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私的フィアナ論:声優編

 『ボトムズ』の声優さんというと?という質問をしたら、おそらく、『ボトムズ』fanの百人中百人が最初に名前を挙げるのは、キリコ役の郷田ほづみさんであることは確実でしょう。単に「主人公役だから」というだけではなく、「郷田さんの声あってこそのキリコ」といった風で、キリコ人気がイコール郷田ボイスへの好評と人気に繋がっているような感があります。
 一方、我らがフィアナ役の弥永和子さんはというと、人気はいまひとつで、「不評」もしばしば聞かれるあたり、なんだか、「キリコ」と「フィアナ」に対する巷の評価がそのまま反映されているような……(^^;;)。

 まぁ、気を取り直して、改めて「フィアナ声」の不評の内容に耳を傾けてみますと、多いのが「オバサン臭い」……うっ、当たっているだけに文句が出ない(爆)。
 弥永さんの『ボトムズ』以前のアニメでのキャリアを見ますと、『闘将ダイモス』のライザ将軍(敵方の女幹部)、『エースをねらえ!』の緑川蘭子(渋めのライバル)、『クラッシャー・ジョウ』のノーマ(これも悪の女幹部)……と、「悪役」「怖いオバちゃん」路線一直線! これだけ見ていたら、到底「ヒロイン役」なんて回ってきそうにない、キャスティングしたスタッフは何を考えていたんだ?と言いたくもなる(笑)。
 実際のところ、弥永さんのキャスティングについての「制作側の声」は、郷田さんと比べるとほとんど聞こえてこないので、なんとも判断し難いのですが……。数少ない資料によると、音響さんだか録音さんだかから「フィアナ as 弥永さん」と聞いて「イメージ通りだ」という発言が出たとか。まさか「悪役」の方の「イメージ」ということはないでしょうから(^^;;)、おそらく、弥永さんの別系統のお仕事「洋画・海外ドラマの吹き替え」路線を狙っていたのかな?なんて推測も立てられます。こちらなら、弥永ボイスのヒロインもアリですし……
 で、「吹き替えのヒロイン声」ということは、言い換えれば「アニメヒロインっぽくない声」ということになるかもしれません。大雑把な印象ですが、八十年代のアニメの場合、声優さんのキャスティングである程度「どんなキャラクター」かが、決まっていたような気がします(最近の作品もそうかもしれませんが、生憎、最近の声優さん事情に詳しくないもので^^;;)。たとえば、榊原良子さんなら理知的美人、藤田淑子さんや小原乃梨子さんならセクシー系、平野文さんなら、小悪魔 or 勝気系、島本須美さんなら清純系……などなど。
 ひるがえって、弥永さんの声から、どんな「ヒロイン」がイメージできるかというと……これが、イマイチ、ハッキリしない(^^;;)。お世辞にも「可憐」な声質ではないし、「オトナ声」ではあるけれど、特に「色っぽい」とか「理知的」というほどでもない。「悪女」役でも、どこか愛嬌があって冷酷に徹しきれない感じだったり、「神秘的」な役をやっても、ちょっと長く喋ると妙に俗っぽい感じになっちゃったり……って、要するに「コレといって特徴のない声と演技」って言ってるように聞こえるな(^^;;)。いえ、けっしてそういうつもりではないのですが、それはまた後ほど述べるとして〜、ともあれ、弥永ボイスというのは、アニメのヒロインとしてはかなり異色で、視聴者が困惑するのもトーゼンかもしれません(笑)。
 なので、もしフィアナ役が、前述のような系統がハッキリした声優さんだったら、あるいはもっと彼女の人気も出たのかも……なんて、ふと思ったりもします。
 #個人的には榊原フィアナが見てみた〜い!<うっとり(*^^*)
 あ、いえ、別に弱気やヤケを起こしているわけではなく(^^;)、裏返せば、そういう風に「××系」といった分類に収まりきれない、掴みどころのないところが、フィアナの、他のアニメキャラとは一味違った魅力である(少なくともわたしにとっては)、とも言えるわけでして……。

