針穴写真の特徴のひとつに長時間露光があります。一瞬を切り取ることができないかわりに『時間(とき)』を少しだけ長く積み増すことで、動いている人や車が消え、流れる雲や波打つ水の描写が変わります。

何をどう撮るか吟味する『時間(とき)』もまた重要です。デジタル写真と違い、銀塩写真の被写体やアングル選びは慎重にならざるを得ません。フィルムを一枚ずつ装填して撮影する、ファインダーのない私の針穴カメラではなおさらです。迅速な撮影が不可能な針穴カメラでパリの街を数多く収めることができたのは、被写体に囲まれて生活した十数年という「時間(とき)』のおかげだといえます。

もうひとつ伝えたい『時間(とき)」、それは写真を可視化するまでの『時間(とき)』です。撮ったものをその場で見られる便利さに勝るのは、想像しながら待つ楽しみです。そのようにして得られた写真に対して抱く愛しさやありがたさは、カメラ製作からプリント作業まで一連の作業に手間暇をかける私の作品制作の原動力となります。

この四半世紀を振り返れば、一瞬を切り取るレンズ付きカメラ同様に、針穴写真の『時間(とき)』もまた、予測不能のリスクをはらんだ一期一会の決定的瞬間であると言えましょう。

田所美惠子針穴写真展
針穴のパリ PARIS Another Point of View
2018年4月25日(水)~6月16日(土)
gallery bauhaus
manual/material/monochrome pinhole photography by Mieko Tadokoro
by          Mieko Tadokoro
PINHOLE PHOTOGRAPHY

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