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【人権擁護委員制度のあり方?】
協議会の総会で,「人権擁護委員制度のあり方について」のパネル討議が行われました。その概要をご紹介しておきます。
先ず冒頭に,会長より基調提案がありました。
●人権擁護委員法による委員の使命として,「基本的人権が侵犯された場合には,その救済のため,すみやかに適切な処置をとること」とあること,及び職務として「人権侵犯事件につき,その救済のため,調査及び情報の収集をなし,法務大臣への方向,関係機関への勧告など適切な処置を講ずること」とあることを再確認する。
現状の問題として,委員は無償ボランティアの範囲を超える活動時間を割いている現状があるのにもかかわらず,国民の過半数が人権擁護委員を知らないという世論調査の結果,相談機会の提供も利用者が減少の傾向,自治体からの「人権啓発は自治体でもできる。自治体ではできない人権救済を国の機関はして欲しい」という発言があるといった例が紹介された。期待される委員活動がなされてこなかったという反省が求められた。
その問題の要因として,一つは,有効適切さの検証がなされていないままに,法務省・全連から全国一斉という形式の啓発・相談事業が上意下達式に丸投げされて,現場の委員は事業をこなすことに忙殺されていることにある。もう一つの要因は,期待されるべき人権救済活動が不十分のままに据え置かれていることにある。SOSミニレターへの委員による返信が行われても,救済事案であるか否かの判別や,後のフォローについては関与していない現状に留意する必要がある。
現状を打開するために,様々な啓発・相談活動を実状に沿った選択により実施すること,及びその前提である有効適切性の検証による事業の仕分けをすることが喫緊の課題である。
2人のパネラーからは,救済活動への取組と人権感覚の開発について発言がなされました。
●救済制度の確立が国際的な約束となっているにもかかわらず未完であることから,今後は人権救済の制度の変動が必至である。従来の人権擁護委員制度が救済を担う能力があるか疑問視されており,新規の任命もあり得るという情勢の中で,生き残るためには救済を積極的に引き受ける意欲を示すべきである。例えば,啓発活動は自治体が強いという認識の中,国の機関は救済機関だから可能な啓発活動に特化するといったスタンスを明確にすべきである。また,SOSミニレターや施設訪問相談などの事業においては,事実認定の方法,聴取方法,情報の整理,対応策の協議といった救済をベースとする組織的な対応策を確立することが求められている。
自己変革がなされないままであれば,啓発をする委員は自治体へ,救済をする委員は国へという分離が十分に起こりうる状況に対して,どう対応するかが問われている。これまでのようなボランティア委員にとっては,多大な手間と暇を必要とする救済活動は困難であるといわざるを得ない。実弁が付くべきものであるが,特別予算はないのが実状である。
救済という側面を強化するためには,申し立てできない人の声を聞くことを考えることも大事である。閉鎖的な状況にあるハンセン病や肝炎患者などとの信頼関係を築き,当事者の思いを代弁する擁護活動もできるはずである。侵害の存在を明らかにし,その救済を目指す活動こそがニュースバリューのある活動として耳目を集めることにもなる。
●「人権擁護委員とは何なのか」という疑問を抱く中で,ある講演録の中に,人権擁護委員制度は日本のユニークな制度であり,「問題は差別されている人が訴える場がないことである」という示唆を得て,その価値を幾分か確認することができた。しかし一方で,世間で頻発している差別や,DV被害や虐待といった具体的な事象に対して,人権擁護委員は関与できていないのではという思いも抜きがたい。コミットメントの開発こそが最大の課題ではないだろうか。いろんな活動を毎年繰り返し実践しているのに世間とつながっていないままでいいのか,迷いと向き合っている。
参加している委員からも,様々な意見が出されました。
●自治体の行う啓発も救済につながる啓発ではないだろうか。啓発事業に委員が関わっていく中で,救済につなげていくことができる工夫や法の整備が求められる。相談を受けての助言も支援であり救済ではないだろうか。
●自治体の中で,委員が誰であるのか知られていないのが実状である。委員がいると分かれば相談にも行くはずである。行政区の役員名簿に民生児童委員の名はあるが,人権擁護委員の名は掲載されていない。身近なところで存在が知られていないようでは?
