今更繰り返すのもなんですが、本当にFSSというマンガは面白いと思います。
 今月もそれを再確認させてくれた内容の読み解きに、さっそく参りましょう。
 ちなみに、本来ならばこの「読み解け」はWeb上で最速のFSS感想文を目指すというコンセプトなのですが、今月号に関しましては、あるやむを得ない事情があってこうして数日遅れになってしまったことを、ご報告申し上げます。
 近所でバーチャファイター最新作のロケーションテストが始まってしまったんですもん。
 所持金がすっからかんになっていなかったら、今日もこの更新してなかったと思います。


表紙

 今や本編以上の大人気と言われる「がんばれESTちゃん」第三回が堂々の掲載です。いつのまにか専用のロゴも出来ております。
 エスト、アイシャ、そして作者のPSOのキャラクターであるS.I.Lの三人で、どつき漫才をしながら作者の近況を報告してますが、今回の内容は、やはりここで告知されている「FSSロビー」に積極的に参加させていただいている僕としては楽しいことこの上ないものです。
 この場を借りて僕からも、どうぞ興味のある方は、04シップ-08ブロック-08ロビー、通称「FSSロビー」に気楽に遊びに来てくださいと、宣伝させていただきます。
 特に、「はじめてDCを買いました」「はじめてオンラインに繋ぎました」という方には最適のロビーだと思いますよ。

 と、PSOの話題は止まらなくなってしまうのでここまでにしまして、中身の方へ移ります。しかし、右下のコマの永野先生の描いた「キャス子」は貴重だなあ。


最初の見開き

 ページを開いて最初に目に飛び込んできたのは、左側のページの大ゴマで美しい女性の肩を抱く美丈夫でした。僕は思わず万歳三唱。
 すみません、またまたPSOの話題になってしまうんですが、このゲームで僕がメインで使っているキャラクターの名前は、こちらの超帝国の剣聖からいただいておりまして、「SKINS=Tena」と名乗っています。以前から「スキーンズが連載に再登場しないものかなあ」と祈っていたものですから、念願かなって嬉しさのあまり小躍りしたのでした。

 さてさて、もういい加減脱線は止めにしまして、この見開きを読んでいきます。
 ここで語られているのは、カイエンは子供を作ることが事実上不可能だったという事についてです。
 カイエンの両親はどちらも超帝国の純血の騎士であり、父はその中でも最強の騎士アサラム・スキーンズで、母も黒騎士団団長にしてドラゴン達と超帝国との歴史的和解の橋渡し役をしてのけた伝説のヤーン・バッシュ王女です。そんなあまりに強力な両親の染色体を受け継いだものですから、カイエンの染色体もまた非常に強力であり、普通の卵子ではカイエンの精子を受精した段階で破壊されてしまうか、母体が拒絶反応を起こして体外に排出されてしまいます。
 ところが、マグダルとデプレは無事に誕生しています。二人は、無事にこの世に産まれ出るため、その力を抑えて普通の胎児として成長したのでした。二人は母の胎内にいるうちから、お互いを励ましあって、支えあって生きてきたわけです。
 そうして、普通の双子として誕生するはずだった二人が、しかし、生まれた瞬間に超帝国の血が解放された、強力な騎士とダイバーの素質を持つ双子になったのだと、コンコードの残したヤーボの体の記録を調べたミースが語ります。

