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思い出のロケット Vol.1


Scene−1

ドオォォン!!
昼下がりの『職人通り』に、鈍い爆発音が響き渡った。
同時に、赤いとんがり帽子の屋根をした工房の窓から、すすの混じった黒煙が吹き出す。
『職人通り』を行き交っていた人々は、一様に歩を止めて耳を押さえ、工房の近くにいた数人は、思わず石畳の道にうずくまった。
やがて、衝撃がおさまると、通りのそこここでおかみさんたちのささやきが交わされ始める。
(いやあねえ、またあそこの工房よ)
(いったいどんな人がお店を開いているのかしら。あなた、知ってる?)
(さあ、なんでも、女の子がひとりで怪しい実験を繰り返してるって話だけど・・・)
(それだけじゃなく、武器を持った冒険者が何人も出入りしているらしいわよ)
(物騒よねえ。王室騎士隊に言って、閉鎖してもらえばいいのに)
そんなささやきの中を、紫の錬金術服に白のマントをなびかせ、つかつかと工房に向かって歩いて行くひとりの女性がいた。きりりとした顔立ちで薄水色の髪をなびかせ、不思議なことに左右の瞳の色が違っている。
錬金術を教えるザールブルグ王立アカデミーの教師、イングリドだ。
イングリドは、怖れるふうもなく煙を上げる工房の扉を引き開けると、中に足を踏み入れ、怒鳴った。
「マルローネ!」
その声には、怒りと心配の双方の感情がにじんでいる。
工房の中は、きなくさい臭いがたち込めていたが、煙の大部分は窓から出て行ったようだった。
そして、砕け散った調合器具の破片や焼けこげた書物の切れ端、毒々しい色の産業廃棄物が一面に散らばった汚い床の上に、工房の主がぺたんと座り込んでいた。着ている錬金術服とマントは焼けこげだらけ、露出した肌はすすと傷でまだら模様になっている。普段はきれいな金髪もすすと灰にまみれて、くしゃくしゃだ。
アカデミー開設以来、史上最低の成績を続け、現在はイングリドが管理するこの工房で、特別卒業試験を受けている最中のマルローネである。その卒業試験の条件とは、5年の間に立派なアイテムを調合すること。それだけのことなのだが、生来がさつで、やることが大雑把なマルローネには、なかなか難しいことのようだ。その結果、今日のような爆発事故を起こすこともたびたびである。

