ふと、思い出す。
なぜ思い出したのか、それは古びた思い出の地に戻るから。
あの島に戻って、あの子達に会えるとは思わなかった。

ふと、思い出す。
なぜ思い出したのか、悪夢と思い出の地に戻るから。
あの島に戻って、決着をつけられるとは思わなかった。

FORTUNE ARTERIAL−Risato's PastVein
1/4 再会。


 支倉孝平は前の学校の知り合いから餞別に貰ったキャリーに家財道具を詰め込み、駅のベンチで列車を待つ。
 荷物をベンチの片側に鎮座させ、ポケットから出したのは指定席券。
これがあれば到着前から並ぶ必要もないし、座席を巡る戦争とも無縁のアイテム。
自由席がある車両の到着場所で並んでいる面子より俺は上なんだ。
優越感に浸っていると列車が到着。自由席への争いを尻目に孝平はゆっくりと乗り込む。
「えーっと」
席を探す。指定席なんで間違えないようにしないと後が大変だ。
「3、4、5・・・っと、ここだ」
孝平の持っているのは六番の席。そしてその後に続くのはA。つまり窓際。
前後にある他の席はみんな埋まっているので、場所的に間違いはない。
しかし。
「すー、すー」
窓際ではなく、通路側の席に先客がいた。しかも女性。とどめに寝ている。
「あのー」
呼びかけてみた。
「すーすー」
寝息で返された。どうする。まずは策を練ろう。
案その1:女性を隣の席まで運ぶ。
しかしこの女性が起きる→痴漢→捕まる→まだ学生身分から罪暦持ち。
ダメだダメだ、入学前から逮捕なんて俺の人生が終わってしまう。
案その2:なんとかまたいで席に座る。
幸いにして彼女は足とか腕とかを伸ばさず丁寧に座ったまま就寝中。俺的に鍛えた柔軟性を持ってすれば!
案その2を実行。できる限り彼女に触れないようにして窓側の席に入り込む。
「うーん・・・」
げっ、どこか触れてしまった!心臓が高鳴る。ヤバい。どうする俺!
「すー、すー・・・」
が、すぐに彼女は元の睡眠状態。その隙に孝平は窓際の席に滑り込む。まずは一安心。
「(降りる時どうしようか・・・)」
その時はその時だ。そもそも俺は終点で降りるんだから慌てれることはない。風景でも見ながら時間を潰そう。

 風景の傍ら、時々彼女を見る。多分俺より年上だろう。ロングヘアーを束ねたポニーテール。ポニテというとなんとなく年下のイメージがあるけど、この人は大人の雰囲気も持ち合わせている。
列車は珠津島大橋へ。上に道路が通っているので少し圧迫感はあるが風光明媚な海がよく見える。
「デカい橋だよなぁ・・・」
三連吊橋と双斜張橋を連ね、現代技術の粋を集めた巨大な連絡橋。それを設計したのは
「父さんが造った橋」
建設したのは公団と建設業者だが、この姿にしたのは確かに孝平の父。そう思うと息子としては誇れるのか劣等感を味わうのか微妙なところだ。
「くー、すー」
もっとも、孝平の隣に座っている美女はそんなこと全く気にはしてないようだが・・・

「終点、珠津です」
そうこうしているうちに終点。全員降りる所だ。しかし。
「すー、すー」
えーっと、もしもし?終点ですよ?俺は貴方様が動かないとここから出られませんよ?
念じる。起きてくれ。車掌さんとか整備員さんに変に勘ぐられる前に!
「ふわ・・・」
あ、起きてくれた。俺の念動波も捨てたものじゃないな。
「うーん」
彼女は思いっきり両手を広げて伸びをする。右腕は通路側だからいいが、左腕の伸ばした先には
「たわば!」
直撃。
「ふっ、いいバックハンドブロウだったぜ、お嬢さんよぉ・・・」
技の解説を遺言にこうへいはしんでしまった。なさけない。
「あれ?」
気づいた彼女。しかし左腕に妙な感覚が残っていることに気がついた。
「もしもし?」
「なかなかいい腕をしているな、どうだ、ワシと一緒に世界チャンプを目指さないか?」
気がついた。しかし頭がどこかに逝ってる。
「あ、えーっとぉ、つ、つい力入れ過ぎちゃって・・・ごめんなさい!」
両手を合わせてごめんなさいポーズ。
「い、いえ、俺の不注意ですから」
さすがに美人に『ごめんなさい』されて追い打ちできる男はいない。当然孝平とて例外ではない。
「ありがとう、君、いい子だね」
いきなり『君』。やっばり俺よりは年上なのか、年下扱いされているのか。
「それじゃ、わたしは急ぐから!」
大慌てで荷物をまとめ、彼女はそそくさと下車していく。
「あ、俺も行かなきゃ」
美人に見とれている暇はない。孝平本人もこの島に用事があるのだから。

