夜明け前より瑠璃色な
〜Mother Earth、Daughterr Moon、Son 〜

〜T〜出会い〜


↑2話へ。
かつて地球から宇宙を渡り、月に住み着いた人々がいた。
彼らは新天地を開拓し、一つの国を創り上げた。
地球に残った人々と不幸にして袂を別ち、戦争となり、多くの人々が亡くなった。
それから数百年。地球も月も別々の道を歩んでいた。

「・・・達哉、達哉」
誰かの呼び声だ。でもこの程度の声では寝ている彼=達哉の思考回路は起床にはならない。
「起きなさい、授業中よ?」
なんとか起床のスイッチを入れようと声の主は儚い努力を惜しまない。
だがうつ伏せになって寝ている達哉を起こすには過激な行動が必要、それを実行に移す者がいた。
「48の部長技の一つ、部長権限強制起床!」

「うわっ!」
机に伏せた二の腕のすぐ先に数本のボールペンが見事に突き刺さっている。
「こんな程度で起きるなんてまだまだ甘いわね」
「起きるとかそういう問題じゃないだろ!」
少し標的を外せばただでは済まない。
「いつも思うけど、真琴、いつか達哉殺すんじゃない?」
「この程度で死ぬような主役じゃないでしょ?どうせ菜月ちゃんだって旦那コキ使ってるんだし」
「そりゃ、手足のように使えるし、馬車馬のように働いて・・・って違う!」
また真琴の話術に引きずり込まれるところだった。まあ、既に顔が爆発しているが。
「あのー、そもそも主役って何ですか・・・」
「あんたのことよ、朝霧達哉」
ビシっと指を突き出す真琴、どうやら既に確定らしい
「朝霧、鷹見沢、鳥谷、またお前達か?」
「あのー、先生がお睨みですよ」
先生の睨みともう一人の達哉取り巻きである遠山翠の声。これは話を中断するしかない。

授業が終わる。そして放課後。いつものように達哉は校舎を後にする
いつも通りに菜月を連れて。
「あ、お兄ちゃん、菜月ちゃん」
いつものように練習をしている麻衣を加えて
3人の平和な会話。いつも通りだ。しかし。
ふと、達哉は空を見上げた、何かの飛行物体が街の方に向かって翔んでいる
「・・・宇宙船かな?」
飛行機とは違う一種独特の形、短く青い飛行機雲を残して飛び去るフネの行き先は
「誰か、また月から来るのかなぁ」
満弦ヶ崎中央連絡港。そのフネに乗っているのは

「あれが地球の『海』なんですね!あれ全部が水なんですね!」
「そうよミア、月の『海』とは違って本当の青い海よ」
月の『海』とは岩石が違うだけの平たい土地にしか過ぎない。
太陽系に『海』を持つ星は3つあるが、そのうち2つは暗い氷の海。
地球の『海』こそ、生命の源である水を湛えた本当の海。
「姫さま、これが雲なんですね!綿菓子みたいです!」
「これからはこの雲を眺めながらの生活よ」
地球の光景一つ一つにはしゃぎまくるミア、そしてそれに暖かく答える姫さま=フィーナ。
「姫さまは地球に来るのは初めてではないんですよね!」
「ええ、二度目よ」
「でしたら、その時の思い出とか何かをお聞かせ願えませんか?」
「・・・・・」
「ひ、姫さま?」
黙ってしまうフィーナ。何かひっかかるものがあるようだ。
「え、えっと、申し訳ありません!」
深々と謝る。対策がこれしか思い浮かばなかったといった表情で。
「いいのよミア、私自身のことだから。それよりも地球の思い出を増やしていきましょう」
「はい!姫さま!」
やっばりミアは笑っている時がいい。そうフィーナは常々思っている。
そして宇宙船(月では『往還船』という、以下そちらで)は満弦ヶ崎中央連絡港にふわりと舞い降りた。
「ここが地球なんですね!」
「ええ、地球よ」

