求めたい。なお、バリアフリー法には損失補償規定はない。
     
    7月13日(13)

     政党甲は、国会において多数の議席を有する与党である。甲は、近づいてきた選挙戦に向けて、議席をさらに伸ばすために、野党第一党である政党Xを批判する次のような意見広告を多数の新聞社に掲載するよう求めた。

     その内容は、「X政党は、議席さえ取れればそれでいいのか。選挙戦が近づいても甲政党に対する批判ばかりをしていて、具体的に対立案・方針を出してこない。唱えている政策は甲との相違を強調するためであって、現実的には実現不可能な主張ばかりではないか。このような政党に政権を任せていいのか。」といったものであった。

     これを載せることは、加入している日本新聞協会の新聞倫理綱領に反するとして、ほとんどの新聞社がこれを拒否した。

     しかし、Y新聞社だけは、これを事実に基づいた主張であり、公益性の高い正確・公正で責任ある言論と認め、意見広告の掲載を認めた。

     これに対して、Xは本来公平・中立を旨とするYのような報道機関が、より力の強い一方に肩入れすることはあってはならないとして、この広告を載せたYに責任を求め、問題となった広告と同じスペースの反論文を新聞紙上に載せるよう求めた。

     しかし、Yは反論文の掲載を強制されることは、紙面のスペースの面で負担を強いられることになり、また、今後の批判的記事の掲載を躊躇することにつながり、その結果間接的に表現の自由が侵害されるとして、これを拒否した。

     そこで、Xは、反論文掲載請求を求めて、Yに対して訴えを提起した。

      Xの主張する版論文掲載請求権が認められるか否かについて論ぜよ。

    7月6日(12)

     テレビ局Xでは、暴力団が賭博などかつての活動から、債権取り立てを請け負うなどの業務で、一般社会へ進出してきていることの危険性を国民に知らせるべく、ドキュメンタリー番組を企画し、その中で、暴力団による違法な債権取り立ての様子を放送するという企画をたてた。Xは暴力団からの過酷な取り立てを受けている債務者Aに協力を依頼した。暴力団からの仕返しを恐れて難色を示すAから、映像や音声に処理をして誰か判らなくした上で、放送目的のためだけに使うことを条件に承諾を得て、Aの事務室に隠しカメラを設置した。その結果、債権取り立てに当たって暴力団員某がAに暴力を振るう生々しい映像を得ることが出来たので、特別番組の中で、その映像を約束通り編集した上で放映した。警察Yでは、放映された映像をビデオ録画して暴力団員の特定を試みたが、成功しなかったため、犯人を逮捕する目的で、Xに対し、取材フィルムの提出を要請した。しかし、Xは提出を拒否した。そこで、Yは、簡易裁判所裁判官Zの発した差押許可状に基づき、X本社内において、未放送のものを含むこの事件関連のすべての取材フィルムを押収した。そこで、Xは、こうした取材フィルムの押収は、取材相手との信頼関係を損なう恐れがあり、それがひいては報道および取材の自由に重大な支障をきたすとして、押収処分の取り消しを求めて準抗告の申立てを行った。

     Xの準抗告理由における憲法上の問題点を論ぜよ。

    6月29日(11)

     JR吉祥寺駅は、次のような構造をしている。すなわち、その南口改札口をでると、駅ビル

    2階に駅前広場に相当するスペースがあり、吉祥寺ロンロンという駅ビル内の商店街、京王井の頭線との連絡通路や、井の頭公園に通じる出口であるため公園口と呼ばれる階段等と接続している。公園口を出たところには駅前広場はなく、直接に道路に接している。この道路は、かなり車の通行量が多いが、歩道はないため、そこでビラ配りや演説を行うことは不可能である。これに対し、同駅北口には駅前広場がある。

     

    Xは、吉祥寺駅南口から公園口にでる1階階段付近において、同駅係員の承諾を受けずに、自らの所属する宗教団体の集会への参加などを呼びかける目的で、ビラを配り、また携帯型の拡声器を用いて演説を行っていた。演説を聞いて来た駅係員及びその依頼により駆けつけた警察官によって、同駅構内からの退去要求が繰り返しなされたが、それを無視して同駅構内の階段附近に1時間以上にわたって滞留し続けたため、Xは、鉄道法35条違反の罪および刑法135条後段の不退去罪により逮捕され、起訴された。公判において、Xは、自らの行為に鉄道営業法等を適用するのは、憲法20条が保障する宗教活動の自由に対する侵害であり、無罪であると主張した。

