6月のがんばる輝君!

6月の輝君の写真と、出来事のページです♪

テル君のキラキラ輝く瞳が、「ボクに逢いに来てね♪」と言っているみたいでしょう?

私の大切な友達。  「輝君」を、遠くから応援してあげて下さい。

手術の前日、私と輝が、
「手術頑張ろうね!」
とお約束した時の写真です。  
輝は、私とKISSするのが
大好きなんです♪
輝の腫瘍は、とっても大きく
成長してしまいました。
遠くから見てもかなりの
大きさに見えます。
腫瘍の拡大写真です。
たった1ヶ月で、こんなに
大きくなってしまいました。
何度消毒しても、異臭を
放っています。
高熱も、この腫瘍のせいだと言われました。
 
手術で、腫瘍を切除しました。
左から2番目の写真と
比べて見てください。
富山県の人から頂いた、
念願のベビーベットで、とても
快適な暮らしをしています。                    

 2000年 6月・・・  1日   2日   3日   11日   13日   17日   18日   19日 

              
20日   21日   22日   24日   25日   28日   29日   30日


 2000年6月1日

     輝が下痢をした。 多分、水分の取り過ぎによる下痢だと思う。
     輝は今、気管支炎の治療の為、「ステロイド」という薬を飲んでいる。
     ステロイドを飲むと、喉が乾き、食欲か出るそうだ。
     輝にステロイドを投与すると、投与した1時間後位から、「のど乾いたぁ〜!!」とピーピー泣きはじめる。
     私は、輝に水を与えるのだが、輝はお腹がパンパンになるほど水を飲んでも、
     「もっと!もっと!」と大騒ぎしている。
     薬を飲まない時は、1日に多くて3リットルほどだったが、薬を飲むようになってからは、1日6リットル近く飲んでも
     「もっと!」と駄々をこねる。(ーー;)
     
輝君  「ヒィーーーーーーーーーッ!!」

園長  「お水?もう沢山飲んだでしょう? お腹破裂しちゃうよ?」

輝君  「ヒッ!ヒッ!ヒーン!!」 まだ飲むもん!と駄々をこねる。

園長  「あと3回オシッコ出たらあげるから。。。」

輝君  「クゥ〜。。。フゥ〜ン。 ヒ〜〜ン!!」 もっと欲しいよっ!とふてくされているようだ。

園長  「あれれぇ〜?? 悪い子かなぁ〜??」

輝君  「。。。。。。」 私の目をじっと見つめている。 必殺!キラキラ光線を発している。☆ミ

園長  「あれ?お目目キラキラ光線なの? 可愛いねぇ〜。でも、ダメなんだよ〜ん。」

輝君  「ヒ〜ン。。。」 寂しそうに泣く。

     最近は毎日こんな調子だ。
     輝は私の口から直接水を飲んでいる。 輝の舌は大型犬らしく、大変大きくてザラザラしている。
     私は輝の誤飲を防ぐ為に少しずつ、少しずつ輝に飲ませている。
     私の唇と、唇周辺の皮膚は、輝の舌の摩擦で大変荒れてしまった。
     唇は切れて、たまに血がにじむし、皮膚もヒリヒリしている。
     輝が大人しく寝ている時だけ、口にリップクリームを塗るが直らない。
     輝に水を与えるとき、たまにリップ(メンソレータム)を落とすのを忘れると、
     ものすごく嫌な顔をされてしまう。
     「ごめんね」って謝っても、私の顔を見てくれなくなる。
     私は、輝の目の前に次から次へと色んなオモチャを持って行き、輝の機嫌をとらなくてはならない。^^;
     若い頃より少々頑固になったようで、なかなか許してくれない。(ゝ。;)
     輝が人間だったら、「頑固じじい」の典型だったかもしれない。
  
     明日、病院へ行きもう一度レントゲンを撮る。
     気管支炎が少しでも治っていれば良いのだが。。。


 2000年6月2日

     早朝、輝が高熱を出した。 「40,5℃」私は今だかつて、こんな熱を出した犬を見た事がなかった。
     輝はひどい下痢をしている。いつものように体を冷やせば、下痢がさらにひどくなってしまう。
     私は、家にあった人間用解熱剤を、輝の体重分に分けて投薬した。
     アイスノンを首に当て、脇の下を冷たいタオルで冷やす。
     輝は「お姉ちゃん?ここに居てね?」と言うような不安げな目で私を見つめている。
     1時間半ほど冷やした後、再度検温を行なう。
     「39,0℃」 下がった。。。 良かった。
     それにしてもおかしい。。なぜ?ステロイドが効いているはずなのに。。。
     もしかして、他に原因が?? 下痢のせい? 腫瘍のせい??
     何もかも不安で仕方がない。 なんでもいい、直ってさえくれれば!
     
     午後3時、病院へ行った。
     先生に、輝の下痢と高熱の事を話し、毎日2時間おきに書いている「輝の看護日記」を見せる。
     看護日記には、輝の検温結果、食事&水を与えた回数と量、排泄の回数、寝返りの回数、
     その他変わった事、気付いた事がぎっしりと書いてある。
     これは、輝のほんの少しの変化を見逃さないように、私が書いているものだ。
     犬は、人間と違って言葉を話してくれない。犬の体調を知るには、まずマメに検温する事。
     どこか調子が悪ければ、熱が出たり、熱が下がったりするものだ。
     検温は犬の言葉と同じだ。 私は2時間おきに、輝の言葉を「検温君」に通訳してもらっている。

先生  「う〜ん。熱が下がりませんねぇ。。お腹痛がります? 腹膜炎起こしてるのかなぁ。」

園長  「それが、どこを押しても触っても、嬉しそうにしてて、痛くなさそうなんですぅ〜。」

     先生が触診する。 輝は、ボケーっと診察室の壁を見ている。
     先生は、輝の血液検査とレントゲンを撮ってくれた。とても詳しく調べてくれたのに、原因が分からない。
     エコーでお腹の様子を見ても、別に問題なさそうだった。下痢の原因は、食べ過ぎかもしれないが、熱の原因がつかめないのだ。
     病院に来たのは午後3時。 もう2時間も調べている。
     とりあえず、今日は抗生物質を点滴して帰り、明日また病院へ行く事になった。
     私は、輝を抱き、車に乗った。
     帰り道、車の中で輝の顔を見ながら、「喋ってくれたらいいのに。。」と、思った。
     そして、どうにもしてやれない、不甲斐ない自分に腹が立った。
     
     
     自宅に着き、輝をベットに寝かせ、水、食事を与える。
     患部を消毒しながら、「これのせいじゃないのかなぁ〜?」と思う。
     輝が我が家に来てから、1ヶ月経つ。
     癌腫瘍は1ヶ月で大分大きくなってしまった。思っていた以上に成長した癌は、相変わらず異臭を放っている。
     一体何様のつもりなの?輝の栄養を横取りして輝を弱らせる腫瘍がとても憎かった。
     私は、消毒が終わると、自分の食事をしにダイニング(そんな洒落たもんじゃないけど。)に行った。
     食事を作り、やっと半分食べ終えた頃、物凄い吐き気におそわれた。
     結局、食べた分すべて吐いてしまった。
     そう言えば昨日から2〜3時間しか寝ていない。 少し頭も痛い。
     ここで、私が倒れるわけにはいかないので、早々に薬を飲んで、輝と寄り添って寝た。
     具合の悪い者同士、いたわりあうように。。。。


 2000年6月3日

     私の体の調子は、何とか良くなった。輝は朝から食欲旺盛で、一回の食事量を食べても「もっと!もっと!」と
     大騒ぎしていた。 輝の名誉の為に言っておくが、決してボケているわけではない。
     だた、チョットだけ食いしん坊なだけなのだ。 
     最近は少々口が肥えてきたようで、ドックフードを与えると、「しょうがないから食べてあげるよ。」といった顔をする。
     お肉やお魚を与えると、ほとんど噛まずにゴクリと飲みこむ。
     好き嫌いすると、ぷぅどる学園のお友達に笑われてしまうので、嫌々でもちゃんと食べるところが偉い。(*^_^*)
     午後5時、再び病院へ行った。
     今日こそは、熱の原因が分かるかもしれない。と少々の期待と不安を胸に、車を走らせた。
     病院に着き診察室へ入った。

先生  「経過はどうですか?」

園長  「元気なんですが、相変わらず熱は下がりません。。」

先生  「あれからね、ぼくも色々考えたんですが。」

先生  「あれだけ検査して原因がないと言う事は、腫瘍からの熱しか考えられないような気がするんですよ。」

園長  「う〜ん。腫瘍からですか。。。」

園長  「では、どうすれば良いんでしょう?切除するにしても、熱が下がらないとダメですもんねぇ〜。。」

先生  「ステロイドに反応して熱が下がっているようなので。」

先生  「1日おきに投与して、様子を見ていって、熱が下がったとき、タイミングをみて手術するしかないですよねぇ。」

先生  「麻酔をかければ、熱も下がりますし、手術後は痛み止めですよね。。」

園長  「。。。う〜ん。 そうですか。でも、心配ですよねぇ。」

先生  「そうですよね。 今すぐ決めないで良いですから、家に帰ってよく考えてみてください。」

園長  「はい。。そうですね。相談してみます。」

先生  「輝君、輝って名前だけあって、目がキラキラしていて、すごく悪い所があるようには思えないですよね。」

園長  「あらっ♪ 輝く〜ん! 良かったねぇ〜♪ 輝君ってお名前、私が付けたんですよォー!!」 (親バカ炸裂)

園長  「輝君♪ 良かったねぇ〜!誉められちゃったねぇ〜♪」

輝君  「フゥ〜。。。。。」 面倒くさそうに、横目で私を見ている。(ーー;)

     私は輝を抱いて診察室を出た。 病院を出ると、外はもうすっかり暗くなって、雨まで降り出していた。
     輝が濡れないように、急いで車に乗せて家に向かう。
     帰る途中、おかずを買っていない事に気が付き、近所のスーパーに寄った。
     輝を車に残していたので、超特急で買い物をすませ、車に戻った。

