*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

人権メモの目次に戻ります

【与人?】


 18世紀のイギリスのケント州に,起きている間は手の中にカードがあるというカード狂いの伯爵がいました。「殿,お食事です」「カードで忙しく食べる暇は無い」。こんな会話が伯爵と執事の間で繰り返されました。それでも,さすがに空腹には勝てません。考えた伯爵は「パンや肉,野菜などを,トランプ台の上に持って参れ」。厳格な執事の困惑する顔をよそに,伯爵はパンを手掴みで食べ,続けて肉や野菜も手掴みで口に押し込んでいきました。
 それでも面倒だと思った伯爵が次に考えたのは,別々に食べる手間を省いて,さらには手を汚さない方法として,2枚のパンの間に肉や野菜をはさみ,手掴みでムシャムシャやることでした。こうしてできあがった手軽にできて栄養価も高い食物は,カード好きで横着な伯爵の名に因んでサンドイッチと呼ばれています。
 手間暇を嫌って手軽さを追い求めると便利さに行き着いていきます。わざわざ立っていってガチャガチャと回していたテレビのチャンネルは手元で操作できます。わざわざ居間に出向く必要があった電話はそれぞれの手元にあります。食事でも,わざわざ調理をしなくて済むように,レンジでチンすればいいモノに変わっています。挙げていけばきりが無くて,生活にわざわざ感が失われてきました。なるべく楽をして,欲しいものは「アリガトウ」としっかり受け取ることに慣れ親しんでいます。アリガトウは有難いことです。わざわざ「ドウゾ」と与えてくれる,その有り難さを引き受ける人が先にいなければなりません。アリガトウとだけしか言わない人たちは,関係がこじれていきます。
(2019年11月29日)