FORTUNE ARTERIAL−Risato's PastVein
3/4 記憶

「あー、頭に来るっ!」
修智館学院生徒会室。イライラしているのは副会長たる瑛里華。
「千堂先輩、どうなさったんですか?」
見かねたのだろうか、同じ生徒会に所属する白が瑛里華に紅茶を淹れる。
「ありがと」
とりあえず飲む。アールグレイの良い香りと快い渋みが瑛里華のイライラを解していく。
「私でよければ相談してください。」
「いいわよ、白ちゃんに相談するほどのことじゃないから」
あんまり後輩に迷惑をかけたくないという気持ちが前に出たのだろう。イライラではなく普段の優雅な表情に戻っている。
しかし、放課後に魅せるその表情は長くは続かなかった
「相手に50mものハンデを貰いながら、惨敗したとあっては突撃副会長の名が廃る」
「兄さんに言われたくはありません」
また『むすっ』とした顔に戻ってしまった。
「しかし、負けた相手は教師じゃないか。そんなにイライラすることはないと思うが?」
「わかってますわ、兄さん、征一郎さん」
伊織と征一郎が加わって、いつもの生徒会の面子が完成する。
「確か、先輩に勝たれたのは青髪の先生だと聞き及んでますが」
「そうですわ、青髪の先生」
瑛里華の『むすっ』度がさらにアップしている。
「青髪の先生というと、白鳳か?」
「白鳳璃紗都。新任の物理教師。大学始まって以来の秀才という話だ」
征一郎が知識でフォロー。
「どうしてああいうのを採用したんですか?」
「教育学部の最優秀成績者は派遣先を好きに選べるからだ」
眼鏡の蔓を正しながら征一郎が続ける。つまり璃紗都先生は物凄く優秀だから、どこに行っても大丈夫だというお墨付きという訳。
「断れなかったんですか?」
「我が修学は優秀とはいえ、所詮は島の学校。そんなところに自分から赴任してくれる教師なんて、宝石より貴重だと思うが」
TVでちょくちょく話題になる僻地医療とか過疎地教育とか、それと同じ。来てくれるだけで大歓迎。
「それとも瑛里華は、自分の人気が横取りされるのを怖がっているとでも?」
征一郎が話を繋ぎ、ふっふっふとばかりに笑いながら伊織が妹を眺め、そして発言する。
「美人で秀才、しかも運動抜群。何やら我が妹のようだな」
「そ、そんな訳ありませんわっ」
ぷいっとふくれる。もちろん瑛里華と璃紗都先生の性格や雰囲気はずいぶん違うとフォローしておこう。
「先生の授業はうちのクラスでも評判です」
飲み干した紅茶を下げながら、白も会話に加わる。
「ふむ、明日は我がクラスでもその先生の授業だ、お手並み拝見といこうじゃないか」
「ああ、うちのクラスには実力を図るにふさわしすぎる人物がいるからな」
「誰なの?」
瑛里華が征一郎に質問。ただし答えたのは相方だったが。
「悠木の姉だ」
ふふふと笑いながら伊織が話を締める。この笑いはそう、何か企んでいるような笑いだ。

そして次の日の授業中。
「弾性体は加えた力によって変形し、このような変形曲線を描きます」
「はーい、先生」
「はい、悠木さん」
元気に手を上げるかなで。彼女が手を上げているとおり、ここは六年生の教室。前記のとおり人手が足りない学院のこと、璃紗都先生は複数の学年の物理授業を掛け持ちしている。
「そのゆさゆさ揺れるけしからん胸も弾性体なのか?」
クラス内が一斉にどよめく。人によっては拳を突き出したり笑ったりもしている。
「そ、そうだけど、でも重力をはじめとする外力に対して張力が働いてるから、そう簡単には崩れないわよ」
胸ねたで一瞬たじろいだが、答える途中でうまいこと授業内容に戻している。
「なかなかやるな、あの新任教師」
「この俺を持ってしても悠木は『取り扱い注意』のカテゴリーエンプレスだからな」
「まったくだ。見ていると面白いが後始末をする者の立場にもなって欲しい」
二人して苦笑する。かなでという存在は修学最強コンビと言われる伊織と征一郎が二人かがりでも苦戦しているらしい。
