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Wunderkind  〜音と命の絆〜

作:TOMOさん


 わたしはここで何をしているのだろう

 わたしは一体何を求めているのだろう

 師が旅立ち、ザールブルグを離れた今

 マロックベルクの風が左の頬をかすめる・・・・


 久しぶりにケントニスを訪れる

 同期のエルビウムが真っ先に出迎えた

 その時彼女はわたしに言った

 禁忌の召喚術を学んでいると


 わたしは尋ねた

 己を高めるにはどうしたらいいかと

 わたしは自分自身に勝りたいと

 エルビウムは言った

 みずからの心の迷いを全て断つようにと


 そしてわたしはここにいる

 エルバドールの中心街

 錬金術があまたゆきわたる場所

 様々な秘術が認められている場所

 人が多く行き交う広場に・・・・


 わたしはこの雰囲気に慣れていた

 かつて師やライバルと共に一緒に歩んできたもの

 楽しい時もつらい時も受け入れてきたものであり

 一生を捧げようと誓ったものである

 するとその時、遠くの方から弦楽器の音が聞こえてきた。

 非常に高い音階で、しかもゆっくりとしたハーモニーである。

 わたしはその音色を聞いてるうちに、何か聞き覚えがあるような

 気がした。

 そう、ずっと昔に聞いたような・・・・

 しかし空をあおいだ途端

 突然気分が悪くなる

 頭が痛み出し、心苦しくなる

 わたしの中で何かが起こった・・・


 長旅の疲れか、もしくはこの町に何かあるのだろうか

 その場で意識を失った・・・・


それから何があったかはわからない

 ただ、目が覚めた途端、テラスと偶像が視界に飛び込んできた

 どうやらあるアルテナの教会に運ばれたらしい・・・


 シスターが声をかける

 わたしは最初黙っていた

 しかし、助けてもらったかもしれない

 その想いがシスターに礼を伝えていた・・・


 わたしは教会を見渡す

 ふたたびアルテナの偶像を見つめた

 するとそのとなりに、小さな弦楽器がおいてあった

 しかしそれを見た途端、わたしは再び意識を失った・・・


 目が覚めると、シスターの頬に雫がこぼれていた

 その後、わたしは長い間眠っていたと判断する

 シスターに楽器の事を尋ねる

 すると急にシスターは青ざめた

 なぜかと改めて問う

 シスターはおそるおそる話した

 あれは、『悪魔を呼ぶ楽器』と・・・


 わたしは信じがたかった

 そんなものがあるわけないと

 しかしシスターは繰り返す

 『あれは人がいなくとも曲を奏でる』と・・・


 だんだんわたしは冗談に聞こえなくなってきた

 そして尋ねた

 『あれを前に持っていたのは誰か』と

 シスターは答える

 『悪魔の子を産み落としたカルメリスという女性』と・・・


 カルメリスはもともとマロックベルクの音楽隊のメンバー
 だったらしい

 錬金術を使い、色んな音の出る楽器を作り出していた

 特に、フラウトとエーデルトーンと呼ばれる弦楽器は音色も
 よく、演奏の腕も絶賛すべきものがあったという


 まさにその響きは全てのものを魅了に引き入れた・・・


 カルメリスはある時、エーデルトーンに惹かれて海の向こうから
 やってきた一人の魔術師と出会った

 その魔術師はカルメリスの奏でる音色を何度も聞いてるうちに

 惹かれ、そして自らの得意とするフラウトを奏でる。

 やがて2人は恋に落ち、めでたく結ばれ、カルメリスは一人の赤子
 を体に宿す

 その後、かわいい女の子がマロックベルクの音楽工房の中で生まれた・・・


 だが、それが間違いの始まりだったとシスターは言った

 魔術師は各大陸のあらゆる場所に子供を宿させており

 その子供は一般に人に大きな災いをもたらしたという

 そのため、人に知れた途端、多くの子供が殺されていた

・・・そう、彼は音で人の感情を変えてしまう『闇の精霊』だったのだ

 実際、その子が生まれてすぐ、エルバドールの波は荒れ

 嵐が起こり、急に流行り病が蔓延し始めた

 その噂はすぐにマロックベルクに広がり

 ケントニスやラステンシュタットにも届いた

 カルメリスはすぐに非難の的となり、『その子を
 すぐに殺せ』と言われ始めた

 魔術師は女の子が生まれてすぐ姿を消した・・・

 カルメリスは複雑な思いでエーデルトーンを弾き始める

 ハ短調の暗めの音を弾く・・・

 寂しくなると、彼女はいつも『アダージョ』を奏でていた・・・

 すると、その女の子は急に泣き始め、外は雷雨が鳴り始めた

 その時、生まれたばかりの子は震え上がり、
『やめて・・・』といったのだ

 おどろいたカルメリスはその子をみつめる

 次にハ長調の明るい曲『プロメナーデ・コンツェルト』にした

