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楽譜(参考運指つき)
楽譜(音の高さと長さの情報以外はほとんど削除した状態)


初心者用プレリュード ニ長調 BWW925

一般的な模倣対位法ってやつなんですかね。
特にフーガでもカノンでもない、普通によくあるバロック風模倣対位法。
途中意味不明なテノールが乱入してきたり、最後完全4声化したあげくバスがオルガンのペダルポイントと化したり、声部管理はルーズですけど、そのルーズさをもって偽作とされたわけではないと思います。
そんなのはバッハ本人の真作にだっていっぱいありますから。
なんとバッハの作じゃなかった、というのが衝撃的なニュースとして世界中を駆け巡ることもなく、初めからどうでもいい作品として放置されてるってのは、まあ信じられない話ではないんですが、この曲をこよなく愛する者としては寂しい限りです。
これはバッハの息子の作らしいですね。
ったくお前は才能がないとか小突かれながら一生懸命つくってどうにか合格点をもらい、親父の名前で出版する曲集に入れてもらったという噂。
心あたたまるその話に負けず、曲も暖かい雰囲気に満ちています。
パッヘルベルのカノンですっかりおなじみの「T-X-Y-V-W-カデンツ」って進行は、フォリアのT-X-T〜やフラメンコのT-Z-Yあたりと同じで定型みたいなものなんでしょうか、いろんな時代のいろんな作曲家にいろんな形で使いまわされてますね。
この曲でも中間部でフルに使われてます。出だしのT-X-Yの時点ですでにそれっぽい雰囲気は漂っていて、暖かさ穏やかさは最後まで途切れることなくほぼ一本調子で続きます。
ひねくれたところが一切ないことから偽作とされたのだとすると、さもありなんという気がしないでもないですけど、実際にはきっと違うでしょう。一本調子な曲は親父バッハの曲にだっていっぱいある。

ところでこの曲、初心者用曲集なんてものに入ってるわりにはそんなに簡単じゃありません。
いや、難しいか簡単かと問われれば、どんなにヘタな人でもひたすら練習でどうにかなるんで、難しくはないと答えるしかないんですが、最後の数小節の指の動きが、何というか点々々な感じで、「えー、自分ってば、こんな初心者用の曲でつまづいちゃって」とか、悩む必要はないです。