「ところでだ、その悠木に弟が出来たらしいぞ」
「姉の後始末に健気に励む妹なら知ってるが、弟?」
「妹の方は美化委員だから交渉は無理だが、どうだろう?悠木の弟をうちに引っ張りこめないか?」
「伊織、お前は何を基準に勧誘をしているんだ?」
さすがの征一郎も呆れた。
「征よ、基準とは魂だ」
「そう言って、書道部のエース・・・確か紅瀬と言ったか・・・を引っ張り込もうとして失敗したのはよく覚えているぞ」
桐葉の性格と言動からして、伊織が何を言おうが『興味ないわ』で跳ね返される結果になったことは判る。
「いい加減、俺たちの妹だけには任せられんからな。生徒会にも別の家系が欲しい」
「えーっと、そこのお二人さん?授業中の会議はよくないと思うけど?」
「おや、白鳳先生ではないですか、相変らずお美しい」
「 し ら と り です」
最初で名前を間違えたため、伊織後半の口説き文句が全く役にたたない。こういう時に孝平とか陽菜がいればいいのだが、いかんせん学年が違う。
「それにわたしって、そんなに美人じゃないから、知恵を廻しておだてても何も出ないけど・・・」
苦笑。誰がどう見ても美人なのに、本人は美人じゃないと思っている。そんなところも璃紗都先生の特徴なのかも知れない。
「ちゃんと授業受けてね、征君、いお君♪」
「い、いお君?」
「うーん、伊織だからいお君♪じゃ、ダメかしら?」
「はっはっは、いお君か、傑作じゃないか」
さすがの伊織もこれには苦笑するしかない。相方ですら笑っているのだから。
「惜しいけど、授業は終わりね。それじゃ」
伊織が反論する前にチャイムが鳴り、璃紗都先生は教壇に戻ろうとしたが・・・
「べちっ!」
コケた。しかも派手に。
「巨乳教師め!乳の重さで自滅するとはいい気味なのだ!」
孝平たちがいないクラス。このかなでを止める者も、男二人を止めるのも璃紗都先生の役目。人材不足というのはどこの世界でも深刻だ。

 そんな話が展開されていることを知らない下のクラスの面子は昼休みを迎えていた。
「なんか、さっき上の方が揺れなかったか?」
「さあな、それよりこのごろ地震があちこちで起こってるから、ここも気をつけないとな」
地震はどこでも起こることは昨今の事実から証明されているが、それは別の話。本題は陽菜が持ち込んできた。
「えっと、孝平君?」
「何?」
「お姉ちゃんが屋上に釣れてこいって言うから、呼んできたの」
「かなでさんの頼みだとすると」
・・・逆らわない方がいいだろう。また部屋に侵入されても困る。
「判った、逝こう」
そういうわけで、孝平は屋上へ。行こうの文字が違うような気がするが彼の気持ちの現れだ。気にしない。
学院の屋上はベンチが少々あって、間にプランターが入り込む小奇麗な場所。
陽菜は孝平をその小奇麗な場所の一角へ案内する。
「あのー、かなでさん?」
「来たか、こーへー、まあ座るがよい」
「お言葉に甘えて・・・って、何してらっしゃるんですか!」
危うく座るところだった。かなでが用意しているのは鍋。もちろん中身はある。
「こーへー、目が悪くなったか、見てのとおりだぞ」
「だーかーら、屋上で鍋って無茶だと思いませんか?」
「でも、お姉ちゃんがせっかく用意してくれたんだし」
多少後ろめたさを含みつつも、結局は姉に引っ張られている妹の言葉。行動原理が違う姉を持つと妹は大変。そして弟役も大変。ここは素直に命令に従おう。
「では、お言葉に甘えて」
かなでと陽菜に向き合って座る。目前ではカセットコンロの火力によって鍋がぐつぐつ煮えている。
「今日は寄せ鍋なのだ!」
「昨日はすき焼だったの」
「昨日もですか?」
過大すぎるほどの自信をまとうかなで。この姉妹、毎日のように鍋をやっているらしい。
「鍋はいいぞ〜体も心も温まる。こーへーも温まるのだ」
・・・なんかオヤジくさくなってませんかかなでさん?