園長  「輝君。ごめんねぇ〜。。しゃみしかったでしゅかぁ〜?」

輝君  「ヒ〜ン。ヒ〜ン!」 嬉しそうだ。

園長  「偉かったねぇ。 あのね、村長さんに内緒で、唐揚げ買ってきたのォ〜♪」

園長  「二人で食べちゃおっかぁ〜!!」 

     私は輝君に唐揚げを見せた。

輝君  「ヒィィーーーーン!!!!」 激しく舌なめずりをする。

園長  「ハイ。輝君♪」

輝君  「バクッ。 ゴックン。。。?? ヒ〜ン!!」

     今日は前回のお弁当のように1つだけではない。
     人間の食事は味が濃いから控えめにしたいのだが、唐揚げは輝の大!大好物!!である。
     先の短い犬生、少しぐらい食べてもバチは当たるまい。
     私は輝に、計6個の小さな唐揚げを食べさせ、唐揚げの入っていた入れ物をゴミ箱に捨ててから
     家に帰った。 この事は、ほんの少しの間だけ、私と輝の秘密になった。 (村長がこのページを見るまで)

     帰宅後、輝の診療結果を村長に告げて、意見を聞いた。

村長  「。。。手術、しよう!」

園長  「大丈夫かなぁ〜?」

村長  「やってみなくちゃ分からないけど、その方が良いと思う。」

園長  「そうだね。。。」

     私も村長も、輝をとても可愛いと思っている。
     特に、私にとって輝は、宝物だ。
     迷いはたくさんある。 自分の決めた事に自信が持てない。
     もし、手術して、死期を早める事になったら。。。
     そう思うと不安で仕方がない。でも、私達は輝をとても愛している。
     私達が悩み抜いて決めた事が輝にとって最良の事だと信じている。


 2000年6月11日

     一昨日、やはり高熱の為、病院に電話したところ、先生に「もう一度、検査しましょう」といわれた。
     「抗生物質の感受性テスト」をするのだという。。
     感受性テストと言うのは、輝の体の熱を出している場所にある、菌を採取し、培養した菌で、
     どの抗生物質が効くのかをテストするものだ。
     1ヶ月間で、何種類も薬を変えたが、どの薬もほとんど効果がない。
     感受性テスト。。。それで、輝に合う薬が見つかれば良いのだが。。
     私は80%の諦めと、残り20%の希望を胸に、今日も、病院へ行く。
     病院への30分の移動が日に日に重く、暗い道のりになっていく。
     もし、また熱が下がらなかったら。。。  でも、今日こそは!! と気を取り直して診察室へと入った。


先生  「経過はどうですか?」

園長  「以前より、高熱が頻繁に出るようになりました。」

先生  「そうですか。。。 とりあえず、この前お話した感受性テストをしましょうね。」

     先生は、輝の腫瘍に長い綿棒を刺して、菌を採取した。
     腫瘍からは、瞬く間に鮮血が流れ出し、私は胸が苦しくなった。
     「こんなに、痛い思いをさせて、もし、薬が見つからなかったら。。。」
     そんな風に考えていると、頭の中が「絶望」という文字で一杯になってしまった。

先生  「とりあえず、この前と違う種類の抗生剤を出しますので、結果が出るまで飲んでいてください。」

先生  「この薬、今ではほとんど使っていない古いタイプのお薬なんですが、もしかしたら効くかもしれないから。」

園長  「そうですね。。 輝君もおじいちゃんだから、お薬も最新じゃない方が良いのかも!?ですよね。」(苦笑)

     私は先生に、輝の手術のことを説明してもらい、大体の日取を決めた。
     2週間後。。 手術しようということになった。

     家に帰り、輝をベットに寝かせて検温すると、またしても40.0℃になっていた。
     こんなに何度も40.0という数字が出ると、「もしかして、体温計が壊れてるのか?」と思ってしまう。
     私は輝の体を冷やし、先生に処方してもらった「古いタイプの抗生剤」を投与した。
     内心、「きっとまたダメだろうな。。」と思っていた。

     1時間後。。。検温。

園長  「輝く〜ん。 お熱計ろうねぇ〜。下がってると良いねぇ〜。。」

輝君  「ヒ〜ン。。」

園長  「あれ? お耳も、お腹も、熱くないから下がってるかな?」

     ピピッ♪ ピピッ♪  ピピピッ♪

園長  「。。。。??。。?。本当に?」 自分の目を疑った。体温計が、本当に壊れたのかと思った。

園長  「下がってる!! 輝君!! お熱下がったよぉ〜!!下がったんだよぅーー!!」

     私は、輝の頭をゴシゴシと撫でまわし、家の中で大騒ぎして喜んだ。
     輝の熱が下がった。 「38.2℃」平熱だ!!
     やった! 薬が効いたのだ!

園長  「そんちょ〜〜う!!お熱下がったよぉーーーーー!!」 リビングに走った。

村長  「?? 何度になったの?」

園長  「38.2℃なんだよぉー! すごいね! すごいでしょ?」 

村長  「ほんとに? 良かったじゃないか!!」

園長  「うん。 うん。。 良かった。。良かったよぉ〜。。。」

     私は、涙が出た。 今まであんなに悩まされた高熱が、下がった!
     嬉しかった。 「38.2℃」今までで一番低い体温だった。
     私は輝の部屋に行き、輝の前ではじめて泣いた。

園長  「良かったね。。良かったね!!」

輝君  「???」 どうして泣いてるのか分からないようだ。

園長  「てっくん。おねえちゃんね、てっくんが頑張ったから嬉しいんだよぉーーー!!」 涙が溢れて止まらない。

輝君  「クゥ〜ン。 ベロベロ。。。」  とても嬉しそうに私を見る。

園長  「楽になったね? お姉ちゃんね、とっても嬉しいよぉ〜!!」

     輝は私の顔をしつこいくらいベロベロと舐めて一緒に喜んだ。
     私は、昨日と一昨日、2時間ほどしか睡眠をとっていなかった。
     今、思うと、輝の一挙一動に、ドキドキし、輝の気持ちを分かろうと努力し、こっそりと流した涙は無駄じゃなかったと思う。
     眠りにつくたびに、輝が高熱を出して死ぬ夢を見た.。 でも、輝は高熱に、輝かしく勝利したのだ!
     心配性の私が、輝の事で悩み、とても辛かった時、友人が言ってくれた
     「安心して。。。」
     という一言を、大切に抱きしめながら、ぐっすり眠ろう。
     そして明日から、輝のリハビリを再開しよう。
     ゆっくりと、輝の瞳を見つめながら。。。 そんな風に思った。


 2000年6月13日

     輝に合う薬が見つかってから、高熱は出ていない。
     体調も大変良く、毎日元気に食事をし、ガムを噛んでいる。
     熱が低い時で、天気が良ければ、窓を開けて、家の中から外を眺めたり、
     他のワンコ(龍馬、桃、幸、にゃん)と遊んでいる。
     最近一番興味があるのは、ニャン太郎君のようで、ニャン太郎が輝の部屋に来ると、
     とても嬉しそうにしている。
     ニャン太郎は、大きな体の輝を少し警戒している様子で、ある一定の距離を置いているようだ。
     離れにいた時に一緒に寝ていた、桃ちゃんと、一緒にいるのが一番安心するようだ。
     桃ちゃんは輝の次ぐらいに優しい性格の犬なので、相性も良いのだろう。。
     今日は、幸ちゃんを輝の部屋に入れてみた。

園長  「輝く〜んっ! 幸ちゃんと遊んであげてぇ〜♪」

輝君  「ヒ〜〜ン!」 嬉しそうだ。

幸   「  ドタバタ・・・ドタバタ・・・ドテンッ!」 輝の前に行き、お腹を広げて服従している。

輝君  「ベロ〜ン!ベロ〜ン!!」 幸の顔を大きな舌で舐める。

幸   「スリスリ・・・ペロペロ・・」輝の顔に体をスリスリして嬉しさを表現しているようだ。

輝君  「ヒーーーンッ! ベロベロ〜ン!」 大変喜んでいる。

園長  「輝君。良かったねぇ〜♪ 幸ちゃんと遊べてよかったねぇ〜。。」

     輝は私を見て何かを訴えるような目をしている。
     なんだろうと思い、輝の目線の動きを観察すると、私を見た後に輝のお気に入りのガムがあった。
     ガムが欲しいようだ。

園長  「これかぁ〜。。ガム食べたかったのねぇ〜♪」

輝君  「ヒンッ。クシュンッ!」 

園長  「はいよ。ゆっくり食べてくださいねぇ。」

輝君  「ガブッ! ガブガブ。。ムシャムシャ。。」

幸   「?・・・・!!!」幸は輝がガムを食べている事に気がつき、自分も欲しいと訴えるような目をしている。

輝君  「??。。。ムシャムシャ。。。?  ガウゥゥーーー!!」

幸   「ソワソワ。.ソワソワ。。」輝の周りを服従姿勢をとりながら、モゾモソ、ソワソワと歩く。

輝君  「ガウゥーー!ヒャン!ヒャン!!」 輝は吠え声をしばらく出していないのでヒャン!としか鳴けない。

輝君  「ゥ〜ウゥゥーー!ガウゥーーッ!」 幸が顔を近ずけると、大きな声で唸る。

幸   「スリスリ。。。」

輝君  「ウーーッ!!! ガブッ!!!」 輝は幸の首を少し強めに噛み、これ以上接近するな!と警告する。

幸    「キャンキャンキャンッ!! キャンキャーーン!!」 幸は大げさに泣き、お腹を出し再び服従する。

園長  「コラッ! 二人とも仲良くするんでしょ!!」

園長  「幸ちゃんは、人の物を欲しがっちゃダメでしょっ!!」(怒)

園長  「輝君も怒っちゃダメでしょ!! 小さい子に何でそんなコトするの!!」(怒)

幸   「。。。。(;_;)」 少し反省したようだ。

輝君  「ヒ〜〜ン。。。。(;_;)」  大分反省している。

園長  「分かったら仲良く遊びなさい。」

     その後は二人とも比較的仲良く遊び、30分位してから、幸を輝の部屋から出す。
     輝は、少々寂しそうだったが、あまりたくさん遊ぶと体力を消耗するし、発熱してしまうので、
     遊ばせる時は、30分〜1時間が限度と決めている。
     あそばせる時、いつも思うのだが、全員、輝に服従姿勢をとって、敵意がない事、
     自分が下のランクだという事を示している。
     輝は、寝たきりなのに、自分よりボスだと認識しているのだ。
     私は、輝がはじめて家に来た時、みんなに、「輝が一番強いの。今日からボスは輝君だから、ご挨拶しなさい。」
     といって、輝に全員のお尻、陰部の匂いをかがせた。
     それから、輝に他の子を会わせる時は、輝に匂いを嗅がせてからにしている。
     きっと、そのせいで、自分が下だと認識したのかもしれない。