珠津駅から学院へ行けるか。
前にいたとはいえ久々となると町並みや、道だって変わる。だがところどころにある標識と記憶があれば何とかたどり着ける。
「腹減ったなぁ」
何か食べようか。島らしく魚料理の店とか、露天で魚をさばくおばちゃんとかの姿が目に付く。
「やはり、腹が減っては戦はできないな」
これから寮に入るとなるといろいろと作業をしないといけないだろうし、そうすると食事にありつくまで時間がかかる。
だったら今食べてもOKだろう。何かの時のためにお金は多めに持ってきているんだし。

修智館学院・白鳳寮前。
門の前で姉妹が誰かを待っている。
「本当に来るの?」
「来ます!お姉ちゃんを信じなさい!」
無い胸を叩いて自信度をアピールするかなで。
「でも、孝平君のお父さんかから『息子を頼む』と言われても」
孝平側も一応は根回ししているようだが、心もとない。
「あ、誰か来た」
「ヒナちゃん、迎撃準備!」
準備と言われても何をすればいいのかよくわからないが、とりあえず身構えてみる陽菜。
そんな中でも孝平はどういう姿になっているだろう。いろいろな想像が頭の中を駆け巡る。

・・・しかしやってきたのは孝平ではなく、そもそも男性でもなく、女性。
「白鳳寮に何か御用でしょうか?」
そして相手はどう見ても年上。対してこちらは学生なんだから礼儀正しく陽菜からご挨拶。
「この白鳳寮にやってくるとは、お主、いい度胸だな」
「うーん、度胸というより、お金がないからかな?この島のアパートって家賃高くて」
彼女は片手に駅前で配ってる住宅情報誌を持っている。
「寮長さんに会いたいんだけど」
「ふっふっふ、その言葉を待っていた!誰あろう白鳳館寮長とは!」
自信たっぷりのかなで。
「えーっと、生徒さん」
「修智館学院5−B、悠木陽菜です」
「私は白鳳璃紗都、明日から修智館学院で先生をすることになったの」
「それじゃ、明日からは白鳳先生なんですね」
「できれば名前の方がいいかな?私、「はくほう」って言われるの嫌いだし」
きっと白鳳(しらとり)先生は姓名の読みで間違えられて苦労したんだろう。同じく「ひな」と間違えて読まれることの多い陽菜(はるな)には彼女の気持ちがよくわかる。
もっとも、陽菜は別に「ひな」と呼ばれてもそんなに迷惑ではないが。
「巨乳ポニテ女!わたしを無視するな!」
「あ、ごめんごめん、そちらは陽菜さんの妹さんね、よろしく」
「ちがーうっ!わたしが姉、こっちはわたしのヨメのヒナちゃん!」
かなでが自分が姉だということを必死にアピール。初対面でこの姉妹の姉・妹を間違える人は結構多かったりするのでそのたびにフォローしなければならない。
「あはは、かわいいお姉さんね」
かなでのどたばたぶりに璃紗都が笑っている。大人の余裕という奴だろうか。
「はい、ヾ(^-^ )」
そしてわざわざ中腰になってかなでをヾ(^-^ )。
「うわぁ・・・」
「お、お、おのれホルスタインポニテがぁっ!」
さっきよりも言い方が悪くなってるが仕方ない。二人のバストに関しては戦艦と魚雷艇ぐらいの差がある。要するに絶望的な国力差。
「あはは、本家にはまだまだ遠く及ばないわね、練習しないと」
半分キレているかなでを放置して璃紗都が反省。何が本家で何が練習なのかよくわからないが、ヾ(^-^ )の道は険しいようだ。

「あ、ここにいたんだ」
ここでキャリーをごろごろ引きずりながら孝平が到着。さっき食べたので体力も満タン。いつでもいける。
「あ、孝平君、おひさしぶり」
「おおこーへい、元気してたか!」
久々の対面。やはり知ってる人がいるってのは心強い。
「もしかして知り合い?」
この場では幼馴染ではない唯一のキャラである璃紗都も加わる。
「ええ、幼馴染なんですよ」
孝平が璃紗都に悠木姉妹との関係を説明。
「昔は3人でよく遊んだものよね」
「うむ、こーへいは成長したなぁ、よしよし」
目いっぱい背伸びをして孝平の頭をヾ(^-^ )するかなで。横からみるとちと無理がある姿だが。
「昔話もいいけど、寮内に入らない?」
そう璃紗都が提案する。考えてみれば寮で一番目立つ門の前。昔話をするにはあんまし場所はよくない。
「それじゃ、ようこそ白鳳寮へ!かな?」
ちょっと自信なさげな陽菜の言葉をもって、四人は寮へ。