     Xの主張における憲法上の問題点を論ぜよ。

    6月22日(10)  YはA県の県知事である。

     近年、Yの支持率が、A県内において下がる傾向があることから、Yは、このまま支持率の低落が続けば、次回の県知事選挙では、落選の恐れがあると考えた。そこで、支持率のテコ入れ策をいろいろ検討した。A県下には、神秘的なたたずまいを見せる湖をご神体とするB神社があり、県民の中に少なからぬ信者がいる。Y自身はまったく宗教を信じていないため、従来宗教団体に向けた活動を行っておらず、前回の選挙では、その関係の票が得られていなかったが、いま仮に、B神社の信者の票を確実に取り込むことができれば、劣勢を挽回できるという結論に達した。

     そこでYは、毎年秋に行われる同神社の最大の祭事である例大祭に際して5000円の初穂料を県知事交際費から支出して奉納し、その事実を積極的に県下にアッピールした。また、同神社の信者の反発を買うことを恐れて、他の宗教団体にはそうした支出は一切行わず、そのこともまた、積極的にアッピールした。

     そうしたところ、それまでB神社の信者ではなかったA県民の中に「知事が初穂料を奉納するほどの神社だから、さぞ霊験あらたかなのだろう」と考える者が現れた結果、B神社へお参りをすることが、県内である種のブームとなり、同年の参拝者数は例年の倍以上になった。

     これに対し、A県民であるXは、地方自治法242条に従い、A県監査委員に対し、Yの公金支出は憲法20条3項および89条に違反しているとして住民監査請求を起こした。しかし、監査委員Cは、Bは自然の湖を畏敬崇拝するだけで、何ら教義や経典を持つものではないため、そもそも宗教とは言えないこと、また、仮にBが宗教団体であるとしても、Yの意図が政治的なもので宗教目的でないこと、奉納額が5000円という少額であるため、Bの活動に対する経済効果も無視できるほど小さいこと、YはBと、初穂料を奉納したことを除けば特に関わりを持っていないことを理由として、問題はないと結論し、Xにその旨を通知した。

     そこで、Xは、同法242条の2に従い、Yに対し、今後における初穂料支出の差し止めと、既に支払った初穂料相当額の損害賠償をA県に支払うことを求めて住民訴訟を起こした。

     Xの訴えの、憲法上の問題点について論ぜよ。

    6月15日(9)  A男は、B女と法律婚をして子供Xができたが、その後別居した。遠隔地に移り住んだAは、別の女性Cと内縁関係をもつに至り、Yが出生した。Yは、その後50年以上に渡ってAと共に暮らして孝養を尽くし、扶養義務を全うした。A所有の会社の経営も、YがAと共同であたってきた。したがって、遺産もその共同生活体の営みの中で形成されてきたものである。

     Aが死亡すると、50年以上も前からAとは事実上縁を断ち、遠隔の地でB(Aより先に死亡)とのみ生活をしてきたXが、遺産分割に当たり、Yの二倍の相続分を有すると主張して 、訴訟となった。これに対し、Yは民法900条4号は憲法14条の平等原則に反し違憲であって、それを根拠としたXの主張は認められないと主張した。

    以上の事案における憲法上の問題を論ぜよ。

    6月8日(8)

     私立大学Yは、A国要人Bの講演会を学内で開催することを企画した。その出席者を自校の学生に限定する都合から、その講演会への出席を希望する学生は、各学部事務所等に用意された出席者名簿に、氏名、学籍番号、住所および電話番号を記載することを必要とするものとした。Xは、同講演会に出席することを希望したので、同名簿に所定の記入を行った。

      その後、警察、外務省、A国大使館等から、Yに対し、Bの政治的重要性に鑑み、警備体制について万全を期すよう要請があった。それを受けて、Yの職員、警察の担当者、外務省及びA国大使館の各職員の間において、数回にわたり、警備の打合せが行われた。それを受けて、Y大学で内部検討した結果、Bのような要人の警備を内部職員のみで十分に行うことは不可能と判断し、本件講演会の警備を警察にゆだねることを決定した。Yからの警備の依頼に対し、警察から、警備の都合上、本件講演会に出席する者の名簿を提出するよう要請があった。そこで、Yでは、警視庁に本件名簿を提出した。

     これに対して、Xは、Xを含む本件講演会出席申込者の氏名等が記載された本件名簿の写しを、出席申込者に無断で警視庁に提出したことが、Xのプライバシーを侵害したものであるとし、損害賠償を求めて訴えを提起した。

     この事案における、憲法上の問題点を指摘し、論ぜよ。

    6月1日(7)  Y市交通局は、市営地下鉄車内放送の自動化費用を捻出し、あわせて赤字経営の改善を図るために、車内で業務放送(案内放送)に加えて、商業宣伝放送を行った。

