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<アトリエ童話>

はじめてのぼうけん


※おことわり
本作品では、ゲームの中には出て来ないキャラクターが主人公として登場します。
あらかじめご了承ください。


「あ〜あ、ぼくも、ぼうけんに行きたいな」
読んでいた本を、パタンととじると、ルーディはひとりごとを言いました。
ルーディが読んでいたのは、こういうおはなしでした。
王さまのめいれいをうけたお城の“きし”が、まものとたたかったり、たからものをさがしたり、ぼうけんをしててがらをたてます。そして、さいごはお城のおひめさまとけっこんして、しあわせにくらすのです。

ルーディは、2かいのじぶんのへやから、とことこと下へおりていきます。
1かいのテラスでは、シアママと、ママのしんゆうのマリーおばちゃんが、お茶をのんでいました。
ルーディは、マリーおばちゃんのマントをひっぱると、言いました。
「ねえ、マリーおばちゃん。おばちゃんは、いろんなところでぼうけんしたんでしょ」
「ん? そうよ、ルーディ。わるいりゅうをやっつけたり、とうの中をたんけんしたりしたわ」
マリーおばちゃんは、青くて大きな目をルーディにむけて、にこにこしてこたえます。
「ママも、ときどきいっしょに行ったりしたのよ」
シアママも、なつかしそうに言います。

「ふうん、いいなあ。うらやましいなあ」
「あら、ルーディもぼうけんに行きたいの? そうよね、おとこの子だもんね」
マリーおばちゃんが言います。
「うん、ぼく、ぼうけんに行きたい!」
ルーディはテーブルをぐるりとまわると、シアママのスカートをひっぱって、
「ねえ、ママ、いいでしょ! ぼく、ぼうけんに行きたいよ」
「だめよ。あなたはまだ小さすぎるわ」
シアママは、こまったようなかおをして言いました。
「そんなことないよ。ぼく、もう大きいもん。だいじょうぶだよ。まものだって、やっつけちゃうよ。だから、ねえ、行ってもいいでしょ!」
「そうは言ってもねえ・・・」
と、シアママは考えこんでしまいました。

すると、
「シア、ちょっと・・・」
と、マリーおばちゃんが立ち上がって、シアママをテラスのすみに引っぱって行きます。
そして、ふたりでルーディの方を見ながら、なにやらひそひそと話をはじめました。
「だから、あそこだったら・・・」
「でも・・・」
「だいじょうぶだって!」
ルーディは、そわそわしながら、ふたりの話がおわるのをまちました。

やがて・・・。
「じゃあ、きまりね!」
マリーおばちゃんが言って、ルーディの方にもどってきました。
「ねえ、ルーディ」
と、ルーディのあたまをなでながら、マリーおばちゃんが言います。
「ぼうけんをするには、もくてきがなくちゃいけないわよね。ルーディは、何のためにぼうけんをするのかしら?」
「それは・・・」
ルーディは、考えこんでしまいました。おはなしに出てきた“きし”みたいになりたいな、と思っていただけで、ぼうけんをするもくてきなど、決めてはいなかったのです。

マリーおばちゃんは、にこにこして話をつづけます。
「あたしね、ほしいものがあるの。ストルデル川ってあるでしょ。あそこに行くと、ときどきシャリオやぎのつのが落ちているんだけど、取りに行っている時間がないの。ねえ、ルーディ、あたしのかわりにストルデル川へ行って、やぎのつのを取って来てくれないかしら」
ストルデル川というのは、ルーディの住んでいるザールブルグからみなみへ行ったところにある川です。1日では行って帰ってくることはできません。
ルーディのかおが、ぱっと明るくなりました。
「うん! わかったよ。マリーおばちゃんに、やぎのつのを取ってきてあげるよ」
そして、しんぱいそうなかおをしているシアママに、
「いいでしょ、ママ」
とききます。
シアママは、あきらめたように言いました。
「しかたないわね。でも、あぶないことをしちゃだめよ」
これを聞いて、ルーディはへんに思いました。あぶないことをするから、ぼうけんと言うのではないのでしょうか。

でも、とにかくママがゆるしてくれたのです。
ルーディははりきって、
「じゃあ、ぼく、まものをやっつけるれんしゅうをして来るね!」
と、家をとびだして行きました。
シアママとマリーおばちゃんは、そんなルーディを見おくって、顔を見あわせ、くすっとわらいました。