     私は、輝が病犬だからといって、決して甘やかしたりはしない。
     寂しいからといって、必要以上に泣く時や、ワガママをいった時には、キチンと叱っている。
     甘やかすと、甘える事に慣れ、生きる力、自分でなんとかしようとする気力まで失ってしまう。
     強く、逞しく、優しく生きてほしいと思っているのだ。
     これから、何度も私に叱られ、自分で何とかしなさい!と厳しい事を言われるけれど、
     それは、私の愛情だときっと分かってくれている。。。と思っている。


 2000年6月17日

     輝は、また高熱を出している。ほんの数日、熱が下がり、体が楽になってきたようだ!と喜んでいたのに、
     またしても熱を出してしまった。 輝の部屋は、室温が18℃〜22℃、とても寒い。。
     それなのに、ハッハッ。。と苦しそうに息をする輝を見て、たまらない気持ちになる。
     どうして!!何故!! と心の中で叫んでしまう。
     とにかく、なんとかしてやらねば、輝の体力は消耗し、力尽きるのにそう時間はかからないだろう。。
     私と村長は、輝を病院へ連れて行き、先生に経過を説明した。

先生  「そうですか。。また上がってしまいましたか。。」 残念そうに呟く。

園長  「どうしてあげたら良いでしょう??何か他に出来る事は。。?」

先生  「抗生剤を飲んでも、熱が上がってしまってるし、腫瘍もまた大きくなってしまってるし。。」

先生  「もう、後は、1日も早く切除してしまうしかないですよね。。」

園長  「手術。。。ですか。。。。」

先生  「日に日に大きくなってしまっているし、成長が思ったより早いので、これ以上待つと切除できなくなってしまうので。。」

園長  「輝はまだ、お熱があるんですけど。。お熱が下がらなくっても手術しなければなりませんか?」

先生  「もう、出来るだけ早くしないと、もっと危険ですよね。。」

先生  「確実に助かるか?といわれれば、お約束できませんが、出来る事はすべてしてあげたいですから。。」

園長  「手術。。手術。。。。危険ですものね。。輝君はまだ体力だって戻っていないし。」

園長  「でも、他に出来る事はないし。。」

     私は病院の壁を見つめて考えた。頭の中は手術でもし耐えられなかったら。。
     もし、命を落とす事になったら。。。と心配で心配でたまらなかった。
     しかし、助かる見こみもあるのだ。
     助かるかも知れないのに、決断できない。輝の顔を見ながら、
     「明日もしかしたら、もう目を開けてくれないかもしれない。。。」と思うと、決断が出来ない。
     先生は、心配そうに輝を見ている。
     私は、先生が心配そうに輝を見る目を見て、先生なら、この先生ならきっと助けてくれる。
     助からないにしても、最善を尽くしてくれるだろう。。
     今まで、輝を診察してもらって、先生の熱意や真剣な眼差しに圧倒され、
     先生以外に輝を見せる事は無い!と思ってきたのだ。
     出来の悪い飼い主である私に、小さな事から分かりやすく、真剣に説明してくれた先生。。
     この先生なら、輝を死なせはしないだろう。。。
     もし、死んでしまっても。後悔しない!!

園長  「。。。。。手術、お願いしますっ!!」そう言った瞬間、なんだか涙が出てきた。

先生  「分かりました。 手術、しましょう。」

先生  「1日でも早い方が良いと思います。 あまり長いと負担がかかりますから。」

園長  「先生のご都合のよろしい時に、出来るだけ早くお願いします。」

先生  「では、明日、そうだな。。。午後1時より手術を開始します。」

園長  「分かりました。。先生!!くれぐれも宜しくお願いします。」私は必死になって先生の顔を見上げお願いした。

先生  「分かりました! それと、以前、園長さんがボクに頼んだ手術の立会い、大丈夫なんで。。」

園長  「本当ですか!? 良いんですか!!」

先生  「園長さんのお気持ち、分かりますから。。。」

園長  「先生。。。ありがとうございます。。」私は涙が止まらなくなった。

     以前、手術の相談をした時に、無理を承知で、「手術に立ち合わせてください!」とお願いしていた。
     先生は、考えておきましょう。。。と言って下さったが、その後お返事がなかったので、ダメだったのか?と諦めていたのだ。
     私は、輝が手術中たった一人で死んでしまったら。。。と思い、先生に頼んだのだが、
     先生はちゃんと覚えていてくれて、私の気持ちを理解してくれた。
     なんとお礼を言って良いやら、出てくるのは感謝の涙ばかりだった。

     私は、手術の内容や麻酔の種類、かけ方、手術前の注意事項などを聞き、メモを取った。
     今夜夜9時から絶食。 明日朝7時から絶水。。。明日昼に連れてきて、高熱があっても手術を続行する事。
     私達は家に帰り、もしかしたら最後になるかもしれない食事を、輝に少しずつ与えた。
     いつもより少しカロリーの高い食事を与えて、十分に水を飲ませた後、輝を寝かし付けた。
     私はお風呂に入り、体の疲れを取り、父と母、姉、たくさんの犬好きな友人達に、
     「明日、輝の手術が決まった。成功するようにお祈りしてほしい!」と頼んだ。
     村長は、心配性の私を少しでも違う話題を。。。と思っているのか、
     「HPのね、ジャバって知ってる?」などと、突拍子もない事を話し出す。
     私は、村長と少し話をした後、輝の部屋に向かった。

園長  「輝君?お熱下がったかな??」

輝君  「すぅ〜。。。すぅ〜。。。」 とても良く寝ている。

     私は輝の検温をしながら、心臓の音を聞いた。大変安定していた。

     「ピピピッ。。。」 検温が終わった。

園長  「??輝!!お熱下がったの??」

輝君  「?????」 目を大きく開けて私を見ている。

園長  「お熱下がったね! 良かったね。。良かったね。。これで明日まで頑張ろうね。」

輝君  「ヒン。。。」

園長  「輝君。明日ね、チョキチョキするの頑張れるよね?」

輝君  「。。。。。」黙って真っ直ぐに私を見つめている、瞳は輝いている。

園長  「手術の時ね、ずっとお姉ちゃん傍にいるから。てっくんがオメメ開けるまでずっと傍にいるから。」

園長  「お約束してっ! ネンネしても、とっても痛くても、絶対に頑張って目を覚ますって!!」

輝君  「ヒーー! ベロ〜ンッ!! ベロ〜ン!!」 力強く私の顔を何度も、何度も舐める。

園長  「約束できるんだね。。ありがとう。。お姉ちゃんはね、輝君がいるだけで、十分なの。」

     その後ずっと輝の熱は平熱のままだった。いつもより多めに睡眠を取らせ、明日朝までいつもより多めの
     水分を摂取させる予定だ。このまま手術まで持ちこたえてくれれば。。。と願うばかりだった。

 


 2000年6月18日
    
    今日は、輝の手術の日。 朝7時に絶水して、午後1時の手術に備える。
    輝は平熱を保っている。私は、体温計を手に握り締め、ソワソワ、ドキドキしていた。
    病院へ持って行く物は、介護&看護日記と、輝の敷布団、毛布、タオル、ペットシーツ、
    大型犬用の担架など、普段から輝が使っている物ばかりだ。
    私は、持ち物を紙に書き、忘れ物がないように、一つ一つ、確認しながらバックに詰めた。
    多分、動揺していたんだと思う。 同じ物を何個もバックに詰めては、「あれ?」と言いながら、入れ直していた。
    輝は、私のそんな姿を見て、何かを感じたようで、やはりソワソワしていた。
    
    午前11時になった。
    私は、洗濯物を干しに、庭に出た。

小型犬の鳴き声  「キャン。キャン!キャン!!」

園長  「????」私はあたりを見回した。 この近所には、小型犬を飼っている家は私のところ意外ないはずなのに。。。

小型犬の鳴き声  「キャンッ!!キャンキャンキャンキャンキャン!!!」

園長  「!!??」 どう考えても異常な泣き声がする。何かを必死に訴えている声だ!

小型犬の鳴き声  「キャンッ!! キャンッ!!」

園長  「。。。。。」 探さなくてはっ! きっと助けを求めている。

     私は、声のする方角を見渡し、道路に路上駐車している車に目をとめた。

園長  「まさか!!車の中??」

     今日の気温は軽く27℃はあるだろう。あの路上駐車の車は、もうかれこれ1時間ほど止まっている。
     車内の温度は、きっと40℃以上あると思う。
     だとしたら、犬が死んでしまうっ!!
     私は、車の中を覗きこみ、後部座席に置いてあるケージの中に閉じ込められたシーズー犬を見つけた。
     ドアには、ロックがかかっており、飼い主を探す以外、窓を割るしかなさそうだ。
     私は、あたりを見渡した。車の中では、犬が泣き叫んでいた。

園長  「待っててね。。」

     すると、小さな女のコが、車に近付き、ドアを開けた。
     きっと、飼い主の子供なのだろう。手に、水の入った容器を持って、ケージから犬を出し、水を飲ませていた。
     私は、その様子を、少し離れた場所から見つめたいた。
     水を飲ませて、また車に置き去りにするのなら、放ってはおけない。
     しばらくして、女の子は、犬に水を飲ませると、車に犬を入れて帰ろうとした。

園長  「待って!! この子、ずっとここに居たら死んじゃうよ!!」

女の子 「え??」

園長  「ワンちゃんね、熱射病になって、死んじゃうからね! お母さんに言って、涼しい所に移してあげて!」

女の子 「分かった。。」事の重大さに気付いたのか、慌てて母親を呼びに行き、車の前まで連れてきた。

母親  「犬を涼しい所へ置かないと死んでしまうんですか?」

園長  「そうですねっ。このままでは、そうなりますよね!」(怒)

母親  「この先の森に繋いだら良いですよね?」

園長  ブチッ!!  「森??林ですか??そんな所に置いて行ったら、蛇に噛まれちゃいますし、効果ないですよっ!」

園長  「エアコンの効いた部屋か風通しの良い室内に入れてあげてください!!」 (激怒!)