 この部分、ちょっと考えてみます。
 普通の子供として産まれるはずだったマグダルとデプレが、ミースにもわからない理由で、そんじょそこらの騎士やダイバーどころではなく、超帝国の血に目覚めた特別な人間になってしまいました。
 ミースの医師としての能力は、Drバランシェの後を継げるほどの超絶的なものであることはすでに語られています。そのミースにすら判らないのですから、これはすでに、人知を超えた何らかの力の干渉の行われた出来事と考えるのが自然です。
 おそらくは、後に星団中へ災厄の種を蒔くボスヤスフォートと戦い、これを制するために二人の力は解放されたのでしょう。ボスヤスフォートの覇道を、抑えたい立場の人物といえば、はたして誰であるか。で、考えてみますと、二人の両親であるヤーボとカイエンの出会いの遠まわしの原因に、コミックス三巻ラストでのムグミカ王女の言動があります。ここで暇を出されたヤーボがカステポーへ行き、顔なじみだったらしいカイエンと再会して、深い中になっちゃうわけです。
 ということは、あの時ヤーボにカステポー行きを薦めたムグミカの言動は、すべてアトールの神女としての計算に則ってのものだった……
 いえいえ、この考えは少々無粋に過ぎるというものです。
 確かに、アトールの神女たるムグミカ王女の進言が無ければ、ヤーボはハスハで謹慎を受けたままそれからしばらくを過ごし、今回の動乱にも一騎士(もしくは騎士団長)として参加、そしてただ討ち死に、なんてことになっていたかもしれません。
 しかしながら、ムグミカからヤーボに与えられた使命は、一生を塔の中で、籠の鳥のように過す王女に代わって、その目となり、その心を持って世界を検分し、見たもの、出会った人々のことを王女に伝えるというものでした。
 同じ女として、世界を見てきて欲しい。これは、アトールの神女ではなく、ムグミカ・ラオ・コレットという女性の、心からの願いだったのだと思います。だからこそ、その言葉に心を打たれたカイエンは、珍しく自分からヤーボに身の上話をすることになり、その話の中に登場するミースとヤーボの間にも縁が生まれ、それはやがてミースがハスハに協力するようになったのとも無関係とは言えないでしょう。そしてそれは、カイエン自身のハスハ入りの時の言葉である「ヤーボのかわりに腕となり目となろう…」に繋がっていきます。
 これほど多くの登場人物の、こんな細かな心情の機微まで、遥か太古の皇帝なんぞの計算づくであってたまるものですか。これは逆に、いかなる形であれ、この時代に、ボスヤスフォートと戦うことのできる能力を持った何者かが必要とされることだけが予想されていて、たまたま、カイエンとヤーボの間の子供にその白羽の矢が立ったと考えたほうが良いのではないかと思います。
 ものすごい潜在能力を持った二人が、たまたま双子だったおかげでお互いを支えあうことが出来て、たまたま無事に産まれることが出来た。そこに、両親の遺伝とは別の要素で、とてつもない力を発現させられた。マグダルとデプレに秘められた力の秘密とは、こういうことなのではないかと、僕はここで推論しておきます。
 マグダルとデプレを中心に据えた話というのは、本格的に語られるのはまだ少し先になりそうですから、この推論が良い所を突いているのか、全くの見当はずれなのか、定かになるまでしばらく楽しみに待ちたいと思います。

 さて、引き続きカイエン自身の話です。
 ここで、もう一つの純血の騎士の血統であるスバースの事が出来てます。スバースの血族というのはたくさん居て、慧茄、ディモス・ハイアラキ、ピックング・ハリス(スパーク)、マロリー・マイスナーなどなど、強力な騎士が名を連ねます。
 このようにスバースが星団に血を残せたのは、リチウム・バランス博士と、その時代のアトールの神子によって、血の力を弱められたからだそうです。しかし、カイエンは血の力も弱められていない上に、そもそもその血は超帝国でも最も強力な血統のものだったりしたわけですから、自然に子供ができないのは当然、といえるほどだったわけです。試しに調べてみましたが、この「スバースの血の力を弱めたアトールの神子」が誰なのかは特定できませんでした。名前がわかっている範囲では、五代前のアトールの神子であるエダクダか、年代的にはさらにその前の人物あたりがそうであるように思えます。
(ところで、これは全く本筋から離れる話ですが、僕がこの文中で使っている「神子」という言葉は、コミックスでの表記に準拠しています。今月号での表記は「巫女」になっています。)