「えいっ! やあっ! たあっ!」
ルーディは、まちのまん中にある“ようせいの木”という大きな木にむかって、けんのれんしゅうをしています。
もちろん、シアママがほんもののけんを持たせてくれるわけがありません。
木のぼうをけずって作った、かるい木のけんです。これでも、ちからいっぱいなぐれば、まものをやっつけることができるにちがいありません。
ルーディは、むちゅうになって、“ようせいの木”をついたり、なぐったりしていました。
すると、うしろからかわいい声がしました。
「ルーディおにいちゃん、何してるの?」
ふりむくと、くるくるのまき毛と大きなみどり色の目をした女の子が立っています。
「なんだ、エルじゃないか」
ルーディは、手をやすめました。

エルは、ほんとうの名はエルローネといいます。シアママやマリーおばちゃんの友だちの、アイゼルママの子どもです。ママどうしがなかがいいので、ルーディとエルも小さいころからのなかよしです。
エルは、大きな目をくりくりさせて、もういちどききました。
「ねえ、何してるの? まちの中でぼうをふりまわしたら、あぶないのよ」
ルーディは、むねをはって答えました。
「まものをやっつけるれんしゅうさ。ぼく、あした、ストルデル川までぼうけんに行くんだ」
「ぼうけん? ふうん、おもしろそうね」
エルの目がかがやきました。

ルーディは、しまった、と思いましたが、もうあとのまつりです。
「きめたわ。あたしもぼうけんに行くわよ、いいこと?」
エルは、アイゼルママのまねをして、きどった口ぶりで言いました。
「だめだよ。エルはまだ小さいじゃないか」
ルーディは、シアママとおなじことを言っています。
「やーよ。ぜったいにぜったい、いっしょに行くんだもん。それに、ひとりじゃあぶないわよ。ケガした時に、なおす人がいないとこまるでしょ。ママも、まえはパパといっしょにぼうけんしてたって言っていたわ」
ルーディは、ためいきをつきました。こうなっては、エルはぜったいに行くと言いはるにきまっています。
「でも、エルのママがゆるしてくれないだろ?」
「じゃあ、ママに聞いてくる。ママがゆるしてくれたら、いっしょに行くわよ。よくって?」
そう言うと、エルはパタパタと走っていってしまいました。
「はあ・・・」
ルーディは、もういちどためいきをつくと、れんしゅうをやめて、家に帰ることにしました。


あくる朝。
ルーディは、ストルデル川にむかってしゅっぱつしました。
こしに木のけんをさし、マリーおばちゃんにかりたかごをせおっています。今は、シアママがつくってくれたおべんとうが入っているだけですが、帰る時には、たからものでいっぱいになっているはずです。
ルーディのあたまの上には、くもひとつない青いそらがひろがっています。
どこかで、小鳥がさえずっています。牛のなき声が聞こえてきます。
そして・・・

「ルーディおにいちゃん、まってよ。レディがいっしょなんだから、気をつかってよね!」
ルーディとおなじようにかごをせおって、うしろからとことことエルがついて来ています。
きのう、あのあと、アイゼルママがルーディの家に来て、シアママとマリーおばちゃんといろいろと話し合っていました。そして、エルがいっしょにぼうけんに行くことを、ゆるしてくれたのです。
エルは、いつもはかわいいドレスを着ていることが多いのですが、今日はルーディとおなじような、男の子みたいなかっこうをしています。かごの中には、おべんとうのほかに、ちくちくしたとげがはえている“うに”がたくさん入っています。
「まものが出たら、ぶっつけてやるのよ」
と、エルもはりきっています。

ふたりは、ぽかぽかした日のひかりにてらされて、のはらのまん中のいっぽんみちを歩いていきます。
おだやかで、とてもまものが出そうなようすはありません。
「ねえ、ルーディおにいちゃん、まものはまだ出ないの?」
エルがたいくつそうに言います。
ルーディは、ちょっと考えて、答えました。
「そうだな・・・。今はひるまだから、まものはねてるんだよ。きっと、夜になれば、出てくるんじゃないかな」
「ふうん。じゃあ、はやく夜にならないかな」
そうです。ストルデル川に行くには、とちゅうで夜を明かさなければならないのです。どこかで、ねる場所をさがさなければなりません。
その日は、めだったできごともなく、日が西にかたむいてきました。