 するとあれほど吹き荒れていた嵐はやみ、エルバドールの人々

 は急に元気になる更にその子は急に笑い出したのだ

 それから、カルメリスはその女の子にエーデルトーンを始めと

 するあらゆる楽器の弾き方を教え、そしてさまざまな音を聞かせた


 その子は、3才にしてあらゆる感情を音で表す事ができ、あらゆる

 音としてイメージしたものを、物として具現化することが出来るよ

 うになっていた
 

 ・・・・シスターはここに存在する楽器がエーデルトーンと伝える

 奏者が楽しい時は光を呼び寄せ、悲しい気持ちの時は完全な悪を

 呼び寄せるという・・・

 その子が生まれて3〜4年した頃、ケントニスの元老院が直に訪れた

 自らの手でこの子を始末すると

 この子はエルバドールを破滅に追いやると

 しかしカルメリスは言った

 『この子は音により、人や生き物の苦しみ、喜びが理解できる立派な
  子です・・・楽しい時に明るい曲を聴けば笑いますし、寂しい音色を
  奏でれば『寂しいの?・・・お母さん?』と一緒に泣いてもくれます

  悪魔の子に人の心がわかるでしょうか。・・・世間を騒がせたのは
  この私です・・・責任は全て私がとります』と・・・


  そして、カルメリスはその子と離れ離れになり、やがてアルテナ
  の教会のシスターとなって、ずっと会えないままその生涯を終えた・・・
  その間、彼女はアルテナの偶像の横に座り、再会を願いながら
  『プロメナーデ・コンツェルト』を奏でていたという・・・

  その女の子は勉強という目的でケントニスにつれていかれ、召喚術で
  いけにえにされかけていたが、母から渡されたエーデルトーンを魔法
  陣の前で弾くと、不思議なことにその怪物は急におとなしくなってし
  まったという・・・・
  それを元老院の一人、ドルニエが『音の精霊』と思い、命を預かったら
  しいのだ・・・その子の名前は・・・・・・・・・

  わたしは全ての話を聞き終える

  突然全身から震えがおこり、右手を固く握り締め、気が付くと、憎しみ
  も悲しみも感じなくなっていた・・・涙一つ出なかった・・・ただ、わ
  たしはその時人間でなくなった気がした

  自らが呪われた子であったために、親と別れなければならなくなった事

  そして、自らが信じて歩んできた道で何もかもが変わってしまった事

  誰かを憎む気持ちよりも、運命と戦わなければならないと思う方が強くなった

  シスターに礼を告げ、わたしは教会を去った

  ケントニスに再び帰る、そしてエルビウムに言った・・・

  禁忌の召喚術について教えてほしいと・・・

  ・・・わたしは全ての自分と引き換えにメディアの復讐の力を手に入れ、
  そして一つの術を得た

  何も後悔はしていない

  しかし、今になっても弦の音色を聞くとどこか人間らしさ
  を思い出し、寂しい気持ちにもなる


  そんな事を考え、ザールブルグに戻った後、毎夜わたしはアカデミーの音楽堂
  でエーデルトーン『プロメナーデ・コンツェルト』を弾き、それが終わると
  クルスにレナフォルテを弾かせている・・・

  そして、スフォルツァンドの部分を演奏した途端、わたしは拍手した

クルスは答える

  『ありがとう・・・うれしい』と

  戻るはずのない人を、いずれ戻るかもしれない師をまるで出迎えるかのようだった

  その時、膝の上のエーデルトーンに滴がこぼれ、それが星の光に反射していた

  聞きなれた言葉が、妙に心に響いた


<あとがき>

 この詩の主人公、もう誰だかわかりましたよね!?(苦笑)
 前にも記しましたが、私はもともと『LUNAR』というゲー
 ムが書くかけだしだったのと、元来歌が好きなせいか、ど
 うしても音に関する話を書きたかったのです。

 題材が少し暗めのものになっているかもしれませんが、
 そこはご了承下さい。『カルメリス』は、ケルト神話に出てくる
 登場人物の名前をお借りしました(^^;

 『Wunderkind(ヴァンターキント!?)』はドイツ語で、
 日本語に訳すと『神童』と言う意味があります。

 『FF10』の『明かされた真実』もこの詩のBGMに合うかもしれ
 ませんね。最後に誤解のないように言っておきますが、召喚術は
 アカデミーで使用が制限されている禁じられた術です(爆)
 (設定資料集より)

 最後に黒魔術に類するものとして、『黒ミサ』という儀式があり、
 これは実際『ルイ14世』の頃に行われていたもので、生まれた
 ばかりの赤ん坊の命と引き換えに願いを叶えるというものです。
 今回は、ヘルミーナが術を身に付ける際、『素直さとかわいさ』
 を代償にしたのではないかと仮定しました。


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