 う。まだ右側の一ページ目だったんですね。やっと左のページに突入します。
 背景にうっすらと、おそらくジェットドラゴンと思われる巨大な存在のシルエットが浮かぶ大ゴマで、我が子を見守る母のような優しい眼差しのヤーン・バッシュ王女と、その王女を見詰めて肩に手を置いている剣聖アサラム・スキーンズです。
 ここで、カイエンの本当の名前が明らかにされています。一万年以上も昔に、炎の女皇帝が「カイエン・バッシュ・カステポー」の名を、ヤーン王女とスキーンズの子供に贈っていたのでした。
 ここで一つ定かになったのは、「カイエン」の名の由来です。現時点ではハスハのアルルが所有し、のちにマキシの手に渡って別次元にてその威力が発揮される謎の大太刀「懐園剣」のそもそもの持ち主はスキーンズであったといいますから、おそらく、その大太刀の伝承者という意味で、子供にカイエンという名前が与えられたのでしょう。AD世紀から伝わる大太刀の名前と現代の剣聖の名前が一致する謎が、これで解けました。スキーンズはどうやってこれを手に入れたのかという謎がまだありますけど。
 また、カイエンに「バッシュ」の名前が与えられていたというのは、ちょうど今、カイエンの居るハスハ王宮へデコースの駆るMHバッシュが襲いかかっているということで、歴史の皮肉を感じます。

 さて、ここでまた少し、わき道に反れます。これまた余計な思考実験です。
 剣聖スキーンズは身の丈2.5mだそうです。人間の骨格と、それを構成する主な物質であるカルシウムの性質を考えると、人間型の生き物は身長3mになった時点で腰からポキリと折れてしまうそうです。2.5mでも、ちょっとあぶないかも?
 そして、騎士といえども、当然、普通の体をした人間の親から産まれる者がほとんどなわけですから、その肉体を構成する物質も僕らと大差あるはずはありません。多少大食いだとしても、騎士は僕らと同じ物を食べてるわけですし。
 しかしながら、現在地球上で行われている主なスポーツの中でも最も運動量が激しいと言われるバスケットボールの、その最高峰NBAの一流選手の中には、均整の取れた2.3mほどの巨体をブンブン振りまわして信じられないほどの高さに飛びあがったり、フェイントをかけながらコートを走り回ったりしている人達が、何人もいます。
 この2.5mという数字は、MHの関節部分の構造一つにも嘘を吐かない作者の、リアリストな部分の現れのように思います。
 遺伝子改造や薬品の投与等の処置が取られるわけですから、僕らの知っている常識に当てはめる必要は本来は無いわけですが、そういう処置が行われた上での、2.5mという身長は、大きくて強くて動きの速い人間の、極限の数字として直感的に正しいなあと、僕は思いました。
 何度も、何度も繰り返し述べられているように、騎士も人間です。その超人的な肉体も、極限の部分では、人間という檻に閉じ込められているのではないかと僕は受け止めています。
 身体性の限界も、人間らしい心も、彼らは備えていて、だからこそ、まだ受精卵の状態でしかない我が子に、尊敬する皇帝から名前をいただき、それを地上に残して旅立たねばならなかったとき、王女は涙しています。コミックス9巻の185pです。

 戦争は国家の一大事ですが、出生の秘密もまた個人の一大事です。戦の轟音と石礫の飛び交う中、二人の会話は続きます。


二つ目の見開き

 最初の見開きの最後のコマから話題を引き継ぎますが、カイエンの体の秘密に関する驚くべきミースの発言です。
 抗体、超帝国のDNA、ループしたDNA、胸腺と、人間の生命活動の根底にかかわる部分からの、カイエンの特徴があかされます。しかし、これらの難しい用語を一つ一つ考察していく必要はありません。ミースがわかりやすくまとめてくれます。

「それはファティマの能力!」

 ジョーカーの人々の寿命は300年程度であるはずなのに、カイエンはすでにそれを遥かに越える年数を生きています。カイエンの強力な受精卵を宿し、いわゆる「代理母」として健康にカイエンを産み落としたファティマ・クーンから、カイエンは様々な老化現象を抑えるファティマの特質を受け継いでいたのでした。
 コミックスの6巻、星団歴2992年の時点で、カイエンはラキシスに、自分の母親はクーンで、そして「ついにボクの父はわからずだったヨ」と告げています。確証はありませんが、ひょっとしてカイエンは今この時、はじめて自分の父と母の名を知ったのではないでしょうか。さしものカイエンも、ぽつぽつとしか返事を返せません。一方ミースは、カイエンに、カイエンがどうやってこの世に生を受けたのかを説明し終えてから、自分も、カイエンの子を産むために、同じ方法を取ったと言い、それから涙を零し、声を荒げます。
 好きだから、あなたのことしか考えていないから、誰よりもよく、あなたのことを知っていたかった。
 カイエンの精子を受け止めるために、まずミースは自分の卵巣に「MAXIMUM」のプログラムが埋め込まれた卵を産むための特別な処置を施しました。そして、アウクソーの体にその卵巣を移植して、冷凍保存されていたカイエンの精子を受精させます。
 真っ黒なシルエットに、虚ろな瞳だけが浮かぶ、そら恐ろしげなミースがこう呟きます。

