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【序の章】
《構成の意図》
この冊子を作成するにあたっては,二つのことが前提になっています。一つは子どもは自ら育とうとしているということです。親による養育はあくまでも脇役にすぎません。親の思い通りには育たないということです。二つ目は,親は子どもの育ちのバランスが保たれるようにする役割を負っているということです。栄養のバランスを保つため偏食しないように目配りをするのと同じように,育ちに必要な働きかけを手抜きすることなく適切に実行する責任があります。親の養育は子どもの育ちを決めることはできませんが,より良い育ちを願うことはできるということです。
養育という行動は子どもが育とうとする成長活動を見守り,信じ,支え,促し,導き,そして励ますという総合的な営みです。一般に指摘されている過保護や放任といった傾向は養育のバランスが失われていることです。子どもが中学生になると親もついつい勉学面に重きを置く養育に片寄っていきがちで,親としては一番気をつけるときを迎えます。育ちは勉学だけではありませんし,もっと外に大切な,親でなければできない養育があります。それでは,勉強への注意以外に親はどのような目配りをする必要があるのでしょうか。そのような疑問に答え,具体的な養育上のポイントを例示しようとしたのがこの冊子です。
疑問を解決するために最も大切なことは,良い疑問文を作り出すことです。子どもの育ちを考えるとき,次のような疑問文を設定しました。誰が育つのか,どこで育つのか,いつ育つのか,何が育つのか,なぜ育つのか,どのように育つのか,という六つです。これで子育てに関する考察の全体像が把握できるはずです。子育て論を聞いたり読んだりするときは,この「六つの育ち」のどの領域について論じているかに気をつけて下さい。そうしないと知らないうちに養育が片寄ってしまいます。例えば,過保護というのは,居心地の良すぎる場を与えて一つの育ちに閉じ込めてしまうために,子どもの育ちを忘れ,育ちのチャンスを奪い,育ちの目標を隠し,育ちの意欲を抑え,育ちのプロセスを断つという五つの育ちを満たしていない点で,問題になります。この冊子のテーマは,養育のバランスを図るために「六つの育ち」に目を向けようということです。
六つの育ちのそれぞれは,さらにふたつのものに分けられます。例えば,自分を大切にする子どもは他人も大切に思います。他人のことに無頓着な子どもはわがままなだけで,自分を大事にしているとは言えません。またいろんな能力を獲得することは必要ですが,同時にして良いことと悪いことの十分な分別を備えていなければなんにもなりません。このように六つの育ちがさらに二つに分けられて,この冊子の12章が構成されています。わが子がどの育ちを求めているか,診断して下さい。
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