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【1】 風を見つめる
古の人は神聖なものが遥かな海から風とともにやってくると思っていたそうです。海辺に立つと空と海の出会うところが何かを生み出す生命線のように思えます。その思いが海の向こうにある大陸からの風にあこがれを抱いた基盤になっていたのでしょう。風は何かしら人智を超えた変化の種を運んできてくれるという期待は今も生きています。未知であることが新しいものの定義とすると、人はあこがれを重ねながら、風を畏れ敬い待つようになります。
西洋では風を待つよりも風に向かって飛び出すという意志が誕生しました。それがもっとも如実に現れたのが、新しいものを求めて新天地に向かって船出するという大航海の時代です。風は待つものではなく乗るものという思考の転換が芽生えたのです。この風に対する見方の違いは、欧米では行動が攻撃的で「する」という自動詞中心の言語を使うのに対し、日本では行動が守備的で「なる」という他動詞がよく使われるという指摘と符合しています。風に対する意識には二通りのタイプがあるように見えます。
風はものを運ぶ働きを備えています。風に自分の身を運んでもらおうと期待するのか、それとも風が運んでくる何ものかに期待するのか、期待の対象が違っています。新しい風と言ったときは、やはり後者の見方が基盤になっています。新しい何ものかを受け取ることで、現状を再構築する知恵を生みだそうという秘かな再生への意志が明らかです。
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