「ただいま」
「あら、お帰り」
いつものように達哉が家に戻ると、いつもとは違う人が出迎えてくれた。
「姉さん、今日は早いんだね」
何か雪でも降るかのような顔をする達哉。
「ごめんなさいね。いつも仕事ばかりで。家の事なんてずっと2人に任せきり・・・」
さやか(姉さん)はそう言いつつ、床に『の』の字を書き始めた。
「そ、そういう意味じゃないって!」
「おかげで達哉君の寝起きも料理も麻衣ちゃんだし・・・やっぱり私はメインキャラ最下位なのね・・・しくしく」
って姉さん、どこのメインキャラですか!と突っ込みたくなる達哉。このままでは話が進まない。
「で、でも姉さんが身を粉にして働いてくれているからこそ俺や麻衣がこうやって生活できるんじゃないか!」
月王立博物館館長代理として徹夜も辞さず働くさやかがいるから、こうやって結構な住宅に住めるのだ。
「ありがとう、ヾ(^-^ )」
「あ・・・」
なでなで。ずっと昔からさやかにやってもらっていた。達哉の身長がさやかを追い抜いた今でもそれは続く。
「(俺、やっぱりまだ『弟』なのかなぁ)」
このごろなでなでされる度に達哉はそう思う。
「じゃ、俺、バイトに行ってきます」
行くといっても隣家だから制服を持って通用口から入るだけだが。

達哉が戻ってみると麻衣が帰ってきていた。居間に集まって欲しいとのさやかからの託を持って。
そのさやかの方はというとどうやら大掃除をしていたようだ。
「2人に集まってもらってのは他でもないわ」
居間に3人が集まる。さやかは忙しいのでこういう時は重大な話がある。達哉も麻衣もそれを予感していた。
「今日は2人にビッグニュース」
ふんふんという表情で2人が身を乗り出す
「私達に家族が増えることになりました!」
ぱんぱかぱーんという効果音がどこからともなく響くが、気にしないで欲しい。
「家族って・・・」
「お姉ちゃん、いつ結婚したの?」
「ちちちちちち違います!」
思いっきり否定するさやか。
「じゃあ、捨て子とか、難民とか、亡命者とか?」
「そういう重たい人じゃないけど、ホームスティよ」
「ホームスティ?」
「留学生をしばらく家族の一員として泊めてあげるあれ?」
「そうよ、だから『家族が増える』なの」
一瞬止まってしまった麻衣よりも先に動いた達哉が困惑しながら立ち上がった
「姉さん!いきなりそんなこと言われても!しかも俺達に話もせずに受けるなんて!」
ホームスティそのものよりも自分達を飛び越えて承諾してしまった事の方に不満が向いている。達哉からはそんな意見が見て取れた。
「ごめんなさい、私一人で受けちゃった事は謝ります」
深々と2人に謝るさやか。
「色々あって・・・うちに来ることを決めるだけでも大変だったの、達哉君や麻衣ちゃんに相談する余裕さえなくて」
本当にすみません、そういう態度と表情を見るにつれて達哉の困惑も収まった。
姉さんをこれ以上困らせてはいけない。俺がしっかりしなければ。
「もういいよ、姉さん」
「お姉ちゃんが悪いわけじゃないもんね」
どうにか次の段階の話に進むことができそうだ。

「そのホームスティする人って、どこからの人?」
「他の州から?それとも海の向こうから?」
「ちょっと違うわ」
なにやらクイズっぽくなってきた。こういう時は達哉よりも麻衣の方が好奇心旺盛といった表情で身を乗り出して来る。
「もしかして月から?、ほら、姉さんの留学繋がりで」
月に留学したことがあるさやかのことだからと達哉は答えを引き出す。
「正解。でもまだ満点じゃないわね」
「満点じゃないって?」
「聞いて驚きなさい、月の、スフィア王国の、お姫様よ!」
ドラムロールからバーン!という音が後方から聞こえ、刹那の後
「なんだって〜!」
「あわわわ・・・」
伝説の大予言をされた後のような驚きの声をあげる達哉とあっちの世界に逝く麻衣。
「大丈夫、おねーさんに任せなさい!」
そしてこぶしを握って有る胸を張るさやか。
「いや、任せるってさあ・・・」
「ひめさまひめさまおっひめさま〜」
この後、しばらくお待ちください状態になったことは言うまでも無い。

