一日遅れました。ごめんなさいまし。


三つ目の見開きの続き

 黒騎士とエスト、そしてヨーンに思いを馳せたところまででした。
 考えてみれば、黒騎士というのはFSSという作品の冒頭をLEDの相手役として飾り、しかも、それがFSSという作品の「エンド・エピソード」でもあるとされているわけですから、ある意味ではLEDと同等にFSSを象徴するキャラクターなわけです。
 この第六話でも、ヨーンとエストにまつわる話は魔導大戦と並んで物語の中心に据えられるそうです。すでに短くは語られたエピソードですが、はるか未来のジュノーにも、モンド・ホータスという黒騎士が登場します。
 そもそも「黒騎士」という言葉だけで相当に格好良い印象がありますが、それをここまで具現化している作品には、ほかにお目にかかったことはありません。

 さて、バルンガ隊長(このころにはもう”隊長”ではないでしょうけど)が、「ミス・マドラ」に声をかけます。敬語です。
 誌面から読み取れる少ない情報から考えてみますと、バッハトマの侵攻によって一度崩壊したハスハ王宮の人々が、ミラージュやクバルカンの力を借りて今まさに王都ハスハントを取り戻さんとしている場面なわけですが、そういった立場上、手伝ってくれているミラージュ騎士には敬語になるのも道理、といったところでしょうか。
 マドラがバルンガに請われてマキシを抑えにかかります。
「皇子の言うことを聞けば、この私から剣聖の称号を渡そう! 欲しかったんでしょう?」
 マドラはほぼ間違い無くスパークなわけですが、どうやらこの時代、剣聖の称号はこのスパークが持っているか、もしくは預かっている、そういう立場なようです。
 コミックス十巻でデコースがスパークのことを「慧茄の出来損ない」と罵るシーンがありました。慧茄自身がスパークのことを「すごい騎士になっている」と評したこともあります。超帝国直系のカイエンや、その上をいく(と思われる)マキシをのぞけば、スパークが慧茄から剣聖を継いでいるというのも納得できるところです。
 そして恐るべきは、騎士として強い盛りであろう年齢と思われるスパークをして、まだかなり幼いにもかかわらず、剣聖を譲ってもよいと思わせてしまうマキシの戦闘能力です。それはまだ誌面には描かれていませんが、次のコマからのスパークのセリフは、マキシの能力と性格を想像させ、読者を震え上がらせるに足るものでした。

「これはゲームだ そなたの母上を殺さずに城を制圧する!」
 ハスハの復権がかかった一戦も、マキシにはゲームと理解させるほうが都合がよいのです。つまり、それくらいに、まだマキシは物事がわかっていない。
「そうしたら君の好きなようにするといい」
 敵の城に飛び込んで、動くものすべてを殺し尽くすということです。
「ただし!!」
「ミースは殺しても 犯してもいけない! 我慢しなさいっ!!」
 なんという過激な言葉でしょう。特別に、繰り返しこう告げておかねば、マキシはそれをしてしまう恐れがあるというのです。
 これまでの部分で、マキシは一応、ミースのことを丁寧に母様と呼んでいました。しかしそれは、デプレのような母を慕う心から出たものではなく、おそらくは、まわりからそう呼ぶように教えられたからそう呼んでいるにすぎないわけです。

 連載に登場する前から、ファンの間では極めて人気の高かったマキシですが、果たして今回の初登場に際しての、恐るべきこの言動、どのように皆さんは受け取られましたでしょうか。
 設定上、かなりの”壊れた”キャラクターだろうとは想像していた僕も、衝撃を禁じえませんでした。ここ最近のキャラクターのなかでも過激さという意味では頭ひとつ飛びぬけていたスパークでさえも、声を張り上げて静止しようとしています。


四つ目の見開き

 たっぷりの毛髪を束ねるおおきなリボンが可愛らしいマキシが、「うー 剣聖・・・・・・」と、幼児の自制心を発揮している場面に、もくもくと雲のようなものがかかる演出とともに、舞台は天上世界に戻ります。
 U・R・Iやシルヴィスもいます。冒頭に出ていたシルヴィスはやっぱり本物だったかな?
 さて、この見開きの内容も強烈です。神々の会話は、いままでのFSSには登場しなかった新たな視点からのものになっています。
 天上世界のマキシは、ハスハの出来事に干渉し、心残りを清算したいようです。そして、アマテラスオオミカミはそれを制限付きで許可します。
 これはちょうど、僕らがコミックスや年表を読む感覚と同じなのではないかと思います。僕らは作品に干渉することはできませんが、そこは、一読者と神の違いです。
 この後、舞台は魔導大戦の始まる3030年へと一度時間が戻ります。そこから、今回の前半のシーンまでの四十五年間というのが、この第六話の主な内容になるようです。
 その時代を生きるキャラクターたち、それを俯瞰している神たちに、読者の視点も巻き込んで、さらにはアマテラスオオミカミは読者をも超えた視点に立っている気配をみせており、そういった何重にも入り組んだ入れ子状の構成で、いよいよ魔導大戦は幕をあけるわけです。