     なお、Y市交通局は、商業宣伝放送に対する批判を考慮して、その内容を広域的なシェアを持つ広告主による「生活情報」ではなく、広告主を駅周辺企業とする「企業案内」としていた。

     この地下鉄で通勤していたXは、乗客に商業宣伝放送の聴取を事実上強制することは、

    @ 思考・感覚等の精神活動領域の自立性を阻害する人格権侵害行為(不法行為)にあたり、

    A 旅客運送契約に含まれる快適輸送義務に反する(債務不履行)

    として、Y市を相手取り、当該商業宣伝放送の差止と慰謝料の支払を求めて出訴した。

     上記の事実における憲法上の問題点について論ぜよ。

    5月25日(6)  Xは昭和39年8月、当時アメリカ合衆国統治下にあった沖縄の繁華街で、友人数名と共に、米兵二人と殴り合いの喧嘩をした際、履いていた下駄を脱いで殴りつけたため、相手に傷害を負わせていた。その後、その喧嘩相手であった米兵一人が現場近くで死体で発見されたところから、X等が加害者と推定され、傷害致死罪で起訴された。

     米国の統治下にあったことから、事件は陪審裁判で審理された。陪審員の審議では、その一人であったYが中心となって、X等の犯行とする証拠がないことが認定され、無罪の答申が行われた。しかし、裁判所では、傷害致死事件に先行して行われた喧嘩の際に傷害を負わせたことを根拠として、傷害罪として懲役3年の実刑判決を下した。このように、極めて重い判決であったため、当時の沖縄では、傷害致死罪で有罪になったという受け止め方が一般に行われた。

     Xはその後昭和41年10月に仮出獄した後、東京で前科を秘したまま就職し、結婚もし、平穏な生活を送っていた。

     一方、Yは、この事件について、日本では極めて珍しい陪審事件であったこと、陪審が無罪答申をしたにもかかわらず、実刑判決という逆転が起こったことなどから、被告人等の名誉を救うためにも、そのありのままの事実を伝える必要があると信じ、関係者全員の実名を使用して、ノンフィクション作品を執筆、出版した。出版に当たっては、関係者全てから実名を使用することの同意を得たが、Xのみは消息不明となっていたため、実名を使用することについての同意を得られなかったが、Yは、真実をありのままに伝えることがこの作品の使命である以上、Xだけを例外にはできないと、同意を得ないままに、実名で描いた。

     この作品はノンフィクション作品として高い評価を受け、権威の高い賞を受賞した。そのことを報道しようとしたテレビ局の特集番組スタッフは、ついに東京に暮らしていたXを発見し、その旨を報道した。

     そこでXは、この作品の中で自分の実名が使用されたため前科にかかわる事実が公表されプライバシーの権利を侵害されたとして、Yに対して損害賠償請求をした。

     これに対し、Yは、本件著作はXの無実を明らかにすることを目的とするものであり、右目的を達するためには実名の使用が不可欠であるから、右実名使用はプライバシーの侵害に当たらない事、また沖縄においてはXに前科のあることは公知の事実であり、Xは著名人に当たるからプライバシーは成立しない事、本件著作は公共の利害に関する事実を公益を図る目的で公表したものであり、現実的悪意を欠く公正な論評であるから、違法性がない事などを主張して争った。

     右事例におけるYの主張の憲法上の問題点について論ぜよ。

    5月18日(5)  Yは、「穏健中正な思想」を教育の指導精神とし、保守的教育で知られる私立大学である。Yでは、その指導精神に基づき「生活要録」という名称の学生心得を定めており、その中で、学内における政治活動を禁止すると共に、外部の政治団体への加盟を禁止していた。ところが、同大学学生であるXは、生活要録の規定に反して、左翼系の過激な活動を行うことで知られる政治団体Zに加入し、また、大学構内で学友に対し、Zへの加入を求めるビラを配布した。

     そこで、YはXに対し停学1ヶ月の処分に付すると共に、Zからの脱退を求めた。これに対し、Xはマスコミに、Yの処分を憲法21条に違反するとして批判する談話を発表した。Yは、このような一連の行動は、生活要録に違反し、Y学生たるにふさわしくないとして、Xを改めて退学処分に付した。