「つまらないなあ。これじゃ、ぼうけんじゃなくて、ハイキングだよ」
ルーディは、木のけんをふりながら、近くに見えてきた森に向かって歩いていきます。でも、そばであれこれとうるさく話しかけてくるエルがいなかったら、もっとたいくつしていたにちがいありません。
「よし、こんやは、あの森でねよう」
ルーディは言いました。
「とうとう、まものが出るのね」
エルは、つかれたようすも見せずに言います。

ルーディは、道をはずれて森の中に入ると、しばらくあたりを見てまわりました。そして、たいらで広くなっている場所を見つけました。マリーおばちゃんにおそわったとおりの場所です。
「よし、ねる場所はきまった。エル、ねどこをつくるから、手伝ってよ」
ルーディは、かごをおろすと、エルをふりかえって言います。
「どうすればいいの」
「こっちだよ。来て」
と、ルーディはエルをつれて、森の入口にもどります。
そこには、牛のえさになるほし草が、山のようにおいてありました。
「これが、ベッドになるんだ。さあ、はこぼう」
「レディのするしごとじゃないわね。でも、しかたないわ」
ふたりは、ほし草をりょうてにかかえられるだけかかえて、森の中のひろばにもどります。
2、3かいも行ったり来たりすると、ほし草はふたりがうずもれてしまうほどのりょうになりました。

「わあいっ!」
エルは、しげみの方から走って来ると、ほし草の山にとびこんであそんでいます。
それをよこ目に見ながら、ルーディは火をおこすしたくをはじめました。
ねどこに火がうつらないように、ちゃんとはなれたところで、マリーおばちゃんからもらった“カノーネ岩”を取り出します。
ひとかたまりのほし草の山を“カノーネ岩”にちかづけて、
「えい!」
と、木のけんで“カノーネ岩”をたたきます。
“カノーネ岩”がはじけ、小さな火のかたまりがとんで、ほし草にもえうつりました。
それがきえないうちに、森の中におちているかれえだをつぎつぎにくべていきます。
たちまち、たき火はもえあがり、すぐにはきえないようになりました。

「あ、火あそびしてる。いけないんだぁ」
エルがちかよって来ます。
「ばかだなあ。夜はたき火をして、まものが来ないようにしないといけないんだぞ」
「あら、まものが来ないと、やっつけられないじゃない」
「でも、ねているところをおそわれるのは、いやだろ?」
「それも、そうね」
ルーディのとなりに、ちょこんとすわったエルが言います。
しばらくのあいだ、ふたりはだまりこくって、ぱちぱちともえるほのおを見つめていました。

あたりは、もうすっかり夜になっています。空には月がのぼり、森のどこかとおくから、フクロウのなき声が聞こえてきます。
「ふわあ・・・」
ルーディが、大きなあくびをしました。むりもありません。今日は1日じゅう、歩いていたのですから。
エルも、となりですわったまま、こっくりこっくりしています。
ルーディは、エルをつつきました。
「おい、エル、ねるなら、ちゃんとねどこでねろよ」
「ルーディおにいちゃんは?」
目をこすりながら、エルが言います。
「ぼくは、まものが来ないか、もう少し見はっているよ」
と、ルーディは、本の中の“きし”が、たき火にあたりながらけんの手入れをしているところを思い出しながら、答えました。ぜひ、まねをしてみたかったのです。
ふだんのエルなら、
「じゃあ、エルもいっしょにおきてる!」
と言いはるところですが、ほんとうにつかれていたのでしょう。エルはベッドのかわりのほし草のねどこに横になると、すぐにすやすやとねむってしまいました。

