さあ、連載の再開です。
結局、丸一年のお休みでしたが、その間にコミックスの第十巻や巨大設定デザイン集『ナイトフラグス』の発売、そして、これは個人的なことになりますが、ドリームキャストのオンラインゲーム『ファンタシースターオンライン』で実際に作者の永野護先生と一緒に遊ばせていただく機会に恵まれたりといったイベントがあったせいか、それほど長い休載であったという印象はありませんでした。
・・・・・・いえ、正直に申しますと、今回の再開があまりに楽しみなあまり、心の中に満ち溢れるその期待を認識してしまったら、待ちきれなくて発狂してしまうのではないかという恐れのため、「FSSの再開」というイベントの存在を意識して忘れていたというのが本当のところです。
だからこその、シャッターを上げたばかりの書店に駆け込み、アニメ雑誌のあるコーナーにたどり着いて、待望の月刊ニュータイプ誌五月号の表紙を目にした瞬間の全身が蕩けてしまいそうな甘美な衝撃。
それでは参りましょう。
例によりまして、読み解きは基本的に見開き単位にて行ってまいります。
ニュータイプ誌の表紙
「あ、あんただれ?」
思わず声に出してそう呟いてしまいました。その佇まいそのものが殺気を発しているようなダークブラウンのMH。そして、その胸元部分に立っているおっそろしく細身な女性騎士。
二月号でちらりと姿を見せた、重帝騎ファントムとスパーク? とかちらりと思ったんですが、見比べてみるとぜんぜん違う。しかし、この髑髏を思わせるフェイスガードは、ルミラン・クロスビン設計のMHの特徴が色濃く出ていて、なんらかの関係をうかがわせてくれます。
これです。
読者にいきなり叩き付けられる無慈悲な新デザイン。
最近にFSSの読者になった方は面食らってらっしゃると思いますが、ファン暦十二年の僕も同様に面食らっております。
突き放しにかかる作者とそれにすがりつくファンという、『金色夜叉』の有名な場面のような経験をえんえんと繰り返す、それが永野先生とファンの関係なのです。
その突き放し方に圧倒的な魅力があるからこそ、僕らはこうやってFSSをじりじりと取り囲み、何度蹴り倒されようとも、その魅力を一片たりとも見逃すまいと、目を凝らしているわけです。
ああ、名前もわからぬ騎士とMHよ。なぜにソナタはそれほど格好良いのか。なぜにソナタはそれほどに美しいのか。
せめてこの者達の正体を知らねば死んでも死にきれぬわい、とばかりに、中を開きます。
すでに、この一年間蓄積していた僕の中の「FSSへの期待」というものが、たった一枚の表紙絵の謎に覆されてしまっております。
特集ページ1・クロスミラージュ(雄型)
バケツ頭の便利屋さん、といえばおなじみのクロスミラージュ、その初公開デザイン「雄型」です。
コミックス二巻にはディッパ博士の駆る「カルバリィC」が、そしてアイシャがアシュラテンプルと戦った「雌型」は五巻で登場していますが、ずっとその存在を予告され続けてきた雄型もついに登場です。
半透明も、板バネも無い装甲形状は、改めて見るととてもシンプルで、ちょっと物足りなくすらあります。すでにそういった新デザインに目がなれてしまったようです。
それでもこのシンプルな印象のMHの気になる部分を挙げるとするなら、脚部のかかとやつま先の形状でしょうか。
ミラージュのMHといえば、LEDに代表されるその巨大なつま先からかかとにかけての、安定感のある大きなデザインが僕の印象としては強いのですが、こいつは妙にそれが小さくなっています。恐らくは、このMHの「完全な戦闘用でありながら、偵察、後方撹乱の任務もこなし得る」という特殊な用法をかなえるための、こまわりの利く設計なのでしょう。
このページと、次のページに、大きく「嚆矢koushi」という言葉が貼り付けられています。
手持ちの小学館の辞書で調べてみましたら、「かぶら矢」とありました。戦の開始を告げる、甲高い音をたてて飛ぶ特殊な矢のことです。まさしく、これより戦の開始です。
ちなみに、手持ちの角川の辞書には載ってませんでした。あはは。
特集ページ2・アイシャ
ルーマー王国の王位を継いだため「アイシャ・ルーマー女王」となったアイシャです。
すみれ色のドレス。うーん、相変わらず、きれい、かわいい、さりげなく豪華。
テキスト部にいろいろ面白いことが書いてあるんですが、はやく本編の読み解きに移りたいので割愛します。にげ。
表紙
いよいよ本編です。
表紙は非常にあっさりと、黒地に「THE MAJESTIC STAND」のロゴ、それだけです。
最初の見開き
開けてびっくり。
ついに本編初登場(例のシルエットクイズは除く)、FSS作品史上最強の個人、マキシです。
いきなりそこは天上世界。絶対神アマテラスオオミカミに「ファーンドームの星王」と呼ばれながらの、対話のシーンから始まります。
この部分、今回の物語の構成において非常に重要な場面なのですが、会話からそれを読み取るのは少々難しい演出になっております。
