【結び】

 この処方箋は子どもたちを健やかに育てるために欠かせない養育上の要素を提示したものです。日々の子育ての中で偏らない養育をするため使えるように,各章立ては質問形式を採用しています。もちろん現実にはそれぞれの要素は広がりを持っていますから,自分の言葉で豊かな洞察を進めてもらえれば,親一人一人のマイ(my)処方箋を手に入れることができます。
 また,養育における個別的な実際を考える指標としても使えます。子育ちにおいて直面する症状としての悩みは,六つの要素のどれかに強く関わっているはずです。例えば体罰の意味の無さは,誰が育つのかという面で,にらみ返してくる目の奥にいるもう一人の子どもをないがしろにするからです。人見知りには,どこで育つのかという面で,安心不足の解消に糸口が見つかるでしょう。叱りすぎを気にしている親は,何が育つのかという面で,叱るべきことを間違えていたことに気づいてもらえるでしょう。登園を渋る子どもには,なぜ育つのかという面で,楽しいことをたくさん見つけてあげる手助けがしてやれます。もちろん悩みの解決は単純に一つではなく,いくつかの要素が絡み合っています。それでもどの要素が絡んでいるのかが見えると,解くのに役立つはずです。問題点が見えさえすれば対応は可能なものです。

 生涯学習時代は自らの課題は自ら学びなさいという時代です。ところが,待った無しの子育て真っ最中である親にとって,「何が分からないか分からない」というあせりが付きまといます。個々のしつけに追いまくられている中で,しつけがどこに向かえばいいのか迷いがあります。今親に必要なのは,養育全体をイメージできる思考法です。
 分かることは分けることであるという真理に従えば,分ける視点を確定しなければなりません。それも一つ見つければ済むものではなく,完備性という条件が課せられます。
 ここで提案している「すこやか処方箋」は,一つの可能性を示唆するものです。古の人が星空に勝手に星座をイメージして方向感覚の定点にしたように,養育という広大な営みの中で,せめて手作りのものであっても,6つの方向座標を持てれば全体像の中の位置検索に迷うことがなくなるはずです。養育のダッチロ−ルから脱出です。