母親  「でも。。。」

園長  「でも??  ダメなんですか? だったら、私が預かりますっ!用事が済んだら、私の家に取りに来てください!」

     私は、生後4ヶ月だというシーズーを家に連れて帰り、ケージに入れて、アイスノンをあて、水とブドウ糖を飲ませた。
     少し、脱水していて、元気がないように思ったが、20分ほど体を冷やすと、少し元気になった。
     しばらくして、母親が犬を取りに来たので、脱水している事と、今後の注意を厳しく伝え、悪くなるようなら、即病院に行きなさい!
     と言った。  「ブドウ糖を飲ませたから。」と言うと、お金を払いますと言う。私は、
     「お金なんかいりませんから、この子を大切に扱ってください!貴方の子供と命の価値は一緒ですからね!」と言って
     とっとと家に帰るように言った。 久しぶりに、他人に本気で怒った。
     なんで、こんな人間がいるのかと思うと、無性に腹が立ってしまった。

     気が付くと、もう12時を超えている。まずいっ!手術の時間に遅れてしまう。。
     すぐに支度をし、輝を病院まで連れて行き、診察室に入る。時刻は午後1時30分。遅刻だ。。

園長  「先生。。すいません。 遅れてしまいました。。m(__)m」

先生  「いいですよぉ〜。。 ではまず、注射をしちゃいましょうね。」 抗生剤や、鎮静剤など4本ほど注射する。

先生  「手術は全身麻酔でガスを使いますが、麻酔の量は、最小限に留めておきます。」

園長  「ありがとうございます。」

輝君  「フゥ〜。。。。」 鎮静剤は効いてきたのか、目がトロ〜ンとしてきた。

園長  「あれ?ボケボケワンコになったねぇ〜。 てっ君?お姉ちゃん、ずっと傍にいるからね。頑張ろうね!」

先生  「では、そろそろ始めましょうか?」

園長  「ハイ。。先生!!宜しくお願いします!!m(__)m」

     私は、輝を静かに、ゆっくりと抱き上げ、手術室へと向かった。
     手術室に入り、輝を手術台の上に、そっと寝かせる。 輝は、私の顔を、不安げな顔で、見つめていた。

園長  「輝。お姉ちゃん、どこにも行かないよ。ずっとずっと、ここにいるからね。輝の傍にいるからね。」

輝君  「。。。。」

     輝は私が動くと、それを必死に目で追っている。心配でたまらないのだろうか?
     私は、輝に麻酔がかかるまで、ゆっくり、そっと頭や体を撫でていた。
     午後1時30分。。全身麻酔をかけた。
     輝の脈拍、心拍などをモニターに写す。 わりと安定しているようだが、少しでも変化があると、
     不安で不安で、たまらなかった。
     先生は、輝を仰向けに寝かせ、両手、両足を縛って、患部を消毒した。

先生  「では、始めますね。」

園長  「宜しくお願い押します。」 私は、両手をしっかりと組み合わせていた。

     午後1時40分。。。 執刀。
     その後、先生と、先生の奥様と私は、色んな事を喋っていた。
     どんな事だったのか、あまり良く覚えていない。
     私は、輝の腫瘍をジーーーッと見つめ、先生の手術を食い入るように見つめていたような気がする。
     腫瘍には、たくさんの血管が走っておリ、太い血管は、糸で縛り、細い毛細血管は、肉を引き裂く事で
     出血を押さえていた。
     私には、手術の事は分からないので、先生に説明してもらいながら、ただ頷いたり返事をしたりするばかりだった。
     モニターに写った、輝の心電図と心拍、そして、輝の体を交互に何度も見て、
     心の中で、 「頑張れ!!輝君!!」と何度も叫んだ。
     そうこうしているうちに、輝の腫瘍の根元にメスが入った。

先生  「これが、腫瘍の根っこですね。。。」

園長  「これですか?」

先生  「そうです。これを切って、後は閉じるだけです。」

園長  「はぁ〜。。。良かったですぅ。」 私は少しホッとした。

     先生は、腫瘍を摘出して、私に見せてくれた。
     思ったより、根が深くなかった事を教えてくれた。
     その後、先生は、手馴れた手つきで、縫合をはじめた。
     大変丁寧に、綺麗に縫合してくれた。
     
     時刻は3時30分。輝の手術が完了した。

先生  「これで、手術は終わりました。後は、麻酔から覚めるのを待つだけです。」

園長  「ありがとうございました。 なんとお礼を言ったら良いのか。。。」私は涙ぐんで言った。

先生  「いいえ。。手術が成功したのは、僕の腕ではなく、この子の生命力のおかげです。」

園長  「でも、先生には、とても感謝していますっ!!」

     私は、何度も何度も先生にお礼を言った。
     しばらくすると、輝が麻酔から覚め、目を開けた。
     輝は、私の顔をみて、嬉しそうな目をしている。 もちろん、瞳には、とても輝きがある。

園長  「輝君? てっくん?? お姉ちゃんのお顔見て。おねえちゃんの事分かるのね?」 私は自分の目を指差しながら言った。

輝君  「!!!!!」 とても嬉しそうだ。

     先生が、輝の喉から、チューブを抜き、酸素マスクを輝につける。
     私は、輝にそのままそっと話しかけた。

園長  「輝君。。ありがとうネ。 頑張ってくれて、ありがとうね。。」

輝君  まだ少し、けだるそうにしている。

園長  「大丈夫だから、傍にいるから、ネンネしなさい。」

輝君  ボーーーとした目で、私をずっと見つめている。

     それから約3時間、輝が安定したのを見て、先生が、「もう大丈夫です。」と言ったので、
     家で待っていた村長に電話をし、迎えに来てくれるように言った。
     私は、輝の麻酔が覚めてから3時間、ずっと輝の頭や背中、足を撫でて時折輝に話しかけて過ごしていた。
     こんなに時間、輝を撫でてやった事はなかった。
     輝に、「頑張った!良く頑張った!!」と何度も言ってあげた。
     
     その後、しばらくして、村長が私と輝を迎えに来てくれた。
     村長は、とても心配そうに輝の様子を先生に聞き、私と先生と村長で、術後のケアの事や今後の事を話し合った。
     術後のケアが、これからの輝を左右するといって良いほど大切なもので、しっかりケアをするように、
     変わった事があったら、すぐに電話するように、3日間は毎日病院へ通うようにと言われ、
     私達は、「ハイ、分かりました。」と返事をした。
     今日は、このまま帰って良いが、安静を保つ事を約束した。

園長  「てっくんっ!!帰ろう! おうちに帰ろう♪」

輝君  嬉しそうに私を見ている。

村長  「輝!よかったなっ!」

輝君  「嬉しそうに村長を見る。」

園長  「さぁ! おうちに帰ろう!!」

     私達は、輝をそっと、そっと車に乗せ、静かに車を走らせて家路についた。
     家に帰ってから、輝は安心したようにぐっすり眠っていた。

     輝は、とても小さな未熟児で生まれ、母犬のおっぱいを飲めずに、人口授乳されて育ったが、
     決して丈夫とは言えない体で、兄弟から苛められ、母犬にもあまり構ってもらえずに生後45日まで
     私の信頼する訓練士の方のおうちにいた。

     訓練士さんが、私の家に、突然やってきて、父と母に「お願いします。ここで育ててやってください」と
     目にたくさん涙を浮かべて輝をケージから出し、大切そうに抱き上げ、頭を深々と下げている姿を今でも覚えている。
     輝は、大変体が弱く、事ある度にひどい下痢を起こし、性格も大変イジケッ子で、泣き虫で弱虫だった。
     訓練士さんにも、シェパード犬を良く診てくれる獣医にも、「育たない!」と言われたほど貧弱な犬だった。
     警察犬になる為には、明るい性格と頭の良さ、そして、何事にも動じない心が必要なのに、
     何一つ、当てはまらなかった輝君を、家族全員が協力して、性格を直し、明るく、従順で、強い心を持つ犬に育てあげた。
     末っ子の私とは、なぜかとても気が合っていて、毎日毎日、かくれんぼや、高鬼ゴッコ、サッカーなどをして遊んだ。
     毎年、麦畑の麦が黄金色に輝くと、自分の背丈と同じの麦畑の中に二人で入り、お互いが見えないのを確認して、
     逃げ回ったり、追いかけたりして遊んだ。 いつも、勝つの輝君だった。
     今回、輝は、あの頃のように、見えない物に正々堂々と立ち向かい、見事に勝利した。
     あの頃と何も変わっていない、純粋で、素直な瞳が、私に告げる。
     「ボク、お姉ちゃんの喜ぶ顔が見たかったの。。。」と。

     輝君。。本当に良く頑張った。 お姉ちゃんは、輝を誇りに思います。


2000年6月19日

     輝の術後のケアは、先生との相談の結果、私が行なう事になった。
     本当は、術後最低1日は入院して、病院にてケアをする事になっているが、輝の気持ちを考えて
     自宅で。。ということになった。
     「術後のケアは、手術と同じ位大変で、神経を使うので頑張って下さい。」と先生に言われ、
     私は昨日から1時間ほどしか寝ていない。輝の体を、しっかり管理し把握しなくては。。。と思うと、
     おちおち寝てなどいられない。
     今日の輝の予定は。。
     AM7:00〜食事(少量)  AM8:00〜(水少量)  AM9:00〜病院  と言った感じだ。
     その他、検温、排尿、排泄、全身マッサージ、伸び、患部消毒 私との会話 と色々忙しい。
     老犬の輝にとっては、かなりハードなスケジュールだと思う。
     たまに、「ヒーーンッ!!!」といって駄々をこねるが、かなり素直に私の言う事を聞いてくれている。
     老犬輝君は、名犬輝君でもあるようだ。  「名犬輝君!」。。うぅ〜んっ!良い響きだ。。。←親ばか?