神の主観時間、などという矛盾した言葉を使わないようにするならば、すべてが起こった後の話、とでも表現しましょうか。それもまったく正確な表現ではなく、なぜならその物語は作品内ではこれから語られるものだからです。
とにかく、ファーンドームの星王は言います。ジョーカー星団にいたころの心残りを、今、思い出しているのですと。
ページ左上に結ばれている笑顔のシルビスの像は、天上世界では思いと現象の間にはなんの差も無いというような、幻想的な表現になっているように思います。
二つ目の見開き
これまたびっくり。
場面は変わって・・・・・・一番手前に大きく「暁姫」、一段下がって「エンプレス」、その向こうに今回表紙にあった謎のMH、そしてさらにその向こうには三騎のエートールが、それぞれ待機状態で佇んでいます。
「いつまでこうやってるの? 城に突入するよっデプレ兄さん!!」
ひときわ大きく響く、暁姫の騎士の声に、デプレが答えます。
「だめだ!! マキシ! わかってるのか?」
暁姫の騎士はやはりマキシでありました。城にはマキシの母であるミースと、彼らの父であるカイエンのパートナーだったファティマ・アウクソーが囚われているというのです。
そう、これは、マジャスティックスタンドも終盤の、ハスハ奪回作戦の直前描写であります。
大きな流れをつかむには、次の見開きまで読む必要がありますが、とりあえずはまずここで紙面のほとんどを占領している三騎のMHを順に見ていくことにしましょう。
まず、暁姫です。
別名を、LEDミラージュB4デストニアス。ああ、かっこいい名前。
ミラージュのダガーが刻まれた半透明装甲が美しく、その内側の精密なフレームは露骨にメカメカしていて、フリークス的な色気すら感じてしまいます。肩部装甲にはきっちりとナイトマスターの紋章。
頭部から後方に二つ、長く伸びたカウンターウェイトは、恐らくその左手に持たれた恐ろしく肉厚な実剣を前に持って構えたときに、全身のバランスがとられるように作られているのでしょう。この部分を見ただけでも、思いっきりピーキーな操縦感覚を必要とするMHであることが見て取れます。
先日、ガレージキットメーカーであるボークスの秋葉原のショールームで、暁姫のキットを見てきました。去年の十一月に上野の博物館で見た中国国宝展に展示されていた至宝の仏像たちとも比肩しうるように思えるほどの、すばらしい作りこみが施されたキットで、眺めていてもよだれが出てきてしまうほどに精巧に作られていました。
しかし、今回の、このついに連載中に登場した暁姫は、当然、今までに公開されていた設定画よりも細部が細かく、また、横からの描写なのでこれまでに見えなかった部分もはっきりとわかるので、ひょっとして、あの素晴らしいガレージキットにも、また今後改修が必要になってしまうのではないかなどと、いらぬ心配をしてしまっております。
こうしてみると、扁平な頭部の形状がまた特殊だなあと思います。
次にエンプレスです。
騎乗するはデプレ。ページ左下に顔のアップがありますが、好青年に育っております。いや、まだ少年と呼んで差し支えないような幼さがあります。
ナイトフラグスに曰く、彼は成長が遅く、弟のマキシに成長を追い抜かれてしまうとのことなので、この位の外見のまま、まだしばらくの時を過ごすのでしょう。
エンプレスは、肩を覆ういつもの白い装甲を外した状態で立っています。というか、肩の装甲はいわゆる可動ベイルなのでしょう。エンプレスは二百年前に大活躍したMHですし、これを参考に、エートールの特徴的なアクティブバインダは作られたのかもしれません。腕の部分の浮遊式ベイルも、とりあえず見受けられません。
ひょっとしたら、このハスハ開放戦に臨むまでの戦闘で失われてしまったりしているのでしょうか。
さあて、件の謎のMHです。
まず、シールドにでっかくミラージュマークとギリシャ数字の十です。ミラージュの十番といえば、表がハインド、裏がスパークです。ということは、まあ、スパークですね。ナイトマスターの紋章も付いてるし。
と、騎士に目星がついたところで、依然としてこのMHについてはさっぱりわからない。装甲はともかく、断片的な情報を汲み取っていくと、フレームは例の「ファントム」に非常によく似ているように思うのですが、角の形状はまるで違います。これは多分、現時点では名称の判明していないMHと思ってしまってよいのではないでしょうか。
一応、クロスビンの設計によるものの中で今までに名前が出ていて姿が公開されていないMHとして「グルーン・エルダグライン」の可能性も挙げておきます。でも、グルーンはジャスタカークのMHだしなぁ・・・・・・。
こうして、未知のデザインに苦しめられること、これがFSSファンであることの最大の快感のひとつであります。マゾです、ええ。
ちなみにここまでは、本屋さんで立ち読みでした。このページを見て、いきなりのマキシの登場に唇を噛んで驚き、これはやはり家で熟読せねばとレジに向かったのでした。
三つ目の見開き