 マキシは「心残り」があるといい、それを「四十四分間の奇蹟」で償うといいます。
 その奇蹟の内容、いや、そもそも、その「心残り」の内容こそ、大変に気になるところなわけで、今回の話はその重要性を示唆しているわけですが、ここで僕が注目したいのは、そのマキシの干渉によって生まれる二つの歴史です。
 順当に考えて、マキシが心残りを作ってしまった歴史Aと、今回の干渉の結果それが解決される歴史Bという、二つの物語がこれから語られる可能性をもっているわけです。
 僕の知っている限りでは、ジョーカー星団でのマキシは、デプレたちと協力してハスハを開放した後に、スタント遊星にまつわる忌まわしい出来事によって死亡し、そしてタイカ宇宙へ送られていくはずです。さて、この流れは、歴史のAとB、どちらの後に連なる物語なのでしょうか?
 神が歴史に干渉をします。FSSの年表に記されている出来事は、干渉前のものなのか、干渉後のものなのか。僕の好きなタイムパラドクスものSFのようなわくわく感があります。
 まあ、おそらくは、その四十四分間の奇蹟というのは歴史の大きな流れに変化を与えるようなものではないのでしょう。アマテラスオオミカミに曰く「その程度・・・塵以下の影響もあたえますまい」だそうですから。
 「この物語が神話であることを示すため・・・」とのお言葉もあります。神話はSFではありません。科学や複雑な物語の構造といったものを通り越して、神の力を示す物語です。
 そして、アマテラスオオミカミはそれを「”ニュータイプ”の読者の方々」にも向けたメッセージとしても発しています。おお、全次元万能神は僕らのことまで視界にいれていらっしゃる。「お解りい頂けよう・・・ふふ・・・」僕らに何をわかれというのでしょうか。文法どおりなら、FSSが神話であることを、となりますが、後についた笑いが、なにかそれ以上の意味を感じさせます。
 タイムパラドクスなどという、物語をわかりにくくする構造はさすがに使われないと思いますが、僕は何か、今回の第六話では、いままでにFSSでは見られなかった物語の語られ方が使われるのではないかと、直感的に思うのです。そしてそれが登場するのが、「四十四分間の奇蹟」なのではないかと。

 それにしても、この天上世界の展開には独特の間と妙があって、実に味わい深く、読み返すたびに気づかされることがあります。
 今もふと、この見開きの最後の、目を伏せたマキシの表情に、どこか暁姫の面影を感じました。マキシが神になっていく、次元を超えた道のりの中で、いつしかその愛騎暁姫ともシンクロするのでしょうか?


五つ目の見開き

 不気味に黒い影を落とすエートールの群れを後方の斜め上から見下ろすショットに、やっと「FSS」のタイトルコールと、「#6 MAJESTIC STAND」「PART:1」「BOTH:3030」「=ハスハ崩壊=」という、時と場所、シーンタイトルが登場です。
 ならんでいるエートールのうち、先頭のものだけ装甲の形状が違います。
 肩の装甲が動かなそうなので、ひょっとしたら、ソープからカイエンがひったくってきたというエートールの装甲をつけたシュペルターかもしれません。あたまにS字のマークでも付いててくれれば確証がもてるんですが。コミックスの九巻187ページにAP騎士団のそれぞれの支隊の紋章が見られるのですが、どれがどの隊の紋章だかわからないのでどうにも絞り込めません。・・・・・・まてよ。どこかにAPの紋章と支隊名が並べてある表があったような。うう、みつからない。