園長  「輝君?起きて!病院に行く時間なんだからぁ〜。。」

輝君  「。。。??。。!!」 寝ぼけている。

園長  「てっくん。。お出かけするの。先生の所にいくんだよぅ〜!」

輝君  「!!♪♪♪」 お出かけに反応!嬉しそうだ。

     車の中は、暑いので、あらかじめ車内にエアコンをかけ、温度を下げてある。
     輝を車にそっと乗せて、渋滞を起こしかねない速度でゆっくり、ゆっくりと病院へ移動する。
     途中信号などで止まると、隣に並んだ車の運転手が、「トロトロ走るな!」と言う顔をして私を見る。
     私がペコリと頭を下げて、助手席の乗った輝に目線を落とすと、「あぁ〜。そうゆう事か。。」と言うような顔をする人もいる。
     その人達はきっと、犬が好きな人や心の優しい人なのだなぁ〜。。と思う。
     迷惑なのは十分承知だが、「おっせーんだよっ!!」などと言われるとなんだか悲しくなる。
     輝に、「大丈夫だよ。。輝君のせいじゃないから。。」と言いながら、車を走らせ病院に着いた。

園長  「先生。おはようございますぅ〜。。」あくびが出る。

先生  「大分お疲れのようで。(笑)」

園長  「はいぃ〜。(笑)あんまり寝てなかったので。」

先生  「大丈夫ですか?」

園長  「平気です。輝君も変わった様子はなかったです」

先生  「そうですか。 熱も出なかったですね?」

園長  「熱は、病院に来る直前に39.5℃でした。今朝7時に食事を少し与え、8時に水を飲みましたが特に変わった様子はありません。」

先生  「術後の熱は怖いので、良く看てあげてくださいね。」

園長  「はい。分かりました」

     先生は輝に抗生物質と痛み止めを注射してくれた。その後、輝に目薬を挿してくれた。

輝君  「!!」 とても嫌な顔をする。

園長  「アハハハハッ! 輝君目薬嫌いなんだよねぇ〜!嫌なの?輝君。」

輝君  「シバシバ。。パチパチ☆。。。。。パチパチ☆。。(;_;)」とても嫌な顔をしている。

先生  「輝君、目薬嫌いなんですか?」

園長  「ハイ。昔からとっても嫌がります。(笑) 注射より嫌いです。」

先生  「そうなんですかぁ〜。」

     先生は目薬をしまって、輝の顔を覗きこむ。
     輝君は目をパチパチさせながら先生を見ていた。
     私は、なんだか少し穏やかな気持ちだった。手術は無事成功し、輝はとても元気で。。
     病院の診察室の空気がとても明るく思えた。
     
    
     午後になり、輝は軽い昼食を食べた後、お昼寝をした。
     3:00頃、村長が寝室に来て、テレビを付ける。
     「北の国から。。」という番組を見ていると、輝は不思議そうに画面を見つめていた。

園長  「てっくん?テレビ楽しいの?」

輝君  「。。。。じーーっ。。。」 テレビに夢中になっている。

園長  「輝君? テレビ好きなの?」

輝君  「? ♪♪♪」 楽しそうにテレビを見ている。

園長  「そっかぁ〜♪ 楽しいんだ!良かった!!」

     輝の心が穏やかで楽しいなら、どんな事だってしてあげたくなる。
     私と村長、輝君は、無事手術が終わって元気になった輝と、久しぶりに和やかな時を過ごした。
     輝が笑っている。とても楽しそうに。。。
     私にとって、輝の笑顔がどれだけ嬉しいものかは、きっと誰にも分かるまい♪


 2000年6月20日

輝君   「ひぃ〜ん。。。」

      早朝5時。輝がとても甘えた声を出し、私を起こす。

園長   「どちたの? てっ君?」

      私は、輝の耳を触り熱があるかどうか確かめる。最近は慣れてきて、耳を触るだけで
      輝の体温が今何℃位か分かるようになった。いつも予想した温度と、検温した温度は大差がない。
      熱は微熱のようだ。この位なら特に問題はなさそう。。。
      おなかを触り、おしっこが溜まっているかどうか確かめる。
      おしっこではないようだったが、内股が大分蒸れていたので、体温と同じ位の温度に濡らしたタオルで
      輝の内股を優しく拭いてあげる。

園長   「てっくん?きもちぃ〜ねぇ〜♪拭き拭きしたらスッキリするねぇ〜♪」

輝君   「♪♪♪♪♪」 とても気持ちよさそうにしている。

園長   「はいはい。。分かったよ♪甘えん坊君♪」

      輝は私の顔が自分の口に近くなると、自分の舌を思い切り伸ばして、私の顔を舐めようとしている。
      タイミング良く私の顔を舐める事が出来ると、とても得意げな顔をする。
      私はそんな輝の顔を見ながら、拭き終わった輝の内股にベビーパウダーをつけた。
      老犬の介護に、ベビーパウダーは必需品だ。
      動けなくなってしまった老犬の体は、代謝が悪くなり、すぐに皮膚病になってしまう。
      ベビーパウダーを被毛につけて、念入りにブラッシングし、お腹などをマッサージすると、かなり汚れも取れて
      キレイになる。  よく、市販の犬用水のいらないシャンプーなど売っているが、なんだか不安で使えない。
      何が不安なのか良く分からないがとにかく安心できない。。。と思ってしまう。

園長   「はい。終わりぃ〜!! 良かったね。スッキリして。」

輝君   「じーーーーーっ。」   輝が水筒を見ている。

園長   「お水ね?待ってて。」

      私は水筒の水を自分の口に含み輝の口元まで顔を近ずける。

園長   「んっ!んんんんんんっ?」  (ハイ。お顔あげて?)

輝君   「ふっ!」  輝は顔を上げた。

      私は、輝が顔を上げると、輝のあごの下にタオルを当てた。
      これは、口移しで水を飲ませた時に、水がこぼれてビチョビチョにならないように、
      口移しを始めた時から、やっている事だ。
      輝は最初、自分から顔を上げることはなかったが、次第に学習し、水やご飯の時は、必ず自分から顔を上げるようになった。

園長   「ん♪」  口に含んだ水を少しずつ輝に与える。

輝君   「ベロベロ。。ゴクッ。  べロベロ。。ゴクッ。」

      水を与える時はこれを3回繰り返し、約500mlほどを休みながら少しずつ与える。
      水を飲んだ後は、少し安静にしてやる。

園長   「ほら。もうネンネしなさい。疲れちゃうよ?今日も病院行くんだから。」

      輝はその後良く寝ていた。
      私も輝の朝食の時間、AM8時まで仮眠をとった。
      輝の食事が済んで、排泄が終わると、私達は今日も病院に行く。
      先生は輝の経過が良いので、輝の左腕に刺した点滴の針を抜いてくれた。
      食事も食べてるし点滴はもう必要ないそうだ。
      抗生剤を皮下注射して以前効果があった飲み薬を処方してくれた。

先生   「傷の具合はどうでしょう?痛がります?」

園長   「いいえ。でも、全然痛くないわけじゃなさそうですが、すごく痛いとかじゃないと思います。」

先生   「う〜〜ん。。。糸を少し抜きましょうか?」 

園長   「もう糸抜くんですか?」 ちょっとビックリした。

先生   「ほら。この糸、一本だけですが、これはもう必要ないですから抜いちゃいましょう。」

園長   「あ〜〜。。。なろほどね。。そうですね。じゃあお願いします。」

園長   「てっくん?糸抜くんだよぉ〜。 ちょっとチクチクするけど我慢ね。」

輝君   「。。。。。。」とても落ち着いている。

      先生が鋏で糸を切り、そっと引き抜く。黒い糸はスルスルと抜けた。
      輝は、全然痛くなかったようで、平然としている。

園長   「あれぇ〜!!いい子だったねぇ〜♪」

輝君   「♪♪♪♪♪」

先生   「良かったですね。他の糸はあと5日位してから抜きましょうね。」

園長   「はい。よろしくお願いします。」

      輝と私は家に帰った後、クーラーの効いた寝室でゴロゴロしながらテレビを見て、
      村長と私、輝君とで仲良くお昼寝をした。
      輝は私が思っていた以上の早い回復を見せ、食事も良く食べ元気だ。
      傷が完全にふさがって、輝の体調が良くなったら、輝が大好きだった川に連れて行こうと
      村長と話した。
      きっと喜ぶに違いない! 輝が元気になるのを私も村長もとても楽しみにしている。

 


2000年6月21日

     患部の傷は見た目でも大分回復したのが分かるようになった。
     患部はオキシドールで1日2回消毒している。輝は寝たきりなので股の間は乾燥しにくく、蒸れやすくなってしまうので、
     出来るだけ足の間に枕などを入れて傷周辺を乾燥させている。
     あまり足を上げすぎると、今度は傷口がつれてしまって痛いので、微妙な角度を保つようしょっちゅうチェックしている。
     熱は38.5℃〜39.3℃までと、比較的安定しているが、少し目が充血している。
     薬は、抗生剤と、ビオフェルミン、アリナミンを与えている。いつもながら薬を飲むのがとても上手で、
     口に入れてあげると、自分でモグモグゴクンと食べてしまう。
     その後、私の顔を覗き込み、得意げに、「誉めて♪」という顔をする。
     私は輝のその顔がとても大好きで、何度も薬を飲ませたい衝動にかられてしまう。
     夜になって、輝のゴハンを与えた後、肛門を刺激して便を排泄させた。

輝君  「クゥーーーッ。。。ブルブル。。クゥー。。ブルブル。。」

園長  「ありゃ?お腹痛いの?」

輝君  「。。。ブルブル。。」 

園長  「はい。。うんち君出ちゃいなさい。」

輝君  「ブリ。。ブリ。。。」

園長  「あれぇ〜。。。下痢ピッピだねぇ〜。。」

輝君  「ひ〜ん。。。」 申し訳なさそうな顔をする。

園長  「大丈夫だよぉ〜!てっくんのうんち君は、お姉ちゃんのお友達だよ♪」

     私は輝の大きな鼻にキスをした。多分3秒位。。。(笑)

輝君  「♪♪ブシュン。。クシュンッ!!」

     輝はキスをされると必ずくしゃみをする。多分くすぐったいのだろう。
     キスをしてあげると、すごく嬉しそうに私の顔を舐めてお礼をしてくれる。
     輝の声が聞こえるように気がする。「ぼくもお姉ちゃん大好き♪」と言っているように思う。

     私は、手袋をして、輝が排泄した便を調べる。
     消化されていないものがあったり、寄生虫がいたりしたら困るので、軟便の時は必ずうんち君を
     分解?して調べている。
     今日は特に問題なさそうだ。少しお腹が冷えたのかもしれない。
     お腹の部分にだけバスタオルをかけて保温してやることにした。

園長  「輝君? ガムで遊びますか?」

輝君  「ひゃんっ!!」 とても元気な声で鳴く。

園長  「あら♪良いお返事できたのねぇ〜♪はい。じゃあ遊ぼっ!」  輝にガムを与える。

輝君  「ガウゥゥーーーッ!!  ヒャンヒャンッ!! ガブガブッ!!」

園長  「てっくんは上手にお喋りするねぇ〜♪楽しくって良かったね♪」 

     術後初めてガム遊んだ輝は、久々のガムの味と硬さにうっとりし、夢中になって遊んでいた。
     ボールやぬいぐるみ、ピヨピヨ鳴く玩具などにも興味を示し、とても良く遊んでいた。
     輝は玩具が大好きで、昔からいろんな玩具をたくさん貰って遊んでいるが、
     ぬいぐるみだけは絶対に壊さなかった。
     小さい頃から、車のタイヤを破壊したり、家の前の木で出で来た街頭をかじって破壊するほど
     イタズラだったのに、何故かぬいぐるみだけはそっと口に咥えて犬舎に持って行き、
     大切そうに隠してしまう。友達だと思っているのかも知れない。。。。