「その状態で 卵は10年間も 寝かされていたのよ……」
「なぜって? 私の体がね… なじむために…」


三つ目の見開き

「そうよ…… 私の子宮はファティマ型のものに取り替えてあるの でないと この子が成長できないから」

 ミースがハスハ入りしたのは20年前の星団暦3010年です。はじめの10年は、おそらくカイエンという騎士の解析に費やされ、そして10年目にアウクソーへの細工によってカイエンの受精卵を入手し、それから自分の体内にファティマの子宮を移植して、それが体になじむまでさらに10年間。
 そこに受精卵を移植して、今、ミースの胎内にはカイエンの子がいます。
 自らの体と下腹部を抱くミースの後ろには、若き日のDrバランシェが影の様に立ち、己の狂気の後継者を頼もしげに見下ろしています。Drバランシェの最後の狂気、46体目の作品「MAXIMUM」はここに息づいているのです。

「星団史で初めて産まれる シバレースが 今、ここにいるわ……」

 この発言を読んでやっと気が付いたんですが、「シバレース」という言葉は騎士の尊称として使われる言葉なんですね。ジョーカー星団では、ファティマのみならず、騎士もまた尊敬されるだけでなく、差別の対象になることが多いようです。そんな中で、クリスティンやミラージュの騎士達のように、大きな運命までを背負ってなお騎士として戦う人々に、敬意を込めて「シバレース」という呼びかけが使われるのだと思います。って、これに気がついてなかったのは僕だけでしょうか。今まで、いろいろなところで、いろいろな人が、騎士のことをシバレースと呼ぶのを見て、なんだろうなあと気にかかってはいたんですが、あんまりよく考えたことがありませんでした。

 さて、そんなミースを見て、うつむいたままにカイエンは、ミースの狂気を言葉で指摘しつづけます。ミースは「いいの!」と逆上し、命を救った者は、救われた者に対してその後の人生に責任が発生するという内容の言葉を、ぽろぽろ涙を零しながら叫びます。あの日、レジスタンスの村で撃たれて死んでいたはずの少女を、助けたのはあなたなのだから、と。
 その発言を受けて、カイエンが光剣を抜きます。
 光剣であるにもかかわらず、片刃で、反身が付いているように見える、これはコミックス4巻の口絵の、カイエンがFSSにイラストとして初登場したときに下げていたあの黒い光剣ではありませんか。
 ミースはとっくに覚悟を決めているようです。瞳を開ききったまま、もう、最後まで言葉を紡いでしまいます。
 自分は心からカイエンのことを愛しているつもりだった。だから、その子供を欲しいと思った。しかし……


四つ目の見開き

 本当は、研究者として、超生命体を生み出す研究を完成させたくてこんなことをしてしまったのかも知れない。
 そのうち、それがわからなくなってしまった。
 もうミースは、何も隠していません。今までこれほどに叫んできたカイエンへの思いさえも、己の研究を正当化するための自分への偽りだったのかもしれない、という告白です。人の命を弄んでいるのは、自分かもしれないと、まさしく自分が殺されることさえも肯定した呟きのように思えます。

 そこへ、王宮の目の前のMH戦で弾かれた、敵MHの壁のように巨大な手斧がうなりをあげて飛んできました。
 それを片手の光剣一振りで真っ二つにし、ミースを守るカイエン!
 抜かれた光剣は、やはりミースを守るためのものだったのです。
 そんなふうに、事も無げにカイエンが見せた超剣技に、ミースの胎内のマキシが微かに反応しています。のちの剣聖マキシがはじめて知覚した外部情報は、この父親の剣技だったのかもしれません。
 カイエンは、どこまでもカイエンで、あの時レジスタンスの村でミースやアトロポスを救ったように、今回も変わらず、美しい婦人のために戦います。