「マルローネ!? あなた、大丈夫なの?」
イングリドは、マントの端で口をおおいながら、心配そうな口調で尋ねる。
マルローネはきょとんとしていたが、入って来たのが誰か気付くと、とたんに逃げ腰になった。
「げ・・・、イングリド先生・・・」
「何が“げ”ですか。まったく、中央広場の方まで爆発音が聞こえましたよ。いったい、いつになったら、あなたは失敗から学ぼうという気になるのかしら」
イングリドは額に手を当て、大きくため息をつく。
マルローネはあわてて立ち上がると、
「いえ、これは、ほんのちょっとした手違いで・・・。あはは、騎士隊の人から依頼された爆弾を作っていたんですけど、『燃える砂』をちょっと入れ過ぎたみたいで・・・。そう言えば、クライスが手伝っていてくれたんだけど、どうしたかな?」
その時、傍らの瓦礫の山が崩れ、そこからのろのろと人影が起き上がった。
激しくせき込みながら、作業台に手をかけて身体を支える。
細身の身体にまとった白い錬金術服はマルローネのものと同様、焼けこげだらけで、銀髪にもすすがこびりついている。
アカデミーで主席の座を守り続けているクライス・キュールは、フレームが歪んだ眼鏡をなんとか整えてかけ直すと、荒い呼吸をしながら言った。
「ですから、やめなさいと言ったのですよ。爆発物を、あんなに無造作に取り扱うなんて、信じられません・・・。これでは、無神経と言われても仕方がないですね。万年最下位というのも当然という気がします。本当に、マルローネさんと付き合っていると、命がいくつあっても足りませんよ」
「別に、手伝ってくれって頼んだ覚えはないわよ」
マルローネが言い返す。クライスはせき払いをして、
「おや、たまたま訪ねた私に哀れっぽい声で、納期が間に合わないと愚痴って見せたのは、どなただったでしょうか?」
「ふうん、主席のあなたがマルローネと仲がいいとは、意外だったわね」
イングリドの意外そうな声に、クライスはうろたえた表情を見せる。
「な、何をおっしゃるのですか、先生! 私は、たまたま立ち寄っただけです! こんなことに巻き込まれて、私は大いに迷惑しているのです!」
「ふふふ、わかったわ」
悟ったようなイングリドの声に、すすにまみれたクライスの頬が、かすかに赤く染まったように見える。
一方、マルローネは、急に気付いたように、あわてた声を出す。
「あ、すみません、イングリド先生。せっかく来ていただいたのに、お構いもせず・・・」
そして、倒れていた椅子を引き起こすと、こびりついたすすと灰をバタバタと払い落とす。
「先生、どうぞお掛けください。今、お茶でもいれますから。あはは」
「いいえ、その必要はありません」
イングリドは椅子を無視し、厳しい目でマルローネをにらみつける。
「アカデミーの私のところに、工房に関する苦情がたくさん寄せられて来るので、様子を見に来たのよ。『夜中に爆発音がするので、子供が眠れないで困る』とか、『道に悪臭が漂ってくるので、お客さんが近寄らず、商売ができない』とか、『緑色の服を着た小さな子が虐待されているのを見た』とかね」
「え、でも、それは・・・」
「誤解だとでも言うの?」
ぴしゃりと言われ、マルローネはしゅんとなる。

イングリドは、あらためて工房の中を上から下まで見回した。
作業場は、それほど広いものではない。中央には錬金術の材料を煮詰めるための大釜が置かれているが、その中では得体の知れないどろどろしたものが泡立っている。作業台の上には汚れた調合器具や材料が無造作に放り出され、近くの床には開いたままの参考書や、アイテムが入った布袋が山になっている。反対側の壁際には、どす黒い産業廃棄物がこんもりと盛り上がり、妙な臭いを放っている。
「まったく・・・。こんな散らかりっぱなしの中で調合していたのでは、失敗しても当然ね。掃除しようという気にはならないのかしら?」
「あ、でも、来週になればピッケが来てくれるし・・・」
ピッケというのは、掃除をしてくれる妖精の名前だ。銀貨を払えば、どんなに汚れた部屋でもピカピカにしてくれる。しかし、いつでも都合のいい時に来てくれるというわけではない。
イングリドは、厳しい口調で告げた。
「今すぐ、直ちに、遅滞なく掃除を始めなさい。終わるまで、私が見届けます。いいわね」
「ひ、ひえぇぇ・・・」
マルローネが哀れっぽい声を出す。が、イングリドは容赦しない。
「さあ、ぐずぐずしないで。ホウキくらい買ってあるんでしょう?」
そして、所在なげに立ち尽くしているクライスを見やり、優しげに微笑む。
「クライス、あなたも時間があるなら、手伝ってくれてもいいのよ」
「は、はあ・・・」
「じゃあ、クライス、あっちの戸棚の方をお願い!」
気のない返事をするクライスと、渡りに船といった様子で有無を言わせず指示するマルローネ。
しばらくの間、無言の作業が続いた。イングリドはいくぶんか他よりはきれいな壁に寄りかかり、腕組みをして見守っている。
マルローネは、ホウキで産業廃棄物をはき集め、布袋につめ込んでいく。しかし、動作には無駄があり過ぎ、能率的とは言えない。
一方、工房の片隅では、クライスがてきぱきと作業を進めている。戸棚に乱雑に詰め込まれた箱や袋を取り出すと、順に中身を確かめていく。
「何ですか、これは。半分以上が役に立たないがらくたじゃないですか。まったく、何を考えているのでしょう。常識を疑いますね」
と、かさかさに枯れてしまっているミスティカやトーンの束をしげしげとながめ、ゴミ箱に投げ込む。
「うるさいわね。黙って手伝ったら?」
「口と同じくらい、手も動かしたらいかがですか。・・・おや?」
クライスは戸棚のいちばん奥から、小さな木箱を引きずり出した。
「マルローネさん、これを見ていただけませんか? 捨てるべきなのかどうか、私には判断がつきかねますので」