六つ目の見開き

 ハスハ共和国の首都、静まり返った夜のハスハントです。一国の首都だというのに、街に光り無く人もいません。
 ハスハの騎士として僕ら読者にも馴染みの深いギラが、虚ろに夜空を見上げています。独特の心臓の鼓動ような音をたてて、臨戦態勢のエートールが佇んでいます。
「ヤーボが見たらびっくりするぜ・・・」
 ともにハスハのエースとして名を馳せた今は亡き友の名を呼ぶギラにかぶって、ラジオ(?)の中継の音声がはいります。
 二十三時間前にバッハトマのボスヤスフォートがハスハに対して宣戦を布告したのでした。
 その音声は、喋る者一人いないハスハの王宮内にも響き渡ります。
 うつむくラオ・コレット王。何かを待つように目を閉じているムグミカ。周りの様子をうかがうようなヘアード。両手で自分の体を抱くミース。サングラスに隠れて表情の見えないバルンガ。りりしい騎士に成長しているアード・ゼニヤソタ。アルルとマギー・コーターは同じ方向に視線を投げています。おそらくは、このどうしようもない雰囲気の中で、ただひとつけたたましく状況を伝えるラジオを何とはなしに見つめているのでしょう。
 大規模災害の被災者達が、無力感に打ちひしがれながらひとつところに集まっている。ちょうどそんな雰囲気です。
 宣戦布告したバハットマは、夜明けとともに衛星軌道上からMHを降下させ、王都を制圧すると宣言していると、ラジオが告げます。ハスハ側は民間人の避難を終え、王宮外苑にそれらを迎え撃つためのエートールを布陣しているわけですが、その表情は一様に暗いものです。


最後の見開き

 つま先をそろえて座っているマグダルと、その脇に立つデプレ。
 二人はまだ幼さがあるものの、りりしく成長しています。ジョーカーの年齢では、二人はこのとき三十三歳で、地球人でいうならちょうど十歳くらい。感覚的には、非常に聡明な小学生といった趣です。デプレは、日本史の古い時代、飛鳥時代の風俗を思わせるゆったりとした服装と瑞々しい髪が印象的で、ただ黙って座っているマグダルは、アトールの巫女のものなのかアトール聖導王朝の紋の入った大きな帽子とローブを身にまとい、感情の読み取れない能面のような表情を浮かべています。
 こちらも年頃の女性に成長しているヒン・モンダッタに、離宮に下がるように言われますが、それを遮るようにデプレは怒気を発します。
「何でボクたちが先に討って出られないの! このハスハが!!」
 場の空気を無視した発言をバルンガがいさめようとしますが、コレット王がそれを許可します。この場面では、まだ子供で状況のわからないデプレが読者に代わって質問をしていってくれます。
 その内容に移る前に、デプレに対するまわりの呼びかけ方に注目してみます。
 まずヒンの科白。「マグダル様 デプレ そろそろアルル様と離宮へお下りに」と、デプレにだけ「様」がついていません。これは別にヒンがデプレを見下しているのではなく、二人の信頼関係の現れだと思います。マグダルはムグミカの次にアトールの皇帝になるという、この国でもっとも高貴な身ですし、その佇まいには回りのものを寄せ付けないような、冷たさ、みたいなものがあります。それに対して、デプレはその元気のよさから推し量れるように、実に普通の、明るい少年に育っているように思います。年齢の近いヒンやアードとデプレ達が引き合わされたのが十年前ですから、それ以来、皇族と警護の騎士として以上に、非常に親しい友人や、兄弟のような関係で共に王宮生活を過ごしてきたのではないでしょうか。これはヒンからの呼びかけですが、デプレの屈託の無い性格が読み取れる部分です。
 そしてバルンガは、デプレのことを「皇子」と呼びます。以前からそう呼ばれていましたが、改めて確認すると、ハスハのエースとはいえ一介の騎士であったヤーボと、もともとはハスハに縁のないカイエン、その二人の子供ではありますが、マグダルが次期アトール皇帝にとムグミカに見出された時点で、デプレも同様の待遇を受けることになったのでしょう。デプレは、ハスハで国の皇子として扱われているわけです。

 ハスハが討って出られない理由が、コレット王の口から語られます。
 小国のバッハトマに食いつかれたからといって、先に敵の帝都を灰にしたとしても彼らは何も失わないのだと。このあたりには、大国としてのメンツなども見え隠れします。また、バッハトマの皇帝ボスヤスフォートの中枢はカステポーにあるので、バッハトマを叩いても効果がないのだと。このあたりは、さすが魔導大国ハスハ、ボスヤスフォートの正体を見抜いているといったところでしょうか。カステポーは独立自治区ですから、いくらなんでもまとめて灰にしてしまったりできるわけはありません。
 なおもデプレは食い下がります。二百騎を超えるエートール、そして二千騎の共和国騎士団のMHはどうしたのかと。今現在、王宮にはたった百三十騎のMHしかいないのです。ちなみにこのときも、デプレはコレット王を「おじいさま」と呼んでいます。ヤーボを失ってから、コレットの娘であるムグミカがデプレとマグダルの母代わりを勤めてきたという側面もあるでしょうし、また、「アトール聖導王朝」という、ハスハの地にすむ人々の「血」の中にだけ存在する国が、この国家の人々をまるでひとつの家族のようにまとめているという精神性の現れではないでしょうか。
 騎士団を王宮に集結できない理由は、敵もまた、複数の国家を動員する規模で広大なハスハの大地の全体に対しての侵攻を準備しており、それらに各連邦国家が無抵抗で蹂躙されるわけにもいかないからです。
 この状況は、すでに完全な負け戦なわけで、それがわかっているからこその、このシーン、一同の沈黙なのでした。
 ヘアードから戦況が確認されます。
 いくつものバッハトマ側の国家軍や傭兵団にまじって、クラーケンベール新大帝のメヨーヨ朝廷の軍の名も出ています。
 それらの報告を、だらしの無い姿勢で座ったままカイエンが聞いています。表情は見えず、その隣にはプラスティックスタイルのボンネットを外したアウクソー。テーブルの上には小さなグラス。場末の酒場でつぶれているロッカーといった様子です。
 そんな、暗い雰囲気のまま、次号へと続くのでした。

