*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【生きる羅針盤の提案(11):六波羅蜜】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。

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 「私が生きる羅針盤」を考える第11版です。今号では,大乗仏教において菩薩に課された6種の実践徳目である六波羅蜜を,羅針盤の利用の例として参照させてもらいます。

生きる羅針盤の提案(六波羅蜜)です
【3.困難を乗り越える忍辱の力】
《説明》忍辱は,辛いことや困難に耐え忍ぶ心を表します。怒りや憎しみに流されず,どんな状況でも冷静さを保つ精神力を養います。逆境にあっても前向きな姿勢を持ち続けることで,人格的な成長が促されます。

○「忍辱の力」とは,自分をどのような状況においても冷静に対処できるように抑制するためにできることです。もう一人の自分が自分を見失うことがないように行動できることは自分を尊重する要件です。

【2.正しい生活の基盤となる持戒の心】
《説明》持戒は,決まりごとを守る規律ある生活を意味します。規則を単に守るだけでなく,自然と善い行いができるような人格を形成することが大切です。周囲との調和のとれた生活を送ることで,安定した心の状態を保つことができます。

○「持戒の心」とは,人間社会における基本的な約束事を意識し,特にしてはいけないことをしないと自覚できれば,もう一人の自分が自分を信頼できるようになります。そうであれば他者からも自然に信頼されているという確信を持つことができるようになります。

【6.人生の指針となる智慧の光】
《説明》智慧とは,物事の本質を見抜く力です。表面的な判断にとらわれず,真理を見極める洞察力を養います。仏教の教えに基づいた正しい判断力は,人生における様々な選択の場面で大きな助けとなります。

○「智恵の光」とは,この現実の世界を言語化し体系化してきた真実の理解です。生を受けた自分が歩むべき道筋とその効果が明らかに認識されて,もう一人の自分が自分を迷うことなく導くことができます。

【1.思いやりの心を育む布施の実践】
《説明》布施は,単なる物品や金銭の施しにとどまりません。親切な言葉をかけること,知識や技能を分け与えること,心のこもった奉仕活動など,さまざまな形で実践できます。見返りを求めない純粋な気持ちで行動することで,心が豊かになっていきます。布施は思いやりの心を実現し,他者との絆を深める効果が現れます。

○「布施の実践」とは,自分と周りの人とが互恵関係にあるということを自らの行動で証明することです。その確認を積み重ねると,社会における自分の存在が認知されていると信じられます。

【5.心の安定をもたらす禅定の境地】
《説明》禅定は,心を静かに保ち,集中した状態を維持することです。感情の起伏に振り回されず,常に落ち着いた精神状態を保つことができます。瞑想や座禅などの実践を通じて,心の平安を得ることができます。

○「禅定の境地」とは,情の起伏から解き放たれ,雑念を去った無垢の心情を保つことで,新しい理念を迎え入れることが可能になります。今このときに訪れてくるはずの自分に向けられる役割・期待を受け止めることが明日への生きる力になります。

【4.自己成長への道筋を示す精進の実践】
《説明》精進は,目標に向かって絶え間なく努力を続けることです。日々の修行や学びを通じて,自己を磨いていく姿勢が重要です。怠惰な心に負けることなく,着実に前進することで,人生の質が向上していきます。

○「精進の実践」とは,あるべき自分に向かって着実に成長・向上している自覚であり,それが実際に具体的な形としてできているからこそ,明日に向かって生き続けていく喜びが得られます。もう一人の自分が,自分の成長を保証できるからこそ,さらなる精進への励ましになります。


○以上,「六波羅蜜」という仏教上の指標を「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。大きく解釈して一応の対応をつけることができていると思います。それぞれの世界観による具体的な表現は違っていても,人が思い至る生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。

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 社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
 人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。

(2025年04月13日)