 ミースに、カイエンの黒い光剣が託されます。このように騎士が誰かに剣を託す場面は、今までこの作品の中で何度も描かれてきました。
 コーラス三世、ファティマ・ウリクル、シャーリィ・ランダース。いずれも、その騎士が命を失うことを覚悟した場面です。
 泣いてすがるミースの首筋に優しく手を当てて気絶させ、剣聖は戦場に赴きます。
 コミックス4巻に収録されている、カイエンの初登場エピソードは、星団最強の剣聖であるはずのカイエンが、不意打ちにやられて最愛のパートナーを失ってしまうという内容のものでした。戦場では、剣聖にすら、一つの命が守れないことがあります。それは、剣聖自身の命に関しても、同じ事が言えるはずです。


五つ目の見開き

 場面が変わりまして、デコース&エストの駆るMHバッシュ・ザ・ブラックナイトの最前戦です。
 前回に引き続き、エストからこまめに情報を受けながら指揮官として的確に指示を出しています。
 ハスハ側も、お馴染みのマイケル・ジョーイ・ギラがハスハ名物の戦闘用の薬物の使用による血管の浮き出た仲間と共に、状況分析と今後の戦況の予想を行っています。
 そのハスハの騎士達も唸らされるほどに、デコースの黒騎士は驚異的な強さを発揮しています。


六つ目の見開き

 またもや場面が変わりまして、今度はハスハの遥か上空、大気圏の外で実況を続けている放送局の音声による、ハスハ各地の戦況レポートです。戦争がエンタテインメント化されています。
 ハスハ中部のナカカラ王国国境沿いに軍を展開していたクラーケンベール大帝のメヨーヨ朝廷王宮騎士団が進軍を開始し、また、ハスハ・ギーレル王国にはジャスタカーク公国のMHシャクターの一群がエア・ドーリーから投下されています。
 ジャスタカークの騎士団は、騎士の中の騎士と呼ばれる天位騎士アイオ・レーンが騎士団長を務めており、そのMHグルーンもハスハの地に豪快に着地しております。おお、まさしくこの二本角はグルーンです。ここから放電して来るのです(それは『エルガイム』だ)。
 『ナイトフラグス』によると、ジャスタカーク公国は過去、ハスハの一部を領土としていたことがあり、その後奪い返されたものを、今回また奪い返そうということのようです。
 ハスハというのは星団中でも有数の大国ですから、他国とのしがらみもまた膨大で、一度戦乱が起こるとこのように様々な目的を持って他国が動くわけですね。
 最後のコマでは、また別の騎士団が数騎のMH青騎士を降下させようとしています。


最期の見開き

 初登場の女性騎士が、こちらも初登場のMHを起動させています。起動スイッチの横に「-SIREN-R 3021」とあります。
 3021年と言えば、三ヶ月ほど前に発売されたこの作品の連載15周年を記念した増刊本「FSS ISSUE」に載っていた、ピープルカレンダー・ジョーカー3021年4月版が思い起こされます。(このピープルズカレンダーで一回読み解きをやっておこうと思っていたのですが、もう遅くなってしまったようです。うーむ)
 ありました。どうやら、この女性騎士こそ、5月号の読み解けでスパークの別名かも? と無責任に扱った三ツ星傭兵騎士団のナイアス・ブリュンヒルダです。あきらかにあのスパーク(ミス・マドラ?)とは別人ですね。パートナーは、ここに名前の出ているジゼル。あ、ジゼルってバランシェファティマだったような気が。
 いつぞやのアルルのように、傭兵の強さを大国の騎士団に見せ付けてやろう、というような内容の発言をして、その初陣のMHを発進させます。
 ひどく細身の、どこと無く禍禍しいシルエットに、大きな鎌と二本の角。これは、連載再開の五月号の表紙を飾った、あのMHではあるまいか。これまた、シルエットだけなのにため息が出るほど美しい騎体です。設定資料集の『ナイトフラグス』でサイレンR型というのを確認してみますと、……載ってません。ぐうう。
 しかしこのMHは、「重帝騎ファントム」だろうということに今までの「読み解け」ではしてきてありますので、今回もファントムということで行きます。
 で、こちらのMHファントムですが、ISSUEによれば三ツ星傭兵団のオーナーなる人物からの届け物だそうです。それが誰なのかと考えてみたとき、どこかで聞いた「ファントムは二騎あるらしい」という情報が思い出されました。もう一人、ファントムに乗ってやってくることが公開されている人物、それは元剣聖・恐るべきおばあちゃまの慧茄です。大きな傭兵団というのは大国がバックにいていろいろと援助していることが多いそうですから、この三ツ星傭兵団というのはフィルモアか、もしくは元剣聖にして元フィルモア皇帝であるところの慧茄の莫大(と思われる)な資産から援助を受けているのではないかと、推測します。
 あと、よくは知らないんですが、このナイアスのしている腕時計、ものすごい高級品ではないでしょうか。アクセサリー一つ見ても、AKD入団前のブラフォードの貧乏生活とは大違いです。同じフリーでも、バックがあるか、無いかの差かと思われます。