「えっと、孝平君は2階ね。私達は3階」
かなでだととても案内になりそうにないので、説明上手な陽菜が寮を案内する。
「先生は?」
「最上階。島中探してもこれだけ安い物件はないわよね」
この寮は生徒と先生専用の寮なんだから、そりゃ安いのは当たり前。(寮の家賃はあらかじめ授業料/給料差し引き分に組み込まれている)
階段を上がって二階。すると誰か来たのかと寮の部屋から男達が首を出す。
「悠木先輩と、陽菜ちゃん・・・あの男は?」
前二人は誰でも知っている。だが後ろ二人はさすがに誰も知らない。
「貴様等何を見ている、その後ろだ!」
首だけ出している男達だが、それでもコミニュケーションはとれる。それが立ち絵も名前ももらえない男達の意地というもの。
「すげえ美人だ・・・」
「副会長や陽菜ちゃんもいいけど、やっぱり大人の魅力だよな」
「キミ達?寮長命令を発動するぞ!」
かなでの鶴の一声。一瞬で男共の首が引っ込んでしまった。
「さすがお姉ちゃん」
「昔からそうだったよなぁ・・・」
孝平の頭に何かというと仕切るかなでの記憶がよみがえる。そういえば昔からガキ大将だったんだ。
「はい、孝平君の部屋はここね」
一番窓際の部屋をあてがわれた。内部はというと一通りの家具から電気設備、おまけにパソコンまで備わっている。
「ありがとう」
「何かあったら」
「この寮長に聞くがよい!」
無い胸を張り、任せとけとばかりの表情のかなで。
「陽菜さんやかなでさんでも問題があったら、私に聞いてね。これでも寮監だから」
そして璃紗都。悠木姉妹だけでなく先生とも知り合えてありがたい。

「明日から学院か・・・」
夜、ベットの上で孝平はまどろむ。またここに戻ってきたんだという嬉しさと、これから起こることに対する不安。
「散歩しようか」
そう思ったが、来たばかりでもし迷ったら悲惨だ。今日のところはやめておこう。


次の日。
「起きなさい」
誰かの声。しかし寮は個室なので誰が来るわけもない、おまけに泥棒対策で鍵をかけている。
「おっきろおっきろおっきろ♪」
その声は調子に乗り始めた、なんだか嫌な予感がする
「おきんかこらぁ〜!」
本能だったのだろうか、孝平は寝たままの体勢から一気に身を翻し、自分が寸前までいたところを見た。
・・・フライパンが(テフロン製・焦げ付きなし)直撃していた・・・
「やっぱり朝はお姉ちゃんが起こしてあげないと♪」
「お姉ちゃん・・・」
左手にフライパン(アルミ四層構造・油なしでもOK)を手にしたかなでとその横には陽菜。つまりフライパン二刀流で孝平を起こしにきたという訳。
「な、なんでかなでさんと陽菜がっ!」
「そりゃ、わたしは寮長、しかもお姉ちゃん!」
完全に職権乱用ではないかと突っ込もうとしたが、相手を見る限りそれは無理のようだ。
「と、とりあえず起きて朝食にします・・・」
毎朝このパターンになるのか、孝平に立ちはだかる運命は厳しい。

悠木姉妹と一緒に学院に到着。そして始業式。
つまんない理事長の挨拶と適当な話が続く。眠い。しかし最初の行事から寝るのは印象を悪くしかねない。
何か気を紛らわせるものがないかと隣を見る。孝平の隣には女子生徒。とりあえず彼女でも観ておくか。

綺麗な人だ。長い黒髪とキリっとした顔立ち。自分と同い年とは思えないほどの落ち着きがある。
ついつい話しかけてみたい衝動に駆られる。悠木姉妹しか知ってる人がいない状況を考えると、一人でも話せる相手が欲しい。
「あのー」
我ながら情け無い挨拶だと思った。支倉孝平の挨拶用引き出しの数は少ない。
「・・・話しかけないで」
帰ってきたのは静かだが重たく、そして冷たい言葉。話にも何にもならない。ただ綺麗な人だというビジュアルだけが記録されるだけ。

始業式が終わり、生徒達はめいめいのクラスに散る。ただし孝平は転入生なので別枠。
同じく別枠の璃紗都先生と共に教室の外に陣取る。
「じゃ、私から行くね。孝平君は後ろからついてきてね」