ルーディは、たき火のそばにすわって、本の“きし”とおなじように、木のけんを、ぬのでみがきはじめました。
火はぽかぽかとあたたかく、だまってすわっていると、ねむくなってきます。
ルーディも、そろそろねようか、と思って、立ち上がりました。
その時です。
森のおくの方で、ガサッという大きなおとがしました。
ルーディはびっくりして、けんをかまえ、おとのした方をむきます。
とうとう、まものが出たのでしょうか。
でも、そのあとは、何のおとも聞こえず、森はふたたびひっそりとしずまりかえりました。
どうしよう・・・。
ルーディは、かんがえました。
本の“きし”だったら、すぐにおとのしょうたいをたしかめに行ったでしょう。
でも、まっくらな森のおくへひとりで入っていくのは、どうも気がすすみません。
ほんとうのところ、ルーディはこわくてしかたがなかったのです。

ルーディは、その場に立ったまま、そっと耳をすませてみました。
あいかわらず、森はしずまりかえったままです。
行ってみようか・・・。でも、つよいまものがいたら・・・。
その時、ルーディは、エルのことを思い出しました。
そうだ、もし、ぼくが森に入ったあとで、まものがエルにおそいかかったりしたら、たいへんだ。ぼくが、エルのそばにいて、まもってあげないといけないんだ。けっして、こわいから行かないんじゃないぞ・・・。
そう考えて、ルーディはけんをかまえたまま後ろにさがり、ほし草の山にこしをおろしました。
目は、ゆだんなく、おとのした方にむけています。
でも、だんだんと、ルーディのまぶたはおもくなってきます。
じぶんでも気がつかないうちに、ルーディはほし草のねどこに横になり、ぐっすりとねむりこんでしまいました。

どれくらい、時間がたったでしょうか。
ルーディは、はっと目をさましました。
なにかが、ルーディのむねにのしかかって、おさえつけています。いきがくるしくなって、目がさめたのです。
(しまった! まものだ!)
ルーディは、あわてて起き上がろうとしました。しかし、まものはルーディにしっかりとのしかかっています。
ルーディはもがきました。すると、やっと右手がじゆうになりました。その右手で、まものをおしのけようとします。
(あれ・・・?)
ルーディは、ふしぎに思いました。まものは、ルーディをおさえつけるだけで、ほかには何もしようとしません。
ルーディは、もういちど、よく見て、まもののしょうたいをたしかめようとしました。そして、右手でまもののからだをさわってみます。
まもののからだは、ぬののような手ざわりです。そして、あたたかでした。

(なあんだ)
まもののしょうたいに気づいたルーディは、ひょうしぬけしました。
ルーディのむねにのしかかっていたのは、エルのおしりとりょうあしだったのです。
「ほんとに、エルったら、ねていてもおてんばなんだから・・・」
あまりのエルのねぞうのわるさにあきれて、ルーディはつぶやきました。
そして、エルをおこさないように、そっとからだのむきをかえます。
エルは、むにゃむにゃとなにやらねごとを言って、そのままねむっています。
「ふう・・・」
ルーディは、ためいきをつきました。
あいてがまものでないとわかって、あんしんしたような、がっかりしたような気分です。

ふと見ると、たき火はきえてしまっています。でも、そのかわり、東の空はもう明るくなりかけています。
今日は、いよいよストルデル川につきます。
まものは出るのでしょうか。
ちゃんと、マリーおばちゃんにやぎのつのを取ってきてあげることができるのでしょうか。
ルーディは、まものをやっつけるところを思いうかべながら、もうひとねむりすることにしました。


あくる朝。
エルとルーディは、げんきよくしゅっぱつしました。
ぐっすりねむったせいか、エルの足はかろやかです。
「よなかに、まもの出なかったね」
エルは、ちょっぴりざんねんそうです。
よなかに、ねぞうのわるいエルをまものとまちがえたことは、ルーディはだまっていることにしました。エルに言っても、
「そんなこと、あるわけないじゃない。あたし、おしとやかなレディなのよ。べーだ」
と言われるにきまっているからです。

森をぬけると、たいらなのはらが広がっています。
でも、ここのじめんはじめじめしていて、ところどころに、そこなしぬまがあると言われています。そこなしぬまにはまってしまったら、どんなにもがいても、ぬけだすことができずに、死んでしまうのです。
ですから、こののはらには、板きれをならべたいっぽんみちが作られています。そのみちを歩いていれば、そこなしぬまにはまることもありません。
のはらをわたりきれば、そこがストルデル川です。
きょうも、空ははれています。
そよかぜが、どこからか花のにおいをはこんできます。
あたりには、ほかのたびびとのすがたはありません。
ふたりは、うたをうたったり、おしゃべりをしたりしながら、てくてくと歩いていきます。