 左側の最後のページに入りまして、まずは戦況を知らせるTVを見詰めるアマテラス、ラキシス、そして……これは、パナール・エックスですね。
 ブラックスリーの襲撃にあって胴体をまるごと吹き飛ばされてしまったリィ・エックスは、やはりあのまま亡くなられてしまったようです。
 三人とも、非常に楽そうな服装でリラックスしていますが、やはりTVの向こうから伝えられる戦乱の様子に表情を曇らせています。ただの視聴者と違って、仮にも星団トップレベルの大国の国家元首なわけですから、何かしら戦を止める手段があるのではないかとラキシスは問い掛けるのですが、アマテラスはやや冷たい表情で、それを”歴史”と人は言うのだと答えます。
 ちなみにこの場面でアマテラスが着ているTシャツのプリントは、僕のマウスパッドとお揃いです。

 同じ頃、遠く離れたカステポーのバー、ワックストラックスでは、ルーマー国の女王位を戴冠して身軽に動けなくなったはずのアイシャが、どうやら相変わらずお忍びでこの地を訪れ、バーのマスターであるジョルジュ・スパンタウゼンとハスハの戦況中継を見ているのでした。

「こんなものを一日中放送されちゃあ 星団中の騎士は我慢できないよね」

 アイシャが更なる戦況の拡大を予想したところで、次号に続く、となりました。



まとめ

 今月号も非常に見所の多かったのですが、その中でも特に注目したのは、カイエンがミースを守って、飛来する巨大なMHの手斧を真っ二つにするシーンです。
 ひさびさに、カイエンが剣聖の凄さを見せつけたこのシーンは、僕らのような以前からのファンにカイエンの格好良さを再認識させてくれると共に、まだこの作品のファンになって日の浅い方や、今月号ではじめて触れたという方にも、そうとう印象に残る場面になり得ているのではないでしょうか。
 以前にも書きましたが、この作品の素晴らしい部分の第一は、現時点で連載がまだ続いていることです。三国志も源氏物語もガリア戦記もこの点においてはFSSに劣ります。連載が続いている以上は、常に新しい読者の視線に晒される機会があるわけで、この作品は常にそういう機会に新しい読者を獲得しつづけるだけのポテンシャルの高い魅力的なシーンを提供しつづけてくれていると思います。
 これだけ長く続けば、ずっと読んでくれている常連向けに特化した内輪受けだけの話にしてしまいたいという誘惑も普通はあるはずなんです。しかし、この作者は逆に、まるでそんな常連を切り離すかのような態度を時折見せ、僕らはそこに必死でしがみ付かざるを得ませんから、結局、常に新しい読者のような気持ちで作品と向き合うことになります。これこそが、僕らがこの作品に魅了されて止まない理由なのかもしれません。

 来月号もそんな、新鮮な感動が与えられることと思います。
 作者は、必ずしも僕らの見たいものを描いてくれるわけではなく、僕らの想像を超えたところにある魅力的なものを、僕らの想像の外からぽん、と視界に放り込んでくれるのです。
 これも一つの、送り手と受け手の理想的な関係だと思います。


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