     しばらくガムで遊んだ後、マッサージをしてあげた。
     足の裏のパットが大分硬くなってしまった。
     歩いていないから角質がとれずにいるのだろう。
     後でベビーローション等を使ってマッサージをしなければ。。と思った。
     今日、輝はとても元気だった。 遊んでいるとき、以前より元気だな。と思った。
     下痢が少し心配だったが、繊維のある食事に変れば治ると思う。
     輝が元気になる。ただそれだけで私の心も元気になっていく。

 


2000年6月22日

     以前から探していた輝用のベビーベットが今日届いた。
     朝10:00に届いたベビーベットは、私がリサイクル店などで探していて「あっ!これがいいなぁ〜。。」と思っていたベットと
     まったく同じタイプの物だったので、私はとても嬉しくて、大はしゃぎしながら輝に知らせた。

園長  「てっくーーーーーーんっ!!!!」

輝君  「?!?!?!?!ッ!」 かなり驚いている。

園長  「あ。。。寝てたの? ごめんねぇ〜。。 あのね、てっくんのベットが来たんだよぉ〜!!」

輝君  「???♪♪」 良く分からないが私が笑ってるから嬉しい顔をしている。

園長  「待っててね。組み立ててあげるから!!」

輝君  「♪♪♪♪♪」

     私はベビーベットをダンボールから出し、押入れから工具を取り出した。
     ベビーベットなんていつも見てるだけで、組み立てた事などなかったので、かなり必死になって組み立てた。
     終わってみると、2時間が経過していた。
     私は組み立てたベビーベットに輝君の敷布団を敷き、その上に大判の柔らかいバスタオルを敷いた。
     準備完了!!後は輝君が気に入ってくれるかどうか。。。??

園長  「てぇ〜る君♪出来たよぉーー!!チョット寝てみる??」

輝君  「????」

     輝は突然現れた大きなベットを見て、少し困ったような顔をしていた。
     私は輝を抱き上げ、ベビーベットの所まで連れて行きベットの匂いを輝に嗅がせた。
     輝は一通り満足いくまで匂いを嗅ぐと、安心したようで、私の顔をべろんと舐めた。

園長  「輝君。 じゃあネンネしてみようか?」

     私は輝をそっと抱き上げ、ベビーベットに寝かせた。

輝君  「。。。。。。。。??」

園長  「輝君? どう? 嫌じゃない??」私は輝の顔を覗き込んだ。

輝君  「。。。。。。ベロ〜〜ン♪ ベロ〜〜ン♪」

園長  「良かったぁ〜!! 嬉しいねぇ〜! 輝君。よかったねぇ〜〜〜。。」

輝君  「ベロベロ♪ ベロォ〜〜ンッ!!」

     初めてのベビーベットを全然怖がる様子もなく、逆に結構気に入った様子を見せる輝君。
     輝が今寝ているベビーベットにはたくさんの人の優しさが詰まっている。
     私がベビーベットを探している事を知った、たくさんの友達が、病気の輝のために一生懸命探してくれた
     ベビーベット。。。  私と輝にとって、これ以上嬉しい贈り物は他にないと思う。
     ベビーベットも嬉しいが、会った事もない輝と私の為に、ベビーベットを探してくれたみんなの気持ちが
     何より嬉しく、それを考えると感激で涙が止まらなかった。
     輝宛てに届いた励ましのお手紙は、今までで約20通を超えている。
     見知らぬ人から「頑張れ!輝君を読みました。」と励ましのお手紙が届く。
     それが、どんなに私達の力になった事か。。。
     輝は、本当に、本当に幸せな犬だと思う。
     輝が、重い病気と戦いながらも、こうして長生き出来るのは、愛情のおかげだと思う。
     たくさんの人の思いやり、優しさ、愛情を全身で感じ、輝は生きている。
     輝が優しく穏やかな顔をしているのは、きっとみんなの応援のおかげだと思った。

園長  「輝君。 本当に良かったね。。お姉ちゃん、嬉しいよ。」

輝君  「♪♪♪♪♪」

園長  「うふ♪ テレビ見ようかっ!」

輝君  「♪♪♪♪♪」

     とても幸せだ。 輝も私も、とても幸せだ。
     そう思うと、少し疲れていたのと安心したのが重なり、私はいつのまにか輝の手を握りながら眠っていた。


2000年6月24日

    私は、輝と、「ある約束」をしていた。
    それは、「手術が終わるまで、ちゃんと頑張ったら、ご褒美にステーキを一枚あげる♪」という約束だった。
    私は、小さな時から、犬との約束を破った事が、ほとんどない。
    親と約束した事は、わりとすぐ忘れてしまったのだが、犬との約束は、私にとって絶対!のものなのだ。(笑)
    犬達は、私とした、たった一つの約束を守る為に、いつだって一生懸命頑張る。
    その、懸命な純粋な心を、裏切る事が出来ないのだ。
    私と犬は、「走れメロス」のような関係なのかもしれない。(笑)

    昼過ぎに、輝の食欲が大分安定してきたのを見て、「これなら大丈夫」と思った。
    私は、近所のお肉屋さんへ出掛け、生食用の牛ヒレ肉を200g買った。
    私だって滅多に食べれない、1枚2000チョットする上等のお肉だ♪
    私は、そのお肉をコソコソと家に持ち帰り、カモフラージュに買った、3枚1000円のお肉のトレーに入れて、
    ラップをかけなおした。
    村長には、「このお肉は3枚1000円のお肉♪」と言って、冷蔵庫の奥の方に入れた。

園長  「てっくん?今日はね、お約束の日なの♪」 ヽ(*^^*)ノ

輝君  「ベロ〜ン♪」 機嫌が良いようだ。

園長  「手術頑張ったら、すご〜く美味しいお肉食べるお約束したでしょ?」

輝君  「?」 目をパチパチさせている。

園長  「うふふっ。 あとでね。。あとで♪」

輝君  「♪  ベローン!ベローン!!」

園長  「うふ♪ てっくん?お姉ちゃん、てっくんが大〜好き♪」

    私は、いつものように輝の身の回りの世話をして、最後に輝の大きな鼻にKISSをした。
    輝は、その後お決まりのクシャミをして嬉しそうに私を見る。
    こんな当たり前の事が、とても幸せで、心から嬉しかった。
    少し心配なのは、輝の目が赤い事だった。
    熱は出ていないのに、目が赤い。昨日より赤みが増しているような気がして、心配だったので、先生に電話して対処法を聞いた。
    人工涙液を使って、様子を見てみることにしたのだが、心配性の私は、どうにも落ち着かなかった。
    どんな小さな事でも、輝にとって、苦痛だったり、イヤだったりする事は、出来るだけ早く、治してあげたかった。

    夜、7時になり、私は輝の食事の支度を始めた。
    あの、内緒で買った牛肉を、包丁でこれでもか!と言うほど叩き、消化しやすいように、柔らかくした。
    喉につかえないように、適当な大きさに切り分けて、お皿に盛った。
    輝は最近、私の手作りゴハンより、カリカリフードを好んで食べているので、
    カリカリフードを先に輝に食べさせた。

園長  「ほいほい。。輝君のゴハンの時間です。」

輝君  「クンクン。。。。!! ヒーーッ!」

園長  「よ〜しよし。頑張って食べちゃって下さいねぇ〜♪」

輝君  「カリカリ。。ゴクン!  カリカリ。。ゴクン!」

輝君  「。。。。。。。。。。。。」 食べるのを止めてしまった。

園長  「あれ?どうしたの?? もう食べたくないの?」

     私は輝の口元まで、ドックフードを持っていき、「食べなさい」と指示したが、輝は口をそむけて、私の目を見ようとしない。
     どうしたのだろう。食欲が落ちている。  困った。。
     私は仕方なく、ドックフードを自分の口に入れて、自分で噛み砕き、輝に口移しで与えることにした。

園長  「んっ!んんんーーーー!!」  輝に食べるように言ったつもり。

輝君  「 ベロ〜ン。。モグモグ。ゴクン!」 口移しなら食べてくれるようだ。

     私は、輝に与えなければいけない、最低量のフードを、なんとか食べさせ、輝の頭を撫でて、
     「良く食べたね♪」と、たくさん誉めてあげた。
     そして、ようやくお肉の登場だ!

園長  「て〜〜〜っく〜〜〜〜んっ♪♪ ほらほらぁ〜!輝君の大好きなお肉だよぉ〜〜♪」

輝君  「!!!!!!!」 目をこれでもかと言うほど大きく丸々と開ける。

輝君  「ヒーーーーーーーッ!!」

園長  「わぁ〜♪輝君大きなお目々だねぇ〜!」

輝君  「ヒーーー!ベロベロ。。ベロベロ!」 何度も舌なめずりをして、早く頂戴!と言う。

園長  「輝君。輝君。。お姉ちゃんとお約束した事、ちゃんと守って頑張ってくれてありがとうネ!」

園長  「輝君、ちゃんとお約束守ってくれたから、お約束のお肉食べようね♪」

     輝の口元までお肉を持っていってあげると、輝はすごい勢いでガブガブをお肉を食べ、
     それは、ほんの一瞬でなくなってしまった。(笑)

園長  「輝君。。。もっと味わって食べなくちゃ。」

輝君  「??ヒ〜ン。。」  もっと頂戴!とおねだりしている。

園長  「もう食べちゃったでしょ? お肉、輝君のお腹の中に入っちゃったでしょ?」

     私は、輝のお腹をポンポンとたたき、もうない事を教える。
     そして、輝に食後の水を飲ませた。
     いつもと同じ量の水を飲ませた後、輝の呼吸がおかしい事に気が付く。
     どうしたのだろう? もしや、また誤飲しているのだろうか?
     もしや、また肺になにか炎症があるのだろうか?
     そう考えると、とても怖かった。。 しばらくすると、輝の呼吸は、普通の状態に戻り、
     そのうち、輝は、疲れてスヤスヤと眠ってしまった。

