*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【生場?】


 イギリスのヴィクトリア女王は1840年,21歳の時に結婚しました。相手は,母の兄に当たるドイツのザクセン公の次男で同い年のアルバート公です。二人は熱烈な恋愛結婚によって結ばれました。
 ところでヴィクトリア女王はかなり気性が強かったので、結婚したての頃,二人はときどき衝突しました。あるとき,些細なことからケンカになり,アルバート公は怒って自分の部屋に入ってカギを下ろしてしまいました。ヴィクトリア女王はドアをノックしました。「誰だ」「女王です」。 返事がなく,ドアも開きません。
 もう一度ノックすると,やはり「だれだ」という声。「女王です」と答えても返事もない。何度やっても同じことの繰り返しでした。女王はまたノックしました。「だれだ」「あなたの妻です、アルバート」。ようやくドアが開かれました。
 アルバート公は多能多彩でしたが,憲法上,政治的な地位は与えられていませんでした。それでも女王はよく相談していました。最初の万国博覧会はアルバート公の提唱によるもので,議会と世論の反対を押し切って女王が決断して開催され,イギリスの国力を全世界に示すことになりました。イギリスの最良の時代をヴィクトリア時代と女王の名でよんでいますが,それは女王とアルバート公の二人三脚によるところが大きかったのです。
 夫婦は一心同体と言われます。女王という心は相手を臣下の心にしますが,アルバート公は臣下ではありませんし,何のつながりもない透明な立場です。妻という心は夫の心と合って一つになります。だからこそ,二人三脚という態勢で社会的な活動に参画することができます。
 実空間での住所確認が社会活動に必要なように,自分が他者とつながって生きている居場所を確信できるから社会的な活動に向かうことができます。

(2022年05月31日)