ガラっと扉が開き、璃紗都先生、続けて孝平が入ってくる。
二人に反応してまずは男性軍、続けて女性軍からのコールが響く。
「はいはいみんな静かにしましょうね」
男性軍からの視線を一身に浴びる璃紗都先生が
「じゃ、まずは私じゃなくてこの子からね。はい」
自分ではなく先に孝平を紹介して、少しでも早く馴染ませることを選んだ。
「支倉孝平です。皆さんよろしくお願いします」
黒板に自分の名前を書き、続けてありきたりな自己紹介。転校が多かったのでそのあたりのやり方は実によく慣れている。
「孝平君は・・・そうね、悠木さんの隣がいいかしら?」
名簿と教室内を交互に見回して、孝平の落ち着き場所を指定する。
「え、私?」
受け入れ側は当然焦る。
「・・・明けたわ」
「え、えっと、紅瀬さん?」
「だから、あの転入生のために席を空けたと言ったでしょ」
紅瀬桐葉が荷物一式をそのまま隣の席に運び、陽菜の横の席を確保。そこに孝平が入り込む。
「すまない、始業式といい迷惑かけてしまって」
間違いない、始業式で孝平の隣に座っていた綺麗な人だ。これも何かの縁ならば。
「・・・別に」
しかしそれきり彼女は黙ってしまった。取り付く島どころか砂粒すらもない。仕方ないので前を見る。彼女については休憩時間なり昼休みにでも聞けばいいだろう。

「ところで、先生は?」
向き直ってみると璃紗都先生がいない。視界から消えた。もしや瞬間移動とかそんなことができるのか?
「あたた・・・ちょっと足元見てなくて」
何もないところで転んで起き上がる途中だった。
「自己紹介自己紹介」
あたふたしながら黒板に文字を書く。
「えーっと、白鳳璃紗都。22歳。大学出たばかり」
「年ま・・・ぐがぁっ!」
前の方に座っていた男子生徒が何事かを言い終える前に事切れた。彼は勇敢だったが運はなかった。合掌。
「あはは、質問はない?」
物凄い勢いで黒板前まで戻ると、睨みを聞かすようにクラスを見回す。
「先生、彼氏はいますか!」
美人教師に対するお約束質問。
「いないわよ〜!。いたら人気落ちるし寝取られだと言われるし」
後半何か違うような気がしたが、少なくともそういう関係の人はいないようだ。
「やあ転校生、俺の名前を知ってるか?」
前方からの男の声。そして男は首を回す。碧髪のちょっと不良入った感じの人物。
「いや、知らない」
名簿を見た訳でもないのに初対面の人間の名前を知ってるわけはない。
「おいおい、怪獣の名前だって一般市民は知ってるんだぜ?」
自分を怪獣と一緒にされるのは困る。せめて正義の巨大ヒーローにして欲しい。孝平は心からそう願う。
「なら俺から自己紹介だ、八幡平司。よろしくな」
桐葉と違って実に親しみやすい雰囲気と話しかけ方。女と男の違いもあるだろうがこういう人間がいると安心できる。
「しっかし美人だよなぁ、璃紗都先生。瑛里華さんもうかうかできないぞ」
「瑛里華?」
確かに璃紗都先生は美人だと思う。だがそれより瑛里華って?
「知らないのか?我が修智館学院の誇る副会長様を」
いきなり役職なんて言われてもどう答えればいいのかわからないが、とにかく瑛里華という人が凄そうな人だという事はわかった。

この学院、俺にとって何か運命をもたらしそうな気がする。そう思う転校初日午前中だった。
(2/4へと続く)




*あとがき
まあ、何ですよ、真っ正面からオーガストに挑戦してみました(笑)
ここの方を励ましたり、ここの方とかここの方のを読んでいるだけでは何も進まない。
「暗いと不平を言うよりも、進んで灯りを点けましょう」ともいいますしね(殴)
最初から黒歴史決定な話ってのも何ですが(笑)
*あけるりSSの方も今月中には次の話をあっぷするつもりです(^_^;

白鳳璃紗都(Shiratori Risato)

10月31日生まれ:T165.9/B92(E)/W61/H90/58.4kg 血液型:B型(自称)
所属:修智館学園教師(物理・体育)
好きなもの:特売で売ってる食べ物全般
苦手:細かいこと(おっちょこちょい)
嫌いなもの:定価で売ってる食べ物全般、千堂家(秘密)

学院の新任教師。担当は物理だが体育もこなせ、孝平達のクラスの副担任。そして寮住まいのため自動的に寮監も兼任する。
藍色のロングポニーテールの髪型からもわかるとおり、先生というより隣のお姉さんのような快活で優しい性格。
ただしおっちょこちょいで結構ドジ。走れば速いが歩くと何もないとこで転ぶ。
本人は全く自覚していないが、誰が見ても美人なので当然のことながら人気は絶大。
ちなみに姓は「はくほう」ではなく、「しらとり」と読み、「はくほう」と呼ばれるのを異常に嫌う。
無茶苦茶な大食で、給料の八割(本人談)が食費に消えるほど。生徒達と一緒に寮に住んでいるのも家賃を浮かすための策だったりする。



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