 蛇足。最後のページの柱に「次号、超バトル!!」とあるんですが、少年ジャンプのマンガみたいな煽りで、これはなんか違うなあと思いました。



まとめ

 前回の更新分で書きました、ハスハ開放戦の場に、名前の出ていない騎士達についてです。
 カイエンとアイシャ。この二人は、ずばりこの大戦中に命を落とすのではないかと思います。特にカイエンは、3030年の最初のバッハトマの侵攻に際して行方不明になってしまうのではないでしょうか。どうにも、このところのカイエンには死の影がちらついてしかたありません。
 古い西洋画の文法に、寝そべっている人物が、手をだらりと下げていたら、それは死者という意味である、というのがあると聞きます。今回のラストのコマの沈黙するカイエンは、ちょうどそんな風にみえるのです。
 3030年の現時点で、カイエンはハスハの騎士団長であります。もし生きているならば、四十五年後の開放戦でも先頭に立つはずでしょう。そして開放戦に名を連ねる人々は、ギラやバルンガなど、開戦時に王宮にいたはずの人物が多く、おそらく熾烈を極める戦いになるはずのハスハ王宮撤退戦では、誰かが、彼らの撤退のために時間を作ったのではないかと考えます。
 『ナイトフラグス』のカイエンの項に短くこうあります。
「『ただ生き続けること』〜神々に最も難しいことを要求された男。」
 ファティマと同じく、いつ尽きるとも知れぬ寿命を持つ彼が、わが子を守るという場面に「死に甲斐」を求めたとしたら・・・・・・。わが子、というなら、ひょっとしたらマキシもこの時点ですでに生命として息づいている可能性があります。ミースの様子には変わったところは見られませんが、『ナイトフラグス』によればミースはカイエンのすべてを解析するのだそうですし、ミースとカイエンがハスハ入りして十年の月日がたっているわけですから、その解析がすでに終わっているのだとしたら、バランシェを上回る狂気の科学者といわれるミースの研究が次の段階に進んでいるという可能性も、考えられるのではないでしょうか。

 最強の騎士、剣聖であるカイエンが、戦の場で死ぬはずはないではないかと、思いがちです。
 しかし、今回の特集記事のほうで、作者は語っています。いざ戦争となれば、生き残るのは運がいいヤツだけで、星団最強などと言われている騎士でも、鉄砲の一発も当たれば終わりなのだと。リアルな物語作りに必要なまっとうな見識だと思います。それと同時に、「これから、誰かが死ぬよ」という冷酷な宣言であると僕は受け取りました。
 というところから、あまり根拠無く、重要人物としてもう一人、アイシャの死も僕は予言します。第一巻の冒頭のエピソードで語られているとおりに、アマテラスの星団制圧までには、アイシャも死ぬのです。女史はこれから、ヨーンとの関係がクローズアップされていくようですが、ヨーンはこの第六話のもう一方の主役であるわけで、アイシャは(おそらく不本意でしょうが)ヨーンのエピソードの脇役として、非常に重要な役割を果たすのではないでしょうか。
 ああ物騒だ。やれ物騒だ。


 まだ気になる部分はいくつもありますが、今号の読み解きはここまでにしたいと思います。
 冒頭で書きましたように、作者の永野先生とはファンタシースターオンラインで何度かごいっしょさせていただき、その気さくなお人柄と圧倒的なユーモアセンスに親しみを覚えさせていただくことしきりなのではありますが、今回の「いきなりマキシ登場」や「いきなり暁姫登場」といった読者への心臓よ止まれといわんばかりの攻撃、正体不明の重要人物群、消息不明の人気キャラクター達、といった演出をうけて、僕はまた身を引き締めてかからねばならないと、決意を新たにいたしました。
 この作者、やっぱり僕らを騙したり苦しめたりしては喜ぶ悪人です。決して気を許してはならないのです。
 負けるもんか。次号もどんと来いです。


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