    手術が終わって、ベビーベットも来たのだ。
    後は、輝の体力を戻し、心身を充実させることが、治療に一番大切だと思う。
    寝たきりでも、健康な生活。。  それは、犬にとって、大変難しい事だと思う。
    犬にとって、本来寝たきりとは、死んだも同然なのだから。
    でも、輝には私がいる。
    私は輝に、「ボク寝たきりでもお姉ちゃんと一緒なら楽しい♪」と思ってもらいたいのだ。
    走れなくても、歩けなくても、しっぽが振れなくても、足も手も、何もかも動かなくなっても、
    輝が、「私と一緒に居たい!」と思うのなら、出来るだけ快適な生活を守ってあげよう。

    私と輝は、いつまでも、一緒に走るんだ。。。。
    昔、輝は「ついて!」というと、私の歩調に合わせ、私にピッタリくっついて歩いてくれた。
    今は私が輝の歩調に合わせて走ったり、歩いたりしている。
    身動き一つ出来ない、輝の歩調などと言って、人から見れば、馬鹿馬鹿しい事かもしれないが、
    私にとっても、輝にとっても、それはとても大切で、そして何よりも幸せな事なのだ。。。


2000年6月25日

    輝は最近、誤飲を出来るだけ防ぐ為に、子犬用ミルクを自力で飲むようにしている。
    私が輝の体を起こし、首と体を支えて安定させ、口元までミルクの入ったお茶碗を近ずける。
    私一人で20キロの輝を抱き上げ、体を安定させた後、首を片手で押さえてやりもう一方の手でミルクを持ってやる。
    いつも左腕で輝の体を支えているのだが、支えている左手が、輝の重みで痙攣してしまうほど、キツイ介護の一つだ。
    それでも、輝がミルクを美味しそうに自力で飲む事が出来た時、とても嬉しかった。
    今日は朝から目立った高熱を出していなかったので、夕方になって輝にミルクを与えたが、今日はあまり飲んでくれない。

    夜食には牛のレバーを中心に、バランス良く食べさせたが、レバー以外はあまり食べてくれなかった。
    食事の後、いつも必ず500mlほど水を飲ませるのだが、輝は昨日と同じように少し苦しそうな咳をしている。
    昨日より長い時間咳をするので、喉になにか詰まったのかな?と思い、輝の胸を何度か優しく叩いてあげた。

輝君 「ケホ。。。ケホ。。。」 力なく咳をする輝君。

園長 「どうした?輝君。苦しいの??」私は輝の胸をさすったが咳は止まらない。

園長 「困ったねぇ〜。。 どうしたら止まるのかなぁ?」

    私は輝の胸を軽くトントンッ!と何度か叩く。

輝君 「オエェ〜。。。  オエェ〜〜〜。。」 何かを吐き出したいといった感じだ。

園長 「うん。うん。。苦しいねぇ〜。困ったねぇ〜。。」 心配で心配でたまらない気持ちになった。

    何度か叩いてあげると、咳が治まり、呼吸が楽になったようだった。
    「様子がおかしい。。輝の体に何かがおきている?」 私は何かイヤな予感を感じた。

    輝が私の自宅に来てから1ヶ月が過ぎた。
    初めて来た日に輝の体にバリカンをかけたが、その時に爪とパット、パットの間の毛を手入れした。
    寝たきりの犬のパットは、足を地面につける事がない為、乾燥し、ひび割れてしまうので
    ベビーオイルやベビーローションを使ってマッサージし、適度な刺激を与えている。
    パットは厚い皮膚で、角質が約3週間ほどで生まれ変わるようだ。
    ひび割れた角質をベビーローションでよくマッサージすると、硬い角質が少しずつふやけ、柔らかくなり、
    ボロボロと取れてくる。新しい非常に柔らかい皮膚が、ひび割れた古い角質の下に出来ていて、
    まるで子犬のパットのような柔らかさだ。

    今日はその角質取りと、パットの間に生えている毛のトリミングと、爪の手入れをした。
    マッサージや、毛のトリミングをしていると、輝は少しくすぐったいようでまだ感覚のある手足をピクピクと動かし、
    口をデロ〜〜ンとだらしなく開けていた。
    その顔と仕草が、大変可愛らしく、笑える表情だったので、私は輝の顔を見て思わず大笑いしてしまった。

輝君  「ハハ。。ハッ!!  ハハッ。。。  ピクピク。ピクピク!」

園長  「なによぉ〜!じっとしててよぉ〜!!輝くぅ〜んっ!動かないでぇ〜〜!!」

輝君  「ピクピクッ!!  ハァ〜。。ハハッ! フンッ!」 口を大きく開けて舌をベロンとだらしなく出している。

園長  「プッ。。プッ。。。きゃはははっ!! 輝ぅ〜〜!面白い顔しないでよぉ〜(笑)」

     私は手入れをしている間ずっと輝のアホのようにだらしない顔を見て、クスクス笑いをしていた。
     そして、こうしてコミニュケーションをとれる幸福感をヒシヒシを感じていた。

     私は手入れをしながら色々な事を思い出していた。
     「輝のこの足は、私と一体何キロ歩いてくれただろう?」
     どんな時も、毎日毎日私と歩いてくれた、大切な輝の、太く強い手足。
     輝と歩いた散歩道や、遊びに行った公園。私が輝を散歩してたのか、輝が連れて行ってくれたのか
     どっちか分からないほど私達はいつも仲良しだった。
     今では細く、弱々しくなってしまった足を見つめて、こう思った。
     「輝はこの足で私にたくさんの喜びと、経験と、思い出を作ってくれた。」
     「今度は私が輝を抱いて私の足で輝に喜びを与えるんだ!」


2000年6月27日

     輝の咳は日を追うごとに頻繁になってきているように思えた。
     昨日は、あまりにも心配になり先生に電話で輝の症状を伝えた。
     先生はお薬を変えることを提案して下さった。

     今朝は朝から熱が高い。ずっと下がっていたのに、39.9度もあるのだ。
     体を冷やし、少し熱を下げてから病院へ行った。
     先生は今までの抗生剤を止めて、以前熱が下がったことのあるお薬と、もう一種類タンを切る効果のあるお薬を処方してくれた。
     「手術したのに。。どうして熱がでちゃうの?どうして??」
     私は、そんな言葉を心の中で繰り返しながらなんとなく輝の死期が近い事を感じていた。
     それは、輝の体に、「転移」があるように思えたからだった。
     先生は「これからは肺、肝臓、脾臓への転移を気にしながらレントゲンを撮っていきましょう。」と仰った。
     私には、その遠まわしな言葉が、「転移してると思います」に聞こえてならなかった。
     肺炎を起こし、そのせいで熱が出てしまい、苦しくて咳をする。
     それが当然なのだから。。。。
     でも、私は信じたくなかった。頭では解っていても、心が受けつけないのだ。
     
     家に帰った後、輝をいつものように寝返りさせると、異常なほどいやがり暴れた。
     「イヤだよ!苦しいよっ!!」そんな風に言っているように思えた。

輝君  「ヒーーーンッ!!!!! ヒーーーンッ!!」

園長  「輝!分かったから。お姉ちゃんが傍にいるから、もう少しだけ我慢して。」

輝君  「ヒーーーンッ!!ヒンッ! ヒャンッ!!!!」
 
     輝は左胸を上にして寝ると、とても苦しそう泣き始める。
     今まで輝の健康のために、多少嫌がっても寝返りだけはキチンとさせていたのだが
     こう暴れるのでは熱も上がるし、輝自身に大変なストレスがかかる。
     今日からしばらくの間、寝返りの代わりに、右半身10分、左半身15分のマッサージを一日6回施すことにした。

     食事の内容も、栄養重視の内容に変えて、カリカリフード少量を強制的に食べさせた後、
     卵、牛肉、魚、レバー等をなるべく多く与えるようにした。
     輝はそれらを大変喜んで食べてくれるのだが、やはり食べ終わった後に咳をする。
     苦しいね。。 どうしたら良いの?
     できる事なら変わってやりたいよ。

     先生の言葉が胸に刺さる。
     「肺、脾臓、肝臓への転移。」そんなのはイヤだっ!!
     神様。。お願いだから輝を最後まで苦しませないで。。。


2000年6月28日

     AM8:00    40.0℃    水を多く与える。 尿を出す。エアコン強に設定。 胸を冷やす。アイスノン使用開始。
     AM9:00    39.2℃    尿を出す。 食事を与える。(カリカリ)魚一匹(赤魚) 便が出る。大変良い便。
     AM11:00   39.2℃    塩化リゾチウム、ビブラマイシン投与。 パンを少量自力で食べる。アイスノンを取る。
     
     PM1:00    39.7℃    水を与える。尿を出す。全身マッサージ15分。特に左半身を重点的に。。。
     PM3:00    39.5℃    尿を出す。水を少量与える。 全然元気がない。悲しい。
     PM4:45    39.1℃    尿を出す。 フードを一掴み与える。(強制) 左半身マッサージ×15分
     PM7:40    40.3℃    尿を出す。 冷水を与える。胸を冷やす。アイスノン使用。エアコンの温度を下げ強に設定。
     PM9:00    38.9℃    アイスノンを取りエアコンを弱に設定。鳥の胸肉、牛テールを与える。とても喜んで食べた。良かった。
     PM12:00   38.8℃    尿を出す。 どこか痛そう。どこだ?? お腹ではないようだ。。

     これは、私の看護日記の一部を抜粋して書いたものだ。
     輝の様子をこのように書き、その後、私の輝を介護、看護したときの様子や
     今日の出来事、感じた事を日記としてつけてるのだ。
    
     今日の輝の体の様子を知るために、ほぼ2時間〜3時間おきにつけられた日記を先生に読んでいただき、
     輝の自宅での様子を治療に役立ててもらっている。。
     でも、私は今日、少し不安になってしまった。
     輝は5〜6時間おきに熱を出し脈が速くなり、苦しそうにあえぐ。。
     それを見ていると、日記がなんの役にも立たないような気がしてならなかったし、書くこと自体が辛くなってきていた。
    
     私は、毎日輝の事を見て、不安になると友人にその事を相談していた。
     私は、輝の事を相談できる友人があまりいなかったが、HPに病気の輝を紹介するようになってから
     それを見て励ましのお手紙をくれた友人3人とは、本音で自分の不安な気持ちや泣き言を言う事が出来た。
     そんな大切な友人が出来たのは、まさしく輝のおかげだった。
     友人が書いてくれたたくさんの励ましの手紙を読み返し泣きながら「これじゃダメだ。こんな気持ちじゃダメ!」
    

     輝は、こんなに元気がないのに、相変わらず私にたくさんの事を教え、そして与えてくれる。
     大人になって、少し純粋さを無くしてしまった私は、輝の瞳に心を打たれる。
     何もかも悟ったような瞳。まっすぐに私を見つめる目。。
     私は輝の目を見ると、心が洗われるような気がした。
     力強い光があった輝の瞳が、今日少し弱々しくなったように感じた。
     私は、とても寂しくなった。 あとどれくらい??
     そんな疑問が、頭から離れない。
     互いの瞳の中をどんなに探り合っても、その答えは出てこない。
     寂しい・・・・。どうしようもなく、寂しくて仕方ない。
     私は、今後輝に何をしてあげれば良いのだろう?
     他に何ができるのだろう??