「何よ、いったい。こっちは忙しいんだからね・・・あれえ!?」
木箱を覗き込んで、マルローネは目を丸くした。
中には、ぬいぐるみやガラス玉、まがいもののアクセサリー等が入っていた。
「うわあ、懐かしい・・・。これ、どこにあったの?」
「何を言っているんですか。自分で戸棚の奥に押し込んでおいたのではないのですか?」
「あはは、そうか。忘れてたよ」
マルローネは笑う。
「で、何なんですか、これは」
「あたしの、小さい頃の宝物。故郷のグランビル村からザールブルグへ出てくる時に、一緒に持ってきた物だよ」
「あきれましたね。そんな大切なものを、がらくたと一緒にしておくなんて」
しかし、マルローネはクライスの嫌味も耳に入っていないようだ。
箱の中身をかき分け、ひとつひとつを確かめるように取り出して、ながめている。
「あれ、これは何だったかな?」
マルローネは、ペンダントのようなものを掲げてみせた。
金属の鎖の先に、ふたの付いた丸く平べったい円盤が取り付けられている。錆び付いた鎖は、途中からちぎれていた。
「ロケット・・・みたいですね」
覗き込んだクライスが言う。
「でも、あまり良い出来とは言えませんね。円盤が微妙に歪んでいますよ。でもまあ、マルローネさんが作るよりは、よほどいい出来でしょうがね」
確かに、言われてみれば、肖像画を入れておく金属製の円盤が、いびつになっている。
「あ、わかった!」
しばらく黙り込んで、思いを巡らせていたマルローネが素っ頓狂な声を上げる。
「思い出した! 拾ったんだよ、これ・・・」

マルローネの脳裏に、その日の出来事が昨日のことのように思い浮かんできた。


Scene−2

「マリー! 待ってよ。待ってってば!」
「シア! 遅い遅い。早く来ないと、置いてっちゃうよ!」
昼下がりの丘陵に、子供たちの声が響く。
先に立って丘を矢のように駆け下りていくのは、金髪をなびかせ、空色の瞳をした活発そうな少女。それをおぼつかない足取りで追いかけていくのは、褐色の髪を三つ編みにし、緑色の目をした上品な顔立ちの少女。どちらも、10歳になるかならないかの年齢だろう。ふたりは物心ついて以来、ずっと親友だった。
後から走っていた少女、シアは、ついに息を切らし、下り斜面の途中の草叢に、ぺたんと座り込んでしまった。大きくあえぎ、呼吸も苦しそうだ。
それを見て、丘の下の森に入り込みかけていたマルローネ(愛称マリー)が、あわてて戻ってくる。
「シア、大丈夫? ごめんね、あなたが身体が弱いこと、つい忘れちゃって」
「ううん、いいのよ。今日は大切な日だものね。もう大丈夫よ、行きましょう」
シアは笑顔を作って立ち上がると、スカートの裾についた草を払った。
マルローネは、にっこり笑ってシアの手を取る。
そして、手をつないだまま、ふたりの少女は丘を駆け下り、グランビル村を取り巻く森のひとつに足を踏み入れた。
「だけど、信じられないよ。明日がお別れの日だなんて・・・」
まばらな木々の間を縫って進むマルローネが言う。いつも元気いっぱいのマルローネだが、その声には一抹の寂しさが漂っている。
「そうね。お父さんの仕事の都合だから、仕方ないし・・・。でも、一生会えなくなるわけじゃないんだから。マリーも、大きくなったらザールブルグへ出て来ればいいのよ」
シアは、グランビル村屈指の名家ドナースターク家の一人娘だ。美味しい水と織物の生産で有名なグランビル村だが、ドナースターク家は中でも村一番の資産家で、今回、商売を広げるために一家揃って王都ザールブルグに引っ越すことになったのである。
出発の日は、明日だ。
そんなわけで、今日はふたりが一緒に遊べる最後の日なのだ。そして、「一緒に“思い出作り”をしよう」というマルローネの発案で、こうして村外れの森に出かけて来たのだった。