     Xは退学処分無効及び学生身分確認の訴えを提起した。これに対し、Yは、そもそもこのような学内の処分は、司法判断になじまないと反論した。

     Yの反論における憲法上の問題点を指摘し、論ぜよ。

    5月11日(4)  XはA県B市在住の英国籍を有する者である。Xは現在55歳であるが、幼少の頃から日本に住み、永住権を有し、日本国籍を有する妻があり、文化の面では日本人である。また、XはB市の自治会活動などに積極的に参加し、自治会長に就任したこともあるなど、B市民の一員として生活してきている。ただXは自分が英国人であることに誇りを持っており、帰化することはしていなかった。

      2007年の県議会議員選挙においてXはA県内におけるB市の立場(公共事業の不十分さ)をみかねて出馬しようと、Y選挙管理委員会に立候補の届出をしたが、外国籍である事を理由に拒否された。

     これに対し、Xは、Yを相手取り、すべての市民は、いかなる差別もなく、かつ、不合理な制限なしに、一般的な平等条件の下で自国の公務に携わる権利があるはずであり、XはB市民である以上、立候補の届出を受け付けないのは、憲法14条に違反すると訴えた。

     Xの憲法上の主張の当否について論ぜよ。

    4月27日(3)   アメリカ合衆国国籍を有するXは、英語教師として就業するために日本に入国しそれ以降10年に渡り沖縄で生活してきた。在日期間中にXは普天間飛行場移設反対などのデモや集会に参加した。

    その後Xは外国への観光旅行を計画し、入国管理法26条1項の再入国許可を申請した。ところが、法務大臣Yは右のXの政治活動を理由に申請を不許可とした。

    本件に含まれる憲法上の問題点を論ぜよ。

    <参考条文 出入国管理及び難民認定法>

    26条1項

      法務大臣は、本邦に在留する外国人がその在留期間の満了の日以前に本邦に再び入国する意図をもって出入国しようとするときは、法務省令で定める手続きにより、その者の申請に基づき、再入国の許可を与えることができる。

      この場合において、法務大臣は、その申請に基づき、相当と認めるときは、当該許可を数次再入国の許可とする事ができる。

    4月20日(2)   Xは、酒税法が、無免許で酒類を製造することを刑罰を以て禁止していることを知りつつ、どぶろく作りは食文化のひとつであり、単なる趣味や嗜好ではなく、現代管理社会において人間の復権を求める「私事に関する自己決定権」の一態様であり、根本的な幸福追求の行動であるため、酒税法がどぶろく作りを規制することは立法府の裁量権を逸脱するものであり、憲法に違反しているという信念の下に、あえて自己消費目的のために、どぶろくを製造免許を申請することなく、37リットル製造した。このため酒税法54条1項に違反するとして、起訴された。

    この事例における憲法上の問題点について述べよ。

    参照条文 酒税法

    第1条 酒類には、この法律により、酒税を課する。

    第3条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

      23  雑酒 第七号から前号までに掲げる酒類以外の酒類をいう。

    第6条 酒類の製造者は、その製造場から移出した酒類につき、酒税を納める義務がある。

    第7条 酒類を製造しようとする者は、政令で定める手続により、製造しようとする酒類の品目(第三条第七号から第二十三号までに掲げる酒類の区分をいう。以下同じ。)別に、製造場ごとに、その製造場の所在地の所轄税務署長の免許(以下「製造免許」という。)を受けなければならない。ただし、酒類の製造免許を受けた者(以下「酒類製造者」という。)が、その製造免許を受けた製造場において当該酒類の原料とするため製造する酒類については、この限りでない。

    第43条 酒類に水以外の物品(当該酒類と同一の品目の酒類を除く。)を混和した場合において、混和後のものが酒類であるときは、新たに酒類を製造したものとみなす。ただし、次に掲げる場合については、この限りでない。

    11  前各項の規定は、政令で定めるところにより、酒類の消費者が自ら消費するため酒類と他の物品(酒類を除く。)との混和をする場合(前項の規定に該当する場合を除く。)については、適用しない。

    第54条  第七条第一項又は第八条の規定による製造免許を受けないで、酒類、酒母又はもろみを製造した者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

    酒税法施行令

    第50条14項 法第四十三条第十一項 に該当する混和は、次の各号に掲げる事項に該当して行われるものとする。

    一  当該混和前の酒類は、アルコール分が二十度以上のもの(酒類の製造場から移出されたことにより酒税が納付された、若しくは納付されるべき又は保税地域から引き取られたことにより酒税が納付された、若しくは納付されるべき若しくは徴収された、若しくは徴収されるべきものに限る。)であること。

    二  酒類と混和をする物品は、糖類、梅その他財務省令で定めるものであること。

    三  混和後新たにアルコール分が一度以上の発酵がないものであること。
     
    4月13日(1) 年間打ち合わせ=サブゼミ案内  

     

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