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楽譜(参考運指つき)
楽譜(音の高さと長さの情報以外はほとんど削除した状態)


ゴルトベルク変奏曲〜第3変奏(同度カノン)

たぶんここからがバッハの腕の見せどころです。
定型バス上でのカノン。
なるほどこういうことをやろうとするなら、バスラインのしばりもゆるくするしかねーだろなと。
パッヘルベルのカノンみたいに定型一巡してから同度で追っかけるなんて呑気な話じゃありません。
定型一巡する間に先行追走ともに完結、それを同度から9度までやってのけようっていうんだから只事じゃない。
こんなアホなこと考えた人って他にいるんですかね。
どれだけ作曲技術に自信があるとこんなことを思いつくのかまったく想像が、いや、少しは想像つかないかと思って、昔ちょっとだけ試したことはあります。
6度カノンあたりならこの定型バス上でつくれるかも、と。
決め手はたぶん定型バスの「くずしどころ」を見極めるセンスなんだろうと、当初は漠然と考えていました。
センスに自信のない人間にとっては、しばりはきついほうが取っ付きは楽です。
定型バスは取りあえず守れるところまで守る。苦しくなったらちょっとだけ崩す。
けっきょくはバスが苦しくなるより先に上のカノン2声のほうが「もう進む先ねーやん」と。
自分の場合センス以前の問題、対位法も和声法もちょっとかじった程度の知識しかなく、やれることの引出しが頭の中に不足していたというのが失敗の最大の理由だったと思います。
21世紀にもなってバッハ風のカノンなんてつくったって誰も誉めてくれません。
鍵盤上での楽な指づかいを考えることにアタマ使ったほうが充実した時間が過ごせます。

刻々変化していくバス上での同度カノン作曲ってのはかなり面倒くさいと思うんだけど、バッハほどの人だとそうでもないのかな。
そんなに時間差おかずに同じ音程で追いかけるわけだから先行部と追走部はあまり離れた音程にはいないことが多い。
どっちがソプラノでどっちがアルトかなんてことすら初めから分からないわけで、上下はしょっちゅう逆転する。
追走が単なる「繰り返し」と誤解されるおそれもあったり、ときおり調性感も希薄になったり(この第1変奏のバスはちょこちょこちまちま無窮動な部分が多すぎて和声分析もやる気になれないけど、最初の1/4あたりはト長調のカデンツなんてやってんのかな。なんかやってないような気がする)
だいたいソプラノ、アルト、バスの3声で出来た対位法鍵盤音楽の場合、真ん中のアルトは右手左手てきとうにバラけて受け持ったほうが弾き分けやすいんだけど、ソプラノとアルトがくっつきすぎてると、どうしても右手ばっかりが2声をやることになる。というわけでこれは演奏するほうにとってもちょっときびしい曲です。9曲あるカノン中いちばん難しいかも。