「でも、鍋なんて持ち込んだらまずいんじゃないんですか?」
首謀者であるかなでに聞く。
「気にするな、これを見るのだ!」
バーンという効果音とともに何かのワッペンが取り出される。
「これって、何でしょうか?」
「風紀委員を示すバッジだ。誰あろうこのお姉ちゃんこそ・・・」
なぜかどこかからドラムロールが響いてきた。
「修智館学院風紀委員長なのだっ!」
「お姉ちゃん、すごい」
・・・陽菜さん、セリフが棒読みですよ。いやそれ以前に俺がいうセリフがあるだろう。
「なんだってぇ〜!」
「こーへー、なぜ驚く!」
「そりゃ、屋上で鍋なんかしてる人が風紀委員なんて、信じられないからよね?」
・・・そう、そのセリフ。俺がキバ○シ式に叫ぶ次の言葉だ。でも何で女性の声になってるんだ?
「えーっと、改めて聞くけど、何をしているのかしら?」
「あ、先生」
璃紗都先生が屋上までわざわざやってきた理由はともかく、孝平としてはセリフをとられたことが少しショックだ。
「むっ、巨乳教師!」
孝平より前に出て鍋を覗き込む璃紗都先生。対していきなり何かの格闘技の構えをとるかなで。二人の間には越えられない壁が建設されているらしい。
「はい、鍋ですけど」
陽菜が簡潔に説明。
「最初に言っておくが」
「わたしは教師です。生徒の間違いはわたしが正します」
「ええい、そんなセリフで全米が納得すると思ってるのかぁ!」
そんなかみ合わないい合いの中。孝平はというと
・・・うわぁ。デカい、デカいよかなでさん。俺、巨乳派に鞍替えしようかなぁ?
璃紗都先生が孝平の真横でかがみこんでいる。つまり斜め下から仰ぎ見る形。
この角度から見ると嫌が上にも璃紗都先生の胸が強調される。そりゃかなでが親の仇みたいに敵視するのは当たり前。
しかし、孝平が見とれている間にも攻防戦は続き、先生側が動きを見せた。
「うーん、捨てるのはもったいないわね」
璃紗都先生が鍋つかみを拾い上げた。これはつまりかなで謹製の鍋に何かしようという作戦だろう。
「あっ!」
一瞬たじろぐかなで。孝平も気付いて反応しようとしたが気を取られすぎてタイミングを逸してしまった。
「よっこいしょ」
璃紗都先生は鍋つかみを左手に装備すると、そのままなべを掴み、右手で箸を持つ。
「ままま、まさか!」
食べ始めた。かきこんではもぐもぐ。かきこんではもぐもぐ。凄まじい勢いで鍋を平らげていく。
「あわわわわ・・・」
「ば、化け物かぁっ!」
妹が泡吹いてるだけで役に立たないことを見たかなでは弟役に指令を出す
「こーへー!横暴な巨乳教師を阻止するのだ!」
あまり気が進まないが、かなでの命令は絶対だ。孝平は立ち上がって璃紗都先生に近づく。
「あれ?」
しかし、ある距離から進めなくなった。なんか強い力で前進を止められている感じだ。
「って、これ足!」
孝平のどてっ腹にハイヒールがめり込んでいる。学園でハイヒールを履くのは先生だけ。
つまり片足だけで立ち、片足を伸ばして孝平を停止させ、上半身が鍋を食べている。凄い。
「ごちそうさま♪」
「お、おのれぇ、乳だけしか取り得のない教師の分際で!」
せっかく昨日から用意した鍋をものの数秒で食い尽くされた。食い物の恨みはオソロしい。
「学園に鍋とか、カセットコンロ持ち込んじゃダメよ。火事になってからじゃ遅いから」
とはいえ今回の件は学園に可燃物持ち込んだかなでが悪い。
「陽菜さん、ちゃんとお姉さんを躾けないとダメよ」