どげ〜んと出ました、飛び出しそうなほどおっきな目ん玉のかわいこチャン。さらりとエグイことを言ってのけながら、その幼い純真さと、内に備わった狂暴さが口調に出ています。
これがマキシです。うわさに違わぬ美少女っぷりです。男の子ですけど。
さて、「母」であるはずのミースの命が危ないというのに、「戦闘区域に人がいたって戦う」という一般的な理論に基づいて平気で突入を進言するマキシを、「バカッ! マキシのバカッ!! わからずや!」とデプレが怒鳴りつけます。
実の母ではなくとも、父カイエンとの間にマキシをもうけた、「この世でたった一人の本物の母様」であるミースを慕って、デプレは怒鳴ります。
この場面は、人間的な感覚の欠落しているマキシを、仲間がどうやって押さえるか四苦八苦するというシーンです。このころ、マキシというのは、仲間でさえ扱いに手を焼くほどの問題人物であったわけです。
マキシは、そもそもバランシェの作り出した四十六体目の作品であり、その特殊な遺伝子操作を行われた(おそらくはミースの)卵子に、超帝国の最強騎士、剣聖スキーンズとヤーン・バッシュ王女が、二人の受精卵をドラゴンに託し、それをこれまたバランシェが受け取ってファティマ・クーンの体に宿らせて誕生したカイエン、その遺伝子を組み込んで生まれたという、超人類なわけであります。
実も蓋も無い言い方になりますが、これはもう、よくぞ人間の形で生まれたものだなあ、というのが、まっとうな評価なのではないでしょうか。
そんな彼がやがて人間らしい心を持ち、タイカ宇宙へ渡り、ついには神になっていくという物語が、FSSのエピソードのひとつとしてこれからかなりの時間をかけて語られていくわけです。
ここで、ビルトが戦況を報告してくれます。この時点でのマスターは、ワンダン・ハレーであるようです。コマの向こうにはバルンガ隊長も健在です。
ハスハント市の西壁には斑鳩王子とタイトネイブの率いるミラージュ騎士団が布陣完了。
南壁には、アルル、セイレイ、マイスナーの暴風三王女とディスターヴ隊。
東壁はハスハの精鋭として名高いスキーン隊になんと、すでにクバルカンの法王となっているミューズのバング隊が加勢。
そして中央北壁には「ナイアス様の”ファントム”」と聖導王朝騎士団。
ほとんど、FSSオールスターズといった布陣になっています。(この場面で名前の出ていない人物に付いては、大変気にかかるところです。また後で記述します。)
コミックス十巻の最後の書き足し漫画を読んで以来、斑鳩とタイトネイブの関係が気になっていたのですが、ひょっとしたらこのお二人、ちょっといい仲になってるんだったりして、とか邪推。三王女の揃い踏みも、きっとここにいたるまでに相当な紆余曲折があったのではと想像されます。そしてミューズ率いるバング隊の参戦。『ナイトフラグス』にはマジャスティクスタンドの終盤にクバルカンの参戦の気配ありと記述されていましたから、まさしくこれは魔導大戦の終盤なわけです。そして、「ナイアス様の”ファントム”」ですが、今回登場している「ミス・マドラ」と呼ばれる謎の女性がそのナイアス様なのだとしたら、これはもう素直に、さっきから僕を苦しめている件のMHをファントムとして認識してしまってよい、ということになりそうです。ちなみに、ミス・マドラがスパークなのは間違い無いと思われます。ミラージュの十番付けてますから。推測ですが、二月号で公開されたファントムは、大戦初期の装甲形状で、今月号の憎いヤツは大戦末期のスパーク用チューン版、ということなのではないかなあ。
実はこの場面、キャラクターの配置に関して解釈に困っております。今この場に描かれているデプレやマキシたちは、上記のどれかに属しているのか、それともこのハスハント包囲網とは別に、バッハトマの城の前にいるのか、書かれている情報からは判断しきれないのです。バッハトマの王城というのがハスハントの中にあるのでしたらスッキリするんですが。
ビルトの報告を聞く、スパリチューダとコンコード。報告の最後に、「今”エスト姉様”が到着した」とギラから連絡があった旨が付け加えられます。
左のページに入って、折り目正しいフレアスカートに大きなヘアバンド、なのにどこかアブノーマルな雰囲気の漂うミス・マドラが語り始めます。
四十五年前にバッハトマの黒騎士のファティマとしてハスハントを壊滅させたエストが、今度はハスハント開放のためにバッハトマと戦うというのです。
黒騎士、エストといえば、われらがヨーン・バインツェル君。
エストがこちらの陣営についたということは、少なくともバッハトマの黒騎士デコースは倒れたということです。ヨーンが本懐を遂げて、ひょっとしたら四代目の黒騎士になったのか、それとも・・・・・・。
と、ここまで書いたところで、時間がきてしまいました。
書きはじめからすでに五時間が経過しようとしておりますが、まだ全体の半分、といったところでしょうか。
この続きは、翌十日付けの更新にて。
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