「ねえ、マリー、どこなの? その“素敵なところ”って」
シアが尋ねる。
「うふふ、もう少し、もう少し」
と、マルローネは弾むような足取りで、どんどん森の奥へと入っていく。
森のこのあたりには、『うに』の木が多く、とげに覆われた『うに』の実がたくさん落ちている。
シアは長いスカートの裾を上げ、『うに』を踏んでしまわないように注意して歩いた。
ミニスカート姿で活動的なマルローネは、足許を気にもせずすいすいと歩いて行く。
シアが声をかけた。
「マリー・・・。あんまり森の奥へ行くと、ウォルフがいるかも知れないわよ。お父さんから、気をつけるように、森の奥へ行かないようにって言われてるの」
マルローネはくるりと振り向き、
「気にしない、気にしない。昔、このあたりにいた『ウォルフの王』なんて、きっと、子供をおどかすための作り話よ。それに、もし本当に『ウォルフの王』がいたとしても、村に来た『3人の魔女』に退治されたっていうじゃない。それに、もうすぐ到着よ」
と、さらに森の奥へ分け入っていく。シアは、びくびくしながらも、逆らえず後に続く。
ふたりは、かつて『ウォルフの森』と呼ばれていた区域に足を踏み入れていた。
「さあ、着いたわよ」
マルローネが言う。
シアは、マルローネの肩越しに、そっと前方を見やった。

「わあ、きれい・・・」
目の前の森の一画が途切れ、小さな岩場になっている。ほとんど垂直に切り立った岩壁の隙間から清水がしたたりおち、窪んだ岩の中にたまって、小さな泉を作っている。泉からちょろちょろと流れ出る水の筋は、腐葉土の中に消えていた。
長年にわたって水にさらされた岩は、中に含まれた鉱脈がむき出しになっているのだろうか、青、緑、紫といった縞模様が鮮やかに浮かび上がり、木漏れ日に照らされてきらめいている。
思わず、シアは手を差し伸べ、水をすくって口に含んだ。
「美味しい・・・。甘いわ・・・」
グランビル村は、水が美味しいところとして知られている。しかし、この泉の水は、村の井戸水や、周辺に湧き出しているどの水と比べても、格段に美味しかった。
「どう? 素敵な泉でしょ。この間、シアが風邪をひいて寝込んでいた時、ひとりで探検して、見付けたんだよ。どうしても、シアに見せたかったんだ」
「ありがとう、マリー・・・。これは、素敵な思い出になるわ」
シアは涙ぐんでいる。
「シア・・・」
マルローネは、シアの肩を後ろから抱いた。親友のぬくもりを、身体全体で覚えておこうとするかのように・・・。