「散歩に行ってきます」
逝っちった麻衣をなんとかした後、達哉は一人夜の道を歩く。
こうやって夜、時々一人散歩に出て空を眺めるのが好きだ。
俺は何かを待っているのだろうか。何かを期待しているのだろうか。
「お姫様か・・・」
と、言われてもピンと来ない。ごく平凡(だと思っている)な自分がお姫様と?
「でも、家族が増えるんだよな」
ホームスティだから費用はあっちで持ってくれるはず。何しろ相手はスフィア王国なんだからその点は大丈夫だろう。
「そんな偉い人がうちに住んで、本当に大丈夫だろうか?」
姉さんは「気負わないで、別に取って喰われる訳じゃないから」と言ってくれた。でも相手は一国の姫。気負うな緊張するなという風が無理。
「物見の丘公園か」
達哉の散歩コースには常にこの公園が入っている。
なだらかな丘、そしてその中央にある高さ50mはあろうかという水晶みたいな塔
見上げると塔から一直線の空間に月が浮いている。
38万キロ彼方に浮かぶ直径3400kmの異世界。
「あそこから何だよな」
月明かりが強くなり、周囲が明るくなる。日光の37万5千分の1に過ぎなくても影を創り出すには充分な明るさ。
その神秘的な月明かりの根元。

そこには人。
塔を背にした人。
見たこともないドレスを纏う人。
月明かりそのもののような雰囲気を纏う人。
「・・・あ」
何か声に出そうとしたが、悲しいかな達哉の判断力では僅かに発声できるだけだった。
しかし達哉の頭の中では音声よりも先に何かのイメージが再生されていく。そしておぼろげながらも感じた。
「(そうだ、この人は)」
達哉はその人を認識しようとして目をこらし、脚を動かそうとした。
逆光でシルエットに近いが、綺麗な人だということはわかる。だがそれだけではない。
「・・・」
口が動かない。足も動かない。なぜだ。何か自分の深いものが俺の動きを停めている。
僅かな時間だったのだろうが、実に永く感じる時間の後、どこかから風が2人の間を駆け抜けた。
そして次の瞬間。彼女は月に溶け込むように消えていた。何かを達哉に思い出させて・・・



ぺーじとっぷへ。

〜U〜来宅〜

次の日。
どうも達哉の体に力が入らない。体調というより昨日の出来事が力を失わせているのだろう。
だがそういう時でも学校はあるし、バイトもこなさなければならない。
そしていつもの面子が集まる食堂。
「やっぱね、鷹見沢みたいな幼馴染と普通にゴールなんて私的には面白くないのよ、やっぱ恋とか愛は障害とか、タブー乗り越え?ってものがないとつまんないじゃない」
「つ、つまんないって」
達哉は真琴に捕まっていた。隣には翠もいる。ちなみに菜月は食料調達に向かっている。
「妹との禁断の愛とか、姉との爛れた生活とか、そういうドロドロしたものにリーチかかってるんだからダーっと突き進みなさいよ、朝霧達哉君?」
そう言って自分より一回りも大きな達哉の背中をポンと叩く。
「えーっと、えーっと・・・俺はノーマルでいたい訳で・・・」
何がノーマルなのかよくわからないが、答えがしどろもどろになっていることだけは判る。
「遠山さんの意見としては、組み合わせに恵まれ過ぎだと思います!」
「どう、こうなったら重婚とかやってみない?」
「でも鳥谷さん、それだと誰が正妻になるのかで揉めるんじゃない?」
「無茶言わないでくれ〜!」
「真琴、また達哉に変な知識吹き込まないでよ」
半ば呆れつつ、半ば頭にきつつ、菜月が割り込んで来る
「あら安全パイ」
「相変わらず物凄いたとえよねぇ・・・」
「隣に住んでる幼馴染ってのは基本的に保険、安全パイなのよ、知らなかった?」
「そ、そんな訳ないでしょ!」
菜月が怒る。実に判りやすい反応だ。
「姉、妹、幼馴染、勝つのは誰だ?ってことね」
「でも遠山さんとしては、もっと増えそうな予感がするけど」
「達哉をめぐる恋のバトルロイアル、乱入者は誰だ!」
「お、俺の立場って・・・」
こういうのを『いぢられキャラ』というべきなのだろうか。
そして乱入者は物凄く強大だということを彼らはまだ知らない。