●委員の依頼を受ける折に,「年間数回の会議に出席すればいい」といわれるが,この依頼する側の認識が問題ではないか。きちんと役割を説明して,その職務に相応しい人を推薦するように,自治体側のあり方を考えることも必要である。また,相談事業については,何件あったという結果報告だけで終わり,単に相談を受けることにとどまっているようである。相談を受けた先にどう流れていったのかが見えてこないし,救済も確認できないのは一考の余地がある。
●委員はアンテナ職務を担うという認識の中で,啓発活動も必要であるかもと過ごしてきたが,救済とは思われない現実に無力感を抱いていた。今日の話で救済につなげていくという出口が垣間見えたことでうれしい気持ちである。ただ,救済となると専門的な能力が問われることにもなり,不安がある。
●専門性というのは,必ずしも裁判に対応するようなものではなく,被害を知り,分かり,寄り添う人間性という専門性であり,その人間性を磨き上げていくという意味で専門性と考えている。
●委員の名前は自治体の広報紙には掲載されるが,自治会の段階では掲載されていない。ネット上では見ることもできるが,関心のない人には伝わらない。伝え方が問題である。また,救済への移行ということについては,経費や時間の問題の他に,訴訟に巻き込まれる恐れが想定される。関与の是非,正誤の確認などフォローアップを明確にしておくべきであり,考えておいて欲しい。
●訴訟リスクは当然であり,その対応マニュアルやシステムの整備は不可欠である。
●その対応を国のレベルで行うことは困難であるが,国民の要求も強まってくると思われる。各論は委員自身の試行錯誤的な経験からしか得られないので,その集約をしていくことが肝要である。
●救済への取組については,その入口であり第2課が行っている調査に委員が関与することが必至であると考える。
●委員の関与に対して,目下SOSミニレターに関して検討中であり,ノウハウを作っていくように図りたい。
●体罰の事例について,第2課の職員といっしょに調査に出向いたことがある。職員と委員の質問が異なり,また委員が同席すると相手が身構えないようであるということで,委員が関与するメリットもあるようである。
●相談を受けても,行方が見えない。相談に寄り添えるような活動をしたい。
●委員の名刺があるが,法務局所属という提示が双方に安心感をもたらしていると思う。個人としては,おそらく不安があるであろう。組織・機関という立場が大事であり,その意味で,協議会と法務局との連携について一考の必要がある。救済に際してはどのように関わりまとめるかという事実認定能力が求められるので,スキルアップを目指すことが必要である。
最後に,パネラーからの一言がありました。
●「数回の会合」という依頼の仕方が慣習化しているが,実状を正直に話すと引き受ける者がいなくなるという危惧もあるとしても,推薦者の無知も問題である。誰が委員であるかという存在が知られていないという事実に現れているように,制度の欠陥,中途半端な状況が見えてきた。どこから手を付けるかという選択をしなければならないが,改革の必要性を強く感じている。
●救済といっても,どの部分を担うのかを明確にする必要がある。処罰,制裁,賠償といったことは裁判に掛かることであり,委員ができることは,侵害を止めることである。個別侵害事例では加害者に侵害と気付かせること,行政施策上の侵害に対しては被害を取り次ぐことなどがある。今後,合意形成を図り整理していく取組が望まれている。
●弁護士会での救済活動も難しくなってきている。構造的な欠陥があり,手をこまねいているわけにいかない状況である。探しに行くことから始めて,問題意識の共通化を進めなければならない。なにもしなくていいと引き受けた委員が救済をしろとは聞いていないという声も,他の協議会では聞かれたようであるが,委員の合意を図っていく機会を今後も持つようにしたい。
人権擁護委員制度のあり方を考える機会でしたが,執行部の意図である救済という機能面からの検証となりました。救済活動が抜け落ちているという面で組織体としての機能が整っていないことが浮き彫りになり,委員の存在感や使命感を産み出すような協議会運営のあり方が問われているという感想を持ちました。執行部の一員として,組織の活性化を考える責務を突きつけられたようです。
(2010年04月28日)
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