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楽譜(参考運指つき)
楽譜(音の高さと長さの情報以外はほとんど削除した状態)


ゴルトベルク変奏曲〜第10変奏

同じ言葉が別な場面では違う意味になる、ってのは一般的な話としてよくあることなんでしょうけど、音楽の世界のそれはどうもタチの悪いものが多い気がする。
ゴルトベルク変奏曲について何か書こうとすると、バス主題って言葉は避けられないわけですが、変奏曲中にはフーガみたいなものもあるから、フーガ主題なんて言葉もうっかり出てきちゃったりする。
バス主題とフーガ主題、意味はまるっきり違うけど、どっちも主題。
面倒な話です。

この第10変奏は小フーガなんでしょうね。
手持ちの楽譜にはフゲッタって書いてある。
バッハ本人が書いたのかな。
本格的なもんじゃなくテキトーに逸脱があったりしてついでに規模が小さければ小フーガってことなんでしょうか。
何がどうなっていれば本格的なのかはっきりとは分かりませんけど、よく本格的と呼ばれる平均律クラヴィア曲集中のフーガと比べるといろんな点でちょっと違うなとは思います。
まずバスでフーガ主題提示(これにはバス主題の構成音も含まれてる)。
次にテノールが5度で提示、5度には違いないけど転調はしてませんよね。ト長調のまんま。
これは逸脱なのかな。
でもそういう例って「本格的」なやつの中にもないですかね。
いや、べつにあってもなくてもいいんですけど。
転調してないから原調復帰用のつなぎ不要のままソプラノ提示に突入。
ようやくニ長調に転調。
で、アルト。ここは逸脱ですね。お前はどの音程でやってんだと。
バスの大幅変更がきかない以上、逸脱するのは最初から分かってたようなもんで、それをどうのこうのいうのもヤボな話。
いや、何を言おうとしたのかというと、フーガってのは本当に明確な形式をもってるのかと。
カノンだったら分かりますよ。
形式も何も、ちゃんと追いかけてるかどうかは耳で分かる。最悪でも譜面見りゃ分かる。
フーガってなんだか予備知識をもとに聴いてるようなところないですか。
実際には、〜っぽく聴こえるか、そうじゃないかだけの話だったりしませんかね、しませんかね。
いや、しないならいいですごめんなさい。

演奏はきっと簡単ではないなと。
フーガ主題のトリルはたぶん省略しちゃダメでしょ。
ベートーヴェンの29番ソナタ(きっと100年練習しても弾けない)終楽章フーガ主題でトリル省略しちゃダメなのと同じぐらい、ダメでしょ。
このトリルはほぼ決定的な性格付け。省略したら音楽変わっちゃう。
変わっちゃうだけで、ダメになっちゃうとは言い切れないんで、まあどうしてもというなら。
もともと自分はトリル省略に関しては「ええやんええやん」派ですが、ここは多少無理しても速度落としてもちゃんと弾きたいなと。