「は、はい・・・」
「だから、このセットはわたしが没収」
「それはいか〜ん!この鍋は悠木一族に先祖代々伝わる家宝なのだ!」
「えっと、この鍋、下に『ダイソ○』ってあるけど・・・家宝って百円ショップで売ってたっけ?」
ダイ○ーで売ってるとはえらく安い家宝だ、しかしそれよりも百円ショップの鍋は安物だから割れやすい、みんな気をつけよう。
「おのれ巨乳教師!」
「えっと、わたしみたいになりたいんだったら、悠木さんも牛乳を毎日飲めばどうかしら?」
「はっはっは、巨乳教師は雪○やミート○ープの不祥事を知らないようだな!」
えっへんと胸を張る。しかし張ったとはいえないものはない。
「かなでさん、ミー○ホープは牛乳とは関係ないんですが・・・」
「外野うるさい!これは宿命の戦いなのだ!」
「えっと、宿命って何かしら?」
「持てる者と持たざる者の戦いなのだっ!今こそお姉ちゃん力を魅せ付ける時なのだ!」
何か物凄い背景絵を背負うかなでがすくっと立ち上がり、璃紗都先生と対峙する。が、こうなると身長差(165.9:151.8)、そして胸の差(75A:92E)が物凄く判ってしまう悲しさ。
「こ、これが、世間に蔓延る格差社会ってヤツか・・・」
「お姉ちゃん、ちょっと相手が悪すぎると思う・・・」
見上げている時点で勝負ありといった雰囲気だ。
「えっと、頑張ってね。ヾ(^-^ )」
「あ、簡単にあしらわれた」
かなでがなでられている。これが大人の余裕というものだろうか。
「こ、これで勝ったと思ったら大間違いなのだ!」
典型的な捨てセリフを吐いて逃げ去るかなで。つまりこの後は残った3人が片付ける羽目になる訳だ。
「すみません、先生」
「いいのいいの、わたしもごちそうさせてもらったから共犯になっちゃったし」
食材の残りや鍋(先生没収品)を片付けながら孝平が謝る。
「陽菜さん、お姉さんはいつもこんな調子なのかしら?」
「ええ、昔からです、ね、孝平君」
いきなり孝平に振って来た。
「ああ、そうだったな」
とりあえず空返事で時間を稼ぎつつ、孝平は過去の記憶を掘り返す。
 あちこち転勤を繰り返していた父親に連れられて転校を繰り返してた頃、一番長く住んでいたのがこの珠津島。
そこで出合ったのがかなさんでと陽菜。ガキ大将だったかなでさんと、俺の後ろからちょこちょこついてきた陽菜。
「昔からの知り合いだったんだ」
・・・あれ?俺は誰か忘れているような・・・思い出せない。何かはわからないけど、あまりにも重たいものが俺の記憶を出すことを阻んでいる。
『わたしがこんなんじゃなかったら、こう君ともっと遊べるのにね』
こう君。何とか引っ張り出した記憶がそう言っている。しかし今『こう君』と呼ぶ人と、その人はあまりにも姿がかけ離れている。あの時のあの子は・・・
「孝平君、どうしたの?」
「あ、いや、何でもない」
陽菜がいろいろ心配をかけてくれるが、異常なのは体ではなく心だから保健室とか医者に頼るわけにはいかない。そして
「こう君、顔が青いわよ、休む?」
「大丈夫です、一人で行けます」
女性二人に心配されては男としてダメだ。その男の意地が昔の記憶をしまいこみ、一人先に教室に戻る選択肢を選ばせる。
「大丈夫かしら?」
「やっぱり男の子ね、でも・・・」
・・・あの苦しそうな顔って、やっぱり昔を思い出した顔・・・


放課後。
「孝平、お前何か用事あるか?」
帰宅部のエースたる司が、現在帰宅部の孝平に呼びかける。