その時、泉の向こう側から、低いうなり声が聞こえた。
マルローネがはっとして顔を上げる。
シアも気付き、凍り付いたように動かなくなる。
森の下生えの間から、とがった鼻面を突き出し、こちらを見つめているのは、1頭のウォルフだった。
「マ、マリー・・・」
かぼそい声でつぶやくように言うシアの身体は、がたがたと震えている。
マルローネは親友をかばうように一歩前に出た。
村の長老たちから話には聞いていたし、猟師が捕えたウォルフの毛皮を見せてもらったこともある。しかし、生きたウォルフに出会うのは、無茶と冒険が大好きなマルローネにしても、初めての体験だった。
下生えに隠れているのでよくわからないが、それほど大きなウォルフではないらしい。しかし、飛び掛かられれば、少女の身体など一撃で押し倒されてしまうだろう。
「シア! 下がって! ゆっくり、ゆっくりよ」
マルローネが、うずくまったままのシアにささやく。目は、ずっとウォルフの凶悪そうな光をたたえた目にすえたままだ。
気配で、シアがゆっくりと這って下がっていくのがわかる。
マルローネは、勇気を奮い起こした。右手でそっと、地面を探る。目的のものは、すぐそばに、いくらでもあった。
マルローネは叫んだ。
「うにぃ!!」
そして、そばに落ちていた『うに』を、右手で思い切りウォルフの鼻先に投げつける。
とげだらけの実は、狙い違わずウォルフの鼻面に命中した。普段から、立ち木や板塀を相手に『うに』投げを練習していた成果であろう。
一瞬、ウォルフはひるんだ。そこへ、立て続けに『うに』を投げつける。
「うに! うに! うに! うにぃ!!」
いつのまにか、気を取り直したシアまで、『うに』投げに加わっていた。
「いいかげんにしてっ!!」
悲鳴に近いシアの叫び。
雨あられと飛んでくる『うに』に、ついにウォルフは音を上げた。このウォルフが群れをはぐれた一匹狼であり、空腹でもなかったことが、少女たちに幸いしたのだろう。
一声唸ると、身体を震わせ、ウォルフはくるりと向きを変えて、森の奥へ去っていった。
「はあ・・・はあ・・・、やった! 追い払った・・・」
「すごいわ、マリー!」
シアがマリーに抱きつく。すると、意外なことに、マルローネが泣き出してしまった。
「ひっく・・・ふぇぇん、シア・・・。怖かったよお」
急に気が緩んだのだろう。今度はシアがハンカチを差し出し、マルローネをなだめる番だった。
ようやくマルローネが落ち着くと、シアは言った。
「そろそろ帰りましょ。ウォルフが仲間を連れて戻ってくるかもしれないし」
「うん、そうね」
と、マリーは名残惜しそうに泉を振り返った。ふと、足が止まる。
「あれ、何だろう」
こちら側の岸に近い泉の底に、なにか光を反射するものがある。
マルローネは近づくと、そっと泉の底を手で探った。
「どうしたの、マリー?」
シアも身を乗り出す。
マルローネは、右手を差し上げ、泉の底から拾い上げたものを日にかざした。
金属の鎖の先に、平たい円盤がぶら下がっている。最初は輪になっていたと思われる鎖は、引きちぎられたように切れていた。
「あ、あたし知ってる。これ、ロケットっていうのよ」
シアがそばから言い添えた。


Scene−3

「はあ、それで、持ち主を探すこともせず、自分のものにしていたわけですか。あきれてものも言えませんね」
マルローネの思い出話を聞いたクライスが、口をはさむ。マルローネはむっとした口調で言い返す。
「何よ。子供のしたことなんだから、しょうがないじゃない。それに、村へ帰っても、誰もそんなロケットをなくした人なんて、いなかったし・・・」
「ま、マルローネさんは今でも子供みたいなところがありますからね」
「うるさいわね」
言い合うふたりに、イングリドが割って入る。
「さあさあ、サボってないで、掃除を再開しなさい」
言いかけたイングリドの目が、マルローネが持つロケットにとまる。
「あら、それは・・・。ちょっと見せてくれない?」
イングリドはロケットを手に取り、目の前にかざした。
「これは・・・。どこかで・・・」
「どうしたんですか、イングリド先生?」
マルローネの声も、耳に入らない。
イングリドには、このロケットを見た記憶があった。微妙に歪んだ、いびつな形の円盤をつけたロケット・・・。

それは、ザールブルグにアカデミーが建設されるより、さらに以前のことだった。

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