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のるちっちぱらだいす:序章


※まずは、下のイラストをご覧ください(笑)。

綾姫さんのHP「綾の国」にてフリー配布されていたお年賀絵です。
でも、なぜノルディスがこんな格好をする羽目になったのかということは、明らかにされないままでした。
その秘められた真相が、今ここに!(笑)


第1場 採取地:晩秋

「今の物音は何!?」
「気をつけて! 手強そうだよ!」
「だいじょぶ、あんなの、どうってことないよ」
「エリー、無茶しちゃだめだ! ここはぼくが――」
「危ない、ノルディス!」
「う――うわあっ!」
「下がって! ――これでもくらいなさい!」
「あいたたた・・・」
「お願い、当たって!」
「ふう・・・。なんとかやっつけたわね。さすがはエルフィール。田舎者はたくましさが一味違うわね」
「アイゼルの魔法攻撃だって、なかなかのものだよ。――あれ、そういえば、ノルディスは?」
「大変! 戦いに夢中になって、忘れていたわ。ノルディス、どこ?」
「こ・・・ここだよ・・・」
「あ、大丈夫? 逃げようとして、くぼみにはまったんだね」
「ち、違うよ。ぼくも戦おうとしたんだけど、魔物が素早すぎて・・・」
「まあ、けがをしてるじゃない。見せて、ノルディス」
「あ、傷薬なら、あたしが――」
「あなたはそこいらで採取でもしていなさい!」
「は、はい・・・」
「さあ、身体を楽にして・・・。痛むでしょう、しばらくのがまんよ」
「あ、ありがとう・・・」
「ほんとにエルフィールったら、ノルディスをこんな危険な場所に連れ出すなんて、非常識なんだから」
「え、ええと、ぼくは一応、護衛ってことなんだけど・・・とほほ」


第2場 アカデミー通路:初冬

「あ、アイゼルとノルディスだ。お〜い!」
「もう! エルフィールったら、こんな場所で大声出さないでよ。恥ずかしいじゃない!」
「あ、ごめん。えへへ」
「エリーがアカデミーへ来るなんて、珍しいね」
「うん、ルイーゼさんにゴミを買い取ってもらいに来たんだよ」
「そう。相変わらず実験に失敗してゴミを量産し続けているのね」
「う・・・、そんなにはっきり言わないでよ。――そういえば、何を話してたの?」
「ええ、実はあたし、お父様のお仕事の手伝いをするので、年末まで実家に戻ることになったのよ」
「へえ、そうなんだ。寂しくなるね」
「うん、でも、年が明けたら戻ってくるから」
「そうだね。新年まですぐだもんね」
「あら、もう時間だわ。行かなくちゃ。それじゃあね、ノルディス」
「ああ、元気でね」
「アイゼル・・・。あたしには声をかけてくれなかったよ、とほほ・・・」
「ねえ、エリー・・・」
「どうしたの、ノルディス。真剣な顔しちゃって」
「うん、実は・・・」
「(まさか、告白なんかされたら、どうしよう。どきどき・・・)」
「――たいんだよ」
「(でも、そんなことになったら、アイゼルに悪いし・・・)」
「――リー、エリー、聞いてる?」
「(・・・はっ)」
「どうしたの? 顔が赤いよ。風邪でもひいたんじゃない?」
「ううん、何でもないよ。で、話って?」
「今も言ったように、ぼく、もっと強くなりたいんだよ」
「へ? どうして?」
「この前も採取先で、ぼくだけ魔物にやられてしまって・・・。本当なら、エリーやアイゼルを守ってあげなければいけない立場なのに――」
「う〜ん、でも、ノルディスはいつも研究室にこもってばかりで、戦闘経験が少ないんだもん。ひ弱でも仕方ないよ」
「・・・(フォローになってないよ、エリー)」
「心配しなくても、ノルディスはあたしたちが守ってあげるから」
「いや、そういうことじゃなくて。ぼくは男として、そんなことじゃいけないと思うんだ。来年こそ、強くて頼れる男になりたいんだよ」
「エンデルク様みたいな?(うわあ、想像できないよ・・・)」
「そこまでぜいたくは言わないけど、やっぱり誰かを守ってあげられるくらいの――」
「ふうん・・・。誰かって、誰のこと?」
「え、ええと、それは・・・」
「まあ、いいけど(ノルディスって、わかりやすいなあ)」
「だから、エリーも協力してくれないかな。なにか強くなるための方法があったら、教えてほしいんだ」
「わかったよ。すぐには思い当たらないけど、冒険者の知り合いとかに、それとなく聞いてみるね」
「ありがとう。頼むよ、エリー」