「ねえ、あれ、何かしら?」
エルが、前の方をゆびさしました。
ルーディにも見えました。
いっぽんみちのまんなかに、まるいかたまりが、でんとおかれています。
「何だろう?」
木のけんをかまえたルーディと、うにをにぎりしめたエルが、そっと近づきます。
水色をしたまるいかたまりは、板きれからはみだすくらいの大きさです。どかさないかぎり、じゃまになって、前にすすめそうにありません。
「なんか、おいしそうね」
エルが言います。
たしかに、言われてみれば、おいわいやおまつりの時にたべる、デザートのゼリーかムースににています。ただ、エルのせたけとおなじくらい大きく、もしおかしだったとしても、とてもたべきれそうにありません。

ルーディは、けんの先で、そのまるいものをつついてみました。
つついたところはへこみますが、ぶるん、とゼリーのようにふるえて、もとにもどってしまいます。
ルーディは、マリーおばちゃんにおそわったことを、いっしょうけんめい思い出そうとしました。なにか、心にひっかかることがあるのです。
エルは、うにをおいて、ぺたぺたと丸いかたまりにさわっています。
「うふ、きもちいい」

その時、ぶるるん! と水色のかたまりがうごきました。
「きゃっ」
エルがびっくりして手をはなします。
ゼリーのようなまるいものは、ずるずると板をこするようなおとをたてて、ゆっくりとむきをかえました。
「わあっ!」
ルーディもさけびます。
こちらをむいた、水色のまるいかたまりには、なんと、目と口がついていたのです。
たてに長く、大きくてくろいふたつの目は、ルーディのかおくらいあります。 口はとじていますが、口をあければ、エルなどはあたまからのみこまれてしまうかもしれません。
「ねえっ、何なの?」
あとずさりしながら、エルがききます。
ルーディは、マリーおばちゃんにおそわったことを思い出しました。ストルデル川のあたりに出るまもののことを・・・。

「まものだっ! たしか、“ぷにぷに”っていう・・・」
「やだあっ、あたし、さわっちゃった!」
「とにかく、やっつけるんだ!」
ルーディはさけぶと、木のけんで“ぷにぷに”になぐりかかりました。
エルは、少しはなれたところから、
「うにぃ!」
とさけんで、うにをなげつけます。
「えいっ! やあっ!」
ルーディが木のけんをたたきつけるたびに、ぺちぺちとおとがして、“ぷにぷに”のからだがぶるん、とふるえます。でも、ぜんぜんきずがつきません。
エルがなげるうにも、はねかえされてしまいます。
それでも、ルーディは、いきがきれるまで、たたかいつづけました。

どのくらい、時間がたったでしょう。
“ぷにぷに”は、ずるずるとむきをかえると、ぷるん、とふるえました。
そして、ぴょん、ととんで、ぬまの方へおりていってしまいました。
「や、やった! おいはらったぞ!」
ルーディがうれしそうにさけびます。
「わあいっ!」
エルも、ばんざいをしました。
“ぷにぷに”にしてみれば、きもちよくひるねをしていたのをじゃまされたので、もっとしずかな場所へうつっていっただけなのですが。

そのあとは、とくにかわったこともなく、ふたりはストルデル川につきました。
「さあ、やぎのつのをさがそう!」
ルーディは、まものに気をくばりながら、かわらのくさむらに入っていきました。
「あたしは、ママにたのまれたやくそうを、つんでいくわ」
エルは、目につく草をかたっぱしからつんで、かごの中に入れています。どう見ても、ざっそうとしか思えないものもまざっていましたが。
かわらには、シャリオやぎが草をたべたあとがのこっていて、ふんがてんてんとおちています。
ルーディは、そのあたりの草をかきわけ、目をさらのようにしてさがしました。
しかし、なかなか見つかりません。
やぎのつのを見つけることができなければ、このぼうけんをしたいみがなくなってしまうのです。
「これじゃ、かえれないよ・・・」
もう少し先へ行ってみようか、と考えたルーディの足が、なにかにつまずきました。
「イテテテ・・・」
下を見ると、なんとそこには、りっぱなやぎのつのがころがっていました。
「わあ! 見つけた」
ルーディは、りょうてでやぎのつのを持ち上げ、日にかざしました。どろがついていますが、つのはどんなたからものよりもきらきらとかがやいて見えました。
きっと、本の“きし”も、たからものを見つけた時にはこんなきもちになったのでしょう。