     誰でもいい。お願いだから、輝を助けて!!!


 2000年6月29日

    朝6:00。 最近はずっと輝の事が頭から離れず、ほんの少しの物音や、横で寝ている輝の小さな声で、起きている。
    今日も、少しウトウトしていたのだが、輝の息が少し荒くなったような気がして、目が覚めた。
    私は目が覚めると、必ず輝の耳を触り、体温が正常であるかどうか確かめるのだが、
    今朝は熱があるようだ。しかもちょっと高め。
    冷水を飲ませ、エアコンの温度を下げ排尿をさせて様子を見るが、
    1時間以上経っても下がる気配がないため、解熱剤を投与した。

輝君 「ハッハッハッ。。。」

園長 「ごめんね。輝君。もう少し頑張ったら、お熱下がるから、もう少しだから。。」

輝君 「ハッハッハッハッ。。ハッハッハッハッ。。。」

園長 「うんうん。苦しいね。分かるよ。お姉ちゃんも、輝君が苦しいと苦しいんだよ。だけど、一緒に頑張ろうね?」

    朝9:00に再度検温すると、熱が下がってくれたようで目の輝きが良くなっていた。
    水分を多めに取らせ、フード片手で一掴みほどを30分かけて食べさせた。
    熱で消耗した体力を補うのに、フード一掴みでは、全然足りないように思い、
    カロリーメイトとウィダーインゼリーの高カロリーの物と、食物繊維入りの物を、少しずつ与えた。
    その後、抗生剤の投与と、人間でもおなじみの、ポポンSという疲労回復のお薬を与える。
    昼間の間、輝はずっと体調もご機嫌も良く過ごし、私と遊びたそうな顔をしてみたり、
    スヤスヤと安心して眠り、時々走っている夢を見て私を安心させてくれた。
    しかし、夕方6:00頃になり、また熱が上がってしまった。
    私は、とても不安になり病院に電話した。
    肺への転移だろう。と言われるが、信じたくない。。。
    どうしてこんな事になるのだろう。輝は手術だって頑張ったし、私との約束だってちゃんと守ってくれたのに!
    輝が苦しい思いをしなければならないのは、一体何故?
    いつだって一生懸命な輝君。 生きよう!って前を見て必死に歩こうとする輝の邪魔をしないで!と
    一体誰に訴えれば良いのだろうか?

    輝を抱いて、途方に暮れる時間が、多くなったような気がした。
    

    深夜2:00になり、輝はまた、熱を出した。
    しかし、今までの熱の具合とはちょっと違うようだった。
    輝はぐったりし、全身の力が入らずに首さえも、自力で持ち上げる事が出来なくなってしまった。
    目も乾き、著しい脱水症状が見られた。
    脈はとても速く、30分でも気が付くのが遅ければ、死んでしまうのでは?と思えるほどの消耗ぶりだった。
    そろそろ点滴で、水分と栄養を補給しなければ、輝の体は。。。

    「可哀想に。。。 輝君。 どうしたら楽になるの?」と何度も何度も、輝に問いかけるが、
    輝はただ私を優しく見つめるだけだった。


 2000年6月30日

    今日の輝は、昼に一度高めの熱を出してから、目立って高熱を出さず、比較的安定した体温を保っているように思えた。
    夕方5:00頃に、調子が良さそうなので、全身マッサージをし、ブラッシングを施す。
    輝は、なんだかずっと嬉しそうにしていて、私もつられて、始終ニコニコし輝に話しかけながらスキンシップを楽しんだ。
    輝の体は、随分小さくなり、寝返りを少なくしているせいか、左半身の皮膚の色が、黒くなってしまっていた。

    その後、輝に睡眠を十分に取らせてから、病院へ行った。
    輝にマッサージを施し、ブラッシングをしたのは、昨日、輝が高熱を出した時、私の心の中で輝の命の時計の音が
    少し聞えたような気がしたからだ。
    輝は、多分もう長くない。
    あと何日生きれるか分からない。
    だから、せめて首を持ち上げる事が出来るうちに、長年一緒に暮してきた私の両親に、会わせてあげよう。
    そしたら、少しでも気分転換になるかもしれないし。。。
    そして、意識のシッカリしている最後の対面になるかもしれない。と思ったのだ。
    
    病院行くと、以前から気になっていた肺の転移を確認する為にレントゲンを撮ってもらった。
    結果は、予想どうりで、転移していた。
    肺に白い影が映っている。輝の命の火を消そうとする、恐ろしい白い影。
    私は散々躊躇った末に、先生に、輝の余命を聞くことにした。

園長  「あの輝君は、あと。。。あとどれくらいなんでしょうか?」

先生  「。。。。。わかりません。その子によっても違いますし、一概には。。。」

     先生は、私の気持ちを考えて、大体どれくらいという具体的な日数を言うことが出来ないようだった。
     やはり、先生も辛いのだろう。
     でも、知っておかなくては。。。 そう思い、勇気を出して違う質問を向けてみた。

園長  「輝と同じような症状のワンちゃんで、平均余命はどれくらいなんでしょうか?」

先生  「そうですね。。。 大体。」

     先生は大きく深呼吸した後、苦しそうな顔で静かに言った。

先生  「大体2週間くらいだと思います。」

園長  「2週間  ですか。 あと2週間。 2週間。。。」

     2週間という言葉が、頭の中を埋め尽くし、他に何も考えられなくなってしまった。
     喉の奥が熱くなり、息が苦しくなる。
     目頭が熱くなって、必死に堪えていたはずの涙が、とうとう我慢できなくなってしまった。
     嘘だよね?輝は生きているのに、今だって、ほら。ちゃんと息してるじゃない!!
     2週間?? そんなバカなッ!!輝!!輝君!!輝君ッ!!!!

先生  「ダメですよ。泣いたりしちゃダメですよ!輝君が見てるでしょう?
      今、輝君は一生懸命頑張ってるんですから、園長さんが泣いたりしちゃ、輝君、不安になっちゃいますよ!」

園長  「はい。。  はい。そうですよね。そうなんですけど。 そうだよね。輝君、ごめんね。ごめんねぇ・・・」

     私は泣きながら、輝の頭を何度も撫で、輝に謝った。
     私に、「泣くな」と言った、先生の声も、なんだか少し涙ぐんでいるように聞えた。
     しばらく、先生と今後の事を話し、今後は出来るだけ往診して頂くことになった。
     外出しなければいけない時は、夜になり、外気温が少しでも下がった時に。。という事になった。

     私と輝が病院を後にしたのは、夜8:00頃になってからだった。
     私は、ゆっくり、ゆっくりと車を走らせ、実家に向かった。
     両親に、輝の顔を見せに行く約束をしていたので、輝と話をしながら、約40分ドライブをした。

園長  「ほら、てっ君。着いたよぉ〜♪ 待っててね?呼んでくるから。」

輝君  ボケーっと外を見ている。

     私は父と母を、輝の傍に呼んだ。輝の余命の事を話し、最後になるかもしれないから
     励ましてあげてほしい。と頼み、輝が興奮しないかどうか、心配しながら対面させてみた。

母   「輝君?? お母さんだよ?分かるかな? 輝君?」

輝君  「フゥ〜ンッ! ヒン。。ヒン。。」 声に力はないが、嬉しそうな表情が見えた。

父   「おいっ!輝!どうした。お父さん、分かるよな?大丈夫か?頑張れよ!輝っ!!」

輝君  声は疲れていて出ないが、父を目で追いかける。ほんの少しだが首を自力で持ち上げた。

父   「そうか。そうかぁ〜。お父さんが分かるのか。良かったなぁ〜。よしっ。 よしよしっ!」

母   「頑張ってるんだね?輝君。よしよし。。頑張ってるんだね。。。どれ?お顔を良く見せてごらん?」

父   「輝!うんうん。そうか。お前はいつまで経っても甘ったれで。。。」

     父も母も、輝の余命の事を聞いているのと、輝の弱った体を見て、少し涙声だった。

     30分ほど対面させ、輝の体力を考えて家に帰ることにした。
     両親揃って、「輝を、よろしく頼むな?最後まで、傍にいてやってくれ。。」と頼まれた。
     両親だって、きっと輝の傍を離れたくないに決まっている。
     十数年、同じ家で一緒に暮してきた家族だもの。
     でも、輝の介護は、不眠不休を覚悟し、仕事や家事を放ってでもしてやるくらいの時間がなければ出来ない。
     父も母も、仕事に追われる毎日で、介護してあげれるだけの時間は作れない。
     輝と兄弟同然に育った私なら、輝の介護の時間もあるし、何より入院などさせないで
     輝が一番安心できる、ほぼ完全看護の環境を作ってあげれる。
     

     私は自宅に戻ると、輝をベットに寝かせ、先生に頂いた点滴を開始した。
     10秒で1滴ずつ点滴を落とす。
     これからは、これが輝の命を支える手助けをしてくれる。
     私の中にある、どこから来るのか分からない、まったく当てにならない自信。
     万が一、輝が死ぬ日が来ても、輝は絶対に苦しまない!
     私がなんとしても、何があっても輝を守るんだっ!
     先の事など分からないが、絶対に、絶対に輝を苦しめるもんかと強く心に誓った。

園長  「頑張れ!輝君!! あと少ししかないけれど、お姉ちゃんが絶対に輝を守ってあげるから、最後まで頑張れ!」


     私は何度も輝に話しかけて、いつものように輝の手を握り締め、ウトウトと居眠りした。


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天国の輝君に、報告したいと思っております。