第3場 シグザール城門:師走

「よお、相変わらずヒマそうだな」
「あ、ダグラス、こんにちは」
「真っ昼間からこんなところをほっつき歩いてていいのかよ。サボってると成績落ちるぞ」
「だいじょぶですよ〜だ。今も『飛翔亭』に納品を済ませて、これからアカデミーに行くところなんだよ」
「そうか、まあ、お前はがんばるのが取り柄だからな」
「そういえば、ダグラスも気合いが入った顔つきしてるね」
「ああ、もうすぐ武闘大会だからな。今度こそ、隊長をぶっ倒して優勝してやる」
「そうだ! ねえ、ちょっと聞いていい?」
「何だよ」
「強くなる秘訣ってある?」
「ああ!? そんなこと決まってるだろ! 努力と根性、これしかない! 日々、鍛錬あるのみだ」
「やっぱり・・・。(ふう、ノルディスには、そんなこと無理だよね)」
「何だ、しけた面してよ。――あ、でも、そういえば、俺の故郷のカリエルには強くなるおまじないってのがあったな」
「え? どんなの? 教えてよ」
「ああ、けものの皮を全身にまとって、その格好で新年の最初の1日を過ごすんだ。そうすると、そのけものの力や強さが宿って、その1年をたくましく過ごせるって話だ」
「ふうん・・・。ダグラスも、そういうことをしたことあるの?」
「ばか言うな。俺にはそんなご利益は必要ねえ」
「あはは、それはそうだね。――ねえ、そのけものって、具体的にはどんな動物なの?」
「ええと・・・何だったっけなあ? ガキの頃のことなんで、よく覚えてねえな」
「そっか・・・」
「でも、この前、妹から届いた手紙になんか書いてあったような気がするな。後で調べて教えてやるよ」
「ほんと? ありがと、ダグラス」
「だけどよ・・・」
「ん? 何?」
「そんなおまじないに頼らなくても、お前は十分に強いと思うぞ」
「あ、あはは・・・」


第4場 エリー工房:歳末

「――というわけで、ダグラスに教わったんだけど、なんとなく迷信っぽいんだよね」
「・・・。いや、そんなことないよ、エリー」
「どうして?」
「あれから、図書室の本をいろいろと読んで調べてみたんだ。例えば、伝説に出てくる狂戦士は、けものの皮をかぶって精神を高揚させ、普通の人には出せないような恐るべき力を発揮したという。あるいは、南の国の狩人は、自分が狩った動物の心臓を食べることで、その動物の力が自分に宿ると信じているそうなんだ」
「ふ、ふうん(なんだか難しすぎて、よくわからないよ)」
「そのカリエルの慣習というのも、けものの格好をすることで精神に暗示をかけ、実力以上の力や強さを宿らせるものだと思う。ぼく、やってみるよ」
「本気なの、ノルディス?」
「うん、だめでもともとだしね」
「それもそうだね。材料はミューさんやロマージュさんに頼んであるから、大晦日までにはできると思うよ。大きさが大きさだから、毛皮を加工しなきゃいけないけど」
「そうか。手回しがいいんだね。ありがとう、エリー」
「ノルディスのためだもん、がんばるよ(実は、なかなか面白そうだからなんだけど。えへへ)」
「それで、具体的には、どんな動物の毛皮になるんだい?」
「うん、ダグラスが調べてくれて、あたしが留守中にメモを置いていってくれたんだけど。字が乱暴で、読みにくいんだよね。武闘大会に備えて特訓中らしいから、確かめにも行けないし」
「ええと、この字は、やっぱり・・・」
「う〜んと・・・そうだよね? なんか変な気もするけど・・・」


第5場 エリー工房:初春

「あけましておめでとう、エリー」
「おめでとう、ノルディス。依頼の品、できてるよ」
「ありがとう、エリー。これを着て1日過ごせば、強くたくましい一人前の男になれるんだね」
「それじゃ、はい、これ」
「よし、さっそく着てみるよ。よいしょ・・・っと」
「うぷ・・・。くくく」
「これでいいかな? エリー、どう?」
「あ、うん・・・うくく、似合って・・・るよ、ぷはは」
「どうしたの? 苦しそうな顔して」
「だ、だって・・・」
「おーっす! 新年の挨拶に来てやったぜ! あれ、何やってんだ?」
「あ、ダグラス」
「何だ!? ・・・ぶははは、ノル公、なんて格好してんだ。新春早々、仮装行列かよ!? だっははは!」
「え? でも、これはカリエルに伝わる、強くなるためのおまじないだって――」
「んなわけ、ねえだろ! どうして、『猿』の着ぐるみを着たら強くなるってんだよ」
「でも、ダグラスが教えてくれたメモには、猿の毛皮をまとう――って」
「あん? ばか言うな。俺がそんなこと言うわけがねえだろう」
「だって、このメモ。ほら」
「何言ってんだよ。よく見ろ、ここにちゃんと『狼』って書いてあるじゃねえか。カリエルでは、強さと力を身に着けるために、狼の毛皮をまとうのさ」
「へ?」
「あ・・・もしかして」
「な、何だよ」
「ダグラスって、書き取りが苦手だったんじゃ・・・」
「ん? ま、まあな。ガキの頃から、得意じゃなかったな」
「もしかして、『猿』『狼』の字を間違えて覚えてたんじゃ・・・?」
「何だと!? そんなわけ――・・・あるかもな。悪い悪い」
「そ、そうなのかい? とほほ」
「いや、それにしてもよ、見れば見るほど・・・ぶははは、猿の格好のノル公って、妙ちくりんで――あーっはっはっはっは! わ、笑いが止まらねえ」
「ほ、ほんとだね、くすくす・・・。あはははは! 笑いすぎて、おなか痛いよ」
「ひ、ひどいよ、ふたりとも・・・」

<のるちっちぱらだいす:本編へ続く>


○にのあとがき>

ええと・・・(笑)。 冒頭に掲載したフリーイラストをお年賀絵として綾姫さんからいただいたわけですが、その時点ではこんなものを書こうとは思ってもいませんでした。
ですが、「綾の国」が10万ヒットを達成しそうになった時、あちらのBBSで
「○に様のお祝いはなんでしょう。気になります。(ありません)」
というメッセージをいただいた瞬間、火がついてしまいました(笑)。
時間も限られていたので、構想2時間、執筆2時間で完成。
この続きは、「綾の国」の季節絵コーナーで見られます。ぜひぜひご覧ください〜。


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