鬼の児
 
火郎活劇篇 〜紅丸の章〜
今回の主人公 キャラクター紹介
紅丸
獅子王 紅丸
 千年前の7人の火の勇者のリーダー的存在。死して後、聖剣「法水院紅丸」にその魂を宿す。火の勇者達の中では一番の美形である。ただゲーム中では「ワシ」だの「〜じゃのう」だのやたらじじむさい言葉を使う。頼むからやめてくれと思っていたのはきっと私だけではない筈だ。

4.
 その男はまさしく都に訪れた不吉な黒い影そのものであった。
 黒い嘴、黒い顔、それらは屍肉を喰らう烏そのもので、何者かにやられたのか前身血まみれで、都の大路を何かに憑かれたかのように足を引きずり歩いていく。
 明け方の月が不気味なほど白く彼を見下ろしている。
「花を…咲かせてはならぬ…あの花を…」
 口の奥から意味不明の言葉が途切れがちに出てくる。ついに男は力尽きたかのように膝を折って倒れ込んだ。
 じんわりと地面が赤い染みに濡らされていく。微かな風が血の匂いを連れ出した。
 それはこの都で一番血の匂いに敏感な男のもとへと運ばれた。

 奇妙な夢で紅丸は目覚めた。
 戦の夢だ。
 大勢が血を流し合う、戦乱の夢だ。
 辺り一面に屍が転がり、血と血が混じり合い、地面に呑み込まれてゆく、その中を紅丸は立っていた。
 何かが背後に立っているのを感じ、振り向く。だが、そこには誰もいない。
 ただ圧倒的な力の影だけがその場に残っていた。
 我知らず、震えが走る。強い奴の存在を感じ、体中で喜びが震えを起こす。
 そこで目が覚めた。
 夢の中の興奮が未だ紅丸の体を覆っていた。
 その紅丸に、男の血の匂いが纏わりつく。
 紅丸は立ち上がった。着替えもそこそこに、往来に飛び出す。
 程なくしてその男を見つけ、紅丸は叫び声を上げそうになった。
 戦の前に咆哮を上げる獣のように。
 敵が来る
 紅丸の本能がそう叫んでいた。
 敵が、敵が、敵が!
 その時もし紅丸の顔を見た者がいたら、恐怖で心臓が止まっていただろう。
 紅丸の顔は戦の予感に残忍な笑みを浮かべていた。
 そうして男を担いで屋敷に向かった。
(この男を死なせてはならない。こいつが俺の人生を変える運命を握っている筈だ…)
 我知らす紅丸は、押さえきれない笑い声を漏らした。
 朝焼けの雲が、不気味な赤い色を放っていた。


                                                了

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