「ご期待通りにないぞ、ついでに言うと」
周りに知り合いはいない。いるのはモブキャラばかりだ。
「紅瀬は書道部、陽菜は美化委員だといってさっさと出て行った」
今やあぶれた二人が寂しく会話をしている状況だ。つまり
「どっちが攻めでどっちが受けかしら?」
「司君の方がワイルドだけど、孝平君の方が攻めには強そうと思わない?」
・・・俺たちはあやしい本のネタですか・・・
いくら無茶なセリフをしゃべっても後を引かないモブキャラ、恐るべし。
「街に出るぞ、ここにいてもしょうがない」
妄想対象はまっぴらごめんと二人して教室を脱出。廊下を歩いて、階段を降り、グラウンドへ。
「どうした?」
「いや、先に行っててくれ、俺は後から行く」
「しゃあないな」
何か感じたのだろうか、孝平は司を先に行かせ、彼から少し遅れてグラウンドを進み、そして校門近くへ。
すると何やら人だかりが出来ている。この人だかりは何だろう?その好奇心が孝平を突き動かす。
人だかりに近づくと看板。そして場違いな服装をした女生徒の集団。
「これってやっぱメイド服ってヤツだよなぁ」
赤いワンピースの上から白いエプロンを重ねた姿、頭にはカチューシャ。あやしい雑誌とかで見た通りだ。その怪しい雑誌は司から貰った。と孝平の記憶にはある。
「あ、孝平くん」
そんなメイド服の中の一人が、ちょっと恥ずかしそうに近寄ってきた。陽菜だ。
「似合うかしら」
いや、素直に似合うと思う。ほうきもあるし、完璧かと。
「ああ、似合ってるよ」
「そ、そうなのかなぁ?」
恥ずかしげに答えるあたり、まだ陽菜はこの服を着慣れてないのかなとも思った。
「ところで、この服装は?」
「美化委員の制服なの」
委員としてはやたらに目立つような気もするが、メイド服は元々家事用だから別にいいんだろう。そう孝平は結論づけた。
「それで、どこか学院とか街でお掃除するところとかあれば、わたし達が行ってお掃除するの。それが美化委員のお仕事」
最初こそ恥ずかしそうだったが、仕事内容になると自信とプライドを感じさせる表情に。それだけ陽菜はこの委員に力を注いでいるのだろう。
「といっても、教室はクラスで掃除しているし」
別段、掃除するような場所はないと思う、しかし必要とされる場所と者はあった。
「なら、手伝ってくれない?」
人にものを頼む立場なのにその心も何もこもってない言葉。この言い方をするのは孝平が知ってる限りただ一人。
「紅瀬か、美化委員に頼るとはお前・・・」
そこで孝平の言葉が切れた。口よりも敏感な器官である目が緊急警報を孝平の脳に伝えたから。
「・・・って、何て格好してるんだくぅ〜ぜ〜きーりーはー!」
「・・・私の名前を伸ばさないでくれる?」
それだけ衝撃が大きかったということ。何せいつもクールな興味なし人間を地で行く桐葉が何を着ていたか。
 エプロンを制服を一体化したような上着と、短めのタイトスカートを基軸とする萌え要素満載のウェイトレス服に身を包んでいるのだから。
「紅瀬さん、学食の制服着てどうしたの?」
「こんなものが学食の制服なのか!」
「ええ、蓮美台学園に影響されたって話よ」
陽菜が言うその蓮美台学園ってのは、きっと物凄い制服を着ているんだなと孝平は思った。そしてその学園の上の人間を褒めてやりたくなった。
「それで、紅瀬さん、手伝って欲しいって?」
メイド服系の陽菜とウェイトレス系の桐葉が並んで話すと、それだけで周囲のボルテージは急上昇する。