その乱入者は地上に降り立った次の日にはもう歩きはじめていた。
「地上から見ても空が青いですね!」
「ふふっ、月とは大違いね」
歩く2人に周囲の人が目を見張る。本来は送迎の車を使って行くべきなのだろうが、フィーナの願いで徒歩とあいなった。
もちろん護衛とかの皆様方は大慌てだったのだろうがそのあたり芯の強いフィーナが押し切ってしまった。
「護衛官や補佐官は必要有りません、それではホームスティにはなりません」
と、言い切られればハイそうですと言い切るしかない。いきなりヘリコプターで通学し、赤じゅうたんを引いて玄関に入るなぞ成金趣味に任せればいいのだから。
「空気も随分違いますね」
「地球は管理された空気じゃないそうよ、だからこれが本当の空気ね」
時折深呼吸。完全循環で数百年変わらない空気を吸い続ける月の人にとってはその気持ちは判るのだが、どう見ても好奇の対象だ。
「そこの美少女2人」
「はい!」
何者かに呼び止められた。素直なミアは答えも素直だ。
「何あんた達、妙な格好して道の真ん中歩いてるの?」
「妙とは何ですか、これは正式の服装です!」
確かに正式。しかしただの商店街のど真ん中をドレス姿とメイド姿が連れ添って歩く。それは
「 コ ス プ レ ? 」
わざわざ一字一句を切れ切れに、しかも強めに発音する。
「面白い言い方ですね」
挑発的気味なセリフに対してもフィーナはあくまで柔らかに答える。
「別に見世物になりたいのなら構わないけど?」
「み、見世物ではありません!」
「をほほ、でも周囲がそう思ってないわよ?」
首を左右に振ってみる、確かに商店街の人々はやや遠巻き気味にしてフィーナとミアを観ている。明らかに好奇と不可思議を合わせた目で。
「気をつけなさいってことね、じゃ」
ぽんとフィーナの肩を叩き、言いたい事だけ言うと彼女は去っていった。
「あの方は・・・?」
おごんご頭とツインテールと何かを足したような独特の髪型をした彼女だった。
「姫様、やはり歩いて行くのは問題だったのでしょうか?」
「これも勉強よ、ミア」
しばらく歩いただろうか、2人は目的の場所にたどり着いた。

「入ります」
「お、タツ、頼むぞ」
隣家であって菜月の家であってバイト先であるトラットリア左門、マスターの左門が短い挨拶をしてくれる。達也は今日もいつものようにバイトだ。
「いらっしゃいませ!」
これは菜月の声
「いらっしゃい、お嬢さん」
こっちは菜月の兄の仁の声。もっぱら女性客担当。菜月はやっぱり男性客が呼び止めることが多い。
 よって2人の守備範囲に入らない熟年さんとか子供が自然と達哉の担当になってくる。
「今日もごせいが出るねぇ」
「あ、おにーちゃんだ」
とまあ、達哉の人柄の良さもあって人気は上々。もっとも人気があるのはお客以外からもなのだが。
「・・・あ!」
これで今日の失敗は三度目。皿を割ったり注文をミスったり。
「どうしたんだね?なにやら悩みを抱えてるようだが?」
今日はいつもの調子が出ない。昨日の事が頭から離れない。
それを見透かしたかのように仁が駆け寄ってくる。付き合いが長い分行動も読まれやすいのは当然だ。
「もしや、恋の悩みかな?達哉君は僕程じゃないけど女性に人気があるからねぇ」
「天誅!」
次の瞬間、仁は攻撃力の高い妹に痛恨の一撃を受けて退場していった。情けない。
「悩み事あるなら、相談に乗るけど?」
兄に代わって妹の出番。しかし言ってるセリフは同じ、やはり兄妹。
「い、いいよ。仁さんにも菜月にも悪いけど大したことじゃないし」
「あ、達哉」
とにかくこの場は逃げるが得策。ちょうど時間でもある。
「上がります」