 たとえばもし、フィアナの声が、もっと可憐で清楚な感じだったら──「生まれて初めて見た光」であるキリコを一途に慕い、頼り、彼の危機には命がけで助ける、「健気」を絵に描いたようなヒロインになっていたかもしれない。それはそれで可愛くて魅力的(特に男性には)かもしれないけれど……同時期に放映されていた『オーガス』のモーム*1のように、どこか「物悲しさ」や「痛ましさ」を感じずにはいられなかったかも。
 あるいは、もっとアダルトで色っぽい声だったら──キリコは完全に食われちゃうか、でなければ、彼女につられてオトナっぽくなって、「初めての酒にむせる」なんてお茶目なシーンがなくなっちゃったかも……(^^;;)。
 またあるいは、もっと神秘的で、一部スタッフがフィアナについて言うような、「すべてを受容してくれる母性」とやらを体現している声(メーテルみたいな?)だったら──?
 ──なんか、どう転んでも、「わたしの知っているフィアナ」ではなくなってしまうような気がします(^^;;)。

 確認しておきますが、「一途」「健気」「アダルト」「色っぽい」「神秘的」「母性的」……等々、その一つ一つの性質は、弥永さんの声質・演技の如何に関わらず、本編中のフィアナの「セリフ」「行動」「表情」等によって、実際に示されているとは思います。ただ、そこに「弥永ボイス」が付加されると、それらの「性質」を「額面通り」には受け取れなくなるような、少々異なるニュアンスが加わるように感じられるのです。
 先ほど書きかけた「弥永ボイス」の「特徴」ですが、私見では、「我が強い」というか、「したたかさ」や「タフさ」の感じられるところ、という気がします。で、作中では「一途で健気で母性的」に描かれているフィアナに、「タフ」な弥永ボイスが加わるとどうなるか?
 少なくとも、わたしが作品から感じ取った「フィアナ」は──

 神秘的で、気品があって、毅然とした貴婦人。その内面は、一途で純粋、惚れた男にはどこまでも優しく、愛情深く、命がけでついてくる。
 ……でも、けっしてそれだけではない。時に見せるあざとさ、エゴイズム、保身や欺瞞。踏まれても蹴られても挫けない、雑草のようなしぶとさ。
 「聖女」と「悪女」、「大人の女」と「幼女」の間をめまぐるしく行き交って、どれが本当なのかわからない(きっとすべてが本当なんだろうけど)。
 キレイなだけの薔薇ではなく、刺もあるし、どうかするとアブラムシもくっついてくる。だけど、そういった「イヤらしい部分」を持つが故に、「母性の権化」だとか「(男の)理想的女性」に留まらない、血肉を持った生身の女。

 ──といったところですが、ここでいう「血肉」、すなわち「あざとさ」「しぶとさ」、全体的な「捉えどころのなさ」等を、わたしが彼女から感じる最大の要因となっているのが、弥永ボイスなのではないかと…。

