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04. 昨日見た夢 |
神様、懺悔します。 細い細い手首。 間違った方向に。 「美原くん」 くん、と呼ぶ。その声を恋と錯覚したのはいつのことだったか。 「……なに?」 と、目の前の空席を示す。 「いいよ」 彼女はほっと息をつき、ピンクの色の爪を光らせながら、細い手首を返して、椅子を引く。 午後の授業が始まるまでにはまだ20分ほどの余裕があった。 「あの、美原くんって確か真下教授の国際関係論とってたよね?」 とってたような気もする。 昨日見た夢の続きを見てもいいと言うんだろうか。 口に入れた米にグリンピースの味が微妙に染みていて顔が歪んだ。そういうことにしておく。 「あと、その……」 言いよどんだ彼女のためらいは、周囲の雑音がかき消す。 「その伊狭がどうかした?」 彼女の目の前に溜まったためらいを払う。 彼女をためらわせるのは伊狭。彼女を悩ませるのも伊狭。 「あ、美原ー」 人懐っこい笑みを浮かべて手を振り、周りの友人たちと別れわざわざこちらの席にやってきた。 「伊狭、この間の国際関係論のプリント持ってない?」 伊狭はそこで初めて隣の席の女子学生に目をやった。 「別にいいけど。お前もこの間の授業は出てなかったっけ?」 馬鹿だなぁとオレを軽く貶めてから、伊狭は隣の彼女に向き直った。 「えっと、白鷺さん?」 でも、と逡巡する彼女に、伊狭が無理やりにっこりと笑う。 「じゃあ、100円……」 ぺこぺこと伊狭とオレの両方に過剰に頭を下げてから、彼女は食堂をあとにした。 「好き嫌いして、おいしいところを食べ損ねるなよ」 それにどんな意味が含まれたのか聞く前に、伊狭は他の友人に呼ばれ、席を移っていった。 |
お米一粒には百人の神様が宿る。 小さい頃からそう教わってきたオレは、たとえ米一粒だって無駄にはできない。 グリンピースにくっついているものも引っぺがして、口に入れる。苦い味がした。 「あ」 声がして顔を上げると、彼女がいた。 「あの、美原くん、ありがとう」 よかったら2本ともどうぞ、と、少し恥ずかしそうに目を伏せる。 「あー、さんきゅう」 夢を見続けているオレを。 |