「ただいま」
達哉が靴を脱ごうとすると見慣れない女物の靴が二足。
「お帰りなさい、達哉君」
「お帰り、お兄ちゃん」
何者かと考えようとする前にさやかと麻衣のあいさつ。リビングかららしい。
移動してみるとさやかの背後から小柄な女の子が現れた。
「はじめまして、ミア・クレメンティスと申します」
達哉が行動に移るよりも早くその小柄な女の子が挨拶をする。まずい、目上の人に先手を取られた!
「は、はじめまして、あ、アサ雨務タツ矢です、こ、このようなつつつつまらないものにeodw」
「達哉君・・・」
「お兄ちゃん、違うよ〜」
文字化けしてるかのようなこんがらがった達哉のセリフに2人が呆れている。
「この方はフィーナ様のお供でいらした方よ」
「私は姫さまのお傍にお仕えしております」
さっきよりも深々とした挨拶。確かに。メイド服を着ているお姫様なんていない。
「こちらこそ始めまして、朝霧達哉です」
さっきの混乱した紹介からうって代わって礼儀正しく挨拶できた。
「お兄ちゃん、お姫様なら」
麻衣が庭を指し示した。開いた窓から庭に立つ人の後姿が見える。
「こちらが月の王女の・・・」
と、さやかの紹介をも惜しむかのように彼女は達哉の方を振り返った。
「(昨日のあの時の人だ)」
昨日は半ばおぼろげだったが、それでも間違いない。あの時の、そしてかつての。
「私はスフィア王国皇女、フィーナ・ファム・アーシュライトと申します」
長いドレスの裾を優雅に持ち、ゆっくりと挨拶を口ずさむ。
「はじめまして達哉様、本日よりこちらでお世話になりますので、どうぞ宜しくお願いします」
寸分の隙もない、礼儀正しき挨拶。さすがは王女。
「俺・・・じゃない、私は朝霧達哉と申します。本日よりこちらでお世話致しますので、どうかご容赦の程を」
どうみてもフィーナの真似だが、これは動揺の現れ。それを見てにっこりと微笑むフィーナ。

「ということです、写真を撮ったり、会話を録音したりしてはダメ、ですよ?」
「それだけ?」
確かに写真とか録画はまずい、でもそれ以上に問題はあるんじゃないだろうか?
「そのあたりは達哉君も麻衣ちゃんも自制心を持ってくれてるから大丈夫」
大丈夫って。姉さんが信じてくれるのは嬉しいけどそれだけでいいのか?
「でも、下手したら外交問題になるからその点注意ね」
「お姉ちゃん、外交問題って・・・」
麻衣が不安と呆れを混ぜたような表情で呟く。
「フィーナ様も宜しいでしょうか?」
「問題はないわ」
「後は・・・フィーナ様のその格好ですね」
「これが何か?」
さっきの通りのドレス姿。ミアはもちろんメイド姿。
「もしかして、その格好でここまで来たのですか?」
達哉が当然疑問に感じる部分を出してみた
「ええ、中央連絡港からこの家まで歩かせて貰いました。地球の風景も良いものですね」
「空があんなに青いんなんて思いませんでした!」
前述のように歩いて。しかも車とか使わず。
「も、もしかして周囲の人は?」
「一人、私達のこの姿に『こすぷれ』と名付けた方がいらっしゃいましたが」
「えっと、こんな髪型をした姫さまよりちょっと小柄な方です」
「ぐはっ」
達哉は致命的な打撃を受けたような気がした。よりによって真琴かよ・・・
「フィーナ様、やはり普段は私服をお着になさった方が良いと思います、ここは地球です、月ではありません」
頭を抱える達哉を横目にさやかが毅然とした態度でフィーナに忠告する。
「サヤカの言う通りかも知れませんね」
「ホームスティの時はその家の家主(ホストマザー)に従うのが基本と聞き及んでいます」
「ミアの言う通りです、私達はサヤカの意見に従いましょう」
たとえ一国の王女であっても必要なら庶民と同じ立場に立つ。フィーナは国を背負う者として大切なものを持ち合わせている。
「最後に、フィーナ様の満弦ヶ崎大学付属カテリナ学院への留学ですが」
「ええっ?」
達哉と麻衣が同時に驚く。
「手配の方は既に済んでいますので、月曜から通って頂けます」
「ありがとう、サヤカ」
「しかも月曜?」
つまり明日からじゃないか。
「カテリナ学院の三年生として学ばせて頂くことになりました」
「ってことは・・・」
「そう、達哉君と同じクラス」
おいおい、話が出来すぎてるぞ、同じクラスということは菜月はともかく真琴と一緒だぞ?
「ってことは、フィーナ様は私の先輩だね、フィーナ先輩って呼んでいいかな?」
「ええ、構いませんよ、宜しくお願いしますね」
さらに深手を負った達哉を尻目にフィーナと麻衣が先輩後輩の契りを結んでいる。
「達哉君、学院のことはお願いね」
「さ、最善を尽くします!」
なぜか敬礼。賽は投げられた。達哉の双肩には地球と月の未来が圧し掛かっている。



3〜4話へ

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さやかFCへ

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