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 土曜日の午後。駅前のマックで映画までの時間を潰してた。

 映画はやっぱり予告編から見ないとダメでしょ。

 変なこだわりを振りかざされて、一本映画の時間を遅らせることになった。
 つき合わせてごめんね、でも譲らない。って、子供みたいなダダをこねて。

「じゃあジャンケンで決めましょうよ」
「やだ。町田って反則的にじゃんけん強いし」
 犯罪的にジャンケン弱い人に言われたくなかったけど、こうやって言い争ってる間にも、時間はちゃくちゃくと過ぎて行っていて。
 さすがにナオだって、映画本編は頭から見たかった。
「じゃあハッピーセット、おごってください」
 しょうがなく、先生の安月給にひびかない交換条件を出した。

 

 へへへーとナオが笑ったら、先生に変な顔された。
 白いテーブルの上には約束のハッピーセット。
 ハンバーガーとポテトのSとコーラのセット。
 オマケで付いてきた、キティーちゃんの携帯ストラップを指でつまんで、女の子ってこういうのスキだよねえ。と先生がしみじみ言ってる。

 昼時は少し過ぎていたけれど、店内は学校帰りの制服姿の同世代で溢れていて。
 ナオも例に漏れず、制服を着ていた。
 学校帰りにこうやって二人で会える。
 なんだかとても普通っぽかった。
 またへへへーとナオが笑ったら、先生にもっと変な顔をされた。

「こういうオマケ付きとかに弱いです。おなか別に空いてなくてもつい買っちゃう」
「あーそういう消費者心理は分かる気がするな。マック、ガンダムのストラップとかにしてくれないかな」
「先生、ガンダム好きなんですか」
「うん、ザクがほしいかな」
 先生にそういう趣向があるなんて知らなかったなってナオが思ったら、そのまま顔に出てたみたいで、先生はテーブルに身を乗り出して、知らないの?って聞いてきた。
 正直に頷いたら、がーんって言われた。
 わざわざ声に出されると、年代の壁とか見せ付けられたみたいで、少しせつない。
 でも、先生のショックの矛先はそっちには向かわなくて。真っ直ぐで。
 ガンダム知ってなきゃダメだよ。人生ちょっと確実に損してるよ。ってぶつぶつ説法を始めた。

「……なんか悔しいから、今度レンタルして見ることにします」
「あ、じゃあ上映会開いて一緒に見よっか。お菓子とか買い込んで」

 どこで。とか、直結で思ってしまって、ナオは軽い自己嫌悪に陥る。
 心臓は正直に倍速で、素直で可愛いなって思った。
 でも、先生とずっと一緒にいなきゃいけない。って、心臓持たないんじゃないかな。
 余計な心配をしたりした。

 隣の席の学生集団から一際大きな笑い声が上がって、ナオは自然と目をそちらに向ける。
 男の子二人に女の子二人。カップル二つの組み合わせ、なのかまでは分からなかったけど。
 キレイな茶髪を先っぽで二つに結んでる女の子と、はたと目が合った。
 先生とナオをそれぞれ舐めるように眺めてから、ガハハってまた楽しそうに笑い声に参加した。
 もしかしたら、ガンダム好きだったのかもしれないし、他に何か気にかかる単語でもあったのかもしれない。
 あんまり気分のいいものじゃなかったら、見なかったことにする。

 視線をもとに戻したら、先生も隣の学生集団をじいっと見ていた。
 さすがに先生だから、マナーの悪さでも目についたのかなと思って。
 ……先生、どうかした?って、大げさにしないように聞いてみる。

 突然、おいでおいでって先生に手招きされた。それから、右耳貸してねって言われて。
 先生の息遣いがすごく近くなるの分かって、ナオの正直な心臓が飛び跳ねた。
 周りのガヤガヤ騒音に負けない大きさで、でもあくまで内緒話で。
「ねえ、スカート短くない?」

 きょとん、とナオは固まった。

「え。誰のがですか」
「隣の子たちの見てあらためて気になったんだけど……」
 先生の視線がテーブルの下、自分の足あたりに来てると気付いて、ナオは慌てて膝こぞあたりを両手で隠す。いや隠しきれないんだけど、気持ち的に。
 批判の眼差しを先生に向けると、ものすごく真剣な顔で。
「町田のはもう少し長くていいかも」
 なんて言う。
 自分の視点で見比べてみても他の子より短いとは思えなかった。
 それに、こんな先生の顔つきで言われると、ちょっと生徒の気持ちで反抗したくもなる。
「でもうちの制服、このくらいのが可愛いですよ」
「うーん。かわいいとは思うけど……」
 先生は言いにくそうに語尾を濁した。
 ナオは小首をかしげる。
「……嬉しくないですか?」
「いやオレはとても嬉しいけど、……じゃなくて」
 またおいでおいでとされたから、右耳をさし出す。

 また、隣の学生集団がどっと洪水みたいな笑い声を上げたから。
 聞こえづらくなったから、一瞬聞き間違いかとナオは思えて。
 それから意味を考えてみたら、顔の温度が急上昇するの感じた。
(何言うかな、この人は)
「……先生そんなの心狭いですよ。教育者の考えじゃないです」
「でも、嫌なものは嫌だから。譲りたくないよ」

 子供みたいなダダをこねて。

 おなかは、ハンバーガーにポテトでもう十分膨れていたし。
 他にほしいものも思いつかなくて。
 先生の安月給にひびかないもので。
 ナオのスカート丈に見合う交換条件を。

「じゃあ私が負けたらスカート丈長くして、先生が負けたらうちの学校の男子の制服を着るってことで」
「え、なにが」
「じゃーんけーんっ」

 

 

 

 あんなに見たがってた予告編そっちのけで。
 グーパーって、手を開いたり閉じたり、忙しい人になってた。
 終いには頭を抱えて、なんでかな。なんで出しちゃったかな。って、かなりやかましい人になりはててた。
 ええっと、人には反射って運動があってね、先生。
 と、丁寧に説明してあげてたら、確実に本編にまで差し障りが出てくる、とナオは思って。
 しょうがなく、おいでおいでって手招きをする。
 不思議そうな顔をして近づいてくる先生の左耳、無断で拝借して。
 周りの人には聞こえないように。
 ジャンケン必勝法を。

「ええっ嘘ほんとに?!」
 静まり返った映画館に響き渡る。
 折角の内緒話、台無しにするのはさすが先生だった。

 

 

 

 

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