「おーい、エル、見つけたぞ〜!!」
さけんで、ルーディはエルの方にかけていきました。
エルのかごは、草でいっぱいになっています。
「なんだ、ざっそうばかりじゃないか」
ルーディはあきれました。でも、エルは、
「ちがうもん。これ、やくそうだもん」
と言いはります。
ルーディは、やぎのつののどろをはらうと、たいせつそうに、じぶんのかごにしまいました。かごの中にはそれしかありませんが、ルーディはもう、だいまんぞくです。

その時、うしろの方から、手をたたくおとが聞こえました。
ふりむくと、そこにはシアママ、アイゼルママ、マリーおばちゃんの3人が、ほほえみながら立ってました。みんながはくしゅをしています。
エルは、
「あ、ママ!」
とさけぶと、アイゼルママにかけよりました。
アイゼルママは、かごをせおったままのエルをだいて、ほおずりしています。
ルーディは、ぽかんと口をあけて、シアママを見つめています。
シアママは、てれくさそうにわらって、
「ごめんね、ルーディ。あんまりしんぱいだったので、マリーにたのんで、つれて来てもらっちゃった」
と言いました。

そう言えば、マリーおばちゃんもアイゼルママも、ほうきを手にしています。
「“空とぶほうき”をつかえば、ひとっとびだもんね」
と、マリーおばちゃんはぺろりと舌を出しました。
やっとわれにかえったルーディは、かごからやぎのつのを取り出すと、むねをはって、マリーおばちゃんにさしだしました。
「はい、マリーおばちゃん、やぎのつのだよ」
「まあ、ほんとに見つけてくれたのね。ルーディ、ありがとう、うれしいわ」
マリーおばちゃんは、にこにこして、ルーディのあたまをなでてくれました。
ルーディは、だいとくいです。
シアママも、うれしそうに、そんなルーディを見ています。

「それじゃ、そろそろ帰ろうかしら。ばんごはんのしたくをしないと」
と、アイゼルママが言いました。
「そうね。早くかえらないと、日がくれてしまうわね」
シアママも言います。
マリーおばちゃんは、いたずらっぽくわらって、
「ルーディは、もちろん、ぼうけんをしながら歩いてかえるのよね」
と言いました。
「え・・・」
ルーディは、ことばにつまりました。
そっとエルの方を見ます。
エルは、アイゼルママにだきついたまま、言います。
「あたし、つかれちゃった。ママといっしょにかえるもん。ルーディおにいちゃんは、歩いてかえるの?」
ルーディは、やせがまんをして、言いました。
「うん、わかったよ。ぼく、歩いてかえる」
「そう。じゃあね」
と、マリーおばちゃんはほうきにまたがりました。
「ばいばーい」
アイゼルママにだかれてほうきにのったエルが、手をふります。

「気をつけてね」
シアママの声を聞きながら、ルーディはうしろをむいて、歩きはじめました。
でも、すこし歩いただけで、がまんできなくなりました。
「まってよ〜!! ぼくもいっしょにかえる〜!!」
さけぶと、ルーディは、ほうきにのってとびたとうとしているシアママにむかってかけだしました。

<おわり>


○にのあとがき>

なかじまゆらさんの「ゆーら博物館」開館2周年のお祝いに(というか、ゆらさんのご結婚祝いも兼ねて)、贈らせていただいた作品です。

主人公は、ゆらさんのオリジナルキャラ、ルーディ(シアの息子)で、相方は、ぼくのオリジナルキャラ、エルローネ(アイゼルの娘)です。
公式設定(?)では、このふたり、年齢のギャップがありすぎるのですが(たぶん7歳くらい違うはず)、今回は番外編ということで、その辺には目をつぶりました。

「アトリエ童話」と名付けた以上は、低学年の小学生でも読めるような文体と仮名遣いを、と努力してみたのですが、まだまだ満足のいく出来ではありません。
もしかしたら、第2弾があるかも・・・

ご感想など、いただけたら嬉しいです。


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