 わりとアニメキャラって、キャラ表やキャスティング観ただけで性格が分かっちゃうようなところってありますよね。着替えたりシャワー浴びたりするのも「お約束のサービス」って感じで……。
 でも、フィアナの場合、あんなにナイスバディで、初っぱなから景気よくヌードも曝しているのに、全然「サービス」って感じがしないし、「ロボットアニメのヒロイン」「人間兵器」って設定の割に、全然戦わないし……って、その辺りで「記号」や「お約束」でアニメキャラを観るのに馴れた視聴者は欲求不満を覚えるのかもしれませんが、わたしにしてみれば、そこが彼女の「リアルさ」、他のアニメキャラとは一味違った魅力と感じられるワケです。
 現実の人間は、そんな簡単に「××系」なんて分類できないでしょ? その時々で「健気」にも「セクシー」にも「母性的」にもなるけれど、「常に」そうであるというわけではない。
 別に「記号」や「お約束」で作られてるキャラクターが「悪い」と言っているわけではありません。むしろ、そういう部分をきっちり押さえておく方が、「物語」としては、基本的には「望ましい」のではないかとも思います。
 しかし、『ボトムズ』の場合、主人公のキリコにしてからが「お約束」のキャラではない。帰還兵らしい荒んだふてぶてしさの半面、対人関係(特に女がらみ)には妙にスレてなくて純情(っつーか鈍くさい)だったり……と、様々な要素を併せ持っています。そもそも「一見クールでニヒルなタフガイだが、その内側に人一倍ナイーブな心を隠し持つ…」というのは「主人公」というよりは、主人公の相棒やライバルになる「二番手キャラ」のタイプですよ(^^;;)。その辺りで、すでに「お約束」は崩れているわけで……
 そういう「オキテ破り」な主人公に対するヒロインが、ありがちな「××系」じゃつまらない。フィアナが、キリコに劣らず多面的で、その時々でイメージが変わるようなキャラだからこそ、あのふたりの、単に「運命的な出会いで結びついたふたり」「孤独な兵士と美しき人間兵器」なんて一言では表現しきれない、複雑で奥行きのある関係が構築されるのではないかと思うのです。
 そういう意味で、なにかと評判の悪い「オバサン声」も、フィアナの「多面性」に寄与しているのではないか、なんてことを考えるわけです。

 別にわたしは「弥永fan」という訳ではないので、彼女の声について「好き嫌い」を言う気はありませんが、ただ、良かれ悪しかれ、既に完成した作品を元に「わたしのフィアナ」のイメージを作り上げるという原則からすると、「オバサン声」だろうとなんだろうと受け入れざるを得ない、今更変えられないというか……(^^;;;)。
 というわけで、例によってこじつけと詭弁のきわみではありますが、こんな考え方もありかな、と、思っていただければ幸いです。

(2001.03.11)


*1:いわゆる「メイド・ナースロボ」とでも申しましょうか……(^^;;)。見た目は12〜14歳相当の少女(キャラデザ:美樹本晴彦)で、お顔はロリロリですが、身体つきもそれに見合って小柄で未成熟なのが、昨今のグロテスクなロリ顔巨乳娘と違うところ。スケコマシでちゃらんぽらんな主人公の、明るくしっかり者な「妹分」的な存在で、室井深雪さんのベリベリキュートなお声のせいもあって、主人公に健気に尽くす姿は、女の目から見ても実に可愛らしゅうございました。
 以下ネタバレにつき反転。 それだけに、最期がとっても切ない……(T_T)。実は彼女は、体内電池を使い切ったらそれきり再チャージ不可の、「使い捨てロボット」だったんですね〜(基本的な寿命は人間より長いらしいけど)。そのことを自分でも知っていながら、主人公の恋人(彼の子供を妊娠中)を守るために、なけなしのエネルギーを使い切ってしまうのです。「だって、ミムジィさんがいなくなったら、桂さま、悲しむじゃないですか」…って。そりゃ、モームの気持ちも、その命の重さも、充分に描かれてはいたし、主人公もちゃんと(それまでのいい加減な態度から一変してシリアスに)悲しんでくれたけどさ〜。
 当時のOUTの記事に、「人の形をして人の心を持ったペット…。ホントにあったらさぞ売れることでしょう…だけど、そんなの持って喜んでいる人間を、信用したくはありません。」という一節がありました。当時のわたしは、単純に「モームの死」と、彼女を喪った主人公の「悲しみ」に涙していたのですが、最近になって、この一節を思い出して、今更ながら彼女の「死」に対する後味が悪くなってしまいました(^^;;) 。
 例のアレ以来、観客の「悲劇を浄化する心地よい涙(カタルシス)」を誘おうとしているのがミエミエで、「個々のキャラクターの尊厳」の扱いに疑問が残る作劇が大嫌いになったもので。別に『オーガス』がそうだと言ってるわけではありませんが……  


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