「学食に監査が入るから掃除したいんだけど、人が足りない」
「監査って?」
「食中毒が起こったら大変だから」
学食はナマモノを毎日大量に調理するんだから、確かに掃除はどこよりも大切だ。食中毒が起こってからでは遅い。
「掃除ぐらいでいいなら、任せて」
陽菜も、そして彼女の周りにいる他の美化委員も承諾。
「俺もやっていいか?」
こうなると、ただ制服を鑑賞しているだけの孝平には後ろめたさがのしかかってくる。やはり女ばかりには任せてられない。力や体力なら陽菜や桐葉には負けないし。
「じゃ、手伝ってくれるかな?」
「あ、先生」
「・・・って、ぐわぁぁぁっ!」
なぜか璃紗都先生もメイド服、いや、桐葉と同じウェイトレスで現れた。
「そ、その服は?」
「紅瀬さんと同じく学食よ。手が足りないって言われちゃって」
手が足りないと言われて、ほいほいとウェイトレスに転職する璃紗都先生。何か間違っているが深く考えないことにしよう。
「あはは、わたしがこれを着ても似合わないから、こう君はそんなに見なくてもいいわよ」
背丈は隣で超然とした雰囲気のまま立っている桐葉とほとんど同じで、上着の色こそ違うとはいえ服装も同じ。
しかし、出す魅力というか、フェロモンとかいうものが大違い。桐葉も結構なスタイルなのだが、璃紗都先生は彼女より一段上。しかも年上だけあって制服がはち切れそうだ。
「こ、これが巨乳の魔力、つまりは魔乳かぁぁぁぁっ!」
・・・なんか近くからかなでさんの魂の叫びが聞こえたような気がするが、気にしないことにしよう、うん。
「それじゃ、行きましょうか」
「はい」
教師の璃紗都が先導して、桐葉と陽菜以下の美化委員は学食へ。
「いけねぇ、俺も行かないと」
慌てて孝平が続く。見とれてる男共と同レベルではなく、その上になるためには積極的に彼女たちの輪に入らないと。

「美化委員のみんな、ありがとう」
さすがに人手が来ると仕事も速い。食堂棟もアっという間に綺麗に清潔になった。これなら保健局からの監査が来ても大丈夫だろう。
「いえ、わたし達はこれがお仕事ですから」
この程度当たり前ですよという表情で陽菜が答える。クラスとか、姉を相手にしている時とは違って文句一つ言わなかった。実に立派な態度だ。
「・・・」
「紅瀬さん、あなたも」
美化委員に相対して、璃紗都先生が相変らず無表情な桐葉を自分の横に立たせた。
「・・・感謝するわ」
璃紗都先生が頭を下げると同時に、彼女も頭を下げた。目上の人がすぐ隣にいるとはいえ、彼女としては珍しい態度。
・・・できるじゃないか、紅瀬。なんだかんだいって璃紗都先生や陽菜たちと仲良く掃除してたし。
 何か桐葉にも突破口が開けそうな雰囲気を感じつつ、孝平もまた食堂棟を後にする。今日はとてもいいものを魅せてもらったし。

・・・でも、昼間思い出そうとして、苦しくなったあの感情と思い出は何だったんだろう・・・



(4/4へと続く)




*あとがき
三話です。書いている途中で読んだ雑誌に陽菜の美化委員制服が出てたのでさっそくネタに使いました。
でもそれだけじゃ不足なので、「学食にもはにはにのごとく制服あるだろう」とばかり桐葉を起用(死)
後、鍋を学校に持っていくのは某D.C.でもおなじみですね(笑)

2/4にもどります



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